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第24話
その建物は静かに流れる川の畔に建っていた。
元々はどこかの企業の保養所だった物を、最近堂島が買い取って改修工事を施したと車の中で聞かされていた。
目的の大学は此処から歩いて僅かな場所にあるらしいが、周りの雰囲気は田舎そのものだ。
確かにこんな田舎で大学が存続するには、それなりの特異性も持たなければ難しいであろうと、ふと、そんな事を考えながら夏美は車を降りたった。
夏美は遠慮気味に小さく伸びをした。
予定より早めの到着であったが、車内の重苦しい気分はまだ残っている。
途中のサービスエリアのトイレで脱ぎおろしたショーツには、染みの痕がついていて。
その印は間違いなく、車内で見せ付けられた堂島と幸恵の行為が切っ掛けで付いたものだった。
「ほれ、どうしたのじゃ。行くぞ」
堂島の言葉に、夏美はキャリーバックに手をやった。
建物の中には他にも人の姿を見る事が出来、堂島が笑顔で話しかける様子が目に付いた。
「夏美さん、今回はね、買収の打ち合わせの為にあっちの大学の関係者以外に東京からも人が来てるのよ」
堂島の様子を遠目に見ていた夏美の耳元で、幸恵が囁いた。
「それとね、知り合いのコックさんも呼んであるのよ。ここには年配の男の人が住み込みでいるんだけど、料理は今一だからね。私も助かるわ」
夏美は幸恵の言葉に数瞬間をおいて。
「あの‥‥幸恵さんは‥」
「ん、私は夏美さんとご主人様が仕事をしている間は、こっちの美味しい空気と食べ物を堪能させて頂くわ」
「・・・・・」
「車でちょっと行った所に、地元の食材を使った有名なレストランもあるのよ」
「・・・・・」
目の前の幸恵の様子は、車中で男性器を口にした恥じらいなど微塵も感じさせず、夏美にはその無邪気さ? あるいはその図太さは信じがたい事なのだが。
それから直ぐに、夏美達は管理人の男に部屋へと案内されていった。
夏美が通されたのは、小奇麗でさっぱりした6畳程の1人部屋。
夏美はバックの中身をクローゼットに整理し直して、ゴロリとベットに横になった。
頭の中では3日間の“仕事”のスケジュールは把握していたが、それが全てでない事は覚悟の上だった。
今も身に着けている卑猥な衣装。
そして今しがたバックから移し替えた荷物の中にも、数多くの“ソレ”が紛れている。
夜のスケジュールは聞かされていないが、おそらく、いや、間違いなく呼び出しが有るのだろう。
別客がいるこの建物の中でも、堂島であれば平気でモーションを掛けてくるはずだ・・・・。
と、そんな事を考えていた夏美に、静かに睡魔が寄せてきて。そしていつしか、眠りの中へと落ちていった・・・・。
ここ数日、必ず見る淫夢に魘(うな)され、夏美は遠くで携帯電話の震えを覚えてゆっくり目を開けた。
薄っすら開いた瞼の先に広がった様子に、直ぐにここがどこなのか理解して、そして夏美は起き上がった。
携帯電話の画面にはいつの間にか登録してあった“幸恵”の名前が浮かび上がり、夏美は小さく息をつきながら通話ボタンに指を置いた。
「・・・もしもし・・・・」
『あら、寝てたの?』
夏美の重い声など気にする様子もなく、幸恵はどこか浮かれた気配で話しかけてくる。
『・・ご主人様がお呼びよ。10分後に下に降りてきて。準備があるでしょうけど遅れないでね』
「・・・はい、わかりました」
幸恵はこれから町にでも行くのだろうかと、そんな事を考えながら夏美は支度へと手を進める。
随分寝たと思っていた時間も、時計を見れば1時間程度のものだった。
それでもどこかで身体は、スッキリしたものを感じている。
確か今日の予定は、大学の下見を兼ねた案内であった。
東京から呼んだ“堂島学園”の幹部と、新大学の構想の中心になる先生方なのか、それとも別の誰かなのか。
まだ見ぬ人の前で粗相は出来ぬと、夏美は軽い緊張を覚えていた。
1階の小さなロビーには、人影が出来ていた。
夏美がその輪に近ずくと一斉に、その視線が向かってきた。
頭を下げる夏美の様子に、堂島の厚い表情(かお)が嬉しそうに歪んだ。
「儂の大学で今年の2月から働いてもらっておる山中夏美さんじゃ。助手じゃが既に講座を二つ任せておってな、なかなか出来の良い人じゃよ」
夏美がもう一度、緊張した面持ちで頭を下げる。
「や、山中夏美と申します」
小さな声に、男達それぞれが挨拶を投げかけた。
目的の大学へはそこから歩いて出掛けた。
一番後ろから男達の背中を数えれば、人数は堂島を入れて5人。
年の頃は40半ばからだろうか、気難しそうな学者の雰囲気を持った男はこの大学で中心になる教授だろうか。
頭を七三に分けた如何にも固そうな男は、経理担当の者だろうか。
また、顎髭を蓄えた眼光鋭い男はいかにも重役といった雰囲気だ。
そして先頭を誘導するように進む男は、おそらく目的の大学の人間だろう。
と、夏美はそんな事を考えながら歩いている。
それからしばらく歩き、一向は目的地へ到着した。
大学の下見は、それ程大した労力を必要とするものでは無かった。
夏美は一応、自分の考えでメモを執ったり、持参したデジカメで写真を撮ったりしてはいたが。
夕暮れが迫った頃には、一向は大学の男を残し保養所へと戻って行った。
1階のホールには丁度出先から帰って来た幸恵の姿があり、その横には大きな土産袋を抱える沖田がいる。
結局今夜、この宿に泊まるのは夏美達4人と管理人の男。
それに顎髭の男に七三の髪型の男、そして教授らしき男の合計8人であった。
この夜‥‥。
夏美は部屋の浴室でこの日の汗を流し終えた。
幸恵に大浴場に誘われたらどうしようかと心配していたが、その心配は杞憂に終わってくれた。
幸恵の部屋は堂島と同じ部屋なのだろうかと、そんな疑問も湧いていた。
もしそうだとすれば、今夜此処に泊まる者達は二人の関係に気付くのかと考えて、いや、おそらく二人の事は周知の事実だろうと、直ぐにその結論にたどり着いた。
夕食は1階の食堂であった。
幸恵が言った通り、町から来たコックが腕を奮った料理を作ってくれていた。
夕食の雰囲気も夏美には重いものだった。
管理人の男も含め皆、口数は少ない。
堂島も静かに箸を口に運ぶだけで、時折り隣の幸恵と言葉を交わすだけだった。
食事を終えた後は、夏美は逃げるように部屋へと戻って行く。
この地方のこの時期の夜は、やはり寒さが残っており、夏美は毛布をしっかり肩まで掛けて布団に潜り込んでいる。
時刻を見ればまだまだ床(とこ)に着く時間ではないのだが、早く夜が終わる事を願いながら目を閉じた。
しかし、瞼の裏から昼間の車中の幸恵の“行為”が浮かび上がってくる。
後ろの席を振り向く事は無かったが、淫靡な響きは伝わってきて、堂島の肉の凶器を頬張る幸恵の顔を嫌でも想像してしまっていた。
連休に入る数日前、屋敷の2階の踊り場で堂島に一突きで逝かされてからは、牡のシンボルの挿入は一度も受けていない。
肉の悦(よろこ)びを覚えさせられ、受け入れるようになってから、こんなに時間が空く事は無い。
年増女の身体の疼きを鎮めるものは何処にあるのか・・・・・。
そんな悍(おぞ)ましい事は考えようとはしまいが・・・・。
車中で言い放った堂島の言葉が蘇ってくる。
『‥シャブりたいのなら沖田の物をしゃぶれ』
『・・・沖田の物は儂のよりデカいぞ』
夏美は目尻に力を入れ、固く瞑っていた・・・・・・。
深夜‥‥。
微かな音に夏美は目を覚ました。天井を向いたまま、静かに耳を澄ましてみた。
部屋の小さな灯りを見ながら、耳にはコチコチ鳴る秒針の音が聞こえてくる。
もう一度意識して目を閉じ耳を澄ませば、時計の音に交ざって確かに人のくぐもった声が聞こえてくる。
枕元に置いた携帯電話を広げてみた。
眩い白い光が広がると、画面の中から数字が浮かび上がる。
時刻は夜中の1時。
いつ眠りに着いたのだろう?‥と考えて、夏美は目が冴えていく自分を意識した。
その声は不規則に途切れながら、また、別の声と重なりあいながら間違いなく聞こえてくる。
恐らく堂島達の話し声だろうと決め付けて、夏美は布団を被りながら目を閉じようとする・・・。
その時。
『んあっ---』と、女の悲鳴のような声が聞き取れた。
そして今度は、含み笑う野太い声が聞こえてきた。
夏美は小さく息を呑んで、身構えた。
緊張を覚えながら、身体は自然にベットから起き上がっている。
頭の中に“まさか”の想いを浮かべ、気付けば夏美はドアの前で立ちすくんでいた。
冷静になった思考の中で、あの声は“あの時”の声だろうと、その考えにたどり着いていて。
夏美は幸恵が堂島と戯れる姿を思い浮かべてしまう。
声は益々頭の中で鮮明に響き渡り、夏美はドアノブを握ったまま動けない。
体感は冷たいはずだが、寒さはあまり感じない。
心臓の音が耳元から聞こえてくる感覚は、確かあの時と似ていた。
神社の境内・・・初めて人様の性行為を覗いてしまったあの時の事だった。
夏美の手はゆっくりドアノブを回していた。
廊下は薄暗く、所々の灯りも物悲しそうなものである。
夏美は微かな声を頼りに、いや、それに呼び寄せられるように歩き進んで行く。
夏美の行動は問われても説明のつくものではなかったが、強いていえば好奇心に導かれた言うところだろうか。
その声の出何処は直ぐに検討がついた。
ドアの隙間から灯りの洩れる部屋を見つけ、夏美は静かに近づいた。
女の呻き声に重なって男の煽(あお)りの声も聞こえてくる。
扉の向こうでは、今まさに、幸恵が“あの”最中なのか‥と、その時。
不意に暗がりから現れた人影に、夏美は飛び上がりそうに驚いた。
あまりの驚きに喉は萎縮し、声は音にならなかった。
目の前には、ゴリラの様な男が、その太い人差し指を唇に当てていた。
夏美の身体はまさに金縛りにあった様に、身動き一つ出来ない。
眼球だけが震えながら、しかし耳には幸恵の淫靡な呻き声が聞こえてくる。
夏美は何とか唾を飲み干そうとするが、沖田の顔を震えながら見つめるだけだった。
その時、その部屋のドアが開き、中から新たな人影が現れた。
廊下に光が広がり、現れたのはガウンを纏った幸恵。
夏美が呆然と見つめる視線の先。
幸恵の後ろからは、女のあられもない声が一際大きく聞こえてきた‥‥。
それは・・・・・・・。
元々はどこかの企業の保養所だった物を、最近堂島が買い取って改修工事を施したと車の中で聞かされていた。
目的の大学は此処から歩いて僅かな場所にあるらしいが、周りの雰囲気は田舎そのものだ。
確かにこんな田舎で大学が存続するには、それなりの特異性も持たなければ難しいであろうと、ふと、そんな事を考えながら夏美は車を降りたった。
夏美は遠慮気味に小さく伸びをした。
予定より早めの到着であったが、車内の重苦しい気分はまだ残っている。
途中のサービスエリアのトイレで脱ぎおろしたショーツには、染みの痕がついていて。
その印は間違いなく、車内で見せ付けられた堂島と幸恵の行為が切っ掛けで付いたものだった。
「ほれ、どうしたのじゃ。行くぞ」
堂島の言葉に、夏美はキャリーバックに手をやった。
建物の中には他にも人の姿を見る事が出来、堂島が笑顔で話しかける様子が目に付いた。
「夏美さん、今回はね、買収の打ち合わせの為にあっちの大学の関係者以外に東京からも人が来てるのよ」
堂島の様子を遠目に見ていた夏美の耳元で、幸恵が囁いた。
「それとね、知り合いのコックさんも呼んであるのよ。ここには年配の男の人が住み込みでいるんだけど、料理は今一だからね。私も助かるわ」
夏美は幸恵の言葉に数瞬間をおいて。
「あの‥‥幸恵さんは‥」
「ん、私は夏美さんとご主人様が仕事をしている間は、こっちの美味しい空気と食べ物を堪能させて頂くわ」
「・・・・・」
「車でちょっと行った所に、地元の食材を使った有名なレストランもあるのよ」
「・・・・・」
目の前の幸恵の様子は、車中で男性器を口にした恥じらいなど微塵も感じさせず、夏美にはその無邪気さ? あるいはその図太さは信じがたい事なのだが。
それから直ぐに、夏美達は管理人の男に部屋へと案内されていった。
夏美が通されたのは、小奇麗でさっぱりした6畳程の1人部屋。
夏美はバックの中身をクローゼットに整理し直して、ゴロリとベットに横になった。
頭の中では3日間の“仕事”のスケジュールは把握していたが、それが全てでない事は覚悟の上だった。
今も身に着けている卑猥な衣装。
そして今しがたバックから移し替えた荷物の中にも、数多くの“ソレ”が紛れている。
夜のスケジュールは聞かされていないが、おそらく、いや、間違いなく呼び出しが有るのだろう。
別客がいるこの建物の中でも、堂島であれば平気でモーションを掛けてくるはずだ・・・・。
と、そんな事を考えていた夏美に、静かに睡魔が寄せてきて。そしていつしか、眠りの中へと落ちていった・・・・。
ここ数日、必ず見る淫夢に魘(うな)され、夏美は遠くで携帯電話の震えを覚えてゆっくり目を開けた。
薄っすら開いた瞼の先に広がった様子に、直ぐにここがどこなのか理解して、そして夏美は起き上がった。
携帯電話の画面にはいつの間にか登録してあった“幸恵”の名前が浮かび上がり、夏美は小さく息をつきながら通話ボタンに指を置いた。
「・・・もしもし・・・・」
『あら、寝てたの?』
夏美の重い声など気にする様子もなく、幸恵はどこか浮かれた気配で話しかけてくる。
『・・ご主人様がお呼びよ。10分後に下に降りてきて。準備があるでしょうけど遅れないでね』
「・・・はい、わかりました」
幸恵はこれから町にでも行くのだろうかと、そんな事を考えながら夏美は支度へと手を進める。
随分寝たと思っていた時間も、時計を見れば1時間程度のものだった。
それでもどこかで身体は、スッキリしたものを感じている。
確か今日の予定は、大学の下見を兼ねた案内であった。
東京から呼んだ“堂島学園”の幹部と、新大学の構想の中心になる先生方なのか、それとも別の誰かなのか。
まだ見ぬ人の前で粗相は出来ぬと、夏美は軽い緊張を覚えていた。
1階の小さなロビーには、人影が出来ていた。
夏美がその輪に近ずくと一斉に、その視線が向かってきた。
頭を下げる夏美の様子に、堂島の厚い表情(かお)が嬉しそうに歪んだ。
「儂の大学で今年の2月から働いてもらっておる山中夏美さんじゃ。助手じゃが既に講座を二つ任せておってな、なかなか出来の良い人じゃよ」
夏美がもう一度、緊張した面持ちで頭を下げる。
「や、山中夏美と申します」
小さな声に、男達それぞれが挨拶を投げかけた。
目的の大学へはそこから歩いて出掛けた。
一番後ろから男達の背中を数えれば、人数は堂島を入れて5人。
年の頃は40半ばからだろうか、気難しそうな学者の雰囲気を持った男はこの大学で中心になる教授だろうか。
頭を七三に分けた如何にも固そうな男は、経理担当の者だろうか。
また、顎髭を蓄えた眼光鋭い男はいかにも重役といった雰囲気だ。
そして先頭を誘導するように進む男は、おそらく目的の大学の人間だろう。
と、夏美はそんな事を考えながら歩いている。
それからしばらく歩き、一向は目的地へ到着した。
大学の下見は、それ程大した労力を必要とするものでは無かった。
夏美は一応、自分の考えでメモを執ったり、持参したデジカメで写真を撮ったりしてはいたが。
夕暮れが迫った頃には、一向は大学の男を残し保養所へと戻って行った。
1階のホールには丁度出先から帰って来た幸恵の姿があり、その横には大きな土産袋を抱える沖田がいる。
結局今夜、この宿に泊まるのは夏美達4人と管理人の男。
それに顎髭の男に七三の髪型の男、そして教授らしき男の合計8人であった。
この夜‥‥。
夏美は部屋の浴室でこの日の汗を流し終えた。
幸恵に大浴場に誘われたらどうしようかと心配していたが、その心配は杞憂に終わってくれた。
幸恵の部屋は堂島と同じ部屋なのだろうかと、そんな疑問も湧いていた。
もしそうだとすれば、今夜此処に泊まる者達は二人の関係に気付くのかと考えて、いや、おそらく二人の事は周知の事実だろうと、直ぐにその結論にたどり着いた。
夕食は1階の食堂であった。
幸恵が言った通り、町から来たコックが腕を奮った料理を作ってくれていた。
夕食の雰囲気も夏美には重いものだった。
管理人の男も含め皆、口数は少ない。
堂島も静かに箸を口に運ぶだけで、時折り隣の幸恵と言葉を交わすだけだった。
食事を終えた後は、夏美は逃げるように部屋へと戻って行く。
この地方のこの時期の夜は、やはり寒さが残っており、夏美は毛布をしっかり肩まで掛けて布団に潜り込んでいる。
時刻を見ればまだまだ床(とこ)に着く時間ではないのだが、早く夜が終わる事を願いながら目を閉じた。
しかし、瞼の裏から昼間の車中の幸恵の“行為”が浮かび上がってくる。
後ろの席を振り向く事は無かったが、淫靡な響きは伝わってきて、堂島の肉の凶器を頬張る幸恵の顔を嫌でも想像してしまっていた。
連休に入る数日前、屋敷の2階の踊り場で堂島に一突きで逝かされてからは、牡のシンボルの挿入は一度も受けていない。
肉の悦(よろこ)びを覚えさせられ、受け入れるようになってから、こんなに時間が空く事は無い。
年増女の身体の疼きを鎮めるものは何処にあるのか・・・・・。
そんな悍(おぞ)ましい事は考えようとはしまいが・・・・。
車中で言い放った堂島の言葉が蘇ってくる。
『‥シャブりたいのなら沖田の物をしゃぶれ』
『・・・沖田の物は儂のよりデカいぞ』
夏美は目尻に力を入れ、固く瞑っていた・・・・・・。
深夜‥‥。
微かな音に夏美は目を覚ました。天井を向いたまま、静かに耳を澄ましてみた。
部屋の小さな灯りを見ながら、耳にはコチコチ鳴る秒針の音が聞こえてくる。
もう一度意識して目を閉じ耳を澄ませば、時計の音に交ざって確かに人のくぐもった声が聞こえてくる。
枕元に置いた携帯電話を広げてみた。
眩い白い光が広がると、画面の中から数字が浮かび上がる。
時刻は夜中の1時。
いつ眠りに着いたのだろう?‥と考えて、夏美は目が冴えていく自分を意識した。
その声は不規則に途切れながら、また、別の声と重なりあいながら間違いなく聞こえてくる。
恐らく堂島達の話し声だろうと決め付けて、夏美は布団を被りながら目を閉じようとする・・・。
その時。
『んあっ---』と、女の悲鳴のような声が聞き取れた。
そして今度は、含み笑う野太い声が聞こえてきた。
夏美は小さく息を呑んで、身構えた。
緊張を覚えながら、身体は自然にベットから起き上がっている。
頭の中に“まさか”の想いを浮かべ、気付けば夏美はドアの前で立ちすくんでいた。
冷静になった思考の中で、あの声は“あの時”の声だろうと、その考えにたどり着いていて。
夏美は幸恵が堂島と戯れる姿を思い浮かべてしまう。
声は益々頭の中で鮮明に響き渡り、夏美はドアノブを握ったまま動けない。
体感は冷たいはずだが、寒さはあまり感じない。
心臓の音が耳元から聞こえてくる感覚は、確かあの時と似ていた。
神社の境内・・・初めて人様の性行為を覗いてしまったあの時の事だった。
夏美の手はゆっくりドアノブを回していた。
廊下は薄暗く、所々の灯りも物悲しそうなものである。
夏美は微かな声を頼りに、いや、それに呼び寄せられるように歩き進んで行く。
夏美の行動は問われても説明のつくものではなかったが、強いていえば好奇心に導かれた言うところだろうか。
その声の出何処は直ぐに検討がついた。
ドアの隙間から灯りの洩れる部屋を見つけ、夏美は静かに近づいた。
女の呻き声に重なって男の煽(あお)りの声も聞こえてくる。
扉の向こうでは、今まさに、幸恵が“あの”最中なのか‥と、その時。
不意に暗がりから現れた人影に、夏美は飛び上がりそうに驚いた。
あまりの驚きに喉は萎縮し、声は音にならなかった。
目の前には、ゴリラの様な男が、その太い人差し指を唇に当てていた。
夏美の身体はまさに金縛りにあった様に、身動き一つ出来ない。
眼球だけが震えながら、しかし耳には幸恵の淫靡な呻き声が聞こえてくる。
夏美は何とか唾を飲み干そうとするが、沖田の顔を震えながら見つめるだけだった。
その時、その部屋のドアが開き、中から新たな人影が現れた。
廊下に光が広がり、現れたのはガウンを纏った幸恵。
夏美が呆然と見つめる視線の先。
幸恵の後ろからは、女のあられもない声が一際大きく聞こえてきた‥‥。
それは・・・・・・・。