小説本文



タクシーの着いた場所、そこは住宅街から少し離れた場所にポツンとある2階建ての建物だった。
タクシーを待たせながら歩いて近づく。
外からみる限り電気はついていない。
四角く、その一辺がおよそ15mほどの建物の周りを歩いてみるが中は見えなかった。
それでもこの建物の大きさ、駐車場の広さからして10人から15人はいる会社だろう。
もちろんただの憶測にしか過ぎない。
正面玄関にあるインターホンを押してみるが返答はない。
深夜3時だ。
わかってはいたが妻が今も仕事をしているわけではないのは確認できた。
どこを探せばいいかの目処すらつかない。
家に帰っているかもしれない。
いや、帰ってくるかもしれない。
今できることは家で待つこと。
それだけだ。
いや、それしかなかった。
・・・そしてそのまま一晩が明けた。





きれいなオフィスビルの5F 、自動ドアが開き中のきれいなつくりのオフィスが見える。
朝11時にもかかわらず客らしき人が一人いた。


「いらっしゃいませ。」


笑顔の女性がこちらを向いて挨拶している。


「こちらへどうぞ」


カウンター型できれいな不動産屋のような室内だった。
その女性の対面の席に座る。
興信所といえば古びたビルの一室という印象だったがここは違う。
社員教育もしっかりされている。
こんな状況をそのまま話すのは抵抗がある。
しかしここなら任せてもいいという雰囲気を感じる。


「今回はどのようなご用件で」


変わらず笑顔の女性が口を開く。


「あの、妻が昨日から帰ってなくて、恥ずかしいんですが実は浮気してるみたいなんです。だから妻を探してほしいのと、浮気相手の住所などわかればと思って。」


「奥さんの居場所ですね。一昨日までは普通に帰ってこられたんですか?」


「はい、家には帰ってきてて、私が浮気の事実を知ったことを妻も知り、それで帰らないのではないかと。」


「そうですか・・・奥さんと連絡はとられてみましたか?」


「一度電話が掛かってきて、事情は話すと言われたんですが、それから電源を切ってるみたいで。」


「では浮気相手と一緒にいる可能性が高いから浮気相手を探すというご依頼でよろしいですね。」


「ええ、ただ私自身もどうなっているのかわからない状態で、一緒にいるのか、妻が一人でいるのかすらわからないんです。」


「奥さんは普段通帳など持ち歩いてますか?カードや現金など、数日過ごせるだけのお金があればいいのですが、なければ相手と一緒にいるかお宅に帰られるしかないと思われます。なのでこちらでの調査に加えて奥さんが帰られる可能性も考えたほうがいいかも知れませんね。」


そして妻のDVDのことは言わずに調査依頼した。
こんな話を聞いても表情を一切崩さない受付の女性、こういう話になれているのか、それとも客の心理を気遣ってのことなのか、どちらかはわからないがしっかりした会社だという印象が深まる。
子供たちの将来、自分達の将来の為に貯めてきたお金を少しでもこんなことの為に使うのが悔しかった。
そして情けなかった。
一通りの調査以来をし、興信所を後にする。

そしてそのまま妻の会社を訪ねた。
妻は会社に出勤しているかもしれない。
インターホンを押し、自分の立場を隠し妻を訪ねる。
しかし帰ってきたのは予想通りの言葉だった。


「今日はお休みいただいてますが、どちらさまでしょうか?」


何も言わずに妻の会社を跡にした。

家のソファに座り、ただ流れているだけのテレビを見る。
即日調査するとの話だったがどうなるのかわからない。
妻の会社、実家・・・さまざまな情報を示した。
あたれるところをすべてあたってみるとのことだ。
心身が疲れ果てているのがわかる。
昨晩は一睡もできず、気分は落ち込み体もひどく疲れている。
家に妻が帰ってくる可能性だって十分にある。
ちょっと飲みすぎてホテルに泊まってきたといいながら帰ってきてくれたらどれだけ楽だろう。
まだ心の中に現実感のなさが残っている。
しかし時間が過ぎていくにどんどん妻が遠くに離れていき、帰ってこないことが現実として突きつけられる。
蒸発か・・・子供がいるんだぞ。



結局夜になっても妻は帰ってこなかった。
娘達にはなんと言おう。
昨日から帰ってこない妻、そしていつもはいない日にいる俺。
この状況で何をいったら怪しまれずに信じてもらえるだろうか。
取りあえず仕事で急に出張になったとでもいうしかないだろう。
娘にはその通り伝え、自分はこっちに仕事があったから帰ってきたと伝えた。
有給を取れたのは今日までだ。
明日から北九州に行かなければならない。
会社を休んでも家で待っているだけではどうにもならない。
せめて警察、そして興信所からの連絡を待つしか・・・。

翌日の夜、北九州での仕事を終え、単身赴任の部屋に戻った時、家から電話があった。


「あ、お父さん?今日お母さんの会社から電話があって、今日会社に来てないけど連絡くださいって電話があったんだけど。」


妻は会社を休んでいるんじゃなかったのか?
そうか、妻が会社に連絡を入れたのではなく、妻は会社を無断で休んでいたのか。
だから会社を訪ねてもお休みだと言われたのか。
それでも真菜に余計な心配をさせてしまう。


「ああ、お父さんのところにも電話が来て、間違いだったって。出張に出てるから来てないと思われて間違って連絡したらしいよ。」


そんな対応をするので精一杯だった。
急いで妻の会社に電話をする。
夜7時を回ったところだったが電話は繋がった。
そして典子が体調不良で休むと伝えた。
取りあえず2,3日と言ったがこの先どうなるのかがまったく見えない状態だ。
妻が失踪したなんて言える訳がない。
しかし先のことを考える余裕はなかった。

1週間後、北九州の仕事場で働いている時、興信所からの連絡が来た。
週に1回現状報告をしてもらうことになっていたが、遠いのもあり電話連絡をしてもらうようにしていた。


「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。
奥さんが浮気をしていたという事実はまだ確認できませんが、職場での様子は出張が多く忙しい印象を持たれている同僚が多いようです。
仕事を休んで何かをしていたなどは考えづらいかと思われます。」



結局居場所に関してはまったくわからなかった。
あれから妻の会社には、しばらく休むとだけ伝えておいた。
会社でそんな理由が通用するわけが無いのはわかっている。
でも今はどうしようもない。
今後の調査で何か手がかりがつかめるのだろうか。


その翌日の木曜だった。
単身赴任先の部屋見覚えのある封筒が届いた。
いや、見覚えがあるというのは錯覚だ。
普通A4サイズの茶封筒だ。
しかしこの部屋に物が届くなんてほとんどない。
ただ一回あったのは典子のDVDが届いたとき。
そのときの封筒小包とは違うA4封筒だが送り主がそれと同じであることは容易に推測できた。
典子の手がかりになる、もしくは典子からの直接の手紙かもしれない。
中身は手触りでなんであるか確認できる。
封を開け、中身を取り出す。
手紙とDVDだった。
またか・・・でも今はこれしか典子への繋がりはない。
手紙を読む。


「ごめんなさい。こっちを選びます。探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください。私には私の人生があります。
あなたと、そして子供たちと過ごしたこの20年近く、すごく楽しかった。私には一番大切なものでした。
でも今後も一緒に過ごす資格は私にはありません。裏切りの時間を過ごせば過ごすほどあなたと子供たちへの罪悪感が増していき、それでも裏切り続けてしまう自分を許せません。
すべて言い訳ですが、正直にすべてを話します。DVDを見てください。」


読みながら何度も胸を殴られたような感覚に陥った。
全身の血流が増して何かがおかしくなるような感覚。
理由はどうあれ典子から確実なを拒否受けた自分と子供たち。
妻であり母親である自分を捨てるという意思表示。
それは典子だけの問題ではない。
そこにあって当然の、それを基盤とした人生であるはずの家族。
それを一気に崩壊させるということを理解しているのだろうか。
理解していてでもこの道を選ぶという彼女の考えを確認したくて仕方がなかった。
今まで見てきたDVDの中にある典子の姿は彼女のその意思表示を裏付けるようなものだった。


そしてDVDをPCにセットし、再生する。
それは、部屋でショーツ1枚の姿になった典子が机に座り、手紙を書いている様子だった。
表情は見えないが、とても寂しげに見えた。
画面がその手紙をアップで映す。
今俺が読んだ手紙だった。

そして手紙を書き終えた妻は男に促されるようにベッドの上に行き、カメラに向かって股を開いた。
ショーツの隙間から男の手が典子の秘部を弄る。
中からローターが取り出される。
ローターを入れた状態で手紙を書かされていたのだ。
さっき読んだ手紙が本音なのかどうか強制なのかもわからなくなる。
そしてカメラが固定され、男はベッドに仰向けになり、典子はそれに跨った。
男の足のほうを向き、その延長線上にあるカメラを見ながら腰を降り始める。


「よし、奥さん、気持ちいいのはこれくらいにして、旦那に教えてあげなきゃな。真実を。」


そういいながら男は妻の太ももを両手で持ち上げ、カメラに結合部が丸見えの状態になった。
下を向き、どうしていいかわからないような表情をしている典子。


「早くいわなきゃ。ほら」


典子が口を開いた。


「あなたが知ってる通り、今見ている通り、私はこんな女です。こんなことが大好きで、離れられなくなった女なの。
初めは嫌だったけど、どんどんいろんなことをさせられるうちに身体が快楽を覚えてしまって、いくら理性で抑えようとしても身体がいうことを聞いてくれない。
それがあなた達への裏切りだってわかってても、あなた達さえ知らなければ、ばれなければと思ったらその理性がどんどん小さくなってしまって・・・。」

すると男が小刻みに腰を振り始めた。
妻は下を向き、それに耐えている。
自分の妻の、それも他の男との性交に没頭しているという告白など聞きたくはなかった。
それでもそれが現実なのかどうかすらわからないほど自分の頭が混乱していた。
妻が俺へのメッセージを、それも他の男の上に跨った状態で・・・。


「ほら、ちゃんと言えよ奥さん。」


男に促されて妻が再び口を開く。


「こうなったきっかけは・・・ま」


ピー・・・
なんだ?
音が消えた。
映像は普通に再生されているのに音がでない。
巻き戻してもう一度見てみるがやはり音が消えてる。
きっかけ?
映像以外の一切の音が消えてる。
映像の中で妻はしゃべり続けている。
音が聞きたい。
DVDが原因なんだろうか、そう思いながら音が復活するのを待つ。
3分くらいしたところだろうか、音が戻った。


「それが私です」


自分の頭の中に血が上るのがわかった。
理性ではなく本能でこの男に対しての怒りが満ち溢れていた。
これはDVDの問題じゃない。
あとから編集してわざと音を切ってある。
妻の告白の部分のみを。
それは聞かれたくないことだからか?
いや違う。
だったらDVDを俺に送る必要はない。
DVDを送ってまで音を切る理由。
それは一つだった。
俺を馬鹿にすることを楽しんでいる。
行き場のない怒りがテーブルの上に置いてあるカップに向かった。
カップを手に取り、そのまま床に思いっきり投げつけた。
テーブルもひっくり返し、PCは床に落下した。
どうすればいいかわからない怒りで狂いそうだった。
すべてを破壊しつくしても収まりようのない怒り。
普段仕事で嫌なことがあっても我慢したり、大人の対応をするものだ。
しかし本当の怒りを感じたらそんなものは通用しない。
思うことは一つだった。
この男を潰す。

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