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第35話
ベットリ首回りに付いた寝汗を手の甲で拭いながら、夏美は起き上がった。
そしてそのままの姿勢で、壁に掛けられたカレンダーの日付けをしばらくぼんやり見つめてみた。
今日の日付が黒丸で囲まれている。夏美が自ら付けた印、夫の高志がやって来る日だった。
頭の中に、夕べのメールにあった到着の時刻が浮かび上がってくる。
今日の午前中は堂島の屋敷で、仕事の予定だった。
この日の朝食はなかなかノドを通らない。
普段から朝は軽い物で済ますのが通例であったが。
片付けを終え、新聞を読み、テレビを点ける。
そろそろ身支度をと思い、ふと、ボードの奥の小さな箱が目に付いた。
口の中に苦味が広がる感覚を思い出すと、堂島の顔が浮かび上がってきた。
夏美はそばにあった100円ライターを引き出しに仕舞い、タバコの箱を持ってキッチンへ向かう。
冷蔵庫の横の半透明の袋に押し込んで、ギュッと締め直し、そして寝室に戻った。
洋服ダンスを開け、いつからだろうかと考えた。
『儂に呼ばれた日は、必ずスカートを穿いて来るのじゃ』と、もう一度堂島の顔が浮かびながらも、手は紺色のジーンズを掴んでいた。
続けて引き出しを開けて、右端に目をやった。
清楚な下着の奥には際どい物が、そして更にその奥には淫靡な性具が隠し置かれている。
それからしばらくして屋敷の前には、ボロシャツにジーンズ姿の夏美がいた。
この日も門扉を開けたのは幸恵で、夏美の格好に“オヤッと”表情を崩したが。
この日の仕事は手に着かなかった。
堂島がいない事をいい事に、夏美は何度も時計に目をやりながらため息を吐いていた。
夫は今頃どこら辺りを走っているのだろうか。
久し振りの再会で自分は、平静を保てるのだろうかと不安が過ぎってくる。
自分は変わってしまった。変えられてしまった。
髪型や体系こそ変わらないだろうが、内面の変化は滲み出るものなのだろうか。
堂島は『抱かれなさい』と言ってたが、夫の方から求めてくるハズだ。
自分は夫を受け入れ、応えなければいけない。
その時・・・・・自分は一体何を感じるのだろうか?
夏美はマウスに手を置いたまま、パソコンの変わらぬ画面を見つめている。
ガチャっと音がして、部屋の扉が開かれた。
「・・・夏美先生、仕事ははかどっておるかな」
堂島が夏美のジーンズ姿を興味深く見てニコリと微笑んだ。
「ふふ、ジーンズか・・・・貴女らしいな。その姿も、よう似あっておるわ」
静かな語りと冷たい視線は、この日もいつも通りだった。
「んん?どうした、旦那の事を考えておったのか?今夜は2人で、愛情を確認しあうのかな」
「・・・・・」
「でも、どうじゃろうな・・・・・」
「・・・・・・・・」
「貴女は既に儂の“コレ”から離れられなくなっておるしな・・」
「“ツッ”・・・・」
「貴女の性格では、夫を裏切った自分自身を許せるのかな?」
堂島の勝ち誇ったような滲み出るオーラも、いつものものだった。
冷炎な光で、堂島は静かに見つめている。
「まあ、夏美先生、この間も言ったが今夜はしっかり抱かれてみるんじゃな」
「・・・・・・」
「その時・・・・何を感じるか・・・」
夏美は更に俯いた。
「・・・己の本心に問いかけてみるのじゃ・・・」
「・・・・・・」
「・・・そして明日ここに来る時・・・」
「・・・・・・」
「・・・儂に・・××××××なら・・・」
「・・・・・・」
「白いスカートじゃ」
「・・・・・・」
「分かったかな?」
その冷たい問いかけに、夏美は・・・・・コクリと頷いた。
それからしばらくして夏美は屋敷を後にした。
夏美が部屋を出ると直ぐに、幸恵が現れた。
「ご主人様」
「幸恵か、どうしたのじゃその顔は?夏美が儂の物になるか心配しておるのか」
「んもぅ、ご主人様、違いますわ」
「・・・・・」
「ライバルが増えるのを心配しているんですわ」
「んん、・・そうか、そう言う事か」
そう言って堂島が笑った。
夏美は溢れ出る汗を拭いながら、校舎の方へと歩いていた。
吹き出る汗には冷たいものも混じり、猛暑の中でも時折り武者震いが続く。
目の前に緑が広がり、夏美は息を呑んだ。 間違いなく夫の姿を見つけながらも、その横には新一と弥生がいるではないか。
夏美は静かに高志に近づいた。
久し振りにみる夫の顔にも、懐かしさよりも緊張が湧き上がってくる。
新一が良からぬ事を口にしていないかと、恐々と足を忍ばせた。
そして・・・。
「あなた・・」
その声に皆なが振り向いた。
「夏美先生のご主人だったんだ・・・」
弥生の声の横で、一瞬唖然とした新一だが、「夏美先生、こんにちは」と、直ぐに落ち着いた声が聞こえてきた。
夏美の頬には玉の様な汗が流れ落ちている。
半年ぶりの夫との再会には、余裕など無かった。
そして緊張しながら、2人で部屋まで歩いた。
途中で高志が新一や弥生の事を聞いてきたが、返したのは生返事だった気がする。
部屋に入ると少しだけ、本の少しだけ落ち着きが戻ってくる。
高志がシャワーを浴びに行く後姿に、いつかの夫婦の日常が蘇ってきた。
交代で浴室に入り、大きな姿見に身体を映し見た。
(・・・・・・・・・・)
浴室を出ると高志の手が肩に触れてきた・・・・が、身体が小さな抵抗を示した。
そして夜がやって来た・・・・。
予定していた食事は、愛情込めて作った・・・・つもりだった。
高志が嬉しそうに食べる様子を、どこか懐かしそうに見守った。
食事の後片付けが終わると、改まって2人の時間がやって来る。
薄明かりの寝室こそ夫婦のものだった・・・・と、夏美は思い出していた。
久し振りのキスに涙が零れそうになる。
身に纏っていた物を全て脱ぎ終えると、熱いものが湧き上がってきた。
(・・あなた・・・)
夫の舌が “女”に触れると、緊張が高まっていき。
そして“夫”を受け入れた。
(!?・・・・)
しかし・・・・。
夏美の中に広がったものは・・・・空虚・・・・。
哀しさだった・・・・・。
微かに感じる性感は、虚しいものだった・・・。
高志の重みが増すたびに、腰が激しくぶつかるたびに、夏美の思考は更に深い悲しみに沈んでいく。
やがて夏美の肢体は独りでに蠢き始め、覆い被さる夫に叱咤の動きを求めていた。
無意識に爪がたち、唇は首筋に嘆きの跡を付けていた。
再奥の疼きを静める為に膣穴は収縮を繰り返したが、それは夫の高鳴りを速めるだけだった。
高志の射精を感じると同時に、夏美は哀しみの深さを意識した。
高志の姿が部屋から消えた瞬間、一滴の涙が頬を伝い。それを小指でぬぐい去った。
夏美はゆっくり身体を起こし、両手で己を抱きしめた。
(・・ああ・・なんで・・・)
夏美は目を閉じ、浅く息を吐き出した。
暗がりの一点を見つめるように、高志の姿を待っていた。
言葉は口に付くのか・・・。
付くとすればどのような言葉が。
しばらくして、高志が戻ってきた・・・・・・・。
「・・あなた・・・ごめんなさい・・わたし・・」
暑い暑い夜だった・・・・・・。
そしてそのままの姿勢で、壁に掛けられたカレンダーの日付けをしばらくぼんやり見つめてみた。
今日の日付が黒丸で囲まれている。夏美が自ら付けた印、夫の高志がやって来る日だった。
頭の中に、夕べのメールにあった到着の時刻が浮かび上がってくる。
今日の午前中は堂島の屋敷で、仕事の予定だった。
この日の朝食はなかなかノドを通らない。
普段から朝は軽い物で済ますのが通例であったが。
片付けを終え、新聞を読み、テレビを点ける。
そろそろ身支度をと思い、ふと、ボードの奥の小さな箱が目に付いた。
口の中に苦味が広がる感覚を思い出すと、堂島の顔が浮かび上がってきた。
夏美はそばにあった100円ライターを引き出しに仕舞い、タバコの箱を持ってキッチンへ向かう。
冷蔵庫の横の半透明の袋に押し込んで、ギュッと締め直し、そして寝室に戻った。
洋服ダンスを開け、いつからだろうかと考えた。
『儂に呼ばれた日は、必ずスカートを穿いて来るのじゃ』と、もう一度堂島の顔が浮かびながらも、手は紺色のジーンズを掴んでいた。
続けて引き出しを開けて、右端に目をやった。
清楚な下着の奥には際どい物が、そして更にその奥には淫靡な性具が隠し置かれている。
それからしばらくして屋敷の前には、ボロシャツにジーンズ姿の夏美がいた。
この日も門扉を開けたのは幸恵で、夏美の格好に“オヤッと”表情を崩したが。
この日の仕事は手に着かなかった。
堂島がいない事をいい事に、夏美は何度も時計に目をやりながらため息を吐いていた。
夫は今頃どこら辺りを走っているのだろうか。
久し振りの再会で自分は、平静を保てるのだろうかと不安が過ぎってくる。
自分は変わってしまった。変えられてしまった。
髪型や体系こそ変わらないだろうが、内面の変化は滲み出るものなのだろうか。
堂島は『抱かれなさい』と言ってたが、夫の方から求めてくるハズだ。
自分は夫を受け入れ、応えなければいけない。
その時・・・・・自分は一体何を感じるのだろうか?
夏美はマウスに手を置いたまま、パソコンの変わらぬ画面を見つめている。
ガチャっと音がして、部屋の扉が開かれた。
「・・・夏美先生、仕事ははかどっておるかな」
堂島が夏美のジーンズ姿を興味深く見てニコリと微笑んだ。
「ふふ、ジーンズか・・・・貴女らしいな。その姿も、よう似あっておるわ」
静かな語りと冷たい視線は、この日もいつも通りだった。
「んん?どうした、旦那の事を考えておったのか?今夜は2人で、愛情を確認しあうのかな」
「・・・・・」
「でも、どうじゃろうな・・・・・」
「・・・・・・・・」
「貴女は既に儂の“コレ”から離れられなくなっておるしな・・」
「“ツッ”・・・・」
「貴女の性格では、夫を裏切った自分自身を許せるのかな?」
堂島の勝ち誇ったような滲み出るオーラも、いつものものだった。
冷炎な光で、堂島は静かに見つめている。
「まあ、夏美先生、この間も言ったが今夜はしっかり抱かれてみるんじゃな」
「・・・・・・」
「その時・・・・何を感じるか・・・」
夏美は更に俯いた。
「・・・己の本心に問いかけてみるのじゃ・・・」
「・・・・・・」
「・・・そして明日ここに来る時・・・」
「・・・・・・」
「・・・儂に・・××××××なら・・・」
「・・・・・・」
「白いスカートじゃ」
「・・・・・・」
「分かったかな?」
その冷たい問いかけに、夏美は・・・・・コクリと頷いた。
それからしばらくして夏美は屋敷を後にした。
夏美が部屋を出ると直ぐに、幸恵が現れた。
「ご主人様」
「幸恵か、どうしたのじゃその顔は?夏美が儂の物になるか心配しておるのか」
「んもぅ、ご主人様、違いますわ」
「・・・・・」
「ライバルが増えるのを心配しているんですわ」
「んん、・・そうか、そう言う事か」
そう言って堂島が笑った。
夏美は溢れ出る汗を拭いながら、校舎の方へと歩いていた。
吹き出る汗には冷たいものも混じり、猛暑の中でも時折り武者震いが続く。
目の前に緑が広がり、夏美は息を呑んだ。 間違いなく夫の姿を見つけながらも、その横には新一と弥生がいるではないか。
夏美は静かに高志に近づいた。
久し振りにみる夫の顔にも、懐かしさよりも緊張が湧き上がってくる。
新一が良からぬ事を口にしていないかと、恐々と足を忍ばせた。
そして・・・。
「あなた・・」
その声に皆なが振り向いた。
「夏美先生のご主人だったんだ・・・」
弥生の声の横で、一瞬唖然とした新一だが、「夏美先生、こんにちは」と、直ぐに落ち着いた声が聞こえてきた。
夏美の頬には玉の様な汗が流れ落ちている。
半年ぶりの夫との再会には、余裕など無かった。
そして緊張しながら、2人で部屋まで歩いた。
途中で高志が新一や弥生の事を聞いてきたが、返したのは生返事だった気がする。
部屋に入ると少しだけ、本の少しだけ落ち着きが戻ってくる。
高志がシャワーを浴びに行く後姿に、いつかの夫婦の日常が蘇ってきた。
交代で浴室に入り、大きな姿見に身体を映し見た。
(・・・・・・・・・・)
浴室を出ると高志の手が肩に触れてきた・・・・が、身体が小さな抵抗を示した。
そして夜がやって来た・・・・。
予定していた食事は、愛情込めて作った・・・・つもりだった。
高志が嬉しそうに食べる様子を、どこか懐かしそうに見守った。
食事の後片付けが終わると、改まって2人の時間がやって来る。
薄明かりの寝室こそ夫婦のものだった・・・・と、夏美は思い出していた。
久し振りのキスに涙が零れそうになる。
身に纏っていた物を全て脱ぎ終えると、熱いものが湧き上がってきた。
(・・あなた・・・)
夫の舌が “女”に触れると、緊張が高まっていき。
そして“夫”を受け入れた。
(!?・・・・)
しかし・・・・。
夏美の中に広がったものは・・・・空虚・・・・。
哀しさだった・・・・・。
微かに感じる性感は、虚しいものだった・・・。
高志の重みが増すたびに、腰が激しくぶつかるたびに、夏美の思考は更に深い悲しみに沈んでいく。
やがて夏美の肢体は独りでに蠢き始め、覆い被さる夫に叱咤の動きを求めていた。
無意識に爪がたち、唇は首筋に嘆きの跡を付けていた。
再奥の疼きを静める為に膣穴は収縮を繰り返したが、それは夫の高鳴りを速めるだけだった。
高志の射精を感じると同時に、夏美は哀しみの深さを意識した。
高志の姿が部屋から消えた瞬間、一滴の涙が頬を伝い。それを小指でぬぐい去った。
夏美はゆっくり身体を起こし、両手で己を抱きしめた。
(・・ああ・・なんで・・・)
夏美は目を閉じ、浅く息を吐き出した。
暗がりの一点を見つめるように、高志の姿を待っていた。
言葉は口に付くのか・・・。
付くとすればどのような言葉が。
しばらくして、高志が戻ってきた・・・・・・・。
「・・あなた・・・ごめんなさい・・わたし・・」
暑い暑い夜だった・・・・・・。