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第18話
受け持った講座が本格的に始まって、夏美は水を得た魚・・では無いが、時折り活き活きとした姿を見せるようになっていた。
勿論、それは90分間の授業の中と、その準備に追われている時だけだったが。
堂島の呼び出しはあれからも続いていた。
しかし、研究室での“行為”は流石にマズイと思ったのか、その場所への呼び出しはあれから一度も無い。
それでも屋敷に呼ばれた時はスカートで出向き、そこで身体を求められた。
屋敷での“行為”は、色んな部屋を使われ、又たっぷり時間を掛けて凌辱された。
時々、屋敷において例の仕事・・東北の大学の資料作りを言い渡される事もあったが、それは堂島の住まいに通う事に対して、周りに言い訳を準備する為だと思えた。
屋敷ではあのゴリラの様な男、沖田の姿を見かける事は殆どなく、しかし“行為”の後は必ず幸恵が姿を現した。
幸恵は、帰り際に“プレゼント”と称して、紙袋を手渡す事があった。
中身はいつも“卑猥”としか言いようのないランジェリーで、次に訪れる時はそれを身に着ける事を指示された。
(あの女(ひと)は一体何を?)
幸恵の考えている事は全く分からないが、堂島を含め怪しい人種である事は間違いなく、彼らの生活振りは謎めいてみえた。
キャンパスの桜はとっくに散り終わり、学生たちはやってくるゴールデンウィークに今から心を弾ませているようだった。
夏美は休日には同僚と出かける事もあったが、心にはいつも重いものがあり、弾けるような笑顔を見せる事はなかった
夫の高志からは何度か電話があったが、お互いの安否を確認するだけのような感じで、互いが仕事の労を労(ねぎら)って終わる事が多かった。
心の中でいつも夫に手を合わせていた自分だったが、その回数もいつの間にか少なくなっていた。
それでも深夜の寝床で、いきなり飛び起きる事があって、冷たい汗と共に“自分に”ゾッとする事があった。
(これは私ではない・・・・脅されてるとはいえ、好きでもない男に言われるまま身体を開いている女は本当の私では・・・)
早くこの関係を断ち切らなければ・・・・と、いつも心はそう思うのだが。
しかし堂島の前に立つと身体は竦み、得体の知れない高揚感が沸き上がった。
冷たい視線に見つめられると金縛りにあったように身体は固まり、太い指が触れると力が抜けていった。
下着を晒した時点で敗北のレールに乗せられたように、悲しいかなその後はなすがままに身体を開く自分がいた。
そして、自己嫌悪の日々を繰り返した・・・・。
この日は休日だった。
堂島からの呼び出しもなく、数日前から気分転換に町に行こうと思っていたのだが。
昨日、太田新一に声を変えられていた。
『先生、明日、部屋に勉強を教わりに行ってもいいですか? 勿論、弥生も一緒に』
夏美の講座は定員50人に対して、結局30人程度の少規模なものになっていた。
それでも勿論、心を込めて講義をしているつもりだった。
堂島が言ったように最初から最後まで一番後ろの席で寝ている者もいたが、新一の様に前の席で真剣に聞いてくれる者もいた。
夏美は少人数でも真面目に受けてくれる学生を大切しようと思っていた。
だから・・『良いわよ。大したおもてなしは出来ないけどいらっしゃい』
新一と弥生が見えたのは約束の時間より少し遅れた午後の1時過ぎだった。
「おっ、いい匂い」
緊張の様子など全く見せず、新一がいきなり遠慮のない伸びをした。
「こら、恥ずかしい事しないの。ちゃんと挨拶からでしょ」
そう言って弥生が、丁寧に頭を下げる横で、新一も頭を掻きながら照れくさそうに会釈した。
「うふ、いらっしゃい」
夏美が嬉しそうに微笑んだ。
新一が物珍しそうに部屋の中を見て回す。
一人暮らしの女性の部屋が珍しいのか、目を輝かせて遠慮なしに首を振っている。
弥生の方は落ち着いていて、また改まって近くで見てもお世辞抜きに美人だと思った。
「あれ?夏美先生、弥生の顔に何か付いてます?」
新一が飄々(ひょうひょう)と聞いてきた。
「え!? いえ、・・・弥生さんって美人だな・・って・・・」
「・・・え!? そんな・・・」
弥生が恥ずかしそうに首を振って、新一に目を向けた。
「でも先生、弥生の性格は結構きついんですよ」
弥生の様子を一瞬に冗談で返し、新一が真顔で頷いた。
そんな新一を“こらっ”と、弥生がコズクふりをする。
夏美は二人の様子を嬉しそうに眺めている。
「でも、あたし、友達から夏美先生に似てるって何回か言われました」
「えっ・・」
今度は新一が弥生の顔を覗き込みながら。
「お前ねえ、それは“私は美人です”って自慢してるようなもんだよ。夏美先生は誰が見ても美人なんだから、その夏美先生に似てるって事は・・」
「え~でも、本当に良く言われるんだもん」
弥生の拗(す)ねた様子に、夏美は微笑んだ。
「でも、新一君もこんな可愛い彼女がいて嬉しいでしょ」
新一は一瞬、頬を朱らめながら。
「で、でも先生、弥生は子供っぽい所があるから・・・」
「何よ、自分だって子供のくせに」
新一に反撃する弥生の様子を見ながらも、夏美は頃合いを見計らって。
「うふ、もうそれ位にして・・今日は勉強しに来たんでしょ?」
夏美の言葉に、二人は思い出したように頷いた。
二人はそれなりにいくつかの質問をし始めたが、それでもその時間は長くは続かなかった。
テーブルの上にはノートが開いたままで、話題は勉強から自然と離れていった。
結局、それらしい話をしたのは本の2~30分程度で、その後は自然と大学生活の事やプライベートの話題へと移っていった。
それでも夏美にとっては、久しぶりに気持ちの休まる時間であった。
途中からテレビをBGM代わりに聞いていて、時折り芸能関係の話しも出たりした。
・・・ふと、話題が途切れた時だった。
「あ、あの・・先生・・・へへ、タバコ吸ってもいいですか?」
夏美が“えっ”と間を開けて。
「・・新一君、タバコ吸うんだ?そんな風に見えなかったけど・・」
「へへ、そうなんです。でも、本数は少ないんですけど・・」
「こ~ら、いつも言ってるでしょ。本数は関係ないの。身体に悪いのは変わらないんだから」
「な、弥生だって前は吸ってただろ」
夏美の目が先ほど以上に広がった。
「ちょ、ちょっと・・『吸ってた』じゃなくて、2,3回“吸った”事があるだけでしょ」
「どう違うんだよ。吸った事には変わんないだろ」
「全然違うわよ。私は好奇心で2、3回吸っただけなの。新一はいつも吸ってる常習性があるの。・・だから全然違うのよ」
「常習性って、難しい言葉使うなよ。吸った事には変わんないんだから・・」
「んもぅ・・・」
弥生が助けを求めるように夏美の方に顔を向けた。
夏美は顔を傾げて見せた。
「それにね、医学的にも私みたいに吸わなくなって1年くらい経ったら肺の中も元通り綺麗になるんだから。新一なんかずっと吸ってるから、もう真っ黒よ」
「ハイハイ、分かりましたよ。その内ちゃんと止めますから」
「んもー、いつもそれなんだから」
新一が弥生の剣幕に矛先を変えようとして。
「夏美先生、先生はタバコは吸った事ありますか」
「あ、私は一度も無いわ・・。吸いたいと思った事もないし・・」
「ご主人はタバコは吸うんですか?」
弥生が覗き込む様に聞いてきた。
「ううん、主人も今まで一度も吸った事が無いはずよ」
「でもまあ、食わず嫌いじゃないけど一度くらいなら吸っても罰(ばち)は当たらないよな」
「もー、とにかく早く止めてよね」
夏美は二人の様子をどこか不思議な感じで眺めていた。
「と、言う事で先生、一本失礼してもいいですか?」
夏美は灰皿の代わりに小皿を持って来て、それを新一の前に置いた。
そして、慣れた手付きでタバコに火を着ける新一の素振りを眺め見た。
弥生が気を効かしてか部屋の小窓を開ける横で、新一が美味そうに煙を吐き出した。
夏美の視線を感じてか、新一がちょっぴり照れ笑いを見せる。
東京で高校の教員をしている時にも喫煙をしている学生を現行犯で注意した事もあったが、その時の生徒は幼く見えたものだった。
目の前の新一は、当時の学生達と僅か2歳しか違わないのだが、それでも大人びて見える。
タバコを吸うしぐさが板に付いていると言う事だけではなく、夏美は自分こそが幼いままでいるような気持に駆られていた。
夏美の視線を感じたのか、新一が慣れた手つきで灰を落としながら。
「先生どうしたんですか?・・先生も吸ってみたくなりました?」
明らかに冗談と分かる口調にも、夏美は苦笑いした。
「え!? わ、私はいいわよ・・。うん、遠慮しとく」
新一がタバコを口から離し、それを小皿に丁寧に置いた。
「そうだ。そういえばこのタバコって理事長先生のと同じなんですよ」
“えっ”と夏美の顔が一瞬強張った。
「ふ~ん、でも、新一はどうしてそんな事を知ってるの?」
弥生が問いかけた。
「ほら、前に夏美先生を追いかけて理事長先生の研究室に行った時だよ」
「・・・・・・」
「確かテーブルの上にこれと同じのが置いてあった。この銘柄って売ってる店が少なくてちょっと珍しいんだ。だからよく覚えてるよ」
「・・・・・・」
「それに夏美先生はタバコは吸わないって事だから、あれは間違いなく理事長先生のだよ」
顔が強張る夏美の前で、新一はどこか嬉しそうに続けた。
「うん。テーブルの上、いや、ソファーの上だったかな。でも間違いなく置いてましたよ・・・・・・夏美先生」
夏美は一瞬、新一の口元が嫌らしく歪んで見えた・・・・。
勿論、それは90分間の授業の中と、その準備に追われている時だけだったが。
堂島の呼び出しはあれからも続いていた。
しかし、研究室での“行為”は流石にマズイと思ったのか、その場所への呼び出しはあれから一度も無い。
それでも屋敷に呼ばれた時はスカートで出向き、そこで身体を求められた。
屋敷での“行為”は、色んな部屋を使われ、又たっぷり時間を掛けて凌辱された。
時々、屋敷において例の仕事・・東北の大学の資料作りを言い渡される事もあったが、それは堂島の住まいに通う事に対して、周りに言い訳を準備する為だと思えた。
屋敷ではあのゴリラの様な男、沖田の姿を見かける事は殆どなく、しかし“行為”の後は必ず幸恵が姿を現した。
幸恵は、帰り際に“プレゼント”と称して、紙袋を手渡す事があった。
中身はいつも“卑猥”としか言いようのないランジェリーで、次に訪れる時はそれを身に着ける事を指示された。
(あの女(ひと)は一体何を?)
幸恵の考えている事は全く分からないが、堂島を含め怪しい人種である事は間違いなく、彼らの生活振りは謎めいてみえた。
キャンパスの桜はとっくに散り終わり、学生たちはやってくるゴールデンウィークに今から心を弾ませているようだった。
夏美は休日には同僚と出かける事もあったが、心にはいつも重いものがあり、弾けるような笑顔を見せる事はなかった
夫の高志からは何度か電話があったが、お互いの安否を確認するだけのような感じで、互いが仕事の労を労(ねぎら)って終わる事が多かった。
心の中でいつも夫に手を合わせていた自分だったが、その回数もいつの間にか少なくなっていた。
それでも深夜の寝床で、いきなり飛び起きる事があって、冷たい汗と共に“自分に”ゾッとする事があった。
(これは私ではない・・・・脅されてるとはいえ、好きでもない男に言われるまま身体を開いている女は本当の私では・・・)
早くこの関係を断ち切らなければ・・・・と、いつも心はそう思うのだが。
しかし堂島の前に立つと身体は竦み、得体の知れない高揚感が沸き上がった。
冷たい視線に見つめられると金縛りにあったように身体は固まり、太い指が触れると力が抜けていった。
下着を晒した時点で敗北のレールに乗せられたように、悲しいかなその後はなすがままに身体を開く自分がいた。
そして、自己嫌悪の日々を繰り返した・・・・。
この日は休日だった。
堂島からの呼び出しもなく、数日前から気分転換に町に行こうと思っていたのだが。
昨日、太田新一に声を変えられていた。
『先生、明日、部屋に勉強を教わりに行ってもいいですか? 勿論、弥生も一緒に』
夏美の講座は定員50人に対して、結局30人程度の少規模なものになっていた。
それでも勿論、心を込めて講義をしているつもりだった。
堂島が言ったように最初から最後まで一番後ろの席で寝ている者もいたが、新一の様に前の席で真剣に聞いてくれる者もいた。
夏美は少人数でも真面目に受けてくれる学生を大切しようと思っていた。
だから・・『良いわよ。大したおもてなしは出来ないけどいらっしゃい』
新一と弥生が見えたのは約束の時間より少し遅れた午後の1時過ぎだった。
「おっ、いい匂い」
緊張の様子など全く見せず、新一がいきなり遠慮のない伸びをした。
「こら、恥ずかしい事しないの。ちゃんと挨拶からでしょ」
そう言って弥生が、丁寧に頭を下げる横で、新一も頭を掻きながら照れくさそうに会釈した。
「うふ、いらっしゃい」
夏美が嬉しそうに微笑んだ。
新一が物珍しそうに部屋の中を見て回す。
一人暮らしの女性の部屋が珍しいのか、目を輝かせて遠慮なしに首を振っている。
弥生の方は落ち着いていて、また改まって近くで見てもお世辞抜きに美人だと思った。
「あれ?夏美先生、弥生の顔に何か付いてます?」
新一が飄々(ひょうひょう)と聞いてきた。
「え!? いえ、・・・弥生さんって美人だな・・って・・・」
「・・・え!? そんな・・・」
弥生が恥ずかしそうに首を振って、新一に目を向けた。
「でも先生、弥生の性格は結構きついんですよ」
弥生の様子を一瞬に冗談で返し、新一が真顔で頷いた。
そんな新一を“こらっ”と、弥生がコズクふりをする。
夏美は二人の様子を嬉しそうに眺めている。
「でも、あたし、友達から夏美先生に似てるって何回か言われました」
「えっ・・」
今度は新一が弥生の顔を覗き込みながら。
「お前ねえ、それは“私は美人です”って自慢してるようなもんだよ。夏美先生は誰が見ても美人なんだから、その夏美先生に似てるって事は・・」
「え~でも、本当に良く言われるんだもん」
弥生の拗(す)ねた様子に、夏美は微笑んだ。
「でも、新一君もこんな可愛い彼女がいて嬉しいでしょ」
新一は一瞬、頬を朱らめながら。
「で、でも先生、弥生は子供っぽい所があるから・・・」
「何よ、自分だって子供のくせに」
新一に反撃する弥生の様子を見ながらも、夏美は頃合いを見計らって。
「うふ、もうそれ位にして・・今日は勉強しに来たんでしょ?」
夏美の言葉に、二人は思い出したように頷いた。
二人はそれなりにいくつかの質問をし始めたが、それでもその時間は長くは続かなかった。
テーブルの上にはノートが開いたままで、話題は勉強から自然と離れていった。
結局、それらしい話をしたのは本の2~30分程度で、その後は自然と大学生活の事やプライベートの話題へと移っていった。
それでも夏美にとっては、久しぶりに気持ちの休まる時間であった。
途中からテレビをBGM代わりに聞いていて、時折り芸能関係の話しも出たりした。
・・・ふと、話題が途切れた時だった。
「あ、あの・・先生・・・へへ、タバコ吸ってもいいですか?」
夏美が“えっ”と間を開けて。
「・・新一君、タバコ吸うんだ?そんな風に見えなかったけど・・」
「へへ、そうなんです。でも、本数は少ないんですけど・・」
「こ~ら、いつも言ってるでしょ。本数は関係ないの。身体に悪いのは変わらないんだから」
「な、弥生だって前は吸ってただろ」
夏美の目が先ほど以上に広がった。
「ちょ、ちょっと・・『吸ってた』じゃなくて、2,3回“吸った”事があるだけでしょ」
「どう違うんだよ。吸った事には変わんないだろ」
「全然違うわよ。私は好奇心で2、3回吸っただけなの。新一はいつも吸ってる常習性があるの。・・だから全然違うのよ」
「常習性って、難しい言葉使うなよ。吸った事には変わんないんだから・・」
「んもぅ・・・」
弥生が助けを求めるように夏美の方に顔を向けた。
夏美は顔を傾げて見せた。
「それにね、医学的にも私みたいに吸わなくなって1年くらい経ったら肺の中も元通り綺麗になるんだから。新一なんかずっと吸ってるから、もう真っ黒よ」
「ハイハイ、分かりましたよ。その内ちゃんと止めますから」
「んもー、いつもそれなんだから」
新一が弥生の剣幕に矛先を変えようとして。
「夏美先生、先生はタバコは吸った事ありますか」
「あ、私は一度も無いわ・・。吸いたいと思った事もないし・・」
「ご主人はタバコは吸うんですか?」
弥生が覗き込む様に聞いてきた。
「ううん、主人も今まで一度も吸った事が無いはずよ」
「でもまあ、食わず嫌いじゃないけど一度くらいなら吸っても罰(ばち)は当たらないよな」
「もー、とにかく早く止めてよね」
夏美は二人の様子をどこか不思議な感じで眺めていた。
「と、言う事で先生、一本失礼してもいいですか?」
夏美は灰皿の代わりに小皿を持って来て、それを新一の前に置いた。
そして、慣れた手付きでタバコに火を着ける新一の素振りを眺め見た。
弥生が気を効かしてか部屋の小窓を開ける横で、新一が美味そうに煙を吐き出した。
夏美の視線を感じてか、新一がちょっぴり照れ笑いを見せる。
東京で高校の教員をしている時にも喫煙をしている学生を現行犯で注意した事もあったが、その時の生徒は幼く見えたものだった。
目の前の新一は、当時の学生達と僅か2歳しか違わないのだが、それでも大人びて見える。
タバコを吸うしぐさが板に付いていると言う事だけではなく、夏美は自分こそが幼いままでいるような気持に駆られていた。
夏美の視線を感じたのか、新一が慣れた手つきで灰を落としながら。
「先生どうしたんですか?・・先生も吸ってみたくなりました?」
明らかに冗談と分かる口調にも、夏美は苦笑いした。
「え!? わ、私はいいわよ・・。うん、遠慮しとく」
新一がタバコを口から離し、それを小皿に丁寧に置いた。
「そうだ。そういえばこのタバコって理事長先生のと同じなんですよ」
“えっ”と夏美の顔が一瞬強張った。
「ふ~ん、でも、新一はどうしてそんな事を知ってるの?」
弥生が問いかけた。
「ほら、前に夏美先生を追いかけて理事長先生の研究室に行った時だよ」
「・・・・・・」
「確かテーブルの上にこれと同じのが置いてあった。この銘柄って売ってる店が少なくてちょっと珍しいんだ。だからよく覚えてるよ」
「・・・・・・」
「それに夏美先生はタバコは吸わないって事だから、あれは間違いなく理事長先生のだよ」
顔が強張る夏美の前で、新一はどこか嬉しそうに続けた。
「うん。テーブルの上、いや、ソファーの上だったかな。でも間違いなく置いてましたよ・・・・・・夏美先生」
夏美は一瞬、新一の口元が嫌らしく歪んで見えた・・・・。