小説本文



6月も半ばに入り、今年の梅雨は勢いを見せていた。
 職員寮の一室では雨音の激しさの中、汗にまみれて男と女が情痴を繰り返している。
 ベットに仰向けで横になっているのは太田新一で、その上で先程から腰を振りながら嬌声を吐き出しているのは、夏美だった。


 「ああ・・ダメよ、まだ逝っちゃあ」
 夏美の朱い口元から、熱っぽい言葉が溢れ出る。
 「あああ、もっと、もっとよ!」
 夏美が焦れた声を上げて腰をうねらせた。
 「う、動いてっ、新一くん」
 「ちょっ、すごいよ、先生。俺、こんなのって・・・」
 今まで経験したことのない、濃密で複雑な味わいに、新一は喉を荒く鳴らす。
 年上の気品に魅了された新一は、今は熟女の“身体”に圧倒されている。
 部屋の電気は明々と点いていて、新一の目の前の肢体は惜しげもなく乳房を揺らし、腰を振りたくっている。


 「・・・ああ・・・もっと、もっと強くっ」
 「ウワッ、ちょ、アアア」
 ペニスに夏美の肉壁が絡み、新一は急激な高鳴りに襲われる。
 何とか踏ん張ろうとする新一だが、未曽有の快感に我慢の限界が訪れた。
 「いや、いやよ、ダメよ、まだよ」
 新一の性感の臨界点も、夏美にとっては生殺しの状態なのか、ひたすら能動的に快楽を求め続けている。
 「ウアア・・・で 出ちゃいそうだよ・・」
 その瞬間、若いペニスを咥えこんだ膣肉がグニャッと収縮して、新一を呻かせた。
 「アアアァ・・・アアアッ」


 「どうしたの 新一くん、もっとよ」
 「・・・・・・・・」


 踊り弾んでいた臀(しり)の動きが小さくなると同時に「・・なんで・・・」と、夏美は切なげな吐息を吐き出した。
 なおも未練がましく、しばらく臀をまわしたが、女壁の膨らみが狭まっていくのを感じるとゆっくり結合を解いていった。
 激しかった雨音がいつしか収まりを迎えたように、2人の荒い呼吸も落ち着きを取り戻していく。
 何かに憑(とりつ)かれたようだった夏美の眼には、緩やかに正気の色が蘇ってくる。


 先日と同じように、夏美を逝かせる事なく自分だけ果ててしまった気恥ずかしさをごまかすように、新一は拗ねた瞳で天井を見上げていた。
 しばらくして・・・。
 「あの、先生・・・」
 「?・・・」
 「あの・・・その・・・・今度 外でしてみない?」
 気恥ずかしさを残しながら、新一が話しかけた。
 「えっ 外?・・・ダメよ。人に見られたら大変な事になるわ」
 先程までの艶めかしい声が嘘のように、落ち着いた声で夏美が切り返す。
 「先生、絶対誰にも見られない秘密の場所があるんだよ・・。だからそこで・・」


 初めて新一に身体を許してから、今夜が3度目の交わりだった。
 新一はこの日もベットの気弱さと比べ、行為の後の方がリラックスしている様子だ。


 「・・・・ダメ。外は絶対・・」
 「ちぇっ。・・俺は先生の為を思って言ったのにな」
 「え?・・・」
 「先生・・・・俺とのセックスじゃ全然感じてないよね?」
 新一が身体を起こしながら乗り出した。


 「この間もさっきも、先生が下になってる時、俺の背中に爪を立てたでしょ?最初は感じてるからだと思ったけど、あれって本当は物足らなかったんだね」
 「・・・・・そんな事は・・」
 「・・それに逝きそうで逝けない時は、俺の身体に噛みついてくるんだよね?・・先生は無意識にやってるかも知れないけど・・だから外とか刺激があった方がと・・・」
 「・・・・・」
 「でも・・・・先生はやっぱり理事長先生とのセックスの方が良いんだ?」
 夏美は新一に背中を向けるように起き上がった。


 「・・・・・・」
 「・・・・やっぱりそうなんだ・・」
 「・・・新一君・・・ゴメン・・」
 背を向けたまま夏美が呟いた。


 「ふーーっ、先生も残酷だよな、そんなにハッキリ言うなんて」
 「ゴメン・・・・でも、新一君には弥生さんもいるし」
 「・・・弥生も良いんだけど・・でもやっぱりね・・・」


 「もう会うのは止めましょう・・・ねっ?」
 「・・・・・先生」
 「・・・・・」
 「先生・・・・・理事長とのセックスが忘れられないんだね」
 「・・・・・・・・」


 「・・そうか・・・黙ってるって事はそうなんだ?」
 「・・・・・・」
 「でも、先生もあんな老人のどこが良いの?・・・・俺ってそんなに良くなかった?」
 「・・・・・・・」


 夏美の沈黙に、新一が枕元から煙草を手に取った。
 「このタバコって理事長のと一緒なんだよね。コレ ひと箱おいていくよ」
 「えっ?・・・」
 「理事長とH出来ない時に吸ってみれば? 理事長のキスの味を思い出すんじゃないの」
 「なっ! や 止めてよ、変なこと言うのは」
 「へへっ」
 夏美の困った様子に、新一の口元が悪戯っぽくニヤついた。
 

 「そうだ! クラスの中に噂でも流してみようかな~」
 「なっ!何てこと言うの」
 「夏美先生が、悪いんだよ」
 「!・・・・」
 「東京に旦那さんがいるのを良い事に、浮気してるんだから。しかも自分よりあんな年上のオッサンと」
 「・・・新一君だって・・」
 「ん?!・・」
 「・・・・・」
 「へへ、そうか・・そうだよな・・・」
 「・・・・・」
 「でもまあ、いいや。先生・・そのうちまた“デート”に誘います。もし断ったら先生の大好きな理事長大先生が失脚・・な~んてね」 
 「ちょっ!新一君、あなた一体何を」


 「おっ!」
 夏美の剣幕を空かして、新一は携帯電話に手を伸ばした。
 「噂をすれば弥生からだ。先生 ちょっと静かにしててね」
 その名前を聞いた瞬間、夏美の中に弥生の哀しげな表情(かお)が浮かんできた。




 新一が部屋を去った後、夏美は裸のままベットに横になった。
 寮の部屋に学生を招き入れる事など、あるまじき事だと分かっていたけれども。
 もしも堂島にこの事を話したとすれば、間違いなく“人間らしい”などと言うのだろう。夏美はそう考えて目を瞑った。


 夫の高志との営みは必ず電気を消していた・・のにと、こんな所でも自分の変化を認めていた。
 ふと頭を振るとタバコの箱が目に付いた。 おまけにライターまでもが重ね置かれてある。
 夏美は半身を起こし、箱から1本取り出した。
 口に咥えると唇が震え、ライターを手に取ると細い指がそれ以上に震えていた。
 火を点け少し吸い込むと、いきなり咳き込んだ。
 しかし、涙と同時に口の中には確かに“あの味”が広がった。
 幸恵も確か、堂島にタバコを教わったと言っていた。
 これで少しは幸恵に近づいたのかと、怪しい思考が働き出す。


 数日前の堂島の屋敷・・。
 ストリッパーまがいの痴態を披露したが、“褒美”にありつけたのは幸恵だった。
 まさに数センチの距離で2人の情交を見せつけられ。
 生臭い匂いと息遣い、それに淫靡な濡音を聞かされ、自分は取り残されたのだと。
 あの時、堂島は腰を振りながら冷たい視線を向けて言ったのだ・・『ほら、貴女はそこで自分を慰めておれ』
 そして悲しい命令に従った自分がいた。
 自淫の快楽はやはり大した事はなく。その後、こうして新一の誘いを受入たのも、それが原因などと言い訳を探す自分がいた。


 夏美はタバコの火を空き缶に押し消し、フラリ身体を回すと四つ足になった。
 乱れたシーツを軽く握ると、臀(しり)を突き上げ気を張った。


 「・・・あぁ・・・」
 あの男の“物”に突かれる自分を想像すると、自然と声が漏れ。
 頭を下げ、股座(またぐら)を覗き込むと、すぐそこに堂島の身体を思い浮かべた。


 (・・ああ・・・)
 男はそこにいるのだと・・・その男は己の肉の凶器を握っているのだと。
 そして、この嘆かわしい巨尻は一打ち二打ちされ、割れ目を拡げられるのだ。
 排泄器官と陰部を晒す羞恥の気持ちも、その後の行為の前戯だと思うと自然と蜜が溢れてくる。
 そして入口の感触を今かと待ち受けるのだ。


 「はアッ!・・・」
 股間に指が伸び、女陰に触れていた。 
 この快感は己に満足を与えてくれぬ事は分かっていたが、夏美は“ソコ”を弄くり始める。
 高まりを求める度に虚しさを覚えながら、細指の動きはしばらく止まらない。


 「んあっ!・・・」
 やがて吐き出る嘆きの声で、惨めさを再認識して夏美の動きはやがて終わりを向かえる。
 その時、夏美の目から一滴の涙が零れ落ちた・・・・。