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 次の日の朝ーー。
 寝不足の頭は、ここ最近では1番重かった。そう、昨日の朝よりも。
 そんな私は、ダイニングのイスからキッチンに立つ妻の後ろ姿を追っていた。これはデジャブなのかと、頭の奥では二日酔いのノイズ音が鳴っている。


 「あなた、無理なら食べなくていいですよ。かなり飲んで帰って来たみたいですし」
 その声に、ふっと我に帰った。
 私の前には手付かずの皿がいくつか、今朝は水を1杯飲んだだけだ。


 まだノイズが鳴っている…と思ったら、スマホが振動していた。
 開けて見れば酒を勧めた張本人ーー先輩教師の大塚先生だ。


 《おはようございます。
 夕べはかなり飲んでたけど大丈夫だった?
 奥さんの口から例の事は聞き出せたのかな(笑)
 まぁ焦らずに…いやいや、早くこちら側の世界に来てほしいんだけどね。
 とにかくシッカリね。
 では》


 私は読み終えると、何がシッカリねだ、と頬を歪めて重い頭を一振りした。
 そんな私を観(み)て、妻は何かを察したか「あなた、夕べのメールにあった大塚先生という方は、あれですか。たしか私達の結婚式に来て頂いた…」と、計ったように尋ねてきた。
 「ああ、そうそう。こっちで会議があるとかで、終わった後に飲まないかって急に誘われてね」
 「そうでしたか。それにしても最近は忙しそうですね。一昨日はあなたもM駅で…」
 その瞬間、ピリリと頭の芯が震えた。そうなのだ。あの夜の妻の事をもっと探らねばならない。私は重い頭のまま考えておいた話をする事にした。


 「そ、そう言えばさ、久美子もM駅で打ち上げだったよね…。それで、ストーカーの件は一件落着でお終いなのかな」
 「はぁ、まぁ、そうですね…」
 「そうか。長い事時間が掛かって大変だったね」
 私の声が諄(くど)く感じたのか、妻は首を傾げてから頷いた。


 会話のおかげか、二日酔いが少しだけスッキリした気がしてきた。
 「それでさぁ、奈美子さん…友達の奈美子さんとは会う約束はないのかい?」
 「え!奈美子ですか。そ、そうですね…。けど、どうして奈美子の名前が」
 「あ、いやいや、教え子のストーカー騒動が落ち着いたしさ、気晴らしにと思って…」
 「そうですか…。じゃあ、都合を訊いておこうかしら…」
 妻が呟いた時には、頭の中に“尾行”の二文字を浮かべていた。そう、妻に外出を促して尾行を決行する作戦だ。渋谷君にも協力を仰がなければならない。


 「あら、もうこんな時間ですよ」
 妻が壁掛けの時計に目をやっている。私は“作戦”の事を考えつつ席を立ったのだった。


 今朝は時間ギリギリでいつものバスに乗り込んだ。席に着いてからも色んな事を考える。
 バスを降りれば私鉄に乗りかえ、職場の中学まで30分ほど。
 今朝の車内は何故か女子高生の姿が多い気がした。車両がいつもより混雑しているのだ。


 私はいつものように、両手で手摺を掴んでいる。こうやって手の位置を周囲に示しているわけだ。万が一の時に、痴漢の加害者に間違われないようにする為だ。
 思い出してみれば、自分が教師になってからも何度同じ職の人間が性犯罪の加害者になった事か。
 それにしても女子高生が多い…。
 私は目を閉じた。いつものように揺れに身を任すのだ。


 目を瞑っていても、やけに瞼が重く感じる…。
 二日酔いの影響だ。
 このまま寝落ちてしまいそうだ…。


 ポンポン、誰かが肩を叩く。
 薄っらと目を開けて、振り返れば可愛らしい女子高生。
 彼女の周りには同じ制服の女の子達が十数名、私を取り囲んでいる。
 肩を叩いた彼女が、輪の中の一人の腕を握って、私の方へと引き寄せる。


 だ、誰だ?
 え、久美子!?


 ーーねぇオジサン。あなた、この女(ひと)の旦那さんなんでしょ。
 なのに、長い事この女(ひと)を抱いてなかったんだってね。


 ーーな、長い事…抱いてなかったって…。


 ーーだからね、今朝はオジサンを欲情させようかと連れて来たのよ。
 この女(ひと)も欲求不満が溜まってるみたいだしさ。


 ーーな、何を云ってるのだこの娘(こ)は…。


 ーーじゃあ先生、今からいいものを見せてあげるわね。


 ーーああっ!なぜ私の事を教師と…。


 彼女の合図に、周りの娘(こ)達が一斉に久美子に群がった。
 そして久美子が、靴から上着へと脱がされていく。
 私の身体がカーッと熱くなっていく。
 膝が震えてくる。


 あっという間に全裸にされた妻が、ドアの前に立たされる。
 私の目には妻の後ろ姿。
 よく見ると妻の身体が揺れている。窓に股間と乳房を押し付けている。
 ああっ、これは巨大ヤモリの後ろ姿。


 卑猥な動きを始めた後ろ姿に唖然とする私。周りでは何故か女子高生達が布団を敷いている。
 これはどういう事だ。


 ーーさあ先生、久美子とセックスしてみせて。


 ーーええっ!


 ーーどうしたのよ先生。久美子を見てごらんなさいよ。あの格好のまま逝かせていいの?


 見れば妻の動きが激しくなっている。


 ーーあ~ひょっとして、勃(た)たないんでしょ。勃起しないんだぁ。


 明らかにバカにした彼女の声に、取り囲む娘(こ)達が一気に笑い声を上げる。
 私の額には汗が滲み出る。


 ーーじゃあ仕方ないわね。アタシが相手をするわ。


 彼女が靴を脱いで布団に上がるとブレザーからスカートへと着ている物を脱いでいく。やがてそこに、真っ赤なランジェリー姿。


 ーーさぁ久美子、アタシのを舐めるところからよ。


 ーーああっ!なんだ今のその言葉…。


 膝まずいた久美子が、彼女の真っ赤なショーツに手をやっている。そしてソレを下ろしていく。
 彼女が、はしたない格好…足をガニ股開きで拡げていく。
 股間から伺えるのは幼い恥毛の様子。


 ーーうふふ、舐めなさい。


 ーーアウッ!く、久美子…。


 ニュルっと伸びた妻の舌か゛グルグルと回る。それに合わせて私の目が回る。頭も揺れる。
 足元がふらついてくる…。


 あぶない!
 その声に頭が跳ね上がった。
 瞬きすれば、窓の外で景色が流れていく。
 焦点がゆっくり移動すると、見知らぬ人が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


 「あ、えっ、ええ大丈夫です。すいません」
 私は悪夢を振り払うように頭を振ったのだった。