小説本文




 高志は、モニター室で覗いていたあの部屋の中に立っていた。
 部屋にあるのは空になったベッドだけ。乱れの残るそのベッドを見つめる高志に、いつかの日々が蘇ってきた。


 仕事に情熱を注いでいた頃の勝ち気な妻の横顔。上擦り言葉の似合わない性格。
 同席したパーティー会場での身のこなしに優越感に浸った夜。そしてモーレツにアタックした日々。
 結婚後も互いを尊重仕合い続けてきたつもり・・・・だった。


 しかし、妻の渇き・・・日常の日々や仕事、そしてベッドの中もそれらは収まらなかったのか・・・。
 つい先程、映像を通して見た卑猥な姿。黒マスクをしていたとはいえ、清潔感のあったあの顔からは想像出来ない淫靡な叫び声。眺めているだけで漂ってきた生臭さ。そして聞くに耐えない下品な音。
 幸恵は始まりは“無理やり”だと言っていたが、快楽の高みに導かれ寄り切られたのか・・・。


 ふと、気が付けば堂島が静かに見つめていた。
 「・・・・・」
 「よいかな」
 一言そう呟いて、大きな手が2回合わさった。
 高志が振り返るとドアが開き、一人の女が姿を現した。
 顔は黒マスク。見覚えのあるスカートに、上半身は白い清楚なブラウス。その胸元の膨らみから、異様な生々しさが伝わってくる。


 堂島が今度はパチンと指を鳴らす。 
 女がスカートに指を掛ける。
 息を呑む高志の前で、女は静かにその肢体を露わにしていった。


 最後のショーツ、真っ赤な細い紐上のそれを足先から抜き取って、女は顎を上げる。
 豊かな腰回りの横に伸びる節くれだった十本の指。陰毛の上の小さなヘソもまた、記憶通りのもの。
 広い肩幅の存在以上に、豊満な胸の膨らみ。その膨らみの先で肥大した黒い突起。


 黒マスクだけを残し、女は無防備にその裸体を晒し、そして堂島の太い腕に縋り付くようにベッドへ上がり込んだ。


 “フッ”と堂島の口元が歪む。
 男の細い目は “安心しろ” 、 ”何も言うな” 、そう囁きながら高志の身体を縛り付けてくる。
 そして、堂島が着物の帯に手を掛けた。


 高志の本の僅かな視線の先で、白い肢体と褐色の肌の絡みが始まった。
 沖田が弥生を相手に披露した性演とは違った、本能に身を任せた男女の契り。
 最初は女は、声を荒げるでもなく。堂島も恫喝するでもないその絡みこそ、積み重ねてきた事実だと高志の胸が圧迫されていく。


 女の口元が歪むが、その唇には化粧気がなく。それがまた生々しさとなって伝わってくる。
 そして女は徐々に物足りなくなる。堂島の手管(てくだ)に自ら性器の俗称を口走り、腰をせり上げ挿入を請う。


 高志の鼻先、仰向けの大きな身体を跨ぎ、白く巨(おお)きな臀(しり)が踊り弾んでいる。その女の肩越しに、堂島の嬉しそうな視線があった。 
 「さあ夏美、そろそろお前の素顔を見せてやれ」
 そう告げ、厚い手のひらが鞭のように尻裸を叩く。


 「うあっ!」


 夏美の叫びなど気にする事なく、太い指が荒々しく下顎に掛けられる。
 マスクを抜き取り素顔を確認したところで、太い腕が違う体位に導いていく。


 淫部で巨棒を咥(くわ)えたまま、その愛しい肉厚を逃さぬように夏美が身体を回し始める。堂島は上半身を上げ、夏美の背中に厚い胸を合わせ、両方の膝裏に手を入れ足を持ち上げる。
 高志の目には見事、堂島の剛直が夏美の“女”を突き刺す様が飛び込んできた。
 そして夏美が、ゆっくり顔を上げた。


 堂島が器用に胡座を組み、夏美を揺さぶり始める。
 「ほれ、もっとしっかり顔を見せろ。そして今のお前の気持ちを教えてやれ」
 夏美は突かれながら、何とか髪をかき上げる。赤味を帯びた唇が開き、言葉が零れ出す。


 「・・・貴方・・・・」


 「・・・です」


 「ご主人様が・・・・・だったの・・・・・」


 高志の脳みその奥で、夏美の顔と小さな声を認識しようとする。しかしトロンとした表情(かお)は、高志の背筋に悪寒を走らせ。言葉の羅列は妖艶な響きとなって、頭を痺(しび)れさせていく。


 「・・・気持ち良くて・・・」


 「・・・許して・・・」


 「あたし・・・・オ××コが・・・」


 痺れの中、高志の意識が夏美の細い指先が左手の薬指に触れる様子を認識する。


 夏美が指輪を抜き取り、一舐めする。
 夏美は、その指輪で乳首を抑えつけ、ヘソの周りをなぞり、下腹を通り陰毛を掻き分ける。
 高志の視線はそこまで追いかけて、再び結合の部分を目のあたりにする。
 “ソコ”には肥大したクリトリスが、激しく息づいている。夏美の指は勃起したソコに、指輪を飾り付けた。
 “ゴクリ”と高志が息を呑んだ。


 「ああ・・貴方、もっと近づいて」


 「そして・・・舌でアタシがご主人様に突かれているところを舐めて・・・」


 「いっぱいいっぱい嫌らしい音をたてて、ご主人様と繋がっているところを舐めて・・・」


 「そして・・・・アタシの事・・・・・」


 「だったら・・・・指輪を・・・・」


 「もう一度・・・・」


 夏美の目から涙が零れ落ちていた。
 高志は身体中に熱い高まりを感じ。抉(えぐ)るように見つめていたその部分に引き寄せられ・・・・。
 そして・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ホームに降り立ち、高志は照りつける太陽を恨めしそうに見上げてみた。
 都心から在来線を乗り継ぎ、1年ぶりのこの地は予報とはケタはずれな暑さだった。


 「さて、タクシー乗り場はこっちだったな」
 記憶の片隅にある駅のロータリーで、高志はキャリーバックを片手にタクシーを待つ列へと進んだ。
 すぐに回ってきたタクシーの後部座席で、フーッと息を吐き、無意識に汗を拭う。


 「ホテル〇〇〇まで」
 高志の声に初老の運転手が、ニコリとうなずいた。


 繁華街らしき街並みの向こうに、新緑の山々が見える。
 「あいかわらず田舎だな」
 ひとり言に運転手は笑っていた。運転席の社員証の顔写真とそっくりな笑みで。


 「ホテル〇〇〇へは、どなたかとの待ち合わせですか?」
 運転手の言葉に、高志の息が一瞬止まった。


 「あ、すいません。午前中が休みだったので、実は私もそのホテルに行ってたんですよ」
 「あ、そうだったのですか」
 「ええ、年に一度しか会えない女(ひと)がいましてね」


 初老の運転手の言葉に高志は外に目を移し、一人の女性の顔を思い浮かべ、そして心の中で呟いた。
 (・・・年に一度か・・)
 (・・・俺と一緒・・・・)


 タクシーが道路の端を走る若い男と女が乗った、2台の自転車を追い抜いた。
 (あれ? 今の二人は・・・・)
 「・・・堂島さんの大学の学生ですかね」
 (・・・・・・・・・・・・・・)
 「学生は夏休みですか。いいですね」
 (・・・・・・・・・・・・・・)


 タクシーはしばらく走り、やがてこの町で唯一のシティホテルの地下駐車場へと吸い込まれていった。
 タクシーが止まり、高志は財布を取りだし前を向く。ミラー越しに優しそうな目がジッと見つめていた。


 「・・・・・お客さん・・・・確か・・・1年前・・・・堂島さんの・・・・・」
 (・・・・・・・・・・)


 高志は黙ったまま、しばらく男の目を見つめる。
 見つめ返すその優しい瞳が、静かに頷いた・・・。


 タクシーを降りた高志は、エレベーターに乗り込む。最上階のスカイラウンジに到着するまでのわずかな時間にさえ、若者の様に胸が時めいた。
 ラウンジの入り口で係りの者に、予約である事を告げる。
 窓際の席に近づき、記憶にある後姿を見つけると益々胸が高鳴った。


 (・・・・・・・・・・)


 「・・・な つ み・・・」
 唇が噛み締めるように、そう呟いた。


 俯き気味に振り向いたその顔は、涙ぐんでいた・・・。
 しかし・・・・。
 高志の姿を見た瞬間、その顔は泣き笑いのものに変わり・・・・。
 そして・・・・。
 ゆっくり、少女のような笑みへと変わっていった。


 ~おしまい~
 

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