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第13話
次の日。
目覚めはとても気分の悪いものでした。しかし、息子の事は気になりますから、まずはメールを打ちました。内容はどって事の無いもので、〔元気か〕〔食事はちゃんと取っているか〕〔変わった事は無いか〕などでした。
しばらくして返ってきた返信は〔大丈夫〕〔心配するな〕と言った簡単なものでしたが、とりあえずホッとした私でした。
私は妻に、息子のメールの事を伝えました。妻は「ありがとうございます」と短く答えただけで、その横顔には疲れが見て取れます。
そんな妻とは夕べ、いくつか話しましたが、今後の対応策まで話す時間がありませんでした。私は今夜には必ず打ち合わせをしなければと思っていました。
妻はこんな時も決まった時間に職場に出かけ、その20分後には私もいつも通り出掛けます。
隣近所にもですが、職場などへの嫌がらせが本当にないのか、私は心配で心配でたまりませんでした。
しかし、妻にはそんな素振りを見せないように「や 奴らは、仕事場には来ないよ。うん、きっと」と自分に言い聞かせるように伝えたのです。
仕事場に着いた私は緊張しながら、そして辺りを気にしながらお昼までの時間を過ごしました。同僚や部下達には、私の様子が変に映ったのでしょうか『どうかしたのか』『どうかしましたか』と何度も聞いてくるので、その度に作り笑いでごまかしておりました。
昼休み、妻にメールを打ちました。〔変わった事は無いか〕と短い文面です。
私は〔大丈夫〕と言う返信を待っていたのですが、結局休み時間には来る事はありませんでした。今までも返信が遅れる事は度々あったのですが、この日はさすがに嫌な感じがしていました。
何とかこの日の仕事を終えると、急いで自宅へ向かいます。妻から返信がまだ来ていない事が気になっていましたが、妻の職場へ向かう事も近づく事も、小心者の私は怖くて出来なかったのです。
帰宅途中にも返信はなく、そうこうしているうちに家に着いてしまいましたが、玄関に妻の綺麗に揃えられた靴を見た時はホッとする私がいました。
居間に入った私は妻の「お帰りなさい」の挨拶にもう一度ホッとしました。
妻はキッチンで夕飯の準備をしておりましたが、その後ろ姿に「この女性が本当に男達に犯され、感泣の声を上げていたのだろうか」と不思議な気持ちも湧きました。
妻の手料理が並んだ食卓は、さすがにこの夜は暗いものでした。頭の中では、昨夜の続きと今後の事を相談しなければと思っているのですが。
私は食欲が進まず、妻も同じようで、目の前の皿には料理が残っておりました。
そして、食後のお茶が置かれたところで、「浩美…」と話し出そうとして、妻の口から先に「あなた、“彼ら”から…」と言われ、ドキッといたしました。
「ひ 浩美、・・・や “奴ら”が来たのか…」
「いえ、彼らは…“今日は”職場には来ませんでした」
「・・・・・・・」
「けど…。実はこの何日か彼らと会っていました」
「ええッ!」
「・・・・・・・」
「なっ…おい、それってどういう事?」
「はい、昨日の夜に言いそびれて…。実は、初めて犯された日の次の日、彼らが職場に来たんです」
「なっ なんだって!」
「・・・・・・・」
「で、でも…何でその事を今まで黙って…」
と、言ったところで、当然、写真や息子の浩二を盾に、彼らに口止めされたのだろうと気づき納得しました。
妻は落ち着いていて、話しを続けます。
「あの連中の中で皆に指示を出していたリーダーの彼が、アタシの窓口に来たんです。昼休みに入る少し前でした…アタシは最初、目の前に立つ男性が“彼”とは分かりませんでした。彼はアタシに『清水です。昨日はどうもです』って、それは丁寧に話しかけてきたんです」
私の頭の中には昨日、振り返った瞬間に浮かんだ“彼”の紳士っぽい顔が浮かびました。そして『清水』という名前がインプットされました。
「アタシは彼を認識した瞬間に膝がガクガクし始めました。彼は、『菊地浩美さんですね』とアタシの名札を覗き込むように顔を近づけたんです」
「・・・・・・」
「それで…」
「・・・・・・」
「彼は徐(おもむろ)に手にしていたスマートファンの画面をアタシの目の前で開いて見せたんです。アタシは一瞬息が止まり、後ろを振り向きました。周りに人がいないか確かめたんです」
(まさか…)
瞬間、妻のあられもない姿が脳裏を横切りました。
「アタシはその“写真”から目を背けましたが、直ぐにこの場を何とかしなければという考えも浮かんで『ご、ご用は何でしょうか』って震えながら聞いていました…手で彼の掌を隠すようにしてです」
妻はそこまで話すと、一つ大きく息を吐きました。
「彼は『もう昼休みでしょ。別棟の地下の一番東側のトイレに来て下さい。勿論男子トイレですよ』ってアタシにだけ聞こえる声で言ったんです」
「・・・・・・」
頭の中には妻が勤務する建物の様子も浮かびませんでしたが、冷たく、人の気配のない、静かな空間がイメージ出来ました。私の職場でもそうですが、省エネの為に普段電気の消された仄暗い空間です。
「アタシは…。彼がエレベーターの方に向かう後ろ姿を、身体を震わせながら見送ったと思います。周りの職員は殆ど先にお昼に行っていたので、アタシの様子に気づく人はいなかったと思います」
「・・・・・・」
「アタシは席に戻ってもしばらく震えながら時計を見ていました。同時にその“トイレ”をイメージしていました。確か、利用の少ないトイレだった記憶があったと思います」
むっつりスケベな私でしたから、ネットで色んなスケベ画像に動画、それに卑猥な体験談も知っていました。それらの中には勿論、“公衆便所”が舞台になったものもありました。
「アタシは上司に『昼休みに行ってきます』と言ったのは、彼がいなくなってから10分ほど経っていた頃だったと思います」
「アタシは不安と恐怖だけを感じて、そのトイレのある棟に向かいました。」
「昼休みでしたが、ソコは来庁者も職員の姿もなく重く冷たい空気に覆われていました。アタシは本当にこんな所に?と思ったのですが…」
「アタシは一旦女性トイレに入り、人が居ないかを確認しました。そして鏡を見ました…その瞬間、悲しみが沸いてきて…」
「・・・・・・・」
私と妻が向かいあった居間も、冷たい空気に包まれておりました。しかし私の心の中では、得体の知れない妖しい火の粉がくすぶっているようでした。
私は唾を飲み込んで話の続きを待ちました。
「女性トイレから出ますと見知らぬ男性、いえ、その瞬間また記憶が蘇って来て…“あの場”にいた別の男が立っていたんです」
「その男は黙って男性トイレを指差しました。アタシが躊躇していると『一番奥の個室をノックしろ』と言って、その後に『“他”には誰もいない』ってニヤッと笑ったのです」
「…ひ 浩美…まさか…本当に…」
分かりませんが、私の口からそんな言葉が漏れました。背中からは冷たい粟立ちが起こってくる感じです。
妻は小さく頷きました。
「アタシは男に背中を押されるように、生まれて初めて男性トイレの中に入って行きました。省エネの為に電気は消えていて、そのまま薄暗い中を奥へと進みました」
「数年前に建て替えられた建物ですが、独特の匂いが鼻に付いて…。男の言った通り左の奥の個室の扉が閉まっていました。その時、外でカタンと音がして、アタシは一瞬に身体が固まり息を止めました。しばらくはその場で動けませんでした。けど、人が来る気配がなかったので、恐々目の前のドアをノックしたんです」
妻の口調に私は、怪談話でも聞かされているような気がしていました。妻は語り手で私が聞き手の朗読会をしているようです。
「扉がゆっくり開き、中からは彼、清水……が、現れて」
私は…妻が“清水”と言った後に、“さん”という言葉を呟いた気がしました。「清水さん」と…。
「アタシは彼の前で金縛りにあったように動けませんでした。彼はそんなアタシの手を掴むと、中へと引きこんだのです」
妻は落ち着いて話しておりました。どこかで腹が据わっているような感じです。気づけば妻の目が私を見つめています。
「あなた、このまま続けてよいでしょうか?」
私は顔を上げ、そんな妻の目を見つめ返します。そして。
「浩美….彼らから話すように言われてるんだろ?」
私は落ち着いて聞き返しました。
それは妻なりの気配りだったのか、それとも言い辛い出来事だったのか、恐らく両方なのでしょうが私も事実が怖かったのですが、妻の背中を押すつもりで「うん」と答えました。と、同時に妻も小さく「はい」と頷いたのです。
「続けます。…中に引き込まれますと、いきなり抱きしめられ…その…キスをされてしまいました。すいません」
「…いや、仕方ない。…続けてくれ」
昨日、目の前で妻を輪姦されたばっかりの私ですから、キス程度と頭の中にはありました。それよりか役所という不特定多数が自由に出入り出来る建物の中の公衆便所、しかも男子トイレで、何が行われたのかと私はそちらが気になってしかたありません。勿論、想像はつき、覚悟もあるのですが。
「彼は、アタシを後ろ向きにして、振り返らせるようにキスをしていました。アタシは唇を噛みしめるように抵抗していますと、彼はバッと離し耳元で小さな声で囁いたんです……」
「……な なんて?」
「はい……。と、となりの個室に旦那がいるぞって」
「なっ!?」
「ア アタシも一瞬ドキッとして…。そうしたら胸をこう、下から揉み上げられて。そしてまた耳元で彼が…」
「・・・・・・」
「『アンタの旦那はパンツを下ろして、アンタの嫌らしい喘ぎ声が聞こえてくるのを今か今か待ってるんだぜ』って」
「・・・・・・」
「『さあ、変態女の浩美のスケベな鳴き声を聞かせてやろうか』って言って、アタシの着ている服を脱がし始めたんです」
「ウウウ……」
「彼は手際よく、ホントに手際よくアタシの上着から順番に脱がせていき。それを隣の個室との壁の上に投げ掛けていくんです」
「・・・・・・」
「アタシの頭の中は既に真っ白になっていて、気づいた時には素っ裸にされていました」
「アタシは背中を押され、手を壁に付きました。あなたがいる個室…いえ、あなたが“いる”って言われた個室の壁にです」
「・・・・・・」
「アタシは…後ろからオッパイを揉まれ、同時に背中の真ん中辺りをスゥーッて舐められました。背筋がゾクゾクしてその場でオシッコをしたくなるような感じでした」
「彼も、その時はズボンを下ろしていてアタシのお尻に“硬い物”があたって…」
「んんっ、そ それで、い 入れられたのか…」
「い、いえ…すぐには…」
「ど、どうした……」
と、私が粘りついた声を発した時です。ブーッっと妻の携帯が震えたのです・・・・・。
目覚めはとても気分の悪いものでした。しかし、息子の事は気になりますから、まずはメールを打ちました。内容はどって事の無いもので、〔元気か〕〔食事はちゃんと取っているか〕〔変わった事は無いか〕などでした。
しばらくして返ってきた返信は〔大丈夫〕〔心配するな〕と言った簡単なものでしたが、とりあえずホッとした私でした。
私は妻に、息子のメールの事を伝えました。妻は「ありがとうございます」と短く答えただけで、その横顔には疲れが見て取れます。
そんな妻とは夕べ、いくつか話しましたが、今後の対応策まで話す時間がありませんでした。私は今夜には必ず打ち合わせをしなければと思っていました。
妻はこんな時も決まった時間に職場に出かけ、その20分後には私もいつも通り出掛けます。
隣近所にもですが、職場などへの嫌がらせが本当にないのか、私は心配で心配でたまりませんでした。
しかし、妻にはそんな素振りを見せないように「や 奴らは、仕事場には来ないよ。うん、きっと」と自分に言い聞かせるように伝えたのです。
仕事場に着いた私は緊張しながら、そして辺りを気にしながらお昼までの時間を過ごしました。同僚や部下達には、私の様子が変に映ったのでしょうか『どうかしたのか』『どうかしましたか』と何度も聞いてくるので、その度に作り笑いでごまかしておりました。
昼休み、妻にメールを打ちました。〔変わった事は無いか〕と短い文面です。
私は〔大丈夫〕と言う返信を待っていたのですが、結局休み時間には来る事はありませんでした。今までも返信が遅れる事は度々あったのですが、この日はさすがに嫌な感じがしていました。
何とかこの日の仕事を終えると、急いで自宅へ向かいます。妻から返信がまだ来ていない事が気になっていましたが、妻の職場へ向かう事も近づく事も、小心者の私は怖くて出来なかったのです。
帰宅途中にも返信はなく、そうこうしているうちに家に着いてしまいましたが、玄関に妻の綺麗に揃えられた靴を見た時はホッとする私がいました。
居間に入った私は妻の「お帰りなさい」の挨拶にもう一度ホッとしました。
妻はキッチンで夕飯の準備をしておりましたが、その後ろ姿に「この女性が本当に男達に犯され、感泣の声を上げていたのだろうか」と不思議な気持ちも湧きました。
妻の手料理が並んだ食卓は、さすがにこの夜は暗いものでした。頭の中では、昨夜の続きと今後の事を相談しなければと思っているのですが。
私は食欲が進まず、妻も同じようで、目の前の皿には料理が残っておりました。
そして、食後のお茶が置かれたところで、「浩美…」と話し出そうとして、妻の口から先に「あなた、“彼ら”から…」と言われ、ドキッといたしました。
「ひ 浩美、・・・や “奴ら”が来たのか…」
「いえ、彼らは…“今日は”職場には来ませんでした」
「・・・・・・・」
「けど…。実はこの何日か彼らと会っていました」
「ええッ!」
「・・・・・・・」
「なっ…おい、それってどういう事?」
「はい、昨日の夜に言いそびれて…。実は、初めて犯された日の次の日、彼らが職場に来たんです」
「なっ なんだって!」
「・・・・・・・」
「で、でも…何でその事を今まで黙って…」
と、言ったところで、当然、写真や息子の浩二を盾に、彼らに口止めされたのだろうと気づき納得しました。
妻は落ち着いていて、話しを続けます。
「あの連中の中で皆に指示を出していたリーダーの彼が、アタシの窓口に来たんです。昼休みに入る少し前でした…アタシは最初、目の前に立つ男性が“彼”とは分かりませんでした。彼はアタシに『清水です。昨日はどうもです』って、それは丁寧に話しかけてきたんです」
私の頭の中には昨日、振り返った瞬間に浮かんだ“彼”の紳士っぽい顔が浮かびました。そして『清水』という名前がインプットされました。
「アタシは彼を認識した瞬間に膝がガクガクし始めました。彼は、『菊地浩美さんですね』とアタシの名札を覗き込むように顔を近づけたんです」
「・・・・・・」
「それで…」
「・・・・・・」
「彼は徐(おもむろ)に手にしていたスマートファンの画面をアタシの目の前で開いて見せたんです。アタシは一瞬息が止まり、後ろを振り向きました。周りに人がいないか確かめたんです」
(まさか…)
瞬間、妻のあられもない姿が脳裏を横切りました。
「アタシはその“写真”から目を背けましたが、直ぐにこの場を何とかしなければという考えも浮かんで『ご、ご用は何でしょうか』って震えながら聞いていました…手で彼の掌を隠すようにしてです」
妻はそこまで話すと、一つ大きく息を吐きました。
「彼は『もう昼休みでしょ。別棟の地下の一番東側のトイレに来て下さい。勿論男子トイレですよ』ってアタシにだけ聞こえる声で言ったんです」
「・・・・・・」
頭の中には妻が勤務する建物の様子も浮かびませんでしたが、冷たく、人の気配のない、静かな空間がイメージ出来ました。私の職場でもそうですが、省エネの為に普段電気の消された仄暗い空間です。
「アタシは…。彼がエレベーターの方に向かう後ろ姿を、身体を震わせながら見送ったと思います。周りの職員は殆ど先にお昼に行っていたので、アタシの様子に気づく人はいなかったと思います」
「・・・・・・」
「アタシは席に戻ってもしばらく震えながら時計を見ていました。同時にその“トイレ”をイメージしていました。確か、利用の少ないトイレだった記憶があったと思います」
むっつりスケベな私でしたから、ネットで色んなスケベ画像に動画、それに卑猥な体験談も知っていました。それらの中には勿論、“公衆便所”が舞台になったものもありました。
「アタシは上司に『昼休みに行ってきます』と言ったのは、彼がいなくなってから10分ほど経っていた頃だったと思います」
「アタシは不安と恐怖だけを感じて、そのトイレのある棟に向かいました。」
「昼休みでしたが、ソコは来庁者も職員の姿もなく重く冷たい空気に覆われていました。アタシは本当にこんな所に?と思ったのですが…」
「アタシは一旦女性トイレに入り、人が居ないかを確認しました。そして鏡を見ました…その瞬間、悲しみが沸いてきて…」
「・・・・・・・」
私と妻が向かいあった居間も、冷たい空気に包まれておりました。しかし私の心の中では、得体の知れない妖しい火の粉がくすぶっているようでした。
私は唾を飲み込んで話の続きを待ちました。
「女性トイレから出ますと見知らぬ男性、いえ、その瞬間また記憶が蘇って来て…“あの場”にいた別の男が立っていたんです」
「その男は黙って男性トイレを指差しました。アタシが躊躇していると『一番奥の個室をノックしろ』と言って、その後に『“他”には誰もいない』ってニヤッと笑ったのです」
「…ひ 浩美…まさか…本当に…」
分かりませんが、私の口からそんな言葉が漏れました。背中からは冷たい粟立ちが起こってくる感じです。
妻は小さく頷きました。
「アタシは男に背中を押されるように、生まれて初めて男性トイレの中に入って行きました。省エネの為に電気は消えていて、そのまま薄暗い中を奥へと進みました」
「数年前に建て替えられた建物ですが、独特の匂いが鼻に付いて…。男の言った通り左の奥の個室の扉が閉まっていました。その時、外でカタンと音がして、アタシは一瞬に身体が固まり息を止めました。しばらくはその場で動けませんでした。けど、人が来る気配がなかったので、恐々目の前のドアをノックしたんです」
妻の口調に私は、怪談話でも聞かされているような気がしていました。妻は語り手で私が聞き手の朗読会をしているようです。
「扉がゆっくり開き、中からは彼、清水……が、現れて」
私は…妻が“清水”と言った後に、“さん”という言葉を呟いた気がしました。「清水さん」と…。
「アタシは彼の前で金縛りにあったように動けませんでした。彼はそんなアタシの手を掴むと、中へと引きこんだのです」
妻は落ち着いて話しておりました。どこかで腹が据わっているような感じです。気づけば妻の目が私を見つめています。
「あなた、このまま続けてよいでしょうか?」
私は顔を上げ、そんな妻の目を見つめ返します。そして。
「浩美….彼らから話すように言われてるんだろ?」
私は落ち着いて聞き返しました。
それは妻なりの気配りだったのか、それとも言い辛い出来事だったのか、恐らく両方なのでしょうが私も事実が怖かったのですが、妻の背中を押すつもりで「うん」と答えました。と、同時に妻も小さく「はい」と頷いたのです。
「続けます。…中に引き込まれますと、いきなり抱きしめられ…その…キスをされてしまいました。すいません」
「…いや、仕方ない。…続けてくれ」
昨日、目の前で妻を輪姦されたばっかりの私ですから、キス程度と頭の中にはありました。それよりか役所という不特定多数が自由に出入り出来る建物の中の公衆便所、しかも男子トイレで、何が行われたのかと私はそちらが気になってしかたありません。勿論、想像はつき、覚悟もあるのですが。
「彼は、アタシを後ろ向きにして、振り返らせるようにキスをしていました。アタシは唇を噛みしめるように抵抗していますと、彼はバッと離し耳元で小さな声で囁いたんです……」
「……な なんて?」
「はい……。と、となりの個室に旦那がいるぞって」
「なっ!?」
「ア アタシも一瞬ドキッとして…。そうしたら胸をこう、下から揉み上げられて。そしてまた耳元で彼が…」
「・・・・・・」
「『アンタの旦那はパンツを下ろして、アンタの嫌らしい喘ぎ声が聞こえてくるのを今か今か待ってるんだぜ』って」
「・・・・・・」
「『さあ、変態女の浩美のスケベな鳴き声を聞かせてやろうか』って言って、アタシの着ている服を脱がし始めたんです」
「ウウウ……」
「彼は手際よく、ホントに手際よくアタシの上着から順番に脱がせていき。それを隣の個室との壁の上に投げ掛けていくんです」
「・・・・・・」
「アタシの頭の中は既に真っ白になっていて、気づいた時には素っ裸にされていました」
「アタシは背中を押され、手を壁に付きました。あなたがいる個室…いえ、あなたが“いる”って言われた個室の壁にです」
「・・・・・・」
「アタシは…後ろからオッパイを揉まれ、同時に背中の真ん中辺りをスゥーッて舐められました。背筋がゾクゾクしてその場でオシッコをしたくなるような感じでした」
「彼も、その時はズボンを下ろしていてアタシのお尻に“硬い物”があたって…」
「んんっ、そ それで、い 入れられたのか…」
「い、いえ…すぐには…」
「ど、どうした……」
と、私が粘りついた声を発した時です。ブーッっと妻の携帯が震えたのです・・・・・。