小説本文



奥様方3人は、それぞれ犯され続けています。旦那連中は、壁際で自分の妻が凌辱される様を無抵抗で見つめるだけ・・・なのでしょうか…。
 ご主人達もここに来る事になった切っ掛けはどうであれ、今のこの状況に間違いなく興奮を覚えてると思いました。例え、自身の素性を知られているとしても…いや、素性を明かされたからこそ、開き直って堕ちる所まで堕ちようと覚悟が付いているのでしょうか。
 そして、奥様方も心の奥底を解放され、背徳の快楽に酔っているのでしょうか。
 清水の視線は、私に選択を迫っているようです。


 「俊也よぉ、浩美も早くあの奥様連中の仲間になりたいんじゃないか……どう思うよ?」
 愉(たの)しげな声は私に向いているのですが、冷たい目は抉(えぐ)るように妻を見ております。私の首は、もう一度ジリジリと隣に向きました。


 「くくっ、浩美が俺達とどんな“遊び”をしてきたか聞いてるだろ?」
 「・・・・・・・」
 「この女は俺が見込んだ通りの超変態女だ。普段は清楚、貞淑って思われてるが一皮剥けば卑猥な事ばかり考えてる“いかにも”の変態女だよ。おまけに重度のマゾだしな」
 「・・・・・・・・・」
 「もういい加減に我慢の限界だろ。心では制御しようと思っても、アソコが疼いて仕方ないんじゃないか…」
 「・・・・・・・」
 私達の沈黙に清水が続けます。
 「アンタも本当はもう分かっていてるんだろ」
 「・・・・・・・」
 「俺がアンタらの背中を押してやるからよ」
 そう言って清水が、もう一度私達の顔を抉(えぐ)るように見つめてきました。


 部屋の中央では、男達が取っ替えひっかえ奥様方を輪姦(まわ)しています。
 私の手が無意識に妻の手を握っていました。視線は妻に、そして“あの”奥様方に、そしてまた妻にと見比べます。
 その時、気づきました。紀美子さんが犯されながらも又、私達を見つめています。悦楽の呻きを上げながらも、何かを訴えるような眼で見つめているのです。


 男達は射精を終えた者から、寛(くつろ)ぎ始めました。
 美代子さんに射精を終えた男が、浩さんの口を使います。弘子さんに精飲を終えた男も、満足げに腰を降ろします。そして「いっ、逝きます!!」っと紀美子さんが歓喜の声を上げました。


 崩れ落ちる奥様方の姿と荒い呼吸音の中で、清水が満足げに見渡していました。
 「皆さん、お腹はいっぱいですか?…いや、袋の中の精子は出し尽くしましたか」
 その声の余韻で、清水が歓(よろこ)んでいるのが分かります。
 「さて」
 清水がその笑みのまま頷いて「まだ犯(や)り足らない人もいると思いますが、ここらで余興を入れたいと思います」
 「・・・・・・・」
 「…ここにいる奴隷候補の“つがい”ですが…」
 清水の膝元で小さくなっている私達に、男達の視線が一斉に突き刺さって来ました。


 「この夫婦も心の奥に変態願望を持っている夫婦です。5号の堀田夫婦が釣ってきて直ぐに“ソレ”は分かりました」
 「・・・・・・」
 「それでこの夫婦は今日の集いを見ていて、変態夫婦の仲間入りをしたくなったようですよ」


 清水が言い終わるのと同時に、この日一番の歓声が湧き起こりました。
 その時、一気に身体中を寒気が襲ってきました。気がつけば、紀美子さんの目がまだ私達を見つめています。


 (とっても気持ち良いわ……)
 (堪らないのよ……)
 (早くいらっしゃい……)
 そんな紀美子さんの声が、頭の中に聞こえてきました。あの甘ったるい口調でです。


 「さぁ、10号、行こうか」
 清水がゆっくり中央に歩きます。奥様方が重い身体をずらしスペースを空けます。私達は清水の背中に引き寄せられるように、立ち上がっていました。
 男達が円を描くように丸くなり、私達はその真ん中へと進むしかないのです。
 男達の冷たい哀れみの視線。それでいて性欲を満足させようとする、欲望に満ち溢れた視線を感じました。


 「さてと」
 そう呟いて、清水が堀田さん夫婦を顎でしゃくります。紀美子さんが顔を上げ、堀田さんは一歩前へと進みます。


 「み…皆さま、私達5号が釣ってきた“つがい”でございます。私達はこの夫婦を同類として誘い込みました。そして、思っていた通り変態である事を確信いたしました」
 堀田さんは決して私達の方を見ずに、俯き気味に喋っております。その震えた声は、はっきりと私の耳に届いています。


 「こ…この後“10号夫婦”の輪姦ショーを行いたいと思います。どうか皆さま、ご協力を・・・・」
 そこまで言って、堀田さんの目が私に向きました。


 私達もついに「10号」と、番号で呼ばれてしまいました。既に、どこかでこうなる事の覚悟は出来ていたのでしょうか。気が付けば手を握ったままの私達は、好奇の視線の的になっていました。
 仄暗い照明の灯りが、堪らなく熱く感じます。私は異様な喉の渇きを覚えながら、清水を見つめます。
 私達はもう、まな板の上の鯉なのです。


 「そ…その前に、簡単に10号夫婦の紹介をしておきたいと思います…」
 そう言って堀田さんのオドオドとした瞳が、こちらを向きました。私はもう一度唾を呑み込みます。すると。
 「おい、当然免許証も見せるんだよな」
 客座の男の先制口撃に、心臓はズキンと痛みを感じます。
 その心臓の鼓動が高鳴り、数瞬の沈黙が続き、清水の視線に気づいた時です。
 「まあまあ、今日は余興ですから。お披露目の日までお待ちください」
 男は清水の言葉に頷きましたが、その隣で別の男が「でも、プロフィール位は教えてくれるんだな?」と、言ったのです。


 「ふふ…分かっていますよ。学、続けろ」
 清水の嬉しそうな声に、またまた身体が震えました。堀田さんは先ほどから、何度も何度も口唇を潤おわそうと舐め続けています。


 「はい…では…」
 そう呟いて、堀田さんが小さく咳払いをしました。客座からは「いよっ」っと声が掛かります。


 「え…、こちらは私達が釣った二組目の“つがい”になりまして…」
 「・・・・・・・」
 「歳は、男も女も私達と同じ40代前半でございます。子供は男の子が一人で地方の寮に住んでおります」
 「ヘエ~子供がいないのを良いことに、変態な遊びを始めたんだ」
 まさに“それ”が切っ掛けだったのですが、男の合いの手にもう一度心臓に痛みが走りました。
 隣の妻は、それも全て飲み込んでいるのか、表情を一切変えず、ただ前を向いております。


 堀田さんが続けます。
 「…この“つがい”は東京の◯◯区に住んでおり」
 それを聞いて、ググッと奥歯に力が入りました。まさか住所を呼ばれ、続けて勤務先の名前まで出されるのかと…。
 しかし。
 「勤め先は今は申しませんが、男も女も堅い仕事です…」
 私の身体中の毛穴からは、汗が吹き出てきます。そんな私の事など誰も気にせず、男達の中から又、声が上がりました。
 「ヘエ~共働きか。……分かった、こいつも教師だろ!」
 「・・・・・」
 「いや、俺は医者だと思うな」
 「変態の医者か。最近そういうのが多いからな」
 「いや、旦那は銀行員じゃないか。結構、硬そうな顔をしてるじゃないか」
 「女房の方は婦人警官だったりして」
 「そいつはいいや。婦人警官のマンコを味わってみたいもんだ」
 男達が口々に好き勝手な事を言っています。私の顔面は真っ青です。隣は…と顔をジリリと回すと、微かに俯いた妻がおります。


 「学さんよ、アンタらと、この“つがい”は何回か遊んだんだろ?」
 男の一人が堀田さんに聞いて来ます。


 「はい。私達5号の白黒ショーを一度見せまして、その後は相互観賞も行いました」
 「なるほど、そうなんだ。それでこいつらの変態度はどうだった?」
 「はい。男は小心者の変態で、女の方はムッツリでかなりの好き者です。M性も強く調教のしがいがあると思いました」
 「学も言うようになったねえ。けど楽しみだわ」
 男共の容赦のない視線が妻に向いておりました。しかし、堀田さんの指摘は見事にあたっており、妻の変態度はとっくに認めていたところです。


 「そ…それと、女の方は職場で清水様の調教も受けております」
 瞬間「職場かよ、スゲーな清水さんは。流石だ」と感嘆な声が上がりました。


 「けど、女の方は本当に変態の好き者なんだな…。清水さん、職場でってどうやって犯(や)ったの?」
 男の興味津々の声に、清水が答えます。
 「ふふ、この女…昼休みにトイレに来いって言ったら本当に来ましてね。しかも男子トイレですよ」
 清水の説明に再び「うおー」っと歓声が上がりました。


 「ふふ、まあ私の話は置いといて、早速今から遊んでみますか」
 清水の視線に身体が金縛りのように動かなくなっています。
 「さあ、ご挨拶だ」


 私は何度も何度も唾を飲み…。隣の妻を盗み見して…。腹にグッと力を入れ…。そして。
 「み、皆さま…」
 しかし、その後の言葉が続きませんでした……。
 何を言えばいいのか?
 何を言わなければいけないのか?
 私は黙ったまま部屋中の視線を一斉に浴びながらも、固まり立ち竦んでおりました……。