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第3話
メールを出したら直ぐに返事がきた。
《敏男へ いきなり今日の授業を休むってお前大丈夫か?体調が悪いんだったら仕方ないけど、始まって直ぐだしチョッと心配かな(笑)。まあ気を付けてくれ》
律儀に『敏男へ』と宛名まで書かれた、いつもの優作からのメールだった。
一昨日(おととい)の夜更かしーー優作の母 早苗を追いかけた事ーーで、風邪をひいたわけではない。
敏男は部屋着のスウェットのまま、ソファーに体を投げ出した。出掛ける時間にはまだ早い。財布を持って中を開き、パラッと札を数えて頷いてみる。春休みに貯めたバイト代の一部だ。残りを頭で計算して、やっぱりまた働こうかなと考えた。
ふーっと息を吐く。あの夜の“初めての体験”を思い出すと、今でもその時の緊張と衝撃が甦る。そして、もう一度あの時感じた身体全体が蕩けるような感触を味わいたいと、そんな気持ちになってしまう。
瞼の裏には熟れた裸がこびりついている。
“あの女(ひと)”がゆっくり服を脱ぐ姿が目に浮かんだ。
ふくよかな体は黒いブラジャーとショーツを身に着けていた。
胸の谷間が窮屈そうで、背中に手が回った時は、遂に女の裸を生で見るのかと震えが走った。
露(あらわ)れた膨らみは想像以上で、乳房の先…乳輪は大きかった。
へその窪みも下腹も、波打つように揺れてる感じで、太い腿には安心感さえ覚えた。
ショーツに手が掛かった時は、少しだけはにかんだ様に見えて、でも、見つめてくる目は直ぐに挑発的になって、震える俺を見て喜んでいる様だった。
背中を向けて前屈みになって尻を突き出す姿に、また挑発してるのかと思った。
尻は揺れ動くたびに大きくなる感じで、全景が見えた時はゴクリとノドが鳴った。
振り向いた顔はどこか恥ずかしそうな感じもして、その目は優しそうに見えた。
俺の首に両手を回して、見上げるように垂(しだ)れ掛かったその顔を胸に預けてきて、背伸びするように耳元に吹き掛けられた吐息に、ゾクゾクっと体が震えた。
『さぁアナタも脱ぐのよ。若い身体を見せて』その女(ひと)は、そう言って朱い唇を押しつけた。
数分前のファーストキスの感触が甦った。が、今度は自(みず)から柔らかな口唇を貪った。顔の辺りに何ともいえない妖しい匂いを感じて、それに混じって懐かしい香りを嗅いだ気がした。
『さあ早く…』離れた口唇からは、ネットリした甘い誘いが溢れ落ち。それを聞いて自分のシャツに手を掛けた。
女の前で裸になる事に気恥ずかしさが無いと言えば嘘だったが、目の前の妖しい姿態に急かされるように夢中になって服を脱ぎ始めた。
『それはアタシが…』
パンツ1枚で晒した体の前に女体が跪(ひざまづ)いて、白い指はそっとパンツの端を掴んで…。
その表情は妖艶に変わり、艷色の瞳に見上げられながら、下半身は現(あらわ)にされていった。
テロンと顔を出した愚息は縮こまっていた。が、朱い唇は気にせずソレを一度包み込んだ。
『ああ…若いオチンチンの匂い…好きよ…』
背中にゾゾゾと粟立ちが走り、ねぶるような口の動きに脳ミソが溶けていくような感触を覚えた。
『おばさんのも触って…揉んで…舐めてもいいわよ…』
白い肉体に誘われ、どこをどう攻めれば…触われば… 舐めれば…分からないまま、気持ちは高鳴った。けれど、リードしているのは女の方だった。
『ねぇ、僕は女のアソコって見たことあるの…』
小馬鹿にするような言葉は挑発的で、呻きを絞り出して肯定を示した。
『もっとこっちに来なさい…そう…』
艷色の口元がニッと歪み、肢体は後ずさり、そしてゆっくりとしゃがみこんだ。
『………………』
豊満な臀部が床に付き、身体を支えるように両手が後方に置かれる。顎がひかれ、上目遣いの視線で見つめてくる。膝が立ち、そこから臀(しり)が少し浮き上がる。そしてゆっくり股ぐらが拡げられた…。
露(あらわ)になったのは、黒い翳りとその下の淫靡な息づかい。
脇腹の歪みが妙に艶かしく…それも卑猥に映った。
『おばさんのココ見て。凄く濡れてるのよ』
『………………』
『確かめてみて…』
声と同時に肉体は片手で支えられた。右手が滑るように股間に向かい、ソコで陰部がV字で拡げられた。
『どう…』
『………………』
『もっと近くから見てもいいのよ。それとも舐める?…でも挿入(いれ)るのはまだよ』
敏男は一旦そこまでの記憶を浮かべ終えて、声にならない溜め息を吐き出した。いつの間にか股間が息苦しくなっている。
その股間の膨らみを握ってみた。ああ、コレがあの穴に入ったんだと…。目を閉じてあの時の感触に浸りたくてもう一度思い浮かべた…。
『どう…こういう格好も興奮する?』
四つん這いから大きな尻が、顔先まで迫ろうとしていた。けれど結界を引かれたようで、体は動けないまま目だけがソコに引き寄せられていた。
初めてガン見する二つの穴は、見ればみるほど淫靡な様をしていた。
『ねぇ、硬くなってるんでしょ?…我慢汁も出てる?…』
『・・・・・・』
『どっちの穴でもいいわよ。お尻でも…綺麗にしてるし、ローションも塗ってるわ。さあ…』
敏男はグッと息を詰めて、ここか!…と、膣を選択して、泥濘(ぬかるみ)の中心を探し当てた。んぐッと一気に押し込んだ後は、導かれるように腰を振り始めた。
ンアッーと、叫びを聞いた時は、口元が嬉しくて歪んだ。その後はとにかく夢中になった。これまで夜な夜なイメージしたテクニックなど、どうでもよかった。ただただ膣穴と擦れる感触が、性器から身体へ、頭の中へと快感となって伝わっていった。女を逝かせる…などと、そんな事を考える余裕などなくて、射精をコントロール…勿論そんな余裕もなかった。
『ハアァァァ…….ッンン、上手よ…。気持ちいいわぁ』
その声で頭に血が上り、女を我が物にした感覚に、一瞬サディスティックな癖(へき)が芽生えた。けれど、高鳴りは早くも近づいていた。
『うっ!で、出そう』
『ああ…ダメよ、もっともっとよ!』
『………………』
『もっとおばさんを感じさせて!もっとおばさんのオマンコ抉って!』
エグイ誘い言葉に、もう限界だった。止(とど)めは又、卑猥な誘いだった。
『生よ…そう、生でいいのよ!生でちょうだい!』
『ウアァッ』っと、ドクドク流れ出る射精をシッカリ感じて、身体が身震いを起こした。遂にやったかと、快楽の余韻の中でそんな言葉が浮かんだ気がした…。
ソファーで横になる敏男の右手は躊躇した。こんな所で射精(だす)なんてと。今日も又、やれる、やらしてくれる…金さえ払えば…と、想いは止まった。
初体験の後は気恥ずかしそうに服を着た。なぜかその後の会話はよく覚えていない。どこかでヤバイ事をしたと罪の意識もあったのか。それでも覚えているのは『僕はアタシのようなおばさんが好きなの?。おばさんは僕みたいな若い人が好きよ』…そんな言葉だった。
敏男は電話を掛けた。あの夜、居酒屋を出る時に教えて貰った番号に。今はしっかり《上野》と登録してあるその名前。
あの時の口調はオドオドとしていた。プレイルームと上野がよんだ部屋を出て、暗がりに不安を覚えた時だった。
電話の向こうの様子は、相変わらず淡々としていた。まるでこんな“ままごと”をと、いった感じで。
最後に『それで良かったのかよ』、そう聞いてきた時の、上野の何ともいえない嬉しそうな表情(かお)が浮かんだ…。
その時。
『もしもし』
あの夜と同じ、眠そうな声が聞こえてきた。
「あ…俺、大久保だけど…」
『ん~どうした…あれ?今日だっけか』
「うん」と、敏男は小さく返事をした。
あの後、駅まで歩きながら上野に色々聞いてみた。けれどさほど真面目に答えてくれず。
『ん~、又やりたくなったら俺に電話くれればいいからよ。でも次から金はいるぞ』
そう言われて金額まで聞かされた。そして。
『ああ…それと、あそこって“おばさん”ばっかりだから。熟女オンリーなんよ』
そう言って上野はその夜、最後の笑いを残したのだった。
『じゃあ、駅に着いたら電話くれよ。じゃあな』
あっさり切られたスマホを見て、敏男は息を吐いた。けれどこれで、もう3回目だと嬉しそうに頷いた。
2回目は確か、予備校の入学式の前日だった。その日も時間は夜中だった。上野は会うとあっさり『平日の昼間でもいいんだぜ。良いの結構いるし』と、別にどうでもいいような感じで言ったが。
その日も初めての時と同じ女(ひと)に相手をして貰った。多少の落ち着きと余裕があったのか、会話なんぞも楽しむ事が出来た。改めて熟した体を堪能出来て、生で射精(だし)た。そしてアナルにも挿入(いれ)させて貰った。
部屋を出て上野に肩を叩かれた時は、思わず店員と客の関係かと思ってしまった。
敏男はこの数ヵ月の記憶を浮かべ終えると、それから少しして家を出た。
目的の場所は、自転車では時間の掛かる所だった。卒業と同時に免許を取った連中は回りに何人かいたが、浪人生だし家族に負担を掛けれないと思っていたから、敏男はもっぱら自転車だった。それでもこの日は電車に乗って向かった。
電車に乗れば、同じ歳位の男女の姿が目についた。どこかの大学生が我が世の春を謳歌している姿に、自分が惨めになった。が、中年の女性を見つけると、直ぐに妄想が発動した。
車内にいる女性の“年齢当てクイズ”などを一人でして。続けて人妻なのか一人者なのかを想像して。そして、着けてる下着の色や形を服の上から嵌め込んで。それを脱がせたり、脱いでもらったりして。最後は卑猥な言葉を朱い唇から吐き出させて、同時に色んな格好で股ぐらを開かせた。フィニッシュは3回で、最初に口。次にアソコ。最後が尻の穴だった。
そして…憧れであり…禁断の……。
敏男はふと思った。自慰を覚えたのはいつだったかと…。その対象は同級生が最初だったかと今は思い出せないが、いつしか熟女、それも優作の母親の早苗になっていた。ごめん優作!と、何度か心で誤って、その行為ーー自慰をした事があった。今はその妄想は、よりリアルになって拡がっている。今日は早苗に似た女(ひと)を指名するのだと…。
平日のまして昼間のその界隈は、やはり夜と違っていた。あの夜に見た殺伐と闇の中に浮かんで見えたビルも、こうして眺めてみると朽ち果てた感じはするが、どこにでもある建物に見えてしまう。
【レンタルルーム】と掲げられた袖の看板は、何年も色を塗り直していないのがよく分かる。所有者が気づかないのか、あえて塗り直さない所に狙いがあるのか、それは分からないが。
敏男は時間を確認してから電話を操作した。
「あ、上野?…俺、大久保だけど…」
『ああ、悪い悪い。今日、行けなくなったわ。授業あるの忘れてて』
これっぽちも懺悔の気配のない様子で答えられて、敏男は一瞬唖然とした。
けど、『アッチには連絡しといたから。適当に部屋に入ったら今からメールする番号に電話してくれや』と、言い終わるや切れた電話を眺め、仕方なしに頷いたのだった。
しばらくしてメールされた番号を登録して、その建物に向かった。前回と同じ部屋に入って緊張を覚えながら電話した。自分の好みを直接伝えるのは当然初めての事だった。その時、“女を買う”という行為を生まれて初めて意識した気がした…。
伝えたのは身長が163位。体重は分からないので中肉中背と。髪型はセミロングで、髪の毛の色は真っ黒じゃなくて少し明るい茶色が混ざっててと。後は、ポッチャリした雰囲気で胸と尻は大きめでと。気がつけば電話の向こうで男が笑ってる気がした。知らずに早苗の容姿を伝えていた自分が恥ずかしくなっていた。
結局やって来たのは、早苗とは似つかわない女性だった。と、いっても豊乳でふくよかな臀部は好みであった。敏男はこの女性(おんな)を早苗に置き換え堪能を試みた。友人の母親と思い、卑猥な格好、下品な振る舞い、ありえない隠語を時に頼み、時に強制し、時間いっぱい快感を貪(むさぼ)った…つもりだった。けれど、部屋を出てしばらくすると、淡々と“仕事”をこなされたのかと、そんな気持ちも湧いてきた。
ビルをでた敏男は、この周辺を歩いてみる事にした。ビルの裏側の川沿いには幾つかの飲み屋があり、数は少ないが風俗店もあるようだった。ラブホテルかシティホテルか区別のつかないホテルもあったりして、その横には普通のレストランも営業していた。その直ぐそばには学習塾もあったりして、善と悪が同居してるような変な感じがした。そして、その学習塾の横には【華の会】という看板が上がっていた…。
敏男は駅に向かいながら、また小遣いを貯めて…あるいは貯金を使って…とにかく今度こそ早苗を…いや、早苗に似た女(ひと)との出会いを期待してまた来ようと…そんな想いを抱いていた。
駅前のエスカレーターを上った時だった。前方で立ち止まって、サングラス越しに手元の紙切れを見ている女性が目についた。
その瞬間、女性は徐に目元に手をやった…。