小説本文



真新しい雰囲気はないが、それでもくたびれた感じでもない。
 そんな職員寮のエントランスを出て右手の方角へと歩いて行く。
 この時間帯は必ず学生寮に住む生徒や、同じ職員寮に住む同僚とすれ違う事がある。
 同僚の間では夏美が堂島に気に入られ、仕事の手伝いを頻繁にしている事は周知の事実になっていた。
 昇進の切符を早くも手に入れたと羨ましがる仲間もいたが、本当の所を真剣に相談できる同僚はまだいない。


 新緑の香りの残る道を歩き進むと、左手の高台に神社の姿が見えてくる。
 桜の花びらは一瞬に散り終わり、夏美は結局満開の様子を堪能する事は一度も無かった。
 季節の移り変わりを敏感に感じ取ってきたこれまでだったが、あの夜以来時間が止まっているようだった。


 しばらく歩くと、高い壁に囲まれた大きな建物が見えてくる。
 薄い水色のスカートの中で、歩幅が小さくなっている。
 それでも屋敷に吸い寄せられるように、足は止まる事は無い。


 初めてこの屋敷を訪れた時は、ブザーを鳴らす瞬間も緊張した。
 しかし、今はどこか惰性の感じで、その小さなボタンに指をあてた。
 ブザーが鳴って、今日もこの門を開けるのは幸恵だろうと思いながら、スカートの上から腿の辺りに着いた小さな葉っぱを払い落とす。
 薄い生地の上から触った素肌は滑らかで、部屋を出る前にはシャワーを浴び、そして真新しい下着を身に着けていた。
 幸恵がこの屋敷を訪れる時にはと、指示されたランジェリー。
 その存在は知ってはいたが、一度として身に着けた事が無かった卑猥な衣装。


 扉の向こうに人の気配がしたかと思うと、直ぐに“カチャリ”と音がして門が開かれた。
 建物の玄関を入ると大きなホールが有り、いつもそこを右側へと進むのだが。
 この日はホールを真っ直ぐに抜けていった。
 幸恵が微笑みながら、夏美をまだ見ぬ場所へと連れていく。


 夏美の目の前に大きな空間が広がった。
 屋敷の中にはパーティー会場の様な大広間があると聞かされていたが、目にするのは初めての事だった。
 上を見上げると、どこかの劇場を思わせるシャンデリアが吊り下がっている。
 目を前に向けると赤い絨毯の敷かれた階段が、2階の踊り場へと続いていた。


 「さあ、夏美さん、あの上よ」
 幸恵の声に導かれ、夏美は階段を上り始めた。


 踊り場は大きなバルコニーと繋がっていて、今は閉じられているが大きな一枚ガラスの向こうに神社の木々を見る事が出来た。
 バルコニーに近づいてガラス越しに目を上に向ければ、神社の境内が目に写る。
 太陽は沈みかけてるが、間違いなく陽は伸びている。
 夕暮れが近付いているのだが、このガラスにも薄い膜が掛かっているようだった。


 ふと振り返ると、いつの間にかこの屋敷の“主(あるじ)”、堂島が立っていた。
 もう見慣れてしまった着物姿も、色合いは早くも夏を意識した物だった。
 「幸恵、ご苦労だったな」


 堂島の一声に畏まって、幸恵が軽く頭を下げる。
 そして夏美に小さな笑みを投げかけ、その場を後にした。


 「ふふ・・夏美先生、今日は何故ここに来たか分かるかな?」
 「・・・・・・・・・」


 堂島の謎かけにも、それに乗る事は無く、夏美は直ぐに首を振っていた。
 堂島も夏美の素振りを気にせず、窓ガラスに近づいた。


 「まだこの時間帯だったら見えるじゃろ」
 堂島がひとり言のように呟いた。


 「この神社は、実は由緒正しい神社でな・・」
 そう言って、堂島が右手で神社を指さした。
 夏美は自然とその指先に目を向ける。
 

 堂島の指先がゆっくり右へと移動した。
 導かれた視線の先、境内の外れに人の姿が目に付いた。
 夏美の記憶の奥から、いつかの若い男女の姿が蘇ってきた。


 「歴史のある神社でも、今の若者にとってはどうでもいいようじゃ。・・・・彼らにとっては絶好の“穴場”・・ただ、それだけの場所のようだな」
 堂島の言葉に、夏美の口元が静かに震えている。


 「ただし、穴場と言っても、ここからはしっかり“覗ける”のだがな・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「夏美さん、このガラスには薄いシートが貼られておってな。ご覧の通りこちらからは見えるのだが、向こう側からは真っ暗じゃ。よく車の窓にも貼られておるだろう」
 そう言って、堂島が軽く握った拳(こぶし)でトントントンと叩いてみせた。


 「いつからかあの場所が彼らの“営み”の場所になっていてな。ある時、沖田がそれを見つけたんじゃよ」


 夏美の視線の先には、重なり合う2つの人影があった。
 “あの時”のように男が立ったまま尻を露わにして、女の腰を打ちつけている。
 そこから数歩離れた所には、“あの日”の自分の姿があるような気になっている。


 「夏美先生、ほれ、これならもっとハッキリ見る事が出来るぞ」
 いつの間にか堂島の手には双眼鏡が握られていて、夏美の顔の前へと差し出された。


 「ほら、覗いてみなさい」
 堂島の誘いにも、夏美は黙ったまま小さく首を振る。


 「ほれ、遠慮いらんぞ・・・んん?」
 「・・・・・・・・・・・」
 「ふふ・・彼らは“あの日”貴女が見た若者じゃよ」
 「・・・・・・・・・・・」


 おそらくそうなのだろうと、夏美は思っていた。
 どことなく後姿の印象が、記憶と一致していたのだ。


 「それとな・・・あの2人は貴女も良く知っている子たちじゃよ」
 “ツッ”と、息を呑み、もう一度視線を向け直した。


 「ほれ、これで確かめてみなさい」
 (・・・まさか・・・)
 夏美の手が、自然と堂島の手の中の双眼鏡に触れていた。


 夏美は慎重にそれを覗き込んだ。
 ピントは既に合っていて、“その若者”の横顔が鮮明に写し出された。


 「ふふ、儂もまさか“あの学生”だとは気付かんかったよ・・研究室に来たのが“この子”だとはな・・・。確か、○○学部2年の太田新一じゃったな」
 堂島の口調にも、夏美は目の前の新一の姿に釘づけになっている。
 新一の背中に隠れていて、今一つその姿はハッキリと見えないが、両手を大木(たいぼく)に当てているのは夏川弥生なのだ。
 日は暮れかかっているが、人が見れば間違いなく“見られてしまう”その状況で、弥生は下半身を露わにしているのだ・・・と思うと、夏美の中に異様な高鳴りが沸いてくる。


 「・・・あの娘は夏川弥生・・・○○学部の2年生で、太田新一と一緒に貴女の講座を履修している娘(こ)じゃな・・・」
 堂島の呟きに、夏美は双眼鏡を覗きながら無意識に頷いた。


 「困ったもんじゃな、うちの学生には・・・・と言いたいところだが。あれも又、人間らしい一面じゃ。まあ、警察には厄介にならん程度に楽しんでくれればそれで良い」
 双眼鏡を外し、夏美は項垂れた。
 

 「ふふ・・どうしたのじゃ夏美先生。もう良いのか、覗きは?」
 「・・・・・・そ、そんな・・・覗きだなんて・・・・・」
 それだけ小さく言って、夏美は黙り込んだ。


 「ククク・・・」
 と、含み笑いと同時に、堂島の指が夏美の股間に触れてきた。
 スカートの上からだったが、夏美の“ソコ”に電流が流れ込んだ。


 瞼(まぶた)は閉じられ、顎は微かに上を向き、そして堂島の指の当たる先は間違いなく湿っていて。
 堂島の指がスルリと動き、スカートを舐めまわすように捲り上げていく。


 「今日もちゃんと履いてきたのか?」
 「・・・・・・・・・」


 「さあ、あの娘と同じ格好でしてやろうか・・・・んん?」
 夏美の瞳の奥で哀しい雫(しずく)が零れ落ちた。


 手慣れた指さばきで、堂島はスカートを剥ぎ取っていく。
 膝上までの黒いストッキングと、黒いTバックショーツの下半身が露(あら)われた。


 夏美の心細い横顔に、堂島の太い声が降り掛かる。
 「心配するな。さっきも言ったが外からは見えやせん」
 「・・・・・・・・・」
 「それとも、貴女も“見られた”方が興奮するのかな?」
 堂島の甚振りの言葉に、失調の感覚が強まってくる。


 「さあ、両手をガラスに着けて尻(ケツ)を突き出してみせろ」
 と言って、堂島の平手が露(あら)わな臀部を一打ちした。
 “ヒッ”と、夏美が喉を鳴らす。
 そして、オズオズとガラスに手をやった。


 背筋が弛(たゆ)みながら頭が下がると、尻が突き上がってくる。
 視線の先では、相変わらず新一が腰を振り続けている。
 堂島が徐(おもむろ)にショーツを引き下ろした。
 夕暮れが迫ったこの空間の中に、裸に剥かれた熟尻の白さが眩く映し出された・・・。