小説本文




 土曜日のカフェで渋谷優作君と会える事になった私ーー寺田達夫。
 彼は私の意向に応えるように、あの“歳の差夫婦”のその後を話してくれたのだ。


 「神田先生の下でする“仕事”ってアフターフォローなんかもそれなりにするんですよ。あのご夫婦にも、その後はどうですか~なんてメールで聞いたりしたんですね。そうしますとちょうど先日、神田先生経由で連絡がありまして…」
 彼の口からはさっそく、歯切れの良い言葉が溢れ出した。私の方は期待に心震わすと言ったところだ。


 「ええ、それでね、あのご主人の“アソコ”完全に復活したんですよ。はい、勃(た)ちが全盛期に戻ったんです」と彼が笑う。
 「え、渋谷君は又呼ばれて行ってきたの?」
 「はい、ご自宅のマンションに行って、お二人をいたぶって…」
 いたぶって…あぁ、それは“調教”と聞きそうになったところで「あのご夫婦って二人ともMじゃないですか。ご主人も分かってて僕を呼んだんだと思うんです。だから期待に応えてやりましたよ」
 「ああ、じゃあやっぱり」
 呟きながら彼を見れば、口元には早くもサディスティックな色が浮かんでいる。
 「へへっ、今日はこんな話も聞きたかったんでしょ」そう云って彼の目は、私の奥底を覗き込んで来る。
 私はコクコク頷くだけだ。


 「僕が着いた時には、二人はシャワーを浴び終えていてガウン姿で迎えてくれましたよ」
 「………」
 「それでさっそく旦那をソファーに座らせてまして、俺は服を脱ぎ始めましたよ」
 彼の口調がこの前と同じように、『ご主人』が“旦那”に『僕』が“俺”に変わっていく。


 「前回と同じように奥さんを膝まずかせて、俺のバンツを下ろさせましてね。それで“即尺(そくしゃく)”です。分かりますよね先生」
 は、はい、と小声で頷いた。私もその意味ぐらいは知っている。エロ動画の中で何度も視た事がある。
 「ええ、俺の小便臭いチンポを綺麗にさせたんですよ。遠慮なく突っ込んで出して、奥さんは苦しそうにしながらも悦(よろこ)んでましたよ」
 早くもその奥様の姿が浮かんでくる。イラマチオをされて悦ぶ女はーー妻の久美子だ。


 「へへっ、フェラチオを続けてましたらね、旦那がガウンを脱ぎ出して、股間のアレを握ってオロオロするんですよ。この人、早く遣りたいだなと思ったんで、取り敢えず呼んであげましたよ」
 「………」
 「俺はチンポを抜いて、奥さんのガウンをとって素っ裸にしましてね。それから立ったままの奥さんの唇を旦那と二人で責めましたよ」
 又もその場面が浮かんでくる。左右から交互に唇を奪われる妻だ。


 「その次は胸。ええ、あの程よい大きさの胸を、揉みながら舐めてやりました」
 それも久美子の乳房だ。舐めるのは片方から渋谷君で、もう片方を責める男は私だ。
 「乳首を舐めてますと、旦那がアレを握って、挿れたくて仕方ないって感じなんですよ。でもね」
 そこで彼が、又も口元を歪める。私にまで“お預け”を喰らわしそうな感じだ。
 「旦那にはまだ我慢させる事にして、俺は奥さんを後ろから犯(や)る事にしましたよ」
 「………」
 「でも旦那にはフェラチオだけ許可してやりましたね。射精はするなって云いましたけど」
 「あぁ…」
 「はい、さっきも言いましたけど二人ともマゾ気質なんですよね。だから旦那の射精をコントロールしてやろうと思ったんです。旦那の方も一切文句なんか言いませんでしたよ」
 あぁ、50歳の教員を務める男が遥か年下の若者に射精を支配されるのだ…。


 「初めての時はほら、俺も奥さんの膣(なか)に出さなかったじゃないですか。だからその時は、思い切り出してやろうなんて思いながら突いてやりましたよ」
 そうなのだ。渋谷君は相手の射精をコントロールして、自分の射精もコントロールするのだ。


 「奥さんは後ろから俺に突かれて、前の口は旦那のチンポですよ」
 その場面も頭に浮かんでしまう。四つん這いの妻の、前後の口が支配されるシーンだ。
 「でもね、奥さんが直ぐに逝きそうになったんで待ったを掛けてやりましたよ」
 「あっ、それって」
 「ふふっ、旦那のチンポを一旦吐き出させてね、逝きたけりゃお願いしろって云ってやったんですよ。分かりますよね」
 「あぁ、はい…。で、どんな風に…」


 「旦那の目を見ながら、若い男のチンポがイイーッ、このチンポで逝かせて下さいッ、お願いしますッてね」
 (ウアアッ…)
 「旦那の方はそれを聞いてか、フンフン唸り声を上げてましてねぇ。チンポもカチンカチンになってて、収まりどころが早く欲しかったんでしょうね」
 「で、でも旦那さんは直ぐには…」
 「そうですよ。俺が帰るまでは犯(や)らせるつもりはありませんでしたからね」


 目の前の彼は間違いなくサディスティックだ。私の喉は早くもカラカラで、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「その時、閃きましてね。俺はバックを止めて、背面座位でやる事にしたんです。その格好、分かりますよね、前にやったやつです」
 勿論、それは知っている。背中を男に預けて、大股開きで下から突き上げられる妻の姿が浮かぶ。
 「ふふ、それで俺が突いてるところ…その結合の部分を旦那に舐めさせてやろうと思ったんです」
 「ええっ!」
 「前回の時は、その繋がってる部分をガン見してたじゃないですか。だから今度は、舐めさてやったんですよ」
 「…ほ、本当にご主人は舐めたんですか…」
 「はい、俺が見立てた通りのマゾですから、最初は躊躇した感じはありましたけど、意外と素直に舐めましたよ」


 彼の淡々と話す中からも、私には異様な香りが降りかかっていた。私は又も唾を飲み込み、息を繋いでいる。


 「奥さんもそのシチュエーションに興奮してるようでしたね。俺が突きながら耳元で『ほら、目をよく開けて見てみなよ。旦那が繋がってるところを舌で舐めてるだろ』って云ってやったんですよ」
 「あぁッ!そ、それで聞いた奥さんは…」
 「ん、目を見開いて、ヒィーーッて意味わかんない叫び声を上げてましたね」
 「ウウッ!…」
 「そうそう、二人とも教師で旦那がかなり歳上じゃないですか。だから仕事上の先輩でもある旦那さんのその姿が変に刺激的だったんじゃないですか」
 ああっ…私の中には、得体の知れない感慨が渦巻いてきた。
 聖職と呼ばれる職に就く二人の浅ましい姿。それは二人が、望んでいた姿なのだろうか。二人揃って性の深淵に堕ちて行くのが幸せなのだろうか。私の中で渦を巻いた感慨は、妖しい炎となって胸を熱くしてくる。
 そして、先ほどからその夫婦を自分達夫婦に置き換えている私がいる。


 ふうっと息を吐く。
 「…ええっと、それで他には…」
 私の言葉に彼は、一瞬きょとんとしたが、直ぐに思い出したように笑う。
 「ああ、それでね、俺も1回射精(だし)たんですよ。奥さんの方は当然何回も逝ってたんですけどね。でも、逝く時もすんなり許可はしませんでしたよ。『待て』を何回も掛けてやってね」
 と云って彼が笑う。


 「で、旦那はカチンカチンのままじゃないですか。だからそのまま“お預け”を続けてやろうと思いましてね…」
 ゴクリ、又も喉が鳴ってしまう。


 「フラフラの奥さんを立たせましてね、バルコニーのカーテンを開けてやったんです」
 「えっ!」
 「そう、外から見えるように…素っ裸の奥さんを外に向かって曝してやったんですよ」
 「な、なんて事を…」と、口に付きそうになった私。この期に及んで、世間様に対する不埒な行いを注意でもしようとしたのか…なんて思ったのも一瞬で、変態性癖な私の思考は、その場面を浮かべて怪しい高鳴りを発していた。


 「奥さんも旦那もさすがに焦ってましたかね。カーテン1枚とはいえ、それが密室と世間の境界線になってたわけですからね」
 あぁその通りなのだ。彼が口にした“密室”、それは我々聖職者の隠れ蓑で、変質的な性癖が担保される場所なのだ。そこを越えてしまったという事なのか…。


 「あ、あの…窓の外側って…」
 「ああ、そこの部屋はたしか4階だったと思うんですけど、向こう側の建物と結構密接してましてね。あっちのカーテンが開けばフェイス トゥ フェイスって言うんですか、要は丸見えですよ」
 無邪気に笑う彼を見ながらも、私の中には冷たいものが落ちていくような感じがした。


 「へへっ。それでね、その奥さんを窓いっぱいまで近づけてね、命令をしてやったわけですよ。寺田先生なら分かりますよね、それがどんなシチュエーションか。エロ動画なんかでも視たんじゃないですか」
 「アアッ」
 私は呻き声で、肯定の返事をしてしまっている。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「さあ、ここで問題です。俺は奥さんにどんな格好を命令したと思いますか」
 「………」
 頭の中では色んな場面が渦巻いていく。卑猥な動画で視まくった場面と、妄想が働いて頭の中で再現してきた場面だ。


 「まぁ大体は想像つきますよね。そうなんです、身体を外に向けたままガニ股の格好を命令したんです。そして、マンコの際に手を当てて拡げさせたんです」
 「ンググッ」
 「へへっ、興奮しますか。旦那は震えながら立ったまま奥さんのその格好を見てましたよ。ああ、立ったままってアソコもそうでしょうけど、足で立ったままって意味ですよ」
 彼の細かいというか丁寧というか、その言葉にも緊張が続く私がいる。そんな私を愉(たのし)げに見ながら彼は続ける。


 「次はですね、尻(ケツ)を外に向かせたんですね。はい、そこで今度は立ったまま…こう、頭を下げさせまして、股の下から外を覗かせたんです。分かりますよね」
 ううっ、と呻き声を上げてしまった。さっき見た夢のシーンとそっくりではないか。


 「その奥さん、結構身体が柔らかいんですよ。脚をピンっと伸ばした状態で、手がピタリと床に付くんですよ。それでその格好で向こうを覗いて…尻(ケツ)の破れ目を突き出してるんですよ」
 私は又も呻きと同時に唾を飲み込んだ。頭の中には妻だ。妻の姿が浮かんでいる。そう、体操をやってた妻も身体が柔らかいのだ。しかし…私は妻にそんなポーズをやらせた事がない。頼んだ事もない。昔から勇気のない私なのだ。


 「旦那も次第にオロオロしてきましてね。そりゃそうですよね、いつ向こうに人が現れるか分かんないわけですし。俺なんかは、向こうの部屋の人がこっちと知り合いだったら面白いのに、なんて考えてましたけどね」
 そう云って笑う彼に、私は唸り声を上げるだけだ。しかしそれは、同意でもあるのだ。他人様の恥態ならいくらでも眺められる。あぁどうしようもない卑怯者がここにいる。


 「俺はオロオロする旦那に徐々にイライラしてきましてね。それで旦那にも命令してやりましたよ」
 「ああ、それは何て…」
 「ん、ええ、奥さんの横に行って、アンタも同じ格好しろって」
 「そ、それって」
 「そうですよ。旦那はビビってましたけど、1度やったら病みつきになるからって云ってやったら…。そうしたら恐々奥さんの横に行って、同じように股ぐらから向こうを覗きましたよ」
 「アアッ!」
 「向こう側から見たら凄い光景ですよね。全裸の男と女が並んで尻を向けて、股から顔を覗かせてるんですから」
 「………」
 「へへっ。それでね、俺はその二人の姿をシッカリ動画に撮ってやりましたよ。だってその日は、二人の姿を撮るのも仕事でしたから」


 いつの間にか、私は口からハーハーと息を吐き出していた。私の精神は、そのご夫婦の姿を自分達夫婦とシンクロさせていたのだ。そして、その私の口から久美子…と小さな声が零れ落ちた。
 それを聞いてか、渋谷君がウンウンと頷いたのだった…。