小説本文



堂島の太い指があの夜と同じように肩に食い込んだが、夏美の意識はそれを跳ね除ける事が出来なかった。
 見えない糸に縛られた様に、夏美はただ身体が震えるのを意識した。
 堂島の顔が近付いて来たのを顎を引いて、首を竦(すく)めるのが精一杯の抵抗だった。
 それでも鼻の奥に付いた口臭はあの夜と似通っていて、アルコールの匂いこそ無いが、覚えのあるタバコの匂いが容赦なく襲ってきて。
 夏美は思わず息を止めた。


 堂島は夏美の背中に回り、その太い腕でゆっくり身体を抱きしめる。
 「怖がる事は無い。全てを儂に委(ゆだ)ねるのじゃ」


 夏美はギリギリ歯を噛み締めて。
 「り 理事長 ・・・ も もう 今日限りにして下さい。わ わたし・・・誰にも言いませんから・・・・どうか・・・ビデオも・・・」
 夏美の言葉に“んんっ”と鼻を鳴らし、堂島の指は蛇の様にするりと肩に回りジャンパーを剥ぎ取ろうとする。


 夏美の固く閉じた瞼は小さく痙攣(ふるえ)を起こしていて、タバコ臭い息が近付いた後は、うなじにナメクジのようなヌルリとした感触があった。
 堂島の分厚い唇が、髪を掻き分けていたのだ。
 そして、足元にジャンパーが脱ぎ落とされた。


 堂島の片手が上着の裾から内側に滑り込んだ時には、さすがに身体は逃れようとしたが、その動きが制限されたのも堂島の万力のような腕の強さだった。
 上着が胸の上まで持ち上げられると、堂島の片方の手の指はジーンズのファスナーに掛けられた。


 「い イヤッ!」
 夏美は瞼を震わせながら、首を振る。


 「ふふ・・いいのか、そんな抵抗をして? 沖田が貴女の恥ずかしい姿を万人に見せたがっておるぞ」
 夏美の瞳が、飛び出すように開かれた。


 「クッ ひ 卑怯です・・・」
 そう言って、夏美は肩越しに堂島を睨みつける。


 「そうなのじゃ、儂は卑怯者でよい。貴女は夫想いで正義感の強い女だ、それも判っておる。そして貴女が身体を開くのは、ビデオが世間に出回り、それが原因で家族に影響が及ぶのを身を持って止める為だ」
 「・・・・・・」
 夏美は口を噛み締め、目を閉じ俯いた。


 「さあ、力を抜け。貴女は自己犠牲の精神のある立派な女じゃ」


 夏美の中に夫の高志の顔が浮かんでいた。
 堂島の腕が身体から離れたが、夏美には逃げ出す素振りは見えなかった。


 「くく・・さあ、力を抜きなさい」
 そう言って、堂島は夏美の洋服を脱がし始めた。


 ブラジャーが外され、白いショーツが足首から抜き取られた時には、羞恥の炎が駆け上がった。


 (・・・がまんよ・・・・)


 夏美が一糸も身に纏わない裸身になったのを確認して、堂島はドカリとベットに腰を降ろし、そして着物の帯に手を掛ける。
 夏美は片手で胸の2つの膨らみを抑え、もう片方の手を股間の翳りの部分に置いた。


 「ふふ・・・その両方の手は離せんか? んん?・・・・まあ良い」
 そう言って、堂島は立ち上がり夏美に近づくと、その裸体を徐(おもむろ)に抱え上げた・・・と同時に身体はベットの上に放り出された。


 夏美は声を上げ、もう一度堂島を睨み上げて。
 「り 理事長、は 早く・・・どうせなら早く・・終わらせてください」


 「ふふ・・・貴女は本当に遊び心が無いな・・・」
 細い目尻がニヤリと緩み、堂島は素っ裸になると夏美に覆い被さった。
 夏美はとっさに己の身体を抱きしめたが、手首を握られるとその腕はあっさり外され、小ぶりな乳房が顔を現した。


 「ふふ・・まるで生娘のような反応じゃな、処女でもあるまいに」
 夏美の震える様子を上から見下ろして、堂島が嬉しげに呟いた。


 “イヤッ”と、夏美が声を上げたのは、堂島の太指が翳りの部分に触れたからだった。
 その指が肉厚を割りながら進むと、夏美の太腿(ふともも)の肉付きを震わせた。


 「よいか、“楽しむ事”・・・・それが人が持って生まれた本性じゃ。さあ、身を委(ゆだ)ねろ」


 夏美のクチビルに濃厚で淫猥なクチビルが重ねられ、堂島の舌が口中に侵入し、夏美はその感触にショックした。
 それは夫とも交わした事のない、ディープなものだったからだ。
 堂島の舌はすぐに抜かれたが、夏美は流し込まれたタバコ臭い唾液を飲み下していた。
 「さあ、詫びるがよい、夫に。・・・・その背徳感が更なる悦(よろこ)びに導いてくれるぞ」




 堂島との2度目の情交が始まった。
 薄暗い寒々とした部屋の中、淡い灯りの下、壁の鏡の中には蠢(うごめ)く2つの裸身がある。


 今夜の堂島の責めは小ぶりな胸乳からだった。
 堂島は垂れ崩れる事のない乳房を噛み締めては吸い付き、手に余るとは言えない肉房を時折り握り潰すように揉み下す。
 尖り立った乳首を交互に吸い付かれ、熟れた乳房は堂島の唾液(だえき)で早くも滑(ぬめ)っていた。
 ふと開いた夏美の目尻は震えていて、その瞳には交互に舐めしゃぶられた双乳が、噴き出た汗と堂島の唾にまみれてヌルヌルと輝いて映った。
 夏美は再びギュッと目を閉じた。


 ネットリ唾液に塗(まみ)れた堂島の舌は、筆の毛先の様にサワサワとヘソの辺りに降りて向かった。
 大きな掌が夏美の肩を摩(さす)りながら、濡れ尖った乳首に達した時には、堂島の舌は股間の翳りを割り開いていた。
 黒い翳りをしばらく頬ずりして、堂島の両手が膝と膝の間に滑り込まれると、夏美は嘆きの息を付いた。
 そしてなすがままに、両肢は開かれた。


 「い イヤっ 恥ずかしぃ」


 夫との交わりはいつも暗い灯りの下だった・・・と、記憶していた。
 それでもこの薄暗い部屋の灯りは、夏美には充分な明るさだと意識した。
 夏美は己の女性器の恥ずかしい構造を、目の前の男にしっかり晒している姿を自覚した。


 「・・・あぁ、するなら早く・・・」
 羞恥の間合いに耐え切れなくなったのか、足を拡げたままの夏美の口にはそんな言葉が付いた。
 

 「ふふ、あせるでない。良い料理は、まず目で味わうものじゃ」
 堂島の顔が更に股間に近づいた。


 ソノ部分の凝視がしばらく続き、夏美の片方の足から太い指が離れると、すぐに女の部分にクチュンと指の侵入を感じ受けた。
 “あうっ”と、無意識に声が上がった。


 「くく、この部分は正直じゃな。まだ大した事をしておらんのにタップリ濡れておるぞ」
 「ああ・・う 嘘です・・・」


 「ああ、そうじゃ、儂の勘違いじゃ。夏美先生は憎き男にアソコを見られて、濡れるような恥ずかしい女ではない」
 「・・・・・・・・・・」


 「だが、これならどうかな」
 羞恥の意識は堂島の声を遠くに追いやろうとするが、夏美のソコは確実に更なる侵入を感じ受ける。
 堂島の太指が奥深く挿入された。
 と、同時に夏美は、確かな濁音を感じ取った。


 堂島の太指は最奥まで届くとその動きを一旦止め、その指腹が女壁を撫で回し始める。
 そしてその濁音は、指の動きが増す事に大きくなっていった・・・・。