小説本文



 
 股間に顔を埋め、大きく息を吸う。確かな匂いを嗅ぎとって、敏男の身体が粟立っていく。そして顔を上げると、その卑猥なショーツを奪うように剥ぎ取った。
 敏男は夢にまで見た早苗の身体…その肉厚に頬ずりしながら体臭を嗅ぎ、舌を這わせ、揉みしだいた。
 朱い唇からは「あぁッいいッ!」と想像以上の鳴き声が上がっていく。敏男はその声に興奮を覚え、更に気を入れた。
 感泣の声は物凄く、その成果が自分の手…いや、舌?…よく分からないが、敏男はとにかく喜びを感じていた。そして…。


 (さぁよく見せてよオバサン…)
 心の声を投げ掛け、両方の掌を拡げた足の付け根辺りに当てた。
 (あぁ見てやる!オバサンのアソコをじっくり見てやるんだ!)


 敏男は黒マスクを着けた時から、声を出さないようにしていた。特に上野からの注意はなかったが、素顔を曝して声を聞かれるのには抵抗があったのかもしれない。
 それと、自分は素顔は見せずに相手の正体は知っている…そんなシチュエーションにも興奮を感じていたのかも知れなかった。


 よしっと心で頷き、掌に力を入れた。 “その”部分を拡げて顔を近づけた。初めて拝む憧れの女(ひと)の…。
 と、思ったところで、ん!
 マスク越しに見えるのは…赤黒い…?
 どうガン見しても、ハッキリとは分からない。


 (ああっもう)
 演出に一役かっていた筈のこの黒マスク。それは間違いないが、目の部分は確かに前が見えずらい。


 仰向けになった乳房の隆起は良く分かる。
 喘ぎの声も聞こえる。
 しかし、その秘密の部分が…。
 頭の中で先ほどの上野の言葉を思い出す。
 『~素顔を見せ合ったら気が狂っちゃったりして…』


 「んああッーー」
 突然唸り声を上げ、自分を鼓舞した。
 狂え!
 狂え!
 狂え!
 その瞬間、大きな手が早苗のマスクに向かった。
 首を締めるように下顎に手をやって、布と皮膚の間に指を入れた。そのまま口から鼻の方へと剥いでやった。


 現れたのはベットリ前髪が掛かった女の顔。マスク越しに分かるのはそんなところで、敏男は早苗の様子を伺う余裕もないまま、自分のマスクに手をやった。
 マスクを外した敏男は、意を決して早苗に素顔を曝す。さぁ見てくださいよと、顔を近づけた。
 敏男を見上げたその目は、まだ焦点があっていない。敏男は早苗の顔にへばり付く前髪を乱暴に振り払った。


 ゴクリ…唾を呑み込む音が、自分の耳にもハッキリと聞こえた。その音に早苗の目が静かに開いていく。
 やがて二つの目が重なり合って…。
 その瞬間「いやぁーーんッ」信じられないような大きな声が上がった。
 その叫びは敏男の背中を押した。


 そうなんだよ!
 俺はどうせ悪役なんだ!
 悪役は悪役らしく、その身体をメチャクチャにしてやる!


 「ヒーーーヒッヒッ」
 奇声を発して敏男がムシャブリついた。
 「オバサーン、オバサーン、優作のオバサーン」


 アソコを思い切り拡げてやる。その赤黒いグロテスクな生き物を見届け、しゃぶり付く。その次は唇、そして胸房へ。そして又、胸からアソコへと唾液を撒き散らす。
 先程から硬度を携えていた肉の棒は、秘密の泥濘を探し当てた。肉棒はそれだけが別の意識を持った生き物のようになっている。その先っぽが入口を捕らえたのだ。早苗の目がこれでもかと拡がって、敏男の顔を凝視した。
 トシオクン…声のない唇の動きを確かにそう認識して、敏男の口が異様な形に歪んだ。
 「そらッ」
 「あうっ!!」


 ソレは見事に泥濘を突き刺した。後はひたすら腰を振るだけだった。組伏された女は、抱きしめられながら爪を立ててきた。
 上野の言葉が甦る。
 そうなんだ、この女(ひと)はオマンコしたかったんだ!
 誰のチンボでも良かったんだ。
 けど…。
 けど、俺の物で、俺の女(もの)にしてやる!


 「どうだオバサン!」
 「あーーっ」
 「俺のチンポは!」
 「ウアアア…」
 「どうなんだよ。ちゃんと答えろよ!」
 「んんッッッ…い、言えない…言えないわッ」
 「なんだと!ほら!」
 「ああっいい…」
 「もっとハッキリ!」
 「いやんッ、許してッ!」
 「ダメ!好き者のくせによ!」
 その叫びと同時に、敏男の腰にギアが入った。
 「ヒィーーッ、いいッ!」
 「オラ!オラ!どうだ!」
 「いいッ…いいのよ」
 「もっとーー」
 「いいッいいッ、いいのよとっても!」
 「誰のがーー」
 「いゃあんッ」
 「言えーー」
 「あーッ敏男君、敏男君のよ!」
 「うおおーッ」
 巨体から一斉に汗が噴き出すのを感じた。その感触に、敏男の目が血走った。


 「そら、もっと欲しいだろ。欲しかったらオネダリしてみなよ。嫌らしい声で言ってみろ」
 「んああッ、いいッいいッ、ちょうだい…ください…もっとして!」
 「まだまだ!」
 自分自身の言葉にも煽られ、敏男の腰は更にエグい動きを繰り返した。


 「ああんッ、いいのよ、敏男君のオチンポが」
 「バカ!オバサンは変態なんだからオチンポなんて上品な言い方するんじゃないよ!」
 喘ぎの声を吐き続ける早苗。それに応える敏男の興奮も上がっていく。


 「抜くぞ!ちゃんと言わないと俺のチンポ抜くぞ。欲しくないのかよ!」
 「いやッいやッ、止めないで。ちょうだい。お願い!」
 「じゃあ言えよ!宣言しろよ!」
 「ああっチンポよ!アタシの好きなのはチンポよ!敏男君のチンポ!」
 「んがーーッ」
 雄叫びのような声を上げて、敏男のソレがこれでもかと抉り込んだ。
 「いくッいくッ、敏男君、気持ちいいッ!」
 「んぐぐ」
 射精の近づきを感じて、敏男は鏡に目を向けた。何とか我慢しようと、静かに息を吐く。
 敏男は呼吸を整え、冷静に次の攻めを考えた。


 二つの身体の結合の部分。敏男の手が早苗の内腿を押し広げて、腰を少し引く。目に付く結合の箇所を見ながら、肉の棒を半分くらい抜いて息を継ぐ。
 片方の肢を器用に押し曲げて、次に早苗の脇腹に手を入れた。かと思うと、クルリと回した。ソコとソコが繋がったまま、後背位の格好(かたち)へと導いたのだ。
 敏男の目は張り出た巨尻を見下ろす。その真ん中辺りには巨大な臀部には似合わない小さな不浄の門。そこを凝視して、敏男の表情(かお)が歪んだ。


 (まだだ。その穴はまた今度…今日はお預けだ)
 いつかの“ソコ“での交わりを想像しながらも自分に言い聞かせる。
 (今日はマンコだ。こっちの穴で完全に俺の物にして…その次だ)


 敏男は気を入れ直して、犬の格好になった早苗を攻め始めた。
 牡の象徴がぶつかる度に、弾むように揺れる尻(ケツ)。喘声が止む事はない。


 「おらっ、どうだオバサン」
 「あぁッあぁッいいのッ」
 「ちゃんとどこがいいのか、言えよ!」
 大きな掌が巨(おおき)な尻(ケツ)を一打ちした。
 「あぁーマンコよ、アタシのオマンコよっ」
 そんな卑猥な声を吐き出す顔は、敏男の方からは見えない。けれど確かな、苦悶の表情を浮かべる事が出来て、更に腰に力が加わっていった。
 と、敏男は思いつき、前屈みになって早苗の頬に手をやった。


 「オバサン見てみなよ鏡を」
 朦朧とした顔を鏡に向けてやる。
 「見えるだろ、俺とオバサンがセックスしてる姿」
 「いゃあーんッ」
 「へっ何がいゃぁんだ、さっきから感じまくってるくせによ」
 「あぁッそうなのよ、感じてるの!」


 鏡の中の女を見ながら、早苗は己の被虐の癖に酔うように堕ちていった。
 獣の格好の自分を犯しているのは、子供の頃から良く知っている男。その逞しい“男“に逝(い)かされる自分の姿を鏡越しに認め、その敗北の意にさえも快感を覚えていた。


 「ああっ凄い!凄すぎる!凄すぎるわ敏男君!」
 「どうだーいいだろ俺のチンポは!」
 「あぁーはい!いいです!凄くいいです!」
 「もっと欲しいか!どんな風にしてほしいんだ!」
 「もっとズコズコしてッ!早苗のオマンコ虐めて!」
 「んがーッ」
 腰を振る敏男の巨体が、一瞬血の気の引きを感じて、それから震え出した。
 早苗の口が、自らを“早苗“と呼んだ。その言葉を確かに耳にした瞬間、敏男は憧れの存在を我が物にしたと思ったのだ。
 その朱い唇からもっと卑猥な言葉を吐かせてやる。
 高鳴る興奮を覚え、敏男の顔がますます歪んでいく。


 「早苗ーーっ、見えるぞ!俺のチンポがマンコにズッポリ入ってる所がマル見えだぞ!」
 「ああッはい!気持ちいいです!」
 「出すぞ!欲しいか!俺のが!」
 「はい!出して!出して下さい!」
 「どこだ!どこに出して欲しい!」
 「マンコ!アタシのマンコに!アタシのオマンコに出して下さい!」
 「こら!鏡に向いて言え!嫌らしい自分の顔を見て言うんだよ!」
 敏男の掌がふたたび巨尻の面(つら)をバシッと打ちつけた。「あぁんッ」と鳴いて、早苗の顔が鏡に向く。


 鏡を見つめる早苗の目。
 早苗の頭の中に己の声が聞こえてくる。


 嫌らしい顔してる…。
 感じてる顔…蕩けてる…。
 アタシ…こんなスケベな顔してたんだ…。
 鏡の中の顔が揺れてくる。
 地響きのように下から揺れてくる。
 敏男の腰が、それまで以上に激しさを増してくる。


 「うっうっ、く、くるっ!」
 「うらあっ!」
 「ひっ!いっいぐッ!」
 「どうだ!」
 「いっいきます!早苗 いきます!」
 「出すぞ!」
 「はい!下さい!早苗のオマンコにいっぱい出して下さい!」
 早苗は鏡の中の自分の顔をしっかり見つめながら、敗北の宣言をした。その宣言は、これまで感じた事のない快楽そのものだった。
 最期の瞬間に自分がどんな言葉を吐いたのか記憶がない。どんな表情で逝ったかも分からない。ひょっとしたら誰にも見せた事のない歪んだ表情(かお)をしていたかも知れない。それでもそんな事など、どうでもいいくらいの悦楽を感じていた…。


 崩れた背中の上で、覆い被さった巨体の鼓動が鳴っている。今、自分を桃源の世界に運んだ男の息づかいを確かに感じている。
 やがて…寝息のようなものが零れ始めた…。


 鏡の向こうでは、半ば感心に上野と神田が二人の様子をずっと見守っていた。
 「やるなぁアイツ。途中でマスクも取っちゃうし」
 「うんうん、ここまでやるとは、私もびっくりじゃよ」
 「じゃあ“例の“新しい仕事にスカウトしますか」
 「ん~そうじゃなぁ、人員も足りておらんし、この子ならやってくれるかもな」


 窓ガラスの向こうでは、うつ伏せに突っ伏した早苗。そして、その身体に崩れ落ちたまま荒い息を吐いている敏男。
 神田は二つの塊を優しげな目で見ながら、満足げに頷いていた…。