次の日は学校から家に帰るのがドキドキでした。ぼくは朝、すべてのエロ本コレクションをスポーツバッグに詰め込み持ち出していたのです。そしてその代わりに、かねて用意していたホモ雑誌の数々を箪笥に詰め込んでおきました。さらにベッドの上にはホモ雑誌のページを広げて、胸毛の筋肉もりもりの男性ヌードめがけて射精しておいたのです。とても勇気が行ったのですが、ドンキホーテで仮装用のパンティとブラも買いました。口紅も同時購入です。ぼくは公園の公衆トイレでパンツを脱いですばやくパンティとブラをつけると、その上からカッターシャツと学生ズボンを着ました。玄関に入る直前で薄いピンクの口紅も唇に塗りつけます。
家に入ると、お母さんが真っ青な顔をして玄関まで出迎えに来ましたが、ぼくのルージュを引いた顔を見て、そのまま恐怖の表情を浮かべ固まってしまいました。ぼくはそんなお母さんを無視して横をすり抜けると、部屋に入ります。案の定、部屋の中は片付けられていて、ベッドのホモ雑誌はなくなっています。箪笥の中もかき回した跡がありました。ホモ雑誌をすべてチェックしたようです。いつもの古本屋で、ボケた爺さん相手なので買うことも出来ましたが、普通ならとてもレジに出せる代物ではありません。
ぼくはお母さんがやってくることを予期して服を脱ぎ、ブラとパンティだけの姿になって、鏡に見入りました。カンで塗りつけたので、ピンク色が唇の端から飛び出ています。なんだか面白くてニヤニヤ見ていると、突然ドンという音がしました。いつのまにかドアが開いていて、お母さんがそこに崩れるように倒れていました。
「どうしたの、お母さん」
ぼくが助け起こすと、すぐに気がつきましたが、その顔はまるで幽霊でも見たかのようでした。
「マ、マサルちゃん。その格好。それにその唇……」
震え声で言います。
「いやだなあ、お母さん。断りなくドアを開けないでよ」
にっこり笑って見せたのですが、反対にお母さんの眼には見る見る涙が盛り上がってきました。お母さんは急にわっと泣き伏せました。背中をさすってあげても、ワーワーと大声を放ってまったく泣き止みません。身体を震わせながら、いつまでも泣きじゃくっています。ぼくは仕方がないので、立ち上がると、
「着替えるからごめんね」
と言ってドアを閉めました。お母さんはずっとドアの外にいたようでしたが、ぼくの部屋の中には入ってきません。計画の第一段階はまずまずうまく運んだようです。
晩御飯のときにお母さんを見てみると、そわそわと落ち着きがなく、メガネの奥の目は真っ赤に泣き腫らしていました。ときどき探るようにぼくの顔を見てきます。もちろんぼくはとっくに口紅は落とし、ブラもパンティも脱いで普通の格好です。あまりお母さんが深刻そうな顔をしているので、ぼくはお父さんにでも相談されないかとそっちが心配になってきました。お父さんは今日もやつれた顔つきで、熱燗をぐいぐい飲んでいます。
「お父さん」
声をかけると、
「なんだ」
と不機嫌そうです。
「なんだか疲れてるみたいだけど、仕事大変なの?」
「ほう? 心配してくれるのか?」
お父さんは黒縁メガネの顔をほころばせました。
「うん」
元気よく言うと、
「はは。中学生は悩みがなくていいな。大人の世界は苦労が多い。ちょっと新しいプロジェクトがらみで色々とあってな。健康診断で十二指腸潰瘍という診断だ。それでも酒はやめられん。欝気味だという指摘もあったので、禁酒などしたら一直線だ。ははは」
お父さんは空元気を見せて高笑いします。その様子を暗い顔でお母さんが見つめています。ラッキー、とぼくは思いました。こんなお父さんに更なる心配事を持ち込むことはまず出来ないでしょう。
ぼくは夕食を済ませると、自分の部屋に戻りました。スポーツバックに詰め込んだ秘密のコレクションをいくつか眺めながら、先日のお母さんのお尻の感触を思い出しては、ひとりでニヤつきました。
夜になってみんなが寝静まってから、こっそりリビングに忍び寄ります。ノートパソコンを覗いてみると、お母さんの書き込みが並んでいます。
『大変なことになりました。息子の部屋にホモ雑誌があったのです。どうしたらいいのでしょう。焦っています。ユミコ』
これは昼ごろの書き込みです。その後に続けて、
『絶望です。息子が帰ってきたんですが、口紅を塗っていました。それにブラジャーとパンティーまでしているんです。息子はどうなってしまったのでしょう。アドバイスをお願いします。ユミコ』
ぼくからの返事もないのに、またその後には、
『お願いです。もうここはご覧になっていないのでしょうか。ひと言で結構です。返事を下さい。ユミコ』
そしてさらにたたみ掛けるように、
『助けてください。もう気が狂いそうです。なんでもします。私が浅はかでした。返事を下さい。許して下さい。ユミコ』
そんなコメントが並んでいます。けっこう追い詰められているみたいに見えます。しかしあまり甘やかすのはよくありません。
『もう来ないつもりでしたが、ちょっと覗いてみたらやっぱりですね。健闘をお祈りします』
それだけ書いて、その日は寝ました。
家に入ると、お母さんが真っ青な顔をして玄関まで出迎えに来ましたが、ぼくのルージュを引いた顔を見て、そのまま恐怖の表情を浮かべ固まってしまいました。ぼくはそんなお母さんを無視して横をすり抜けると、部屋に入ります。案の定、部屋の中は片付けられていて、ベッドのホモ雑誌はなくなっています。箪笥の中もかき回した跡がありました。ホモ雑誌をすべてチェックしたようです。いつもの古本屋で、ボケた爺さん相手なので買うことも出来ましたが、普通ならとてもレジに出せる代物ではありません。
ぼくはお母さんがやってくることを予期して服を脱ぎ、ブラとパンティだけの姿になって、鏡に見入りました。カンで塗りつけたので、ピンク色が唇の端から飛び出ています。なんだか面白くてニヤニヤ見ていると、突然ドンという音がしました。いつのまにかドアが開いていて、お母さんがそこに崩れるように倒れていました。
「どうしたの、お母さん」
ぼくが助け起こすと、すぐに気がつきましたが、その顔はまるで幽霊でも見たかのようでした。
「マ、マサルちゃん。その格好。それにその唇……」
震え声で言います。
「いやだなあ、お母さん。断りなくドアを開けないでよ」
にっこり笑って見せたのですが、反対にお母さんの眼には見る見る涙が盛り上がってきました。お母さんは急にわっと泣き伏せました。背中をさすってあげても、ワーワーと大声を放ってまったく泣き止みません。身体を震わせながら、いつまでも泣きじゃくっています。ぼくは仕方がないので、立ち上がると、
「着替えるからごめんね」
と言ってドアを閉めました。お母さんはずっとドアの外にいたようでしたが、ぼくの部屋の中には入ってきません。計画の第一段階はまずまずうまく運んだようです。
晩御飯のときにお母さんを見てみると、そわそわと落ち着きがなく、メガネの奥の目は真っ赤に泣き腫らしていました。ときどき探るようにぼくの顔を見てきます。もちろんぼくはとっくに口紅は落とし、ブラもパンティも脱いで普通の格好です。あまりお母さんが深刻そうな顔をしているので、ぼくはお父さんにでも相談されないかとそっちが心配になってきました。お父さんは今日もやつれた顔つきで、熱燗をぐいぐい飲んでいます。
「お父さん」
声をかけると、
「なんだ」
と不機嫌そうです。
「なんだか疲れてるみたいだけど、仕事大変なの?」
「ほう? 心配してくれるのか?」
お父さんは黒縁メガネの顔をほころばせました。
「うん」
元気よく言うと、
「はは。中学生は悩みがなくていいな。大人の世界は苦労が多い。ちょっと新しいプロジェクトがらみで色々とあってな。健康診断で十二指腸潰瘍という診断だ。それでも酒はやめられん。欝気味だという指摘もあったので、禁酒などしたら一直線だ。ははは」
お父さんは空元気を見せて高笑いします。その様子を暗い顔でお母さんが見つめています。ラッキー、とぼくは思いました。こんなお父さんに更なる心配事を持ち込むことはまず出来ないでしょう。
ぼくは夕食を済ませると、自分の部屋に戻りました。スポーツバックに詰め込んだ秘密のコレクションをいくつか眺めながら、先日のお母さんのお尻の感触を思い出しては、ひとりでニヤつきました。
夜になってみんなが寝静まってから、こっそりリビングに忍び寄ります。ノートパソコンを覗いてみると、お母さんの書き込みが並んでいます。
『大変なことになりました。息子の部屋にホモ雑誌があったのです。どうしたらいいのでしょう。焦っています。ユミコ』
これは昼ごろの書き込みです。その後に続けて、
『絶望です。息子が帰ってきたんですが、口紅を塗っていました。それにブラジャーとパンティーまでしているんです。息子はどうなってしまったのでしょう。アドバイスをお願いします。ユミコ』
ぼくからの返事もないのに、またその後には、
『お願いです。もうここはご覧になっていないのでしょうか。ひと言で結構です。返事を下さい。ユミコ』
そしてさらにたたみ掛けるように、
『助けてください。もう気が狂いそうです。なんでもします。私が浅はかでした。返事を下さい。許して下さい。ユミコ』
そんなコメントが並んでいます。けっこう追い詰められているみたいに見えます。しかしあまり甘やかすのはよくありません。
『もう来ないつもりでしたが、ちょっと覗いてみたらやっぱりですね。健闘をお祈りします』
それだけ書いて、その日は寝ました。