作品:役員会 ~マゾ夫婦の誕生~ 連載中 作者・NT 約9分で読めます
第11話
肌寒かった春は徐々にそれらしく、例年通りの暖かい気候になってきた。
柳町FCは練習と試合を繰り返し、大会の後には父母達の飲み会が行われ、その回数は最終学年とういう事もあって、確実に増えていた。
飲み会に参加する親の顔ぶれは殆ど変わらない中、大学生コーチの太田由香の不倫疑惑や、山際恵美の元AV女優の噂もいつの間にか治まっていた。
この日も試合の後、柳町FC御用達の店『居酒屋さと』には、6年生チームの保護者の姿があった。
試合会場からいったん家に帰った松山貴明は、夜の7時少し前に店に到着した。
2階のいつもの畳部屋に通され、挨拶しながら奥の席に腰を着ける。
向こう側には妻を含む役員達が先に来ていて、話し合いをしていたテーブルがある。
いつも通り総監督の挨拶の後、乾杯があり、飲み会は始まった。
貴明のいるテーブルで話の中心になっていたのは、少し厳つく、威圧感のある遠藤康史(エンドウ ヤスシ)君の父親であった。
貴明は遠藤の横顔を見ながら、視線を横の方へと順に滑らせて行った。
目が止まった所は、コーチ達のテーブルだった。貴明が気になったのは、大学生コーチの一人、太田由香(オオタ ユカ)である。
彼女が保護者達と話してる様子を窺えば、誰かの親と不倫をしてるとは思えない。いや、それは結局“噂”だったのだと、妻が云った言葉を思い出す。
それにしても、彼女はボーイッシュで健康そうな雰囲気だ。彼氏がいるのか気になるお父さん連中はいるだろうが、訊き方を間違えれば、今の時代、即セクハラで訴えられてもおかしくない。その太田由香の肩が隣から叩かれた。東山誠也(ヒガシヤマ セイヤ)君の母親の明美(アケミ)が、他の席から移動して来たのだった。
由香の隣に座った明美の髪はネオソバージュで、背が高くシンプルな服装のせいか男っぽく観える。その明美は由香の耳元に口を近づけ、秘密の囁きか。一瞬、由香の口元がギュッと結ばれ、どことなく困り顔である。貴明は由香の様子を気にしながらも、妻のいるテーブルに視線を向ける事にした。
妻は眉も目も細く、茶色っぽい髪が真っ直ぐ伸びて肩先で綺麗に切り揃えられている。その雰囲気は、貴明にとっての疑惑...男の影を感じてから一段と色っぽくなったように想えてしまう。
と、その時、貴明の耳は後ろの方から聞こえる小さな声をキャッチした。
ーーー例の館(ヤカタ)って......あそこ......んですよ。
ーーーそう、この間......のお母さん...それでね......。
声は聞き取りづらかったが、どうやら男どうしの内緒話のようである。妻の千明に視線を向けながらも、貴明は無意識に男達の会話を聞き取ろうとしている。
ーーーあの人、結構......き者で、凄いん......。
ーーーそうそう、真面目そうに観えて、実はねぇ......。
貴明は何度か振り向いて会話の主を見ようと考えたが、何故か背中が緊張に固まって動かせなかった。視線の先では、妻が奥津紀子(オクツ ノリコ)と、話をしている。その声も聞こえないが、真面目な話をしてるようである。
再び男達の会話が聞こえてきた。
ーーーじゃあやっぱり、次の......上手くいったら......あの人なら最高の......。
断片的に聞こえる言葉は、やはり何を言ってるのか分からない。そして一瞬、静寂が流れたと思った瞬間には、その会話は止まっていた。
貴明はもう一度、今の会話の主が誰だったかと振り向うとした。が、それも止まってしまった。妻の隣に男が来たのが見えたからだった。
その男は、あの深夜の徘徊中に、偶然に出会った秦光博(ハタ ミツヒロ)君の父親だった。その短髪で強面の彼が、ビール瓶のラベルを上に右手で持ち、左手は瓶の下に添えて、やけに丁寧な酌をする。
妻も秦(ハタ)の方に向き直り、正座して畏まっている。その手はグラスを握っている。
声は聞こえないが、秦は役員の仕事を労っているのか、笑みを浮かべながら時おり頭を下げている。妻はその姿に戸惑っているのか、表情は引き攣っているように観えなくもない。
貴明は妻の顔をじっと見詰めた。その朱い唇。記憶の奥から、先だっての妻の痴態が蘇って来る。
栗の華の匂いが着いたショーツ。その次の日には、ソファーで眠りコケてた貴明のアレをシャブってきた。そしてセックス。あの時は自分が自分じゃなくなるような、これまでの夫婦の営みにはなかった交わりだったと、貴明は今でも想っている。
しかし、妻の変貌の原因を考えれば、嫌でも男の存在に行き着くのだった。もし、妻のLINEでも見る事が出来れば......。
その時、秦が妻の隣から立ち上がるのが見えて、貴明は我に返った。一瞬、秦がチラリとこちらを見た気がした。
千明はふと視線を感じて、目を向けた。そこには夫の貴明。こちらに向く眼差しに、思わず怯える自分がいる。
ひょっとして夫はLINEを読んだのか。彼とは、あの淫靡なホテルで抱かれてからも、何度と関係を重ねている。その度に彼は、スマホのロックを外しておけと指示を飛ばして来る。
そしてつい先日、千明はロックの設定を解除した。無防備にしたスマホをリビングなどに忘れたフリをしているのである。そしてその緊張にさえ、興奮を覚えるようになってしまったどうしようもない自分がここにいる。
あぁ...夫がまだこちらを見ている。やはり、既に、本当に、夫は彼とのLINEの履歴を読んだのか。LINEの頻度は、このところ上がっている。
千明はスマホに着信があったフリをして、夫の視線から逃げるように俯いた。そして実際に膝元でスマホを開いてみた。
LINEアプリをタップして、彼とのこれまでのやり取りを読み直し始めたのだった。
《久し振りだったからか、凄く感じてしまいました。恥ずかしい...》
《旦那より俺の方が良かったって事かな?それにしても千明の濡れ具合は凄かったな》
《夕べは貴男に指示されたからではないけど、主人に抱かれました。でも...赴任帰りに抱かれた時は感じたのに...》
《俺の身体に馴染んでしまったようだな。俺に捨てられないようにしないとな(笑)》
《今日も恥ずかしいけど、気持ち良かったです。これまでの夫との営みは何だったのだろう、と思ってしまう自分が、とても嫌になります》
《俺との相性がいいのもある。生で受けとめるようになったのも一つ》
《主人への罪悪感が増してます...だからもう》
《罪悪感?それがいいんだろ!次も生でたっぷりと。シャワーを浴びずに帰らしてやる》
《今日は酷いじゃないですか、縛ったり写真を撮ったり》
《酷いって?縛られて打たれてアソコを濡らしてたのは誰だよ(笑)。次はもっと凄い格好で写真撮ってやるからな》
《貴男はお尻にも興味があるんですか。前からうすうす気付いてたかもしれないけど》
《旦那はアナルに興味がなかったんだな。じゃあいずれソコの処女は俺がいただくとするか》
《最近、サッカーの会場で貴男の顔を見るのが、何だか辛いです》
《辛い?それは逆だろ。本当は俺の顔を見るだけでアソコを濡らしてるんだろ(笑)。お前は俺にとって都合のいい女だって事、忘れるなよ》
そこまでの履歴を読み終えた時だった。いきなり肩を叩かれた。
「ちょっと~千明さん、お酒の席でスマホは禁止ですよぉ~」
いつの間にか、隣には東山明美が座っていた。千明は慌ててスマホをしまい、表情を強ばらせながら誰にともなく頭を下げた。そして視線を奥の席に向けた。見れば夫が、ずっとこっちを窺っていたように思えてしまう。怖い...。やっぱり“彼”とのLINEのやり取りは見られたくない。でも。
飲み会は盛り上がりが続いていた。その最中、いきなり部屋の電気が消えてしまった。
停電?何人かの声が上がって、あちこちでスマホライトが辺りを照らす。
「闇鍋でもやりますか?」その声には笑いが起きる。
「誰か私を攫(さら)ってぇ~」いつぞやの欲求不満の女性が又も笑いを誘う。
トントントンと、階段を登って来る足音が聞こえてきた。
「すんません、ブレーカーが落ちちゃって」店の主人がスマホを光らせてやって来たのである。「今、見に行かせてますんで」
店主の声に被さるように別の声が続く。
「今日の支払いは無しって事で」
「暗いままだったら、乱交パーティーになっちゃうって監督が言ってますよ」
暗がりの中で爆笑が起こる。
そんな中、貴明の背中に小さな声が掛けられた。「松山さん...」振り返ると、香水の匂いが鼻についた。
スマホをライトにしていなかった貴明には、相手の顔が分からない。何となく小柄な人だと感じたところで、素早く何かを渡された。影は直ぐに行ってしまった。
手の中に残ったそれは、コースターのようである。貴明はスマホをライトにして、それを確かめた。
裏返してみると、そこには090から始まる電話番号。そして下には丁寧な文字。
『相談にのってほしい事があります。近いうちに連絡します』
読み終えると、貴明は咄嗟にそれをズボンのポケットに押し込んだ。
その時、パチパチっと灯りが戻った。
周りの人達の表情が鮮明に観えて、貴明は視線を巡らせる。たった今、立ち去った女性は誰だったのだ。検討もつかない。まさか1人ずつ酌に回って、香水の臭いを嗅ぐわけにもいかない。
それにしても、書かれてあった『相談』とは何だろうか。文字の丁寧さから、その相談事がいい加減なものとは思えない気がする。
文字は停電の中では書けない筈だし、相手は前もってコースターにメッセージを用意してたに違いない。
飲み会はそれから暫くして、お開きの時間となった。
「次は来週の土曜日、午前の練習だけですが、皆さん子供の成長を見に来てやって下さーーい、よろしく~~」
締めの挨拶は、酔った口調の総監督によるものであった。
店を出ると、貴明は2次会に行く妻達役員と他の父母達に挨拶して、家路に向かう事にした。
・・・・
誰が最初にそう呼んだか知らないが、高山(タカヤマ)とコーチの石井(イシイ)にとって『館(ヤカタ)』は同好の性癖を持つ者を、秘密裏に迎え入れてくれる場所に過ぎなかった。
今いる3人は前回と同じ顔ぶれ。高山、石井に役員の一人の奥津紀子である。
「今回も俺達3人で抜け出したみたいで、他の人達、変に思ってませんかね」
「大丈夫だよ、そんなの。誰も気にしてないよ」
石井の心配を高山があっさりと一蹴する。
「それより石井くんさ、今日は実は、遅れて来る人がいるんだよ」
高山の言葉にえっと声を上げる石井の横で、紀子の目が驚きに広がった。「そんなの聞いてない、怖いわ」
紀子の狼狽に、高山が鼻で笑う。「大丈夫だって。来るのは紀子さんと同じぐらい好き者の奥さんだから。まぁ僕も絡むのは初めてなんだけどね」
「って事は“あの人”が来るんですか!?」
早くも何かを想像してか、石井の口元が歪んでいる。紀子の表情は緊張に強張っている。
「そう、柳町FCのお母さんだよ。でも石井君“あの人”ではないんだなぁ。でもまぁ、それなりに楽しめると思うからさ。それより紀子さん、そんなに緊張しないでよ」と、高山が紀子の顔を覗きみる。「紀子さんは我々にオマンコ見せたり、オシッコした時も最初は緊張してたけど、1回したらほら、自分からもっともっとってなったじゃない」
「そんな、恥ずかしい事を...」
「そうそう、紀子さんは完全にマゾだからさ。それより俺の方が緊張してるかも」
石井が苦笑いを浮かべたその時、玄関の方で人の気配がした。
「お、来たようだ。出迎えるとするか」
それから直ぐに、新たな顔ぶれがやって来た。それを見た瞬間、紀子と石井は驚きの声を上げたのだった。
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