小説本文




 優作と由美が会っている頃――。
 突然、渋谷家のインタフォンが鳴った。
 早苗が慌てて立ち上がる。
 モニターに映る姿を見て驚いた。そこに見えたのが大塚だったからだ。


 「…どうして…」
 そう口して、早苗は狼狽を覚えた。
 いつ以来かと記憶を探れば、そんな事より先に浮かんだのは、真知子から聞かされた夫婦の性癖の事。
 僅かな間の中で、頭を巡ったその言葉ーー性癖は今は、自分も身近に意識付されている。そんな一瞬を感じた早苗は、恐る恐るモニターに話し掛けた。
 「あの…何でしょうか…」
 「こんにちは早苗先生。突然に申し訳ない。実は相談があって、いきなり失礼とは思ったんだけど、訪ねてしまいました…」
 その落ち着いた口調に早苗は、更なる緊張を覚えた。この会話を聞いた近所の人なら、普通の挨拶程度に思えるだろうが“正体“を知る早苗には…。


 暫くして、早苗は掠れた声で「…はい…」と返事をした。そして玄関に向かった。
 玄関のドアを開けて更に驚いた。大塚の後ろに真知子がいる。そんな早苗を見ながら、大塚は心得たように云った「ごめんなさいね。どうしても相談したい事があってね」
 唖然とする早苗に、大塚は囁くように続けた「玄関口じゃ、あれなんで…ちょっとお邪魔するよ」
 半ば強引に大塚達が入ってきた。呆気にとられる早苗の前で靴を脱ぐ。早苗はその様子を呆然と見送るだけだった。


 リビングに戻った早苗は、この夫婦をどうしたものかと戸惑った。しかし、取り敢えずは席を勧めるしかないのかと、二人をソファーに促す事になった。
 二人が着座するのを見届けて、早苗も座った。その表情は緊張に陰っている。


 「…あのぉ、大塚先生…お願いと言いましたけど、どのような…」
 まさか、真知子から聞かされた夫婦の秘密…それの口止めに来たのか…。


 「………」
 暫く室内に沈黙が漂った。早苗はその静寂を息苦しいと感じた。その時。
 「早苗先生、このソファー大きくて良いですね。ベッドの代わりになるでしょう」
 「はぁ?!」早苗の口から間の抜けた声が発せられた。
 そんな早苗を見て、大塚が改まった声で話し始めた。


 「いやいや、今日お邪魔したのはね。先日真知子の事を調べて貰ったでしょ。それでね、早苗先生からの報告では、妻は通ってるサークルでそれなりに楽しんでる。そう言う事だったよね。貴女は真知子が『欲求不満を払拭するように楽しんでいた。解放出来る所にいる』とか言ってたよね」
 大塚の言葉に早苗の身体が金縛りにあったように硬くなっていく。
 「それでね、僕はその時、実は物凄く興奮を覚えたんだよ」
 「えっ!」
 「うん、その後にも妻のカミングアウトを聞いたと思うけど僕はね、妻が僕以外の男とセックスするのが嬉しくてね」
 あぁ…ちょっと待って…そう口にしようとしたが、動けなかった。硬直が進み、視界が狭まった。しかしその目は大塚の口元に引き寄せられている。


 「………」
 「君は僕を…いや、僕達夫婦を変態だと思っただろ…今も思っているよね…」
 大塚は自ら発した言葉に、自分自身が納得したように頷いていた。
 「うん、それで今日はさ、僕達の性癖をもう一つ知ってもらおうと思ってね」
 性癖…あぁ..またその単語が…。早苗の脳裏にジンジンとノイズが鳴り出した。


 「その“癖“はね…ふふ…たぶん…早苗先生も喜ぶと思うよ」
 ねっとりとした何とも言えない口調で告げて、大塚の瞳が妖しげに輝いている。その横では夫の話しをどんな気持ちで聞いているのか、鈍よりした面持ちの真知子がいる。


 「じゃあ始めさせてもらうね」
 大塚が言うと、隣の真知子がスッと立ち上がった。そして何をしようと言うのか、バックから何やら取り出し早苗に近づいた。
 真知子の手には縄が握られていた。そしてそのまま、早苗の膝元に屈み込んだ。


 「早苗さん、ちょっとゴメンなさい」そう呟いて真知子が、早苗の踵を持ち上げた。
 一瞬何事かと思った早苗だったが、重心が後ろに、踵が浮き上がると直ぐに、縄が膝から足首を巻き始めた。
 咄嗟の事に、早苗には大した抵抗など出来なかった。
 そして、縄は乱雑ながら幾重にも回っていく。早苗の両足は一瞬のうちに縛り挙げられた。


 「ごめんよ、僕も一応教師だからさ。君に逃げ出されてご近所に助けを求められても困るからね」
 「………」
 「じゃあ真知子、始めようか」
 夫の言葉に真知子が畏まったように隣へ行った。


 リビングの中を影が覆ってきた。陽の光がちょうど雲に遮られている。
 早苗は横目に南側の窓を見た。薄いレースのカーテンがかっちり閉じられているのを確認して、どこか安心する自分がいる。


 「早苗先生、どんな事があっても目を逸らしちゃダメだよ」
 大塚がシャツを脱ぎ始めた。それから少し遅れて、真知子の手が上着に掛けられた。


 (…なに…なんなの…)
 目の前で信じられない事が始まろうとしている。
 (…あぁ…うそ…うそでしょ…)
 体温が一気に上昇していく。
 発汗が起こりザワザワした不穏が沸き立ち、しだいに身体がブルブル震え出した。
 目の前の二人は、既に下着姿になっていた。


 「さぁ見てておくれ。しっかり目を開けてておくれよ」と、大塚の口元が歪んでいる。
 真知子が夫の足下に膝まづいた。その目は夫の股間を見上げている…早苗にはそう見えた。
 何の躊躇もなく、真知子の指が目の前にあるパンツの端に掛かる。そしてあっさりと下ろされた。
 テロんと顔を出した“ソレ“を横目に捉えて、早苗は顔を背けた。


 「あぁ快感だよ。知り合いの人の前で下半身を曝すなんてさ。…さぁ早苗先生、よそ見しないで見ておくれよ、僕の“コレ“を」
 早苗は伏し目がちに“ソレ“の気配を感じて、更に顔を臥せた。


 「さぁ次は真知子だ。真知子の裸はどうかな」
 熱に魘(うな)されたような声が、隣の真知子に向いた。
 立ち上がった真知子が、早苗を見下ろしながら云う。
 「ねぇ、早苗さん。私の裸も見てね。…言うことを訊かないと…ふふ“彼“から御褒美を貰えなくなるわよ」
 ああッ!と電流が走ったように早苗の顔が跳ね上がって、声の方を向いた。
頭の中に\”彼”という言葉が舞って、唇はワナワナと震えだした。そして、心の中で小さく「知ってるのね」と問いかけた。


 「早苗さん分かったかな。貴女は見るのだよ、僕と真知子が交わるところを」
 「うふふ、主人ってどうしようもない人でしょ。この人はね、教師のストレスが溜まっておかしくなったの。それでね、変態的に事をするようになったのよ。貴女も教師をやってたんだから分かってくれるわよね」


 ウウウッと喉の奥から唸りが上がった。
 (あぁ…変態…変態って…私も…私もなんです…)
 椅子に座る早苗の表情。それを見て“何か“を確信したのか、夫婦それぞれの顔には妖しい笑みが浮かんだ。


 「さぁ真知子、全部脱ぐんだ」
 その声にも早苗の顔は沈まなかった。
 早苗は涙目で前の二人を見つめている。


 真知子が黒い上下の下着を脱ぎさった。
 大塚が全裸になった真知子の肩を引き寄せる。
 二人は互いに相手の目を抉るように見つめあうと、いきなり噛みつくように唇を奪いに行った。その獰猛さは溜まっていた欲求を一斉に爆発に導いた。
 ブジュ、グジュ、ジュシャーッ。口元から唾液が飛んで、部屋中に濁音が響き渡った。
 唇を吸い合う音は自らを鼓舞するようであり、見る者に対する煽りでもあった。


 唇を離す二人。
 真知子がしゃがむと目の前にある肉の棒にムシャブリついた。
 鼻の穴を広げ、荒い息を吐き出しながらするその行為は、肉食獣の様相だった。その姿も又、早苗に見せつけると同時に夫婦互いを煽るものだ。


 「あぁっ貴方、凄いわ。今日はいつも以上の硬さよ!早苗さんが見てるからね」
 妻の言葉に大塚の頬が歪む。その醜く歪んだ顔は、如何にも変質者のものだ。


 他人のセックスの覗き見ーあの時以来のー。
 今回はよく知る知人。
 売春婦と客ではない。
 二人とも同じくらいの歳。
 それをこんな近くから…。
 早苗の涙目は渇き、その瞳の奥には妖しい光が灯ろうとしていた。
 知らずのうちに、早苗は膝と膝を擦り合わせている。尿意を我慢するように、疼きを鎮めるように、擦り合わせている。


 二人の粘着は止まらず、密着したまま大塚が真知子の背中に周った。
 後ろから手を回して、胸の膨らみを潰すようにワシ掴んだ。
 「アアッ」
 悲鳴のような矯声が上がった。指の間から飛び出た突起が、見事に尖り勃っている。


 「あぁん気持ちいいっ。貴方、揉んで!もっと強く!」
 「あぁ凄いじゃないか。乳首がビンビンだ」
 「あぁー貴方ッ、アタシの、アタシのアソコ舐めてッ」
 「アソコってどこだっ。早苗さんにも分かるようにハッキリ言うんだッ」
 「いやぁん、マンコ!マンコよッ。ヌルヌルのアタシのマンコよッ」


 大塚の手が真知子の両肩を押すように、そして自らその女体を浴びせ倒すようにソファーに倒れこんだ。
 大塚の手は真知子の股間を押し開くように侵入を試みた。それを待っていたかのように、真知子の股が開く。
 早苗の目には、肉付きのよい腿が左右に割れる様子が映り、その奥に黒い翳りをハッキリと認めた。


 「さぁ早苗さん、真知子のマンコをよく見てやっておくれ。こいつはね、人に見られると直ぐに濡らすんだよ」
 「あぁんッ、見られるのねッ、アタシのオマンコ、女の人に見られるのね!」
 「あぁそうだよ、お前の嫌らしいマンコが見られるんだ!どうだ恥ずかしいだろッ」
 「いやんッ、いやん!」
 首を左右に振る真知子。しかし、言葉とは逆に股座(またぐら)は、これでもかと拡がっていった。
 「あぁん、貴方、早く舐めてッ。いっぱい舐めて!」
 うひひっ、と奇声を発して大塚が真知子の前で膝まずいた。チラリと肩越しに早苗の目線を確認して、ニタっと笑う。妻のアソコを舐めるところを角度よく見せる為なのか、大塚が微妙に位置を変えている。


 渇いた瞳の視線の先。早苗の目はパックリ割れた“ソコ“にシャブリ付く大塚の横顔を捉えた。
 口元から伸びるその舌の動き。何かに取り付かれたようなその表情を晒す元同僚の姿に、早苗の衝動はより一層大きくなった。
 あぁ…これが溜まっていたのね…。真知子に言われたとおり、教師時代に感じた精神を歪める程のストレス。ソレをより長く患(わずら)っていた大塚。その解放の手段が、目の前で行われているこの行為か。


 床には大塚の唾と、真知子の淫汁の混ざった怪しい液体が落ちていく。やがて、口を離した大塚が早苗を振り反(かえ)った。
 「あぁ…早苗さん、凄いだろ真知子のココ。昔はこんなに濡れなかったのに、今じゃこの有り様だよ」
 妻のその様を恥じるいる事なく、逆に誇らし気に話す大塚。
 その大塚がすくっと立ち上がる。早苗の目に映るのは、中年腹の下でニョキっと天を向く牡のシンボル。


 「早苗さん、見てておくれよ。僕のが真知子の中に入る瞬間を」
 あぁ…凄い、凄い、凄いわ…。先ほどから腿と腿を捩(よじ)らせながら、早苗は見つめていた。相変わらず尿意を我慢するように“何か“に耐えるようにして、その行為に引き寄せられている。


 大塚の手が真知子の腿裏に入り、持ち上げるように押し拡げた。そして遂に“ソレ“が、待ち受ける“ソコ“に充(あ)てがわれた。
 その瞬間、又も大塚が振り向き、早苗の目線を確認した。早苗の目に映るのは中年男の臀。そして、股の向こうには真知子の淫烈が見えた。
 そこで早苗はグッと息を詰めた。


 「んあ―ッ」瞬く間に真知子の逝き声が部屋中に響き上がった。
 息を吐(つ)く間もなく、腰が激しく揺れ始めた。
 赤黒い“物“の出し入れの様子を、早苗の目がハッキリと認識する。
 ピンと伸びた真知子の両足の間で、臀が激しく揺れている。早苗はあの大人しかった同僚時代のイメージからは想像出来ないこの男に、改めて“牡“の姿を見せ付けられていた…。