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高志は椅子に座ったまま、訝(いぶか)しげに目の前の3つのテレビ画面を覗いていた。
 堂島に誘われるまま着いて歩き、通されたのはモニター室のような小さなこの部屋だった。


 「昔のモニターといったら、小さくて画面も暗かったが最近のは凄いのお」
 感心するように呟いた堂島の声を背中で聞いて、高志はもう一度目の前のテレビ画面を見比べた。
 3つの画面が暗い部屋の中の白いベットを、それぞれ違う角度で映し出していた。


 高志の身体は先程から重い空気に包まれている。
 幸恵と名乗った女が屋敷で言った事・・・高志はその真実を追求すべき相手、堂島が直ぐそこにいる事が分かっていながら、様子を窺(うかが)ったままだ。


 何かを言わなければと、高志が振り返り立ち上がろうとする。
 「あのっ・・・」
 「分かっておる」
 高志の動きを一瞬で制止、堂島がジロリと睨み下ろしてきた。


 「ふふ、分かっておる、貴方の聞きたいことは」
 「・・・・・・」
 「その前に面白いショーを見せてやる」
 高志の浮きかけた腰が、冷たい視線に押し戻されていく。堂島の口元がニヤリと歪む。


 「実はうちの大学のあるカップルがな、学業はそこそこ出来おるのにどういう訳か素行が悪くてな」
 「・・・・・」
 「あろう事か由緒ある神社の、しかも神聖な境内で露出セックスをしておったのじゃよ」
 (!?・・・)
 「まあ、本来ならそんな事はあまり気にせんのじゃが、男の方が儂にチョツカイを出そうとしおってな」
 「・・・・・」
 「それで女の方が偶然にも家(うち)の沖田の好みじゃったから、男の制裁の意味を込めて、その女を沖田に手込めに掛けさしたんじゃ」
 「!・・・」
 「そうだなあ・・・女はうちの大学では1、2を争う美人かもしれんな・・・どことなく夏美先生に似とるかもしれん」
 (“ングッ!”)
 「男の方も結構良い男じゃ。ただし・・・今は気が抜けたように、ダラ~ンとしておるがな」
 「・・・・・」


 部屋の空気はそれまで以上に重く、高志は前を向いたまま、こめかみ辺りを引き攣らせている。頭の中には二人の若い男女の姿が浮かんできた。


 「それでな、案の定、女は沖田にハマりおってな。そして男の前でその様子をタップリと見せつけてやったらしいわい」
 「!・・・」
 「そしたらどうも、その男はマゾの気があったようじゃ」
 「マゾ!?」
 「ああ、そうじゃ。本来は年上好きの、自虐的なマゾ男だったようじゃ」
 (・・・・・)
 「どうだ?面白そうな話しじゃろ」


 堂島が吐き出す淫靡な響きに、高志の背中にサワサワと冷たい波が寄せてきた。


 「フフフ・・・さて、そろそろ準備が出来た頃じゃろ」
 そう言い終えて、堂島が高志の隣の椅子に腰を降ろす。丁度その時、画面の中に人影が現れた。
 頼りなさそうな足取りで現れたのは、裸の少年・・・・に見えたが、それは白いプリーフパンツ1枚の新一だった。


 新一のフラフラとした足取りはベッドの前で止まり、そこで足を折るとゆっくり膝を付き、正座でもするように腰を下ろしていった。
 新一の横顔には羞恥の色は見えず、頼りなさそうな視線は揺れるように白いシーツを見つめている。
 隣の画面は程よく陽に焼けた背中を捉えているが、肩は窄(すぼ)まり、震えているようにも見える。


 その時、高志はハッと息を飲んだ。
 画面右側からゴリラのような、いや、筋肉の塊(かたまり)のような男が現れた。
 太い二の腕、厚い胸板、盛り上がった両肩、鋼(はがね)の様な太腿、そして引き締まった尻・・・全裸姿の沖田だった。
 そして高志の目が更に見開いたのは、沖田の手に引きずられる様に現れた女の姿に驚いたからだった。
 白く瑞々しい身体から飛び出た胸の膨らみ、細い腰の括(くび)れと悩ましげな尻。女は何一つ身に纏っていない。しかし口元だけが開いた黒いマスクで、顔全体がスッポリ覆われている。
 高志の奥歯からギリギリと鈍い音が聞こえてきた。


 「“アレ”が太田新一と神社の境内でセックスしておった女じゃ」
 (クッ・・・な 何で・・・)
 「んん? ・・・・女のマスクが気になるのかな?」
 (・・・・・)
 「フフフ、全頭マスクじゃ」
 「えっ?」
 「よくSMプレーで使うじゃろ」
 「・・・・・」


 高志の掌にはジトリと嫌な汗が滲んできた。
 女はベッドの際(きわ)で立ち竦(すく)んでいる。顔を隠しているとはいえ、大きな乳房に桜色の乳輪、そして股間の剛毛を曝け出している。
 高志はゴクリと唾を飲み込んだ。
 画面を通してでも伝わってくる瑞々しい肌は、女の年齢を現していた。堂島が言った通り間違いなく大学生。


 (・・・や 弥生ちゃん・・・)


 その時、沖田が女を抱え上げた。まるでお姫様を抱く様に。
 沖田は女を抱いたままベッドに足を掛けると、こちらに向かってニタッと笑う。
 ベッドに乗り上がると女を立たせ、大きな体は女の後ろに回り込む。そして巨大な手のひらが乳房を覆い掴んだ。


 「あんッ」
 その甘い声と同時に、太い指が激しく胸乳を揉みしだく。


 「フフフ、あの女(こ)はもうドップリ沖田に馴染んでおるだろ。儂は時間を掛けてネットリ“女”を追い込むのが好きじゃが、沖田は一気に持って行きおる。この女(こ)も最初のベッドから4~5日で堕ちたそうじゃ。たしか1日10時間以上は調教したと言っておったわい」
 (・・・・・・・・)
 堂島の言葉が脳細胞に染みわたり、高志は画面に引き込まれている。


 「さあ、始まりじゃ」
 沖田が豊満な胸の尖(とが)りを弄(いじく)りながら、分厚い口で朱い唇を塞いでいた。そしてすぐに、唾液が混ざる粘着音が聞こえてきた。


 「いいか、よ~く見ておれよ。沖田の“持ち物”は凄いぞ」
 「・・・・・・・・・」
 「垂れ下がってる時はそうでもないが、勃起した時は・・・そうじゃなあ、亀頭は大人の拳(こぶし)ぐらいじゃ」
 !!・・・高志は再び息を飲んだ。
 揺れる女の肌に、様々な角度から舌を這わす沖田。その動きの間に、確かに股間の一物が見え隠れする。
 先程から新一は両膝を着いたまま身を乗り出している。


 「ふふ、実は昨日もな、ちょっとした接待がこの場所であってな。沖田が面白い“芸”を見せてくれたんじゃ。勿論この女(こ)を使ってな」
 「なっ!」
 「経営者も、教授も、銀行マンも・・・男はみんなスケベじゃのお。皆このベッドの周りを囲んで、食い入るようにカブリついておったわい」
 「・・・・・・・」
 「さすがに女が家(うち)の学生だと分かるとまずいじゃろうから、あのようなマスクをさせたんじゃがな」
 (・・・ウウウウ・・・・)
 「でもな、勘違いするな。女は納得してあの場所で沖田の相手をしたんだぞ。勿論今もじゃ」
 「・・・・・・・」
 「ふふ、女を屈服、服従させる・・・・それが沖田の力・・・さすが儂の弟子じゃよ」
 「ううっ・・・・」


 ベッドの上では、沖田が仰向けに寝かせた女の頭の後ろから両方の細い足首を持って、V字にこれでもかと拡げていた。女の“アソコ”は見事に開陳されている。
 新一が先程以上に身を乗り出した。


 「若い女のアソコも綺麗で良いがのお。しかし儂は、熟した方が味わいがあって好きなんじゃがな」
 「・・・・・」


 沖田はしばらく女のソコを見せしめ、次に身体を起こさせ四つ足に導いた。
 「ほら、もっと尻(ケツ)を突き出せ!」
 ドスの効いた野太い声が、スピーカーから聞こえてきた。


 「沖田の奴、張り切っておるのお。この調子なら昨日より凄いのが見れるかもしれんな」


 「ほ~ら 自分でひろげてお見せしろ」
 躾(しつけ)た芸を披露させるように、沖田の強い眼差しが女を見下ろしている。
 女の細く綺麗な指が、外側から尻肌をなぞりながら股座(またぐら)の割れ目の部分に向かっていく。
 そして陰部と排泄器官が自らの意志で披露された。


 高志の横で、堂島が嬉しそうに頷いている。
 高志の身体の中から冷たい痺れが広がっていく。


 「ふふ、この女(こ)にも実はマゾの気があってな。自分の恥ずかしい姿を見られる事に黒い悦(よろこ)びを覚えるんじゃよ」
 「・・・・・」
 「誰に見られるかも分からん屋外でパンツを脱ぎおるんだから、重度のマゾじゃろ」
 「・・・・・」
 「この女(こ)にとったら儂らに出会った事は、幸せな事じゃな」


 舞台では、いやベッドの上では、沖田が女を立たせ後ろから抱え上げていた。まるで幼児にオシッコをさせる格好で。
 若々しい素肌と卑猥な股間の様子。口元だけが開いた黒いマスク。異様な雰囲気が嫌でも伝わってくる。 


 「実はな、太田新一は昨日も此処におったのじゃがな。昨日は客人達がいたからアノ特等席では彼女の姿を拝(おが)めんでな」
 (ツッ・・・)
 「しかし、最後にこの男(こ)が大盛り上がりを作ってくれたんじゃ」
 「!?」
 「ふふ、まあ、今日もやってくれるわい。楽しみにしておれ」
 (・・・・・)
 「さあ、ここまではウォーミングアップ。これからが、まさに“本番”じゃ。ハッハッハ・・・」
 堂島が嬉しそうに高笑い、逆に高志の胸は締め付けられていく。まるで夏の怪現象に遭遇したよう、まだ目の前の光景が信じられないでいる。


 そしてベッドを舞台に、沖田は堂々と、自信満々に、そして厭らしく、卑猥に、これでもかと色んな型(かたち)を披露し始めた・・・・・。