小説本文



夏美の記憶の片隅で、昼間の神社での若い男女の姿が通り過ぎていた。
 あの場面に出くわした事が悔やまれたが、迫り来た堂島の冷たい視線の前には言い訳の、いや、説明の言葉が思いつく間もなかった。
 それでも自然と頭を振っていたのは、堂島の視線をどこかに追いやろうとしたのか、それとも己を弁護しようとした動きだったのか。


 夏美の肩に堂島の大きな手が掛かり、その太い指がジワッと食い込んだ。
 「丁度良い切っ掛けが出来たわい」
 (?・・・・)


 堂島のもう片方の手が夏美のブラウスの胸元を掴む。
 (なっ!?)
 訳が分からず夏美の身体は硬直したが、堂島の手がブレザーを剥ぎ取る動きを示した瞬間にはそれから逃れようとした。
 「何を!?や 止めてくださいっ」


 険しい叫びとともに身体を逃した夏美だったが、テーブルの脚に自分の足を引っ掛けると、幸恵の前へと突んのめる様に倒れ込んでしまった。
 倒れたまま幸恵を見上げ、すがる様に指し上げた夏美の右手を堂島が上から押さえつける。
 事の成り行きを全く変わらぬ様子で見守る幸恵の前で、堂島は夏美の尻の上に馬乗りになり、逆手にした両腕からブレザーを剥ぎ取った。


 「いっ いやっ!」
 短い悲鳴が上がったが、それは何の効果もなかった。
 堂島は夏美の肩に太指を掛けると一瞬のうちに転がし、仰向けの格好にすると素早く腰の上に跨った。
 ブラウスの胸元に両指が掛かると、夏美は堂島の手首を握って必死になって引き離そうとする。
 しかし、堂島の両腕は夏美の非力な行いなど何の事無く、ブラウスの胸元に力を加え続けた。
 ブラウスがピンと張られ、胸元がクッと盛り上がると一気にボタンが飛び散った。


 「いっ いやぁーー!」
 叫んだ夏美の瞳に、二つの顔が映った。
 無表情のまま見つめる沖田の顔と、能面のような幸恵の顔だ。


 「た 助けて・・・幸恵さん」
 堂島が夏美の肩から、肌蹴たブラウスを背中側に半分ほど強引に引き下げると、夏美の両腕は丁度脇のところで縛られたように拘束されてしまった。


 「お お願いです。止めてください」
 震えた声は、恐怖と胸の膨らみを晒した羞恥が混ざったものだった。
 

 堂島は馬乗りになったまま、己の着物の帯に手を掛けた。
 帯を手際よく回す様子を見ながら、夏美の口元が震えながら歪む。
 「り・・理事長、本当に止めてください」


 夏美の言葉など誰も気にせず、堂島の回し取った帯を幸恵がさりげなく受け取った。
 続けて幸恵は堂島に手を添えると、着物を上半身から落ち着いて脱がし始めた。
 息苦しさを感じながら、夏美は堂島達の手慣れた動作に怒りの感情が沸いてきたが。


 堂島が夏美の腹の上で腰を軽く浮かせた瞬間、幸恵が素早く着物を引き抜いた。
 夏美も両足をバタつかせたが、すぐに堂島の重みが腰のあたりに圧し掛かってくる。
 

 堂島が半身で後ろ向きに夏美の膝を力強く抑えると、腰を浮かせる。
 次の瞬間にはクルリと足を入れ替え、今度は夏美の足先を向く格好で馬乗りになった。
 夏美は、その動作に声を上げる間もなく、今度は堂島の背中を見る事になる。


 目の前にある大きな裸の背中、そして黒いトランクス一丁の堂島の姿を信じられない想いで見た。
 しかし夏美は、堂島の手がスカートに掛かった瞬間には、再び暴れだした。
 「やっ いやっ 止めて! 止めてください」


 足をバタつかせ身体を揺するが、堂島は全く動じる事は無い。
 夏美は助けを求めるべく顔を振るが、視界に映るのは相変わらずな二人の姿だ。


 やがてスカートが剥ぎ取られ、ブラジャーと御揃いの水色のショーツに手が掛かると、ついに夏美の声に涙が混ざった。
 「お お願いです もう 止めてくださ・・」


 しかし、その言葉が言い終わらぬうちに、夏美の股間は風を感じとった。
 見事に“ソコ”は剥き出しにされたのだった。


 「ダッ ダメ・・・お願い・・」
 夏美の瞳に涙が滲(にじ)んだ。


 堂島は背中で夏美の悲痛な叫びを感じている。
 そして、ゆっくりと立ち上がる。
 夏美は両腕をブラウスで拘束されたまま、我が身を守るように身体を丸めようとする。


 パンツ一枚の姿で堂島が立ち上がると、幸恵がテーブルの後ろのカーテンに手を掛けた。
 シュッとカーテンが引かれる音に、夏美の顔は反射的に音の方へと向く。
 目に映ったのは、大きなベットだった。
 ベットの横には、ビデオカメラが置かれていて、夏美の頭の中で、悲しい思考が動き出した。


 堂島が徐(おもむろ)に夏美の腕を鷲掴むと、その身体を軽々と引き上げた。
 「や 止めてください!」
 絞り出た声は、それまで以上に震えている。
 ブラウスの前は肌蹴られ、水色のブラジャーは崩れ落ちていた。
 下半身は膝上までの黒いストッキングだけで、蒼白い肢体と薄い翳りが悲しげに晒されていた。


 胸の膨らみと反比例するかのような、巨(おお)きな臀部(しり)が震えている。
 堂島に引きずられてベットに近づくと、夏美は最後の力を振り絞って逃げようとした。
 しかし、そんな抵抗も想定内だったのか、堂島は慌てる事無く夏美をうつ伏せにベットに押さえつけた。
 そしてブラウスに手をやると、一気にそれを引き裂いた。


 ふいに両腕に自由が戻った夏美だったが、堂島はそんな姿を冷たい視線で見下ろしながら、ゆっくりと己のパンツに手を掛けた。
 夏美は身体を起こし、尻ばいでベットの上を隅の方へ逃げようとする。
 しかし、その動きもパンツの中から現れた堂島の“一物”の前に一瞬止まってしまった。
 初めて目にする、その巨(おお)きさに驚いたからだった。


 「ふふ、初めてかな」
 「・・・・・・・・」


 「そうだろう。これほどの一物はそうなかなかお目に掛かれるものではないぞ・・・・・ただし、貴女次第でいつでも見れるようになるのだがな」
 笑う堂島の横で、初めて沖田の口元がニヤッと歪んだ。


 上半身を両手で支えて、夏美の意識は尻ばいを続けようとする。
 立膝は股間の翳りを晒す恰好であったが、今の夏美は堂島の下半身に魅入られ震えている。
 堂島の片足がベットに掛かると、夏美の視線が微かに上を向く。
 いつかの・・いや、いつもの冷たい視線が近付いてきた。
 夏美の身体中にゾゾゾと悪寒が走り抜けた。


 「ああ・・い いやっ こ 来ないで」


 髪は乱れ頬は蒼ざめて、涙はしっかりと口元まで伝わっていた。
 先ほど見せた鬼気迫った表情は、ベットの上では再び現れる事はなかった。
 それでも堂島の手が素肌の肩に触れた時には、もう一度身体は拒もうとした。
 しかし、次の瞬間には堂島の手が乳房へ延びていた。


 悠然と乳房を掴んだ堂島から何とか顔を背ける。
 一瞬、その様子を見守る幸恵と目があった。
 深い怒りと恨みは誰に向ければよいのか。
 それでも幸恵の目から逃げるように目を瞑ったのは、同性に見られている事を初めて意識したからか。


 「さあ、悪いようにはせん。覚悟を決めなさい」


 その声に再び目を開いた。
 瞳に“奇怪な塊”が映り、身体中を戦慄が走り抜けた。