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第5話
その翌週のことだった。
金曜日、いつもどおりに仕事を終え、福岡市の家に帰るために8時過ぎの電車に乗った。
今にも雨が降りそうな天気だった。
そして先週と同じようにデッキ部分で典子に電話をかけた。
コール音が3回ほど鳴り、通話状態になった。
「もしもし」
「・・・・・・・」
電波がわるいのか?
「もしもし?聞こえるか~?」
「・・・・・・・」
そしてプープーっと通話が切れた音が鳴った。
電波がわるいらしい。またあとでかけなおすか。
下車駅が近くなり、再度デッキ部分で電話をかけた。
しかし今度はコール音すらならない。
やっぱりダメかと思い、家の方に電話をかける。
すると娘の真菜が電話に出た。
「お母さんに迎えに来てって伝えて」
そう伝えると、真菜は言った。
「お母さんまだ帰ってきてないよ」
思わず顔がしかめっ面になった。
またか・・・。また遊びに行ってるのか。ご飯もつくらずに。
「じゃあタクシーで帰るからいいや」
そう言って電話を切った。
電車を降り、タクシーに乗り、家へ向かいながら考えていた。
今日はガツンと言ってやろう。
今は友人ができて楽しいのだろう、だが遊ぶのは構わないが家庭のことはしっかりやらないなんて何を考えてるんだ。
中高生ならまだしも、もう30代も後半の立派な母親が何をしてるんだ。
家に帰ると娘の真菜と長男の明弘が夕飯を食べていた。
「お母さんまた遊びに行くって?」
真菜に聞いた。
「ん?今日は仕事だって。最近忙しいみたい。」
仕事?もうす9時過ぎてるんだぞ。今までこんな遅いことはなかったはずだ。
仕事だから仕方ないでは済まないだろ。子供たちは受験生なんだぞ。
特に明弘の方は高校受験だ。最低限の環境は整えてやりたい。
とにかく帰ってきたら話をしよう。
結局、典子は10時過ぎに帰って来た。
疲れ気味の顔で帰ってきて、すぐにお風呂に入っって行った。
ガツンと言おうと思ったが、仕事で何かあったのだろう。
自分も働いている。こんなときに何かを言われてもイライラするだけだ。
自分なりに気を使ったつもりだった。
典子はそのままご飯を食べずに寝室へ行き眠っていた。
あんなに疲れている典子を見るのは初めてだった。
何か大きな失敗でもしたのだろうか。
数時間前のイライラした感情はどこかへ行き、典子を心配するばかりだった。
次の日の朝、土曜休みで朝は少し遅めに起きた。
遅めといってもまだ9時半だが。
数年前に買ったダブルベッドの横には典子の姿はない。
いつも典子は休みの日もそんなに遅くまで寝ずに、いつもの時間に起きて家事を始める。
2階の寝室から1階に降り、いつものようにリビングでテレビを見ている真菜の横を通り いつものように食卓のテーブルに腰をかけ、いつものように新聞を読む。
「おはよう」真菜と典子が声をかけてきた。朝は弱かった。
いまいちぼーっとしている。
「おはよう」そう返して新聞を読み入る。
新聞を読み終わったころで、ご飯と味噌汁が目の前に並び、典子が明弘を起こしに2階に上がっていった。
はー。朝はやはり食欲がない。昨日は2時までタモリクラブを見てから寝入った。
子供のようだが遅くまで起きていられるのは金曜と土曜しかない。
若い頃は翌日が仕事の日でも平気で起きていたが、歳を取るにつれて仕事に対する責任感などを 感じるようになり、夜更かしはやめた。
歳を取っただけに体力的なものが大きいのかもしれないが。
平均3,4時間しか寝なくてもいいという人もいるが、自分にはそれは無理だ。
もともと朝は「あと5分・・・」と言いはしないが少しでも寝ようとしていた。
真菜が横に座り、朝食を取り始めた。
娘と息子が向かい合い、その隣で父親と母親が隣り合う。
食事のときの席順はそうだった。
たわいもない話をしながら食事をとる。
朝食を食べ終え、洗面をしにいった。
この頃には目が覚め、やっと起きたという実感がわいてくる。
朝完全に起きるのには時間がかかるということだ。
リビングに戻ると明弘がご飯を食べ終え、典子は後片付けを始めていた。
真菜は用事があると出かけていった。
明弘が新聞を読み始め、自分はテレビを見る。
やはり自分の家が一番休まる。
明弘が新聞を読み終わり、2階に上がっていったところで典子に聞いた。
「仕事で何かあったの?」
典子は少し困った顔をしたが「ううん」と答えた。
典子を気遣った言葉をかける。
「昨日疲れてたみたいだからさ、大丈夫なの?」
「うんちょっと最近忙しくて。」
「そっか。」
家庭に支障がでるくらいなら仕事をやめろ。
そういえるほど稼ぎのよくない自分が情けなくなる。
その日の夜だった。ベッドで横になっていると典子が話しかけてきた。
「ねぇ、私仕事変わろうかな」
仕事を変える?仕事で何かあったのか?
「・・・そうか?何かあったの?今の会社は最近大変そうだからね、転職もいいかもね」
「取引先の担当の人からこないかって誘われてて・・・給料も今より上がるし。でも通勤がここから1時間かかるんだよね」
「そうか・・・」
妻の方が仕事ができるような気がして自分がますます情けなくなる。
それに通勤が1時間・・・
「転職したいのか?」
「うん、してみようかな・・・お金も必要だし・・・」
「そうか、でもあんまり無理はするなよ。稼ぎがわるくてごめんな」
急に妻が愛しくなってくる。
週末に家へ帰るときも迎えに来れないかもしれない。
そうなれば駅からはバスで家まで帰るしかない。
なんだか子供が自立して自分の手の届かないところへ行ってしまうかのような寂しさだった。
金曜日、いつもどおりに仕事を終え、福岡市の家に帰るために8時過ぎの電車に乗った。
今にも雨が降りそうな天気だった。
そして先週と同じようにデッキ部分で典子に電話をかけた。
コール音が3回ほど鳴り、通話状態になった。
「もしもし」
「・・・・・・・」
電波がわるいのか?
「もしもし?聞こえるか~?」
「・・・・・・・」
そしてプープーっと通話が切れた音が鳴った。
電波がわるいらしい。またあとでかけなおすか。
下車駅が近くなり、再度デッキ部分で電話をかけた。
しかし今度はコール音すらならない。
やっぱりダメかと思い、家の方に電話をかける。
すると娘の真菜が電話に出た。
「お母さんに迎えに来てって伝えて」
そう伝えると、真菜は言った。
「お母さんまだ帰ってきてないよ」
思わず顔がしかめっ面になった。
またか・・・。また遊びに行ってるのか。ご飯もつくらずに。
「じゃあタクシーで帰るからいいや」
そう言って電話を切った。
電車を降り、タクシーに乗り、家へ向かいながら考えていた。
今日はガツンと言ってやろう。
今は友人ができて楽しいのだろう、だが遊ぶのは構わないが家庭のことはしっかりやらないなんて何を考えてるんだ。
中高生ならまだしも、もう30代も後半の立派な母親が何をしてるんだ。
家に帰ると娘の真菜と長男の明弘が夕飯を食べていた。
「お母さんまた遊びに行くって?」
真菜に聞いた。
「ん?今日は仕事だって。最近忙しいみたい。」
仕事?もうす9時過ぎてるんだぞ。今までこんな遅いことはなかったはずだ。
仕事だから仕方ないでは済まないだろ。子供たちは受験生なんだぞ。
特に明弘の方は高校受験だ。最低限の環境は整えてやりたい。
とにかく帰ってきたら話をしよう。
結局、典子は10時過ぎに帰って来た。
疲れ気味の顔で帰ってきて、すぐにお風呂に入っって行った。
ガツンと言おうと思ったが、仕事で何かあったのだろう。
自分も働いている。こんなときに何かを言われてもイライラするだけだ。
自分なりに気を使ったつもりだった。
典子はそのままご飯を食べずに寝室へ行き眠っていた。
あんなに疲れている典子を見るのは初めてだった。
何か大きな失敗でもしたのだろうか。
数時間前のイライラした感情はどこかへ行き、典子を心配するばかりだった。
次の日の朝、土曜休みで朝は少し遅めに起きた。
遅めといってもまだ9時半だが。
数年前に買ったダブルベッドの横には典子の姿はない。
いつも典子は休みの日もそんなに遅くまで寝ずに、いつもの時間に起きて家事を始める。
2階の寝室から1階に降り、いつものようにリビングでテレビを見ている真菜の横を通り いつものように食卓のテーブルに腰をかけ、いつものように新聞を読む。
「おはよう」真菜と典子が声をかけてきた。朝は弱かった。
いまいちぼーっとしている。
「おはよう」そう返して新聞を読み入る。
新聞を読み終わったころで、ご飯と味噌汁が目の前に並び、典子が明弘を起こしに2階に上がっていった。
はー。朝はやはり食欲がない。昨日は2時までタモリクラブを見てから寝入った。
子供のようだが遅くまで起きていられるのは金曜と土曜しかない。
若い頃は翌日が仕事の日でも平気で起きていたが、歳を取るにつれて仕事に対する責任感などを 感じるようになり、夜更かしはやめた。
歳を取っただけに体力的なものが大きいのかもしれないが。
平均3,4時間しか寝なくてもいいという人もいるが、自分にはそれは無理だ。
もともと朝は「あと5分・・・」と言いはしないが少しでも寝ようとしていた。
真菜が横に座り、朝食を取り始めた。
娘と息子が向かい合い、その隣で父親と母親が隣り合う。
食事のときの席順はそうだった。
たわいもない話をしながら食事をとる。
朝食を食べ終え、洗面をしにいった。
この頃には目が覚め、やっと起きたという実感がわいてくる。
朝完全に起きるのには時間がかかるということだ。
リビングに戻ると明弘がご飯を食べ終え、典子は後片付けを始めていた。
真菜は用事があると出かけていった。
明弘が新聞を読み始め、自分はテレビを見る。
やはり自分の家が一番休まる。
明弘が新聞を読み終わり、2階に上がっていったところで典子に聞いた。
「仕事で何かあったの?」
典子は少し困った顔をしたが「ううん」と答えた。
典子を気遣った言葉をかける。
「昨日疲れてたみたいだからさ、大丈夫なの?」
「うんちょっと最近忙しくて。」
「そっか。」
家庭に支障がでるくらいなら仕事をやめろ。
そういえるほど稼ぎのよくない自分が情けなくなる。
その日の夜だった。ベッドで横になっていると典子が話しかけてきた。
「ねぇ、私仕事変わろうかな」
仕事を変える?仕事で何かあったのか?
「・・・そうか?何かあったの?今の会社は最近大変そうだからね、転職もいいかもね」
「取引先の担当の人からこないかって誘われてて・・・給料も今より上がるし。でも通勤がここから1時間かかるんだよね」
「そうか・・・」
妻の方が仕事ができるような気がして自分がますます情けなくなる。
それに通勤が1時間・・・
「転職したいのか?」
「うん、してみようかな・・・お金も必要だし・・・」
「そうか、でもあんまり無理はするなよ。稼ぎがわるくてごめんな」
急に妻が愛しくなってくる。
週末に家へ帰るときも迎えに来れないかもしれない。
そうなれば駅からはバスで家まで帰るしかない。
なんだか子供が自立して自分の手の届かないところへ行ってしまうかのような寂しさだった。