小説本文



 
 リビングの早苗は、四つん這いの格好のまま扉が左右に開く様子を、不思議な感覚で目で追っていた。
 扉が人が通れるくらいに開くと、暗がりが現れた。早苗が、その闇の中に人がいる…と思った途端、目の前を別の影が立ち塞がり、視界を遮られた。
 早苗はその人影の後ろ姿を見上げた。


 優作は扉を開け、前に踏み出そうとして、いきなり現れた影に立ち止まってしまった。部屋の光は逆光となり、それが何者かは分からない。
 人影の口がニヤリと歪んだ…気がして、優作は身構えた。と、優作の思考は影を“アイツ”と認めて…。
 「お、おまえ…う、上野か!」と叫んだ瞬間、鳩尾が強烈な痛みに襲われた。上野のパンチが優作の腹にめり込んでいたのだ。


 早苗は上野の足元に倒れ込んだ男を、黒マスクの奥からじっと見つめた。すると、男のシルエットが記憶にある人物ーー息子優作と重なって…。その瞬間「いゃーッ!」と雷のような叫びを上げた。
 少し遅れて「ダメじゃないか上野君!」廊下から大塚が飛び込んできた。
 大塚が、腹を抑えて呻く優作の肩を抱く。早苗は身体を曝したまま、呆然としている。


 「うんうん大塚さん、悪いけどその短小君を邪魔しないように押さえといてね」
 ふてぶてしい顔のままで、上野が唇を歪める。そして、その顔を早苗に向けた。
 「早苗!」
 いきなり上野が声を荒げた。しかし直ぐに、小バカにした口調に変えて話しかける。
 「オバサ~ン、大久保のアレ、勃たなかったねぇ、欲求不満だよねぇ」


 まさかの息子の登場に、早苗の身体は震えを起こしていた。そして、『早苗!』と呼ばれた事実が息子に伝わったと思えて、身体と心は深い沼の奥底に沈んでいく感覚を味わっている。
 そんな早苗の事などお構いなく、上野が「ふふっ、早苗はやっぱり俺の物だな」勝ち誇ったような呟きを漏らした。
 早苗の口からは「あぁ…」嘆きの声が落ちていく。


 「ふふ、じゃあ息子の前で1発やるぞ」
 いつも高鳴りを運んできていた上野の冷たい声にも、この瞬間、早苗の身体は震えを増すばかりだ。
 「ほら立てよ」
 「……….」
 早苗は黙ったまま小さく首を振る。


 「早くしろよ。まさか決心が揺らいだわけじゃないだろ」
 「あぁ…ん」嘆きを溢し、それでも早苗は優作を横目に見てから、上野に恨めしそうな顔を向けた。
 「よし、マスク取ろっか。素顔の対面をした方が諦めも早くつくじゃん」
 いつものアッサリとした口調に戻って、上野の顔が早苗、そして優作に向いた。
 優作はしゃがみ込んだまま、苦痛に歪む顔を上げた。その瞳には怒りが浮かんでいる。しかし、涙と哀しみも浮かんでいる。その目の前で、上野が早苗のマスクに手を掛けた。


 いきなりマスクを剥ぎ取られ、早苗の貌は一瞬の清涼を感じた。額にヘバリ付いた前髪の隙間からは、大塚に支えられるようにして座る若者の様子が窺えた。
 (あぁ…ごめん…優作…ごめんね…)
 と、懺悔しながら顔を伏せた瞬間、凄い力に身体が引き上げられ、そして。
 あっ!と思った時には、唇を奪われていた。


 上野は唇を塞ぎながら、唾液を送り込んだ。腕の中で暴れようとする肢体を逃さぬように、抱きすくめた。やがて、早苗の力が弱まっていくのを感じて、それに合わせて唇を吸う力を増してやった。早苗の鼻から甘い吐息が漏れたのを感じた時には、横目で優作の様子を探った。
 へへへっと心で笑い、重なる唇から濁音を鳴らしてやった。
 ブチュ、クチャっという粘着音を意識して聞かせて、もう一度優作の様子を確認した。
 一旦唇を離し、ふふっと鼻で笑って上野は、早苗の肩を掴むと押し込むように、膝まずかせた。


 早苗の目の前には上野の股間。
 上野が鼻唄混じりに服を脱ぎ始める。上着を手際よく脱ぐと、続けてジーンズと靴下を脱ぎさった。
 パンツ1枚になったところで、改まったように優作に顔を向けた。
 不敵な笑みを浮かべ、その笑みで今度は早苗を見下ろす。


 膝立ちの早苗は、チラリと顔を浮かせて股間の膨らみを認めた。その目で上野の様子を探ると、冷たい眼差しが見返してきた。
 冷たい視線は、早苗の中に隷族の意識を甦らせる。
 上野がふっと手を差し出した。早苗の頭の中に靄が掛かり、視界が狭まっていく。やがて、フラりと早苗の手は上がり、上野の手に重なった。そして、その指が上野の股間へと導かれた。
 早苗の手はソロリとパンツを下ろそうと…した所で、小さく首を振った…ように見えた。
 「あらら」
 上野が呆れたように肩を竦める。
 しかし直ぐに、唇を歪めて「しゃあねぇなぁ。じゃあ、チョイと面白い事を教えてあげるわ」
 「……….」
 「そこで伸びてる息子君。自慢の息子の優作君はねえ、実はこの間、オバサンの友達の由美さんとオマンコしたんよ」
 「ええっ!!」
 俯いていた早苗の目が、驚きに見開いた。同時に優作の顔も跳ね上がった。


 「うんうん、予備校の勉強の合間にエロ画像を見ていた息子君は、ついに我慢が出来なくなって、本物の女に手を出したんよ」
 「アアーーッ」
 早苗の口から、凄い叫びが上がった。
 優作の方は、その事実が何故上野の口から出たのか、そんな事を考える余裕などなく、ただ震えを感じた。
 二つの驚きの顔を交互に見やり、上野がシレっと笑う。
 「ネットの画像も熟女ばっかりだったよね。うんうん、息子君は年増好きの熟女好き、と言うことよ」
 息子の性癖を結論付けられ、ショックで早苗の頭が拝むように突っ伏した。


 上野は沈み落ちた姿を少し見下ろしてから、もう一度早苗の手を取った。そして、改めて自分のパンツの端を掴ませた。
 早苗がゆっくり顔を上げる。素顔の中、瞳は涙で濡れている。
 ほら…濡れた瞳が、上野の唇がそう動いたのを感じ取った。すると、早苗の手が何かに導かれるようにパンツを下ろし始めた。


 露(あらわ)れたソレを目にした途端「あぁ…」早苗の目から、涙が一粒流れ落ちた。濡れた瞳は烟(けぶ)って、上野を見つめる。
 「しゃぶれよ」
 若き情人の冷たい言葉。その言葉は、早苗に傀儡のスイッチを入れた。
 早苗の唇が牡の象徴に寄せられていく。肉の棒を咥え…ようとして、早苗の目は一瞬、息子ーー優作に向いた。しかし、目に映った姿は、直ぐに残像と変わり、意識の再奥に封印されていった。


 早苗はチロリと舌を出して、ソレを舐めるとゆっくり咥え込んだ。口の中には独特の臭いが広がっていき、途端にその臭いが懐かしく思えた。
 口の中のソレは直ぐに硬度を蓄え、その変化も自分が身につけた…身に付けさせられた口技の一つと思うと、言いようのない感嘆の想いが沸いてきた。意識の中、息子の姿は完全に消えてしまっている。
 唇を先っぽから奥へと動かしながら、時おり上辺使いに主を見上げる。
 情人の視線は支配者のもので、早苗はその視線に見つめ返されると、秘所に潤いが沸くのを感じた。


 いつの間にか雨が止んでいた。部屋の中には雨音に代わって、早苗がふんふんと鼻を鳴らす音が聴こえている。そのリズムに乗るように、早苗の口使いが激しさを増していく。
 やがて「ぷぁぁ…ッ」と、早苗がソレから口を離し、見上げた。
 上野は女が男に示す性愛の行為ーーフェラチオに早苗が夢中になったのを確信して、改めて優作に顔を向けた。


 「渋谷!」
 上野の冷たく力強い声。優作の肩がビクンと震える。
 大塚が優作の肩から手を離して、腰を上げた。
 「お前の母ちゃんはよぉ、どうも前々から欲求不満気味らしくて…」
 「……」
 「それを紛らわす為に勉強会なんかにも力を入れてたらしいけどよ…」
 「……」
 「けど、息子の方が受験に失敗するわで、色々悩みが増えたりしてな」
 一息ついて、上野が口元を歪ませながら、優作の目を見つめる。優作の充血した目は、怒り半分、悲しみ半分であったが、徐々に悲しみの方が増していく。


 「それでな、早苗には元々マゾの資質があってな。この女…若い時は旦那にでも“その手”の責めを受けて気持ち良い想いをしてたんじゃないか…って言うのは“ある人”の意見なんだけどよ」
 そこまで云って、上野が片笑みを浮かべる。


 上野の『旦那のその手の責め』それを聞いた優作の心の奥を、不穏なざわめきが襲ってきた。
 上野はそんな優作の様子など気にせず続ける。
 「で、お前の部屋のパソコンを早苗と一緒に見せて貰っただろ」
 優作の真っ赤な顔が、苦しみに歪んでいく。


 「パソコンの中から、お前が視てきた熟女のやらしい画像の履歴を見つけてよ。お前ら母子の性癖が似てる事に納得したわけよ。ああコイツら、母子そろってSMに興味がある変態だわって」
 優作は耳を塞ぎたい気分だったが、言葉は確実に頭の奥まで染み渡っていた。そんな優作の目からは、再び涙が溢れ出した。


 「早苗はなぁ、そのパソコンを俺と立ちバックで嵌めながら見てたんだぜ。この女、やっぱりマゾ気質の変態だって思ったよ。息子の見たエロ画像を見ながらアソコを濡らすんだからよ」
 「!…」


 「さてと、早苗。じゃあ、お前の好きなバックでやるか」
 そう云って上野が、肉の巨棒で早苗の頬をピタピタと2,3度打ち付けた。
 早苗は烟(けぶ)る瞳で、ソレを見つめる。


 「ほら早くしろよ、早苗」
 いつもの無愛想な声が飛んできた。早苗はいそいそと手を付き、四つん這いの格好をとった。顔は扉の方、優作に向いている。


 「へへ」
 笑いながら上野が、目の前の割れ目に指を入れて確めた。
 「くくっ、渋谷よお、お前の母ちゃんのマンコ、思った通りびしょ濡れだぜ」
 「!…」
 「じゃあ早苗、見せてやろうぜ息子君に俺達が愛し合う姿をよっ」
 声が言い終わる瞬間には、早苗のソコはこれまで以上の熱さを感じていた。そして直ぐに、打ち込まれてくる衝動に歓喜の声を吐き上げた。


 優作は耳を塞ぐのも忘れ、何かに取り込まれたように目の前の女の姿を追っていた。そこに居るのは、自分が知ってる母ではない。しいて言えば、幼き日の記憶にある、男の折檻に随喜(ずいき)の嬉し涙を流していたあの女だ。
 その時、優作を見つめていた大塚の口元が歪んだ。
 大塚の視線の先から、もう一人の女が現れた。何も身に着けない全裸姿の女。


 「あぁ…由美さん…」
 女のシルエットを見て、優作が呟いた。
 優作の呟きに女が笑みで返す。
 「うふふ…優作君、アタシ、由美じゃないわ、真知子よ。アタシも由美さんにも負けないくらい良い“物”を持ってるのよ。さぁ…」
 真知子が手を差し出した。
 優作は暫くそれを見つめる。やがてゆっくり、手が上がった。
 真知子は優しく優作の手を握ると、立ち上がるように誘う。優作はフラリと従い、二人は見つめあった。そして真知子は、しゃがむと優作のジーンズのファスナーに手を掛けた…。




 廊下の奥の部屋では、敏男が裸のままベッドで仰向けになり、気持ち良さそうに鼾(いびき)をかいていた。
 股間の物は既に萎れ、蔕(へた)っているが、その肉棒の先には満足の余韻がしっかり認められる。
 敏男はどんな夢を見ているのか?その寝顔は満足そのもので、口元の笑みが消える事はない。