小説本文



その日の夕食は家族みんなですき焼きを食べた。
6月になり少し蒸し暑くなってきて季節的にあってないかもしれないが、妻の実家から高級な肉が届いたのだ。
平日はいつも赴任先のアパートで一人での食事なだけに家族の温かみを感じる。
みんなで卵をかき混ぜながら妻が話し始めた。


「そういえば今度明弘の三者面談があるんだよね」


「そうなの?第一志望は成城高校でいいんだな?」


成城高校は進学率も高く、県立でお金もかからない。
なにより明弘が自分で決めたところだ。
息子がだんだんと大人になっていくことを実感できる時期だ。


「うん」


一言しか答えないのはいかにも今時の子供という感じだ。


「そういえば仕事は休めるの?」


典子に聞く。


「うん、午後からちょっと時間もらっといたから大丈夫。」


もちろん行ってもらわなきゃ困る。
仕事が忙しいのはわかるが当然家庭が第一だということは妻もわかっている。
三者面談なんて子供からしたら嫌なこと極まりないが親にとっては先生と話すいい機会だ。
2人が結婚して、子供ができて幸せな家庭を築けた。
子供たちが少しでも自立しようとしているところを見るとこれが幸せなんだと改めて感じる。
その日は少しいい気分で過ごした。




それから2週間後だった。
家に帰ると妻がバツのわるそうな顔をして話かけてきた。


「ねぇ、明弘の三者面談いけなかったんだー」


その日は明弘の三者面談当日だった。


「行けなかったって、なんで?」


「仕事で・・・」


「仕事って・・・大丈夫だって言ってたじゃん」


不機嫌そうな明弘も交えて話をよく聞くと、唖然とした。
学校に何の連絡もせずに、そのまま仕事を終え家に帰ったらしい。
これでは行けなかったというよりも忘れていたと言う方が当てはまる。
夜に申し訳なさそうに家に帰ってきた妻に、明弘が罵声を浴びせた。
これには妻も平謝りするしかなかった。


「ごめんね、先生には電話しておくから」


「もう来なくていいよ」


結局、妻が学校に謝り、次の月曜の昼に時間をとってくれたらしい。
これを聞いたときは怒るというよりも呆れ返ったが、子供たちが自分の部屋に戻ったあとに話をした。


「こんなに家庭支障がでるのなら仕事はやめてくれ」


「ごめん。謝るしかないけど、今はやめらない」


弘明にしたらとんでもない出来事だろう。
ただでさえ三者面談で憂鬱な気分だったろうに、母親が来ないとなると面目は丸潰れだ。
今日ずっとバツのわるそうな顔をしている様子をみると反省はしているのかもしれないが 子供のことよりも仕事を優先させるのは許せない。
仕事は大事だが家庭を第一にするという約束で働いているんだから。




その後、月曜日にはちゃんと三者面談をしてなんとか弘明の機嫌も戻ってきたらしい。
機嫌が戻ったのは、三者面談で先生に「もう一つ上の高校が狙える」と言われたからだ。
週末に俺が家に戻り、夕食を食べているときに弘明が言った。


「もう一つ上、狙っちゃおうかな~」


もう一つ上の高校とは姉の真菜の通っている高校だ。同じく県立だから助かるところだ。


「そうしなよ、うちの高校の方が新しいし、綺麗だし」


真菜が自慢げに話す。
高校について話ている子供たちを見ると改めて頑張ろうと感じる。
将来幸せな人生を歩ませてあげたい。親なら誰でも思うことだ。
妻の仕事に関してももっと寛容になるべきなのかもしれない。
もちろん家庭第一だが、家事から何までこなしてくれている妻にばかり負担がいっているのも事実だ。
単身赴任で家族のことを見ることができない自分の分も頑張ってくれている。
もっと俺が妻を支えなければいけないはずだ。
三者面談の件でも怒るだけで結局自分は何もしていなかった。
もっと妻のことを理解しなきゃな。




次の週の平日、北九州の赴任先のアパートで夕食をとり暇つぶしのネットをしていたときだった。
典子から電話がかかってきた。普段はそんなに電話をすることなんてない。何かあったのか?
電話に出ると通話先のガサガサした音が聞こえてきた。


「もしもし・・・もしもし?」


何回も話しかけるが応答がない。電話の調子がわるいのかと思っていたら電話は切れてしまった。
不安になってきて典子へ電話をかけなおすが、コールがなるだけで一向に出ない。
典子の携帯でなく、家の方の電話へかけなおしてみた。
すると真菜が出た。


「お母さんは?」


「まだ帰ってきてないよ。」


9時過ぎているのにまだ帰ってないのか。


「ご飯は?」


「私が作って食べたよ。」


「そうか、じゃあお母さんが帰ってきたら電話くれって言っといて。」


そう言って電話を切った。
それから1時間あまりが過ぎた。
10時過ぎても電話がかかってこないということはまだ帰ってきてないのか。
もう一度典子の携帯に電話をかけた。
数回コールが鳴り、典子が出た。


「もしもし?」


「ごめん、さっきはちょっと取り込んでて。」


「まだ会社なのか?」


「うん、もう帰るとこだけど。あのさ、ちょっと話があって電話したんだけど。。。」


「何?」


「あのさ、今度旅行に行きたいんだけど・・・いいかな?」


申し訳なさそうに聞いてきた。


「旅行?なんで急に」


「旅行・・・行きたいって思ってて」


意味がわからなかったが、典子なりに家庭のことを考えてのことだろう。
旅行もわるくない。そう思って答えた。


「そうだね、家計は苦しいけど子供たちも大人になったら家族旅行もいけなくなるからね、考えてみるか。でもそんなこと家に帰ってから話せよ。」


「いや、、違うんだ。友達と旅行に行きたいんだけど」


「友達?いつ?」


家族旅行じゃないのか?寂しさを感じながらも妻が友達と旅行だなんて驚いた。
結婚してからはほとんど友達という友達とも遊んだりはしていない。
同窓会でもあるのか?


「来週の週末に行きたいんだけど」


「来週って、今はまずいだろ。仕事が忙しいかと思えば旅行だとか、もう少し家庭を考えろよ」


「そうだよね・・・ごめん」

そして電話は切れた。
何を考えているんだ?
しかしあいつも最近仕事が忙しいみたいだ。息抜きに旅行に行きたかったのかもしれない。
それでも典子の言ってることはおかしい。
でもストレートに言いすぎたかな。その日はそんな風に思いながら眠りについた。

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