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 入口のドアが静に開き、男が二人入ってきた。上野が敏男を連れて戻って来たのだ。
 緊張気味の顔の敏男に、神田が声を掛ける。
 「やぁ敏男君、やっと君の番が来たね」
 「………」
 覚悟を決めてここまで来たはずであるが、この部屋のどこかに早苗がいると思うと、敏男の小さな心臓は爆発しそうになる。
 「ん、どうした大久保」
 上野が敏男の様子を見て、聞いてきた。
 「あぁうん…本当に大丈夫かな…」
 「は?!大丈夫かなって、今更どうした?ひょっとして緊張で勃(た)ちそうにないとか」
 今にも噴き出しそうな顔で上野が訊いた。
 「い、いや、そっちはたぶん大丈夫だと思うけど…本当にやっちゃっていいのかなぁ…って」
 「ああ~何を今さら」
 笑いながら上野が、チラリと視線を神田に向ける。その視線を感じて、神田は敏男に向き直った。そして、ふんふんと頷いた。
 「敏男君、君の心配も分かるが早苗さんはね、実は長い間、欲求不満を溜め込んでいたんだよ。考えてみなさい、女として1番油の乗ってる時に、旦那さんが単身赴任でいなくなったんだよ」
 「………」
 「本人はそれを隠して、近所の小学生の相手をしたり、自分の子供の心配をしたりしてるんだ。自分では気がつかないうちに、ますます不満が溜まっていってるんじゃよ」
 「………」
 「私達はね、そんな中年の女性の為に色々とやってるんだ。君も大塚君夫婦の事は知ってるだろ。あの奥さんも君と関係が出来て喜んでおる。そう思わないかい」
 「…ああ、はい…思います…」敏男は暫く考える素振りをしたが、ハッキリと頷いた。


 「うんうん、切っ掛けはどうであれ、犯(や)ってしまえば向こうも喜ぶんだよ。分かるかい敏男君、早苗さんは今、若い男が欲しくて欲しくてしょうがない状況なんじゃ」
 「ほ、ほんとうですか!」
 いきなり敏男の目が、これでもかと広がった。


 「ああ、本当さ。なあ上野君」
 神田の言葉に、今度は上野が敏男の目を覗き込んできた。
 「だから心配するなって前も言ったじゃん。俺は早苗をいっぱい抱いて、それを確かめたんだから。アイツは俺以外のチンポも欲しがってるんよ」
 「ああ…本当に本当なのか…」
 「ああ、保証する。それに早苗は、俺の言う事なら何でも聞くって宣言したし。けど、俺じゃなくても切っ掛けがあれば、誰とだってオマンコしたと思うぜ」
 「………」
 「まあ、お前としたら、清楚なイメージに惚れたと思うけど、人妻なんて心のどっかではいつも男を欲しがってるんよ」
 「ん…う、うん…」
 「へへっ、それを今から確かめに行こうぜ」
 「…あ、ああ…」
 敏男の苦し紛れの返事にも、上野は笑みを返した。


 「それとな、ビデオに撮るから一応コレを用意しといたからよ」
 そう言って上野が、ソレを何処からか取り出して見せた。


 「な、なにコレ…」
 「へへ、全頭マスク」
 「…ゼントウマスク?」
 「そう、被ると相手からは正体が分からない。けど、こちらからは薄っすらとだけど見えるから大丈夫。呼吸も口の所はほら、開いてるし、鼻からもちゃんと息は吸えるしさ」
 暫く黙ったまま手に持ってソレを見つめて、敏男が改まって聞いた。
 「…ええっと、オバサンは今日の相手、俺って知らないんだよね…」
 「ふふ、大丈夫だって。それどころか、これから俺以外の男とオマンコするなんて夢にも思ってないからよ」
 「えっそうなの!」
 上野の言葉で、敏男の目が驚きに拡がった。しかし「ふふ、部屋にいるのは欲求不満の中年女じゃ。君の“持ち物“は真知子君相手に充分に能力を発揮したし大丈夫じゃよ」
 「…ああ…はい」
 神田に返事をした敏男に、上野が囁くように続ける。
 「俺はそんなに大した調教はしてないし。お前のアレをぶちこんだら一発だ。ヘナヘナになって、後はお前の言う事なら何でも聞く女になるさ。 “お母さん”ごっこでもいいし…けど、早苗はMの気を持ってるぜ」
 「…うっ…ううう…」
 「ふふ…デカイ尻(ケツ)を打(ぶ)ったりよ。露出プレイの奴隷にしてもいいしよ。それに…ふふ、アナルセックス。お前も上の部屋で犯(や)ったろ。アレを早苗と犯ったっていいんだぜ」
 (ゴクリ…)
 敏男の巨体が少しずつ震えてきた。それを見つめる上野と神田の目が期待に光を発している。そして敏男は、その黒マスクを手に取った。


 「行こうか、色男」
 マスクを手にした敏男の肩を、上野が叩きながら言う。
 「まずは、こっちな」
 二人が向かったのは例のスペース。
 そこに入った敏男の目が大きな窓ガラス、そしてその向こう側に立つ人影を見つけ、足を止めた。
 「うっ!」
 一瞬の呻きを上げて、そのまま巨体が固まってしまった。
 「大丈夫だって、これが神田先生自慢の魔法の鏡だ」
 「魔法の鏡?」
 「そうじゃよマジックミラー。こちらからは見えるが、向こうからは鏡にしか見えない優れものじゃ」
 神田の声が後ろから聞こえ、その声に敏男はぎこちなく頷いた。
 「…ほ、ほんとうに向こうからは見えてないの」
 心細そうな声で呟いて、敏男は息を呑んだ。


 「ほら、安心してよ~く見てみろよ」
 上野の言葉に敏男は止まった足を再び動かし、窓の際まで近づいて行く。
 見えてきたのは、同じ黒マスクを被った女。
 あぁ、なんなんだ、あの格好は…。敏男の視線の先にいるのは、エロ雑誌の表紙、そしてネットで見てきたエロ画像と同じ種類の女。
 敏男はゴクリと唾を飲み込み、抉るように窓ガラスの向こうを覗き込んだ。


 「それにしたって…」
 一人呟き、敏男が更に顔を窓に近づける。そして目に力を入れた。
 暫く向こう側の女を見つめ、敏男はギリリと首を上野に向けた。上野は敏男のその表情だけで、一瞬のうちに何を聞きたいのか察知して「ああ、コレがそうさ。うん、間違いなくこの変態チックな下着を着けてるのが早苗」と、あっさりと告げた。そしてニヤリと頬を歪め、続ける。
 「お前の憧れで、親友渋谷優作のお母さんだよ」
 (…うあああ…)


 「ふふ、敏男君、さっきも言ったけどこの女は欲求不満を溜め込んでおる。この格好がその証拠じゃよ」
 「………」短い沈黙の後で、敏男の顎がコクリと縦に揺れた。
 「へへ、そうこなくっちゃ」
 今度は嬉しそうな声で上野が続ける。
 「さてと、そろそろマスク着けろよ」
 上野は敏男の大きな肩を叩き、そして、顎でドアに促した。


 早苗はベッドの前で、先ほどから同じ姿勢で立ち竦んでいた。
 マスク越しに覗く目も、だいぶ暗さに慣れて、今は鏡に映る自分の姿がなんとか分かる。
 その姿…乳房を覆うのは頼りないくらい小さな物。膨らみの上半分が零れ落ちそうで、今にも全てが顔を露(あらわ)しそうな状態。ショーツは足の付け根から横腹に急な角度を伴った物で、その後ろ側は一本の線が割れ目に食い込むように前へと繋がった言わゆるTバック。選んだ色は黄色い蛍光色で、それがちょうど今は、この薄暗い中で浮かび上がって見える。サイズも全体的に小さく、窮屈さを感じる身体を一層肉圧的に魅せている。


 早苗自身もなぜ、こんな下着を選んだのか分からない。あえて自分に問うと、夫のSMチックな性癖を認めた頃の影響かも知れない。あの頃、夫に勧められたのは原色の黒や赤の物で、ショーツはTバックもあったと記憶していた。それらも子供の成長とともに穿く機会はなくなっていったが、今日この下着を選んだのは、被虐の自分を妄想してしまったからか…。


 早苗はふと、鏡の向こうに気配を感じた。
 …と、思った瞬間、この部屋のドアが開かれた。
 早苗の顔が反射的にそちらを向く。
 マスク越しに分かったのは上野。そしてその後ろに…。上野より頭半分くらい大柄な男性が一緒に入ってきた。


 「オバサン、お待たせ~」
 あくまでも飄々(ひょうひょう)とした感じで、声が近づいてくる。早苗は咄嗟に肌を隠すように、両方の手で自分の身体を抱きしめた。
 早苗の仕種に気がついて「ああ、コイツ?」と、上野が問う。
 「安心して。…あのね、コイツは俺の穴兄弟」
 「え?!」
 「そう穴兄弟。コイツね、由美ともオマンコしてるんよ。だから俺と兄弟なんよ」
 「あぁ…」
 「因みに…オバサンは俺とオマンコした仲だから、由美とは竿姉妹って事になるのかな」
 そう告げて笑いもしない上野。その横で敏男が、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「そう言うわけで、今からコイツとオマンコして貰うわ。んで、俺は見学。分かったかな」
 (あぁ…そんな…)
 予想もしなかったまさかの命令に、早苗が頭(かぶり)を振った。


 「嫌だ嫌だって思ってもね、身体は正直なんだよね」
 上野が近づき、腕を掴んできた。そしてグイッと身体を引き寄せたかと思うと、早苗の後ろに回り、胸の膨らみをムギュっと鷲掴んだ。
 胸房に圧が加わってくる。そしていつも通り煽りの言葉が襲ってきた。
 「さっきは中途半端だったから、一人でオマンコ弄って待ってたんじゃないの」
 「あぁんッ」
 「欲しくて欲しくて仕方ないんだよね、アレが」
 耳元で言って上野は、視線を敏男に向ける。
 「ほら」
 顎をしゃっくたのは敏男に向けてだったが、早苗の方も感度を表した。胸を揉まれるまま背中を上野に預けて、その身をくねらせる。
 敏男の方はアイコンタクト…でもないが、上野の目線を感じると、決心して服を脱ぎ始めた。


 生まれたままの姿になった敏男は、一度大きく息を吸って鏡を見た。そこには初めて目にする怪しい男…全裸に黒マスクをした巨漢の男がいる。
 マスク越しにその姿を視ていると、如何にもの悪役に思えてきた。
 (くそッ…俺はデブだし、綺麗な女(ひと)とは、しょせん釣り合わないんだ…)


 隣で「あぁんッ」と甘い声がした。ハッと振り返って見れば、上野の目が何かを語りかけている…気がした。
 ほら、この女、感じてるだろ。
 俺以外の男がいるのに、こんな甘い声を出しやがってよ。
 コイツは欲しがってるんだよ。
 早く犯(や)ってやれよ。
 お前のそのデカイのでヒーヒー言わせてやれ。
 なぁ大久保。
 …そんな上野の声を感じた気がして、敏男は心の中でよしっと気を入れた。
 上野も直ぐに察知したのか、敏男を見ながら早苗の胸から手を離す。そして敏男と入れ替わるように巨体の後ろへ回った。


 「俺は向こうから覗かせて貰うわ」
 小さな声を敏男の耳元で囁き、上野がニヤリと笑う。そして、今以上の小さな声でもう一度囁いた。
 「それとそのマスク…外したくなったら外してもいいぞ。けど、素顔を見せ合ったら気が狂っちゃったりしてな」
 その言葉を挑発と取ったのか、それでも敏男は黙って頷き返した。敏男も腹を決めているのだ。


 早苗の顔が、上野の後ろ姿を見送るのを見て、敏男は近づいた。そして、白い肩に手を掛ける。
 咄嗟に身を固くした早苗。敏男はその身体を引き寄せる。そしてそのまま抱きしめ、唇を奪いに出た。


 うわぁ….その甘い唇の感触に敏男の中に電流が流れた。抱きしめた身体は思っていた通り膨(ふく)よかで、それだけで感動を覚えてしまう。
 下腹の辺りで互いの恥毛が触れあうのを感じては、身体が熱くなった。背中に回していた腕は、夢中に早苗の臀部を撫で回している。
 みるみるうちに巨大化する牡の象徴。その膨らみが早苗の腹を押すと、頭に血が昇ってきた。
 そうだ!俺はコレで真知子さんをヒーヒー言わしたんだ。
 由美さんだって、誉めてくれた。
 オバサンだって!
 そんな事を一瞬に想い、敏男の舌は早苗の口奥へと侵入を始めた。
 マスク越しからも、早苗が眉間に皺を寄せたのが窺えて、敏男はその貌(かお)をもっと快楽に歪めてやると気を入れた。


 敏男は唇を離すと、いきなり早苗のブラを引き剥がした。
 巨(おおき)な乳房が現れる。その先には尖り立った雷。夢にまで見た膨らみを認めて、いきなりムシャブリ付いた。


 早苗の身体は敏男の重みを受け止め、ベッドになだれ落ちた。その重みに身体は強張ったが、いきなり乳房を舐られると快感が一瞬のうちに身体中へと拡がっていった。
 見ず知らずの男の攻めであったが、悲しいかな身体は興奮に震え出した。
 若き情人に開発された身体。眠っていた性感を思い出させた情人の手管。その手腕で目覚めた身体が、素直な反応を示してしまったのだ。
 早苗は覆い被さる巨体を無意識に受け止めていた。そして、膨らみの先をしゃぶる男の頭を強く抱きしめた。
 あぁん、あぁんと甘い声が舞っていく。


 敏男は体臭を確かめるようにと、鼻を擦り付けながら下腹部を目指す。
 その刺激的なショーツの所で止まり、息を整え、顔を上げた。
 黒マスクのぽっかり開いた口元で紅い唇が震えている。敏男は僅かな自分の攻めにも、早苗が興奮しているのだと思うと、巨体が熱くなるのを感じた。