水色のショーツを手に持ったまま高志は、呆然と立ち尽くしていた。
クロッチの部分にもう一度顔を近づけた。
何度見ても間違いない。
何故、何故、何故・・・・・その言葉だけが、頭の中を回っている。
別の自分が、“落ち着け、落ち着け”と、その言葉を繰り返す。
(よく考えてみろ)
(整理してみろ)
(夕べ、堂島泰三の屋敷の前で出会った沖田というゴリラ男、そして一緒にいた女)
(彼らは夏美をこの部屋まで送ってきた・・・・・まさかその時、沖田と夏美が?・・・・いや、それは違う・・・・・あの女も一緒にいたんだ。それに、俺がこの部屋を出てから屋敷に行って帰ってくるまでの時間は小1時間といったところだ)
(じゃあ、屋敷の中で間違いがあったのか? 酒が原因なのか?・・・・・そうだとしても)
(よく考えてみろ)
(整理してみろ)
(・・・いや、それより今 夏美はどこにいるんだ?)
何処からともなく声が聞こえてくる。
(堂島の屋敷だ)
(そうだ)
(そうなんだ)
高志は、パジャマを脱ぎ捨てると、着替えを済ませ、部屋を飛び出した。
流れ落ちる汗を気にする事無く、昨晩と同じ道を駆け抜け、高志は堂島泰三の屋敷に着いてはみたが・・。
ブザーに返事が来る事は無い。
(クソっ! 本当に誰もいないのか)
己の背丈よりも高い壁を恨めしそうに見やりながら、高志はその壁沿いを手掛かりを探すように歩いてみた。
(そうだ、神社の境内から屋敷の2階が見下ろせたじゃないか)
高志は来た道を一旦途中まで戻り、神社に続く道へと向かってみた。
石段を登り始めた時だった。携帯電話が震えた。
(これは・・・・・)
そこには昨日交換したばかりの、夏川弥生の文字が浮かんでいた。
「もしもし・・」
『オ オジサマっ・・・し 新一が・・・』
その声の響(ひびき)だけで、電話の向こうが普通でない事がわかった。
「ど どうした弥生ちゃん!」
『し 新一が・・病院で・・・』
「病院って、何かあったのかい」
『・・・腫れて・・・意識が・・・どうしよう・・・・私・・・』
弥生の切れ切れの言葉と、その雰囲気から普通でない事がすぐにわかった。
「弥生ちゃん 落ち着くんだ。弥生ちゃんは病院に居るのかい? ・・・どこの病院なんだい?」
『・・・・ここは・・・』
その病院の名前を頭で繰り返しながら、高志は途中まで登っていた石段を下り始めた。
妻の事が気がかりで仕方ないのだが、弥生の声の響は、今 まさに命に関わる事ではないのか。
大きな川の橋の入り口近くまで来た時、運よく空車のタクシーを捕まえる事が出来た。
運転手に病院の名前を告げると、高志は“フー”と息を吐き出した。
街中にあるその病院に着いた高志は、出会わせた看護師に確認を取り、病室のある2階へと駆け上がった。
一人部屋のベットには目を閉じた新一が、その横の椅子には涙ぐむ弥生の姿があった。
「や よ い ちゃん・・・」
その声に振り向いた弥生の瞳は、真っ赤に腫れあがっている。
「新一君は・・・・・・」
「・・・命には別状ないって・・・・さっき先生が来て・・・・・今は薬が効いて寝てるだけだから、大丈夫だって」
涙混じりの震える声だ。
高志は取り合えづ胸をなでおろし、一息吐き出した。
「そうか、それならよかった・・・・けど、何で? ・・・・いったい何があったの?」
「それが・・・・」
高志が、“外で”と目配せして2人はベットを離れる事にした。
人気(ひとけ)の少ない待合室に場所を移すと、弥生は深呼吸して、そして事のあらましを高志に喋り始めた。
昨日、高志と神社で別れた後も、夜にかけて新一に電話やメールをしたが、一度も返事がなかった事。
腹を立てながらも、一晩を過ごし、今朝、気が付いたら新一から着信があった事。
すぐに折り返し、電話に出た新一の様子がおかしかった事。
『や・・よ・・い・・・い、痛い・・・頭と首が・・・・』
『どうしたのよ新一? ・・・ねえっ どうしたの? ・・・今 どこなの?』
『は 橋の・・・し 下・・・。い 痛い・・・・』
『・・橋って大学の入り口の? ・・そうなの? ・・・新一 しっかりして』
『そ そう・・・』
そんな会話があり、弥生は自転車を飛ばして橋の近くに行った事。
川の土手の所で倒れている新一を見つけ、すぐに救急車を呼んだ事。
鼻血を出して、唇が腫れて、うつらうつらしている新一を見た時、このまま死ぬんじゃないかと思い、救急車の中でずっと泣いていた事。
そして訳が分からず、気づいたら高志に電話をしていた事。
そして先ほど、やっと医師から新一の無事を伝えられた事・・・・・・・・・・。
「そうか・・・・いったい何があったんだ 新一君に」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
それからしばらくして、高志は新一に付き添うという弥生を残し、大学に戻る事にした。
「オジサマ・・ありがとう」
「気にするなよ。それより新一君が目を覚ましたら電話をくれないか。もし出来れば何があったのかも教えてほしい・・新一君が話せたらだけど」
「はい、わかりました」
高志は立ち去ろうとしたが、もう一度 新一の顔を見ておこうと思い、再び病室に戻ってみた。
ベットには先ほどと同じように寝息をたてる新一がいる。
ふと、枕元の棚に目を移すと、いくつかの小物が置かれていた。
携帯電話、小さいハンドタオル、ガム、100円ライター、そして タバコ・・・・・。
(ん?)
「・・・・・弥生ちゃん、新一君はタバコを吸うのかい?」
「はい、私は止めてくれって言ってるんですけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「オジサマ、タバコが何か?」
「い いや・・・・・」
その言葉を最後に高志は、病室を後にした。
病院から取り合えづタクシーに乗ってはみた・・・・・・。
新一の怪我の意味するものは?
夏美の失踪と何か関係があるのか?
そしてあのタバコは?
頭の中には、何ともいえないモヤモヤがある。
その頭に、連日続く猛暑が更に追い打ちをかけてくる・・・・・。
クロッチの部分にもう一度顔を近づけた。
何度見ても間違いない。
何故、何故、何故・・・・・その言葉だけが、頭の中を回っている。
別の自分が、“落ち着け、落ち着け”と、その言葉を繰り返す。
(よく考えてみろ)
(整理してみろ)
(夕べ、堂島泰三の屋敷の前で出会った沖田というゴリラ男、そして一緒にいた女)
(彼らは夏美をこの部屋まで送ってきた・・・・・まさかその時、沖田と夏美が?・・・・いや、それは違う・・・・・あの女も一緒にいたんだ。それに、俺がこの部屋を出てから屋敷に行って帰ってくるまでの時間は小1時間といったところだ)
(じゃあ、屋敷の中で間違いがあったのか? 酒が原因なのか?・・・・・そうだとしても)
(よく考えてみろ)
(整理してみろ)
(・・・いや、それより今 夏美はどこにいるんだ?)
何処からともなく声が聞こえてくる。
(堂島の屋敷だ)
(そうだ)
(そうなんだ)
高志は、パジャマを脱ぎ捨てると、着替えを済ませ、部屋を飛び出した。
流れ落ちる汗を気にする事無く、昨晩と同じ道を駆け抜け、高志は堂島泰三の屋敷に着いてはみたが・・。
ブザーに返事が来る事は無い。
(クソっ! 本当に誰もいないのか)
己の背丈よりも高い壁を恨めしそうに見やりながら、高志はその壁沿いを手掛かりを探すように歩いてみた。
(そうだ、神社の境内から屋敷の2階が見下ろせたじゃないか)
高志は来た道を一旦途中まで戻り、神社に続く道へと向かってみた。
石段を登り始めた時だった。携帯電話が震えた。
(これは・・・・・)
そこには昨日交換したばかりの、夏川弥生の文字が浮かんでいた。
「もしもし・・」
『オ オジサマっ・・・し 新一が・・・』
その声の響(ひびき)だけで、電話の向こうが普通でない事がわかった。
「ど どうした弥生ちゃん!」
『し 新一が・・病院で・・・』
「病院って、何かあったのかい」
『・・・腫れて・・・意識が・・・どうしよう・・・・私・・・』
弥生の切れ切れの言葉と、その雰囲気から普通でない事がすぐにわかった。
「弥生ちゃん 落ち着くんだ。弥生ちゃんは病院に居るのかい? ・・・どこの病院なんだい?」
『・・・・ここは・・・』
その病院の名前を頭で繰り返しながら、高志は途中まで登っていた石段を下り始めた。
妻の事が気がかりで仕方ないのだが、弥生の声の響は、今 まさに命に関わる事ではないのか。
大きな川の橋の入り口近くまで来た時、運よく空車のタクシーを捕まえる事が出来た。
運転手に病院の名前を告げると、高志は“フー”と息を吐き出した。
街中にあるその病院に着いた高志は、出会わせた看護師に確認を取り、病室のある2階へと駆け上がった。
一人部屋のベットには目を閉じた新一が、その横の椅子には涙ぐむ弥生の姿があった。
「や よ い ちゃん・・・」
その声に振り向いた弥生の瞳は、真っ赤に腫れあがっている。
「新一君は・・・・・・」
「・・・命には別状ないって・・・・さっき先生が来て・・・・・今は薬が効いて寝てるだけだから、大丈夫だって」
涙混じりの震える声だ。
高志は取り合えづ胸をなでおろし、一息吐き出した。
「そうか、それならよかった・・・・けど、何で? ・・・・いったい何があったの?」
「それが・・・・」
高志が、“外で”と目配せして2人はベットを離れる事にした。
人気(ひとけ)の少ない待合室に場所を移すと、弥生は深呼吸して、そして事のあらましを高志に喋り始めた。
昨日、高志と神社で別れた後も、夜にかけて新一に電話やメールをしたが、一度も返事がなかった事。
腹を立てながらも、一晩を過ごし、今朝、気が付いたら新一から着信があった事。
すぐに折り返し、電話に出た新一の様子がおかしかった事。
『や・・よ・・い・・・い、痛い・・・頭と首が・・・・』
『どうしたのよ新一? ・・・ねえっ どうしたの? ・・・今 どこなの?』
『は 橋の・・・し 下・・・。い 痛い・・・・』
『・・橋って大学の入り口の? ・・そうなの? ・・・新一 しっかりして』
『そ そう・・・』
そんな会話があり、弥生は自転車を飛ばして橋の近くに行った事。
川の土手の所で倒れている新一を見つけ、すぐに救急車を呼んだ事。
鼻血を出して、唇が腫れて、うつらうつらしている新一を見た時、このまま死ぬんじゃないかと思い、救急車の中でずっと泣いていた事。
そして訳が分からず、気づいたら高志に電話をしていた事。
そして先ほど、やっと医師から新一の無事を伝えられた事・・・・・・・・・・。
「そうか・・・・いったい何があったんだ 新一君に」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
それからしばらくして、高志は新一に付き添うという弥生を残し、大学に戻る事にした。
「オジサマ・・ありがとう」
「気にするなよ。それより新一君が目を覚ましたら電話をくれないか。もし出来れば何があったのかも教えてほしい・・新一君が話せたらだけど」
「はい、わかりました」
高志は立ち去ろうとしたが、もう一度 新一の顔を見ておこうと思い、再び病室に戻ってみた。
ベットには先ほどと同じように寝息をたてる新一がいる。
ふと、枕元の棚に目を移すと、いくつかの小物が置かれていた。
携帯電話、小さいハンドタオル、ガム、100円ライター、そして タバコ・・・・・。
(ん?)
「・・・・・弥生ちゃん、新一君はタバコを吸うのかい?」
「はい、私は止めてくれって言ってるんですけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「オジサマ、タバコが何か?」
「い いや・・・・・」
その言葉を最後に高志は、病室を後にした。
病院から取り合えづタクシーに乗ってはみた・・・・・・。
新一の怪我の意味するものは?
夏美の失踪と何か関係があるのか?
そしてあのタバコは?
頭の中には、何ともいえないモヤモヤがある。
その頭に、連日続く猛暑が更に追い打ちをかけてくる・・・・・。