小説本文



それから一月が経ち、5妻は月下旬には転職し、新しい会社へ勤めるようになった。
仕事内容などは話しには聞くものの良くわからない。
週末家に帰ると疲れた顔をしている。
新しいところへ入るときは気疲れするものだ。そのときはそう思っていた。
次の週、家へ帰ると娘がほか弁を食べていた。


「お母さんは?」


「仕事だって。弁当買ってきてすぐ出て行ったよ。」


「そうか」


「あ、お父さんの分ないよ。買い忘れたみたい。」


「ないの?・・・じゃあ外で食べてくるか。」


誘われて入った会社だ。妻も今が頑張りどきなのかもしれない。
そのとき玄関のドアが開く音がした。


「ただいま~」


手に買出しの弁当の袋を持った妻が帰ってきた。


「俺の分もある?」


「え?」


「俺の弁当なかったぞ。ま、いいけど。」


「うそ、ごめん、じゃあこれ食べて!」


「いいよいいよ、ちょっと外で食べてくるよ。ちょうどよかった、車の鍵かしてよ」


「うん、じゃあついでにガソリン入れてきてよ。」


そう言われて俺は外へ出かけていった。
車で5分程度のちょっとした繁華街の定食屋で夕食を済ませ、ガソリンスタンドへ行く。
最近はセルフが増えてきたがいつも行くガソリンスタンドは相変わらず学生のバイトが大きな声で 車を先導していた。


「ガソリン満タンで」


そういってガソリンタンクを開ける。
バイトの兄ちゃんが窓を拭きはじめる。

・・・バイトの兄ちゃんはフロントガラスを拭きながら俺の顔をチラチラ見る。
最近のバイトは客に対しての礼儀も知らないのか。
薄笑いでこっちを見ている兄ちゃん。
そのときは料金を支払い、ガソリンスタンドを後にしたが、なんだか後味がわるかった。

家に帰り妻にそのとを話したが「気のせいじゃない?」で終わりだった。
ただ特に気にもせずそのまま風呂に入る。
風呂からあがりリビングへと向うとき玄関のドアが開き、車のキーをもった妻が入ってきた。


「どこか行ってきたの?」


「いや、さっき笑われたって言ってたから汚れてるんだと思って車の中掃除してきたの」


「そっか、確かに汚かったもんな」


笑いながらそんな話をしていた。
最近何かぎこちない妻であり、それだけに仕事が大変なんだと気を使ってしまう。
その日は妻が風呂に入っている間に先に寝室で寝入っていた。
次の日の朝、昨晩早く寝たこともあってか8時に目が覚めた。
休日はいつも10時頃にのっそりと起きてくるのが日課だが、やはり早くに起きるのは気持ちがいい。
妻は休日でも早くから朝食の準備をして9時には家族みんなで朝食をとる。
疲れ気味なのだったらもう少し寝てろ。そう思いながら下のリビングへ降りた。
しかし妻の姿はない。寝室にはもういなかったからてっきりキッチンで朝食でも作っているのかと思っていたが そうではないようだ。
外で草取りでもしてるのかな。
テレビをつけ、テーブルの上に置いてある今日の新聞を読む。
単身赴任で住んでいるアパートでは新聞は取っいない。
新聞を読むのは家に帰った土日だけた。
新聞を読み終え、ぼーっとテレビを見ていた。
玄関のドアが開く音がし、妻がリビングに入ってくる。


「あ、起きてたんだ?」


「おー。どこ行っってたの」


「ちょっと町内会の集まりがあったの」


「朝から大変だね~」


ちょっとは妻の体を気遣った言葉をかけてあげたい。
ただ素直にそんな言葉をいえないのが俺の性格だった。
いや、世の男はそんなものだろう。
恥ずかしくていつまでも子供みたいでいる男も少なくはないだろう。
まして朝のちょっとした倦怠感がある中でそんなことは言えなかった。
朝食を食べ終え、一服をしようと思ったが煙草が切れていた。
近くの自販機に散歩がてら歩く。天気のいい日に朝から散歩なんて気持ちいいもんだ。
煙草を買い、少し遠回りして家に帰ることにした。
早朝に散歩をしている人はよく見るがやはりこの時間は自分ひとりしかいない。
ほとんどが車だ。自分もそっちの人間のはずなのにな。
少し可笑しな気持ちでいるとき、ふと掲示板が目に入った。


「6月9日、朝9時から町内会の集まりを開きます。」


時計で日付を確認する。今日は6月2日だか集まりはら来週だよな。
妻はさっき集まりに行ってきたのに、2週連続であるのか?
おかしいな。最近仕事で疲れているんだろうが少し心ここにあらずな感じを受ける。
無理しているのではないかと心配している最中だから余計そう感じるのだろうか。
今まで仕事も家事もきっちりこなしていた妻が最近は気の抜けた行動が多い。
何か悩みごとや隠しごとでもあるのか?
まあ、町内会の日程が変わることなんてそこまで珍しいというほどのことでもないだろう。
もう少し時間が経てば仕事にも慣れてまた元に戻るだろう。
気にしすぎるのもな・・・。子供じゃないんだし。
そんな風に気にも留めずに散歩を楽しみ家に帰った。