小説本文



妻が部屋に入った後は、私は扉を見つめながらただ立ちつくしておりました。
 サイトの中に妻の背中を押す“何か”があったのか…心の中に妖しい火を灯す“何か”があったのか……私はそんな事を考えながら立っていたのです。


 しばらくして、部屋から出て来た妻は薄いコートを着ていました。私が「ん!?」っと思ったのは前ボタンが上から下までピタッと留められている事と、もう一つ違和感を覚えたのは、妻の足です。腿の半分位から下しか見えないのですが、ストッキングを穿かずに素足なのです。


 「あなた…お願いします…」
 そう呟いて妻は、玄関の方へと足を進めています。


 頭の中にはひょっとしたらと閃きもあったのですが、妻のその格好を見たときには“ソレ”はほぼ確信に変わっており、私は車のキーを持つと、妻の背中を追っておりました。
 外は当たり前ですが真っ暗で、それでも私は人目を気にしながら家の車庫へと足を運びました。無意識に妻の身体を隠すようにしてです。


 妻は後部座席に乗り込み、私はそれを見て運転席のドアを開けます。
 エンジンをかけミラーを覗きますと、ボーっとした妻の顔が見えました。どこか白痴っぽい感じの妻です。それでも車を走らせますと、この状況を先導しているのはこの妻なのだと、ハンドルを握る私は緊張を覚えています。


 とりあえず馴染みの道を回っていますと、前方に運動公園の標識が見えてきました。チラリとミラーを覗きますと、妻の目が頷いているようにも見えます。


 「・・・・・・・」
 「・・・・・・・」


 私は幾つかある駐車場の中から、遊具広場の隣の所へと入っていきました。
 エンジンを切り窓から辺りを見ますと、こんな時間でも車が数台停まっております。私達の車はなるべく目立たない位置に停めたつもりではありましたが、不気味な闇に足がすくみます。
 その時、後ろでガチャリとドアロックの音が聞こえました。


 「お、おい…」
 緊張気味の私の声にも、妻は静かにドアを開けております。
 冷たい風が車内に流れ込み首筋辺りを通ると同時に、私は身震いを起こしました。


 「ひ、浩美…」
 もう一度妻を呼んだ声は見事に震えていますが、私は慌ててシートベルトを外し、外に出ようとします。もちろん全ての音を否定するように、気配を殺すようにしてです。


 外は風が強く、妻はフラフラしながらもその足は遊具の方へと向いておりました。私は後を追いますが照明の灯りは頼りなく、妻の背中が闇の中に迷い堕ちて行く感じが致します。
 砂地に足を取られながらも、妻に追いついたのはジャングルジムの所でした。


 ゆっくりと振り返った妻の目はまだトロ~ンと白痴っぽく、病的なその感じは私の身体に怖気(おじけ)を気づかせます。
 白い指が上からボタンを外していき、私はその様子を金縛りにあったように、固まったまま見入っています。
 続けてコートを開くと、スーっと月明かりが線を引いた中を白い裸体が浮き上がりました。思った通り…いえ、覚悟した通りのその全裸姿に息を呑む私です。
 膨よかな胸房は月明かりに照らされ、尖り立った蕾が黒く光って見えます。私の視線はそこから下の方へと滑っていきます。
 見慣れたはずの下腹には股間の翳りを隠す物は何も無く、それでもその部分も月の光りに照らされると神聖に見えてしまいます。


 私は何度も唾を飲みながら、静かに足を踏み出していました。
 ジャリっと砂が鳴ると同時に、妻の二本の足が外側に開きました。背中は遊具にもたれ掛かり、股間の辺りが突き出た格好です。
 片方の手がコートの胸元を開き、反対の手が身体の表面を擦る動きを始めています。
 胸の突起が掌で弾かれると、その手はお腹を撫で回しながら下腹へと向かって行きます。


 スケベ心が詰まった私の記憶の中から、今までにこれでもかと覗いてきた露出投稿画像のページが浮かび出てきました。恋人なのか不倫相手なのか、はたまた愛妻なのか、大切なパートナーが公衆の場で恥ずかしい姿を晒す“あの”写真です。初めて見た時には心臓が飛び出る程の衝撃を覚えたあの場面。もし自分の妻が公然で“こんな”格好をしたらと想像しただけで震えが走ったものでした。
 私は目の前で蠢く女体に魅せられ、暗闇の中に吸い込まれていく感じです。


 ヒューっと風が耳横を通り、身震いを覚えながら私は振り返りました。遠くには高速道路の灯りが並ぶ様子が見え、微かな車の音が聞こえるだけです。息を殺して私はもう一度妻に目を向けました。
 妻の目に映るものはいったい……。
 恐らく妻が求める観衆は私ではなく、見ず知らずの軽蔑的な視線ではないのか。妻の揺らめきがますます妖しくなっていく感じです。


 「ああ……」
 自分の小さな呻きが耳元でハッキリと聞こえました。
 私は更に妻との距離を縮めようと踏み出し、ゴクリと息を整え「ひ、浩美…う、後ろからも」と呟き囁きかけます。
 若い頃から何故か、女性の“臀(しり)”に惹かれる私でした。ソレが無防備で、忠誠を誓うような後ろからのものなら尚更でした。


 背中を向けた妻は中腰でジャングルジムの鉄の棒を握り、片方の手はコートを捲り上げています。私の足は又一歩近づいています。
 コートの裾が腰の上まで捲り上がると、夜空に浮かぶ月のように丸い臀(しり)が現れました。
 それでも私はこの状況が怖く、辺りを気にしながら何とか妻のそばに近づきました。そうです妻の身体を隠すように、けれどその局部にかぶりつくようにです。
 心臓の音をバクバク鳴り響かせながらも、目を凝らしますと割れ目の辺りの様子までがよく見えました。これまでに寝室でしか見る事の出来なかった…いえ、決して世間様には披露してはいけなかった陰部がそこでハッキリと息づいている様子が見えるのです。
 妻は捲り上がったコートの裾を、お腹の下辺りに上手く留めながら遂には両手を秘所の両側に持ってきております。
 私は屋外のこの状況にも覚悟を決め、瞬きせずソコを凝視いたしました。
 荒い息づかいを感じ取ったのか、妻の手はそれに応えるように肉厚を揉みほぐす動きをしたかと思うと、ネチャっと赤黒い花弁を開きました。私はその上の肛門までが開陳された卑猥さに身体はブルブル、心臓はバクバクです。


 「ああ…い、厭らしい・・」
 小さな呻きを漏らした私は、自身の腹から股間にかけてスカーっと何が落ちていく感じです。要するに腰を抜かす程の衝撃を受けている私です。


 その時、思い出したようにこの様子を写真に撮らねばと胸ポケットの携帯を探りましたが、その手は情けないほど震えていて上手く掴めません。
 それでも何とか写真を1枚……丸い熟尻が突き出たものを撮り終えた私は、腹をすえて妻に注文を付けながらも数枚続けて携帯に収めました。こちらを向かせコートを両手で拡げさせ、足はガニ股の格好のもの。臀を更に突き上げさせ、股ぐらから顔を覗かせたもの。
 被写体となった妻の顔はどれもトロ~ンとしていて、“心、ここに有らず”と言った感じでした。


 この公園に来てどれ程の時間が経っていたでしょうか。いい加減にそろそろと私は、辺りを見てみました。
 私達は露出行為に関して決して“ベテラン”ではありません。私達夫婦を覗く人影はいないようですが、そろそろと気を修めようと私は妻の手を取っておりました。
 逃げるように手を引いた私でしたが、妻はまだ放心状態の様で、このまま続けていたら何処までも、何時までも、それこそ警察が来るまで破廉恥な姿を晒していたのではないかと寒気を覚える私でした。


 車に乗ると直ぐに走らせました。外界から安全地帯に無事に逃げ込んだ私の中には、今しがたの行為を思いだし“もしも”を考える小心者と、“良くできた”と胸をなでおろす二人の私がおりました。
 後ろに座る妻のコートはボタンは掛けられていませんが丁寧に重ねられており、白い素肌や股間の翳りなどは見えません。
 時計を見ますともう遅い時刻なのですが私は眠気など全く感じる事はなく、ハンドルは自宅の方に向かってはいるのですが途中横路に入りながら、この状況を無意識に引き延ばそうとしています。
 その時でした。ガサガサと衣ずれの音にミラーを覗きますと、病的な雰囲気のまま、妻の両足がガニ股開きでシートの上に持ち上がっておるのです。そして静かにコートが広げられたのです。
 ミラーの中は、M字でアソコを開陳している変態熟女の画像の様です。


 私は驚きながらも、その姿を何とか凝視しようとしたのですが、ハンドルを握っているせいで当然正視できません。けれどチラリチラリと必死になって覗こうとしますが何度も車線をはみ出し、やむなく車を住宅街の一角に停める事となりました。
 車を停めた私は振り返ります。そこにはみっともない姿…いや、卑猥な妻の姿ですが、その妻の表情はやはり病的な感じて、私の事が目に映っているのかそれとも魂が闇をさ迷っているのか、とにかく白恥っぽい感じなのです。
 下半身に目を向けると翳りの辺りが間違いなく息づいています。波打つように蠢き、食中花が淫靡な花を咲かせる寸前です。
 その時、妻の斜め後ろの一軒家が目につきました。私にはそれが、子供の中学時代の友人のお宅だと直ぐに気づきました。


 「・・・・・・・・・・」
 子供の友人宅。
 真夜中。
 不謹慎。
 露出。
 私たちは変態夫婦。
 いくつかの言葉が変態チックな事を連想させ、私はとんでもないない事を思いついてしまいました。
 身体は震えを起こしていましたが「い、行くぞ」と小さく呟いています。微かに目を広げた妻は、相変わらずなのですが、分かっているのか分かっていないのか、足を下ろし靴を履く様子です。
 私は息を殺し、静かにドアのロックを解除しました。


 外に出た私は間違いなく不審者です。コソコソ周りを見回し目を凝らします。そして携帯電話を取り出しカメラの準備です。


 ドアが閉まる音に緊張が走りましたが、すぐに静寂が私達を包みます。
 妻を見ますと両手でコートの前を抑えながら、家の壁に寄りかかろうとしてます。


 「お…おい、ここ…」
 私がアゴで指した方向を、妻が朦朧とした様子で顔を向けます。
 横から見つめる妻の瞳には、反応の色が現れません。が、私は構うこと無く「さ…さあ、そこで…」と囁きました。


 またまた頭の中では“露出投稿写真”のページがパタパタと捲られておりました。その何枚かが妻の顔や身体と重なってまいります。
 そして私が携帯のカメラを向けますと、それに合わせるようコートが開いたのです。
 フラッシュの光りがやけに大きく感じました。私は慌てて辺りを見回します。
 妻はそれでもコートを広げたまま、下半身はガニ股開きで、目は虚ろです。
 その時、目に入った表札にとんでもないアイデアが浮かんでしまいました。


 「ひ、浩美…よ、横に…」
 精一杯、声を潜めたつもりの私の額に、汗が滲み出る感触がありました。妻は指示の通り門柱の横へとにじみ寄っております。
 携帯を構えた私の顔は緊張と好奇が混ざった顔でしょうか。卑しい笑みを浮かべ、私はカメラ越しに妻を覗きました。
 卑猥な下半身、熟した下腹、熟れた乳房、そして虚ろな顔…その横に表札が収まったのを確認して私はシャッターを押しました。
 続けて2回目のシャッターを押すと、その家を見上げました。部屋の電気が付く気配がない事にホッとして、私は急いで妻の手を取りました。


 車に戻りますと逃げるようにその場を立ち去ります。けれどハンドルを握ってしばらくしますと、先程の事を思い浮かべ無意識に頬が歪んでまいりました。
 そしてもう妻はコートを広げる事もなく、私達は自宅へと戻ったわけです。


 車庫に車を入れエンジンを切りますと、私は直ぐに胸ポケットから携帯を取り出し写真のチェックです。そこには期待以上の出来映えの画像がありました。
 順番に何度も見直していますと、妻が覗き込んできました。私は黙ったまま画面を向けてやりますと、紅い唇からは「ああ……」と溜め息のような声が漏れました。


 玄関を開け2階に向かった私は、家族に見つからないようにエロ本を持ち帰った学生の頃の気分で、書斎に入りますと携帯からパソコンに転送して写真の確認です。
 画面いっぱいに現れた妻の恥態はとても淫靡で卑猥な物でした。翳りの上のショーツの跡は生々しく、後ろから見える割れ目の皺は年季が入って見えます。
 どこにでもいる“素人主婦”に“貞淑な人妻”。よく見るエロ画像の上等文句ですが、私の頭にはとても新鮮な衝撃を与えてくれておりました。虚ろな妻の顔の横に見える″表札″は日常的でいて、それでいて非日常的な演出に一役かっています。


 生まれて初めて野外で露出画像をカメラに収めた私は、無事に家に戻ってこれた事もあってか素直に余韻を感じる事が出来ておりました。
 その画像を広いネットの世界に披露したいという願望も沸いてきて、“例のサイト”への投稿も考えたりしたのですが、途中で弱気の虫が出て来て取り敢えず今夜は床に付く事に致しました。


 寝室に入りますと妻は既に寝息をたてておったのですが、はだけた布団からはみ出た素足。よく見ると妻は、下着を着けずにガウンだけを纏って寝ているようです。
 何気ない妻の寝姿のはずですが、ムラムラと下半身辺りから高鳴りが湧いてきました。しかし……。
 妻の布団を捲ろうとした私の手は、清水の声に待ったが掛かりました。頭の中にフラッシュバックしたその場面に、あの日の鈍痛も甦ってくるようです。
 清水からのセックス禁止令にオナニーの禁止令。私達夫婦を縛り付けるあの男の存在は、確実にこの場面でも見えない力となっておりました。今夜、生まれて初めて見た妻の野外でのあの出来事も、清水が遠隔操作でもしたのではないかと、私は落ち着きを取り戻しながらそんな考えも湧いておりました。
 夜は更けていくのですが、私の頭はますます冴えていくばかりでした…………。