小説本文




 早苗が由美の部屋で上野の責めを受けている水曜日の夕刻。
 同じ頃、敏男はーー。
 予備校の授業が終わると、優作と顔を合わせないように逃げるようにして校舎を後にした。
 何かに急かされるように向かっているのは、母校であった。
 ヌケサク・・・頭にはその名前が浮かんでいる。


 何故、自分が母校のヌケサクに会いに行こうとしているのか、敏男自身にも説明が付かなかった。先だって優作と一緒に訪問した後、ヌケサクに突き付けた目撃情報。それは本当の事だったが、それをネタに脅してみたのは、優作の母早苗を何とか“モノ”に出来ないかという奥底の想いと“オモシロイ”出来事を期待する遊び心からだった。
 しかし今、その想いは微妙に変化して上野“から”は守りたいという風に変わっていた。俺は今、その為の切っ掛けを探しているのでは…などと、敏男は母校の姿が見えてくる頃になって、やっと自分の気持ちが整理出来るようになっていた。


 校門をくぐりながら、アポイントを取れば良かったかなと思ったりもしたが…いやいや、事前に連絡すれば逃げられたのでは…などと考えながら足を進めた。時刻はちょうど生徒の下校が始まった頃で、心の中で居てくれよと手を合わせる気持ちで職員室に向かった。
 さて、ドアを開けて顔を向けたその瞬間、ズバリと目があった。驚きの表情のヌケサクを見つめて、敏男は自分の方が緊張していると思った。及び腰でその巨体を進め、ヌケサクの前まで来た時には、叱られて小さくなってた昔の記憶を思い出すようだった。


 「どうしたんだい敏男君」
 その声は見事に落ち着いていた。2人の関係は脅してる敏男に、脅されているのはヌケサクの筈なのだが、敏男の目にその姿は堂々しているように見えた。敏男は「あ、あの先生、ちょっと…じ、時間ありますか」と強張った声で聞いた。
 「ああ、いいよ」あっさりと返された声に、敏男は安堵の溜め息を吐き出した。
 それから連れていかれたのは、空いた教室の一つだった。そこで敏男は、先日の無礼・・コンビニで早苗が車に乗った所を見たのは事実であったが、写真に撮ったというのは嘘で、出来心であった事を謝罪した。心の片隅では、ヌケサクと早苗がエッチをしなかったという確証はないが、それでも早苗の方の純潔を信じたいと自分に言い聞かせていた。それでもその純潔を自分の“モノ”にしたいという気持ちは未だに残っているのだが…。


 「で、敏男君が今日ここに来たのは、それだけの事なのかい」
 敏男は大塚のその言葉に、話の切っ掛けを貰った気持ちになって、思いきって言ってみる事にした。
 「はい実は、先生と優作のお母さんの疑惑をつい人に喋っちゃったんです」
 「ん、それは渋谷に…渋谷優作にかい」
 「い、いえ違います。…先生の知らない高校の時の同級生になんです」
 「ん~どうして、そんな事をしたんだい」大塚の声はまだ落ち着き払っている。
 「…あの…それがですね…」
 敏男はうつむき、説教されている気持ちがますます強くなっていった。けれど心の中には、全てを更け出したい衝動が立ち込めていた。そして…。
 「あ、あの…実は俺、その…優作の母さんの事…あの…なんか、その…好きみたいで…昔から…」
 それは小さな声であったが、大塚の耳にはハッキリと伝わった。なので聞き返す事なく、大塚はまさかと思いながらも、心の中で頷いていた。


 「そ、それで上野っていう高校の時の同級生で、ちょっと変わってて、○○駅で危なそうなバイトをしてる奴がいるんですけど、何かその…上手く…優作の母さんと、その…」
 「ちょっ、ちょっと待ってくれるかい。その上野って子がやってる危なそうなバイトって…」
 「え、ええ…その駅にプレイルームとか呼ぶ怪しい部屋があって、そこでその…女の人がその…来るんですけど、そこの受付けなんかを…」
 (ああ…まさか、あの上野君か…前に神田先生からも聞いた事のある…)
 大塚は暫く黙り込んだ。そして、目の前の巨体…そのわりにノミのような心臓しか持たないかつての教え子を見つめた。
 (そうか…大久保敏男は、早苗さんと仲良く…いやいや、もっとハッキリと言えばセックスしたい為に僕を脅して…けど、もっと良い方法を見つけようとして上野君に…それでまた…)


 暫く黙り込んでいた大塚が「敏男くん」と改まって声を掛けた。その声に顔を上げた敏男に続けた。
 「ちょっと出ようか。この間みたいに軽くドライブしながら話そう」
 「へっ?」軽い戸惑いを感じた敏男だったが、目の前で微笑んで見せる顔に頷き返していた。


 車の中ーー。
 見慣れた町並みを車中から眺めながら、敏男の緊張は少しずつ解けていた。
 車が大きな交差点の信号で止まった時だった。
 「敏男君の所はお母さんがいなくて、お父さんとお婆ちゃんだけだったよね」
 返事を待たずに大塚が続ける。
 「それで…いつしかお母さん…のような熟年の女の人に興味を持つようになったのかな」
 大塚の言葉は、敏男に語っているのか一人言にも聞こえるような声であった。が、敏男の方ではどこかカウンセリングでも受けているような気になっていた。
 前を向いたままの敏男。目の端で運転席で唇を動かす大塚を意識しながら、知らず知らず次の言葉を期待している自分がいた。


 「それでね、これから僕の家に行ってみようと思うんだ」
 えっ!と驚く敏男を気にせず、車は走り出した。そして、適当な場所を探して停まると、大塚は携帯電話を取り出し、手際よく何処かに掛け始めた。電話が繋がったのを確認すると、ドアを開けて降りていく。敏男は窓越しに喋り始めた大塚の横顔を見つめた。
 しばらく、それなりの時間を話し終えて、大塚が戻ると敏男に向かって微かに頷いてみせて「うん大丈夫だ。さあ行こう」と言った。


 敏男は隣で運転する元恩師が何を考えているのか理解出来なかった。が、そんな事よりも自分がしたカミングアウトをどう思われたのか、その事が気になっていた。ひょっとしたら呆れられ、軽蔑の対象にされたのか、そんな心配が湧いていたのだ。
 それから暫く予備校の事や世間話をしながら、車は走り続けた。どの位走ったか、車が停まったのは、ごく普通の一軒家…表札には『大塚』とあった。


 「さあここだよ。遠慮しなくていいからね」
 手慣れた動作で車を車庫に納め、敏男を促す声は快活の声だ。いつしか大塚の印象はまさに大人のそれで、敏男は“ヌケサク“という昔の渾名で呼んでいた事が気恥ずかしくなっていた。同時に甘える…いや、慕う気持ちが芽生えて、場合によっては色んな事を相談してみようか…何処かでそんな気持ちも生まれていた。


 通されたのは落ち着いた感じのするリビングだった。自分ちよりも遥かに整理整頓された空間は、さすが大人と尊敬の念さえ覚えるようだった。そんな敏男の様子を察知してか、大塚が明るく聞いてきた「ん、自分の家と比べてる? ここは物が少ないだろ。僕の所は子供がいなくて奥さんと二人暮らしなんだ」
 オクサン・・その響きに、「自分の奥さんの事を人にも“オクサン“って言うんだ」敏男は心の中で呟いてから小声で「奥さん」と言ってみた。


 気づけば大塚が冷蔵庫を開けて、中から何かを取り出してくる。
 目の前のテーブルに置かれたのは、よく知る銘柄の缶ビールだった。
 「高校を卒業したからもう大丈夫だろ。僕は帰りも君を送らないといけないから烏龍茶にしとくけどね」
 せ、先生、ビールは一応二十歳(はたち)からですよ…心の中で応えながらも、遠慮気味にグラスを手に取った。
 大塚がビールを注ぎながら「適当にアルコールが入った方が本音を言えてスッキリするから用意したんだよ」
 ああ、なる程と敏男は納得の頷きを返し、その液体を口に運んだ。


 暫く他愛のない話しが続く中で、敏男は自分が大して酔っていないと自覚していた。先ほど、学校で優作の母早苗に興味を持っている事をカミングアウトしてから、その緊張がしっかりと続いていた。
 何となく今日のこの流れがどうなるだろうと思った時である。それまでリラックスしていた大塚の目が、キリリと敏男を見つめてきた。それは、敏男の酔い具合を確かめているようでもあった。


 「敏男君、君は渋谷優作のお母さん…確か早苗さん…が好きなんだよね」
 「うっ!」改まった口調で聞かれ、敏男はビールを溢しそうになった。
 「うんうん、さっきも車の中で言ったけど、母親のようなイメージで人に好意を持つ気持ちは理解できるよ」
 「………」
 「早苗さんの事は知ってると思うけど、一時期僕と同じ職場で一緒に教師をやっててね。彼女はその頃からとてもモテてねぇ。ほら、今もそうだけど出る所は出てるし、引っ込む所は引っ込んでるし」
 「え!!」敏男は大塚の口から出た言葉、それと、その声の変化に一瞬呼吸が止まった。


 「何を驚いているんだい、本当の事だろ。うんうん、あの体付きを見たらムラムラてしくるのが当たり前さ。だから君は正常なんだよ」
 「せ、先生…」と後を続けようとした敏男であったが、その言葉に被せるように大塚が続ける。
 「ズバリ聞くけど、君は早苗さんとセックスしたいと思っているよね」
 「ううっ!!」まさに呻きを上げて、敏男の身体が硬直した。
 「ふふ、でもね、敏男君」
 目の前の恩師が、得体の知れない妖しい生き物に見えてきた。その妖しい口調がそのまま続けた「いわゆる熟女、コレは味があってねぇ、若者にない良さを持っているね。間違いなく早苗さんも持っているけど、実は他にもいるんだよねえ、エロいものを持ったのが」
 瞬間、背筋にゾゾゾっと寒気が走り抜けた。同時にいつかの上野の言葉が木霊(こだま)のように聞こえてきた。
 他にもいい女(ひと)いるし。
 いい女(ひと)いるし~。
 いるし~。
 いるし~。


 「ああっ、くそっ」
 「ふふ、どうやら図星のようだね、敏男君」
 「………」
 「それでね」
 「………」
 「今日はね、君の願望と…ふふ…僕の願望をも叶える方法を思い付いたんだよ」
 「………?」
 「さあいいかな、立ってごらん。そして、そこの部屋の扉を開けてごらん」
 「………」


 暫く固まっていた敏男であったが、何かに導かれるように立ち上がった。そして、強張った指で扉をゆっくりと開けてみた
 目に映ったもの……。
 六畳程の部屋にはセミダブルのベッドが置かれていた。その前には、初めてみる女性ーー熟年のーーが立っていた。
 「ふふ、コレが僕のオクサン…」
 肩越しから聞こえた声には、妖しい匂いが混じっている。


 「ふふ、この女は真知子って名前で、歳は早苗さんと同じ位かな。こんな大人しそうな顔をしているけど、本当はとてもスケベでね。いつも嫌らしい事ばっかり考えてるんだ。それでしょっちゅうアソコを濡らしてるんだよ。分かるよねアソコって…そう…」
 「ああ…うぅ…」敏男はゴクリと唾を飲んで、そして身体の震えを意識した。その敏男に冷たい声が続く。
 「へへ、それにこの女、脱ぐと結構いい身体してるんだよ。君もきっと気に入ると思うよ」
 敏男は、恐々振り返った。そこには敏男の知らない恩師がいた。その表情から妖しい声が振り掛けられた。
 さあ~
 さあ~
 さあ~


 敏男は見えない力に押されて一歩踏み出した。女はそれを見て、胸元のボタンに指を掛ける。
 「うふふ…貴方も逞しい身体をしてるわね。アタシはちょっとオバサンだけど、結構いけてるわよ」そう言って女が、静かに服を脱いでいく。
 「敏男君、アタシは真知子。真知子のアソコ…ふふ、オマンコもね結構締まりがいいわよ。ふふふ、由美さんにも負けなてないし…ふふ、早苗さんにも負けてないと思うわよ」
 (んあーーー)敏男の心に叫び声が上がった。
 気づけば真知子の足元には、次から次へと服が脱ぎ散らかされていく。


 やがて、一糸も纏わない見事な裸体が現れた。
 豊満な乳房。
 波打つ横腹。
 艶かしい下腹の歪み。
 逞しい太腿。
 股間に聳える濃い陰毛。


 敏男はゴクリと唾を飲み込んだ。記憶の奥から、いつもコンビニで目にするエロ本の表紙が現れた。
 (あぁ…一緒じゃん…普通の主婦…何処にでもいるオバサン…エロ本と一緒じゃん…)


 「うふふ、お尻も自慢よ。さぁ見てアタシの巨(おおき)いのを」
 くるりと背中が向いて、屈んだかと思うと、その“巨(おおき)い物“がグイっと突き出てきた。敏男はもう、飲み込む唾もないのか、口をパクパクさせて、ただ唖然とそれに目を奪われた。同時に股間にキューっと血が廻って行くのを感じた。


 「どう?やりたくなってきた? 勃(た)ってきたの」
 小バカにしたような声を吐き出しながら、真知子が再びくるりと敏男を向いた。


 その時、耳元から再び妖しい声が聞こえてきた。
 「さあ敏男君、遠慮せず君も服を脱ぐんだ。この女はね、何をやっても平気だよ。マンコはもちろん生でいいし、後ろの穴も大丈夫だから。ほら、僕の事は気にしないで君も早く脱いで…。男と女はいつも素っ裸になって粘膜の擦り合いをするんだよ。ほら…」そう言い終えて、大塚がスッと離れる。敏男は怖々服を脱ぎ始めた。
 「敏男君、僕は君達の交わりを覗かせて貰うからね」
 大塚が、開いたズボンのファスナーから一物を取り出し、ソレを握る。そして、ソロリソロリと後ずさると、扉は僅かな隙間を残して閉じられた。
 敏男は妖しい視線を感じたまま、また一つ前に出た。既に、敏男は産まれたままの姿になっている…。




 再び由美の部屋ーー。
 その恥態は薬の効き目によってもたらされたものなのか、清楚だった熟女は性獣のような喘声を発していた。洋服は全て脱ぎ散らかされ、手首の戒めは既に解かれていたが、その手は今は己の腿裏を掴む形で荒縄でシッカリと結ばれていた。汗みどろの下半身では、淫列がこれでもかと拡げられ、その泥濘(ぬかるみ)の中心には黒い性具が深々と突き刺さっている。
 もう何度と気をやった早苗であったが、次から次へと襲ってくる快楽の波に、身体は悲しげな反応を繰り返すだけだった。


 早苗を見下ろす位置では、全裸の由美が早苗の有り様を一部始終カメラに納めている。由美の太腿には、上野の残り香がベットリへばり着いている。
 上野は一物をブラつかせながら、早苗の様子を伺っていた。


 「どうかなオバサン、電動バイブの味は?何回も逝ってるから嫌いって感じじゃないよね」
 相変わらずのひょうひょうとした声に「いゃあん、いゃあん」早苗は眉間に皺をよせて、喘ぎの声を続けている。


 「どう?そろそろ降参?本物が欲しい?」
 勝負しているつもりなど初めから無いのだが、早苗の顎はカクンカクンと頷きを繰り返した。それでも上野に意地の悪い色が浮かぶのは、親の敵(かたき)、いやいや、目の敵(かたき)ーー早苗の息子優作ーーに対する怒りをぶつけてる意識があったからか。
 「オバサンさぁ、欲しいんだったら、そのバイブを咥えた格好のまま“宣言“してみなよ、我慢大会も終わりにしてあげるからさ」悪魔的な落ち着きで上野が告げた。


 バイブの振動に合わせて小刻みに揺れる臀。その臀があたるシーツの周辺からは、生臭い淫臭が立ち昇っている。
 「あぁ…なんで…いゃあん…」切れ切れの声は、何を今更と上野を責める声でもあった。
 ニヒルな歪みを口元に見せて、上野がバイブを又一押ししながら言う「へへっ、俺って結構サデイスティックでしょ。…さて、そろそろオバサンの口から聞かせて貰おうかな。若いチンポ欲しいーっとか、私は淫乱女ですぅーっ、なんて言葉をね」
 「あぁんっ意地悪ぅー。…言うっ、言います、言いますから」
 「そうそう、さあそれっ」
 「ア、アタシは若いチンポが好きな淫乱女なんですっ、早くっ、早くちょうだいっ」
 「そうそう良いねぇ。でもまだダメだよ。次はね、私は元同僚の男性教師とカーセックスをするのが好きな変態女です。さあ言ってみよう」
 「いやぁん、そんな事!そんな事してませんっ」
 「ん、そうなの?別にしててもいいんだけどさ」
 隣の由美に笑い掛けて、上野の顔にはこれまで以上のサデイスティックな色が浮かぶ。そして、バイブをより深くねじ込んだ。
 「ひいぃー!いやあーん!いいーー良いのぉ」
 「そうそうその調子。その“乗り“で続けて行ってみようか。次はね、私は息子の元同級生とセックスします。若い男のチンポが好きな淫乱女です、って」
 「おぁあっ!んーんー、言いますっ、言いますからっ」
 そうして早苗は、見事に悪魔的な宣誓をした。バイブを抜かれたソコからは、潤滑の油が溢れ出てくる。
 「あぁ…早く、早く、お願いします」
 トロトロの瞳に迎えられるように、上野が近づいていく。股間では巨大な塊が硬度を蓄えていた…。




 再び大塚晋作の家ーー。
 敏男は腰を振っていた。夢中になって振っていた。
 背中に妖しい視線を感じるまま振っていた…。


 もう既に何度と精を放出していたが、その後の余韻に浸る暇もなく襲ってくる真知子の懇請。
 萎みかけたぺニスを咥える口。
 若い乳首を吸う紅い唇。
 睾丸を揉みほぐす白い指。
 終わる事なく繰り返す勃起で、敏男は飽きる事なく挿入を繰り返していた。


 「あぁ…そうだよ敏男君、どうだい真知子のオマンコは。まだまだ、もっともっと君の精液を注いで、マンコをいっぱい汚しておくれ」
 扉の隙間から覗く目。その隙間からはっきり聞こえる物怪(もののけ)の声。その声に背中を押されて腰を振る敏男。敏男は魔物に乗り移られて、腰を打ち込んでいたのだ。




 同じ水曜日。
 夕暮れから夜へ…。
 自宅の優作。
 (母さん、今ごろ楽しんでるかな。確か高田さんって、俺の記憶だといい身体付きしてたよな、へへへ。それにしても敏男の奴、最近俺を避けてるよな。ちえっ!)
 一人ぶつぶつ言いながら、早苗が作った料理をチンして食べる優作…。