小説本文




  駅に着いた所で、優作は大きく息を吐き出した。身体は微熱があるかのように、高鳴りがまだ繰り返されていた。
 振り返って、先ほどまで居たビルの方角を向いて、もう一度息を吐き出した。それから辺りを盗み見るように首を振ったのは“罪”の意識が生まれていたからか。
 ロータリー沿いのカフェに目が留まって、そこに向かった。逃げるように飛び込んだのも、間違いなく人の目を気にしたからだ。


 席に着いてスマホを手に取った。
 メールを開けてみて、えっと驚いた。
 《優作 俺も着いた。何処にいる?》
 なんと敏男からのメールだ。
 それから10分おきぐらいに続けざまに来ている。
 最後の一通には《もう待ちくたびれた! 帰る!》とある。
 優作は昼前にこの駅に着いてからの時間の経過と、自分の動きを思い出してみた。僅かな差で敏男と行き違ったのか?・・・そんな事を一瞬思ったのだが、今はそんな事より、頭の中は先程の“出来事“に占められていた。


 注文したアイスコーヒーを持ってきた店員にも、俯いたまま応対してしまった。それも又、自分が犯した“罪”から顔を背けたい気持ちがあったからか。
 遙か歳上の女性、しかも母親の友人。その女性、高田由美との出会いがなぜ起こったのか、その理由は説明が付かなかった。


 優作はコーヒーを一気に半分ほど飲み、落ち着きを取り戻そうと思った。それでも直ぐに、あの一室での出来事が甦ってくる。唇はコーヒーの苦味を感じるのだが、あの感触は忘れていない。初めて唇と唇が触れた時の感触。紅い舌が口の中に侵入してきた時の感触。それに、下腹部が暖かい泥濘(ぬかるみ)に包まれた時の感触も覚えている。そして、自慰とは比べ物にならない程のあの時の感触。優作はもう一度由美の顔を思い出そうとした。しかし、浮かんでくるのは熟した肉体の方だ。


 あの小部屋で見た由美の姿態。豊満な乳房に、それに続く下腹とその腰回り。あれこそ“肉感的“と今なら言えるが、あの時はただただ緊張を覚えるだけだった。
 股間の翳りは濃く、それが物凄く嫌らしく見えた記憶もある。太腿の大きさも、あれが自分の好みと今ならハッキリと分かる気がする。そして、あの臀部。自分の中にある癖がどのようなものか知るよしもないが、あの割れ目に顔を埋めたいと思ったのは間違いない。
 顔の辺りはまだ、熟した体臭に包まれている気がする。手にはあの膨らみを揉みしだいた感触が残っている。膨らみの先の突起をしゃぶった唇の感触も。


 優作はゴクリと唾を飲み込んで、こっそり股間に手を置いた。この慣れ親しんだ大きさが“あの時“は異様に膨らみ、反そり勃っていた。
 あぁ…っと静かに吐息を吐いて、もう一度あの泥濘(ぬかるみ)の瞬間を思い浮かべた。フェラチオ・・女性が男性器を口にする性愛の行為。跪(ひざまづ)き“ソレ”を口にしながら見上げてきた由美の顔。その後に初めて感じる事になった津波のような高鳴り。いつの間にか股間がはち切れそうに膨れ上がっている。優作は慌てて回りの視線を確認した。そして何かを振り払うように、コーヒーの残りを飲み干した。


 空になったコップを置いて、小さく息を吐いた。
 頭の中から由美は消えない。
 “事“が終わった後の由美の態度は、どこか飄々(ひょうひょう)としていて、知り合いの息子とひと時を過ごした事など、大した過(あやま)ちと感じていない様子だった。しかし、優作にとっては感慨深い事実であると同時に、過ちであった事も間違いなかった。
 優作はそれから1時間ほどこの店で耽(ふけ)て、街を後にした。


 帰りの電車の中で思い出した。
 スマホを開き、敏男への返信をどうしようかと思った。アイツの悩み・・大した事がないと決めつけていた自分に恥ずかしい気がして、とにかく謝ろうと思った。
 電車に揺られながらメールを打つ。
 《敏男ゴメン! 夜にでも会えないか! 本当にすまん!返信を頼む!》


 それから暫くするとスマホが震えた。
 開けてみた。
 《もう いい》
 短いその返信に直ぐに電話を掛けようと思った。しかし、車内の視線に気づいて、駅に着くまで我慢した。
 駅に着くと直ぐに降りて、電話をした。けれど留守電が続くばかりだった…。




 敏男ーー。
 手の中でスマホの振動を暫く感じていた。留守電メッセージに変わるのを確認して、うんうんと一人頷いた。それから少しして、馴染みになったアドレスを開いた。
 メールを打つ。
 《優作からメールがきた。アイツ、ヤキモキしてるみたい(^_^)v。それで本当にアイツはやったの?ビデオに録ったの?》


 今日の指令――。
 上野からの待機指令に、取り敢えずコイツの言う事を聞いていれば、早苗と“いい事“が出来ると信じて。そして、優作に対してマウントを取れると思って、あの駅に行った事にして、家でソワソワしていた敏男。
 上野の作戦によると、由美さんが登場して優作を連れ込むんだと。そこで優作に“恥“を掻かせるんだと。詳しくは知らされてないが、それも又、上野を信用しておけばサプライズになって返ってくるんだろうと高を括っている。


 そういえば上野が、大塚の事を呆れながら言っていた『あの夫婦は本物の変態だなぁ。自分達の性癖を満足させる為なら他人を巻き込むのも平気なんだからよ。大久保よぉ、お前も気をつけた方がいいぞ。露出プレイはほどほどにな』と。
 敏男は上野とのやり取りを思い返して、大塚夫婦の事を考えた。浮かんでくるのは真知子との変態遊戯。そして、それを見て聞いて涎(よだれ)を流しそうな大塚の表情(かお)だ。
 記憶の中から由美、真知子といった熟女達との体験を思い出すと、自然とアソコが大きくなってくる。敏男はパンツを下ろそうとした。しかし…。
 (…ガ、ガマンだ…溜めとくんだ。もうすぐだ…もうすぐオバサンと…。それまでは射精(ださ)ないで…)
 息を静かに吐いて、高ぶりを抑えようとする敏男。
 その時、スマホが震えた。
 見れば優作…ではなく上野からのメールの返信だ。


 《さっき由美から報告があった。アイツはやっぱり短小で早漏の男だった(爆)。これをネタにお前にマウントを取らせてやる。アイツの母ちゃんともちゃんと姦(や)らせてやるから安心しろ。あと少しガマンして待っとけや》
 メールを読み終えて、頷く敏男。一つ気づいた事は、上野が『由美』と呼び捨てにしてる事だ。たしか前に上野が言っていた『何でも言う事を聞く奴隷みたいな女がいると便利だな』とか。そんな事を思い出して、敏男は小さく「…早苗…」と口に出してみた。




 渋谷家では…。
 早苗の前で大塚夫婦の恥態が続いていた――。


 早苗の両足を縛り上げていた戒めは、いつの間に強度を失いユルユルになっていた。しかし、早苗には逃げ出す気配がない。目の前の夫婦の変態的な姿に、意識が取り込まれてしまっているのだ。


 物静かなイメージしかなかった大塚…その動きは今は、獰猛な熱をずっと放射し続けている。
 次から次へと形が変わる夫婦の契りは、間違いなく早苗に見せ付ける為のものであった。
 己の性器の露出など気にする様子もなく、夫婦は恥を忘れて取り憑かれたように腰を振っている。


 早苗の羞恥の表情が、逆に夫婦の欲情を誘うのか、大塚が時折り、早苗の様子を覗いて唇を歪め、笑う。
 「あぁ…どうだい早苗さん、ちゃんと見てておくれよ。僕のが入ってるだろ、真知子のマンコに」
 正常位で真知子を組伏す大塚が肩越しに振り返っている。真知子も他人に見られている事など、全く気にする気配もない。喘ぎ声は益々激しくなっていくのだ。


 「あぁ早苗さん…早苗さんのご主人は単身赴任だったよねぇ」
 腰を打ち込み、荒い息を吐きながら大塚が早苗に語りかけた。
 「…でも、ご主人がいなくても最近は満たされているんだよねぇ」
 その言葉に早苗の背筋がピリリと伸びて、上野の顔が浮かんできた。あぁ…知られているのね…表情が強張っていく。
 上野を中心に神田幸春がいて、高田由美。そして目の前のこの夫婦。早苗は、あぁ…っと苦しげに嘆きの息を吐き出した。


 「ほら早苗さん、目を摘むっちゃダメだろ。もっとよく見るんだ、僕達変態夫婦の姿を」
 妖しげな物の怪(もののけ)の声をあげる大塚の口元は、異様に歪んでいる。


 「あぁ、どうして私にこんな事を…」
 早苗の呟きに大塚が又も振り返った。
 「ふふ、早苗さんにも変態の血が流れている事はもう知らされているからね」
 「あぁ…そうなのね…」早苗の目が諦めの色に染まっていった。


 大塚が一旦一物を抜いて、真知子の尻を叩く。真知子が心得たように四つ足になって尻を突き出した。
 「真知子、そっちじゃない。穴(ケツ)を早苗さんの方に向けるんだ」
 絶え絶えの息を継いで、真知子が身体を動かす。
 「あなた…早く挿(い)れてぇ」
 甘ったるい嘆きの先に、真知子のデカ尻がある。その中心にはベト濡れの女性器。匂いたつソコは赤黒くて。ソレを見つめる早苗のアソコは、シドドと濡れている。


 「さぁ今度はイヌの格好でやるよ」
 真知子に言ったのか早苗に向けた言葉なのか、大塚が水を得た魚のようにこの部屋の中を自分の色に染めている。
 結局のところ聖職者と人から呼ばれながらも、一皮向ければ“欲“に溺れる人間なんだと。いやいや、聖職者だけにそれは質(たち)の悪いという事だろう。早苗はもう、大塚がこの家を訪れた理由も、この夫婦の真理も、どうでもよかった。今、意識を占めているのは、自分も早く目の前の夫婦のように沈んでしまいたいという願いだった…。


 突き出たデカ尻を掌でガシッと掴み、大塚は中腰の態勢になって肉棒の先を秘艶に充(あ)てがっている。その泥濘からは今日何度と放たれた白濁の残り香が、テカり輝いて見える。
 「早苗さん、聞いてくれるかい」
 腰を真知子の割れ目にグイっと突き押して、大塚が背中越しに早苗に問い掛けた。
 真知子の背筋が「あぁんッ」と一瞬にして跳ね上がる。


 「…君が退職した後だったと思うけど、学年の先生連中と休みを利用して温泉地に旅行に行った事があったんだ。…慰安旅行って事なんだけど、僕ら公務員の旅行って、そういう時は思い切り羽目を外すじゃないか」
 大塚が腰を打ち込みながら続ける。
 「その時はね、温泉に入って、部屋で酒盛りをやって随分と盛り上がったんだよ。それで、酔っ払ってきた頃、誰かがストリップ小屋があったぞって言ったんだ」
 「………」
 「それでさ、みんな酔いに任せて行こうって事になったんだ。…僕はさ、それまでストリップなんて名前は知ってたけど、行った事がなくてさ…」
 早苗の視線の先では、性器と性器が互いを喰い合うように蠢いている。
 「行ってみて驚いたよ。早苗さん、知ってるかい。色んなショーがあったんだ…例えばSMショー。凄いぜ、仮面を付けた男が早苗さんみたいなムチムチの女を縄で縛るんだ」
 「あぁッ…」早苗の朱い口が小さな呻きを落とした。


 「Mの字に開いた脚のさ、腿を縄で縛って後ろに回してさ。勿論前はスッポンポンのいわゆる無修正だよ。マンコが拡がってる所と縄の絡みがさ、物凄く嫌らしく見えるんだよ」
 「…んんッ…ツッ」
 「酔いなんか直ぐに冷めてね。…でもそれ以上に凄かったのが、白黒ショーだよ。知ってるかい、裸の男女が舞台の上でセックスするんだよ。男も女も僕ら位の中年なんだけど、それが厭らしくてさ。色んな形でやるんだ」
 目の前の夫婦はその時の舞台芸人になったつもりでいるのか、取り憑かれたように腰を打ちつけ合っている。違うのは、真知子の口から出る喘ぎの声は、間違いなく本物の叫びだ。


 「その次はさ…なんだと思う?」
 大塚が振り返る。そこには汗にまみれた歪(ゆが)んだ顔がある。そして、口元が歪(いびつ)に曲がる。
 「本番まな板ショーって知ってる?」
 「………」
 「踊り子さんがさ、客の中から一人選んで舞台に上げるんだよ。…分かるかい?それで、みんなが見てる前でやるんだよ!セックスだよ!セックスするんだよ」
 「んあっッ…」
 「あぁ…早苗さんも興味ありそうな感じだねぇ。想像してるだろ」
 自分の表情を読み取られたのか、早苗は無意識に眉を寄せて俯いてしまう。
 そんな早苗など気にせず、大塚が一段と腰のギアを上げた。


 「僕らの中からは誰も上がらなかったけど…同じ位の歳の人が舞台に上がってさ…」
 「………」
 「あぁ…とにかく凄かったんだ。あれで、僕の中の何かが弾けたんだよ」
 「………」
 「後で聞いたんだけど、その時舞台に上がったのが、同じ宿に泊まってる他の学校から慰安旅行に来てた先生だったんだよ」
 「あぁッ!」今度はハッキリとした呻きが、早苗の口から上がった。


 「へへ、凄いよね。でも、早苗さんにも分かるだろ。僕らはいつも凄いストレスを感じてたじゃないか」
 「あぁ…」
 「だから、いいよね。…いいだろ?こんな変態になっても…」
 「………」


 早苗の疼きは頂点に差し掛かっていた。足の戒めはいつの間にか床に落ちている。今すぐ立ち上がって、着ている服を脱ぐのは容易い状況だ。目の前の夫婦の前で自分も性器を露出し、霰(あられ)も無い姿を披露して軽蔑の視線に晒されたい…そんな願望が既に出来上がっている。
 この淫靡な空間には、中年男女の妖しいフェロモンが漂っている。しかし早苗は、その“臭い“を不快と感じていない。自分の身体からも同じ種類の匂いが発散されているのだと、無意識にそう思っている。あぁ…この身体から放たれた臭いがこの夫婦を呼び寄せたのか…。早苗は朦朧とする意識の中で、そんな事を考えた。


 「早苗さん、目を摘むっちゃ駄目だって言ったろ。あぁ…もうすぐフィニッシュだ。さぁしっかり目を拡げて見届けておくれ」
 声と同時に、大塚の腰の動きが最後に向かって強度を上げた。
 「あなたッ――。いいのッ!」
 「だ、だすぞッ!」
 「おおっ――。いッ、いぐッ!」四つ身の真知子の背筋が反り上がる。そして一瞬硬直した…かと思うと「ううっ」と、夫婦同時に呻きをあげて、大塚が真知子に被さるように倒れ込んだ。


 早苗は二人が同時に逝ったその瞬間、股間の奥でキュッとした痺れを確かに感じとった。身体がブルルと震え、椅子から滑り落ちそうになった。その足元は深い深い闇の入口のようであった…。

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