小説本文



翌週、娘の真菜と妻と3人で旅行に出かけた。
明弘は友達と遊ぶ予定があるとのことで来なかった。
せっかくみんなで行こうと思ったがもう小さな子じゃない。
親と行動するのも気が引けるんだろう。
温泉は車で1時間ほどの有名な旅館だった。
行く途中、車の中では家族3人で楽しく会話をし、観光もした。
有名な神社に行き、お参りもした。
昼ごはんは妻の希望で鰻屋に入った。
地元では有名らしい。
確かにフワフワの身に甘いタレの蒲焼は絶品だった。
これから旅館に行き豪華な夕食なのに昼食にこんなに豪華なものを食べていいのだろうか。
1杯2000円の蒸篭蒸しを食べた。
その後は観光名所の滝を見に行き、夕方には旅館に着いた。
旅館では温泉に入り、おいしい料理に舌鼓をうち、ゆったりとした時間の流れる空間で身体を癒した。
夜には温泉街を家族3人で歩き、いろんなお土産屋を見て回った。
明弘へのお土産はあれがいいこれがいいと真菜と典子は話が絶えなかった。
散々いろんなお店を回り、いろんな話をしたが結局お土産は買わなかった。
意見の合うものがなかったらしい。
だが3人ともそんな時間が何よりも有意義に感じていた。
真菜は特に喜んでくれ、寝る前にもお風呂に入りに行った。
その時間は温泉旅館の部屋で妻と二人っきりだった。
妻に話しかける。


「こんなのもたまにはいいね。」


妻も俺の言葉に返す


「うん、子供が大きくなるとなかなかね。しばらくこういうのなかったよね。これからも旅行は行こうね!」



「ははは(笑)旅行に行きたいだけだろ」


「旅行もいいけど、年取ってもこうやって仲の良い夫婦でいたいってことよ。」



夫婦でこういう真面目な会話をするのもなかなかない。
夫婦生活が長くなるにつれてお互いに照れが出てきて素直に話す機会が減ってくるものだ。


「それは俺だって同じ気持ちだよ。」


お互いに笑顔で沈黙した時間が流れる。
それは和やかで温かい空気の流れる不思議な時間だった。


「あなたと結婚してよかった」


典子が穏やかな口調でポツリと言った。
俺は恥ずかしくて何も言えなかった。
だが心の中にどんどんエネルギーが沸いてくるのを感じた。
ずっとこんな幸せな家族でいたい。
何もかも忘れて純粋に旅行を楽しんだ。
典子も真菜もずっと笑顔で、久しぶりに家族の温かさを感じた。
家族の良さを改めて感じた。
俺はこれを守るために頑張ってきたんだ。
そう思い返させてくれた。


妻への疑念は晴れない。
でもこのままもとの生活に戻れるはずだ。
今日の典子の顔は本当に美しくて可愛らしかった。
俺の女房になってくれてありがとう、典子。


翌日はお土産を買い、サファリパークに行った。
典子も真菜も大喜びで窓の外にいる動物に見入っていた。
まるで子供のようにはしゃぐ典子、典子と友人のように仲の良い真菜。
ライオンのエリアでは恐がり、シマウマのエリアでは窓を開け、トラの赤ちゃんと触れ合う場所では満面の笑みで抱っこをしていた。
サファリパークを出ると家まで高速を走らせて帰った。
車中、典子も真菜もぐっすり寝入っていた。
あれだけハシャげば疲れるだろう。
俺は高速を走らせながら2人が存分に楽しんでくれたことに心から満足していた。
こんな楽しいことがあるから人生って面白いんだ。
みんなで気分が高揚し、楽しい時間を過ごす。
家族だからこそ過ごせる素敵な時間を過ごした。


夕方に家に着いた。
1泊2日のゆったりとした旅行。
みんなが笑顔で楽しい時間を過ごしたと言わんばかりの顔をしていたことで明弘は「俺も行けばよかった~」と言っていた。
お土産に買ったお菓子を食べながら旅行の話をする。
俺、典子、真菜、明弘。
この4人が俺の自慢の家族だ。
真菜はいつかお嫁に行き、明弘もいつかお嫁さんをもらい、自立していく。
自分も昔は子供の立場だった。
いつの間にか大人になり恋愛もした。
愛し合い、結ばれ、新しい家族を迎え、子育てに苦労し、楽しみ、感動を得て、また2人に戻る。
お互いに時間を共有し、一緒に老いを迎える。
人生において一番大切なもの、それは家族だと改めて感じた旅行だった。
大切な子供たち、大切な妻、俺が守るべきものはそこにある。
俺にとっての幸せはそこにある。

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