小説本文




 熱いシャワーを浴び終えた千明は、ピンク色のガウンを着ようとして、その手を止めた。
 そしてガウンを無造作に収納棚の奥に押し込み、水色のバスタオルを巻く事にした。
 夫はLINEで『先に寝てて』とメッセージを送ってきたが、千明は“準備”をしていたのである。しかし無意識に手にしたピンクのガウンには、軽いショックを覚えていた。一度だけこの自宅に“彼”を入れた時に着たのが、このガウンだったのだ。
 千明はバスタオルを巻いた自分の姿を確認して、もう一度息子の拓実の部屋の前まで行ってみた。
 ドアをそっと開けて覗くと、間違いなくいつもの息子の鼾である。
 夫はそろそろ帰って来る筈だ。何処で待とうかと一旦リビングに行き、ソファーに座る事にした。
 先ほど息子から聞いた新たな“噂”を思い返す。
 『由香コーチが誰かのお父さんと付き合ってるって本当?』
 由香コーチとは、去年総監督に呼ばれて就任した大学生コーチである。チームのOGでもある彼女は、ボーイッシュな髪型でいかにもスポーツマンの礼儀正しい子で、お母さん方の受けも良い。子供達にも人気があって、少ない女子選手の相談役としても貴重な存在なのだ。その彼女が、お父さんと付き合ってる?
 それは本当の事なのか。息子の聞き間違い、勘違いでは?
 山際恵美の疑惑の事もあるのに、これ以上にチームの心配のタネが増えたら参ってしまう。
 その時、家のインタフォンが鳴った。夫が深夜の散歩から戻って来たのである。


 出迎えてくれた妻の格好に、貴明は目を広げて驚いた。
 夫婦には夜の誘いへのアイコンタクトがあると、そんな小説の場面を思い出す。
 貴明は戸惑いながらも、妻に誘われ寝室に向かった。そこは赴任先には存在しなかった夫婦の聖域である。




 昼間静まり帰っていた寝室には、くぐもった声が広がって行く。
 つまり千明は、何度も腰をグッと入れて、尻に気を張って何度も夫を迎え挿れたのである。つい先日、夫がこの獣(イヌ)の形を求めた時にも、千明は一瞬の不穏を感じていた。それでも今夜の千明は、充分な快楽を得ていた。しかし“彼”との違いを無意識に比較する自分自身にゾッとしながらであった。


 貴明は、バスタオル姿で夫を迎え入れた妻の余韻を引きずっていた。
 赴任先では、貴明の好みを察知した現地妻が、裸エプロンやバスタオル1枚でよく出迎えをしてくれた。そして今は、妻のネットリ蜜をまぶしたような穴(アソコ)や、蜜汁に光る女陰を、赴任先の女達と比較している自分がいる。
 迫り上がって来る快感は繰り返され、その度に貴明の腰は送り込みを強めた。この犬の格好が本来の自分の好みであるが、新婚の頃、妻はこの形を『お尻の穴を見られるのが恥ずかしい』と、暗に否定した事がある。それ以来、遠慮していた体位。それを今、妻は愉しんている、と貴明の血が騒ぐ。


 潤んだ膣で男根の熱さを感じて、不浄の門も蠢いている。彼にはソコもよく弄られた。肛門(アナ)の放射状の皺を伸ばすようになぞられ『旦那さんとは、ココでもやるの?』と、サディスティックに訊かれた。首を振る千明に、彼は嬉しそうに唇を歪めるだけだったが。
 ゾワゾワとやって来る何度目かの高みを意識して、千明は膣の収縮を意識した。ジュブジュブと卑猥な音が聞こえれば、咽び泣くような声が自然と漏れる。
 千明は四肢でシーツを噛んで、まだもっと…もっと突いて…心で訴えた。


 貴明はつきたての餅のような尻をひと打ちして、呼吸を整えた。肉の攻防をまだ続けたいと、送り込みを寸刻みにする。最後の瞬間には、聞いた事のない叫びや言葉を吐き出させたいと、排射に我慢を効かせる。
 しかし、膣(つま)の収縮が激しさを増した瞬間、放出の我慢は限界を超えた。
 「ああ、で、出るっ」四つ身の白い背中に突っ伏すと、貴明は暫く粗い息を吐き続けた。
 夫婦には珍しい犬の体位での絶頂には、新鮮味があったのは事実だった。しかし、呼吸が整うと、妻から誘った今夜の形に何か意味があったのかと、貴明には小さな疑問が湧いたのである。
 見れば妻の千明は、裸のまま眠ってしまったのか。
 軽く肩を押すと、赤身を帯びた身体が仰向けになる。胸の隆起を見れば、85以上はある豊満な膨らみ。窪んだヘソも記憶のまま。下の毛は幾分か薄く剃り揃えられたように観えるのは気のせいか。


 寝返りをうった千明は夫の息づかいを確認して、背中を向けたまま、そっと目を開けた。意識はずっと前から覚めている。春先の夜だが、裸のままでも寒さは感じない。
 身体の奥では、未だ燻ぶりがある。夫に抱かれたというのに、満たされないものがあるのはどうしてだ。昔はこんな事はなかった筈なのに。ならば明日も明後日も。そうなのだ、彼とはもう会うわけには…。




・・・・
 赴任先から帰国しての初出社は非常に疲れるものだった。職場までは、ドアtoドアで1時間半。2年間のおおらかな仕事環境と比べると、なかなか辛いものがある。
 先週の深夜の徘徊を思い返せば、ニュースで叩かれるような性的事件にならなくて良かったと、安堵しながら電車に揺られる。
 取り敢えずは次の休日まで何とかと、貴明は気を入れたのである。


 千明の平日は息子の拓実(タクミ)を学校に送り出せば、週3回のパート以外は基本的にフリーである。
 と言っても、サッカーの役員としての仕事が常にある。練習や試合は土日がメインで、水曜日の練習は自由だが、拓実はほぼほぼ参加している。千明はこの日も、パートが終わるとそのまま小学校のグランドに向かった。
 水曜の指導は大学生コーチで、千明がグランドに着いた時には、既に練習は始まっていた。5年生チームと合同の練習である。
 倉庫からテーブルを出していると声を掛けられた。


 「千明さん、ご苦労様」
 「あ、紀子さん、こんにちは」
 二人で準備を始めていると「お疲れ様、ちょっと遅れちゃった」顔を見せたのは東山明美(ヒガシヤマ アケミ)、誠也(セイヤ)のお母さんであった。
 水曜にグランドに来る母親は、ほぼ決まっている。今日は39歳の千明に、奥津紀子(オクツ ノリコ)が43歳で東山明が42歳。この3人は一緒になる事が多い。
 「千明さんは相変わらず綺麗ね」云って明美が、千明の尻をポンと叩く。この女性(ひと)には、こういう馴れ馴れしいところがある、と思いながらも、千明はいつもの事とやり過ごす。
 「明美さんも綺麗じゃない、ねぇ」紀子が朱い唇を緩めて、千明に同意を求める。
 そう言えばと、彼女達は例の“疑惑”を知ってるのかと千明は考える。息子の拓実から聞いた由香コーチの方の噂である。
 「ちょっといいですか」
 千明が、テーブルと椅子を運びかけた二人の背中に声を掛けた。
 振り返った紀子と、顔を上げた明美に、千明は一呼吸置いてから話し始めたのである。
 一通り話が終わると、二人の眉間には皺が寄っていた。
 「そんな噂があるの?うちの子は何も言ってないけど」紀子が更に眉を顰める。
 「あの由香ちゃんがねぇ、今日の練習にも来てるんでしょ」と、明美も眉を顰める。
 続けて「でも、誠也も何も言ってないけど」と言う明美の様子に、千明は拓実の勘違いかと意識が働きそうになってしまった。
 結局、由香の噂については、変に訊き回らない事にしようと3人は決めた。子供から訊かれても否定の一択にする事も。
 「千明さんは前から心配性だから」と、明美が千明の肩に手を置く。「何だって考えすぎはよくないわ。それより家はどうなの?」
 「え、家って…?」
 「ふふ、ご主人が帰って来たじゃない。やっぱり安心するでしょ」
 「そうですね、男の人がいるとやっぱり、夜とか安心ですよね」
 「そういえば千明さんのご主人、この間の飲み会で久し振りに見たけど、相変わらず格好良いわよね」明美が一瞬、意味深な目を向ける。「千明さんも可愛いし、ナイスカップルよ」
 「ちょ、ちょっとどうしたんですか明美さん。何か変」
 うふふと、明美が笑ったところで、紀子が二人をグランドの方へと急かしたのだった。


 由香の“噂”を流したのはアタシなのよと、東山明美は千明と奥津紀子の後ろ姿を見ながら、心の中で呟いた。
 結婚してから自分の性的嗜好に疑問を持つようになった明美。夫へのカミングアウトは勇気のいるものだった。夫は意外にも理解してくれた。本人が云うには、薄々気付いていたらしい。パートナーを見つける事にも、了解してくれた。夫には感謝しかないが、その見返りとして、夫は想定外の事を云ってきた。
 『僕も新たなパートナーが欲しいんだけど、協力してくれるね』ぎこちなく頷く明美に、夫は続けた。『僕の性奴隷になってくれる女性をね』
 そして夫が候補に上げたのが『松山千明』息子の聖也のチームメイトのお母さんである。
 しかし千明を堕とすより先に、自分にパートナーが出来た。それが太田由香(オオタ ユカ)、チームの大学生コーチだった。
 彼女がチームのお父さんと付き合ってる噂を、明美が流したのは、由香と自分の関係がバレないように、別の噂が必要と考えたからである。
 明美はグランドの由香の動きを追った。時おり千明の腰回りにも目をやる。
 由香の恥部を舐める自分の姿と、千明の淫部をシャブる夫の姿を同時に想像する。そんな日は近いはず。明美は想像だけでアソコを濡らすのである。




・・・・
 部屋の戸締まりを確認して、カーテンも隙間がないかもう一度確かめた。
 耳には微かなシャワーの音が聞こえる。あの子が練習の汗を落としているのである。
 汗臭いのもいいんだけどアタシは、と云ってみたのに、由香は『今日は汗、凄く掻いたから』と、はにかみながら拒んだ。
 それでも東山明美は納得している。一時の事を思えば、由香は従順になって来たからである。
 一人息子の誠也は練習の後、塾まで送った。その間に太田由香を家に呼んでおいた。
 これから由香と楽しむ事は、仕事中の夫にもLINEで知らせている。
 《誠也は練習、頑張ってました。私はこれから由香ちゃんとお楽しみです。貴男はお仕事頑張って下さいね。貴男の性奴隷も早く見つけるようにしますから》
 そのLINEを打った時は、文字を見るだけで内腿が震えて、下半身がゾワゾワした。この不気味な欲求をこれから由香にぶつけるのだ。


 シャワーの音が止んで、暫くすると由香が出て来た。短めのバスタオルで身体を巻いている。ボーイッシュな髪は少し濡れていて、グランドで勝ち気な瞳は今は潤んで観える。罠に掛かった小動物を思わせる彼女の雰囲気を見ると、明美は自分が肉食になった気がするのだ。
 「なに突っ立ってるの、早くこっちに来なさい。あまり時間はないのよ」
 誠也の塾のお迎えに行くのは、後1時間ほど。
 明美は由香に近づくなり、バスタオルを荒々しく剥ぎ取った。
 「いゃん!」
 「ふんっ、今日はその声、たくさん聞かせてちょうだいね」
 言うなり明美が手を引いて、由香を四つ足にする。
 「オマンコ洗ったの?その割にはもう濡れてるんじゃないの」
 「いゃん、言わないで下さい」
 「ふん、練習の時には見せないそんな甘い声を出して。さあ、もっと拡げなさい。お尻の穴もそう」
 初めて男を知った時には、由香は直ぐに自分はレズだと疑った。そしてそれを、一目で見抜いた明美。
 由香は教え子である東山誠也の自宅に、初めて足を踏み入れた時から、主従の関係を感覚的に自覚していたのである。Sの明美とMの由香。
 恥ずかしい部分を見られ、由香は今日もマゾ性を開花させる。
 明美の前では、自分の事を『由香』と名前を呼ぶように指示されている。客観的に自分を見る為なのか、名前を口にする度に意識が従順に向かう。そして、その事に悦びを覚える確かな自分。
 由香のアソコは今日もベタ濡れになっている。


 「ほら由香、今度は貴女がアタシのを舐める番よ、さあ」
 自ら服を脱いで、明美が仰向けの由香に跨る。69の態勢である。
 「どう、今日のアタシのアソコ」
 「あぁ…凄いです。ウネウネ息づいてます」
 「ふふ、そうソコを拡げて舌を入れるのよ」明美は言うなり、由香の女陰を転がす。
 男根のような鋼の強さはないが、女特有の柔らかな舌と指の動きが互いを翻弄し続ける。
 鳴きを漏らす由香は、その度ごとに縋り付くような眼色を明美に向ける。その瞳に背中をザワつかせながら、明美は由香を、自分の作品に仕上げていくつもりで舐め上げていく。
 「ま、また逝く、逝きそうですッ」
 「うふふ、また逝くの?」
 甘い声に甘い声が応える。
 「でもダメよ、もうおしまい」
 「え、どうして、酷い!」
 気だるい熱を引きづって、由香の顔が泣きそうになっている。
 「というのは冗談にしてあげるけど、由香にはお手伝いして貰いたい事があるのよねぇ」と、明美が指を2本にして、由香の恥部に抉り込んだ。
 「あぁ、ソコいいッ、もっと!」
 「ふふっ、続けて欲しかったら、今から言う事よく聞いてね」
 堪らないっという表情を晒し、由香がコクコクと頷く。
 「うちの主人の話、前にもしたわよね」
 「ど、奴隷ですよ…ね」
 「そう性奴隷ね。その候補の事も言ったわよね」
 「は、はい、松山千明さん、拓実くんのお母さん…」
 「ふふふ、そうよ。その千明さんをそろそろ堕とそうと思うの。貴女、協力するわよね」
 ううぅと一瞬眉を歪めて、由香は涙目を浮かべる。
 「イヤなのぉ」と、明美が由香の膣の奥で、指をグルりと回す。
 「コレが貰えなくなってもいいの?」
 「ううッ、そんなの無理…無理です」
 「じゃあ協力してくれる?」
 「はいっ、由香は明美さんの言う事なら何でも聞きます」
 「嬉しいわ、由香」
 そう言って明美は、遥か年下の唇に自分の唇を重ねた。
 それから由香は寝物語を聞くように、東山夫婦の計画を知らされたのである。