小説本文



仄暗い部屋のレトロな照明でも、私の身体は充分に熱さを感じていました。
 飢えた男共の視線は粘っこく、私にまとわりついて来るようでした。妻の手を握る私の掌は汗でベトベトです。


 「早く続けろよ」
 沈黙に痺れを切らしたのか、一人の男の声が飛んで来ました。
 私は「はい…ええっと…」と頷くと、堀田さんの方をチラリと覗きました。どんな時でも根性なしの私です。


 その時です。
 「シャキッとしないと息子も困るだろ」と客座から声が上がったのです。
 その声は私の背中を押すのに、充分なものでした。いえ、結局は何かに押されないと、踏み出せない私なのです。


 「は、はい、すいません……。わ、私共は40前半の変態願望を持った夫婦です…」


 「…一人息子が地方の高校に入ったのをいい事に、夫婦で変態チックな遊びを始めました…」


 「縁あって堀田さん御夫婦と知り合い、本日はこちらにお邪魔させて頂いております…」


 「…そして……わ、私達も奴隷夫婦の仲間に入れて頂きたいと思いました…。この後、妻を犯して…….」
 最後の語尾は小さく消えかかりましたが、この部屋の住人全ての耳には『犯してください』と聞こえたはずだと思います。
 私は額から汗を流し、荒い息を吐いていました。


 「よく言えたじゃないか」
 どこからともなく、そんな声が聞こえてきました。合わせて「うんうん」と頷く気配に一息抜けた気がします。
 しかし…。
 私は妻の同意を得ることなく、宣言していたのです。それに気づいた私は、恐々隣を見ました。ユックリ覗くようにです。
 妻はそこでも俯きぎみで、黙って床を見ております。


 スッとどちらからでもなく、握っていた手が解けました。
 妻の瞳にはボーっと暗い膜が掛かり、頬は震え唇は半開きです。
 そして、その顔のまま私を一旦見つめると軽く頷き前を向き、初めて口を開いたのです。
 「ど、奴隷夫婦10号の“浩美”です…。どうか・・・・・・・・」


 『どうか』の後の言葉は聞こえませんでしたが、妻は「お好きなように」あるいは「犯してください」と言ったのだと思います。
 そうです部屋中の誰しも、妻の“生け贄宣言”だと理解したと思います。その証拠に一瞬の間の後、「うおっーー」と男達の雄叫びが上がったのです。


 男達は立ち上がり、“初物”を我れ先にと飛び掛かろうとしています。
 しかし。
 「皆さん!」と、清水が一声でその場を鎮めました。


 「ふふ、ちょっと聞いてください…」
 「・・・・・・・・・・・」
 「この女、非常にM性の強い女でして。今、無意識のうちに『浩美』と本名を名乗りましたが、被虐性が強く自ら晒し者になりたいようです」
 清水の語り調に、男達の血走った眼が少しだけ鎮まりました。
 清水は続けます。
 「ふふ、せっかくですから犯(や)る前に少し、M性を刺激してやりますか」
 その言葉に、立ち上がっていた男達の表情(かお)に何とも言えない笑みが浮かびました。


 「では“浩美”、客人にその気になって貰えるように着ている服を脱いでみせろよ、ストリッパーになったつもりでよ」


 いたぶりの言葉をどう受け取ったのか、妻は一旦目を瞑り、そして薄く開くと腰の帯に手をやりました。
 立ち上がっていた男達は、黙ったままその場に腰を降ろして行きます。それにつられて私の居場所はと…身体はコソコソと壁際へと移動していったのです。


 妻の白い指が難なく結び目を解(ほど)くと、シュルっとそれが下へと落ちていきました。はだけた間からは白い肌が、そして身につけた下着の色が覗きました。私が「あっ!?」っと思ったのはその色です。普段から妻の下着の事など特に気にする事もなかったのですが、浴衣を脱ぎきったそこに見えたのは、真っ赤なソレでした。
 一瞬言葉を忘れた私でしたが、その赤いランジェリーは小さめの物なのか、妻の身体は苦しそうに包まれて見え、そしていつも以上に肉感的に想えたのです。
 頭の隅では「こんな下着を持っていたのか」などと考えた私でしたし、このホテルに来て、着替えた時にも気づかなかった自分が何をしていたのかと…今さら妻の変貌を意識する私でした。


 「へへ~この奥さんも結構いい体をしてるじゃないか」と、何処からともなく声が上がりました。その声につられて、他の男の目にも好色の光が灯っていきます。
 妻はその肢体を小さく捩(もぢ)らせながら、両方の手を肩の辺りからヘソ周りへと摩るように動かしています。我が身を抱くように、身を守るようにです。


 「こら浩美、手を動かすな。後ろで組んで胸を張ってみろや」
 清水が妻の立ち姿に注文を付けてきます。
 妻は素直に手を腰の後ろに持っていきます。


 「奥さん、エエ乳(ちち)してるなぁ」
 「尻(ケツ)の方も垂れてないし中々いいんじゃないか」
 「じゃあ早く、その中身も見せてみろよ」


 男共の声に応えるかのように妻は、ブラジャーのホックに手をやりました。胸を突き上げるのは、無意識に膨らみを強調したのか、谷間から頂(いただき)まで破ちきれそうに見えます。
 右手に持ったブラを下に置くと、ゴム毬のような胸の膨らみが露になりました。膨らみの先は、仄暗い灯りの下で尖って見えます。客座からは「ほお~」っと厭(いや)らしそうな声が上がりました。
 妻は一旦そこで清水の顔を見ました。まるでここまでの振る舞いを確認して貰うようです。


 「くくっ…どうした?ショーツも脱げよ!!」
 鋭い声は清水からです。


 「あ、はい。ぬ、脱ぎます!!」と反射的に声が上がりました。
 男達が一層、鋭い目を妻に突き刺し、清水はその様子を嬉しそうに見つめます。


 「さあ、お前の熟れた身体で客人をその気にさせてみせろ」
 「・・・・・・・」


 妻の手がショーツの両端に掛かっていました。顎は上がり宙を見上げる感じで、目は瞑ってみえます。
 腰が静かに左右に揺れ、下半身がクネリます。ピチッと張り付いていた薄い布が少しずつ落ちていき、恥毛が顔を現しました。


 「奥さん、卑猥な毛並みだね」
 「奥さん、もっと腰を振ってみろよ」
 男達が嬉しそうに指令を飛ばしました。
 妻は膝下まで下ろしたショーツを抜き取ります。頬は紅潮して、鼻からは嘆きの息が抜けていきます。そしてまた、チラリと清水の方を覗きました。


 「ククッ…どうしたその顔は。もっと命令が欲しいのか?」
 「・・・・・・・ 」
 「んん?…お前は、無抵抗で犯された男と職場の男子トイレでオマンコをするし、変態露出プレーもする重度のマゾ女だ。さぁ、ここにいる見ず知らずの男の前で、お前が隠し持っていた性癖を見せてみろよ」
 清水の本能に語りかけるような喋りに、妻の顔色がスーッと変わった気がしました。これが″陶酔″の色なのでしょうか、私の身体は再び熱くなっていきます。


 「さあ!」
 その一声に、妻はもう催眠状態に陥ったのか、目を閉じたまま背筋を一旦伸ばすと足を肩幅ほどに開き、手のひらで内腿を下から撫で上げその手を胸の膨らみへと持って行きました。そして目を閉じたまま乳房を握り潰すように揉み始めたのです。


 口唇からは小さく「んあっ」と声が零(こぼ)れます。それを聞いた何人かの男達から、ゴクリと唾を飲む音が聞こえました。
 太股が震えながらジリジリと広がっていき、ガニ股開きしたところで尻がキュッと締まります。右手は乳房を揉みしごきながら、左手は恥毛を掻き分けています。その姿は完璧に自淫の構図です。私の心臓が一気に高鳴り始めました。


 「奥さんよぉ、身体が朱(あか)くなってるぜ、嫌らしいねぇ」
 「そのデカイ尻(ケツ)をもっと突き出してみろよ」
 卑猥な煽(あお)りに、両手がス~ッと後ろに廻っていき臀肉を掴みました。胸を張ったまま状態が少し前に倒れると、臀部が突き上がります。手指は尻圧に弾き飛ばされないように、食い込んでおります。そして、足幅が拡がると同時に、グアッと“ソコ”が開陳されました。


 「いいねぇ奥さん、マンコが丸見えだよ」
 「そうそう、そのままその格好でもっと拡げてみろ」
 男達の何人かが身を乗り出し、割れ目を抉(えぐ)るように顔を近づけていきます。淫臭の嗅げる位置です。


 「清水さん、この奥さんのマンコ、もう濡れてるぜ」
 妻のソコに鼻を近づけていた男が、大袈裟に声を張り上げました。
 「ふふん、そうなんですよ。その女、犯されてるくせに直ぐに濡らすんですよ」
 「ひゃあ~ドスケベ変態女だ」
 男達の嬉しそうな声に、朱(あか)く染まった肢体がプルっと震えます。口唇は閉じられているのですが、その隙間からは「はあーはあー」っと艷っぽい音が漏れ聞こえます。


 ふと壁際を見ますと、山本さん、落合さん、そして堀田さん、3人の奴隷は皆、無意識にでしょうか、股間の一物を握って目の前の様子に見入っています。
 旦那連中の隣では、それぞれの奥様、美代子さん、弘子さん、紀美子さんが、膝を崩した姿勢で妻の恥態を見ております。その表情には気だるさを浮かべていますが、心の中はどうなのでしょうか、もう一度淫靡な火が点(とも)るのではないのか、いや、まさか嫉妬の炎が上がるのではないのか…私の心の奥に、モヤモヤ妖しい高鳴りが沸いていました。


 「奥さん、今度は“尻立て四つん這い”だ」と男の注文が上がりました。
 尻立て四つん這い?…頭の中にハテナマークが付くのと同時に「手と足を床に着けるんだよ。膝を曲げないで」と、別の男の声が聞こえました。
 妻は尻から手を離して床に着けます。
 「そう、そのまま膝を伸ばして股間の辺りを意識してみろ」
 その声に妻の口から「あぁ…っ」と甘い声が零れました。
 「へへヘっ、奥さん、マンコとアナルが丸見えだぜ」
 「それにしても卑猥な形してるなぁ」
 「奥さん、見ず知らずの俺達にアナルとマンコを見られて今、どんな気持ちなんだよ。ええっ?」
 羞恥を煽る卑猥な責め句に、妻の足が震えを起こしていました。その揺れに合わせるように、むっちりとした臀部が卑猥にクネリます。


 「あぁ…あぁ…は、恥ずかしい…」
 嘆きの呻きが小さい小さい声となって、零れ落ちています。私の下半身には熱い血が流れ込んで行きます。


 「さぁ奥さんよぉ、今度はそのまま膝を床に付けて、犬の格好になってみろや」
 もう、男の声に言われるままに従順な牝のように、妻は四つ足を着きました。ふてぶてしい熟れた尻(ケツ)が、私の視線の先です。先ほど男の一人が言ったように、妻のアソコが濡れて光って見える気がします。


 「お~い学よぉ、この奥さん、どんな体位で嵌(は)めるのが好きなんだよ」
 見ますといきなり振られた堀田さんが、腰を浮かせ言葉を探してみえます。


 「ククッ、この女は後ろから突かれるのが好きなんですよ」
 堀田さんのオドオドした態度に、横から清水が口を挟んでいました。


 「そうなんですか、清水さん。やっぱりMなんですね」
 男は頷きながら、その顔を私に向けてきました。
 「旦那さんよぉ、知ってたか、お前の女房は後ろから犯されるのか好きらしいぜ」
 「・・・・・・・」
 私は何も言えず、身体を強ばらせました。その瞬間。
 「じゃあ旦那さん、この女のマンコいただくぜ」
 「ングッ」と、声にならない呻きが上がりました。
 男達は私のそんな様子など気にする事なく、声を上げたのでした。
 「さぁ犯(や)っちまおうぜ!!」


 私は…
 私は、その後の出来事をただ見つめるだけでした………。