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第13話
私は電車に揺られていた。
頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
それにしてもだ…。
渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
電車が最寄り駅に近づいている。
今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。
家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
「ただいま」
挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。
「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
「えっ、そうだったの!」
具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
「そ、そうなんだ」
彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。
「どうしたんですか、黙り込んで」
「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。
「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
「えっ、ああ…」
そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。
部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
頭の中はなぜか妻の下着だ。
そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。
目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。
その夜ーー。
寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
けれど…。
もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。
深夜ーー。
…物音に瞼がゆっくり開いていく。
常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
部屋は異様に静かだ。
その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
誰だ…。
人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
えっ、香水の匂い!?
影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
私の身体は全く動かない。
口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。
身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。
ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。
女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。
『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
あぁッ!女は妻だったのか。
『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
『アウッ!』股間がギュッと握られた。
『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
『んぐッ!』
『他にはねぇ…』
続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
『レズもしてるのよ』
『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
『あーーッ!』
『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
『うううっ』
『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。
『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。
『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
女が中腰になって尻を突き出している。
私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。
窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
やがて…。
そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
これは夢なのか。
~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~