咳き込みながら起き上った高志の頭の中で、夢の記憶が遠ざかって行った。
首元のボタンを一つ外して、フーッと息を吐き出した。
帳(とばり)の降りた夜闇の中にいる自分に気づくと、小さな武者震いが起こった。
(寝てたのか・・・)
今いる自分の記憶を遡ってみれば、病室での新一が居て、弥生が居た・・・そしてタバコ。
ドライブインの中年女の笑い声を思い出し、炎天下の中を歩き回った自分がいた。
そして弥生の電話を思い出した。
(そういえば、弥生ちゃんは沖田に会うって・・・)
ふと、自分の股間が圧迫している事に気が付いた。
夢・・・淫靡な夢・・・・限りなく悪夢に近い夢・・・・・。
ベンチから立ち上がると足元が揺れた。
(疲れてるんだな・・・)
もう一度ベンチに座り、額に手を当ててみた。
その時、いきなり携帯電話の振動音が響きわたった。
暗がりに光る画面をみれば、見た事のない番号だ。
「・・・・も もしもし」
身構えた声は微かに震えていた。
『・・夏美先生のご主人ですか』
(!・・・)
頭の奥にビリッと電気が走る。
「はい。・・そちらは」
『私、先日お会いした、堂島理事長にお仕えしている沖田でございます』
(沖田!?)
高志の記憶の中から、あのゴリラ男の顔が甦ってくる。
『今 ご主人は、どちらにいらっしゃますか?』
頭の整理がつく間もなく聞こえてくる沖田の律儀な声に、高志は導かれるように答えていた。
「あ、ええ ここは神社の境内・・です」
『そうですか。それは丁度良かった。これから屋敷の方へ来ていただけませんか』
(えっ!?)
『ぜひお願いします』
「な、夏美は?」
『もちろん、奥様もお待ちしています』
「・・・・・・・・・・・・」
『・・では、お越しください』
「あ・・・・はい」
切れた電話を耳から離し、狐にでも化かされているのではないかと、辺りを見渡した。
まだ夢? ・・・ そんな言葉がよぎり、もう一度携帯電話を開いてみた・・。
間違いなくそこには、見知らぬ着信の履歴がある。
高志は立ち上がり、階段の方へと歩き出した。
頼りない街灯に照らされた門は、間違いなく堂島泰三の屋敷の物で、壁のブザーも間違いなく何度も押したものだった。
高志はゆっくりそれに指を置くと、グッと押し込んだ。
遠くでブザーの音が聞こえた。
すぐに門の向こう側にパタパタと人が近付いてくる足音が聞こえ、そして門が開かれた。
目の前に沖田が立っていた。
間違いなく夏美の夫の山中高志である事を確認したのか、頭の上から足のつま先までを見下ろした視線が“こちらへ”と中を指した。
高志は気の利いた言葉が思いつく間もなく、沖田の背中を追いかけるように中へと続いた。
建物の玄関扉が開くと、そこはゆうに2階以上の吹き抜けのあるホールだった。
「土足のままでどうぞ」
高志はその時初めて気づいた。沖田はビシッとしたサマースーツにカラフルなネクタイをしている。
ホールを抜けると、これまた大きな扉が見えた。
扉の前で沖田が、高志の目を見て頷いた。
そして扉が開かれた・・・・。
(あっ!)
中へ入った高志は、それこそ狐に化かされたかと思った・・・が、すぐにあのドライブインの女の言葉が甦ってきた。
『~パーティーが出来るような大広間もあるらしいわよ』
『この辺りの名士と呼ばれる何人かの人達が時々集まってるらしいわよ・・・』
目の前では、それなりの身なりの中年の男と女が、ある者はグラスを片手に、ある者は料理皿に箸をつけながら、思い思いがこの空間に溶け込んでいる。
「ご主人」
その声に振り向けば、沖田が立っている。
「こちらのブレザーを着てください。一応フォーマルをお願いしていますので」
改まって自分の格好を確認して、目を前に向ければ、40~60代くらいの、それなりの雰囲気を持った中年の男と女たちだ。人数は30人ほどか。
「ビールでよろしいですか」
ブレザーにそでを通した高志に、沖田の手からグラスが渡された。
「あの・・これは一体全体・・・?」
「今夜は、夏美先生の助教授の昇進のお祝いです」
「ええっ!?」
その声に周りの幾人かの目が高志に向く。
(昇進? ・・・ 夏美が? ・・・ こんなに早く?)
「夏休みが終わて、新学期が始まれば夏美先生には助教授の職に就いて頂きます」
「・・・・・・・・」
「今夜は、そのお祝いをかねたパーティーです」
周りの酔客が高志に酒を勧めに来た。
「いやあ、あなたが夏美先生のご主人ですか」
人の良さそうな頭の薄い男がビールを注いでくる。
「昇進おめでとう。今夜はおめでたいんだからいっぱい飲みましょうよ」
立派な髭の男がビールを勧めてくる。
高志は、何杯かのビールを胃に流し込みながら沖田を見る。
「ご主人を驚かそうと、この数日間準備が大変でした。さあ、もっと飲んで」
ニコリともせず、沖田がビール瓶を差し向けた。
(・・・・うそだ)
「まあ、今夜はサプライズパーティーだったのネ」
中年の女性が高志に酒を勧めにきた。
(ち ・・違う)
アルコールが体に回りながらも、高志は冷静に努めようとする。
(騙されんぞ)
よく見ると沖田の口元と頬が微かに腫れている。
新一との“いざこざ”、それに弥生は? 沖田は弥生と会ったのか?
いや、それよりあのショーツ。
(すんなりこの状況を喜んでたまるか)
高志の頭に血が上ってきた。その時。
「あら! 今夜の主役の登場だわ」
どこからともなく声が聞こえてきた。
首元のボタンを一つ外して、フーッと息を吐き出した。
帳(とばり)の降りた夜闇の中にいる自分に気づくと、小さな武者震いが起こった。
(寝てたのか・・・)
今いる自分の記憶を遡ってみれば、病室での新一が居て、弥生が居た・・・そしてタバコ。
ドライブインの中年女の笑い声を思い出し、炎天下の中を歩き回った自分がいた。
そして弥生の電話を思い出した。
(そういえば、弥生ちゃんは沖田に会うって・・・)
ふと、自分の股間が圧迫している事に気が付いた。
夢・・・淫靡な夢・・・・限りなく悪夢に近い夢・・・・・。
ベンチから立ち上がると足元が揺れた。
(疲れてるんだな・・・)
もう一度ベンチに座り、額に手を当ててみた。
その時、いきなり携帯電話の振動音が響きわたった。
暗がりに光る画面をみれば、見た事のない番号だ。
「・・・・も もしもし」
身構えた声は微かに震えていた。
『・・夏美先生のご主人ですか』
(!・・・)
頭の奥にビリッと電気が走る。
「はい。・・そちらは」
『私、先日お会いした、堂島理事長にお仕えしている沖田でございます』
(沖田!?)
高志の記憶の中から、あのゴリラ男の顔が甦ってくる。
『今 ご主人は、どちらにいらっしゃますか?』
頭の整理がつく間もなく聞こえてくる沖田の律儀な声に、高志は導かれるように答えていた。
「あ、ええ ここは神社の境内・・です」
『そうですか。それは丁度良かった。これから屋敷の方へ来ていただけませんか』
(えっ!?)
『ぜひお願いします』
「な、夏美は?」
『もちろん、奥様もお待ちしています』
「・・・・・・・・・・・・」
『・・では、お越しください』
「あ・・・・はい」
切れた電話を耳から離し、狐にでも化かされているのではないかと、辺りを見渡した。
まだ夢? ・・・ そんな言葉がよぎり、もう一度携帯電話を開いてみた・・。
間違いなくそこには、見知らぬ着信の履歴がある。
高志は立ち上がり、階段の方へと歩き出した。
頼りない街灯に照らされた門は、間違いなく堂島泰三の屋敷の物で、壁のブザーも間違いなく何度も押したものだった。
高志はゆっくりそれに指を置くと、グッと押し込んだ。
遠くでブザーの音が聞こえた。
すぐに門の向こう側にパタパタと人が近付いてくる足音が聞こえ、そして門が開かれた。
目の前に沖田が立っていた。
間違いなく夏美の夫の山中高志である事を確認したのか、頭の上から足のつま先までを見下ろした視線が“こちらへ”と中を指した。
高志は気の利いた言葉が思いつく間もなく、沖田の背中を追いかけるように中へと続いた。
建物の玄関扉が開くと、そこはゆうに2階以上の吹き抜けのあるホールだった。
「土足のままでどうぞ」
高志はその時初めて気づいた。沖田はビシッとしたサマースーツにカラフルなネクタイをしている。
ホールを抜けると、これまた大きな扉が見えた。
扉の前で沖田が、高志の目を見て頷いた。
そして扉が開かれた・・・・。
(あっ!)
中へ入った高志は、それこそ狐に化かされたかと思った・・・が、すぐにあのドライブインの女の言葉が甦ってきた。
『~パーティーが出来るような大広間もあるらしいわよ』
『この辺りの名士と呼ばれる何人かの人達が時々集まってるらしいわよ・・・』
目の前では、それなりの身なりの中年の男と女が、ある者はグラスを片手に、ある者は料理皿に箸をつけながら、思い思いがこの空間に溶け込んでいる。
「ご主人」
その声に振り向けば、沖田が立っている。
「こちらのブレザーを着てください。一応フォーマルをお願いしていますので」
改まって自分の格好を確認して、目を前に向ければ、40~60代くらいの、それなりの雰囲気を持った中年の男と女たちだ。人数は30人ほどか。
「ビールでよろしいですか」
ブレザーにそでを通した高志に、沖田の手からグラスが渡された。
「あの・・これは一体全体・・・?」
「今夜は、夏美先生の助教授の昇進のお祝いです」
「ええっ!?」
その声に周りの幾人かの目が高志に向く。
(昇進? ・・・ 夏美が? ・・・ こんなに早く?)
「夏休みが終わて、新学期が始まれば夏美先生には助教授の職に就いて頂きます」
「・・・・・・・・」
「今夜は、そのお祝いをかねたパーティーです」
周りの酔客が高志に酒を勧めに来た。
「いやあ、あなたが夏美先生のご主人ですか」
人の良さそうな頭の薄い男がビールを注いでくる。
「昇進おめでとう。今夜はおめでたいんだからいっぱい飲みましょうよ」
立派な髭の男がビールを勧めてくる。
高志は、何杯かのビールを胃に流し込みながら沖田を見る。
「ご主人を驚かそうと、この数日間準備が大変でした。さあ、もっと飲んで」
ニコリともせず、沖田がビール瓶を差し向けた。
(・・・・うそだ)
「まあ、今夜はサプライズパーティーだったのネ」
中年の女性が高志に酒を勧めにきた。
(ち ・・違う)
アルコールが体に回りながらも、高志は冷静に努めようとする。
(騙されんぞ)
よく見ると沖田の口元と頬が微かに腫れている。
新一との“いざこざ”、それに弥生は? 沖田は弥生と会ったのか?
いや、それよりあのショーツ。
(すんなりこの状況を喜んでたまるか)
高志の頭に血が上ってきた。その時。
「あら! 今夜の主役の登場だわ」
どこからともなく声が聞こえてきた。