小説本文




 優作はコンビニに向かっていた。
 母校でヌケサクこと大塚と話して、その後は一緒に行った敏男に今日こそは母親の手料理を食べさせてやろうと思ったのだが、当の敏男は学校を出て暫くすると『用事を思い出した』と、何処かに行ってしまっている。
 仕方ないかと自分は真っ直ぐ帰った訳だか、夕方頃か母から届いたメールには、帰りが遅くなる事とそれ故の夕食の事が書かれていた。


 夕飯の調達には自転車で行く事にした。その道中で改まって母親の事を考えてみた。母校で大塚に相談した母の事も、確かに指摘されてみれば単純な話で、大学が決まらなかった俺の事が心配の種になっているんだろうと結論付けていた。自らボランティアとはいえ、子供達に勉強を教える元教師の立場として、息子が浪人生というのが、後ろめたさに繋がっているのだろうと考えた。優作は今まで以上に勉強に集中しようと、それなりの決意を改にしていたのだ。


 向かったのは、夕方に訪ねた母校の近くのコンビニにだった。
 店内に入り弁当などを物色しながら、他も見て回ってみた。そして、財布の中身が寂しくなってる事に気付いて小遣いを引き出しておこうとATMコーナーに向かった。いつも気づく事だか、その並びには18歳未満禁止のいわゆるエロ本の陳列がある。


 【熟女縛り】
 【お母さんは変態】
 【人妻露出願望】
 今日はそんなタイトルに目がいったが…。


 いかん、いかん!
 優作は顔を背け“勉強、勉強”と自分に言い聞かせた。


 目的の弁当を買い終えて、自転車を漕ぎ出し、暫く走った時だった。バス通りを走る一台の車が目に付いた。それは一瞬の事だったが、助手席に見えたのは?・・そして運転していたのは?
 (今の、ヌケサク先生だよな…助手席は…敏男?)


 家に着き、食事中も先ほどの車の事が気になった。運転してたのはヌケサクで間違いないはず。隣にいたのは敏男だったのだろうか…?
 と、少し考えてはみたが、食事の後は早速気合いを入れて机に向かった。
 その気合いのせいか、優作は早苗の帰宅が気にならないほど、勉強に集中出来たのだった…。


 夜の7時過ぎ。
 レンタルルームーーー。
 早苗は2畳程の狭い空間の中で、上野が引いたカーテンの向こうに見えた人の姿に「ひっ!!」と息を飲んだ。


 吐き上げた自分の声の大きさに、慌てて口に手を当てた……そして、ジリリと隣の上野の顔を窺(うかが)った。
 驚きに歪んだ早苗の顔は、それでも品のあるものだった。けれど早苗の様子など特に気にせず、上野は窓ガラスの向こうを見詰めている。


 「静かに。神田先生の話じゃ音は聞こえないように造られてるらしいけどさ…」
 ボソリと呟いた上野の言葉にも、早苗は顔を強張らせたままだ。
 「あ~それと、コレは大丈夫だから。こっちからは見えるけど、向こうからは見えないんよ」
 「・・・・・」
 「魔法の鏡だって。神田先生が高い金をかけて造らせたらしいよ」
 「で、でも…」
 上野の飄々(ひょうひょう)とした様子にも、早苗はもう一度、恐る恐る目を向けてみた。
 コレがレンタルルーム…?
 息を整えて、早苗はそこに見える下着姿の男女を注視した。


 さほど広くない部屋の中には、年の頃は40位に見える中年男。そしてもう一人は、歳は自分と同じ。身長もほぼ同じ。体型も似てる…。あの頃も“肉感的”とよく言われていた…。紫色の下着だけを身に着け、座っているのは間違いなく高田由美だった。
 二人はベッドに並んで腰掛け、何やら話をしている。男の手にはグラスがあり、由美がそこにビールを注いでいる。二つの唇が動き、口元が愉(たの)しそうに歪むのはどちらかの口から冗談でも出ているのだろうか。


 チラリと由美がこちらを向いた…気がして。
 「本当に向こうからは見えてないの?」
 明らかに緊張交じりの声にも、上野はどうでもいいような感じで唇を歪めるだけだ。
 早苗は身体を少し屈める感じで、由美の顔にジックリ視線を投げ掛けた。
 男はグラスを枕元の小さな丸テーブルに置き、由美の手を引いている。


 (ああ…由美さん…)
 男が立ち上がった。
 ボサボサの髪が一日の疲れを現している気がする。それでも、男の横顔にはどこか愉しげな雰囲気を見る事が出来る。
 ポッコリとした中年腹と白っぽいトランクスは中年男の象徴のようで、その前に由美が膝まずいた。


 (ああ…二人はこれからもしや…)
 トランクスの端を摘まんだ手が、勿体ぶるようにそれを降ろし始めた瞬間、由美の口元が怪しげに歪んだ気がした。その様子に、早苗の身体にゾワっとしたものが這い上がった。
 男の一物がテロンと顔を出した瞬間、早苗は俯いた。


 「・・・・・・」
 「ねえオバサンさぁ、知り合いの人が売春してるところを覗くのってどんな気分?」
 いきなりの上野の声。その声を聞きながら、上がった早苗の顔。早苗の目は由美の姿に引き寄せられている。


 「あっそうだ、由美さんから聞いたんだけど、オバサンは早苗っていうんでしょ。昔、一緒にPTAの役員やってたんだって?」
 「・・・・・・」
 いつの間にか早苗の臀部に上野の手が、ナメクジのように忍び寄っていた。
 「そう言えば由美さんが面白い事、言ってたなあ」
 這い廻る指が、布地の上から割れ目の奥めがけて蠢いてる。
 「由美さんはさ、オバサンの事を自分と一緒で表面は良い子だけど、本当は欲求不満を溜め込んでるって言ってたっけ」
 特におもしろがるでもなく、独り言のように口にした上野の言葉に、早苗はドキリとした。
 向こうでは遂に、仁王立ちの男の前に膝まずいた由美がソレをしゃぶっている。


 (ああ…)
 「あれ~オバサン、真剣に見てるねぇ」
 「・・・・・・」


 確かに声は聞こえないのだが、由美の口の動きからはモゴモゴっとした音が今にも聞こえてきそうである。目を細め、そっと男の顔を見上げる目付きは官能的にも見えて、由美の場慣れした雰囲気を感じてしまう。
 早苗の頭の中で、昔から知る由美のイメージが崩れ落ちていく。しかし…。


 早苗はこの狭い空間が、時間の無い異次元の世界のように感じていたかも知れない。身体の疲れも、空腹感も感じず、自分が今、立っているのか座っているのかそれも分からない状態で、由美の動きに引き寄せられていた。
 気が付けば両方の掌がガラスに付き、ギリギリの所まで顔が寄っているのだ。


 二つの身体はベッドの上に倒れこみ、男が荒々しく由美の下着を脱がそうとする。
 せっかちね…そんな言葉が出たのか、由美が男を手なずける様にあしらいながら立ち上がる。そして…。
 ベッドに腰掛けた男の前で、由美が豊満な胸房を包む紫色の布のホックに手をやった。
 露(あらわ)れた豊乳は想像通りで、男の口からは感嘆の溜息が漏れた気がして、早苗は同性の、しかも良く知る同年代の女性の裸姿に胸の奥がキュッとなった。
 男の股間からは、先ほどの口技で硬直を保つソレが、反そり勃(た)ってる様がよく見えた。


 「そろそろ、オバサンのココも濡れてるんじゃない」
 耳元で聞こえた声に、早苗は思い出したように腰を一振りした。先ほどから臀部に置かれていた手は、あっさり弾き飛ばされたが、上野は全く気にする素振りも見せずに「へへ、この後、どうなるんだろうねぇ」と、思わせ振りに一声上げて、自分は事務所の方に戻って行ってしまった。まさか一人で集中して見れるようにと席を外したとは思えないが、早苗はどこかホッと息が抜けた気がした。


 由美がショーツに手を掛けたところで、一旦動きを止めた。男からリクエストが出たのか、ニッコリと浮かべた笑みのまま、クルリと背を向けている。
 スッと伸びた手が窓枠を掴んだ姿に、早苗の身体は身構えた。目の前のガラスいっぱいに由美の顔から胸元が迫っていた。
 僅か数センチの距離で見る由美の顔は、軽く化粧が施されている。早苗の頭にあった“売春婦”と呼ばれる女達のイメージはどぎつく、濃いものだが、目の前に迫ったその表情はどこにでもいる主婦といった感じだ。
 そんな時、はて?と、向こうの壁は鏡にでもなっていて、由美は自分のその姿を見ているのか…。


 男は後ろ向きにした由美のショーツをしゃがんだ態勢から、降ろし終えた。
 男の顔には下品な笑みが浮かんでいる。狭い密室にいるのは、自分と“買った女”の二人だけ。本性を遠慮なしに発揮して、荒々しく乳房を揉みほぐす。分厚い唇が由美の首筋を襲うと、早苗は眉間に皺を寄せた。
 そして由美の口からは、艶かしい声……それは当然聞こえないのだが、早苗の耳にはハッキリと伝わった気がした。


 掌には、べったりと汗が滲み出ていた。息を飲んで少し後退り…早苗は、もう見れない、と振り返った。
 と、そこにいた人影に「ひぃーー」っと叫び声を上げた。
 「なんじゃ、凄い声を出しおって」
 そこには、ビンと伸びた背筋に真っ白な髪。元上司の神田幸春が立っていた。


 「あ、神田先生…」
 朱い口唇から小さな声が零れ落ちた。
 「ふふふ、私の事をまだ“先生”と呼んでくれるのかな」
 「・・・・・・」
 「どうだ、由美君の様子は。ん、どうした、覗きはもうよいのか?」
 神田がフフっと笑い、ランランと見つめてくる。
 「由美君には…いや、由美君のところの夫婦にはおもしろい性癖があってなぁ…」
 聞いてもいないのに、神田がニコニコしながら話しかけてきた。
 「今から、その“おもしろい事”を見せてやろう」
 悠然と語る神田の口調に、早苗はそれまで以上の緊張を自覚した。


 「えっと上野君、由美君の携帯の番号は何番だっけ?」
 (携帯?)


 「ああ、はい」と言って、上野が胸のポケットにあったスマホを操作し始める。
 早苗は何が始まるのか…けれど張りつめた空気に身体を固くした。窓ガラスの向こうでは、由美が立った姿勢のまま“男”を受け入れている。


 「このお客さんは常連かな。立ちバックとは、ちょうどよいシチュエーションじゃなぁ」
 由美達の姿を見やりながら、神田が真面目な顔で頷いている。


 「先生、どうぞ」
 スマホの発信音が聞こえきた。上野がそれを神田に渡す。
 見れば、男に突かれながら、早苗が顔を振っている。
 (携帯…鳴ってるんだわ)
 「うんうん、さぁその格好のまま電話に出るんじゃ」
 神田が聞こえるはずのない、向こうの由美に声を掛けた。


 由美は後ろから腰を打ち込む男を振り反るように、何か言葉を口にした。
 男は繋がったまま早苗の腰を両手で抑えながら、由美のカバンの方へと移動しようとする。


 「早苗先生、貴女は他人がセックスしてるところを見るのは初めてかな」
 「・・・・・・」
 何かを思い出したように、早苗が俯いた。
 「ん?…おっとそうか、ついこの間、真知子君達が犯(やってる)ところを見たばっかりじゃったな」神田が嬉しそうに頷いた。
 「さぁ早く出ろ」
 スマホを耳に当てながら、神田は笑みを続ける。


 由美は男に後ろから突かれながら、鞄から可愛らしいストラップの付いたソレを取り出している。
 二人は繋がったまま、もう一度早苗達の前にやって来た。


 「このお客は鏡の前で嵌めてる自分達の姿を見るのが好きなんだな。…おっ」
 その時、電話が繋がったようだ。


 「もしもし、由美君…お愉しみの所を悪いがのぉ。…うん…」
 神田の声に呼応するように、向こうでは由美がスマホを耳に当て、頷いている。男の物を立ったまま受け入れながら、右手を目の前の窓ガラスに当て、左手にスマホを握っているのだ。


 「ああ、そうじゃ…うん、私の横におってなぁ。…そう、旦那がミラー越しに、貴女が客の男とマンコをしてるところを覗いておるんだよ」
 「!…」
 「さぁ、今旦那と電話を代わるぞ。嫌らしい声をいっぱい聞かせてやれ」
 そう言って神田が早苗に顔を向け、スマホを一旦掌で押さえて。
 「早苗先生は一言も喋らんでよい。向こうは貴女の事を旦那と思っておる。まぁ楽しんでみなされ」


 気付けば、無意識にソレを受け取っていた。早苗はソレを怖々耳に当てながら、窓ガラスの方を向いてみた。
 「あなたっ、気持ちいいの!」
 いきなり飛び込んで来た声は、まさかの…いや、間違いなく由美の声だ。


 「今、中年のスケベな人に、後ろからオマンコを犯されてるのよ!立ったままなのよ!」
 髪を乱し、虚ろな瞳で前を向き、快楽にさ迷いながらも由美は訴えるように喋っていた。早苗は息を止め、無意識に神経を集中していた。


 耳には由美を後ろから犯す男の声も聞こえてきた。
 「『ほらっ、どこが気持ちいいか旦那に教えてやれよ!』…いゃあん!」
 「ほら!」
 「ああぁ…マンコ…マンコが気持ちいいの!アタシの変態マンコが喜んでるの!」
 「・・・・・・」
 「『へへぇ、マンコが感じてるんだ。スケベだねぇ奥さんは』・・ああ、いやん…」
 「・・・・・・」
 「『奥さんはどんな女なんだよ。あんたの本当の姿を旦那に教えてやれよ』・・ああ…はい、アタシはチンポが好きで好きで仕方ない変態女なんです!」
 由美の鼻の穴が広がり、赤く塗られた唇はますます艶かしく歪んでいく。


 何とも言えない恍惚の表情…早苗の頭の中に、由美の淫声が深く染み渡って行くのだった…。

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