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第13話
夏美の中に“あっ”と声が上がった。
堂島に背中から抱きしめられた瞬間、震えの走りと同時に、背中の辺りに膨らみを感じたからだった。
すぐに“ソレ”が記憶の中から蘇ってきて、身体は更に強張った。
耳元には堂島の唇が開く濁音が聞こえ、鼻の奥にはタバコの匂いが侵入してきた。
「ふふ、いい匂いじゃ。これは我が家の石鹸の匂いかな?」
「!・・・」
堂島の言葉に、一昨日の屋敷の様子が浮かんできた。
“行為”の後に浴びたシャワーの匂など残っている筈はないのだが、堂島の心理的な先制攻撃に夏美の頭には苦い記憶が蘇ってくる。
「どうじゃ、最近はよく眠れておるかな?」
「・・・・・・・・」
「“こいつ”が頭に付いて、寝不足になっているのではないか?」
夏美はもう一度、背中に当たる膨らみを意識した。
「ふふ、それでは早速調教を始めるとするか」
「!・・・」
堂島の言葉にまさかの思いが沸き上がった。
大きな窓から、穏やかな春の光が明るく射し込む室内。
どこの学校にでもあるような、白を基調とした神聖な部屋の中。
まして多くの書籍に囲まれた、“いかにも”と言う言葉が似合う研究室。
瞬時に夏美の頭を過(よ)ぎったそんな意識をあざ笑うように、堂島の右手が下顎に回されて。
そして、あっという間に夏美の唇は、タバコ臭い唾液を感じ取っていた。
薄い紺色のブレザーの上から、白いワイシャツ姿の堂島に抱きしめられ。
口中に記憶通りのあの苦い味覚の広がりを感じながら、夏美は狭まる視界に外の明るさを意識した。
夏美はとっさに口を離し太い腕を振り払おうとしたが、ビクともしないその重さに早くも自分の無力さを覚悟した。
「……ああ、もう、ゆるして下さい…」
弱々しい言葉を吐いて、夏美は眼を伏せた。
「くく、まだ何もしておらんぞ」
堂島は嬉しそうに口を歪め、甚振りの言葉を続ける。
「貴女はこの部屋で、儂が不埒(ふらち)な真似などする筈がないと思っているのだろ?」
「・・・・・・」
「ここは研究室じゃ。この部屋をいきなり訪ねて来る者なんぞ誰もおらん。みんな儂に気を使って、アポイントを取ってこの部屋に来るのじゃよ」
「・・・・・・」
「さあ、たっぷりと楽しむのじゃ」
夏美は泣き出したくなる気持ちを何とか抑え。
「理事長は、へ、平気なのですか?神聖な校舎の中・・・研究室の中で・・・」
夏美の言葉に、堂島は鼻を鳴らす。
「んん? 相変わらず真面目な事を言うのだな、貴女は。そうじゃ儂の頭はトチ狂っておるのだよ。そう思えばよい。しかし、この非日常性が刺激を生んで、貴女自身が知らない自分のもう一つの面(かお)を引き出してくれるんじゃよ」
「・・・・・・・」
「さあ、もう理屈を並べるのはお仕舞じゃ」
抱きしめられた瞬間から涙腺は緩んでいたが、堂島の重い言葉に目尻の震えが大きくなっていて。
意識の中には塗り込められた“負”の感情が確かにあって、また“あの力”を味わされるのかと思うと・・・。
堂島は一旦夏美から腕を離し、ネクタイを外すと細い目で冷たい視線を向けてきた。
「んん、どうする? ・・・自分で脱ぐか? ・・それともあの時の様に力ずくがよいか?」
「・・・・くっ、じ 自分で脱ぎますわ・・」
夏美は屈辱の言葉を小さく吐き出した・・・心のどこかに“皺になるから” という言い訳を探しながら。
ブラウスを脱ぎ水色のお気に入りのブラジャーが現れたところで、夏美の動きが止まった。
堂島はソファーに座りながら、夏美の様子を上目使いに見上げている。
「くく・・・さあ、どうしたのじゃ? 手が止まっておるぞ。『自分で脱ぎます』と、言ったのは貴女だぞ」
昼過ぎの校内、神聖な部屋の中で場違いな姿を晒そうとする夏美の姿。
手は胸の膨らみを抑え、もう片方の手はスカートのジッパーを抑えたまま固まっている。
「ふふ・・・どうするのじゃ、その続きは? ・・んん? ビデオが世間の皆さんに見られるのと、ここで儂に身体を開くのとどっちがよいのじゃ」
頭の中に“ツッ!”と声が上がるが、同時に“ガマン”の言葉も浮かぶ。
堂島の視線から少しでも逃げるつもりで身体を半身にして、夏美はスカートのジッパーを下ろし始めた。
脱ぎ終えると、それを椅子の背もたれに掛けた上着に重ね置いて、続けてストッキングに手を掛けた。
ふと、どこからか学生の声が聞こえてくる。
“!!”っと夏美の手が強張った。
「心配する事は無い。中庭にいる学生の声じゃよ」
夏美は唇を噛み締めた。
やがて、ブラジャーとショーツだけの姿が現れた。
目の前の憎き男に己の身体を晒すのは、3度目の事だった。
それでも状況は今までと違っていて。
最初はいきなりのレイプ。
2度目は脅しの上・・それでも暗い室内のベットの上。
しかし、今は・・・・。
神聖であるはずの部屋の中、隣接する空間には真摯に教育と向き合う者達がいるこの状況。
つい先程まで自分も確かにその場所にいた、その姿から・・。
「どうしたのじゃ? そのお揃いのブラとパンティーは脱げないのか?」
堂島の口からは憎たらしいほど落ち着いた声が聞こえてくる。
夏美は噛み結んでいた唇を小さく開き。
「・・・これは・・・ぬ 脱がしてください」
夏美の小さな言葉に、堂島は数瞬間を置いて・・・そして微笑んだ。
「・・・ふふ、貴女にはまだまだ言い訳が必要のようだな」
「・・・・・・・・・・」
「・・・無理やり“脱がされる”、“犯される”・・・自分の意思とは別に・・か」
堂島が落ち着いて静かに呟いた。
「まあ良い。・・・では、お望みどおりに」
そう言って、堂島は静かに立ち上がった。
堂島は夏美の些細な抵抗など何の事無く、手慣れた手つきでブラジャーを剥ぎ取り、続けてショーツに手をやった。
夏美は裸を晒されながら、ふと、考え付いた。
目の前のこの男は、幾度となくこのような場所でも破廉恥な事をやってきたのではないかと。
そう言えば幸恵も、最初は犯されたと言っていた。
しかし、今の幸恵の奇妙な様子を考えれば、やはり“馴染んだ”という表現が適当なのだろうか・・と。
最後のショーツを剥ぎ取られるまでの本の僅かな一瞬で、夏美はそんな事を考えた。
衣服を脱がされ、素足は床の冷たさを感じ、素肌に鳥肌が立つのを覚えながら、夏美は後ろを振り返った。
“誰も来ない”と言ったが、もしもこの状況で来客でもあれば・・・。
夏美は寒気を覚えながら、恐々堂島の表情(かお)を覗き見た。
それでも目の前の男はいつも通りの大きな身体、厚い胸板に太い腕、顔に刻まれた皺は迫力があり、そして細く冷たい目の持ち主だった。
この男なら犯(や)りかねない。
間違いなく。
真昼間の神聖なこの場所、誰が訪ねて来ても不思議でないこの状況。
夏美の喉がゴクリと鳴った。
身体が震えるのは、単純に温度差だけではないという事だった。
日常である筈のこの場所での異常さ。
胸と股間に当てた手に力を加え、何とか己の身体を守ろうとする動きは無意識に働いていたが。
顔は俯き、視線は何とか堂島から逃げようとするが、それでも相手の視線は嫌でも身体に突き刺さっていた。
「さあ、こっちを向いてその手をどかしなさい」
堂島の太く落ち着いた声が聞こえてきた。
堂島に背中から抱きしめられた瞬間、震えの走りと同時に、背中の辺りに膨らみを感じたからだった。
すぐに“ソレ”が記憶の中から蘇ってきて、身体は更に強張った。
耳元には堂島の唇が開く濁音が聞こえ、鼻の奥にはタバコの匂いが侵入してきた。
「ふふ、いい匂いじゃ。これは我が家の石鹸の匂いかな?」
「!・・・」
堂島の言葉に、一昨日の屋敷の様子が浮かんできた。
“行為”の後に浴びたシャワーの匂など残っている筈はないのだが、堂島の心理的な先制攻撃に夏美の頭には苦い記憶が蘇ってくる。
「どうじゃ、最近はよく眠れておるかな?」
「・・・・・・・・」
「“こいつ”が頭に付いて、寝不足になっているのではないか?」
夏美はもう一度、背中に当たる膨らみを意識した。
「ふふ、それでは早速調教を始めるとするか」
「!・・・」
堂島の言葉にまさかの思いが沸き上がった。
大きな窓から、穏やかな春の光が明るく射し込む室内。
どこの学校にでもあるような、白を基調とした神聖な部屋の中。
まして多くの書籍に囲まれた、“いかにも”と言う言葉が似合う研究室。
瞬時に夏美の頭を過(よ)ぎったそんな意識をあざ笑うように、堂島の右手が下顎に回されて。
そして、あっという間に夏美の唇は、タバコ臭い唾液を感じ取っていた。
薄い紺色のブレザーの上から、白いワイシャツ姿の堂島に抱きしめられ。
口中に記憶通りのあの苦い味覚の広がりを感じながら、夏美は狭まる視界に外の明るさを意識した。
夏美はとっさに口を離し太い腕を振り払おうとしたが、ビクともしないその重さに早くも自分の無力さを覚悟した。
「……ああ、もう、ゆるして下さい…」
弱々しい言葉を吐いて、夏美は眼を伏せた。
「くく、まだ何もしておらんぞ」
堂島は嬉しそうに口を歪め、甚振りの言葉を続ける。
「貴女はこの部屋で、儂が不埒(ふらち)な真似などする筈がないと思っているのだろ?」
「・・・・・・」
「ここは研究室じゃ。この部屋をいきなり訪ねて来る者なんぞ誰もおらん。みんな儂に気を使って、アポイントを取ってこの部屋に来るのじゃよ」
「・・・・・・」
「さあ、たっぷりと楽しむのじゃ」
夏美は泣き出したくなる気持ちを何とか抑え。
「理事長は、へ、平気なのですか?神聖な校舎の中・・・研究室の中で・・・」
夏美の言葉に、堂島は鼻を鳴らす。
「んん? 相変わらず真面目な事を言うのだな、貴女は。そうじゃ儂の頭はトチ狂っておるのだよ。そう思えばよい。しかし、この非日常性が刺激を生んで、貴女自身が知らない自分のもう一つの面(かお)を引き出してくれるんじゃよ」
「・・・・・・・」
「さあ、もう理屈を並べるのはお仕舞じゃ」
抱きしめられた瞬間から涙腺は緩んでいたが、堂島の重い言葉に目尻の震えが大きくなっていて。
意識の中には塗り込められた“負”の感情が確かにあって、また“あの力”を味わされるのかと思うと・・・。
堂島は一旦夏美から腕を離し、ネクタイを外すと細い目で冷たい視線を向けてきた。
「んん、どうする? ・・・自分で脱ぐか? ・・それともあの時の様に力ずくがよいか?」
「・・・・くっ、じ 自分で脱ぎますわ・・」
夏美は屈辱の言葉を小さく吐き出した・・・心のどこかに“皺になるから” という言い訳を探しながら。
ブラウスを脱ぎ水色のお気に入りのブラジャーが現れたところで、夏美の動きが止まった。
堂島はソファーに座りながら、夏美の様子を上目使いに見上げている。
「くく・・・さあ、どうしたのじゃ? 手が止まっておるぞ。『自分で脱ぎます』と、言ったのは貴女だぞ」
昼過ぎの校内、神聖な部屋の中で場違いな姿を晒そうとする夏美の姿。
手は胸の膨らみを抑え、もう片方の手はスカートのジッパーを抑えたまま固まっている。
「ふふ・・・どうするのじゃ、その続きは? ・・んん? ビデオが世間の皆さんに見られるのと、ここで儂に身体を開くのとどっちがよいのじゃ」
頭の中に“ツッ!”と声が上がるが、同時に“ガマン”の言葉も浮かぶ。
堂島の視線から少しでも逃げるつもりで身体を半身にして、夏美はスカートのジッパーを下ろし始めた。
脱ぎ終えると、それを椅子の背もたれに掛けた上着に重ね置いて、続けてストッキングに手を掛けた。
ふと、どこからか学生の声が聞こえてくる。
“!!”っと夏美の手が強張った。
「心配する事は無い。中庭にいる学生の声じゃよ」
夏美は唇を噛み締めた。
やがて、ブラジャーとショーツだけの姿が現れた。
目の前の憎き男に己の身体を晒すのは、3度目の事だった。
それでも状況は今までと違っていて。
最初はいきなりのレイプ。
2度目は脅しの上・・それでも暗い室内のベットの上。
しかし、今は・・・・。
神聖であるはずの部屋の中、隣接する空間には真摯に教育と向き合う者達がいるこの状況。
つい先程まで自分も確かにその場所にいた、その姿から・・。
「どうしたのじゃ? そのお揃いのブラとパンティーは脱げないのか?」
堂島の口からは憎たらしいほど落ち着いた声が聞こえてくる。
夏美は噛み結んでいた唇を小さく開き。
「・・・これは・・・ぬ 脱がしてください」
夏美の小さな言葉に、堂島は数瞬間を置いて・・・そして微笑んだ。
「・・・ふふ、貴女にはまだまだ言い訳が必要のようだな」
「・・・・・・・・・・」
「・・・無理やり“脱がされる”、“犯される”・・・自分の意思とは別に・・か」
堂島が落ち着いて静かに呟いた。
「まあ良い。・・・では、お望みどおりに」
そう言って、堂島は静かに立ち上がった。
堂島は夏美の些細な抵抗など何の事無く、手慣れた手つきでブラジャーを剥ぎ取り、続けてショーツに手をやった。
夏美は裸を晒されながら、ふと、考え付いた。
目の前のこの男は、幾度となくこのような場所でも破廉恥な事をやってきたのではないかと。
そう言えば幸恵も、最初は犯されたと言っていた。
しかし、今の幸恵の奇妙な様子を考えれば、やはり“馴染んだ”という表現が適当なのだろうか・・と。
最後のショーツを剥ぎ取られるまでの本の僅かな一瞬で、夏美はそんな事を考えた。
衣服を脱がされ、素足は床の冷たさを感じ、素肌に鳥肌が立つのを覚えながら、夏美は後ろを振り返った。
“誰も来ない”と言ったが、もしもこの状況で来客でもあれば・・・。
夏美は寒気を覚えながら、恐々堂島の表情(かお)を覗き見た。
それでも目の前の男はいつも通りの大きな身体、厚い胸板に太い腕、顔に刻まれた皺は迫力があり、そして細く冷たい目の持ち主だった。
この男なら犯(や)りかねない。
間違いなく。
真昼間の神聖なこの場所、誰が訪ねて来ても不思議でないこの状況。
夏美の喉がゴクリと鳴った。
身体が震えるのは、単純に温度差だけではないという事だった。
日常である筈のこの場所での異常さ。
胸と股間に当てた手に力を加え、何とか己の身体を守ろうとする動きは無意識に働いていたが。
顔は俯き、視線は何とか堂島から逃げようとするが、それでも相手の視線は嫌でも身体に突き刺さっていた。
「さあ、こっちを向いてその手をどかしなさい」
堂島の太く落ち着いた声が聞こえてきた。