小説本文



 時計の針はいつしか昼を過ぎ、沖田が持ち込んだ軽食を摘みながら堂島は凌辱を続けた。
 夏美は堂島の噛み潰した食い物を口移しで受け、また甘露な飲料水も口から移された。
 途中、堂島が数時間部屋を離れる事はあったが、その間は幸恵が調教を引き継いだ。
 幸恵は、それまで見せたことのない黒いラバーショーツを身にまとい、妖しげな性具を使いこなした。
 嫉妬の混じった女の責めはエグく、それでも夏美の肢体は見事に受け応えていた。


 「夏美さん、もっともっと狂いなさい。今までの貴女は貞淑な仮面を被って他人を欺いてきた、本当は貪欲に快楽を求めるだけのメス」
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 「貴女は、ビデオを言い訳に快楽を貪った卑劣なメスよ」
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 「貴女はもう、夫の元に帰る資格のない女」
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 幸恵の責めは山を登る夏美を鼓舞するように、何度もの絶頂とともに高見に導いた。
 再び堂島が部屋に戻ると、幸恵の責めに加わり、2人で夏美を深い淫欲の世界へ誘(いざな)った。
 そして日が暮れた頃、凌辱の儀式はようやく終わりを迎えた。
 

 陽が落ちた部屋の中には性臭の匂いが充満している。
 ベットの上では夏美の身体が肉の塊のように横たわっている。


 「もう暗くなってしまったな。」
 ベットにうつ伏せに突っ伏した格好から、夏美がのっそり顔を上げる。その顔は、間違いなく朦朧としている。


 「ふふ、夏美さん、それにしてもトロ~ンとした良い顔じゃ」
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 「それとな、先程、教授連中と打ち合わせをしとったのじゃが、貴女には新学期からは助教授になってもらうことにした」
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 「ますます責任も重くなるが、しっかり頼むぞ。同時に儂への忠誠も・・・・解っておるな・・」
 髪は乱れ、口元に白い液を着けながら夏美がコクリと頷いた。
 「では乾杯でもするか」
 堂島が電話を手に取ると、直ぐに沖田がボトルとグラスを持って現れた。


 堂島がスッと差し出した手に、夏美が自分の掌を重ね置いて、そして身体を預けるように立ち上がった。
 そこには一糸も身に纏わない男と女が、全てを曝け出した淫靡な情景がある
 沖田が堂島と夏美、それに幸恵の3人にグラスを手渡すと、酒を注いで回る。
 堂島達3人は、股間の翳りさえ隠すことなく、「乾杯」の唱和で一気に飲み干した。


 「夏美さん、明日は朝一番でここに来るのじゃ。出来れば旦那が寝ているうちの方が良いと思うぞ」
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 「明日は貴女の昇進を祝うチョットしたパーティーを開いてやる。その後で旦那に別れの挨拶をさせてやる」
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 「貴女は旦那を裏切った悪い女じゃ。貴女にふさわしい別れを演出してやるわい」
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 夏美は飲み干したグラスをヘソの前で抱えながら、黙ったまま聞いている。


 「さて、暗くなってきおったから、今夜は沖田と幸恵に送らせてやろう。太田新一とか言う学生にストーカーでもされたら困るだろうしな」
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 「ただし・・・」
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 「卑猥なショーツを履いて来んかったバツとしてシャワーは禁止じゃ。そのまま儂の精液を染み込ませた身体で帰るんじゃ。良いな」
 夏美の辱(よご)れた身体を見つめながら、堂島がニヤリと微笑んだ。


 長時間に及ぶ凌辱の疲労感を身体に覚えながら、夏美は幸恵と沖田に送られ部屋にたどり着いた。
 高志と顔を合わせれば・・・・そんな事を考える余裕が無いほど身体と頭は疲れ切っていた。
 最後に飲んだ酒が早くも効いていて、いつでも眠りに着ける状態だった。
 部屋に高志の姿を見る事は無かったが、その理由を考える余裕もなく、またシャワーを浴びる力も残っていなかったが、脱いだ衣服を何とか綺麗に畳み掛け、その後はどうやってネグリジェに着替えたのかも分からないままベットに転げ込むと忽(たちま)ち深い眠りへと落ちていった。






 夏美を部屋まで送り終えて、幸恵と沖田は屋敷へと歩いていた。
 高い木々の枝が幻想的な夜を演出している。その向こう、屋敷の前に一人佇む男の姿があった。
 夏美の夫の高志だった。
 「何か御用ですか」
 幸恵の夜闇に響いた冷たい声に、高志の背中が一瞬飛び上がった。


 恐々振り返る高志に幸恵たちが近づいた。
 「何か御用かな」
 もう一度、幸恵の口元が歪んだ。


 「あ・・あの・・あなた方は・・・・」
 高志の声は驚くほど震えている。
 「私どもは、こちらの堂島先生のお屋敷に仕えるものです」
 今度は沖田が、丁寧な口調で喋りかけた。
 「あっ そ そうだったのですか」
 高志の声はまだ裏返っている。


 「あの・・私 山中高志と申します。こちらの大学でお世話になっている山中夏美の夫です」
 「はい、存じています」
 「そ そうですか・・・じゃあ夏美は」
 「・・・夏美先生はたった今、我々がお部屋までご一緒してきました」
 (え!?)
 高志の表情に、幸恵が嬉しそうに口元を歪める。
 「理事長のお仕事が思ったより長引きましてな、先ほどやっと終わったのです。夏美先生には、旦那様が来られているのに悪い事をいたしました。暗い中を一人で帰って頂くのは心細かろうと思い、この沖田と2人で送り届けてきたところです」
 「な・・そうだったんですか・・・・・・でも」
 高志の疑問を察知して、沖田が落ち着いて続けた。
 「あちら側に職員寮につながる近道がありましてね、我々はそっちの道を通って参りました」
 「はあ・・」


 分かったような、分からないような・・そんな表情(かお)で踵を返した高志の後姿を、2人はしばらく見つめていた。
 高志の姿が小さくなるのを待って、沖田が幸恵に振り向いた。
 「幸恵様、先にお帰りになってて下さい。どうやら理事長が心配されてたストーカーがおるようです」
 沖田の言葉に幸恵が小さく振り返った。幸恵の目は木の後ろからこっちを見つめる人影を認めていた。
 「例のあの子ね。・・・あまり手荒くやってはダメよ」
 幸恵が小さな声で囁いた。


 幸恵の姿が門の向こうに消えたのを確認して、沖田が静かに人影に近づいた。
 「太田新一くん・・だね?」
 (・・・・・・)

 一呼吸おいて、木の後から新一が姿を現した。
 “おやっ”と沖田が頬を緩める。
 「ふん。なる程、酒の力を借りてか・・」 沖田が呟く様子を見ながら新一が一歩近づいた。


 「・・・夏美先生は、理事長先生と別れたんじゃなかったの?」
 「・・・・」
 「それにしちゃ 長い時間 屋敷にいたでしょ」
 「・・・・」
 新一の手からビール缶が地面に落ち、沖田の口元が小馬鹿にしたようにニヤッと歪んだ。新一の目尻がピクリと釣り上がる。


 「ふーー、」
 大きく息を吐きながら、新一がもう一歩沖田に近づいた。
 「な~んか気に食わないんだよな~」
 「・・・・」
 「俺の事を年上好きの甘ちゃんみたいな言い方しながら、自分は年下好きのスケベ爺の子分で」
 「・・・・」
 「おまけに、弥生みたいなションベン臭いのが好みみたいで」
 「・・・・」
 沖田の顔からスーッと笑みが消え。
 新一の目が沖田の顔色に気づき、一瞬息を飲み込んだ。


 今後は沖田が一歩近づいた。そして、ぺこりと頭を下げ。
 「・・少し私の方が悪ふざけをしたようだ」
 (・・・・・)
 「・・・気の済むまで・・どうぞ・・・・」
 沖田はそう言うと、視線で新一を誘うように歩き始めた。
 新一はキョトンとしながらも、大きな背中に導かれるように動きだした。


 満月の下、しばらく歩いたそこは川の土手の上だった。
 沖田が振り向いた。
 「・・・・・」
 暗闇に光る冷たい視線に、新一の酔いが醒めていく。
 「ふふ、太田くん、どうしました?さっきまでの勢いは」
 「・・・・」
 「・・なる程、やっぱり君は短小の早漏男のようだね」
 (なっ!)
 「夏美先生も君とのSEXじゃ何も感じなかっただろ」
 「なっ!!何だと-ー」
 その瞬間、新一の頭に血が上がり、拳が沖田の顔面を捕らえていた。
 手の甲に感じた痛みなど気にする事なく、新一は続けて数発殴りつけた。


 新一が一呼吸おいた時だった。
 「・・・柔いパンチだ。君の腰の強さじゃ、夏川弥生も満足してなかっただろ」
 「なっ!!!」
 「外でやる君の変態趣味にも、彼女は嫌気がさしていたんじゃないのかな?」
 「なっ なっ 何でー-ー!」
 新一の首筋に熱い羞恥の炎が駆け上がり、拳に力が入り、その拳が再び沖田の顔に向かった。
 しかし拳が当たる瞬間、沖田が首を振ると、新一はバランスを崩し倒れ込んでしまった。


 立ち上がる新一を、沖田はニヤリと鼻で笑う。
 「ふふ、あの彼女も本当は強い男が好きなんだよ。・・・強い男がね」
 「・・・・」
 「だから私が・・・」 
 か・わ・り・に --と、動く沖田の唇を見た瞬間、新一がもう一度殴り掛かった。
 しかし・・・。
 その瞬間、目の前で光が弾け、新一は背中から腰、首の辺りに衝撃を感じていた。
 視界に星空が映り、身動き一つ出来ない新一の意識は、笑みを浮かべる沖田を見ながら消えていった・・・・・。






 夏美が目を覚ましたのは、うっすら空が明け始めた頃だった。
 ふと、横にいる高志の寝顔を見ると涙が滲んできた。


 (・・・貴方・・・ゴメンナサイ・・・)
 懺悔の気持ちは、何ヶ月も前からあった事だったが・・・。
 如何なる理由にせよ夫を裏切ってしまった事には変わりなく・・・。
 自分はもう消えなければ・・・・。
 しかし・・・。
 『違うじゃろ。貴女は快楽のため夫と別れるんじゃろ』 堂島の声が聞こえてくる。


 見えない力に導かれるように、ベットから降りると浴室に向かった。
 身体に勢いよくシャワーを浴びせたのは、こびり付いた性臭を洗い流す為か・・・いや、それは、男の為に身体を清める行為か・・・。


 夏美は昨日とは違うスカート姿で、朝露の香る中を屋敷へと向かった。
 屋敷の門扉は開いていて、夏美は昨日の部屋を覗いてみた。
 ベットの縁に腰を掛け、掌でシーツの皺を伸ばすと身体を横にした。
 昨日の精液と愛液の香りが蘇り、夏美は目を閉じた・・・・。




 “カチャリ”と部屋のドアが開く音に、夏美は目を開けた。
 数瞬の眠りに気怠るさを感じながら身体を起こし、振り返ると堂島が立っていた。
 堂島は黙ったままベットに近づき、無表情に夏美を見下してくる。
 その眼がフッと微笑んだ瞬間、夏美は無意識に頷いた・・・・・・・・。