小説本文



次の日の夜。
 私は昨夜、久しぶりに覗いたあのサイトで晒されていた“夫婦”の事が、気になって仕方ありませんでした。
 「奴隷夫婦5号」…ナンバーをふられ番号で呼ばれるあの夫婦。
 体型や雰囲気から私と同じ中年なのは間違いありません。それよりか、見覚えのある“仄暗い和室”とそこに立つ二人の毛深い下半身の様子。
 (堀田さん、…それに紀美子さん…)
 頭の中ではその名前が鳴り響いておりました。広いネットの世界ですから、よく似た雰囲気の夫婦もいるのでしょうが…。


 妻の様子も一向に良くなる気配が見えない中、私は自分から堀田さんに連絡をしてみようか…と思いが膨らんでいました。
 しかし…するなら何と?
 あの日の妻の様子を聞いてみる?
 そして“同室プレー”の予定を?
 いや、今はあのサイトで晒される夫婦の事を…でもどういう風に?
 そんな事を考えていたその時。
 机の上に置いていた携帯電話が突然震え出しました。見れば、堀田さんからのメールです。開けてみればたった一言です。
 〔今、お電話大丈夫でしょうか?〕


 私は一旦携帯を閉じると、1階へと降りて行きます。妻は今夜も床に付いた筈です。その様子を確認して、私は再び2階の机の前に座ります。そしてパソコンを立ち上げ、例のサイトを開いてみます。手の中の携帯は、堀田さんの番号を探しています。


 サイトには、数日前[飼い主]と名乗った人物の書き込みが残っておりました。5枚目以降新たな写真の投稿もなく、“飼い主”の新たな書き込みもありません。レスの数はかなり増えた感じですが、それに対する返事は誰一人にも返していないようです。
 私は5枚の写真を一通り見直すと、堀田さんの番号を発信しておりました。


 『もしもし』
 堀田さんの声はいつも通りの落ち着いたものでした。
 型通りの挨拶の後、堀田さんの口から“同室の交換プレー”の話しが出ました。妻の今の様子を考えれば、よく考えなければいけなかったのでしょうが。しかし何か不思議な力に導かれるように、「たぶん、大丈夫だと思います」と、自分に言い聞かせるように返事をしていたのです。


 そして、会話が一旦途切れた時でした。
 「あ あの…それで堀田さん…」
 『・・・・・・』
 「実は、私達が知り合ったあのサイトの事ですが…」
 『!・・・・』
 その瞬間、電話の向こうで、息が止まった感じがありました。
 そして沈黙が流れました。
 私は息を止めて、ただ黙っているだけです。


 その時。
 『菊地さん…』
 「…はい…」
 『やはり…今でもあのサイトを見ていたのですね』
 「…え いえ あの…」
 『・・・・・・』


 私の心臓が何故かドキドキしてきました。
 ゴクリと唾を飲み込んだ時です。
 『菊地さん、とりあえず次の日曜日、先程のお約束通り奥様を交えてお会いした時にでも…』


 電話を切った私は小さく息を吐きました。頭の中には堀田さん夫婦の顔が浮かびます。右手は無意識にマウスをクリックしていました。
 現れた画面…“飼い主”の文字…。
 私はもう一度、5枚の写真を何度も何度も食い入るように見つめました。


 それからしばらくして、下に降りていきます。寝る準備をして、妻の横の布団に入ります。そして小さく声を掛けてみました。
 「…浩美…寝た?」
 部屋には静寂が流れています。


 (堀田さんとの件は明日の朝にでも)
 心の中で呟き布団を被ろうとした時でした。「はい…」と小さな声が聞こえたのです。私はドキリとして、身体を少しお越し、妻の方を見ます。妻は横を向いておりますが、背中が私の言葉を待っているような気がしました。


 「浩美…実は…」


 私はなるべく落ち着いた感じで、堀田さんから連絡があった事を告げました。妻は振り向きもせず、背中を向けたままです。


 「そう言う事で、今度の日曜日に…」
 「・・・・・・」
 「堀田さん達の車で行くようだから…」
 最後は事務的な口調になった感じでしたが、私は告げ終わると小さく「おやすみ」と言い、目を閉じました。
 高揚感のようなものは感じていませんでした。“卑猥”な場面も想像出来ませんでした。妻に対する心配、不安、それはありました。
 そして、先ほどまで見ていた“奴隷夫婦5号”の画像が気になっていました。
 結局、私はこの夜はなかなか眠りにつく事が出来ませんでした。


 次の日の朝も妻は元気がなく、私は夕べの返事を貰うタイミングも逃しておりました。ですので昼休みにメールを送り、承諾の返信が来た時はホッとする自分がいました。
 スケベ心満載の私達、いえ、この2週間に限っていえば私だけなのかも知れませんが、次の日曜日の妄想はなかなか湧き上がってまいりません。やはり不安の方が大きく、どのような展開になるのか? そんな気持ちでおりました。


 そして、遂にその日がやってきたのです。

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