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NULL 176643049の時、$oは1array(1) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
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 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
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 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
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 「風呂!?」
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 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
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 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
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 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
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 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
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 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
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 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
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 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
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 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
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 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
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 「お、おい、本当の事なのかよ」
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 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
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 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
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 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
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 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは4array(4) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 「え、刺青!」
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 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
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 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
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 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
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 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
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 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
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 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
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 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


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 「そうか、金持ちなんだろうな」
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 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは6array(6) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “505” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(5605) “
 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
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 「でもね」
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 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
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 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
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 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “504” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6160) “
 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
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 「ああっ、そういう事になるのか」
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 「それは野天で?」
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 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
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 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
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 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
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 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “499” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7116) “
 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

 ” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは9array(9) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “504” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6160) “
 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
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 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
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 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは11array(11) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは12array(12) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “500” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6510) “
  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
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 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
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 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
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 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “504” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6160) “
 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは14array(14) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
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 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは15array(15) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “503” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7384) “
 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [11]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “496” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6719) “
 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [14]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “493” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(4872) “
 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [15]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “492” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(5455) “
 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [16]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “491” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(4702) “
 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは17array(17) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “500” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6510) “
  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
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 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
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 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
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 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
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 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
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 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
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 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
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 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
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 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
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 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
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 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
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 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [10]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “497” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(4105) “
 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 大浴場から部屋に戻った俺達二人は、それぞれがボォっと過ごしていた。
 沙紀は部屋にあった近隣の観光名所のパンフレットを見たりしていたが、今は窓辺から外を眺めている。しかし頭の中には、俺が浮かべたのと同じシーン、それが流れているのではないだろうか。
 畳に寝っ転がって天井を見上げる俺の頭の中は、さっきの野天風呂の様子、あの夫婦の事でいっぱいだった。


 俺達の前で男女の営みを披露していたあの夫婦。
 沙紀の話では、湯船に浸かって直ぐに気がついたとか。その時の様子は、奥さんが男の背中に湯を掛けて、泡を洗い流していた。その姿に沙紀は微笑ましいものを感じたが、直ぐに驚愕へと変わったのだった。
 今度は男が、奥さんの身体を洗うのかと思ったが、何と男は女の乳房に口を付けたのだ。そして、先端の尖りを舌で弄くりだしたのだ。
 彼等が沙紀の存在に、いつ気づいたのかは分からない。だけど男は、見せ付けるように激しく吸っていたのだとか。
 沙紀は既に、蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。湯船の上がり斑の岩に腰をおろしたまま、竦んでしまっていた。
 自分の胸や股間を隠すのも忘れて、男女の姿に魅入られていたわけだ。


 男は奥さんの胸や急所を責めた後に、遂にソレを挿入した。挿入の瞬間、男は沙紀の顔を見たらしい。
 最初は沙紀の説明通り正常位。それも繋がってる部分を沙紀によく見えるようにだ。
 次が後背位、バックで交わったのだ。二人の顔は沙紀の方を向いて、女は逝き顔を曝したのだ。


 沙紀の頭は混乱して、現実離れした気分になっていたらしい。やがて俺が遅れてやって来るわけだが、俺は彼等の騎乗位を沙紀と一緒に目撃した。そして、桃源郷のような世界に連れて行かれたのだ。
 彼等がその場から去った後も、暫く俺も沙紀も、その場から動けないでいた。
 俺達が会話を交わしたのは、どのくらい経った後だったか。沈み込むように湯船に浸かって、沙紀に云ったのだ。
 『凄いのを見ちゃったな…』
 『う、うん、アタシ、あんなの初めて…』
 そう、俺も沙紀も他人のセックスを生で見た事など一度もなかった。せいぜいエロいビデオや動画で視たぐらいだ。
 それに、これまで二人で混浴に入った事はあったが、人前でセックスを追っ始める奴なんかいた事がない。律儀にタオルで、身体を隠す人が殆どだった。勿論、俺達もまだ羞恥を感じるキャリアだった。
 結局彼等が出てからも、その野天風呂には大した時間も居ず、直ぐに出てしまったのだ。気分は湯当たりでもしたか、頭がボォっとして軽い目眩もしていた。沙紀を見れば同じで、赤身を帯びた表情は重たそうな感じだった。


 それとだーー。
 部屋に戻ってからの沙紀の回想だ。
 『あの人のアソコ、凄くゴツゴツしてた』
 『え、それは何!?』
 『ほら、だいぶ前に一緒に視たエッチなビデオで、アソコに真珠?…入れてた人いたでしょ、あんな感じ』
 『ああ、ヤクザがやってるヤツだ。じゃあ、あの人達ってやっぱり』
 『でも、刺青はなかったでしょ』
 『そうだな、俺は気が付かなかった』
 『でもね、女の人の方、アソコの毛がなくてね、代わりに刺青みたいなのがあった気がするの』
 『え、マジか』
 『うん、アタシ、ソコにも魅入られてたから』
 『そうか…綺麗な人だったよな』
 『そう、凄く綺麗な人だったわ。それにね、身体の張りや肌のツヤなんかも良かったと想う。とにかく色っぽかったわ』
 『ああ、確かに。それに男も凄かった。体格も俺より一回りくらいゴツかったよな。贅肉らしいものも全然なかったし』
 『うん、それに何より…』
 『ん、アソコか』
 『うん、ごめん。あんな大きなの見た事なかったから、ビックリしちゃった』
 それを訊いて俺は『こほん』と、咳払いをしたのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは20array(20) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
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 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
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 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
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 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
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 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
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 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [17]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “490” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(5909) “
 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 大浴場から部屋に戻った俺達二人は、それぞれがボォっと過ごしていた。
 沙紀は部屋にあった近隣の観光名所のパンフレットを見たりしていたが、今は窓辺から外を眺めている。しかし頭の中には、俺が浮かべたのと同じシーン、それが流れているのではないだろうか。
 畳に寝っ転がって天井を見上げる俺の頭の中は、さっきの野天風呂の様子、あの夫婦の事でいっぱいだった。


 俺達の前で男女の営みを披露していたあの夫婦。
 沙紀の話では、湯船に浸かって直ぐに気がついたとか。その時の様子は、奥さんが男の背中に湯を掛けて、泡を洗い流していた。その姿に沙紀は微笑ましいものを感じたが、直ぐに驚愕へと変わったのだった。
 今度は男が、奥さんの身体を洗うのかと思ったが、何と男は女の乳房に口を付けたのだ。そして、先端の尖りを舌で弄くりだしたのだ。
 彼等が沙紀の存在に、いつ気づいたのかは分からない。だけど男は、見せ付けるように激しく吸っていたのだとか。
 沙紀は既に、蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。湯船の上がり斑の岩に腰をおろしたまま、竦んでしまっていた。
 自分の胸や股間を隠すのも忘れて、男女の姿に魅入られていたわけだ。


 男は奥さんの胸や急所を責めた後に、遂にソレを挿入した。挿入の瞬間、男は沙紀の顔を見たらしい。
 最初は沙紀の説明通り正常位。それも繋がってる部分を沙紀によく見えるようにだ。
 次が後背位、バックで交わったのだ。二人の顔は沙紀の方を向いて、女は逝き顔を曝したのだ。


 沙紀の頭は混乱して、現実離れした気分になっていたらしい。やがて俺が遅れてやって来るわけだが、俺は彼等の騎乗位を沙紀と一緒に目撃した。そして、桃源郷のような世界に連れて行かれたのだ。
 彼等がその場から去った後も、暫く俺も沙紀も、その場から動けないでいた。
 俺達が会話を交わしたのは、どのくらい経った後だったか。沈み込むように湯船に浸かって、沙紀に云ったのだ。
 『凄いのを見ちゃったな…』
 『う、うん、アタシ、あんなの初めて…』
 そう、俺も沙紀も他人のセックスを生で見た事など一度もなかった。せいぜいエロいビデオや動画で視たぐらいだ。
 それに、これまで二人で混浴に入った事はあったが、人前でセックスを追っ始める奴なんかいた事がない。律儀にタオルで、身体を隠す人が殆どだった。勿論、俺達もまだ羞恥を感じるキャリアだった。
 結局彼等が出てからも、その野天風呂には大した時間も居ず、直ぐに出てしまったのだ。気分は湯当たりでもしたか、頭がボォっとして軽い目眩もしていた。沙紀を見れば同じで、赤身を帯びた表情は重たそうな感じだった。


 それとだーー。
 部屋に戻ってからの沙紀の回想だ。
 『あの人のアソコ、凄くゴツゴツしてた』
 『え、それは何!?』
 『ほら、だいぶ前に一緒に視たエッチなビデオで、アソコに真珠?…入れてた人いたでしょ、あんな感じ』
 『ああ、ヤクザがやってるヤツだ。じゃあ、あの人達ってやっぱり』
 『でも、刺青はなかったでしょ』
 『そうだな、俺は気が付かなかった』
 『でもね、女の人の方、アソコの毛がなくてね、代わりに刺青みたいなのがあった気がするの』
 『え、マジか』
 『うん、アタシ、ソコにも魅入られてたから』
 『そうか…綺麗な人だったよな』
 『そう、凄く綺麗な人だったわ。それにね、身体の張りや肌のツヤなんかも良かったと想う。とにかく色っぽかったわ』
 『ああ、確かに。それに男も凄かった。体格も俺より一回りくらいゴツかったよな。贅肉らしいものも全然なかったし』
 『うん、それに何より…』
 『ん、アソコか』
 『うん、ごめん。あんな大きなの見た事なかったから、ビックリしちゃった』
 それを訊いて俺は『こほん』と、咳払いをしたのだった。
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 脱衣場に入って、まず感じたのはその狭さだった。最大4組の宿泊だから、この広さでも充分なのだろうが、少し圧迫を感じてしまう。
 俺は棚に置かれてある備え置きのタオルを一枚手に持った。広げて見れば『和道楼』と宿の名前が大きく描かれている。


 「まずは内風呂だな」俺は云って、木彫のドアを引いた。
 浴場の方は、それなりの広さだった。奥側は一面ガラスで、その向こう側、外は自然な岩肌と広大な山々が見える。
 「富士山は見えないにしても、凄い山の景色だな」
 俺は呟きながら、内風呂を抜けて直ぐに露天風呂の方に行く事にした。
 露天の湯船に浸かって、改めて周りを見てみれば、その雄大さに感動すら覚えてしまう。居るのは俺一人で、貸し切り状態だ。
 沙紀は『10分くらい?』と訊いていたが、もっとユックリしていこうと思った。それに、部屋で1発やったばかりだし。


 それからどの位そこで浸っていたか、湯から出ると俺は、股間を開けっ拡げたままで歩き始めた。と云っても、木々に囲まれていて、何処からどこまでが浴場なのか分からない。
 秘境に迷った気分で足を進めて行くと、直ぐに看板に気がついた。そこには『野天』の文字と矢印、それに注意書きがあった。この先は混浴になります云々だ。
 沙紀は既に野天の混浴で待っているだろうか、まさかプンプンに怒ってたりして。と、俺も急いで向かう事にした。


 「こっちは更に秘境っぽいな」
 それらしい場所に出れば、湯気が程よい具合に立ちこめていた。
 「沙紀は…」と呟いた時、シルエットを見つけた。
 沙紀が湯船の端っこ、小さな岩を椅子代わりに座っている。俺は驚かせてやろうかと、そっと近づいた。
 しかし直ぐに、気配に気づいたか、沙紀は顔を向けてきた。そして、人差し指を唇に当てると「しっ静かに」と伝えてきて「聖也くん、あそこ」と小声で囁き、向こう側を指さした。
 目を凝らせば湯気の向こう、距離にしてどうだろう、3、4メートル辺り先の洗い場のようなスペースに、男女の姿を見る事になった。その場所で女が、仰向けの男に跨り、腰を振っているではないか。


 AVやエロ動画で視たのと同じような場面だった。けど、生で人のセックスを見るのは産まれて初めての事だった。沙紀も間違いなく初めての筈だ。
 彼等は俺達に気づいていないのか?沙紀より先に、この野天に来たのは間違いないだろう。沙紀の存在に気が付かなかったのか。
 俺は隣に座る沙紀に、尋ねたい事だらけだったが訊けなかった。それほど彼等の営みが烈しく、それに目を奪われていたのだ。


 「聖也くぅん…」
 恐る恐るといった小さな声が、耳元でした。沙紀が俯いたまま、額を俺の胸に預けるように寄せてくる。
 「す、凄いね…」
 ゴクリと唾を呑み込んでから「あ、ああ…」と返事をした。「いつから、やってるの」俺も小さな声で沙紀に尋ねてみた。
 「アタシが入って来た時は、もう…」してたの、と呟いたはずだが、沙紀の声は掠れてしまっていた。その沙紀が彼等から視線を外して下を向いた。そこには俺の縮んだ愚息がある。情け無いほど小さくなっている。


 「それにしても凄いな」
 「そ、そうなのよ、最初は前からやってたの。その後はバックで、それで今はコレ…」
 と云う事はどういう事だ。男はインサートしてから、どのぐらい腰を振り続けているのだ。出し入れのスピードは一向に落ちる気配がない。
 女性の声こそ聞こえないが、頭の中ではネチャネチャと特有の音が鳴っている。


 「聖也くん、アタシなんだか…」
 沙紀の手が俺のアソコに伸びて来た。そして、竿を握るとゆっくり揉み始めた。
 「お、おい」
 その時だ。
 「んーーッ、んーーッ、んーーッ!」
 押し殺したような、それでも獣の叫びのようなうねり声が轟いた。女が逝ったのだ。
 沙紀の手が止まり、俺達は同時に前の男女を見詰めた。
 女の身体が突っ伏したまま震えている。
 風が流れて、湯気がサーッと消えて行く。男女が繋がるその箇所がはっきりと見えた。そして、ヌボっと男の物が抜け落ちた。
 あっ、沙紀が声を上げた。


 向こうで男が、のっそりと上半身を上げる。
 男に驚いた様子など全くない。それどころか、一瞬ニヤリと笑みを浮かべた、気がした。
 俺は…男の太々(ふてぶて)しい笑みに、ゾクリと身体の震えを感じてしまった。


 俺達の視線を受けながら、男が立ち上がった。男の股間の物は半勃ちの状態だが、それでもかなりの巨(おおき)さだ。
 沙紀の手がいつの間にか、俺のソレから離れて太ももへ、そして俺の手へとモジモジ寄ってきた。俺はか弱いその手を握った。その手が微かに震えている。
 こちらの様子など気にする素振りもなく、男が屈んで女の尻をパチパチと叩いている。やがて女が、のっそりと身体を起こしたのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
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 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
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 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
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 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
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 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [10]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “497” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(4105) “
 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 大浴場から部屋に戻った俺達二人は、それぞれがボォっと過ごしていた。
 沙紀は部屋にあった近隣の観光名所のパンフレットを見たりしていたが、今は窓辺から外を眺めている。しかし頭の中には、俺が浮かべたのと同じシーン、それが流れているのではないだろうか。
 畳に寝っ転がって天井を見上げる俺の頭の中は、さっきの野天風呂の様子、あの夫婦の事でいっぱいだった。


 俺達の前で男女の営みを披露していたあの夫婦。
 沙紀の話では、湯船に浸かって直ぐに気がついたとか。その時の様子は、奥さんが男の背中に湯を掛けて、泡を洗い流していた。その姿に沙紀は微笑ましいものを感じたが、直ぐに驚愕へと変わったのだった。
 今度は男が、奥さんの身体を洗うのかと思ったが、何と男は女の乳房に口を付けたのだ。そして、先端の尖りを舌で弄くりだしたのだ。
 彼等が沙紀の存在に、いつ気づいたのかは分からない。だけど男は、見せ付けるように激しく吸っていたのだとか。
 沙紀は既に、蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。湯船の上がり斑の岩に腰をおろしたまま、竦んでしまっていた。
 自分の胸や股間を隠すのも忘れて、男女の姿に魅入られていたわけだ。


 男は奥さんの胸や急所を責めた後に、遂にソレを挿入した。挿入の瞬間、男は沙紀の顔を見たらしい。
 最初は沙紀の説明通り正常位。それも繋がってる部分を沙紀によく見えるようにだ。
 次が後背位、バックで交わったのだ。二人の顔は沙紀の方を向いて、女は逝き顔を曝したのだ。


 沙紀の頭は混乱して、現実離れした気分になっていたらしい。やがて俺が遅れてやって来るわけだが、俺は彼等の騎乗位を沙紀と一緒に目撃した。そして、桃源郷のような世界に連れて行かれたのだ。
 彼等がその場から去った後も、暫く俺も沙紀も、その場から動けないでいた。
 俺達が会話を交わしたのは、どのくらい経った後だったか。沈み込むように湯船に浸かって、沙紀に云ったのだ。
 『凄いのを見ちゃったな…』
 『う、うん、アタシ、あんなの初めて…』
 そう、俺も沙紀も他人のセックスを生で見た事など一度もなかった。せいぜいエロいビデオや動画で視たぐらいだ。
 それに、これまで二人で混浴に入った事はあったが、人前でセックスを追っ始める奴なんかいた事がない。律儀にタオルで、身体を隠す人が殆どだった。勿論、俺達もまだ羞恥を感じるキャリアだった。
 結局彼等が出てからも、その野天風呂には大した時間も居ず、直ぐに出てしまったのだ。気分は湯当たりでもしたか、頭がボォっとして軽い目眩もしていた。沙紀を見れば同じで、赤身を帯びた表情は重たそうな感じだった。


 それとだーー。
 部屋に戻ってからの沙紀の回想だ。
 『あの人のアソコ、凄くゴツゴツしてた』
 『え、それは何!?』
 『ほら、だいぶ前に一緒に視たエッチなビデオで、アソコに真珠?…入れてた人いたでしょ、あんな感じ』
 『ああ、ヤクザがやってるヤツだ。じゃあ、あの人達ってやっぱり』
 『でも、刺青はなかったでしょ』
 『そうだな、俺は気が付かなかった』
 『でもね、女の人の方、アソコの毛がなくてね、代わりに刺青みたいなのがあった気がするの』
 『え、マジか』
 『うん、アタシ、ソコにも魅入られてたから』
 『そうか…綺麗な人だったよな』
 『そう、凄く綺麗な人だったわ。それにね、身体の張りや肌のツヤなんかも良かったと想う。とにかく色っぽかったわ』
 『ああ、確かに。それに男も凄かった。体格も俺より一回りくらいゴツかったよな。贅肉らしいものも全然なかったし』
 『うん、それに何より…』
 『ん、アソコか』
 『うん、ごめん。あんな大きなの見た事なかったから、ビックリしちゃった』
 それを訊いて俺は『こほん』と、咳払いをしたのだった。
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 脱衣場に入って、まず感じたのはその狭さだった。最大4組の宿泊だから、この広さでも充分なのだろうが、少し圧迫を感じてしまう。
 俺は棚に置かれてある備え置きのタオルを一枚手に持った。広げて見れば『和道楼』と宿の名前が大きく描かれている。


 「まずは内風呂だな」俺は云って、木彫のドアを引いた。
 浴場の方は、それなりの広さだった。奥側は一面ガラスで、その向こう側、外は自然な岩肌と広大な山々が見える。
 「富士山は見えないにしても、凄い山の景色だな」
 俺は呟きながら、内風呂を抜けて直ぐに露天風呂の方に行く事にした。
 露天の湯船に浸かって、改めて周りを見てみれば、その雄大さに感動すら覚えてしまう。居るのは俺一人で、貸し切り状態だ。
 沙紀は『10分くらい?』と訊いていたが、もっとユックリしていこうと思った。それに、部屋で1発やったばかりだし。


 それからどの位そこで浸っていたか、湯から出ると俺は、股間を開けっ拡げたままで歩き始めた。と云っても、木々に囲まれていて、何処からどこまでが浴場なのか分からない。
 秘境に迷った気分で足を進めて行くと、直ぐに看板に気がついた。そこには『野天』の文字と矢印、それに注意書きがあった。この先は混浴になります云々だ。
 沙紀は既に野天の混浴で待っているだろうか、まさかプンプンに怒ってたりして。と、俺も急いで向かう事にした。


 「こっちは更に秘境っぽいな」
 それらしい場所に出れば、湯気が程よい具合に立ちこめていた。
 「沙紀は…」と呟いた時、シルエットを見つけた。
 沙紀が湯船の端っこ、小さな岩を椅子代わりに座っている。俺は驚かせてやろうかと、そっと近づいた。
 しかし直ぐに、気配に気づいたか、沙紀は顔を向けてきた。そして、人差し指を唇に当てると「しっ静かに」と伝えてきて「聖也くん、あそこ」と小声で囁き、向こう側を指さした。
 目を凝らせば湯気の向こう、距離にしてどうだろう、3、4メートル辺り先の洗い場のようなスペースに、男女の姿を見る事になった。その場所で女が、仰向けの男に跨り、腰を振っているではないか。


 AVやエロ動画で視たのと同じような場面だった。けど、生で人のセックスを見るのは産まれて初めての事だった。沙紀も間違いなく初めての筈だ。
 彼等は俺達に気づいていないのか?沙紀より先に、この野天に来たのは間違いないだろう。沙紀の存在に気が付かなかったのか。
 俺は隣に座る沙紀に、尋ねたい事だらけだったが訊けなかった。それほど彼等の営みが烈しく、それに目を奪われていたのだ。


 「聖也くぅん…」
 恐る恐るといった小さな声が、耳元でした。沙紀が俯いたまま、額を俺の胸に預けるように寄せてくる。
 「す、凄いね…」
 ゴクリと唾を呑み込んでから「あ、ああ…」と返事をした。「いつから、やってるの」俺も小さな声で沙紀に尋ねてみた。
 「アタシが入って来た時は、もう…」してたの、と呟いたはずだが、沙紀の声は掠れてしまっていた。その沙紀が彼等から視線を外して下を向いた。そこには俺の縮んだ愚息がある。情け無いほど小さくなっている。


 「それにしても凄いな」
 「そ、そうなのよ、最初は前からやってたの。その後はバックで、それで今はコレ…」
 と云う事はどういう事だ。男はインサートしてから、どのぐらい腰を振り続けているのだ。出し入れのスピードは一向に落ちる気配がない。
 女性の声こそ聞こえないが、頭の中ではネチャネチャと特有の音が鳴っている。


 「聖也くん、アタシなんだか…」
 沙紀の手が俺のアソコに伸びて来た。そして、竿を握るとゆっくり揉み始めた。
 「お、おい」
 その時だ。
 「んーーッ、んーーッ、んーーッ!」
 押し殺したような、それでも獣の叫びのようなうねり声が轟いた。女が逝ったのだ。
 沙紀の手が止まり、俺達は同時に前の男女を見詰めた。
 女の身体が突っ伏したまま震えている。
 風が流れて、湯気がサーッと消えて行く。男女が繋がるその箇所がはっきりと見えた。そして、ヌボっと男の物が抜け落ちた。
 あっ、沙紀が声を上げた。


 向こうで男が、のっそりと上半身を上げる。
 男に驚いた様子など全くない。それどころか、一瞬ニヤリと笑みを浮かべた、気がした。
 俺は…男の太々(ふてぶて)しい笑みに、ゾクリと身体の震えを感じてしまった。


 俺達の視線を受けながら、男が立ち上がった。男の股間の物は半勃ちの状態だが、それでもかなりの巨(おおき)さだ。
 沙紀の手がいつの間にか、俺のソレから離れて太ももへ、そして俺の手へとモジモジ寄ってきた。俺はか弱いその手を握った。その手が微かに震えている。
 こちらの様子など気にする素振りもなく、男が屈んで女の尻をパチパチと叩いている。やがて女が、のっそりと身体を起こしたのだった。
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 宿に着いて15分、部屋に入ってからも5分たらずで、俺達二人は互いを求めてあっていた。気づいた時には、二人の服はその辺に散らばり、素っ裸でまさぐりあっていたのだ。
 沙紀はこの環境に感情が高ぶったのか、いつもより早く絶頂を迎えていた。俺の方も明るい陽の元でやるセックスが久しぶりだったのか、野生の猿のように性急を求めて果ててしまった。


 息の乱れが治まってきた頃、沙紀が仰向けのまま顔だけ俺に向けてきた。
 「聖也くん、アタシの声、大きかったよね、聞こえちゃったかな」
 「ああ…」
 今更ながらと、俺は沙紀の顔を見て、それから開いたままの窓に視線を向けた。そして、起き上がると前も隠さず窓に近づき、そっと外を覗いた。
 「4部屋だったよな。どんな造りなんだろう」
 ひとり言のように呟き、端から端へと辺りを見廻した。
 「ああ、なるほど」
 建物全体が扇形で、ロビーを真ん中にその左右に2部屋ずつあって、部屋と部屋が回廊で繋がっているみたいだ。俺達の部屋は左奥の部屋だ。


 「もう一組の人って、何処だろうね」俺が呟くと沙紀も裸のまま寄ってきた。
 「ねぇ、何処?声、聞かれたかな」
 「ここからじゃ分かんないなぁ。でも、沙紀の声はデカいから間違いなく聞こえてるよ」
 俺が笑うと「いゃんッ」沙紀が抱きついて来た。そしてもう一度キスだ。
 それから、俺達は宿自慢の露天風呂に行く事にした。温泉に来ると、直ぐに風呂に行くのはいつもの事だった。下着は着けず、素っ裸の上に浴衣だけを羽織って部屋を出た。


 「聖也くん、野天の方で合流する?」
 「そうだな、行ってみようか…」
 俺達はそれなりに温泉巡りをしているが、実は露天はあっても、混浴に入った回数は少ないのだ。殆どが家族風呂と呼ばれる貸し切りのものだったのだ。
 「アタシ達以外は一組しかいないって云ってたし、会う確率は低いよね」
 「ん、どうかな…でも、沙紀には見られたい願望もあるんだよな」
 「いゃん、まだそこまで変態じゃないわよ」
 口を尖らせる沙紀を可愛いらしく思いながら、俺は足を進めた。
 フロントの前を通った時には女将さんがいて、ニコリと微笑んでくれた。チェックインの時も会ったが、50くらいの朴訥とした、感じの良さそうな人だ。


 宿の建物はさほど大きくないので、迷う事なく風呂の場所に来る事ができた。
 『男湯』『女湯』の暖簾があり、俺達は確かめるように目を合わせた。
 「混浴の方には、直ぐに行く?」
 沙紀の言葉に「し、声がデカイぞ」と囁いて「俺は少しゆっくりしてから行こうかな」と続けた。
 「うん、分かった。聖也くんはいつもそうだもんね、10分くらい?」
 好奇心旺盛の沙紀は、直ぐにでも奥に行く気だろうか。
 俺は沙紀の性急さに、やれやれ、と苦笑いを浮かべながら暖簾を潜ったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは22array(22) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
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 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
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 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 大浴場から部屋に戻った俺達二人は、それぞれがボォっと過ごしていた。
 沙紀は部屋にあった近隣の観光名所のパンフレットを見たりしていたが、今は窓辺から外を眺めている。しかし頭の中には、俺が浮かべたのと同じシーン、それが流れているのではないだろうか。
 畳に寝っ転がって天井を見上げる俺の頭の中は、さっきの野天風呂の様子、あの夫婦の事でいっぱいだった。


 俺達の前で男女の営みを披露していたあの夫婦。
 沙紀の話では、湯船に浸かって直ぐに気がついたとか。その時の様子は、奥さんが男の背中に湯を掛けて、泡を洗い流していた。その姿に沙紀は微笑ましいものを感じたが、直ぐに驚愕へと変わったのだった。
 今度は男が、奥さんの身体を洗うのかと思ったが、何と男は女の乳房に口を付けたのだ。そして、先端の尖りを舌で弄くりだしたのだ。
 彼等が沙紀の存在に、いつ気づいたのかは分からない。だけど男は、見せ付けるように激しく吸っていたのだとか。
 沙紀は既に、蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。湯船の上がり斑の岩に腰をおろしたまま、竦んでしまっていた。
 自分の胸や股間を隠すのも忘れて、男女の姿に魅入られていたわけだ。


 男は奥さんの胸や急所を責めた後に、遂にソレを挿入した。挿入の瞬間、男は沙紀の顔を見たらしい。
 最初は沙紀の説明通り正常位。それも繋がってる部分を沙紀によく見えるようにだ。
 次が後背位、バックで交わったのだ。二人の顔は沙紀の方を向いて、女は逝き顔を曝したのだ。


 沙紀の頭は混乱して、現実離れした気分になっていたらしい。やがて俺が遅れてやって来るわけだが、俺は彼等の騎乗位を沙紀と一緒に目撃した。そして、桃源郷のような世界に連れて行かれたのだ。
 彼等がその場から去った後も、暫く俺も沙紀も、その場から動けないでいた。
 俺達が会話を交わしたのは、どのくらい経った後だったか。沈み込むように湯船に浸かって、沙紀に云ったのだ。
 『凄いのを見ちゃったな…』
 『う、うん、アタシ、あんなの初めて…』
 そう、俺も沙紀も他人のセックスを生で見た事など一度もなかった。せいぜいエロいビデオや動画で視たぐらいだ。
 それに、これまで二人で混浴に入った事はあったが、人前でセックスを追っ始める奴なんかいた事がない。律儀にタオルで、身体を隠す人が殆どだった。勿論、俺達もまだ羞恥を感じるキャリアだった。
 結局彼等が出てからも、その野天風呂には大した時間も居ず、直ぐに出てしまったのだ。気分は湯当たりでもしたか、頭がボォっとして軽い目眩もしていた。沙紀を見れば同じで、赤身を帯びた表情は重たそうな感じだった。


 それとだーー。
 部屋に戻ってからの沙紀の回想だ。
 『あの人のアソコ、凄くゴツゴツしてた』
 『え、それは何!?』
 『ほら、だいぶ前に一緒に視たエッチなビデオで、アソコに真珠?…入れてた人いたでしょ、あんな感じ』
 『ああ、ヤクザがやってるヤツだ。じゃあ、あの人達ってやっぱり』
 『でも、刺青はなかったでしょ』
 『そうだな、俺は気が付かなかった』
 『でもね、女の人の方、アソコの毛がなくてね、代わりに刺青みたいなのがあった気がするの』
 『え、マジか』
 『うん、アタシ、ソコにも魅入られてたから』
 『そうか…綺麗な人だったよな』
 『そう、凄く綺麗な人だったわ。それにね、身体の張りや肌のツヤなんかも良かったと想う。とにかく色っぽかったわ』
 『ああ、確かに。それに男も凄かった。体格も俺より一回りくらいゴツかったよな。贅肉らしいものも全然なかったし』
 『うん、それに何より…』
 『ん、アソコか』
 『うん、ごめん。あんな大きなの見た事なかったから、ビックリしちゃった』
 それを訊いて俺は『こほん』と、咳払いをしたのだった。
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 脱衣場に入って、まず感じたのはその狭さだった。最大4組の宿泊だから、この広さでも充分なのだろうが、少し圧迫を感じてしまう。
 俺は棚に置かれてある備え置きのタオルを一枚手に持った。広げて見れば『和道楼』と宿の名前が大きく描かれている。


 「まずは内風呂だな」俺は云って、木彫のドアを引いた。
 浴場の方は、それなりの広さだった。奥側は一面ガラスで、その向こう側、外は自然な岩肌と広大な山々が見える。
 「富士山は見えないにしても、凄い山の景色だな」
 俺は呟きながら、内風呂を抜けて直ぐに露天風呂の方に行く事にした。
 露天の湯船に浸かって、改めて周りを見てみれば、その雄大さに感動すら覚えてしまう。居るのは俺一人で、貸し切り状態だ。
 沙紀は『10分くらい?』と訊いていたが、もっとユックリしていこうと思った。それに、部屋で1発やったばかりだし。


 それからどの位そこで浸っていたか、湯から出ると俺は、股間を開けっ拡げたままで歩き始めた。と云っても、木々に囲まれていて、何処からどこまでが浴場なのか分からない。
 秘境に迷った気分で足を進めて行くと、直ぐに看板に気がついた。そこには『野天』の文字と矢印、それに注意書きがあった。この先は混浴になります云々だ。
 沙紀は既に野天の混浴で待っているだろうか、まさかプンプンに怒ってたりして。と、俺も急いで向かう事にした。


 「こっちは更に秘境っぽいな」
 それらしい場所に出れば、湯気が程よい具合に立ちこめていた。
 「沙紀は…」と呟いた時、シルエットを見つけた。
 沙紀が湯船の端っこ、小さな岩を椅子代わりに座っている。俺は驚かせてやろうかと、そっと近づいた。
 しかし直ぐに、気配に気づいたか、沙紀は顔を向けてきた。そして、人差し指を唇に当てると「しっ静かに」と伝えてきて「聖也くん、あそこ」と小声で囁き、向こう側を指さした。
 目を凝らせば湯気の向こう、距離にしてどうだろう、3、4メートル辺り先の洗い場のようなスペースに、男女の姿を見る事になった。その場所で女が、仰向けの男に跨り、腰を振っているではないか。


 AVやエロ動画で視たのと同じような場面だった。けど、生で人のセックスを見るのは産まれて初めての事だった。沙紀も間違いなく初めての筈だ。
 彼等は俺達に気づいていないのか?沙紀より先に、この野天に来たのは間違いないだろう。沙紀の存在に気が付かなかったのか。
 俺は隣に座る沙紀に、尋ねたい事だらけだったが訊けなかった。それほど彼等の営みが烈しく、それに目を奪われていたのだ。


 「聖也くぅん…」
 恐る恐るといった小さな声が、耳元でした。沙紀が俯いたまま、額を俺の胸に預けるように寄せてくる。
 「す、凄いね…」
 ゴクリと唾を呑み込んでから「あ、ああ…」と返事をした。「いつから、やってるの」俺も小さな声で沙紀に尋ねてみた。
 「アタシが入って来た時は、もう…」してたの、と呟いたはずだが、沙紀の声は掠れてしまっていた。その沙紀が彼等から視線を外して下を向いた。そこには俺の縮んだ愚息がある。情け無いほど小さくなっている。


 「それにしても凄いな」
 「そ、そうなのよ、最初は前からやってたの。その後はバックで、それで今はコレ…」
 と云う事はどういう事だ。男はインサートしてから、どのぐらい腰を振り続けているのだ。出し入れのスピードは一向に落ちる気配がない。
 女性の声こそ聞こえないが、頭の中ではネチャネチャと特有の音が鳴っている。


 「聖也くん、アタシなんだか…」
 沙紀の手が俺のアソコに伸びて来た。そして、竿を握るとゆっくり揉み始めた。
 「お、おい」
 その時だ。
 「んーーッ、んーーッ、んーーッ!」
 押し殺したような、それでも獣の叫びのようなうねり声が轟いた。女が逝ったのだ。
 沙紀の手が止まり、俺達は同時に前の男女を見詰めた。
 女の身体が突っ伏したまま震えている。
 風が流れて、湯気がサーッと消えて行く。男女が繋がるその箇所がはっきりと見えた。そして、ヌボっと男の物が抜け落ちた。
 あっ、沙紀が声を上げた。


 向こうで男が、のっそりと上半身を上げる。
 男に驚いた様子など全くない。それどころか、一瞬ニヤリと笑みを浮かべた、気がした。
 俺は…男の太々(ふてぶて)しい笑みに、ゾクリと身体の震えを感じてしまった。


 俺達の視線を受けながら、男が立ち上がった。男の股間の物は半勃ちの状態だが、それでもかなりの巨(おおき)さだ。
 沙紀の手がいつの間にか、俺のソレから離れて太ももへ、そして俺の手へとモジモジ寄ってきた。俺はか弱いその手を握った。その手が微かに震えている。
 こちらの様子など気にする素振りもなく、男が屈んで女の尻をパチパチと叩いている。やがて女が、のっそりと身体を起こしたのだった。
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 宿に着いて15分、部屋に入ってからも5分たらずで、俺達二人は互いを求めてあっていた。気づいた時には、二人の服はその辺に散らばり、素っ裸でまさぐりあっていたのだ。
 沙紀はこの環境に感情が高ぶったのか、いつもより早く絶頂を迎えていた。俺の方も明るい陽の元でやるセックスが久しぶりだったのか、野生の猿のように性急を求めて果ててしまった。


 息の乱れが治まってきた頃、沙紀が仰向けのまま顔だけ俺に向けてきた。
 「聖也くん、アタシの声、大きかったよね、聞こえちゃったかな」
 「ああ…」
 今更ながらと、俺は沙紀の顔を見て、それから開いたままの窓に視線を向けた。そして、起き上がると前も隠さず窓に近づき、そっと外を覗いた。
 「4部屋だったよな。どんな造りなんだろう」
 ひとり言のように呟き、端から端へと辺りを見廻した。
 「ああ、なるほど」
 建物全体が扇形で、ロビーを真ん中にその左右に2部屋ずつあって、部屋と部屋が回廊で繋がっているみたいだ。俺達の部屋は左奥の部屋だ。


 「もう一組の人って、何処だろうね」俺が呟くと沙紀も裸のまま寄ってきた。
 「ねぇ、何処?声、聞かれたかな」
 「ここからじゃ分かんないなぁ。でも、沙紀の声はデカいから間違いなく聞こえてるよ」
 俺が笑うと「いゃんッ」沙紀が抱きついて来た。そしてもう一度キスだ。
 それから、俺達は宿自慢の露天風呂に行く事にした。温泉に来ると、直ぐに風呂に行くのはいつもの事だった。下着は着けず、素っ裸の上に浴衣だけを羽織って部屋を出た。


 「聖也くん、野天の方で合流する?」
 「そうだな、行ってみようか…」
 俺達はそれなりに温泉巡りをしているが、実は露天はあっても、混浴に入った回数は少ないのだ。殆どが家族風呂と呼ばれる貸し切りのものだったのだ。
 「アタシ達以外は一組しかいないって云ってたし、会う確率は低いよね」
 「ん、どうかな…でも、沙紀には見られたい願望もあるんだよな」
 「いゃん、まだそこまで変態じゃないわよ」
 口を尖らせる沙紀を可愛いらしく思いながら、俺は足を進めた。
 フロントの前を通った時には女将さんがいて、ニコリと微笑んでくれた。チェックインの時も会ったが、50くらいの朴訥とした、感じの良さそうな人だ。


 宿の建物はさほど大きくないので、迷う事なく風呂の場所に来る事ができた。
 『男湯』『女湯』の暖簾があり、俺達は確かめるように目を合わせた。
 「混浴の方には、直ぐに行く?」
 沙紀の言葉に「し、声がデカイぞ」と囁いて「俺は少しゆっくりしてから行こうかな」と続けた。
 「うん、分かった。聖也くんはいつもそうだもんね、10分くらい?」
 好奇心旺盛の沙紀は、直ぐにでも奥に行く気だろうか。
 俺は沙紀の性急さに、やれやれ、と苦笑いを浮かべながら暖簾を潜ったのだった。
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  チェックインを済ませて、2階の部屋に通されると「あーーやっと着いた」沙紀が両手を上げて、思い切り伸びをした。
 そんな沙紀と俺を見ながら、仲居さんが奥の大きめの窓を開けた。
 「どうですか、この景色」
 「わぁーー凄い眺め!山が綺麗だよ、聖也くん」
 窓から乗り出す後ろ姿に「おい、下に落っこちるなよ」俺は頬を緩めて声を掛ける。
 その沙紀に「奥さん、右手の奥の方に何か見えませんか」仲居さんが、続けて声を掛けた。
 「あ、お風呂?ひょっとして、あそこが露天風呂ですか」
 沙紀の嬉しそうな声に、俺も窓から顔を出して、右奥の方に目をやった。柵に囲まれた岩肌が見えて、その辺りから湯気が上がっている。


 「そうですよ。ところでお客さん、露天風呂と野天風呂の違いって知ってます?」仲居さんが訊いてきた。
 「えっと、聞いた事あったんだよね、聖也くん、何だっけ」
 沙紀の言葉に、俺は記憶を遡った。
 「え~っと、同じ屋外でも屋根や囲いがあるのが露天で、屋根も囲いもないのが野天じゃなかったかな」
 「旦那さん、正解です。特別な定義はないみたいですけど、うちではあれを野天風呂として紹介させて頂いてます」
 「へぇ~、でも、ここからじゃ野天か露天かなんて分かんないわよね」
 「はい、見えそうで見えない微妙な造りになってますから、うふふ」
 仲居さんが意味深な笑みで、俺達に頷いた。俺と沙紀は目を合わせると、どこか恥ずかしげに頷き合っていた。


 その後、仲居さんは避難経路や食事処の説明をして、最後に自慢の風呂の説明をしてくれた。
 1階に男湯女湯それぞれの大浴場があり、その続きに露天風呂がある事。その更に奥に野天風呂があって、そこは男湯からも女湯からも行き来が出来る造りになってるとの事だった。要は混浴スペースになっているのだ。


 仲居さんが一通りの説明を終えて、部屋を出ようとする時、俺は一つだけ気になっている事を聞く事にした。
 「あの、今夜の宿泊は俺達以外には何組位の人がいるんでしょうか」
 「ああ、今夜はですね、お客さん以外は一組だけですよ。勝野さんと仰って、一回りくらい歳が上の気さくな御夫婦ですよ」


 名前など客の個人情報を何気に話した様子には少し驚いたが、この気安さもこの宿の良いところだと、俺は思う事にしておいた。それに、あの黒塗りベンツの持主の名前を何の気なしに口にしたという事は、彼等はヤバい人ではないのだろう。俺はそう解釈しながら、部屋を後にする仲居さんを見送った。
 そんな俺に、沙紀がさっそく云ってきた「聖也くん、先にお風呂行こっか」
 「うん。でも、その前に」
 そう云って俺は、沙紀の手を取り抱き寄せた。そして布団も敷かれてない畳の上に誘い、覆い被さった。直ぐに沙紀にも、スイッチが入ったのが分かった。
 「聖也くん…窓…開いて…」
 俺は、沙紀の唇を塞ぎながら、胸の膨らみに手をやったのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは23array(23) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “506” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(7151) “
 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
 「アタシ、夢かと思ってたんだけど、風が吹いてきて、勝野さんがタオルで扇いでくれてたのね。それで夢じゃないって分かって、そのまま目が離せなくなったの」
 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “500” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(6510) “
  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
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 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
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 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 大浴場から部屋に戻った俺達二人は、それぞれがボォっと過ごしていた。
 沙紀は部屋にあった近隣の観光名所のパンフレットを見たりしていたが、今は窓辺から外を眺めている。しかし頭の中には、俺が浮かべたのと同じシーン、それが流れているのではないだろうか。
 畳に寝っ転がって天井を見上げる俺の頭の中は、さっきの野天風呂の様子、あの夫婦の事でいっぱいだった。


 俺達の前で男女の営みを披露していたあの夫婦。
 沙紀の話では、湯船に浸かって直ぐに気がついたとか。その時の様子は、奥さんが男の背中に湯を掛けて、泡を洗い流していた。その姿に沙紀は微笑ましいものを感じたが、直ぐに驚愕へと変わったのだった。
 今度は男が、奥さんの身体を洗うのかと思ったが、何と男は女の乳房に口を付けたのだ。そして、先端の尖りを舌で弄くりだしたのだ。
 彼等が沙紀の存在に、いつ気づいたのかは分からない。だけど男は、見せ付けるように激しく吸っていたのだとか。
 沙紀は既に、蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。湯船の上がり斑の岩に腰をおろしたまま、竦んでしまっていた。
 自分の胸や股間を隠すのも忘れて、男女の姿に魅入られていたわけだ。


 男は奥さんの胸や急所を責めた後に、遂にソレを挿入した。挿入の瞬間、男は沙紀の顔を見たらしい。
 最初は沙紀の説明通り正常位。それも繋がってる部分を沙紀によく見えるようにだ。
 次が後背位、バックで交わったのだ。二人の顔は沙紀の方を向いて、女は逝き顔を曝したのだ。


 沙紀の頭は混乱して、現実離れした気分になっていたらしい。やがて俺が遅れてやって来るわけだが、俺は彼等の騎乗位を沙紀と一緒に目撃した。そして、桃源郷のような世界に連れて行かれたのだ。
 彼等がその場から去った後も、暫く俺も沙紀も、その場から動けないでいた。
 俺達が会話を交わしたのは、どのくらい経った後だったか。沈み込むように湯船に浸かって、沙紀に云ったのだ。
 『凄いのを見ちゃったな…』
 『う、うん、アタシ、あんなの初めて…』
 そう、俺も沙紀も他人のセックスを生で見た事など一度もなかった。せいぜいエロいビデオや動画で視たぐらいだ。
 それに、これまで二人で混浴に入った事はあったが、人前でセックスを追っ始める奴なんかいた事がない。律儀にタオルで、身体を隠す人が殆どだった。勿論、俺達もまだ羞恥を感じるキャリアだった。
 結局彼等が出てからも、その野天風呂には大した時間も居ず、直ぐに出てしまったのだ。気分は湯当たりでもしたか、頭がボォっとして軽い目眩もしていた。沙紀を見れば同じで、赤身を帯びた表情は重たそうな感じだった。


 それとだーー。
 部屋に戻ってからの沙紀の回想だ。
 『あの人のアソコ、凄くゴツゴツしてた』
 『え、それは何!?』
 『ほら、だいぶ前に一緒に視たエッチなビデオで、アソコに真珠?…入れてた人いたでしょ、あんな感じ』
 『ああ、ヤクザがやってるヤツだ。じゃあ、あの人達ってやっぱり』
 『でも、刺青はなかったでしょ』
 『そうだな、俺は気が付かなかった』
 『でもね、女の人の方、アソコの毛がなくてね、代わりに刺青みたいなのがあった気がするの』
 『え、マジか』
 『うん、アタシ、ソコにも魅入られてたから』
 『そうか…綺麗な人だったよな』
 『そう、凄く綺麗な人だったわ。それにね、身体の張りや肌のツヤなんかも良かったと想う。とにかく色っぽかったわ』
 『ああ、確かに。それに男も凄かった。体格も俺より一回りくらいゴツかったよな。贅肉らしいものも全然なかったし』
 『うん、それに何より…』
 『ん、アソコか』
 『うん、ごめん。あんな大きなの見た事なかったから、ビックリしちゃった』
 それを訊いて俺は『こほん』と、咳払いをしたのだった。
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 脱衣場に入って、まず感じたのはその狭さだった。最大4組の宿泊だから、この広さでも充分なのだろうが、少し圧迫を感じてしまう。
 俺は棚に置かれてある備え置きのタオルを一枚手に持った。広げて見れば『和道楼』と宿の名前が大きく描かれている。


 「まずは内風呂だな」俺は云って、木彫のドアを引いた。
 浴場の方は、それなりの広さだった。奥側は一面ガラスで、その向こう側、外は自然な岩肌と広大な山々が見える。
 「富士山は見えないにしても、凄い山の景色だな」
 俺は呟きながら、内風呂を抜けて直ぐに露天風呂の方に行く事にした。
 露天の湯船に浸かって、改めて周りを見てみれば、その雄大さに感動すら覚えてしまう。居るのは俺一人で、貸し切り状態だ。
 沙紀は『10分くらい?』と訊いていたが、もっとユックリしていこうと思った。それに、部屋で1発やったばかりだし。


 それからどの位そこで浸っていたか、湯から出ると俺は、股間を開けっ拡げたままで歩き始めた。と云っても、木々に囲まれていて、何処からどこまでが浴場なのか分からない。
 秘境に迷った気分で足を進めて行くと、直ぐに看板に気がついた。そこには『野天』の文字と矢印、それに注意書きがあった。この先は混浴になります云々だ。
 沙紀は既に野天の混浴で待っているだろうか、まさかプンプンに怒ってたりして。と、俺も急いで向かう事にした。


 「こっちは更に秘境っぽいな」
 それらしい場所に出れば、湯気が程よい具合に立ちこめていた。
 「沙紀は…」と呟いた時、シルエットを見つけた。
 沙紀が湯船の端っこ、小さな岩を椅子代わりに座っている。俺は驚かせてやろうかと、そっと近づいた。
 しかし直ぐに、気配に気づいたか、沙紀は顔を向けてきた。そして、人差し指を唇に当てると「しっ静かに」と伝えてきて「聖也くん、あそこ」と小声で囁き、向こう側を指さした。
 目を凝らせば湯気の向こう、距離にしてどうだろう、3、4メートル辺り先の洗い場のようなスペースに、男女の姿を見る事になった。その場所で女が、仰向けの男に跨り、腰を振っているではないか。


 AVやエロ動画で視たのと同じような場面だった。けど、生で人のセックスを見るのは産まれて初めての事だった。沙紀も間違いなく初めての筈だ。
 彼等は俺達に気づいていないのか?沙紀より先に、この野天に来たのは間違いないだろう。沙紀の存在に気が付かなかったのか。
 俺は隣に座る沙紀に、尋ねたい事だらけだったが訊けなかった。それほど彼等の営みが烈しく、それに目を奪われていたのだ。


 「聖也くぅん…」
 恐る恐るといった小さな声が、耳元でした。沙紀が俯いたまま、額を俺の胸に預けるように寄せてくる。
 「す、凄いね…」
 ゴクリと唾を呑み込んでから「あ、ああ…」と返事をした。「いつから、やってるの」俺も小さな声で沙紀に尋ねてみた。
 「アタシが入って来た時は、もう…」してたの、と呟いたはずだが、沙紀の声は掠れてしまっていた。その沙紀が彼等から視線を外して下を向いた。そこには俺の縮んだ愚息がある。情け無いほど小さくなっている。


 「それにしても凄いな」
 「そ、そうなのよ、最初は前からやってたの。その後はバックで、それで今はコレ…」
 と云う事はどういう事だ。男はインサートしてから、どのぐらい腰を振り続けているのだ。出し入れのスピードは一向に落ちる気配がない。
 女性の声こそ聞こえないが、頭の中ではネチャネチャと特有の音が鳴っている。


 「聖也くん、アタシなんだか…」
 沙紀の手が俺のアソコに伸びて来た。そして、竿を握るとゆっくり揉み始めた。
 「お、おい」
 その時だ。
 「んーーッ、んーーッ、んーーッ!」
 押し殺したような、それでも獣の叫びのようなうねり声が轟いた。女が逝ったのだ。
 沙紀の手が止まり、俺達は同時に前の男女を見詰めた。
 女の身体が突っ伏したまま震えている。
 風が流れて、湯気がサーッと消えて行く。男女が繋がるその箇所がはっきりと見えた。そして、ヌボっと男の物が抜け落ちた。
 あっ、沙紀が声を上げた。


 向こうで男が、のっそりと上半身を上げる。
 男に驚いた様子など全くない。それどころか、一瞬ニヤリと笑みを浮かべた、気がした。
 俺は…男の太々(ふてぶて)しい笑みに、ゾクリと身体の震えを感じてしまった。


 俺達の視線を受けながら、男が立ち上がった。男の股間の物は半勃ちの状態だが、それでもかなりの巨(おおき)さだ。
 沙紀の手がいつの間にか、俺のソレから離れて太ももへ、そして俺の手へとモジモジ寄ってきた。俺はか弱いその手を握った。その手が微かに震えている。
 こちらの様子など気にする素振りもなく、男が屈んで女の尻をパチパチと叩いている。やがて女が、のっそりと身体を起こしたのだった。
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 宿に着いて15分、部屋に入ってからも5分たらずで、俺達二人は互いを求めてあっていた。気づいた時には、二人の服はその辺に散らばり、素っ裸でまさぐりあっていたのだ。
 沙紀はこの環境に感情が高ぶったのか、いつもより早く絶頂を迎えていた。俺の方も明るい陽の元でやるセックスが久しぶりだったのか、野生の猿のように性急を求めて果ててしまった。


 息の乱れが治まってきた頃、沙紀が仰向けのまま顔だけ俺に向けてきた。
 「聖也くん、アタシの声、大きかったよね、聞こえちゃったかな」
 「ああ…」
 今更ながらと、俺は沙紀の顔を見て、それから開いたままの窓に視線を向けた。そして、起き上がると前も隠さず窓に近づき、そっと外を覗いた。
 「4部屋だったよな。どんな造りなんだろう」
 ひとり言のように呟き、端から端へと辺りを見廻した。
 「ああ、なるほど」
 建物全体が扇形で、ロビーを真ん中にその左右に2部屋ずつあって、部屋と部屋が回廊で繋がっているみたいだ。俺達の部屋は左奥の部屋だ。


 「もう一組の人って、何処だろうね」俺が呟くと沙紀も裸のまま寄ってきた。
 「ねぇ、何処?声、聞かれたかな」
 「ここからじゃ分かんないなぁ。でも、沙紀の声はデカいから間違いなく聞こえてるよ」
 俺が笑うと「いゃんッ」沙紀が抱きついて来た。そしてもう一度キスだ。
 それから、俺達は宿自慢の露天風呂に行く事にした。温泉に来ると、直ぐに風呂に行くのはいつもの事だった。下着は着けず、素っ裸の上に浴衣だけを羽織って部屋を出た。


 「聖也くん、野天の方で合流する?」
 「そうだな、行ってみようか…」
 俺達はそれなりに温泉巡りをしているが、実は露天はあっても、混浴に入った回数は少ないのだ。殆どが家族風呂と呼ばれる貸し切りのものだったのだ。
 「アタシ達以外は一組しかいないって云ってたし、会う確率は低いよね」
 「ん、どうかな…でも、沙紀には見られたい願望もあるんだよな」
 「いゃん、まだそこまで変態じゃないわよ」
 口を尖らせる沙紀を可愛いらしく思いながら、俺は足を進めた。
 フロントの前を通った時には女将さんがいて、ニコリと微笑んでくれた。チェックインの時も会ったが、50くらいの朴訥とした、感じの良さそうな人だ。


 宿の建物はさほど大きくないので、迷う事なく風呂の場所に来る事ができた。
 『男湯』『女湯』の暖簾があり、俺達は確かめるように目を合わせた。
 「混浴の方には、直ぐに行く?」
 沙紀の言葉に「し、声がデカイぞ」と囁いて「俺は少しゆっくりしてから行こうかな」と続けた。
 「うん、分かった。聖也くんはいつもそうだもんね、10分くらい?」
 好奇心旺盛の沙紀は、直ぐにでも奥に行く気だろうか。
 俺は沙紀の性急さに、やれやれ、と苦笑いを浮かべながら暖簾を潜ったのだった。
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  チェックインを済ませて、2階の部屋に通されると「あーーやっと着いた」沙紀が両手を上げて、思い切り伸びをした。
 そんな沙紀と俺を見ながら、仲居さんが奥の大きめの窓を開けた。
 「どうですか、この景色」
 「わぁーー凄い眺め!山が綺麗だよ、聖也くん」
 窓から乗り出す後ろ姿に「おい、下に落っこちるなよ」俺は頬を緩めて声を掛ける。
 その沙紀に「奥さん、右手の奥の方に何か見えませんか」仲居さんが、続けて声を掛けた。
 「あ、お風呂?ひょっとして、あそこが露天風呂ですか」
 沙紀の嬉しそうな声に、俺も窓から顔を出して、右奥の方に目をやった。柵に囲まれた岩肌が見えて、その辺りから湯気が上がっている。


 「そうですよ。ところでお客さん、露天風呂と野天風呂の違いって知ってます?」仲居さんが訊いてきた。
 「えっと、聞いた事あったんだよね、聖也くん、何だっけ」
 沙紀の言葉に、俺は記憶を遡った。
 「え~っと、同じ屋外でも屋根や囲いがあるのが露天で、屋根も囲いもないのが野天じゃなかったかな」
 「旦那さん、正解です。特別な定義はないみたいですけど、うちではあれを野天風呂として紹介させて頂いてます」
 「へぇ~、でも、ここからじゃ野天か露天かなんて分かんないわよね」
 「はい、見えそうで見えない微妙な造りになってますから、うふふ」
 仲居さんが意味深な笑みで、俺達に頷いた。俺と沙紀は目を合わせると、どこか恥ずかしげに頷き合っていた。


 その後、仲居さんは避難経路や食事処の説明をして、最後に自慢の風呂の説明をしてくれた。
 1階に男湯女湯それぞれの大浴場があり、その続きに露天風呂がある事。その更に奥に野天風呂があって、そこは男湯からも女湯からも行き来が出来る造りになってるとの事だった。要は混浴スペースになっているのだ。


 仲居さんが一通りの説明を終えて、部屋を出ようとする時、俺は一つだけ気になっている事を聞く事にした。
 「あの、今夜の宿泊は俺達以外には何組位の人がいるんでしょうか」
 「ああ、今夜はですね、お客さん以外は一組だけですよ。勝野さんと仰って、一回りくらい歳が上の気さくな御夫婦ですよ」


 名前など客の個人情報を何気に話した様子には少し驚いたが、この気安さもこの宿の良いところだと、俺は思う事にしておいた。それに、あの黒塗りベンツの持主の名前を何の気なしに口にしたという事は、彼等はヤバい人ではないのだろう。俺はそう解釈しながら、部屋を後にする仲居さんを見送った。
 そんな俺に、沙紀がさっそく云ってきた「聖也くん、先にお風呂行こっか」
 「うん。でも、その前に」
 そう云って俺は、沙紀の手を取り抱き寄せた。そして布団も敷かれてない畳の上に誘い、覆い被さった。直ぐに沙紀にも、スイッチが入ったのが分かった。
 「聖也くん…窓…開いて…」
 俺は、沙紀の唇を塞ぎながら、胸の膨らみに手をやったのだった。
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 俺達がよく行く温泉は、伊豆方面に群馬方面が多かった。
 なるべく人の少ない隠れ家的な所を狙って行ってるつもりだったが、ネット社会においては口コミで直ぐに晒されてしまう。なので有名温泉地でも、小さな旅館を選ぶようにしていた。そう、年配の人達や御忍びのカップルが利用しそうな風情のある旅館だった。金額は結構する所が多くて、俺達のような若造夫婦にはちょっと贅沢かもしれなかったが、子供が出来るまではと、プチ贅沢を楽しんでいたのだ。
 それともう一つ、外せない条件は露天風呂がある事だった。
 二人のセックスには時折りアブノーマルを加えていたが、見る者が見れば、可愛い方だったと思う。沙紀の両手をタオルで縛ったり、軽いスパンキング等のソフトSMまでだった。たまに、その露天風呂でこっそり、沙紀の卑猥なポーズを写真に撮る事はあったが、それらをネットやSNSなどに載せる勇気は持っていなかった。


 沙紀は自分の身体に自信を持っていないようだったが、身長は160の体重は教えてくれないがスレンダーな体型に、胸は85あって、ヒップも80以上はあったのだ。服を着ている時は目立たなかったが、初めて裸体を目にした時は、上と下の二つの膨らみに目を惹かれたものだった。顔はチョッとキツい感じだったが、美人と言われる事の方が多かった。
 沙紀とのセックスでは、二つの膨らみを乱暴に揉み崩すのが一つのパターンになっていて、沙紀は責めが強ければ強い時ほど、甘い鳴き声を出す女だった。だが、急に痴女に変身するのは、相変わらずの事だったが。
 俺もエロビデオをそれなりに視てはきたので、SとMが同居してる女がいる事は想像出来ていた。そんなビデオの女と、沙紀の姿を重ね合わせていたのかもしれない。




 さて、季節は春、そして今日ーー。
 俺達は自家用のセダンを走らせて、二泊三日の予定で伊豆の修善寺方面に向かっていた。
 泊まるのは初めての旅館で、部屋数が4つしかない小さな宿だった。沙紀が見つけてきた宿だが、写真にあった露天風呂の雰囲気にビビッときたのだとか。


 運転は沙紀も免許を持っていたが、いつも俺の役目で、この日も順調に車を走らせた。適当に休憩を取りつつ、絶景ポイントでは車を停めて写真を撮ったりもした。
 目的近くまで来た所で、ナビが頼りなくなってしまった。それでも、それこそが隠れ家的な宿と呼ばれる証拠だと、俺達はワクワクしていた。道幅も急に狭くなったり、また広くなったりと、そんな状況が繰り返されながら、やっとそれらしい建物に辿り着く事が出来た。


 俺は車をゆっくりと駐車場らしきスペースへと進めた。フロントガラス越し、『旅の湯 和道楼』と趣のある文字で書かれた看板が見える。
 車から降りて、宿の入口に向かって歩きかけた時だ。
 「ねぇ聖也くん、あの奥の所…」
 沙紀の声に、俺はキャリーケースを引きながら奥側に目をやった。そこには隠れるように、黒いメルセデスが停まっていた。おまけに、シッカリとスモークまで貼られてある。
 「あ、アッチ系の人かな」俺は眉を歪めながら呟いた。


 不動産の仕事をしてると、学生時代の友人から『アブナイ事してるじゃないの』なんて云われた事が何度かあったが、今いる会社は普通に真面目にやっている所だと思っている。
 中には企業舎弟と呼ばれる反社の隠れ蓑になってる会社もあるかもしれないが、今のところ俺は遭遇した事はない。しかし、取り引きした会社の社長さん達が、視界に映るような黒塗りの車に乗ってる姿を見た事はある。


 「大丈夫だよ沙紀、心配ないって。仮にアッチ系だとしても、こんな所で何か仕出かす奴なんていないよ」
 眉を顰(ひそ)める沙紀を見ながら、俺は気丈に振る舞ってみせた。
 「そうだよね、大丈夫だよね」沙紀が俺の肘に腕を絡めてきた「何かあったら、得意のタックルでお願いね」
 「ああ、任せとけって」
 そう云って、俺達は足を進めたのだった。
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 寝室のベッドの上、俺と沙紀は、下半身だけ布団で隠して勝野夫妻の話を続けていた。


 「百合子さんがパーティーコンパニオンをやってる時に、勝野さんと知り合ったとはな」
 「不動産屋さんってパーティーとか好きそうね」
 「どうかな、俺はあまり興味がないけど。それで」
 「うん…それから、刺青の話に」
 「え、刺青!」
 「ほら、アタシも見たって言った百合子さんの股間の辺りの事」
 「ああ、その話も覚えてるよ。百合子さんのアソコの毛が無かったんだよな」
 「そう、それで割れ目ちゃんの上辺りに華の模様があったんだよね」
 「ああ、薔薇だった」
 と云った瞬間、沙紀が睨みつけて来た。そうなのだ。たった今、沙紀は『刺青みたいなのがあった気がする』と云ってた。要ははっきり確認出来てないものを、俺はその後にシッカリと拝んでいるのだ。そう、百合子さんが傅く俺の前で裸体を曝していたのだ。


 「聖也くんは見てたんだもんね」更に射抜くような強い視線が向いて来た。
 「もう、その事はさ…」
 「まぁいいわ。でね、百合子さんが『野天風呂で私達がセックスしてるのを見た時はびっくりしたでしょ』って」
 「うん、あれは衝撃的だった」
 「うん、それでね、アタシもその通りに云ったら『私の刺青にも気づいてたのかしら』って、百合子さんが妖しい目を向けてきたの」
 「妖しい目か、分かる気がする」
 「それで『大概の人は気になるのよね』って」
 「まさか沙紀は、百合子さんが刺青を入れる事になった事情なんかも聞いたりしたのか」
 「ううん、それはさすがに。でもね、百合子さんが『ここでもう一度見てみる?』って聞いてきたのよ」
 「嘘ッ、マジかよ!?」
 「アタシも一瞬、言葉を失ったんだけど、気づいたら黙って頷いてた」
 「それでどうやって。その場で服を…」
 「それがね『一緒にお風呂に入りましょうか』って」
 「風呂!?」
 「そう、お風呂も凄く大きいからって」
 「それで入ったの?」
 予期せぬ話の展開に、俺も懐疑的な目をして尋ねていた。沙紀もその時の事を思い出したのか、緊張が窺える。そして沙紀は、首を縦に振った。


 「じゃあ一緒に入ったわけ?」
 「…うん」
 「ああ…」と、ため息のような声を吐いて、沙紀の顔を見直した「で、どうだったの」
 「それがね、とにかくお風呂は凄く豪勢だったわ。あれって特注なのかしら、家のよりもかなり大きかった。それでそこにね、鏡の大きいやつがあったの」
 「大きい鏡か、なんだかエロい感じがする」
 「うん、それで泡の元を持って来て、分かるでしょ。聖也くんはソープに行った事もあるんだもんね」
 その指摘には、敢えて黙っておく事にする。
 「泡風呂にして、百合子さんと二人で入ったのよ。あのね、百合子さんの裸も気になってたのよね」
 その言葉に、ある思いが湧いた。沙紀が口にした気になる裸とは、俺が抱いた女と言う意味ではないのか。だけど俺は、その事には触れず「それで刺青は?」と改まった素振りで訊いてみた。


 「うん、アタシが湯船に浸かった状態で、百合子さんが立ち上がったのね。百合子さんの毛、温泉で見た時よりも少し伸びてたみたいで、そこの泡を手で払って『ほら、ご覧になって』って」
 直ぐに記憶の中から、あの場面が浮かんできてゴクリと喉を鳴らしてしまった。
 「そこにはね、聖也くんが云った通り薔薇のタトゥーがあったわ。アタシね、勝野さんのアレを見た時みたいにソコにも魅入られちゃった。百合子さんが『触っても良いわよ』って云ったら、恐々と触ってたの」
 「そうか、初めてだよな」
 「そう、それでね、百合子さんが湯船の縁に腰を掛けて、股を開いたの」
 「な、マジかよ!」
 「そうなの。両手を割れ目ちゃんの端にこう当てて…」
 「まさか、バックリとか…」
 「そうなのよ」
 「ううっ、エロすぎる…」
 「それでね、拡げて云ったのよ」
 「な、なんて」
 「あのね『ここに貴女のご主人のが入ったのよ。ご主人ね、私のココ凄く良いですよって、褒めてくれたわ』って」
 「ああっ、そんな事を!」
 「アタシ、息が止まりそうになって、何も云えなくて…でもね『今度は、家(うち)の人のが入った貴女のアソコを見せて』って」
 「な、な、なにぃーッ!」
 云い終えた沙紀を見れば、伏し目がちに俯いている。
 「沙紀はそれで…どうなんだよ」
 「あのね、強引にね、入れ替わるように縁に座らされたの。そこでこう、股を持ち上げるようにして拡げられたの」
 「お、おい、本当の事なのかよ」
 俺の何とも言えない呻きにも、沙紀は首を縦に振っている。その沙紀が俺を見つめ直し、続けて来る。


 「アタシも恥ずかしくて、どうしようもなかったんだけど、お酒も入ってたからか、百合子さんに圧倒されてか、されるままだったの」
 「じゃあ…」
 「うん、じっくり観られて、それで指を挿れられたの」
 「ゆ、指!?」
 「そう、指を挿れたり出したりされて『どう、主人のを挿れたからユルユルになってない?』って訊かれたの」
 「まさか、そんな事を…」
 「うん…」
  頭を垂れた沙紀の様子を目の当たりにしながら、俺はつい今し方の沙紀の膣(アソコ)の感触を思い出そうとした。それにしても、百合子さんは一体何故そんな事を…。
  俺の心は彷徨い始めていた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける事になったのだった。
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 思わぬ展開から、俺達は寝室のベッドで重なり合っていた。
 射精を終えた俺は、荒い息を吐きながら天井を見上げている。隣で突っ伏したままの沙紀は、切れ切れの息を吐いている。その沙紀が薄っらと目を開けて、俺を見詰めた。


 「聖也くん、どうだった?」
 「へ、どうって?」
 「アタシのアソコ、良くなかった?百合子さんの方が良かった?」
 「お、おい、何て事を…」
 「ココに勝野さんの大きいのが入ったんだよ。ねぇ、ガバガバになってなかった?」
 「沙紀、なんでそんな事云うんだよ。それに…もう終わった事だし、仕方ないだろ」忘れろよ…と云い掛けた途中で、沙紀の眼差しに気がついた。怒ってるような哀しいような色が混ざり合っている。
 「聖也くんが悪いんだからね」と、キツイ口調が襲って来た。しかし声には、間違いなく哀しみも含まれている。
 「だから…俺が悪かったって…」
 「聖也くんはアタシがいるのが分かってて、百合子さんとセックスしたんだよね」
 「あ、ああ…」
 「その百合子さんのアソコが、とても良かったんでしょ」
 「またそんな事を…」
 「百合子さんが云ってたわ」
 「ええっ、そんな事を!」云うなり、唇が震え出した。


 寝室の温度が急に下がった気がした。沙紀の息遣いが変な震えを起こしている。もともと感情の起伏が激しい沙紀なのだ。
 そんな沙紀が「さっきの話に続きがあってね」と、噛み締めるように話し出した。


 「百合子さん、下着を持って来てなかったの」
 「ん、下着を渡すって云って呼び出したのにか」
 「そうなの。それで『マンションが直ぐそこだから一緒に来て』って」
 「自宅って事?」
 「そう、それで一緒に行ったの。歩くとそこのお店から10分ちょっとだったと思うけど、タワマンてあるでしょ、それだったの」
 「ああ、何となく分かる、あの辺りだ」
 「高層でね、百合子さんの所は40階辺りだったと思う」
 「そうか、金持ちなんだろうな」
 「うん、ロビーからして凄かった。コンシェルジュもいて、一流ホテルって感じだった」
 「沙紀は部屋まで行ったの?」
 「うん」
 「それですんなり、下着を渡されて帰って来たわけじゃなさそうだな」
 「そうなの、リビングに通されて、ちょっと付き合ってって、ブランデーを勧められたの」
 「昼間から酒をか」
 「そう、それでね…断るのも悪いと思ったから、一杯だけ頂く事にしたの」
 「そうなのか…それで?」
 「百合子さんが、ここからの眺めは素敵よ、とか話が始まって、そのマンションを買った経緯(いきさつ)なんかも話し始めたの」
 「マンションの経緯?」
 「うん、人にお金を貸してて、それが返って来なくて、担保に取ってたのがこのマンションだって。聖也くんなら分かる話だって云ってたわ」
 「なるほど」
 不動産の仕事をしてる俺にはよく理解できる話だった。あの勝野と言う人は、不動産を担保に金貸しのような事もやっているのだ。
 「買った経緯というより、手に入れた経緯って事だな」俺は一人頷き「それから?」と先を促した。


 「百合子さんは、ご主人の仕事の話も少ししたわ。都心のビルの売買で忙しくて、接待も結構あって、中国人の顧客を日本の温泉に連れて行ったりだとか、このマンションにも呼んだ事があるとか」
 その接待の話は、あの宿でも聞いた話だった。確か俺達が宿を経った次の日に、その顧客が来るとか云ってた記憶がある。
 「それと、百合子さんのプライベートの事も少し聞いたわ」
 「プライベートって」
 「うん、歳はご主人より3つ下の42なんですって」
 「42なんだ」と、あの野天風呂で見た色っぽい肉体を思い浮かべてしまった。
 「それとね、いっとき水商売をやってたんだって」
 ああ、なるほど、と無意識に頷いていた。云われてみれば、その雰囲気は感じていたかもしれない。


 「詳しくは聞かっなかったけど、かなり一流のお店みたいよ。あとはパーティーのコンパニオンもやってて、そこで勝野さんと知り合ったみたいね」
 「そうか…」と呟いたところで、この話の着地点がどこだろうか、沙紀は何処に話を続けているのかと一瞬考えた、その時だ。
 新たな衝撃が襲って来たのだった。
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 あの温泉旅館の野天風呂で、沙紀もまた過ちを犯していたのだった。相手は勝野さん、百合子さんのご主人だったーー。


 「そう、アタシは自分から犬の格好になって、勝野さんを迎え入れたの」
 その時の様子を話し出した沙紀の声は、重石が取り除かれたように、淡々としたものに変わったような気がした。
 「聖也くん、ゴメンね。でも嘘はつかないって結婚前からの約束だったから」
 そうだった。俺と沙紀は、結婚する時に、嘘は絶対つかないと約束し合っているのだ。


 「そ、それで沙紀は、結局…」
 「うん、恥ずかしいけど何度も何度も逝かされたの」
 「そうか…」
 「勝野さんがとても強くて、なかなか果ててくれなくて」
 「ああ…」
 「でもね」
 「ん?」
 「その様子を百合子さんに見られてたの」
 「ああっ、そういう事になるのか」
 「何回目かの絶頂で、アタシまた気を失ったの。それで今度、気がついたら目の前に百合子さんもいて」
 「それは野天で?」
 「そう、勝野さんとセックスした場所で裸のまま仰向けになってたのね。そこで目が開いたら、浴衣姿の百合子さんがいたわけ」
 「それで沙紀はどうしたの」
 「その時はまだ、意識が朦朧としてたからよく覚えてないんだけど、百合子さんは黙ってアタシ達を見てたと思うの」
 「百合子さんが…そうなのか…」
 「それで、その後は二人に抱えられるようにして脱衣場の方に連れて行かれたの」
 そこで俺は、一連の話の流れを理解した。しかし、一つ言い訳が許されるとしたら、俺は百合子さんに誘惑されたと思ってる。だが、それは今さら云えない。あの場でも百合子さんが口にしたように、女に恥は掻かせられない、そんな騎士道ぶった考えが浮かんだのかもしれない。
 と、沙紀が俺を見詰めている。
 「聖也くん、百合子さんのアソコ、どうだった?」
 「え、なに!」
 「アタシ、勝野さんとのセックスの事、正直に話したわ。聖也くんは」
 「い、いや、それは…」
 沙紀の目が、見逃さないわよ、と熱を帯びてきた、ように観える。
 「嘘はつかない約束よ」
 「ああ…そうだな。うん、百合子さんの身体は、まぁ」と云いかけた途中で「やっぱりダメ、聞きたくない!」沙紀がいきなり立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張った。そして、その勢いのまま「聖也くん、しよっ。アソコが疼くの。ねぇ、厭らしい事してっ」と、抱きついてきた。
 沙紀が涙目で見詰めている、と思った時には唇が塞がれていた。
 唇を貪りながら、沙紀が俺の服を脱がせ始めた。
 俺が全裸になると、今度は沙紀を裸にした。二人が生まれたままの姿になったところで、身体を抱き締め合いながら寝室に雪崩こんだ。


 沙紀に覆い被さると「沙紀っ、勝野のチンポがそんなに良かったのかよ!」叫びながら、乳房の先にシャブリつき、突起を弄くり廻して卑猥な粘着音をピチャピチャと鳴らしてやった。
 「ほら、どうなんだよ、オマンコ気持ち良かったんだろ!」
 自虐的な俺の叫びに、喘声を吐き出しながら沙紀が俺を見詰め返す。
 「そうよ、とても良かったわ。長くて太くて、それにゴツゴツしてて気持ち良かったわ!」
 「くッ、この淫乱女が!」
 「ヒッ!そうよ、アタシ淫乱よ!」
 「ち、畜生が、このっ!」
 叫ぶやいなや、俺の硬くなったソレを膣奥深く打ち込んでやった。
 「濡れ濡れじゃないか、この変態!」
 「いやんッ、聖也くんだって、いつもより硬いわ!」
 「なっ!?」
 「ほら、またっ…」
 沙紀が息を弾ませながら、合いの手を入れてくる。その度に俺のソレが弾んでしまう。沙紀の言う通り、俺は変態なのだ。しかし沙紀だって。
 沙紀の膣(なか)は、これまで感じた事がないほど濡れに濡れていた。白かった身体は既に朱く、身体中からは牝のフェロモンが匂い立ってくる。


 「あぁ、後ろから…バックでやってよ、ねぇ」
 悲鳴のような懇願に、俺はソレを一旦抜いた。直ぐさま、目の前で牝犬が尻を向けておねだりを始めた。
 「ねぇ、沙紀のオマンコ、ビチョビチョでしょ」
 淫乱マンコの誘いに後ろから突き刺してやった。瞬間「ヒィーーッ」獣のような叫びが響き渡った。


 「凄い、凄いわ聖也くんッ。百合子さんとも、こんなふうにやったのね」
 「あぅッ」その瞬間にも、沙紀の中で俺のアレが跳ね上がった。
 「アタシ百合子よっ、どう百合子のオマンコは!」
 沙紀の膣がオレを締め上げてくる。同時に頭に血が昇っていった。
 「あぁんブルブル震えてるわ、逝きそうなの?」
 「くッ!」
 「ダメよ、あの人のはもっと凄かったわ」
 しかし、俺の限界はそこまでだったのだ。
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 先日の月曜日、沙紀は仕事を休んで、あの百合子さんに会いに出掛けていたのだった。
 その事を告げられた俺は、脇の下に冷たい汗が流れるのを感じていた。
 俺は、沙紀に緊張を悟られないように「でも、百合子さんは忘れ物を渡すだけの為に沙紀を呼び出したんだろ。なのにどうして俺に内緒でって…」と口にしてみたが、頭の中はあの野天風呂での過ちが渦を巻いていた。百合子さんには魂胆があって、沙紀に何かを告げようと考えたのだろうか。


 「あのね、忘れ物はアタシのショーツだったの」
 「ショーツ?」
 「そう。ほら、野天でアタシが気を失った時、裸のままだったでしょ。それを勝野さんと百合子さんが介抱してくれて、脱衣場まで運んでくれてたの」
 「ああ、分かる」
 「ブラもショーツも寝てるアタシには着せられないから、浴衣だけを羽織らせてくれたんだよね」
 沙紀の説明に、その場面がイメージとして浮かんできた。確かに下着を着せるより、浴衣を羽織らせれば事が足りてしまう。と、考えてみたところで、別の事を思いついた。百合子さんは俺と分かれた後、脱衣場でご主人が沙紀を連れて来るのを待っていたのだ。いや、湯船の方に戻って、二人で沙紀を運んで来たのか。けど、どちらにせよ、あの時のショーツを部屋で渡すのを忘れて、持っていたという事か。それをこのタイミングで沙紀に連絡してきた、それでこの話はおしまい、で良いのか?いや、おそらくそんな事はないだろう。しかし、沙紀には余計な事は云えない。ますます脇の下が濡れてくる。


 「でもね、ショーツの話だけじゃなかったの」
 俺はその言葉に、ゴクっと息を飲んでしまった。
 「あのね、百合子さんに責められたの」
 「責められた!?そ、それはどうして…」
 「うん、もうハッキリ云っちゃうね」と、沙紀の目が吊り上がった、ように観えた。
 「百合子さんが云うには、あの野天風呂で聖也くんに迫られて関係を結んだって」
 「えっ!そ、そんな事を…」
 「嘘なの?百合子さんが嘘を云ったの?」
 「いや、それは、だから…」
 「向こうから聖也くんを誘惑してきたの?」
 「そ、そう…」だよ、と続けようとしたが声が上手く出なかった。沙紀を見れば、疑わしそうな目を向けている。


 「アタシね、逆上せて頭がボォっとしてたけど、目は少し開いてたの。裸を勝野さんに見られてるのも分かってたけど、身体が動かなかったの。でも、横目で向こう側を見たら、そこで聖也くんがね」と、沙紀の声が震えを帯びてきた。
 「百合子さんに覆い被さっていくところだったの」
 「あっ!」
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 「そ、そんな状態だったのか…」
 「そう、それでアタシ…聖也くんが最後まで行くところを見てたのよ」
 「ご、ごめん!」俺は咄嗟に謝っていた。
 その後には、沈黙がやって来た。結婚してから初めて感じる重い重い沈黙だ。


 いつまで続くか分からない暗い時間だったが「でもね」沙紀が先に沈黙を破った。
 「アタシもね、間違いを起こしてたの。勝野さんとね、セックスしたの」
 「なにぃっ!」
 「うん、聖也くんが百合子さんと分かれてから、アタシ起き上がろうとしたのね。勝野さんが直ぐに『大丈夫なの』って屈んで顔を覗き込んできたわ。その時、勝野さんのアレが直ぐそこに見えて」
 「ああ…」アレだ、と頭の中で声がした。
 「ソレを見た瞬間、なぜだか意識がすーっと吸い寄せられて、見るとビクンビクンて跳ね上がってて、それに呼応するようにアタシの心臓がドクンドクンて鳴り出したの」
 「そんな事が…」
 「でも本当なのよ」
 「わ、分かったから…続けて」
 「いつの間にかアタシ、ソレをじっと見てたわ。勝野さんが腰を突き出してきたら、導かれるようにソレに手を伸ばしたの。そうしたら『奥さん、触ってみますか、いいですよ』って」
 「勝野さんがそんな事を…」
 「うん『初めて見るでしょ、真珠を入れてるんですよ』って。それを聞いた瞬間、ゴクって喉が鳴っちゃったの。たぶん、一瞬にしてアレに魅入られたのね。アソコが濡れてくるのが分かって、挿れて欲しくなったの」
 「ああ…」
 「勝野さんはね、アタシの様子から察したのか、腕を取って引き上げたの、分かる?」
 「い、いや…」
 「アタシを股間の前で跪かせたの」
 頭の中に、巨体の前で傅く沙紀の姿が浮かんできた。


 「アタシ、恐々と握ってみたの。ゴツゴツした手触りが初めてで、硬さも太さも初めてだった。気が付いたら観察するみたいに弄ってたの」
 「そ、それで…」
 「ええ、勝野さんが『欲しいんだろ、んっ?』って諭すような声で云ったの。その声が頭の奥に染み渡って行く感じがして、アソコがジーンとしたの」
 沙紀の表現には、何とも言えないリアルさを感じていた。なぜか俺のアソコが硬くなって来る。


 「勝野さんが『奥さんはいつも、どんな格好でやってるのかな、好きな格好を云ってみなさい、ご主人は百合子と犬の格好でやってたみたいだね』って」
 沙紀の言葉にガツンと頭を殴られた気になった。
 「それで、沙紀は…云ったのか…」
 俺の問い掛けに、沙紀の顔が申し訳なさそうにコクリと頷いて「前からとか、上からとかも好きなんですけど…」
 「…けど?」
 「けど、犬…犬の格好でして下さいって…云っちゃったの」
 「うううっ、ほ、本当にか」
 唸り声を上げた俺の前で、沙紀の顔が呆けた様になっていた。その顔は、魂が遠くを彷徨うような顔だった。
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 会社の後輩から、沙紀が品川駅で黒髪の美人と会っていた、と聞かされたその日の夜、家に帰ったのは夜の8時を少し過ぎた頃だった。
 俺の帰宅時間は、概ね7時から8時といったところで、会社を出る時にLINEをするのが、一種の決まりになっていた。
 沙紀は俺の帰宅時間によって、先に夕飯を食べる事があれば待ってる時もある。今夜の沙紀は、既に夕飯を終えていて、ダイニングテーブルには俺の分だけが用意されていた。


 「お帰りなさい、先にお風呂入るでしょ。お夕飯は温めておくね」
 いつもと変わらない様子の沙紀だったが、俺の目は沙紀の表情を観察するように窺っていた。
 マンションは3LDKで、俺は書斎にしてる部屋に鞄を置くと、まずは風呂に向かった。
 湯船に浸かって考える事と言えば、今日の後輩の話を沙紀にどのように話すかだ。
 品川の店でお茶をした事など大した事ではない。まして相手は女性なのだし。それよりも俺に内緒で仕事を休んだ事だ。そしてそれを、前日にも、その日のうちにも何一つ話さなかった事が気になっているのだ。


 浴室を出ると、そのままリビングに行った。ダイニングテーブルには、温め終えた料理が乗ってある。沙紀はソファーに座って本を読んでいる。チラッと見えた背表紙は『自己啓発もの』の類のようだ。
 俺は沙紀の横顔をチラチラ覗きながら食事を進めた。テレビは点けっぱなしだが、頭には何も入って来ない。


 「聖也くんさぁ」
 俺が箸を置いたのとほぼ同時に、沙紀が本を閉じてこっちにやって来た。
 「今日はどうだった、忙しかった?」と、云いながら前の椅子に座る。
 沙紀の顔は、いつもの愛らしいものだった。しかし俺の顔は、強張っていたかもしれない。
 「あれ、何かあったの、それともお疲れ?」
 沙紀のその声に背筋が無意識に伸びて、俺はふうっと息を吐いた。
 「あのさぁ、聞くけどこの間の月曜日、仕事休んだ?」
 いきなりの俺の言葉に、沙紀の表情が一瞬にして歪んだ。沙紀の長所の一つはこういうところで、直ぐ顔に出るのだ。


 「どうして…何で知ってるの」
 沙紀のその情けない声に、俺の方も情けない気分になってきた。
 「後輩の奴がね、たまたま仕事で品川に行ったらしいんだわ。そうしたらそこで、ね」
 「ああ…アタシを見かけたのね」
 「そう言う事」あきらかに沈んだ声が、抜けるように落ちていく。
 「女の人と会ってたんだろ。それはいいんだよ。どうして、前の日に休むって云ってくれなかったのかな。俺としたらそっちの方が何か腑に落ちないんだよね」
 「ごめんなさい」
 沙紀の顔に影が落ちて黙り込んだ。ここまで暗いリアクションだとすれば、その相手にこそ問題があったのかと思ってしまう。
 「その女の人って何者?まさか怪しい投資詐欺の話じゃないよね」
 俺も詐欺の話なんて、これっぽちも思っちゃいない。沙紀は軽いところがあるが、猜疑心は強い方なのだ。冗談で沙紀の暗い顔色を変えようとしたのだ。しかし。
 「あのね…百合子さん」
 ポツリと零れてきたその名前は、直ぐには頭の中に入って来なかった。
 「百合子…」と無意識に呟いた時、記憶の奥から、あの姿が浮かび上がってきた。修善寺の野天風呂で痴態を曝していた女性。そして、俺が過ちを犯した相手だ。
 「思い出した?」
 窺うような声質に前を向けば、沙紀の何とも言えない目が俺を見詰めていた。
 俺は「ああ…」覚えてる、と呟いた。


 暫く時間の流れが止まったような感じがしていた。点けっぱなしのテレビの音は、相変わらず耳には入ってこない。
 俺はコホンと咳払いを1回して「修善寺の温泉で会った人だよね」と、落ち着いたつもりで訊いてみた。
 「そう、あの百合子さんから連絡があったの」
 「連絡?ちょっと待って、何で沙紀の連絡先を知ってるんだ?」
 「ああ、それはね、宿の人から聞いたんだって」
 「宿?どういう事だ」
 「百合子さんがね、アタシの忘れ物を持ってたの」
 「忘れ物?そんなのあったの」
 「うん、それを渡すのに、連絡先が分からないから宿に電話したんだって」
 「そんな事があったのか」
 「そう、宿の人もアタシ達が一緒に夕飯を食べてたのを知ってたし、仲良さそうに見えたから連絡先を教えたみたい」
 「そうだったんだ」
 「ほら、予約した時、連絡先にアタシのメアドと携帯番号を書いといたから」
 「それでメールが来たんだ」
 「ううん、電話があったのよ」
 「電話か、で、いつあったの」
 「日曜日」
 「なるほどね。でも、俺に黙ってたのは何が理由だったの」と聞いてみたが、心の何処かでは、この話は早めに打ち切った方がよい、そんな悪い予感が芽生えていた。
 「実はね…その時、百合子さんから、聖也くんに内緒で来てって云われたの…」
 沙紀の言葉に俺は、脇の下に汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
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 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。
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  朝食の時間が、思い掛けない事に沙紀の告白、いや回想の時間になってしまった。沙紀は箸を持ったままで、夕べの深夜の出来事を話し始めたのだ。
 「そう、夜中にアタシ目を覚ましたのよ。聖也くんはね、ソファーで鼾かいて寝てたわ」と沙紀が笑う。
 「電気を消して、アタシももう一度寝ようとしたんだけど、聖也くんの鼾がうるさくて眠れなくてさ」と、又も笑う。


 「それで風呂に行く事にしたんだな」
 「うん、聖也くんも誘おうと思ったんだよ。でも、気持ちよさそうに寝てたから」
 「ああ…」
 「それで結局、一人で行く事にしたの」
 「分かった。それから」
 「行ったらほら、貸し切り状態だから、使いたい放題で泳いだりしてたのよ」
 「なるほど、それは露天の方で?」
 「そうそう、それから野天風呂の方に行く事にしたの」
 「野天に行く道って怖くなかった?」
 「ああ、そうねぇ、ちょっと不気味な感じはしたかな。でも、ふふっ、素っ裸で歩くのが何だか楽しかったわ」
 沙紀らしいやと思って、俺はぎこちなく笑う。


 「それでどうだったの、野天風呂は」
 「そうねぇ、その辺りの記憶が曖昧なんだけど…」
 沙紀を見る俺の目が鋭くなっていく。
 「そうだわ、アタシね、野天の湯船でいい気持ちになって、ウトウトしちゃったんだ」
 「それは自分で気付いたの?」
 「えっと、どうだっけか、ちょっと待って」
 沙紀の目が宙をさまよった。何かを思い出そうとしている。
 「…誰かに起こされたとか」
 「そうだ、勝野さんだわ」
 その言葉に、俺はそっと頷いた。
 「そうなの、湯船に浸かってたら勝野さんが入って来たのよ」
 「勝野さんが沙紀より後に入って来たの」
 「あれっ、どうだっけか、でも野天ってそこそこ広いし、湯気もモワモワしてたし、気づかなかっただけかもしれない」
 「それはそうだよな。で、沙紀は勝野さんと話をしたんだろ」
 「うん、湯船に浸かってたら背中の方から『奥さん』って声を掛けられたのよ」
 「それで」
 「アタシ、びっくりしたんだけど『勝野です』って、湯船の中をスーッと近づいて来たのよ」
 「それでどうしたんだっけ。百合子さんはいないんですか、とか訊かなかったの」
 「そうそう、向こうから『ご主人は?』って聞いてきたんだ」
 「なるほど。で?」
 「部屋で寝てますって云ったら『うちのもです』って勝野さんが云ったんだ」
 「沙紀はその時、ヤバいって思わなかった?」
 「うん、思った。それでね、勝野さんがよいしょって、縁(ヘリ)って言うのかな、そこに腰掛けたのよ」
 「沙紀は浸かったまま?」
 「そう、首まで浸かってたの。それでね、アタシの視線がちょうど勝野さんのアソコだったの」
 「分かる。目の前にアレがあったんだな」
 「大きかった。それにやっぱりゴツゴツしてた」
 「ああ、そうだな」
 「うん、ソレを見てたらね、ズーンと気持ちが惹きつけられていったの…」
 「魅入られたって事か」
 「そう、そんな感じ…」
 「で?」
 「えっ!?」
 「それからどうしたの、何かあった?」
 「ん~その辺の記憶がまだ曖昧なんだけど…」
 「逆上(のぼ)せてたんだな」
 「たぶん…でも、裸を見られた記憶はあるわ。うん、思い出してきた。恥ずかしい気持ちも覚えてる。ひょっとしたらアソコも見られたかもしれない。それとね、ああっ!」
 「どうした!」
 その時、俺を見る沙紀の目が、すうっと沈んでいった。
 「ど、どうしたんだ沙紀」俺の声が震えを帯びている。


 沙紀の目がトロンとして、顔全体も能面のように表情が消えて「あのねぇ、誰かが…」と云いかけて「やっぱり違うわ」と、急に顔付きが元に戻った。
 「大丈夫かよ、沙紀」
 「へ?んん…ねぇ、聖也くんはアタシの裸を見られたのがショック?お尻とかアソコとか見られたかもしれないわよ」
 沙紀の言葉に、一瞬息が止ってしまった。
 「でも聖也くんも、百合子さんの裸見てるもんね、オッパイもお尻もアソコだってね」と、沙紀が作り笑いの顔だ。
 口を閉ざしてしまった俺だったが、自分にも言い聞かせるように「やっぱり朝っぱらから、この手の話はマズイよな」と告げて、食事を進める事にした。だが、二人の間に微妙な空気が生まれた気がしていた。沙紀もおそらく、そんな気配を察知したのではないだろうか。


 部屋に戻ってからは、二人とも読書をした。今までの旅行のパターンなら、朝風呂に浸かって、もう一度セックスに励んでもよかったのだが、出発の時間になるまで本を読んでいたのだ。
 結局、勝野夫妻とは顔を合わせる事はなく、昼前には次の目的地に向った。ここから更に奥に入った湯船集落だ。
 しかしそこでも、俺達夫婦の間は、どこかよそよそしいものになっていた。冗談があり、笑いもあるのだが、急に空気が変わる時があったのだ。そしてそれは、横浜に戻ってからも暫く続くのだった。
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 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。

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 野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
 あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
 そして沙紀。
 裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
 暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
 俺はハッと我に返り、立ち上がった。


 「ごめんなさい、夜分に」
 ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
 ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。


 「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
 その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。


 「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
 そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
 「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
 ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
 「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
 「そうだったんですか」
 「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
 「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
 「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
 「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。


 「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
 「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
 「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
 「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」


 俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
 その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
 「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。


 「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
 「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
 俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
 「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
 二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
 浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
 しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。


 それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。
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 野天の大きな湯船を挟んで、向こう側では沙紀が、こちら側では俺が、互いに裸体を曝していた。
 沙紀は逆上(のぼ)せ上がったのか、身体を安静に寝かされているようだ。その横では、勝野さんが沙紀の身体を見下ろしている。
 俺の方はといえば、先ほどから百合子さんの口技を受けとめているところだった。


 ナメクジのような舌は、俺の先っぽを舐め、裏側を刺激し、そして唇に含んだまま奉仕を続けた。
 意識の奥では、自制心と快感が交互に混ざりながら繰り返されていた。


 百合子さんが咥えたまま顎を引き、上目遣いに見詰めてきた。俺の高鳴りが更に増して行く。
 そのタイミングで、プハッと硬直したペニが吐き出された。
 見下ろす白い身体が、背中を向けたかと思うと四つん這いに形を変えた。


 「聖也さん、お願い…」蜜を塗(まぶ)したような甘ったるい声だ。
 それでも戸惑う俺を察したか、百合子さんが四つ身の姿勢から後ろに手を伸ばして、俺の手首を掴んだ。
 「あの人達の事は、今は気にしないで」
 「でも…」
 「お願い、早くしないと…」気づかれる…と聞こえた気がした。
 「ねぇ、これ以上恥を掻かせないで」
 その懇願するような響きに、俺の中の何かが弾け飛んだ。
 見れば夜空に浮かぶ満月のような丸い尻が、更に突き上がっていた。百合子さんが果敢に淫部を曝したのだ。
 気付いた時には、俺のペニスは破れ目の奥の泥濘を探しあて、性急に腰をぶつけていた。
 一度動き始めた腰は、何かに取り憑かれたように振り続いた。
 百合子さんは声を押し殺していたが、ついに「あぁっ、こんな女のアソコもいいもんでしょ」と、感泣の声を上げた。
 「ううっ、し、締まりが、凄いっ…」
 「聖也さんも凄いわぁ」
 しかし我慢の限界が近づいていた。
 「うっ!」
 射精と同時に、身体が突っ伏すように四つ身の身体に覆い被さった。


 逝った後は、暫く互いの荒い息が聞こえていた。
 やがて理性が働き、俺は身体を起こすと怖々と後ろを振り返った。
 向こう側ではいつの間にか、勝野さんが大きなタオルで横たわる沙紀を仰いでいる。足元には木製の桶が置かれてある。水でも汲んで来たのだろうか。


 「大丈夫よ、あっちの二人は気づいていないわ」
 百合子さんが云い聞かせるように呟いて立ち上がった。その手は、二人の浴衣を丸めようとしている。
 「さぁ、行かないと」
 俺に浴衣をそっと渡し、百合子さんは自分の浴衣を抱えるようにして背を向けた。
 俺はチラリと沙紀達を覗いたが、逃げるようにその場を離れてしまったのだった。


 脱衣場まで戻り着いたところで、息を大きく吐き出した。まだ心臓の音が鳴ってる気がして、もう一度深呼吸した。
 浴衣を着て廊下に出れば、来た時と同じでスポットライトが何もなかったかのように『男湯』『女湯』の暖簾を照らして、静寂を演出していた。


 百合子さんは既に、部屋の方へ戻ったのだろうかと考えたが、身支度に時間が掛かるのは女性の方だと思い返して、その場から急いで立ち去ったのだった。
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 男湯の暖簾を潜った俺。
 脱衣場の籠には、浴衣が一式収められていた。間違いなく勝野さんが着ていたものだろう。
 俺も一瞬、着ている浴衣を脱ぎかけたが、裾だけを捲って中へと入って行った。


 大浴場は奥の一面ガラスの向こうの庭が、見事にライトアップされていた。しかしここには、勝野さんの気配は窺えなかった。俺は、奥の露天風呂に続く扉に向かう事にした。


 扉を抜けると、一瞬風の通りを感じた。それを心地よく感じながら露天に近づいた。そこはライトに照らされ、水面が輝いて見えた。しかし、肝心の勝野さんの姿はここにもない。倒れている人影もない。
 「となると、野天の方だな」呟きを漏らして、奥へと進む事にした。


 昼間も感じた事だったが、露天風呂から野天風呂に向かう道は狭くて頼りないものなのだ。灯りはあるが、それもまた頼りない。
 秘境の奥深さを感じながらも足を進めて、やがて湯気の立つ場所に出た。
 足元に気をつけながら、もう少し進む。
 湯船の端、岩場の辺りに来た所で、一旦俺は屈んだ。視線を巡らせれば、あの辺りだったかと、昼間に沙紀と腰を着けてた所に検討をおいた。
 そこから前に3、4メートル向こうの辺りが、勝野夫妻が男女の交わりを披露していた所だ。
 そんな意識が働いた瞬間、目に映った光景に身体の体温が急激に上がった。そこに二人の裸体があったのだ。一つは巨体、間違いなく勝野さんだ。そして、仰向けに横たわっている白い肢体は沙紀だ。そう、死体のような肢体だ。


 俺の身体が、フラフラと立ち上がろうとした。
 と「聖也さん」小さな声が聞こえた。
 瞬間、俺は声を上げそうになってしまった。反対側から、浴衣の裾を捲って百合子さんがやって来るのだ。


 「ど、どうしたんですか」近づいて来た百合子さんに小声で訊いた。
 「やっぱり心配なんで、来ちゃいました」と云って、百合子さんが俺の横で屈む。
 「酔いはもう、大丈夫なんですか」
 「はい…」


 俺は隣に屈んだ百合子さんの顔を、シゲシゲと見詰めた。確かにアルコールが抜けた感じはする。
 そこで直ぐに、視線を前へ向け直して「あっち…」と呟き掛けた。
 「ええ、私も気づきました」
 「まずいですよ、声を…」と云いかけた途中で「少し見てましょうよ」と、百合子さんが岩場の影に俺を引っ張った。
 俺は驚いて百合子さんの目を見詰めた。その目が鈍い光を放ってる、ように観える。


 「うふふ」百合子さんが屈んだまま、唇を歪めている。俺は物の怪の気配を感じてか、背筋がゾクリと震えた。
 その震えを振り払うように頭を振って、岩場の影から半身を出して前を向いた。見れば勝野さんが、沙紀の頬をペチペチと叩いている。一体何をしているのだ。


 「沙紀さん、逆上(のぼ)せちゃったのね」
 その声に俺は隣を向いた。
 「ふふふ、想像してるでしょ、聖也さん」
 又も百合子さんが名前で呼んで、俺に身体を寄せて来た。そしてなんと、白い手で俺の浴衣の胸元を割って侵入して来たのだ。


 乳首に触れられると、心臓の音が鳴り始めた。
 更に白い指先は下に、股間に向かい始めた。
 「あら、パンツ穿いてたのね。アタシは…」
 俺は百合子さんの視線から逃げる事が出来なかった。百合子さんが自分の浴衣の帯びを解き始めているのだ。


 風の音も木々の揺れる音も止んでいた。その静寂の中で百合子さんが立ち上がると、同時に浴衣が足元に滑るように落ちていった。
 露(あらわ)になった裸体に、俺の喉がゴクリと鳴った。屈む俺のちょうど目の前、百合子さんの恥毛の剃り跡に薔薇の刺青を見たのだ。
 これは現実なのか、幻夜の中ではないのか。
 そんな思考の中、直ぐそこで百合子さんが、自分の身体を自分の手指で、擦るように動かし、撫で始めた。
 手指は決して大胆ではなく、繊細なものにでも触れるように動き続けた。百合子さんの表情も、羞恥に堪えている顔だ。


 「ねぇ、聖也さん、あなたも脱いでくれないとアタシだけじゃ…」
 俺の身体は硬直していたが、顎だけがコクコクと上下した。
 百合子さんが屈む俺の手を取った。身体が浮かぶように立ち上がる。その俺の浴衣の帯を、白い手が解き始めた。


 「お願い、女に恥を掻かせないで下さいね」
 気が付いた時には、俺達二人は裸のままで抱き合っていた。腕の中で、百合子さんが甘えるように俺の胸に顔を埋めている。
 しかし直ぐに、百合子さんの手が俺の背中から尻、そして下腹部へと動き始めた。
 俺の愚息が正直な反応を始めた。百合子さんはソレを、翫(もてあそ)ぶように弄くり回していった。その手管は今まで感じた事の無かったものだ。そう、沙紀には無かったものだった。そんな俺は、何とか視線を前に向けた。
 目に映るのは、あい変わらず横たわったままの沙紀と、それを介抱する巨漢の男だ。いや、見下ろしているだけかもしれない。そこまで意識が働いたところで、愚息に新たな刺激が伝わってきた。
 百合子さんがしゃがんで、俺のソレに唾液を塗(まぶ)し、喉の奥へと咥え込んだのだった。
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 ソファーで座ったまま眠りに落ちていた俺は、コツンという音に目を覚ました。窓に風で何かが飛んで来て、当たりでもしたのか。
 瞼がゆっくり開くと、点けっぱなしだった筈の電気が、常夜灯に変わっている。電気が点いた状態で本を読もうとしたわけだから、それは間違いない。薄闇の中、目を凝らして渋い掛け時計を見れば、まだ11時。そう、旅先ではまだ宵の口だ。


 俺は腰を上げたところで気がついた。沙紀がいない。
 トイレかそれとも部屋の浴室か、そう思いながら寝ていた筈の布団の方に足を運んだ。部屋の電気を点けてみるが、沙紀がいる気配はどこからも感じない。
 という事は?
 そこまで考えたところで、少しずつ頭の中がクッキリとしてきた。
 部屋の中を見廻せば、着替えた様子もない。沙紀は浴衣のまま部屋を出たのだ。
 この宿に売店なんかあったか?うん、あった。けど、この時間は閉まっている筈だ。
 まさか又、庭に出たのか。


 窓を開けて、身を乗り出しながら隣を覗いて見る。隣の勝野さんの部屋は、カーテンが閉まってるようだか、隙間から微かな灯りが漏れている。
 ひょっとしたら…。
 そう思った時には、身体は部屋の外へと向かっていた。


 部屋を出てみれば、廊下は薄暗い。
 大きな旅館なら、24時間あらゆる所で電気が点いているだろうが、この宿なら仕方ない。
 回廊を渡って勝野さんの部屋の前に立ち、ノックをしようとした、その時だ。
 カチャっ、音がしたかと思うと、向こうからドアがすうっと開いた。細い隙間から顔を覗かせたのは百合子さんだ。


 「あ、ちょうど良かった。ひょっとして沙紀の奴、お邪魔してませんか」
 小声で尋ねてみると、百合子さんは黙ったまま顔を振って『こっちへ』と唇だけを動かした。
 ん?と思った時には、手首が百合子さんに掴まれていた。その百合子さんからは、ぷぅんとアルコールの匂いだ。食事処から戻ってからも、飲み続けていたのか。


 部屋の踏込まで入ると直ぐに「聖也さん、ドアを閉めてこっちに」と、耳元で囁かれた。
 名前で呼ばれ、そして艶のある声を吹き掛けられて、俺の心臓が音を立て始めた。その鼓動を押さえ付けるようにか、百合子さんが抱きついてきた。いや、胸の膨らみを押し付けてきた。
 この展開は…心臓の音が更に激しく聞こえて来た。


 「ゆ、百合子さん、どうしたんですか」俺も又、名前で呼び掛けていた。
 百合子さんは抱きついたまま、顔を上げて「主人がいないんです。私がウトウトしてる間に、何処かに行ったみたいなんです」又も艶のある声がそう告げて「ひょっとしたら野天の方かもしれない」と続けた。
 「うちの…」沙紀も、と云おうとしたが止まってしまった。百合子さんが今度は、俺の手を握ったのだ。


 「聖也さん、主人がいないか見て来て頂けませんか、私まだ、酔ってるみたいなんで…」
 俺は改めて百合子さんを見た。俺を見上げる目は、潤んでいて宝石のように輝いて観える。胸の奥で何かがキリキリと鳴った。
 「わ、分かりました、ちょっと見て来ます」
 「お願い、お風呂で倒れてなければいいんだけど…」
 百合子さんの言葉を背中に受けながら、俺は部屋を後にした。
 暗い廊下を進みながら、百合子さんの言葉を考えた。確かに酔ったまま温泉に入れば、脳卒中なんかを起こしてもおかしくない。
 それと沙紀だ。勝野さんの部屋にいなかったとなると、考えられるのは温泉しかない。はたして二人は一緒にいるのだろうか。気づけば歩く速度が増している。


 大浴場の入口では『男湯』『女湯』の暖簾が、スポットで浮かび上がっていた。ここは24時間、電気が点いているのだろう。
 俺は『男湯』の暖簾を潜ろうとしたところで思いついた。女湯の脱衣場に入れば、脱いだ浴衣があるかないかで、沙紀がここに来たか分かる筈だ。しかし、一瞬躊躇した足は男湯の方に向いていた。
 そう、女湯に入るところを宿の人にでも見られたら何を勘ぐられるか分からない。盗撮の仕掛けを疑わられたら、堪ったもんじゃない。そんな事を考えつき、男湯の暖簾を潜ったのだった。
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 庭から部屋に戻った俺達。
 部屋には既に、二組の布団が敷かれていた。


 「沙紀、大丈夫?」
 沙紀の顔はまだ、いくぶん紅いようだ。
 その沙紀は「大丈夫よ」と云うなり布団の上にダイブした。
 「本当に大丈夫かよ」と、俺はもう一度声を掛けて、隣の布団に胡座をかいて座った。


 「ねぇ聖也くぅん、さっきのあれ、やっぱりおかしいよね、飲んでる時さ」沙紀が仰向けに寝たまま訊いてきた。
 「ん?」
 「野天風呂でセックスしてる姿をアタシ達に見せてた人が、本人達の前で普通にお酒飲んで、仕事の話とかをしてるんだよ。それってどう考えてもおかしいよね」
 「そうだな。でも1点違うところは、セックスを見せたんじゃなくて、俺達が偶然に覗いたんだよ」
 「ん~そうかな…見せ付けてた気がするなぁ」
 「まあ、沙紀の方が最初から見てたから正しいかもしれないけど…」
 「そうよ、聖也くんが来た時もやってたんだから。普通は覗かれてるの分かったら止めるでしょ」
 「確かに、云われればその通りだ。あの夫婦にはそういう性癖があるんだな」
 「それとね、やっぱりゴツかった」
 「又その話か」
 「大丈夫、聖也くんのも大きいから」
 「アホ!」
 「ふふっ。でね、勝野さんのアレって禍々(まがまが)しいっていうのかな、歪な感じだったわ」
 「ソレを百合子さんが難なく飲み込んだんだよな」
 「そう、何だか夢に出て来そう…」
 「ん、眠い?」俺は沙紀の顔を上から覗き込んだ。
 その俺の顔を見上げながら「ねぇ聖也くぅん、アタシ眠っちゃったらさぁ…犯してぇ」沙紀が呟いた。


 沙紀は時々、変わった事を口にする。以前『仕事から帰って、アタシが寝てたら後ろから犯してぇ。うつ伏せにして、ショーツ下ろしたら口を押さえて犯(や)って』などと云った事があったのだ。
 そういえば逆もあった。俺が寝てる時に、俺のパンツを脱がせてシャブって来たのだ。そして、俺のソレが硬くなったところで自分で挿入したのだ。俺は激しい揺れに眼を覚ましたが、沙紀は絶頂を迎える寸前に『変態、変態、変態ーーッ!』と、叫びを上げていた。あれはおそらく、自分に向かって云ったのだ。
 と、沙紀がもう、落ちる寸前だ。
 沙紀はさっき『犯して』と云ったが、俺は一旦立ち上がると、こっちの掛け布団を沙紀の腹の上に掛けてやった。
 俺の方も酒が入っていたが、昼寝をしたからか睡魔はそれほど感じていない。沙紀は旅の疲れと、アルコールが効いているのだ。夜中に起き出すかもしれないが、そのまま寝かせてやる事にした。


 ソファーに腰を降ろして、俺は暫くボォっとしていたが、本でも読もうとキャリーケースに向かった。
 意外な事に、俺も沙紀もスマホゲームは殆どやらず、もっぱら読書なのだ。これまでの温泉旅行でも、やる事といえば、観光、温泉、セックス、読書、セックス、温泉、そして又セックス、こんな感じだった。
 因みに俺がよく読むのは、時代小説と呼ばれるものだが、沙紀はミステリーが好きで、たまに何と自己啓発ものなんかも読んだりしている。
 『自己啓発もの』と沙紀のイメージは結び付かなかったが、外科医との不倫で自己嫌悪に陥っている時に、読むようになったらしい。それらの本を読んでる時の沙紀の横顔は、どこか心理学者を思わせる事があった。


 本を読み始めてはみたが、直ぐに俺は欠伸をするとソファーの背もたれに体重を預けて伸びをした。
 沙紀からは微かな寝息が続いている。
 俺はもう一度目を瞑った。瞼の裏に、昼間の出来事を反芻してか百合子さんの裸体が浮かんできた。身長は沙紀と同じ160ぐらいだろう。年齢は勝野さんよりは少し下だろうし、40前後か。歳の割には、胸の膨らみも尻の張り具合も素晴らしかったと記憶している。
 それと刺青だ。沙紀が見たと云った股間の刺青とは、ヘソの下辺りか、それともモロにその部分に施されていたのか。そして、ソレを入れる事になった経緯、それは何か…。そんな事を妄想してしまうと、フツフツと得体の知れない高鳴りが湧いて来る。
 ひょっとして、百合子さんは高級料亭の女将、あるいは銀座辺りの高級クラブのママをしていて、勝野さんに見初められたとか。その勝野さんには変態チックな性癖があって、アソコに刺青を施した…そして、踝の刺青は何かの番号だったりして…と、夢想しているうちに眠りに落ちていったのだった。
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 見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
 そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
 「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
 勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。


 「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
 「あなた、まだその話を続ける気ですか」
 「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
 「あなたっ、だから」
 「分ってるって」
 そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
 合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。


 「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
 百合子さんの声に我に帰った。
 「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
 「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
 「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
 俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
 「えっ、接待ですか」
 「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
 「それは…ご苦労様です」
 俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。


 食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
 「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
 そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
 沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
 「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
 俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
 「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
 「なにっ、本当に見たの!」
 「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
 「マジか…」
 「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
 「向こうは見せる気だったのかな」
 「たぶん」
 「そ、そうか、それで…」
 「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
 「ああ…」
 頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。


 その時。
 「聖也くん、あそこ」
 「ん?」
 俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。


 「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
 「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
 「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
 「そうだね、でも」
 「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
 「いゃん!」
 沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。
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 勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
 不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
 そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。


 「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
 「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
 「うん、彼等は現金で買うんだよね」
 「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
 「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
 「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
 「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
 勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。


 「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
 「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
 「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
 「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
 「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
 「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
 「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
 勝野さんの言葉に皆が笑った。


 「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
 百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。


 「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
 勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
 「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
 沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
 「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
 勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
 「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
 その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。


 「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
 「い、いえ」
 「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
 そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
 俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
 目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
 百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。
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 食事処で、俺達の斜め前の席に座っていた奥さん。その奥さんの浴衣の裾が乱れて、足首から脹脛(ふくらはぎ)までが露(あらわ)になっていた。足首の踝(くるぶし)辺りに、痣のようなものがある。俺は、その紅い華のような印に魅入っていた。
 薔薇かな、そう思った瞬間「あ痛たぁ」もう一度奥さんから声がした。
 奥さんの前では、男が何も言わず黙ってニヤついている。男の目は俺を見てる?そう思ったタイミングで「ご主人、いい顔色になってきましたね。どうですか、良かったらご一緒に」そう云うと続けて「ねぇ奥さん」と沙紀に顔を向けた。


 沙紀は呼び掛けに、斜め後ろを振り返った。
 「ええっ、そうですねぇ…」
 その生返事に、男の目がニコリとした。確かに沙紀が云ってた通りのタレ気味の優しそうな目だ。


 「じゃあ、こっちのテーブルをくっ付けるか」
 云うと直ぐに、男の腰が上がっていた。男は赤ら顔のままテキパキとテーブルを寄せると、空いた皿を端に寄せて台布巾で拭き始めた。
 俺は男の動きに釣られるように自分のグラスに手をやって、腰を浮かせていた。それからあっという間に、小さな宴席が出来上がった。


 俺は奥さんの隣に、沙紀は男の横に腰をおろして、向き合う格好で席に座った。
 奥さんは暫く痺れた足を揉んでいたが、今は横膝で座っている。踝(くるぶし)辺りにあった薔薇の模様を確かめたい気持ちはあるが、ここでシゲシゲと見るわけにはいかない。
 男の方は追加のビールを注文している。
 新しいジョッキは直ぐに来た。
 「じゃあ、改めて乾杯しましょうか」男がジョッキを持ち上げた。
 4人がそれぞれ、ジョッキを手にしたところで「乾杯」と声が上がった。


 プハッと男が半分ほど飲み干して「そうだ、自己紹介まだでしたね。私、勝野志郎といいます。これは妻の百合子です」
 ご主人ーー勝野さんの声に、俺達は姿勢を正して「はい、実は仲居さんから、お名前だけは聞いてました」と、ペコリと頭を下げて「僕は、砺波聖也といいます。こっちは妻の沙紀です」と、もう一度会釈した。
 勝野さんは、俺の挨拶を笑みを浮かべて聞いていた。


 それからの4人は、料理の品評をしながら、時おり勝野夫妻が宿の良さを我が事のように俺達に聞かせた。
 酒のペースは、勝野さんが1番早かったが、顔色の割には酔ってる感じはしなかった。百合子さんは口数も少なく、酒は飲んでいたがハメを外す感じではなかった。ひょっとして、野天での行為を今になって思い出しているのか、等と考えてしまうのだった。
 俺は勝野さんのペースに負けないように無意識に意地になっていたのか、飲むペースが上がっていた。沙紀の方も何かに後押しされたのか、ジョッキを口に運ぶ回数はいつもより多かった。
 話題はやがて、お互いの住まいや仕事の事になっていった。


 「そうなんだ、横浜なんですね。私達は品川だから、それほど離れてる感じはしないね」
 勝野さんの声に俺は「はい、僕は北陸の出身なんですけど、今は妻の実家の近くに住んでます。仕事も、僕も妻も横浜なんですよ」と、口調が滑らかになっていた。
 「職場も横浜ですか、因みにどんな」
 「はい、不動産会社です。妻は貿易会社の事務なんですが」
 「ああ、偶然ね」隣から奥さん、百合子さんの声がした。
 「主人も不動産なんですよ」
 「あ、社長さんですか」と沙紀の声だ。その声の大きさに、3人の視線が一斉に沙紀に向いた。
 「ごめんなさい、貫禄があるから絶対そうだって…」
 沙紀の言葉に俺の中では同意の声が上がっていた。
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 沙紀が散歩で、野天風呂の男と遭遇した話に聞き入ってた俺の鼓動は、ノックの音に一瞬身体が跳ね上がった。
 はい、と返事をする前に「ごめん下さいませ」と仲居さんの声がした。
 沙紀が「はぁい」と、部屋のドアに向かう。俺は慌てて畳から身体を起こした。


 「お夕飯ですが、もうじき準備ができますけど、どう致しますか。お部屋?それともお食事処で?」
 ああ、部屋で、と云おうとした時「お食事処でいいよね、聖也くん」と沙紀が振り向いた。
 俺は圧されるように「そ、そうだな」と答えていた。
 「じゃあ、6時には御用意しておきますね」
 そう云うと、仲居さんは出て行った。


 その後もたわいもない話をしていた俺達だったが、部屋の渋い掛け時計が、6時を少し過ぎたところで腰を上げた。
 二人で浴衣の乱れがないか、身だしなみを確かめあう。
 「さっ行こっか」俺は声を掛けながら、沙紀の尻を一撫でして「下着、着けてるよね」と笑った。
 沙紀は軽く睨んで来たが、怒ってる筈はない。小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 部屋を出れば狭い宿だし、食事処までは直ぐだった。俺の頭はあの夫婦がいるかどうか、それだけが少し気になっていたが…。
 食事処の入口まで来た所で、腕に絡む沙紀の手をさりげなく振り解いた。そして、俺が先頭に入口を潜った。
 さて見えたものは、衝立のない10畳程の和室の部屋だったが、奥の大きな窓の向こうには風情ある庭が広がっていた。陽が翳り始めていたが、見事にライトアップされているのだ。俺は一瞬、声を無くしていた。
 この部屋の続きにはもう一部屋、一段高くなって囲炉裏が幾つか、それを囲んで食事が出来るようになってある。
 「いい処ね。実はあの人から聞いてたの」
 沙紀の囁きを耳にしながら俺は、部屋の中へと進んだ。直ぐに右奥の席に、例の夫婦が座っているのが目についた。男がこちら向きに、奥さんの方は背中を向けている。彼等の斜め後ろのテーブル、俺達の席にも既に料理皿が乗ってある。
 俺達二人は男達の方に軽く頭を下げると、自分達の席に腰を付けた。沙紀は男と目が合ったのか、どこか恥ずかしげに笑みを浮かべいた。


 座ると直ぐに、係の人が飲み物の注文をとりにきた。
 迷う事なく頼んだのは、生チューを2杯だ。いつもの俺達のパターンだった。
 チラリと斜め前を見れば、彼等のテーブルには中ジョッキのグラスが4つ乗ってある。かなり速いペースで飲んでいるようだ。
 更に目を凝らして、男の顔を盗み見みる。確かに強面だが、笑うと沙紀が云ってた程ではないが優しそうな顔に見えなくもない。しかし身体はゴツく、腕も太くて胸元も結構な厚みがある。


 ビールが来たところで、軽く乾杯した。俺達の発声には、緊張の空気が纏わりついていた。沙紀の顔を見れば、どこかよそよそしい。
 俺は料理を品定めしながら、彼等にそっと目を向けた。二人はリラックスした雰囲気で、料理の品評をしている。男の声は野太く聞こえるが、奥さんの声は凛としていて落ち着いた声だ。
 その奥さんは背筋をピンと伸ばして、正座までしている。育ちの良さが窺えてしまう。髪はセミロングで、色は今どき珍しく黒髪だ。薄い茶髪の沙紀が、子供っぽく観えてしまう。
 正座する奥さんの足裏に乗った尻は豊満で、熟女の色香を感じてしまいそうだ。野天風呂で揺れてたあの生尻が浮かんでくる。
 その時、こほん、咳払いに前を向けば沙紀が睨んでいた。
 「どこ見てるの」
 沙紀の尖ったような声に、俺はバツが悪そうにゴメンと黙って頭を下げた。


 それから、俺達も料理に箸を伸ばし始めた。
 田舎の宿で料理には大した期待はしてなかったが、どうしてどうして、食通でない俺にも味の良さは充分理解できた。沙紀の方も、美味しい美味しい、と箸が休まる暇がない。


 いつもの早食いのクセが出たのか、俺の料理はあっという間にあと僅かだ。ビールも2杯目が底を突きかけている。
 酒にそれほど強くない沙紀のジョッキも残りはあと少しで、料理も俺につられたのか、今日はペースが早かった。
 俺はゲップを催しそうになったが、なるべく音を小さくガスを吐き出した。その時、斜め前から「あ痛たたっ」奥さんの声がした。
 見ると、奥さんが片手を付いて足を伸ばしていた。正座の痺れがきたのだ。
 俺の目に、浴衣の裾が捲れた間から、奥さんの白い足首から脹脛(ふくらはぎ)の様子までが飛び込んで来た。その瞬間、俺の目はまん丸に拡がったのだった。
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 部屋の天井を見上げながら、野天風呂での出来事と沙紀の話しを回想をしていた俺は、チラリと沙紀の横顔を覗いた。沙紀もまだ、山の景色を眺めながら回想に耽ってる感じだ。
 沙紀の身体を頭の先から下へと舐めるように見廻す。浴衣の腰回りが張ってる気がする。そういえばあの奥さんの尻も、丸くプリッと突き上がってた印象だ。沙紀の尻と似てる気もするが、奥さんの方が丸味がある。熟女の色気か、ひょっとして経産婦か。
 そんな妄想が渦巻き始めた時だ。


 「アタシ、ちょっと散歩して来ようかな」
 「んっ」
 「聖也くんは、どうする」
 「ああ、俺は…なんだか湯当たりした感じだから、もう少し休んでるわ」
 「そう…じゃあ、一人で行って来るね」
 「うん、気をつけて」


 沙紀が部屋を出て行って直ぐに、緊張が切れたのか睡魔がやって来た。運転の疲れと湯当たりが原因だと思う。
 いつの間にやら、俺は夢を見ていたーー。
 禍々しい男の持物。女の丸味を帯びた尻。それらが色んな格好で交わっていた。
 男の物は歪な形だったが、女のアソコは、その歪な物を難なく飲み込むのだ。その女のアソコはパイパンで、その部分には薔薇の刺青が施されていた。それを見詰める俺の横には、いつの間にか沙紀が座って俺の手を握っていた。しかし沙紀は、俺の手を離すとふらっと立ち上がり、彼等が交わる直ぐ側へと寄って行ったのだ。
 彼等の傍らで屈んで、結合の部分に目をやる沙紀。やがて沙紀は、四つん這いになると、繋がるその部分に顔を近づけ…。
 と「聖也くん、聖也くん」どこかで俺を呼ぶ声がしていた。
 瞼がゆっくりと開いていく…。


 「やっと起きたね。凄い鼾だったから、心配しちゃったよ」
 「ああ、ごめん、寝てたわ」
 「うふふっ、可愛らしい寝顔だったよ」そう云うと沙紀が、俺のほっぺにチュッとした。
 「今何時頃だろう。お腹空いた?」俺は寝ぼけ眼で訊いた。
 「夕飯は6時からって云ってたわ。ロビーで女将さんに会ったの」
 「そうか…散歩に行ってたんだよな、どうだった?」
 「うん、良かったよ。それでね、あの人と会ったわ」
 「へ、だれ?」
 「ほら、野天の人」
 「えっ!!」
 その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
 それから又、俺達の話題はあの夫婦の話になってしまった。


 「庭の奥にね、小さいんだけど花壇があって、そこにベンチがあって腰掛けると、そこからの景色も素敵なのよ」
 「そこにあの夫婦もいたの?」
 「ううん、男の人だけ」
 「旦那の方だけ?」
 「うん、後ろから声を掛けられたの。野太い声だったわ。振り向いたらあの人がいて…。でもね、優しそうな感じの人だったの」
 「本当かよ」
 「うん、身体はゴツいし、髪型も短めでVシネマに出て来そうな感じ…」
 「ヤクザ系だな」
 「だけどね、笑うと目が少しタレ目になるのよ」
 「なんだそれは。そんな楽しそうな話になったのかよ」
 「ええ、最初はこんにちは、って声を掛けられて、アタシも驚いたんだけど『ここからの眺めは凄いでしょ』って、嬉しそうに話すのよ」
 「それで」
 「アタシがそうですね、って云ったら、その人もベンチに座って来て、と云っても端っこよ。アタシも端に座ってたから、ちゃんと距離はあったわよ」
 「分かった分かった、それで」
 「うん、それでね、暫く二人して景色を見てたんだけど、いきなり『さっきはすいませんね』って」
 「ああ、やっぱり」
 「『この宿は贔屓にしてて、慣れてるもんだから、ハメを外しちゃってね』って」
 「ハメを外すって、外しすぎだよな。奥さんの方だって困ったんじゃないかな」
 「そう、アタシも、奥さんは部屋ですかって聞いちゃったのね」
 「そうしたら?」
 「『うちのは、逆上(のぼ)せて部屋で横になってます』って」
 「ああ、そうなんだ。でも、思ったほど怖そうな人じゃないなら良かったよ」
 「そうそう、それでね『そっちの旦那さんはどうしたんですか』って聞かれたから、うちのもの逆上せて部屋で寝てますって云ったら、笑ってたわ。その顔も子供みたいだったの」
 「なんだそれりゃ」
 と、俺が苦笑いをした時、コンコン、部屋のドアがノックされたのだった。
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 大浴場から部屋に戻った俺達二人は、それぞれがボォっと過ごしていた。
 沙紀は部屋にあった近隣の観光名所のパンフレットを見たりしていたが、今は窓辺から外を眺めている。しかし頭の中には、俺が浮かべたのと同じシーン、それが流れているのではないだろうか。
 畳に寝っ転がって天井を見上げる俺の頭の中は、さっきの野天風呂の様子、あの夫婦の事でいっぱいだった。


 俺達の前で男女の営みを披露していたあの夫婦。
 沙紀の話では、湯船に浸かって直ぐに気がついたとか。その時の様子は、奥さんが男の背中に湯を掛けて、泡を洗い流していた。その姿に沙紀は微笑ましいものを感じたが、直ぐに驚愕へと変わったのだった。
 今度は男が、奥さんの身体を洗うのかと思ったが、何と男は女の乳房に口を付けたのだ。そして、先端の尖りを舌で弄くりだしたのだ。
 彼等が沙紀の存在に、いつ気づいたのかは分からない。だけど男は、見せ付けるように激しく吸っていたのだとか。
 沙紀は既に、蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。湯船の上がり斑の岩に腰をおろしたまま、竦んでしまっていた。
 自分の胸や股間を隠すのも忘れて、男女の姿に魅入られていたわけだ。


 男は奥さんの胸や急所を責めた後に、遂にソレを挿入した。挿入の瞬間、男は沙紀の顔を見たらしい。
 最初は沙紀の説明通り正常位。それも繋がってる部分を沙紀によく見えるようにだ。
 次が後背位、バックで交わったのだ。二人の顔は沙紀の方を向いて、女は逝き顔を曝したのだ。


 沙紀の頭は混乱して、現実離れした気分になっていたらしい。やがて俺が遅れてやって来るわけだが、俺は彼等の騎乗位を沙紀と一緒に目撃した。そして、桃源郷のような世界に連れて行かれたのだ。
 彼等がその場から去った後も、暫く俺も沙紀も、その場から動けないでいた。
 俺達が会話を交わしたのは、どのくらい経った後だったか。沈み込むように湯船に浸かって、沙紀に云ったのだ。
 『凄いのを見ちゃったな…』
 『う、うん、アタシ、あんなの初めて…』
 そう、俺も沙紀も他人のセックスを生で見た事など一度もなかった。せいぜいエロいビデオや動画で視たぐらいだ。
 それに、これまで二人で混浴に入った事はあったが、人前でセックスを追っ始める奴なんかいた事がない。律儀にタオルで、身体を隠す人が殆どだった。勿論、俺達もまだ羞恥を感じるキャリアだった。
 結局彼等が出てからも、その野天風呂には大した時間も居ず、直ぐに出てしまったのだ。気分は湯当たりでもしたか、頭がボォっとして軽い目眩もしていた。沙紀を見れば同じで、赤身を帯びた表情は重たそうな感じだった。


 それとだーー。
 部屋に戻ってからの沙紀の回想だ。
 『あの人のアソコ、凄くゴツゴツしてた』
 『え、それは何!?』
 『ほら、だいぶ前に一緒に視たエッチなビデオで、アソコに真珠?…入れてた人いたでしょ、あんな感じ』
 『ああ、ヤクザがやってるヤツだ。じゃあ、あの人達ってやっぱり』
 『でも、刺青はなかったでしょ』
 『そうだな、俺は気が付かなかった』
 『でもね、女の人の方、アソコの毛がなくてね、代わりに刺青みたいなのがあった気がするの』
 『え、マジか』
 『うん、アタシ、ソコにも魅入られてたから』
 『そうか…綺麗な人だったよな』
 『そう、凄く綺麗な人だったわ。それにね、身体の張りや肌のツヤなんかも良かったと想う。とにかく色っぽかったわ』
 『ああ、確かに。それに男も凄かった。体格も俺より一回りくらいゴツかったよな。贅肉らしいものも全然なかったし』
 『うん、それに何より…』
 『ん、アソコか』
 『うん、ごめん。あんな大きなの見た事なかったから、ビックリしちゃった』
 それを訊いて俺は『こほん』と、咳払いをしたのだった。
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 脱衣場に入って、まず感じたのはその狭さだった。最大4組の宿泊だから、この広さでも充分なのだろうが、少し圧迫を感じてしまう。
 俺は棚に置かれてある備え置きのタオルを一枚手に持った。広げて見れば『和道楼』と宿の名前が大きく描かれている。


 「まずは内風呂だな」俺は云って、木彫のドアを引いた。
 浴場の方は、それなりの広さだった。奥側は一面ガラスで、その向こう側、外は自然な岩肌と広大な山々が見える。
 「富士山は見えないにしても、凄い山の景色だな」
 俺は呟きながら、内風呂を抜けて直ぐに露天風呂の方に行く事にした。
 露天の湯船に浸かって、改めて周りを見てみれば、その雄大さに感動すら覚えてしまう。居るのは俺一人で、貸し切り状態だ。
 沙紀は『10分くらい?』と訊いていたが、もっとユックリしていこうと思った。それに、部屋で1発やったばかりだし。


 それからどの位そこで浸っていたか、湯から出ると俺は、股間を開けっ拡げたままで歩き始めた。と云っても、木々に囲まれていて、何処からどこまでが浴場なのか分からない。
 秘境に迷った気分で足を進めて行くと、直ぐに看板に気がついた。そこには『野天』の文字と矢印、それに注意書きがあった。この先は混浴になります云々だ。
 沙紀は既に野天の混浴で待っているだろうか、まさかプンプンに怒ってたりして。と、俺も急いで向かう事にした。


 「こっちは更に秘境っぽいな」
 それらしい場所に出れば、湯気が程よい具合に立ちこめていた。
 「沙紀は…」と呟いた時、シルエットを見つけた。
 沙紀が湯船の端っこ、小さな岩を椅子代わりに座っている。俺は驚かせてやろうかと、そっと近づいた。
 しかし直ぐに、気配に気づいたか、沙紀は顔を向けてきた。そして、人差し指を唇に当てると「しっ静かに」と伝えてきて「聖也くん、あそこ」と小声で囁き、向こう側を指さした。
 目を凝らせば湯気の向こう、距離にしてどうだろう、3、4メートル辺り先の洗い場のようなスペースに、男女の姿を見る事になった。その場所で女が、仰向けの男に跨り、腰を振っているではないか。


 AVやエロ動画で視たのと同じような場面だった。けど、生で人のセックスを見るのは産まれて初めての事だった。沙紀も間違いなく初めての筈だ。
 彼等は俺達に気づいていないのか?沙紀より先に、この野天に来たのは間違いないだろう。沙紀の存在に気が付かなかったのか。
 俺は隣に座る沙紀に、尋ねたい事だらけだったが訊けなかった。それほど彼等の営みが烈しく、それに目を奪われていたのだ。


 「聖也くぅん…」
 恐る恐るといった小さな声が、耳元でした。沙紀が俯いたまま、額を俺の胸に預けるように寄せてくる。
 「す、凄いね…」
 ゴクリと唾を呑み込んでから「あ、ああ…」と返事をした。「いつから、やってるの」俺も小さな声で沙紀に尋ねてみた。
 「アタシが入って来た時は、もう…」してたの、と呟いたはずだが、沙紀の声は掠れてしまっていた。その沙紀が彼等から視線を外して下を向いた。そこには俺の縮んだ愚息がある。情け無いほど小さくなっている。


 「それにしても凄いな」
 「そ、そうなのよ、最初は前からやってたの。その後はバックで、それで今はコレ…」
 と云う事はどういう事だ。男はインサートしてから、どのぐらい腰を振り続けているのだ。出し入れのスピードは一向に落ちる気配がない。
 女性の声こそ聞こえないが、頭の中ではネチャネチャと特有の音が鳴っている。


 「聖也くん、アタシなんだか…」
 沙紀の手が俺のアソコに伸びて来た。そして、竿を握るとゆっくり揉み始めた。
 「お、おい」
 その時だ。
 「んーーッ、んーーッ、んーーッ!」
 押し殺したような、それでも獣の叫びのようなうねり声が轟いた。女が逝ったのだ。
 沙紀の手が止まり、俺達は同時に前の男女を見詰めた。
 女の身体が突っ伏したまま震えている。
 風が流れて、湯気がサーッと消えて行く。男女が繋がるその箇所がはっきりと見えた。そして、ヌボっと男の物が抜け落ちた。
 あっ、沙紀が声を上げた。


 向こうで男が、のっそりと上半身を上げる。
 男に驚いた様子など全くない。それどころか、一瞬ニヤリと笑みを浮かべた、気がした。
 俺は…男の太々(ふてぶて)しい笑みに、ゾクリと身体の震えを感じてしまった。


 俺達の視線を受けながら、男が立ち上がった。男の股間の物は半勃ちの状態だが、それでもかなりの巨(おおき)さだ。
 沙紀の手がいつの間にか、俺のソレから離れて太ももへ、そして俺の手へとモジモジ寄ってきた。俺はか弱いその手を握った。その手が微かに震えている。
 こちらの様子など気にする素振りもなく、男が屈んで女の尻をパチパチと叩いている。やがて女が、のっそりと身体を起こしたのだった。
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 宿に着いて15分、部屋に入ってからも5分たらずで、俺達二人は互いを求めてあっていた。気づいた時には、二人の服はその辺に散らばり、素っ裸でまさぐりあっていたのだ。
 沙紀はこの環境に感情が高ぶったのか、いつもより早く絶頂を迎えていた。俺の方も明るい陽の元でやるセックスが久しぶりだったのか、野生の猿のように性急を求めて果ててしまった。


 息の乱れが治まってきた頃、沙紀が仰向けのまま顔だけ俺に向けてきた。
 「聖也くん、アタシの声、大きかったよね、聞こえちゃったかな」
 「ああ…」
 今更ながらと、俺は沙紀の顔を見て、それから開いたままの窓に視線を向けた。そして、起き上がると前も隠さず窓に近づき、そっと外を覗いた。
 「4部屋だったよな。どんな造りなんだろう」
 ひとり言のように呟き、端から端へと辺りを見廻した。
 「ああ、なるほど」
 建物全体が扇形で、ロビーを真ん中にその左右に2部屋ずつあって、部屋と部屋が回廊で繋がっているみたいだ。俺達の部屋は左奥の部屋だ。


 「もう一組の人って、何処だろうね」俺が呟くと沙紀も裸のまま寄ってきた。
 「ねぇ、何処?声、聞かれたかな」
 「ここからじゃ分かんないなぁ。でも、沙紀の声はデカいから間違いなく聞こえてるよ」
 俺が笑うと「いゃんッ」沙紀が抱きついて来た。そしてもう一度キスだ。
 それから、俺達は宿自慢の露天風呂に行く事にした。温泉に来ると、直ぐに風呂に行くのはいつもの事だった。下着は着けず、素っ裸の上に浴衣だけを羽織って部屋を出た。


 「聖也くん、野天の方で合流する?」
 「そうだな、行ってみようか…」
 俺達はそれなりに温泉巡りをしているが、実は露天はあっても、混浴に入った回数は少ないのだ。殆どが家族風呂と呼ばれる貸し切りのものだったのだ。
 「アタシ達以外は一組しかいないって云ってたし、会う確率は低いよね」
 「ん、どうかな…でも、沙紀には見られたい願望もあるんだよな」
 「いゃん、まだそこまで変態じゃないわよ」
 口を尖らせる沙紀を可愛いらしく思いながら、俺は足を進めた。
 フロントの前を通った時には女将さんがいて、ニコリと微笑んでくれた。チェックインの時も会ったが、50くらいの朴訥とした、感じの良さそうな人だ。


 宿の建物はさほど大きくないので、迷う事なく風呂の場所に来る事ができた。
 『男湯』『女湯』の暖簾があり、俺達は確かめるように目を合わせた。
 「混浴の方には、直ぐに行く?」
 沙紀の言葉に「し、声がデカイぞ」と囁いて「俺は少しゆっくりしてから行こうかな」と続けた。
 「うん、分かった。聖也くんはいつもそうだもんね、10分くらい?」
 好奇心旺盛の沙紀は、直ぐにでも奥に行く気だろうか。
 俺は沙紀の性急さに、やれやれ、と苦笑いを浮かべながら暖簾を潜ったのだった。
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  チェックインを済ませて、2階の部屋に通されると「あーーやっと着いた」沙紀が両手を上げて、思い切り伸びをした。
 そんな沙紀と俺を見ながら、仲居さんが奥の大きめの窓を開けた。
 「どうですか、この景色」
 「わぁーー凄い眺め!山が綺麗だよ、聖也くん」
 窓から乗り出す後ろ姿に「おい、下に落っこちるなよ」俺は頬を緩めて声を掛ける。
 その沙紀に「奥さん、右手の奥の方に何か見えませんか」仲居さんが、続けて声を掛けた。
 「あ、お風呂?ひょっとして、あそこが露天風呂ですか」
 沙紀の嬉しそうな声に、俺も窓から顔を出して、右奥の方に目をやった。柵に囲まれた岩肌が見えて、その辺りから湯気が上がっている。


 「そうですよ。ところでお客さん、露天風呂と野天風呂の違いって知ってます?」仲居さんが訊いてきた。
 「えっと、聞いた事あったんだよね、聖也くん、何だっけ」
 沙紀の言葉に、俺は記憶を遡った。
 「え~っと、同じ屋外でも屋根や囲いがあるのが露天で、屋根も囲いもないのが野天じゃなかったかな」
 「旦那さん、正解です。特別な定義はないみたいですけど、うちではあれを野天風呂として紹介させて頂いてます」
 「へぇ~、でも、ここからじゃ野天か露天かなんて分かんないわよね」
 「はい、見えそうで見えない微妙な造りになってますから、うふふ」
 仲居さんが意味深な笑みで、俺達に頷いた。俺と沙紀は目を合わせると、どこか恥ずかしげに頷き合っていた。


 その後、仲居さんは避難経路や食事処の説明をして、最後に自慢の風呂の説明をしてくれた。
 1階に男湯女湯それぞれの大浴場があり、その続きに露天風呂がある事。その更に奥に野天風呂があって、そこは男湯からも女湯からも行き来が出来る造りになってるとの事だった。要は混浴スペースになっているのだ。


 仲居さんが一通りの説明を終えて、部屋を出ようとする時、俺は一つだけ気になっている事を聞く事にした。
 「あの、今夜の宿泊は俺達以外には何組位の人がいるんでしょうか」
 「ああ、今夜はですね、お客さん以外は一組だけですよ。勝野さんと仰って、一回りくらい歳が上の気さくな御夫婦ですよ」


 名前など客の個人情報を何気に話した様子には少し驚いたが、この気安さもこの宿の良いところだと、俺は思う事にしておいた。それに、あの黒塗りベンツの持主の名前を何の気なしに口にしたという事は、彼等はヤバい人ではないのだろう。俺はそう解釈しながら、部屋を後にする仲居さんを見送った。
 そんな俺に、沙紀がさっそく云ってきた「聖也くん、先にお風呂行こっか」
 「うん。でも、その前に」
 そう云って俺は、沙紀の手を取り抱き寄せた。そして布団も敷かれてない畳の上に誘い、覆い被さった。直ぐに沙紀にも、スイッチが入ったのが分かった。
 「聖也くん…窓…開いて…」
 俺は、沙紀の唇を塞ぎながら、胸の膨らみに手をやったのだった。
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 俺達がよく行く温泉は、伊豆方面に群馬方面が多かった。
 なるべく人の少ない隠れ家的な所を狙って行ってるつもりだったが、ネット社会においては口コミで直ぐに晒されてしまう。なので有名温泉地でも、小さな旅館を選ぶようにしていた。そう、年配の人達や御忍びのカップルが利用しそうな風情のある旅館だった。金額は結構する所が多くて、俺達のような若造夫婦にはちょっと贅沢かもしれなかったが、子供が出来るまではと、プチ贅沢を楽しんでいたのだ。
 それともう一つ、外せない条件は露天風呂がある事だった。
 二人のセックスには時折りアブノーマルを加えていたが、見る者が見れば、可愛い方だったと思う。沙紀の両手をタオルで縛ったり、軽いスパンキング等のソフトSMまでだった。たまに、その露天風呂でこっそり、沙紀の卑猥なポーズを写真に撮る事はあったが、それらをネットやSNSなどに載せる勇気は持っていなかった。


 沙紀は自分の身体に自信を持っていないようだったが、身長は160の体重は教えてくれないがスレンダーな体型に、胸は85あって、ヒップも80以上はあったのだ。服を着ている時は目立たなかったが、初めて裸体を目にした時は、上と下の二つの膨らみに目を惹かれたものだった。顔はチョッとキツい感じだったが、美人と言われる事の方が多かった。
 沙紀とのセックスでは、二つの膨らみを乱暴に揉み崩すのが一つのパターンになっていて、沙紀は責めが強ければ強い時ほど、甘い鳴き声を出す女だった。だが、急に痴女に変身するのは、相変わらずの事だったが。
 俺もエロビデオをそれなりに視てはきたので、SとMが同居してる女がいる事は想像出来ていた。そんなビデオの女と、沙紀の姿を重ね合わせていたのかもしれない。




 さて、季節は春、そして今日ーー。
 俺達は自家用のセダンを走らせて、二泊三日の予定で伊豆の修善寺方面に向かっていた。
 泊まるのは初めての旅館で、部屋数が4つしかない小さな宿だった。沙紀が見つけてきた宿だが、写真にあった露天風呂の雰囲気にビビッときたのだとか。


 運転は沙紀も免許を持っていたが、いつも俺の役目で、この日も順調に車を走らせた。適当に休憩を取りつつ、絶景ポイントでは車を停めて写真を撮ったりもした。
 目的近くまで来た所で、ナビが頼りなくなってしまった。それでも、それこそが隠れ家的な宿と呼ばれる証拠だと、俺達はワクワクしていた。道幅も急に狭くなったり、また広くなったりと、そんな状況が繰り返されながら、やっとそれらしい建物に辿り着く事が出来た。


 俺は車をゆっくりと駐車場らしきスペースへと進めた。フロントガラス越し、『旅の湯 和道楼』と趣のある文字で書かれた看板が見える。
 車から降りて、宿の入口に向かって歩きかけた時だ。
 「ねぇ聖也くん、あの奥の所…」
 沙紀の声に、俺はキャリーケースを引きながら奥側に目をやった。そこには隠れるように、黒いメルセデスが停まっていた。おまけに、シッカリとスモークまで貼られてある。
 「あ、アッチ系の人かな」俺は眉を歪めながら呟いた。


 不動産の仕事をしてると、学生時代の友人から『アブナイ事してるじゃないの』なんて云われた事が何度かあったが、今いる会社は普通に真面目にやっている所だと思っている。
 中には企業舎弟と呼ばれる反社の隠れ蓑になってる会社もあるかもしれないが、今のところ俺は遭遇した事はない。しかし、取り引きした会社の社長さん達が、視界に映るような黒塗りの車に乗ってる姿を見た事はある。


 「大丈夫だよ沙紀、心配ないって。仮にアッチ系だとしても、こんな所で何か仕出かす奴なんていないよ」
 眉を顰(ひそ)める沙紀を見ながら、俺は気丈に振る舞ってみせた。
 「そうだよね、大丈夫だよね」沙紀が俺の肘に腕を絡めてきた「何かあったら、得意のタックルでお願いね」
 「ああ、任せとけって」
 そう云って、俺達は足を進めたのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [24]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “483” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(4697) “
  カミングアウトの場所は、当時借りてた俺のアパートの部屋だった。
 内容といえば、初恋から初体験の話へと進んだが、互いの経験人数も3人と特だん驚くほどのものではなかった。
 ただし俺は、3人以外に風俗経験がある事も正直に話しておいた。仕事上の取引先を接待でソープランド等に連れて行く事があって、俺一人が良い子でいる訳にはいかない、などと言い訳がましく説明を加えてはいたが。
 沙紀は一瞬、睨んで来たが『男の人って、そういうところ、あるのよね』と、取り敢えずの納得はしたようだったが『結婚したら、どんな理由でも他の女の人とはダメだからね』と、釘を刺すのも忘れていなかった。


 そんな俺の話よりもだーー。
 沙紀の告白の中で驚いたのは、職場の上司との不倫だった。沙紀は看護師だったわけだが、相手は同じ病院に勤める一回り以上歳上の外科医で、付き合う切っ掛けは魔が差したからだと云ったが、続いた期間は1年以上で、最後は相手の奥さんにバレて終わったとの事だった。
 関係が終わった事にホッとしたと口にした沙紀からは、深みに嵌まっていた状態が想像できた。そして俺は、その外科医との不倫話に引き込まれていったのだ。


 どうやら二人の密会の場所は、互いが夜勤の時の空いた病室や人のいない廊下、それに、誰もいない手術室なんかでも事に及んだ事があったらしい。
 沙紀にとって初めてのアブノーマルの体験でも、相手の医師は慣れたものか、次から次へと沙紀の心と身体に刺激を与え続けたのだった。
 そんな医師との体験を聞いて、一つの疑問が浮かんでいた。沙紀は温泉巡りは一人で行ってたと俺には告ったが、その医師とは行かなかったのか?
 答えは変わらなかった。不倫は悪い事だと分かっていたが止めれなかったと。その自己嫌悪を紛らわす為に、一人旅で地方の温泉に行ったのだと。
 俺は沙紀を受けとめる事にした。それに、結婚してから聞かされるより、今聞いておいて良かったと思うようにしたのだ。


 それでもーー。
 気になる事が残ったのも事実だった。
 それまでの俺達のセックスは、結構激しくやってるつもりだったが、それはあくまでもノーマルなプレイだったと思う。だから沙紀のその告白を聞いてからは、少し背伸びをしてみる気になった。例えば軽い縛りやスパンキング等のソフトSM、それにカーセックスがそれだった。とはいえ、いつも沙紀がM役かといえば、そうではなくて痴女に変身する事もあったのだ。俺は沙紀のその変貌にも興奮を覚えていた。
 そんな新たな刺激も加わるようになりつつ、式の日がやって来た。


 式は二人だけで、海外でやる事にした。最初は互いの親族や友人を呼ぶつもりだっが、俺側の田舎者丸出しの顔ぶれと、沙紀の身内を比較した時に、コンプレックスというか正直気後れを感じていたのだ。
 向こうの母親に挨拶に行った時も、貿易会社の社長をやってる伯父さんもいて、上流階級の匂いに良い印象を感じなかったのだ。 式を海外で、しかも二人で行うと告げた時も、義母は良い顔をしなかったが、そこは沙紀がフォローしてくれていた。
 義母は沙紀が一人っ子なので、盛大な式をやりたかったのだと思う。それも分かっていて披露宴はそれなりにと思ったが、今もって開いていない。


 南の国での二人だけの式を終えた俺達は、同じ市内のマンションに住む事になっていた。横浜の山手地区の一角だ。
 結婚生活はスムーズに進み、温泉巡りも平日休みを利用して、これまで通り行くようにしていた。
 そしてーー。
 とある温泉地で、俺達夫婦は黒い闇の世界に迷い込む事になってしまったのだった…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 176643049の時、$oは25NULL 841684984の時、$oは1array(1) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “481” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(18793) “
 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 841684984の時、$oは2array(2) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “481” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(18793) “
 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
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 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “480” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(17057) “
 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 841684984の時、$oは5array(5) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “481” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(18793) “
 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “480” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(17057) “
 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 841684984の時、$oは7array(7) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “481” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(18793) “
 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “474” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(11061) “
 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “480” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(17057) “
 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “474” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(11061) “
 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “474” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(11061) “
 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “474” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(11061) “
 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 日曜の朝、私は目を覚ますと重い眼(まなこ)を擦って朝陽が射し込む窓に顔を向けた。
 起き上がって、そのバルコニー側のカーテンを開けてみる。そこには、いつもの朝の眺めだ。
 夕べの淫靡な夢を想いだしてみる。窓に貼り付いてあったディルドを中腰になって咥え込んでいた女だ。と、股間の硬さに気がついた。朝勃ちというやつだ。
 私は一物を握って苦笑いをすると、気付かれませんようにと念じながら部屋を後にした。


 リビングに行くと、今朝も妻の久美子が忙しそうに働いていた。ダイニングのテーブルには朝食用のパンケーキ。心が病んでなければ、平和な朝の風景なのに。
 朝食を腹に詰め込みながら、妻の様子を探った。目は自然と下半身に向く。既に外行きのスカートで、その短さは妻の“本気度”を考えてしまう。今日の相手は、私の知らない男だったりして。


 彼女が屈んだ。シンクの前、食べ残しでも床に溢したのか。
 こちら向きの後ろ姿から、臀が突き上がって来る。
 無防備な臀だ。いや、挑発しているのか。それともその膨らみを誰かに捧げようと曝しているのか。
 あぁ、スカートを捲ってみたい。夕べの女のように、アソコでディルドを咥えているのでは。私の股間が再び硬くなってくるではないか。
 その時、彼女が振り向いた。


 「あなたは、今日はどうされてますか」
 「へ、ああ、僕かい。僕は…」
 「また古本屋ですか」
 「あ、そうだね…。そうしようかな」


 どことなく冷たく感じた妻の言葉に、私は萎縮してしまった。私を見る彼女の目に、小馬鹿にしたような色が浮かんでみえたのだ。
 そんな彼女に気後れを感じて部屋に戻る事にした。
 部屋に入ると、ヤキモキしながら色々と考えた。そして頭を整理するーー。


 ーーこのところ感じていた妻への疑心は、教え子の相談事だった。共通の知人、秋葉先生の娘さんがストーカー被害にあっていたのだが、それは一応の解決をみた。
 直近の“黒子“騒動も、歳の差夫婦の奈美子さんとは別人であると確認出来た。
 あと残っているのが、友人の方の奈美子さんの事だ。その女性(ひと)が問題なく本物の奈美子さんと判れば、全てクリアーなのだ。いや違うか。半年前からしている“好きな事”、それだけが残るわけだ。しかし、まずは今日の尾行だ。
 私はそこまで頭を整理したところで、渋谷君にメールを送る事にした。今、何処にいますかと簡単な一文だ。


 返信が来たのは、10時半になる時だった。
 直ぐにメールを開けてみる。
 渋谷君は既にコンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいるとの事だった。私はホッとすると、落ち着いて返信をした。


 《朝から御苦労様です。
 妻の方はそろそろ出掛けそうな雰囲気です。
 出れば直ぐにメールします。
 私の方も少し遅れて家を出るつもりです。
 今日は小まめに連絡を取り合いましょう。 よろしくお願いします!》


 返信し終えた私は、今日の尾行を妄想してみた。
 妻は間違いなくバスで最寄り駅に向かう筈だ。そのバスには渋谷君がこっそり乗っている。私は一本遅れのバスに乗るつもりだ。勿論、時刻表も調べてある。
 バスが駅に着けば、渋谷君から細かい連絡が来るだろう。そして、妻の相手が友人の奈美子さんなら目的の半分以上は完了だ。その二人が怪しげな遊びをするとは思えないし。


 妻の久美子は予想通りの時間に家を出た。その事をメールで連絡して暫くすると、渋谷君からターゲットを確認できた、同じバスに乗り込めたと報告が来た。
 こちらも直ぐに家を出て、予定通りのバスに乗り込んだ。


 私の乗ったバスが駅に着いてからも、渋谷君とのメール連絡は上手くいってくれた。妻が電車に乗り、M駅で降りたと連絡があった時は流石に不穏なものを感じたーーまたM駅かと。しかし直ぐに、改札の前で女性と落ち合ったと報告があった時はホッとする私がいた。
 その次の報告では、相手の女性は髪型がショートボブで体系も雰囲気も妻と瓜二つ(うりふたつ)との事だった。それは間違いなく学生時代からの友達の奈美子さんだと、安堵の気持ちを感じていた。


 私は2、30分遅れで妻を追っていたわけだが、北口のカフェに入ったと報告があったところで一旦考えた。そう、渋谷君の事だ。妻の相手が友人と判れば目的は達成で、彼は帰ってしまうかもしれない。私としてはまだ居てほしいのだ。
 そんな事を考えながら、渋谷君に今いる場所を聞いてそこに向かった。
 彼を見つけたのは目的のカフェが観(み)える場所…と云っても、彼は電柱に身体を隠すようにして私を待っていたのだった。


 私は「渋谷君、御苦労様。色々とありがとうございます。けど、M駅とはびっくりしましたよ…」と、苦笑いを浮かべながら話し掛けた。
 渋谷君の様子は、何かを思いつめている感じだった。彼の口からはーーしょうがないですね寺田先生は心配性でーーでも良かったじゃないですか奥様の相手が男じゃなくて…なんて言葉が返って来るかと想像していたのに…。
 彼は「奥様達は、ほらあそこです。ここから見えますよね、窓際の後ろの席です」と、視線を投げて伝えてきた。その声も何処となくな重そうな感じだ。
 それでも私は視線をカフェの方に向けると、妻とその前に座る女性の姿を認めて頷いた。


 「うん、間違いなく妻の久美子ですよ。ありがとうね。ところで大丈夫?なんだか元気がないみたいだけど」
 「ヘ、ああ僕ですか。僕は大丈夫ですよ、はい…」


 私は心配そうに、もう一度彼の顔色を覗いてみた。
 すると「奥様の相手も問題のない女性(ひと)ですか」と、硬い声だ。
 彼のその声にもう一度窓際に座る二人に目をやった。
 「ああ、はい。髪型もショートボブだし、あれが友達の奈美子さんで間違いないと思います。それにしても似てるなあ…」
 「そうですよね、僕も最初見た時は双子かと思いましたよ」
 双子は大げさだと思いながらも「渋谷君、なんだかお疲れみたいだね」と声を返した。
 「いや、ちょっとばかし寝不足なだけですよ」
 その言葉に何となくだが納得がいった。確かに彼らくらいの年代は、夜型で朝は弱いのだ。私は黙ったまま頷いている。
 そんな私に彼が続けて来る。
 「先生、暫く二人を見張りますよね」
 彼のその言葉に背筋が伸びた気がした。私は「そ、そうだね」と呟いて「渋谷君は…」と尋ねてみた。
 「ああ勿論、僕もご一緒しますよ。ちょっと気になる事もあるし」
 見れば渋谷君の眼が、光った気がする。


 「僕、店の中に入ってもう少し近くから見てきますよ」
 そう告げて彼は、それまで手にしていたキャップを被って見せた。ポケットからはサングラスだ。
 カフェに向かう後ろ姿を見送りながら、私はスマホを取り出した。
 ここからカフェの窓まで10mチョッとか。スマホのカメラ機能をズームして覗いて見る事にする。そして当然、写真も撮っておく。
 3枚ほど写真を撮ったところで、その画像を確認しようと電柱の影で背を向けた。
 手元で広げてみる。妻は横顔、前に座る女性は私の方、こちらを向いているところだ。
 私は画像の中ーー奈美子さんを見詰めた。以前、妻から見せて貰った時以上に久美子とそっくりな気がする。渋谷君が双子みたいと云った理由も納得がいく。


 電柱からそっと顔を出して、もう一度妻達の様子を覗いて見る。彼女達のお喋りは続いているようで、奈美子さんの斜め後ろの席には渋谷君の姿も確認する事が出来た。
 頭の中にムラムラと盗撮者の気持ちが湧いて出て来た。いや、支配者か。いつかの妄想の場面が浮かんでくる。


 ーーさぁ久美子、テーブルの上に乗って全てを曝すんだ!
 ーーお前は好奇の視線に曝されるのが堪らないんだろ。
 ーーさぁ脱げ!
 ーー尖り立った乳首を見てもらうんだ。
 ーーマンコも自分の指で拡げて見て貰え!ドドメ色に変色したお前の嫌らしいマンコだ。
 ーーほら早く!


 その時、私の横を通り過ぎるカップルに気が付いた。彼らは訝(いぶか)しそうな目を向けていた。あぁ、無意識に一人言まで呟いていたのだ。
 身体中がカーっと熱くなって行く。顔から火が出そうだ。あぁ、怪しげな男を演じてしまっている。


 そして私は、俯いて溜息を吐き出した。そこから視線を上げれば妻達が立ち上がるところだ。
 渋谷君は?そう思いながらも、電柱で影になるように身を隠した。妻達がこちらに来ないようにと願いながらだ。
 それからどれ位、縮こまっていただろうか。メールの着信音にゆっくりスマホを開けてみ…と思ったら電話だ。画面に『渋谷優作』の文字。


 『先生、奥様達は駅のエスカレータを登ってますよ』
 『は、はい。直ぐに追いかけます』
 私は云うなり、スマホを耳に当てたまま歩き出した。
 渋谷君の後ろ姿を見つけると小走りになっていく。耳には『あれ、南口に行くのかな…』渋谷君の呟きが聞こえてくる。
 それからは通話状態のまま、渋谷君の呼吸音だけが聞こえていた。
 私の頭の中には『南口』のイメージが浮かんで来ていた。膳と悪が同居してる怪しげな街の姿だ…。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “474” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(11061) “
 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [11]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “471” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(13360) “
  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 日曜の朝、私は目を覚ますと重い眼(まなこ)を擦って朝陽が射し込む窓に顔を向けた。
 起き上がって、そのバルコニー側のカーテンを開けてみる。そこには、いつもの朝の眺めだ。
 夕べの淫靡な夢を想いだしてみる。窓に貼り付いてあったディルドを中腰になって咥え込んでいた女だ。と、股間の硬さに気がついた。朝勃ちというやつだ。
 私は一物を握って苦笑いをすると、気付かれませんようにと念じながら部屋を後にした。


 リビングに行くと、今朝も妻の久美子が忙しそうに働いていた。ダイニングのテーブルには朝食用のパンケーキ。心が病んでなければ、平和な朝の風景なのに。
 朝食を腹に詰め込みながら、妻の様子を探った。目は自然と下半身に向く。既に外行きのスカートで、その短さは妻の“本気度”を考えてしまう。今日の相手は、私の知らない男だったりして。


 彼女が屈んだ。シンクの前、食べ残しでも床に溢したのか。
 こちら向きの後ろ姿から、臀が突き上がって来る。
 無防備な臀だ。いや、挑発しているのか。それともその膨らみを誰かに捧げようと曝しているのか。
 あぁ、スカートを捲ってみたい。夕べの女のように、アソコでディルドを咥えているのでは。私の股間が再び硬くなってくるではないか。
 その時、彼女が振り向いた。


 「あなたは、今日はどうされてますか」
 「へ、ああ、僕かい。僕は…」
 「また古本屋ですか」
 「あ、そうだね…。そうしようかな」


 どことなく冷たく感じた妻の言葉に、私は萎縮してしまった。私を見る彼女の目に、小馬鹿にしたような色が浮かんでみえたのだ。
 そんな彼女に気後れを感じて部屋に戻る事にした。
 部屋に入ると、ヤキモキしながら色々と考えた。そして頭を整理するーー。


 ーーこのところ感じていた妻への疑心は、教え子の相談事だった。共通の知人、秋葉先生の娘さんがストーカー被害にあっていたのだが、それは一応の解決をみた。
 直近の“黒子“騒動も、歳の差夫婦の奈美子さんとは別人であると確認出来た。
 あと残っているのが、友人の方の奈美子さんの事だ。その女性(ひと)が問題なく本物の奈美子さんと判れば、全てクリアーなのだ。いや違うか。半年前からしている“好きな事”、それだけが残るわけだ。しかし、まずは今日の尾行だ。
 私はそこまで頭を整理したところで、渋谷君にメールを送る事にした。今、何処にいますかと簡単な一文だ。


 返信が来たのは、10時半になる時だった。
 直ぐにメールを開けてみる。
 渋谷君は既にコンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいるとの事だった。私はホッとすると、落ち着いて返信をした。


 《朝から御苦労様です。
 妻の方はそろそろ出掛けそうな雰囲気です。
 出れば直ぐにメールします。
 私の方も少し遅れて家を出るつもりです。
 今日は小まめに連絡を取り合いましょう。 よろしくお願いします!》


 返信し終えた私は、今日の尾行を妄想してみた。
 妻は間違いなくバスで最寄り駅に向かう筈だ。そのバスには渋谷君がこっそり乗っている。私は一本遅れのバスに乗るつもりだ。勿論、時刻表も調べてある。
 バスが駅に着けば、渋谷君から細かい連絡が来るだろう。そして、妻の相手が友人の奈美子さんなら目的の半分以上は完了だ。その二人が怪しげな遊びをするとは思えないし。


 妻の久美子は予想通りの時間に家を出た。その事をメールで連絡して暫くすると、渋谷君からターゲットを確認できた、同じバスに乗り込めたと報告が来た。
 こちらも直ぐに家を出て、予定通りのバスに乗り込んだ。


 私の乗ったバスが駅に着いてからも、渋谷君とのメール連絡は上手くいってくれた。妻が電車に乗り、M駅で降りたと連絡があった時は流石に不穏なものを感じたーーまたM駅かと。しかし直ぐに、改札の前で女性と落ち合ったと報告があった時はホッとする私がいた。
 その次の報告では、相手の女性は髪型がショートボブで体系も雰囲気も妻と瓜二つ(うりふたつ)との事だった。それは間違いなく学生時代からの友達の奈美子さんだと、安堵の気持ちを感じていた。


 私は2、30分遅れで妻を追っていたわけだが、北口のカフェに入ったと報告があったところで一旦考えた。そう、渋谷君の事だ。妻の相手が友人と判れば目的は達成で、彼は帰ってしまうかもしれない。私としてはまだ居てほしいのだ。
 そんな事を考えながら、渋谷君に今いる場所を聞いてそこに向かった。
 彼を見つけたのは目的のカフェが観(み)える場所…と云っても、彼は電柱に身体を隠すようにして私を待っていたのだった。


 私は「渋谷君、御苦労様。色々とありがとうございます。けど、M駅とはびっくりしましたよ…」と、苦笑いを浮かべながら話し掛けた。
 渋谷君の様子は、何かを思いつめている感じだった。彼の口からはーーしょうがないですね寺田先生は心配性でーーでも良かったじゃないですか奥様の相手が男じゃなくて…なんて言葉が返って来るかと想像していたのに…。
 彼は「奥様達は、ほらあそこです。ここから見えますよね、窓際の後ろの席です」と、視線を投げて伝えてきた。その声も何処となくな重そうな感じだ。
 それでも私は視線をカフェの方に向けると、妻とその前に座る女性の姿を認めて頷いた。


 「うん、間違いなく妻の久美子ですよ。ありがとうね。ところで大丈夫?なんだか元気がないみたいだけど」
 「ヘ、ああ僕ですか。僕は大丈夫ですよ、はい…」


 私は心配そうに、もう一度彼の顔色を覗いてみた。
 すると「奥様の相手も問題のない女性(ひと)ですか」と、硬い声だ。
 彼のその声にもう一度窓際に座る二人に目をやった。
 「ああ、はい。髪型もショートボブだし、あれが友達の奈美子さんで間違いないと思います。それにしても似てるなあ…」
 「そうですよね、僕も最初見た時は双子かと思いましたよ」
 双子は大げさだと思いながらも「渋谷君、なんだかお疲れみたいだね」と声を返した。
 「いや、ちょっとばかし寝不足なだけですよ」
 その言葉に何となくだが納得がいった。確かに彼らくらいの年代は、夜型で朝は弱いのだ。私は黙ったまま頷いている。
 そんな私に彼が続けて来る。
 「先生、暫く二人を見張りますよね」
 彼のその言葉に背筋が伸びた気がした。私は「そ、そうだね」と呟いて「渋谷君は…」と尋ねてみた。
 「ああ勿論、僕もご一緒しますよ。ちょっと気になる事もあるし」
 見れば渋谷君の眼が、光った気がする。


 「僕、店の中に入ってもう少し近くから見てきますよ」
 そう告げて彼は、それまで手にしていたキャップを被って見せた。ポケットからはサングラスだ。
 カフェに向かう後ろ姿を見送りながら、私はスマホを取り出した。
 ここからカフェの窓まで10mチョッとか。スマホのカメラ機能をズームして覗いて見る事にする。そして当然、写真も撮っておく。
 3枚ほど写真を撮ったところで、その画像を確認しようと電柱の影で背を向けた。
 手元で広げてみる。妻は横顔、前に座る女性は私の方、こちらを向いているところだ。
 私は画像の中ーー奈美子さんを見詰めた。以前、妻から見せて貰った時以上に久美子とそっくりな気がする。渋谷君が双子みたいと云った理由も納得がいく。


 電柱からそっと顔を出して、もう一度妻達の様子を覗いて見る。彼女達のお喋りは続いているようで、奈美子さんの斜め後ろの席には渋谷君の姿も確認する事が出来た。
 頭の中にムラムラと盗撮者の気持ちが湧いて出て来た。いや、支配者か。いつかの妄想の場面が浮かんでくる。


 ーーさぁ久美子、テーブルの上に乗って全てを曝すんだ!
 ーーお前は好奇の視線に曝されるのが堪らないんだろ。
 ーーさぁ脱げ!
 ーー尖り立った乳首を見てもらうんだ。
 ーーマンコも自分の指で拡げて見て貰え!ドドメ色に変色したお前の嫌らしいマンコだ。
 ーーほら早く!


 その時、私の横を通り過ぎるカップルに気が付いた。彼らは訝(いぶか)しそうな目を向けていた。あぁ、無意識に一人言まで呟いていたのだ。
 身体中がカーっと熱くなって行く。顔から火が出そうだ。あぁ、怪しげな男を演じてしまっている。


 そして私は、俯いて溜息を吐き出した。そこから視線を上げれば妻達が立ち上がるところだ。
 渋谷君は?そう思いながらも、電柱で影になるように身を隠した。妻達がこちらに来ないようにと願いながらだ。
 それからどれ位、縮こまっていただろうか。メールの着信音にゆっくりスマホを開けてみ…と思ったら電話だ。画面に『渋谷優作』の文字。


 『先生、奥様達は駅のエスカレータを登ってますよ』
 『は、はい。直ぐに追いかけます』
 私は云うなり、スマホを耳に当てたまま歩き出した。
 渋谷君の後ろ姿を見つけると小走りになっていく。耳には『あれ、南口に行くのかな…』渋谷君の呟きが聞こえてくる。
 それからは通話状態のまま、渋谷君の呼吸音だけが聞こえていた。
 私の頭の中には『南口』のイメージが浮かんで来ていた。膳と悪が同居してる怪しげな街の姿だ…。
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 カフェで渋谷君と分かれた私は、真っ直ぐ家に向かった。
 夜になると妻の久美子も帰ってきたが、彼女の表情(かお)はどことなく浮かないものだった。 

 
 「お帰り。あの、どうだったのかな…デートは」
  妻を迎えた私の声には、緊張が混ざっていた。 “デート”の言葉を使ったのは、私なりの妻への探りだ。妻は私の言葉に「えっ…奈美子の事ですよね」と、彼女の声にも緊張が混ざっている。私は目で、そうだよ、と告げて頷いてみせた。


 「ああ…はい。それが実は、奈美子の体調が悪くて延期になったんですよ」
 「え、そうだったの」
 「はい。それで明日、お昼頃から会う事になったんです」
 「…じゃあ、今日はどうしてたの」
 「今日ですか…。奈美子からメールが来た時は駅に着いていたので、一人でショッピングモールに行ったり、後はカフェを2軒ばかし寄ったりしてましたわ」
 「ああ、そうだったのか…」
 それは短いやり取りであったが、心の中に不穏めいたものを感じていた。妻の方はそそくさとキッチンに足を運んでいる。


 彼女が冷蔵庫に手を掛けた時だ。その後ろ姿に、帰り際に考えていた事を思い出した。そう、念の為に黒子(ほくろ)を観(み)ておこうと思っていたのだ。
 その試みは上手くいってくれた。冷蔵庫を覗く素振りで近づくと、ソレはすんなりと確認する事が出来たのだ。
 見た瞬間にはーーあぁやっぱり“歳の差夫婦”の奈美子さんの“もの”とは違ってるじゃないかと、そんな声が聞こえた気がした。


 そんな私を「あら、あなた」妻がこちらをジイっと見詰めていた。
 「髪の毛が…」
 今更のその一言に心臓が縮み上がった。ホテルからの帰り、途中駅のトイレでいつもの髪型に直したつもりだったのに。
 それでも妻は「あなた、お風呂がまだならどうぞ。私は後でいいですから」と、それ以上に気にする素振りもなく呟いた。
 私はぎこちなく頷くと、逃げるようにバスルームに向かったのだった。


 脱衣所で下着姿になった時だ。 “その”事に気づいて、パンツを脱ぐと広げてみた。
 それは浮気の跡がないかの確認だった。
 問題の部分に顔を近づけてみる。どうやら精液の臭いも跡もないようだ。ホテルでシャワーを浴びたので大丈夫だと思っていたが念の為だった。
 私はふうっと息を吐いて、湯船に向かった。
 身体はいつもより丁寧に洗っていた。これが浮気した者の習性なのか。果たして私に妻を追求する資格はあるのだろうかと、色んな事を考えた。


 風呂から上がると真っ直ぐ自分の部屋に行く。
 イスに座れば直ぐそこにパソコンがある。が、今夜もそれを開くつもりはない…筈だったが、私は一旦ドアを振り返ってから電源を入れた。
 このパソコンを開くのは、妻に性癖を知られてからは初めてかもしれない。
 とは言え、エロサイトだけが目的ではないのだ。そんな何気な気持ちで検索サイトを立ち上げてみれば衝撃の…いやいや見慣れてしまったニュースの見出しに目がいった。


 【教員夫婦が自分達の裸を未成年に!】
 その文句に風呂上がりの身体が、更に熱くなるのを感じた。
 身体を前屈みにして読み始めてみる。


 記事に出ている教員夫婦は、九州にいる40代の中年夫婦だった。
 二人とも小学校で教鞭をとっているようで、その夫婦が公園の砂場で遊んでいた4 、5人の児童の前で露出プレイをしたみたいだ。
 素っ裸の上にコートだけを羽織った奥さんが、いきなりガバっと開げたらしい。旦那の方は、その様子をこっそり撮影していたとか。


 これまでも教師が教え子を盗撮したり、痴漢、それに買春に売春、そんな同じ職の人間の不祥事や事件をイヤというほど見てきた…いや、実際に目にしたわけではないが、事実として受け止めてきた。
 どこの学校でもそうだろうが、この類の事件があった日には、学校長からの注意と訓示めいたものがあったものだ。しかしそれも、回数が増すに連れて慣れたものになってしまった。そして、教師の職が長くなるに連れて同情の気持ちが強くなっていった。それは勿論、加害者への同情だ。
 教師という職業は、それほどストレスの溜まるもので、たちの悪い事に病的なものが多いーーと思っている。


 私は記事にある教員夫婦の様子を頭の中で想像してみたーー。
 広い公園。
 砂場で健気に遊ぶ子供達。
 平和な日常の光景だ。
 そんな平和な場面を息を殺して見詰める夫婦。
 彼らにとっては、初めての“露出”では無かった筈。
 魔が差してやった初めての行為が、きっと病みつきになったに違いない。
 話を持ちかけたのは夫の方ではなかったか。
 夫に“その手”の癖があったのは、想像が付く。それが溜まりに溜まったストレスで解放に向かってしまったのだ。
 妻の方は、その話を持ち掛けられた時にどんな事を考えたのだろうか。元々、その手の願望があったのか?
 どちらにせよ、妻も夫の企みに乗ってしまったわけだ。そして“嵌って“しまったのだろう。


 それにしても、私より上のキャリアの先生が露出プレイをしたなんて。
 しかし私の中には、この夫婦に対する軽蔑など全くない。
 あるのは同情とシンパシー。そして、素直に羨ましいという気持ちだ。そう、その気持ちもあるのだ。私達だって…このまま教師を続けて行ったら…。


 そんな露出夫婦の事を想っている時、大切な事を思い出した。尾行の事だ。
 久美子は明日の昼頃から奈美子さんと会うと云っていた。とすると、家を出るのは11時頃か。
 渋谷君の言葉を思い出してみる。彼は前に、このマンション近くから尾行を始めてもよいと言ってくれた筈だ。私は頭の中を整理してメールを送る事にした。


 返信が来たのは、ベッドに潜り込む寸前の時だった。
 彼はこちらの急な依頼にも快(こころよ)い返事をくれた。


 《畏まりました(笑)
 ご自宅の近くにコンビニがあるのがネットで分かりました。
 そこはイートインスペースがあるみたいなので、11時前にはそこに入って時間を潰してます。
 奥様が家を出たら連絡をよろしくです!》


 彼からのメールを読み終えた時には、そのコンビニの様子が頭に浮かんでいた。
 我が家もよくお世話になるコンビニだ。イートインスペースがあるのも、もちろん知っている。うん、あの席に座ればマンションのエントランスが見える筈だ。
 渋谷君によろしくお願いしますと返信を送って、私はベッドに横になり天井を見上げた。


 常夜灯の暗さの中、目はシッカリ開いている。昼間にあった気疲れは、今は不思議と感じない。
 私は先ほどネットで読んだ露出夫婦の事をもう一度考えてみた。
 彼らは捕まらなければ、これからも露出行為を続けたに違いない。そしてプレイは、間違いなくエスカレートして行った筈だ。その行為に歯止めは、あっただろうか。どこかのタイミングで神田先生のような人と出会えれば、カウンセリングを受け、秘密裏に変態プレイを行える場所を提供されたかもしれない。
 しかし、そんな願望を持った教員が神田先生に出会えたとしても“失敗”して世間の晒し者になる事だってある筈だ。
 そう、 “歳の差夫婦”だってギリギリだったのだ。
 あの御夫婦は渋谷君にそそのかされたとは言え、自宅の部屋のカーテンを開けて、隣のマンションに向かって局部を露出しているのだ。


 私はフト想った。私もやっていたのだと。
 酔ってたとはいえ、この部屋のカーテンを開けて惨めな格好で淫部を曝したのだ。そう、隣のマンションの窓、窓、窓に。


 身体がモゾモゾと蠢き始めていた。部屋の空気もザワザワと鳴っている。何かに導かるたように私は起き上がった。
 バルコニー側のカーテンの前に立って、隙間から外を覗いてみた。向こうのマンションの窓に薄っらとしたシルエットが見える。他も見てみれば、同じような影があるではないか。
 ゴクリ、喉が鳴った。


 向こう側の影、影、影に目を向けながら、パジャマのズボンに手をやった。
 テロンと露出される局部。ソレを右手で握ってみる。2、3度擦るとみるみる大きくなっていく。私はソレをカーテンの隙間からガラス窓に押し付けた。隙間をもう少し開けて、顔も近づけた。
 こちらは常夜灯。向こう側から私の姿など見える筈がない。私はヤモリになって股間を更に強く押し付けた。
 意識の奥から湧いて出るのは、奈美子さん。そう、歳の差夫婦の奈美子さんだ。
 あぁ、あの女(ひと)と鏡の前で中年に差し掛かった身体を見せ合って、刺激を得たい。世間に顔向け出来ないような秘密の行為を、聖職者同士で愉(たの)しみたい。
 あぁ…異様にアソコが硬くなっている。この惨めな姿も見られたい。軽蔑の視線を浴びてみたい。
 そうだ、久美子とも。
 久美子にカミングアウトして、変質者の世界に一緒に行かないかと話してみようか…。


 と、眼の前のガラス窓に小さな“何か”が張り付いている。
 それこそヤモリか。
 私は屈んでソレに目を近づけた。手を出して触れてみようとしたが、ソレはバルコニー側に引っ付いてある。
 その時、気配を感じた。人がいる。バルコニーに裸の女だ。
 瞬間、ゾゾゾと悪寒が走り抜けた。
 こちらに向いているのは、括れれた腰回りに豊満な臀。間違いなく一糸も纏わない裸の女性だ。
 その女が足を肩幅程に拡げて前傾に倒れて行く。
 豊満な臀が、膨れ上がって目の前に寄って来る。その迫力に私の身体は後退りしそうになった。女の股ぐらからは、手が伸びてくるではないか。そして“ヤモリ”を掴んだ。
 いや違う。ソレはアレだ。エロ小説や動画でもよく見たヤツ。
 ヤモリと思ったのはディルドだ!
 女がディルドを扱きながら破れ目に充てている。
 みるみるうちに飲み込まれていく卑猥な性具。同時に巨大化した臀が揺れ始めた。
 私は結合の部分に顔を寄せて、抉るように見詰めた。ふと、頭の中に渋谷君の言葉を思い出した。歳の差夫婦のご主人が、妻の奈美子さんと渋谷君の繋がりの部分を舐めた話を思い出してしまう。
 そんな私は、無意識に舌を出していた。そして、ディルドが女穴に挿し込まれてる部分に舌を当てた。
 冷やっとしたのはガラスに舌が当たったからだ。しかし、向こう側に突き破らんとばかりにガラスに舌をねじ込んだ。


 いつの間にか股間はカチカチだ。私は立ち上がると、中腰になって股間をディルドに向かって…ガラス窓に押し当てた。そして腰を振り始めた。
 ガラス1枚を隔てた疑似セックスだ。


 女の臀(ケツ)の揺れが激しくなっていく。私の身体も揺れてくる。
 女が地べたから手を離して中腰だ。そして振り向き、髪を掻き上げた。
 あ、黒子!
 私の様子に女がニヤリと笑った。瞬間、サーっと暗い幕が降りてきて…。
 私はハッと我に帰った。
 あぁ…又とんでもない夢を…。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “480” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(17057) “
 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 日曜の朝、私は目を覚ますと重い眼(まなこ)を擦って朝陽が射し込む窓に顔を向けた。
 起き上がって、そのバルコニー側のカーテンを開けてみる。そこには、いつもの朝の眺めだ。
 夕べの淫靡な夢を想いだしてみる。窓に貼り付いてあったディルドを中腰になって咥え込んでいた女だ。と、股間の硬さに気がついた。朝勃ちというやつだ。
 私は一物を握って苦笑いをすると、気付かれませんようにと念じながら部屋を後にした。


 リビングに行くと、今朝も妻の久美子が忙しそうに働いていた。ダイニングのテーブルには朝食用のパンケーキ。心が病んでなければ、平和な朝の風景なのに。
 朝食を腹に詰め込みながら、妻の様子を探った。目は自然と下半身に向く。既に外行きのスカートで、その短さは妻の“本気度”を考えてしまう。今日の相手は、私の知らない男だったりして。


 彼女が屈んだ。シンクの前、食べ残しでも床に溢したのか。
 こちら向きの後ろ姿から、臀が突き上がって来る。
 無防備な臀だ。いや、挑発しているのか。それともその膨らみを誰かに捧げようと曝しているのか。
 あぁ、スカートを捲ってみたい。夕べの女のように、アソコでディルドを咥えているのでは。私の股間が再び硬くなってくるではないか。
 その時、彼女が振り向いた。


 「あなたは、今日はどうされてますか」
 「へ、ああ、僕かい。僕は…」
 「また古本屋ですか」
 「あ、そうだね…。そうしようかな」


 どことなく冷たく感じた妻の言葉に、私は萎縮してしまった。私を見る彼女の目に、小馬鹿にしたような色が浮かんでみえたのだ。
 そんな彼女に気後れを感じて部屋に戻る事にした。
 部屋に入ると、ヤキモキしながら色々と考えた。そして頭を整理するーー。


 ーーこのところ感じていた妻への疑心は、教え子の相談事だった。共通の知人、秋葉先生の娘さんがストーカー被害にあっていたのだが、それは一応の解決をみた。
 直近の“黒子“騒動も、歳の差夫婦の奈美子さんとは別人であると確認出来た。
 あと残っているのが、友人の方の奈美子さんの事だ。その女性(ひと)が問題なく本物の奈美子さんと判れば、全てクリアーなのだ。いや違うか。半年前からしている“好きな事”、それだけが残るわけだ。しかし、まずは今日の尾行だ。
 私はそこまで頭を整理したところで、渋谷君にメールを送る事にした。今、何処にいますかと簡単な一文だ。


 返信が来たのは、10時半になる時だった。
 直ぐにメールを開けてみる。
 渋谷君は既にコンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいるとの事だった。私はホッとすると、落ち着いて返信をした。


 《朝から御苦労様です。
 妻の方はそろそろ出掛けそうな雰囲気です。
 出れば直ぐにメールします。
 私の方も少し遅れて家を出るつもりです。
 今日は小まめに連絡を取り合いましょう。 よろしくお願いします!》


 返信し終えた私は、今日の尾行を妄想してみた。
 妻は間違いなくバスで最寄り駅に向かう筈だ。そのバスには渋谷君がこっそり乗っている。私は一本遅れのバスに乗るつもりだ。勿論、時刻表も調べてある。
 バスが駅に着けば、渋谷君から細かい連絡が来るだろう。そして、妻の相手が友人の奈美子さんなら目的の半分以上は完了だ。その二人が怪しげな遊びをするとは思えないし。


 妻の久美子は予想通りの時間に家を出た。その事をメールで連絡して暫くすると、渋谷君からターゲットを確認できた、同じバスに乗り込めたと報告が来た。
 こちらも直ぐに家を出て、予定通りのバスに乗り込んだ。


 私の乗ったバスが駅に着いてからも、渋谷君とのメール連絡は上手くいってくれた。妻が電車に乗り、M駅で降りたと連絡があった時は流石に不穏なものを感じたーーまたM駅かと。しかし直ぐに、改札の前で女性と落ち合ったと報告があった時はホッとする私がいた。
 その次の報告では、相手の女性は髪型がショートボブで体系も雰囲気も妻と瓜二つ(うりふたつ)との事だった。それは間違いなく学生時代からの友達の奈美子さんだと、安堵の気持ちを感じていた。


 私は2、30分遅れで妻を追っていたわけだが、北口のカフェに入ったと報告があったところで一旦考えた。そう、渋谷君の事だ。妻の相手が友人と判れば目的は達成で、彼は帰ってしまうかもしれない。私としてはまだ居てほしいのだ。
 そんな事を考えながら、渋谷君に今いる場所を聞いてそこに向かった。
 彼を見つけたのは目的のカフェが観(み)える場所…と云っても、彼は電柱に身体を隠すようにして私を待っていたのだった。


 私は「渋谷君、御苦労様。色々とありがとうございます。けど、M駅とはびっくりしましたよ…」と、苦笑いを浮かべながら話し掛けた。
 渋谷君の様子は、何かを思いつめている感じだった。彼の口からはーーしょうがないですね寺田先生は心配性でーーでも良かったじゃないですか奥様の相手が男じゃなくて…なんて言葉が返って来るかと想像していたのに…。
 彼は「奥様達は、ほらあそこです。ここから見えますよね、窓際の後ろの席です」と、視線を投げて伝えてきた。その声も何処となくな重そうな感じだ。
 それでも私は視線をカフェの方に向けると、妻とその前に座る女性の姿を認めて頷いた。


 「うん、間違いなく妻の久美子ですよ。ありがとうね。ところで大丈夫?なんだか元気がないみたいだけど」
 「ヘ、ああ僕ですか。僕は大丈夫ですよ、はい…」


 私は心配そうに、もう一度彼の顔色を覗いてみた。
 すると「奥様の相手も問題のない女性(ひと)ですか」と、硬い声だ。
 彼のその声にもう一度窓際に座る二人に目をやった。
 「ああ、はい。髪型もショートボブだし、あれが友達の奈美子さんで間違いないと思います。それにしても似てるなあ…」
 「そうですよね、僕も最初見た時は双子かと思いましたよ」
 双子は大げさだと思いながらも「渋谷君、なんだかお疲れみたいだね」と声を返した。
 「いや、ちょっとばかし寝不足なだけですよ」
 その言葉に何となくだが納得がいった。確かに彼らくらいの年代は、夜型で朝は弱いのだ。私は黙ったまま頷いている。
 そんな私に彼が続けて来る。
 「先生、暫く二人を見張りますよね」
 彼のその言葉に背筋が伸びた気がした。私は「そ、そうだね」と呟いて「渋谷君は…」と尋ねてみた。
 「ああ勿論、僕もご一緒しますよ。ちょっと気になる事もあるし」
 見れば渋谷君の眼が、光った気がする。


 「僕、店の中に入ってもう少し近くから見てきますよ」
 そう告げて彼は、それまで手にしていたキャップを被って見せた。ポケットからはサングラスだ。
 カフェに向かう後ろ姿を見送りながら、私はスマホを取り出した。
 ここからカフェの窓まで10mチョッとか。スマホのカメラ機能をズームして覗いて見る事にする。そして当然、写真も撮っておく。
 3枚ほど写真を撮ったところで、その画像を確認しようと電柱の影で背を向けた。
 手元で広げてみる。妻は横顔、前に座る女性は私の方、こちらを向いているところだ。
 私は画像の中ーー奈美子さんを見詰めた。以前、妻から見せて貰った時以上に久美子とそっくりな気がする。渋谷君が双子みたいと云った理由も納得がいく。


 電柱からそっと顔を出して、もう一度妻達の様子を覗いて見る。彼女達のお喋りは続いているようで、奈美子さんの斜め後ろの席には渋谷君の姿も確認する事が出来た。
 頭の中にムラムラと盗撮者の気持ちが湧いて出て来た。いや、支配者か。いつかの妄想の場面が浮かんでくる。


 ーーさぁ久美子、テーブルの上に乗って全てを曝すんだ!
 ーーお前は好奇の視線に曝されるのが堪らないんだろ。
 ーーさぁ脱げ!
 ーー尖り立った乳首を見てもらうんだ。
 ーーマンコも自分の指で拡げて見て貰え!ドドメ色に変色したお前の嫌らしいマンコだ。
 ーーほら早く!


 その時、私の横を通り過ぎるカップルに気が付いた。彼らは訝(いぶか)しそうな目を向けていた。あぁ、無意識に一人言まで呟いていたのだ。
 身体中がカーっと熱くなって行く。顔から火が出そうだ。あぁ、怪しげな男を演じてしまっている。


 そして私は、俯いて溜息を吐き出した。そこから視線を上げれば妻達が立ち上がるところだ。
 渋谷君は?そう思いながらも、電柱で影になるように身を隠した。妻達がこちらに来ないようにと願いながらだ。
 それからどれ位、縮こまっていただろうか。メールの着信音にゆっくりスマホを開けてみ…と思ったら電話だ。画面に『渋谷優作』の文字。


 『先生、奥様達は駅のエスカレータを登ってますよ』
 『は、はい。直ぐに追いかけます』
 私は云うなり、スマホを耳に当てたまま歩き出した。
 渋谷君の後ろ姿を見つけると小走りになっていく。耳には『あれ、南口に行くのかな…』渋谷君の呟きが聞こえてくる。
 それからは通話状態のまま、渋谷君の呼吸音だけが聞こえていた。
 私の頭の中には『南口』のイメージが浮かんで来ていた。膳と悪が同居してる怪しげな街の姿だ…。
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 カフェで渋谷君と分かれた私は、真っ直ぐ家に向かった。
 夜になると妻の久美子も帰ってきたが、彼女の表情(かお)はどことなく浮かないものだった。 

 
 「お帰り。あの、どうだったのかな…デートは」
  妻を迎えた私の声には、緊張が混ざっていた。 “デート”の言葉を使ったのは、私なりの妻への探りだ。妻は私の言葉に「えっ…奈美子の事ですよね」と、彼女の声にも緊張が混ざっている。私は目で、そうだよ、と告げて頷いてみせた。


 「ああ…はい。それが実は、奈美子の体調が悪くて延期になったんですよ」
 「え、そうだったの」
 「はい。それで明日、お昼頃から会う事になったんです」
 「…じゃあ、今日はどうしてたの」
 「今日ですか…。奈美子からメールが来た時は駅に着いていたので、一人でショッピングモールに行ったり、後はカフェを2軒ばかし寄ったりしてましたわ」
 「ああ、そうだったのか…」
 それは短いやり取りであったが、心の中に不穏めいたものを感じていた。妻の方はそそくさとキッチンに足を運んでいる。


 彼女が冷蔵庫に手を掛けた時だ。その後ろ姿に、帰り際に考えていた事を思い出した。そう、念の為に黒子(ほくろ)を観(み)ておこうと思っていたのだ。
 その試みは上手くいってくれた。冷蔵庫を覗く素振りで近づくと、ソレはすんなりと確認する事が出来たのだ。
 見た瞬間にはーーあぁやっぱり“歳の差夫婦”の奈美子さんの“もの”とは違ってるじゃないかと、そんな声が聞こえた気がした。


 そんな私を「あら、あなた」妻がこちらをジイっと見詰めていた。
 「髪の毛が…」
 今更のその一言に心臓が縮み上がった。ホテルからの帰り、途中駅のトイレでいつもの髪型に直したつもりだったのに。
 それでも妻は「あなた、お風呂がまだならどうぞ。私は後でいいですから」と、それ以上に気にする素振りもなく呟いた。
 私はぎこちなく頷くと、逃げるようにバスルームに向かったのだった。


 脱衣所で下着姿になった時だ。 “その”事に気づいて、パンツを脱ぐと広げてみた。
 それは浮気の跡がないかの確認だった。
 問題の部分に顔を近づけてみる。どうやら精液の臭いも跡もないようだ。ホテルでシャワーを浴びたので大丈夫だと思っていたが念の為だった。
 私はふうっと息を吐いて、湯船に向かった。
 身体はいつもより丁寧に洗っていた。これが浮気した者の習性なのか。果たして私に妻を追求する資格はあるのだろうかと、色んな事を考えた。


 風呂から上がると真っ直ぐ自分の部屋に行く。
 イスに座れば直ぐそこにパソコンがある。が、今夜もそれを開くつもりはない…筈だったが、私は一旦ドアを振り返ってから電源を入れた。
 このパソコンを開くのは、妻に性癖を知られてからは初めてかもしれない。
 とは言え、エロサイトだけが目的ではないのだ。そんな何気な気持ちで検索サイトを立ち上げてみれば衝撃の…いやいや見慣れてしまったニュースの見出しに目がいった。


 【教員夫婦が自分達の裸を未成年に!】
 その文句に風呂上がりの身体が、更に熱くなるのを感じた。
 身体を前屈みにして読み始めてみる。


 記事に出ている教員夫婦は、九州にいる40代の中年夫婦だった。
 二人とも小学校で教鞭をとっているようで、その夫婦が公園の砂場で遊んでいた4 、5人の児童の前で露出プレイをしたみたいだ。
 素っ裸の上にコートだけを羽織った奥さんが、いきなりガバっと開げたらしい。旦那の方は、その様子をこっそり撮影していたとか。


 これまでも教師が教え子を盗撮したり、痴漢、それに買春に売春、そんな同じ職の人間の不祥事や事件をイヤというほど見てきた…いや、実際に目にしたわけではないが、事実として受け止めてきた。
 どこの学校でもそうだろうが、この類の事件があった日には、学校長からの注意と訓示めいたものがあったものだ。しかしそれも、回数が増すに連れて慣れたものになってしまった。そして、教師の職が長くなるに連れて同情の気持ちが強くなっていった。それは勿論、加害者への同情だ。
 教師という職業は、それほどストレスの溜まるもので、たちの悪い事に病的なものが多いーーと思っている。


 私は記事にある教員夫婦の様子を頭の中で想像してみたーー。
 広い公園。
 砂場で健気に遊ぶ子供達。
 平和な日常の光景だ。
 そんな平和な場面を息を殺して見詰める夫婦。
 彼らにとっては、初めての“露出”では無かった筈。
 魔が差してやった初めての行為が、きっと病みつきになったに違いない。
 話を持ちかけたのは夫の方ではなかったか。
 夫に“その手”の癖があったのは、想像が付く。それが溜まりに溜まったストレスで解放に向かってしまったのだ。
 妻の方は、その話を持ち掛けられた時にどんな事を考えたのだろうか。元々、その手の願望があったのか?
 どちらにせよ、妻も夫の企みに乗ってしまったわけだ。そして“嵌って“しまったのだろう。


 それにしても、私より上のキャリアの先生が露出プレイをしたなんて。
 しかし私の中には、この夫婦に対する軽蔑など全くない。
 あるのは同情とシンパシー。そして、素直に羨ましいという気持ちだ。そう、その気持ちもあるのだ。私達だって…このまま教師を続けて行ったら…。


 そんな露出夫婦の事を想っている時、大切な事を思い出した。尾行の事だ。
 久美子は明日の昼頃から奈美子さんと会うと云っていた。とすると、家を出るのは11時頃か。
 渋谷君の言葉を思い出してみる。彼は前に、このマンション近くから尾行を始めてもよいと言ってくれた筈だ。私は頭の中を整理してメールを送る事にした。


 返信が来たのは、ベッドに潜り込む寸前の時だった。
 彼はこちらの急な依頼にも快(こころよ)い返事をくれた。


 《畏まりました(笑)
 ご自宅の近くにコンビニがあるのがネットで分かりました。
 そこはイートインスペースがあるみたいなので、11時前にはそこに入って時間を潰してます。
 奥様が家を出たら連絡をよろしくです!》


 彼からのメールを読み終えた時には、そのコンビニの様子が頭に浮かんでいた。
 我が家もよくお世話になるコンビニだ。イートインスペースがあるのも、もちろん知っている。うん、あの席に座ればマンションのエントランスが見える筈だ。
 渋谷君によろしくお願いしますと返信を送って、私はベッドに横になり天井を見上げた。


 常夜灯の暗さの中、目はシッカリ開いている。昼間にあった気疲れは、今は不思議と感じない。
 私は先ほどネットで読んだ露出夫婦の事をもう一度考えてみた。
 彼らは捕まらなければ、これからも露出行為を続けたに違いない。そしてプレイは、間違いなくエスカレートして行った筈だ。その行為に歯止めは、あっただろうか。どこかのタイミングで神田先生のような人と出会えれば、カウンセリングを受け、秘密裏に変態プレイを行える場所を提供されたかもしれない。
 しかし、そんな願望を持った教員が神田先生に出会えたとしても“失敗”して世間の晒し者になる事だってある筈だ。
 そう、 “歳の差夫婦”だってギリギリだったのだ。
 あの御夫婦は渋谷君にそそのかされたとは言え、自宅の部屋のカーテンを開けて、隣のマンションに向かって局部を露出しているのだ。


 私はフト想った。私もやっていたのだと。
 酔ってたとはいえ、この部屋のカーテンを開けて惨めな格好で淫部を曝したのだ。そう、隣のマンションの窓、窓、窓に。


 身体がモゾモゾと蠢き始めていた。部屋の空気もザワザワと鳴っている。何かに導かるたように私は起き上がった。
 バルコニー側のカーテンの前に立って、隙間から外を覗いてみた。向こうのマンションの窓に薄っらとしたシルエットが見える。他も見てみれば、同じような影があるではないか。
 ゴクリ、喉が鳴った。


 向こう側の影、影、影に目を向けながら、パジャマのズボンに手をやった。
 テロンと露出される局部。ソレを右手で握ってみる。2、3度擦るとみるみる大きくなっていく。私はソレをカーテンの隙間からガラス窓に押し付けた。隙間をもう少し開けて、顔も近づけた。
 こちらは常夜灯。向こう側から私の姿など見える筈がない。私はヤモリになって股間を更に強く押し付けた。
 意識の奥から湧いて出るのは、奈美子さん。そう、歳の差夫婦の奈美子さんだ。
 あぁ、あの女(ひと)と鏡の前で中年に差し掛かった身体を見せ合って、刺激を得たい。世間に顔向け出来ないような秘密の行為を、聖職者同士で愉(たの)しみたい。
 あぁ…異様にアソコが硬くなっている。この惨めな姿も見られたい。軽蔑の視線を浴びてみたい。
 そうだ、久美子とも。
 久美子にカミングアウトして、変質者の世界に一緒に行かないかと話してみようか…。


 と、眼の前のガラス窓に小さな“何か”が張り付いている。
 それこそヤモリか。
 私は屈んでソレに目を近づけた。手を出して触れてみようとしたが、ソレはバルコニー側に引っ付いてある。
 その時、気配を感じた。人がいる。バルコニーに裸の女だ。
 瞬間、ゾゾゾと悪寒が走り抜けた。
 こちらに向いているのは、括れれた腰回りに豊満な臀。間違いなく一糸も纏わない裸の女性だ。
 その女が足を肩幅程に拡げて前傾に倒れて行く。
 豊満な臀が、膨れ上がって目の前に寄って来る。その迫力に私の身体は後退りしそうになった。女の股ぐらからは、手が伸びてくるではないか。そして“ヤモリ”を掴んだ。
 いや違う。ソレはアレだ。エロ小説や動画でもよく見たヤツ。
 ヤモリと思ったのはディルドだ!
 女がディルドを扱きながら破れ目に充てている。
 みるみるうちに飲み込まれていく卑猥な性具。同時に巨大化した臀が揺れ始めた。
 私は結合の部分に顔を寄せて、抉るように見詰めた。ふと、頭の中に渋谷君の言葉を思い出した。歳の差夫婦のご主人が、妻の奈美子さんと渋谷君の繋がりの部分を舐めた話を思い出してしまう。
 そんな私は、無意識に舌を出していた。そして、ディルドが女穴に挿し込まれてる部分に舌を当てた。
 冷やっとしたのはガラスに舌が当たったからだ。しかし、向こう側に突き破らんとばかりにガラスに舌をねじ込んだ。


 いつの間にか股間はカチカチだ。私は立ち上がると、中腰になって股間をディルドに向かって…ガラス窓に押し当てた。そして腰を振り始めた。
 ガラス1枚を隔てた疑似セックスだ。


 女の臀(ケツ)の揺れが激しくなっていく。私の身体も揺れてくる。
 女が地べたから手を離して中腰だ。そして振り向き、髪を掻き上げた。
 あ、黒子!
 私の様子に女がニヤリと笑った。瞬間、サーっと暗い幕が降りてきて…。
 私はハッと我に帰った。
 あぁ…又とんでもない夢を…。
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 ーー私はカフェで渋谷君が来るのを待っていた。
 この窓際の席からは、先程までいたホテルの姿を遠目ながら見る事が出来る。
 下の階から上に数えていって10の所で目を止める。
 あの部屋だっただろうかーー。
 今頃あの御夫婦はどんな事を考え、何をしている事やら。奈美子さんが私との“行為”の様子をご主人に話し、ご主人はそれを聞いて嫉妬の炎を燃やしながら奥様を責めているのだろうか。
 私の頭の中で繰り返されるのは、彼女が絶叫を上げたシーン…もあるが、その時目に映った一点だ。
 そう、まさに一点。四つん這いの肢体に後ろから私の硬直したソレを突き刺し、絶頂に導いた瞬間に目に映った首筋。
 ズボズボ厭らしい出し入れの音を聴きながら、私は彼女の耳に掛かる髪をまさぐった。
 ショートボブの髪が振り乱れ、耳たぶの下辺りに目をやった。
 そこには黒子(ほくろ)が有ったのだ!
 仄暗い灯りの下で、やっとその場所を見る事が出来たのだった。
 同時に心と身体が沈んで行く気がして、思わず一物を引き抜いてしまった。
 腰が止まった私に、喘ぎの声を上げていた肢体が振り返って、私達は見つめ合った。
 この女は…やはり…あぁ…。


 しかしだ『止めないでッ!お願いもっと突いてッ、突いて下さいッ!』
 その声に衝撃が走り抜けた。
 違うっ!久美子の声ではない!


 私の驚いた様子など気にする事なく、女ーー奈美子さん(?)が膝歩きで寄ってきた。そして私の物を咥えた。
 股間のソレは、再びヌルヌルになっていった。
 卑猥な舌使いを感じながら、奥様の右側の髪を掻き上げた。そして、もう一度確認しようと試みたがよく見えなかった。
 そこで私は、腰を浮かせながら一物を引き抜き抜いて、奥様の手を取って通路の壁にあった姿見の前へと連れて行ったのだ。


 姿見の前も薄暗いスペースだった。私は身体を出来るだけ鏡に近づけた。
 すると、直ぐに奥様が跪(ひざまづ)いて私の股間に唇を寄せてき。
 その唇からは『あぁ…嫌らしいィィ。変態女が映ってますわぁ』何とも言えない卑猥な響き。その声も間違いなく妻のものとは違っていた。
 と思った瞬間、私のソレはもう一度奥様の口の中へと飲み込まれていた。
 鏡の中はデジャブのようないつかのシーン。違うのは二つの顔が仮面に覆われている事だった。自分の髪型が滑稽に観(み)えたが、そんな事を気にする時ではなかった。
 私は跪(ひざまず)く女体を見下ろした。仮面を外してやりたい衝動が起こるが我慢する。


 鏡に映る奥様…奈美子さんのフェラチオは何とも厭らしく、快感の高まりと共に妻の口技との違いを意識してしまった。
 牡のシンボルは、あっという間に爆発の予兆を感じた。奥様が口を離して、信じられないような隠語を吐き出してきた。
 『アタシのアソコ、もう1度後ろから突いて下さぁい。アタシ、見ず知らずの他人(ひと)にオマンコを汚してもらいたいんでぇす。アタシ変態なんですよお』
 その声に導かれて、奥様の手を取り鏡に付かせた。そして、剛直を握ってアソコに先っぽを充てがった。
 泥濘を探して挿入すると、何かに急かされるように腰を打ち付けた。鏡の中の痴態を視ながら振り続けたのだ。


 理性は快楽に連れ去られそうになったが、私は奥様の耳たぶに掛かる髪をまさぐり問題のヶ所に目をやった。
 確かに黒子はあるが、声は間違いなく違っている。
 『イャンっ見て!鏡の中のアタシ達、凄く厭らしいわッ』
 その声は堪らないくらいの卑猥なものだった。声は出さないでーーそんな約束はとっくに消えていたのだ。
 『ねぇぇアタシのオマンコ気持ちいいですかぁ』鏡越しに卑猥な声が続いてやって来た。
 『あぁ…はい。ぐしょぐしょのヌレヌレですよ。凄く気持ちいいですっ』私は導かれるように応えてしまっていた。


 身体は卑猥なやり取りに高揚を感じっぱなしだった。
 私は腰を振りながら結合の箇所を観(み)てみようと破れ目を拡げてやった。
 『あぁ入ってますよ奥さん。奥さんの大好きなチンポが変態マンコに入ってる所が丸見えだ。アナルがヒクヒクしますよっ』
 『いやんッ!厭らしいわ!もっと見て。もっと突きながら見て!』
 しかし…。
 耐えに耐えていた射精の瞬間が来てしまったのだったーー。


 ーー逝った後、私はバツが悪そうに姿見の前からベッドへと奈美子さんの手を引いた。
 しかし、浮気を経験した事のない私は、ここでどうすれば良いか分からなかった。そんな私に気が付いていたのか、奈美子さんがバスルームを指さしていた。


 奈美子さんがシャワーを終えた後は私も使わせて貰った。バスルームで仮面を外して鏡に自分の顔を見た時だ。一気に現実に引き戻され、それまでの“行為”を思い出してか身体が震え出した。
 妻を裏切った事実と、牡としての役目に納得いかなかった愚息に打ち拉(ひし)がれていたのだ。
 バスルームから出た時の奈美子さんの視線が恐かった。だが、我慢してそこを出た。勿論、仮面を着け直してだ。
 出てみれば渋谷君の迎えの姿を見て、ホッとした惨めな私だった。


 先に部屋に戻った私は、取り敢えず着替える事にした。
 着替え終えた丁度その時に、ドアが開かれた。渋谷君だ。
 『先生、すいませんけど、さっきのカフェで待ってて貰えますか。ご主人も上がってきたので、もう少し話を』と、入ってくるなり目配せして、直ぐに隣の部屋へと戻って行ってしまった。
 そして私は、今いるカフェにやって来たわけだ。
 彼が姿を見せたのは、それから20分ほど経った頃だったーー。


 「すいません。お待たせしました」
 少し息を弾ませた彼の表情には、安堵の色が見て取れた。当然、あの御夫婦に彼なりの気遣いがあったのだ。
 彼の様子に「ご苦労様…」私の口には自然と労いの言葉が付く。
 しかし、私の口調に重いものを感じたのか「先生、疲れました?」と、心配そうに尋ねて来た。
 「いや、大丈夫ですよ」即座に首を振る私。
 それでも彼は、こちらをシゲシゲと眺めながら「本当ですか。思ったより早かったみたいですけど1発でした?」悪戯っ子のような笑みで訊いてくる。
 「えっ、ええ、まあね…」
 「そうですか。ふふっ、大丈夫ですよ。緊張で先生が勃(た)たなかったらどうしようかと、実はそっちを心配してましたから。ああ勿論、先生もそうですけどあっちの先生方にも悪いですからね」
 「あぁ、そうですね…」絞り出すように返事をした私だったが、早漏(はや)かったんですよ、とは言えなかった。


 そんな私は、話しの視点を変えたくて「ところで渋谷君さぁ、ご主人は何処にいたの?ずっと喫茶室?」と尋ねてみた。
 「ああ、ご主人ですか。ご主人は寺田先生が奥様の部屋に入って直ぐ、電話でこっちの部屋に呼んだんですよ。先生を迎えに行く時は一旦又、下に行ってもらいましたけどね」
 「そうだったんですね。私と顔を合わすと気まずいですもんね。それで、部屋にいる時はどんな感じだったんですか」
 「それがですね、部屋の中をウロウロしたり壁に耳を当てたり色々やってましたよ。自分から声は出すなって指示してたし、聞こえる筈もないのにね」
 彼の言葉に心臓が一跳ねした。まさか“アノ”声が訊かれていたのかと。


 「まぁでも、ご主人はご主人なりにムラムラモヤモヤ興奮してたと思いますよ」
 「………」
 「で、寺田先生の方はどうだったんですか」
 「え、どうと云うと?」
 「ん、あっちの奥様の身体ですよ。満足出来たんですか」
 「はぁ、まぁ一応…」
  私の答えに、渋谷君が意味深な目を向けながら「ふふふ」と笑いを浮かべた。
 「寺田先生、その云い方だと相手の奥様は久美子さんではなかったわけですね」
 あッ!改めて指摘されて慌てて頷いた「そ、そうなんですよ。申し訳ない。実は声…奥様が声を出してしまって、それが妻とは全然違ったんです」
 無意識に謝罪の言葉までついた私だったが、渋谷君はニコリと頷いた。同時にスマホを取り出した。
 見ればメールだろうか、画面を覗き込んでいる。
 私は彼を横目に、もう一度奈美子さんとのあのシーンを思い出してみた。右の耳たぶの下には確かに黒子(ほくろ)があった。あれは“白昼夢”ではなかったかと改めて自分に言い聞かせたのだーー。


 と、渋谷君の声だ。
 「先生、ご主人からのメールですよ。読みましょうか。いいですか。えっと『色々とありがとうございました。妻は想像以上に興奮したみたいです。御相手の先生のぺニスが自分に合ったのか、異様に気持ち良かったみたいです。私の方も妻の話に大興奮で、アソコがビンビンになってハッスルしました(笑)』…ですって先生」
 メールの内容に一瞬の安堵を覚えたが、直ぐに奥様の謙遜が入ってるのだろうと、私は却って自分の情けなさを自覚してしまった。


 「………」
 「先生、それにしたって良かったじゃないですか。相手は奥様の久美子さんじゃなかったんだし。おまけに奈美子さんとの身体の相性も良かったわけだから。奈美子さんもメールにあった通り満足したんですよ。そうそう、僕が別れ際の挨拶をしてる時も仮面を着けたまま俯いてましたね。やっぱり初めてのお相手だから恥ずかしかったんでしょうね」
 「ええ…そうかもしれませんが、でもね」
 「ん?ひょっとして浮気をしてしまったとか嘆いてます?」
 「そ、それはそうだよ」
 「………」


 渋谷君は私の言葉に口を閉じてしまった。
 沈黙の間に私は、繰り返しコーヒーを口に運ぶ。
 やがて。
 「お気持ちも分からなくはないですが、先生だって切っ掛けがあれば奥様を寝取られたいとか、ご自分も淫靡な世界を経験してみたいとか思ってたわけですよね」
 改めて“それ”を告(い)われると、ぎこちなくも頷いてしまう。確かに渋谷君の指摘は当たっているところなのだが。


 「ふふっ、まぁ先生の性格も分かってきたつもりですから、ここで責める気はありません。でも、神田先生も云ってましたけど寺田先生みたいな真面目な人に限って、嵌まると凄いと思ってますけどね」
 あぁッ、それは先日の酒の席でも先輩ーー大塚先生からも告(い)われた事だ。


 私は息苦しさを覚え始めていたが、その時彼が思い出したように訊いてきた。
 「そうだ。そうなると奥様の久美子さんが云ってた“半年前からしてる好きな事”。それって分からないままですよね」
 「そ、そうなんですよ。実は今日も、妻は友人の方の奈美子さんに会うと云って出掛けてるんですよ」
 「え、奥様の友達にも奈美子さんって方がいるんですか」
 「ああ、そうなんですよ。凄い偶然なんですけど…」
 「なるほどね。じゃあ、奥様はそっちの奈美子さん会うと云って、実は浮気の最中だったり…な~んてね」
 「あぁ…」
 「ふふふ…」


 渋谷君が口元を歪めながら意味深な目を向けている。
 「では先生、また機会があれば尾行してみますか。前にも云いましたけど、僕なら協力しますよ。はい、悩み多き中年教師の為なら身体張りますから。へへっ」
 「あ、ありがとうございます」
 素直に感謝の言葉が口に付いた私だった。
 しかし、その尾行のチャンスはいつ来るか分からない。妻が二日続けて…明日も出掛けるとは思わないし…。
 ところが…。
 この日、家に帰ると…。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 日曜の朝、私は目を覚ますと重い眼(まなこ)を擦って朝陽が射し込む窓に顔を向けた。
 起き上がって、そのバルコニー側のカーテンを開けてみる。そこには、いつもの朝の眺めだ。
 夕べの淫靡な夢を想いだしてみる。窓に貼り付いてあったディルドを中腰になって咥え込んでいた女だ。と、股間の硬さに気がついた。朝勃ちというやつだ。
 私は一物を握って苦笑いをすると、気付かれませんようにと念じながら部屋を後にした。


 リビングに行くと、今朝も妻の久美子が忙しそうに働いていた。ダイニングのテーブルには朝食用のパンケーキ。心が病んでなければ、平和な朝の風景なのに。
 朝食を腹に詰め込みながら、妻の様子を探った。目は自然と下半身に向く。既に外行きのスカートで、その短さは妻の“本気度”を考えてしまう。今日の相手は、私の知らない男だったりして。


 彼女が屈んだ。シンクの前、食べ残しでも床に溢したのか。
 こちら向きの後ろ姿から、臀が突き上がって来る。
 無防備な臀だ。いや、挑発しているのか。それともその膨らみを誰かに捧げようと曝しているのか。
 あぁ、スカートを捲ってみたい。夕べの女のように、アソコでディルドを咥えているのでは。私の股間が再び硬くなってくるではないか。
 その時、彼女が振り向いた。


 「あなたは、今日はどうされてますか」
 「へ、ああ、僕かい。僕は…」
 「また古本屋ですか」
 「あ、そうだね…。そうしようかな」


 どことなく冷たく感じた妻の言葉に、私は萎縮してしまった。私を見る彼女の目に、小馬鹿にしたような色が浮かんでみえたのだ。
 そんな彼女に気後れを感じて部屋に戻る事にした。
 部屋に入ると、ヤキモキしながら色々と考えた。そして頭を整理するーー。


 ーーこのところ感じていた妻への疑心は、教え子の相談事だった。共通の知人、秋葉先生の娘さんがストーカー被害にあっていたのだが、それは一応の解決をみた。
 直近の“黒子“騒動も、歳の差夫婦の奈美子さんとは別人であると確認出来た。
 あと残っているのが、友人の方の奈美子さんの事だ。その女性(ひと)が問題なく本物の奈美子さんと判れば、全てクリアーなのだ。いや違うか。半年前からしている“好きな事”、それだけが残るわけだ。しかし、まずは今日の尾行だ。
 私はそこまで頭を整理したところで、渋谷君にメールを送る事にした。今、何処にいますかと簡単な一文だ。


 返信が来たのは、10時半になる時だった。
 直ぐにメールを開けてみる。
 渋谷君は既にコンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいるとの事だった。私はホッとすると、落ち着いて返信をした。


 《朝から御苦労様です。
 妻の方はそろそろ出掛けそうな雰囲気です。
 出れば直ぐにメールします。
 私の方も少し遅れて家を出るつもりです。
 今日は小まめに連絡を取り合いましょう。 よろしくお願いします!》


 返信し終えた私は、今日の尾行を妄想してみた。
 妻は間違いなくバスで最寄り駅に向かう筈だ。そのバスには渋谷君がこっそり乗っている。私は一本遅れのバスに乗るつもりだ。勿論、時刻表も調べてある。
 バスが駅に着けば、渋谷君から細かい連絡が来るだろう。そして、妻の相手が友人の奈美子さんなら目的の半分以上は完了だ。その二人が怪しげな遊びをするとは思えないし。


 妻の久美子は予想通りの時間に家を出た。その事をメールで連絡して暫くすると、渋谷君からターゲットを確認できた、同じバスに乗り込めたと報告が来た。
 こちらも直ぐに家を出て、予定通りのバスに乗り込んだ。


 私の乗ったバスが駅に着いてからも、渋谷君とのメール連絡は上手くいってくれた。妻が電車に乗り、M駅で降りたと連絡があった時は流石に不穏なものを感じたーーまたM駅かと。しかし直ぐに、改札の前で女性と落ち合ったと報告があった時はホッとする私がいた。
 その次の報告では、相手の女性は髪型がショートボブで体系も雰囲気も妻と瓜二つ(うりふたつ)との事だった。それは間違いなく学生時代からの友達の奈美子さんだと、安堵の気持ちを感じていた。


 私は2、30分遅れで妻を追っていたわけだが、北口のカフェに入ったと報告があったところで一旦考えた。そう、渋谷君の事だ。妻の相手が友人と判れば目的は達成で、彼は帰ってしまうかもしれない。私としてはまだ居てほしいのだ。
 そんな事を考えながら、渋谷君に今いる場所を聞いてそこに向かった。
 彼を見つけたのは目的のカフェが観(み)える場所…と云っても、彼は電柱に身体を隠すようにして私を待っていたのだった。


 私は「渋谷君、御苦労様。色々とありがとうございます。けど、M駅とはびっくりしましたよ…」と、苦笑いを浮かべながら話し掛けた。
 渋谷君の様子は、何かを思いつめている感じだった。彼の口からはーーしょうがないですね寺田先生は心配性でーーでも良かったじゃないですか奥様の相手が男じゃなくて…なんて言葉が返って来るかと想像していたのに…。
 彼は「奥様達は、ほらあそこです。ここから見えますよね、窓際の後ろの席です」と、視線を投げて伝えてきた。その声も何処となくな重そうな感じだ。
 それでも私は視線をカフェの方に向けると、妻とその前に座る女性の姿を認めて頷いた。


 「うん、間違いなく妻の久美子ですよ。ありがとうね。ところで大丈夫?なんだか元気がないみたいだけど」
 「ヘ、ああ僕ですか。僕は大丈夫ですよ、はい…」


 私は心配そうに、もう一度彼の顔色を覗いてみた。
 すると「奥様の相手も問題のない女性(ひと)ですか」と、硬い声だ。
 彼のその声にもう一度窓際に座る二人に目をやった。
 「ああ、はい。髪型もショートボブだし、あれが友達の奈美子さんで間違いないと思います。それにしても似てるなあ…」
 「そうですよね、僕も最初見た時は双子かと思いましたよ」
 双子は大げさだと思いながらも「渋谷君、なんだかお疲れみたいだね」と声を返した。
 「いや、ちょっとばかし寝不足なだけですよ」
 その言葉に何となくだが納得がいった。確かに彼らくらいの年代は、夜型で朝は弱いのだ。私は黙ったまま頷いている。
 そんな私に彼が続けて来る。
 「先生、暫く二人を見張りますよね」
 彼のその言葉に背筋が伸びた気がした。私は「そ、そうだね」と呟いて「渋谷君は…」と尋ねてみた。
 「ああ勿論、僕もご一緒しますよ。ちょっと気になる事もあるし」
 見れば渋谷君の眼が、光った気がする。


 「僕、店の中に入ってもう少し近くから見てきますよ」
 そう告げて彼は、それまで手にしていたキャップを被って見せた。ポケットからはサングラスだ。
 カフェに向かう後ろ姿を見送りながら、私はスマホを取り出した。
 ここからカフェの窓まで10mチョッとか。スマホのカメラ機能をズームして覗いて見る事にする。そして当然、写真も撮っておく。
 3枚ほど写真を撮ったところで、その画像を確認しようと電柱の影で背を向けた。
 手元で広げてみる。妻は横顔、前に座る女性は私の方、こちらを向いているところだ。
 私は画像の中ーー奈美子さんを見詰めた。以前、妻から見せて貰った時以上に久美子とそっくりな気がする。渋谷君が双子みたいと云った理由も納得がいく。


 電柱からそっと顔を出して、もう一度妻達の様子を覗いて見る。彼女達のお喋りは続いているようで、奈美子さんの斜め後ろの席には渋谷君の姿も確認する事が出来た。
 頭の中にムラムラと盗撮者の気持ちが湧いて出て来た。いや、支配者か。いつかの妄想の場面が浮かんでくる。


 ーーさぁ久美子、テーブルの上に乗って全てを曝すんだ!
 ーーお前は好奇の視線に曝されるのが堪らないんだろ。
 ーーさぁ脱げ!
 ーー尖り立った乳首を見てもらうんだ。
 ーーマンコも自分の指で拡げて見て貰え!ドドメ色に変色したお前の嫌らしいマンコだ。
 ーーほら早く!


 その時、私の横を通り過ぎるカップルに気が付いた。彼らは訝(いぶか)しそうな目を向けていた。あぁ、無意識に一人言まで呟いていたのだ。
 身体中がカーっと熱くなって行く。顔から火が出そうだ。あぁ、怪しげな男を演じてしまっている。


 そして私は、俯いて溜息を吐き出した。そこから視線を上げれば妻達が立ち上がるところだ。
 渋谷君は?そう思いながらも、電柱で影になるように身を隠した。妻達がこちらに来ないようにと願いながらだ。
 それからどれ位、縮こまっていただろうか。メールの着信音にゆっくりスマホを開けてみ…と思ったら電話だ。画面に『渋谷優作』の文字。


 『先生、奥様達は駅のエスカレータを登ってますよ』
 『は、はい。直ぐに追いかけます』
 私は云うなり、スマホを耳に当てたまま歩き出した。
 渋谷君の後ろ姿を見つけると小走りになっていく。耳には『あれ、南口に行くのかな…』渋谷君の呟きが聞こえてくる。
 それからは通話状態のまま、渋谷君の呼吸音だけが聞こえていた。
 私の頭の中には『南口』のイメージが浮かんで来ていた。膳と悪が同居してる怪しげな街の姿だ…。
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 カフェで渋谷君と分かれた私は、真っ直ぐ家に向かった。
 夜になると妻の久美子も帰ってきたが、彼女の表情(かお)はどことなく浮かないものだった。 

 
 「お帰り。あの、どうだったのかな…デートは」
  妻を迎えた私の声には、緊張が混ざっていた。 “デート”の言葉を使ったのは、私なりの妻への探りだ。妻は私の言葉に「えっ…奈美子の事ですよね」と、彼女の声にも緊張が混ざっている。私は目で、そうだよ、と告げて頷いてみせた。


 「ああ…はい。それが実は、奈美子の体調が悪くて延期になったんですよ」
 「え、そうだったの」
 「はい。それで明日、お昼頃から会う事になったんです」
 「…じゃあ、今日はどうしてたの」
 「今日ですか…。奈美子からメールが来た時は駅に着いていたので、一人でショッピングモールに行ったり、後はカフェを2軒ばかし寄ったりしてましたわ」
 「ああ、そうだったのか…」
 それは短いやり取りであったが、心の中に不穏めいたものを感じていた。妻の方はそそくさとキッチンに足を運んでいる。


 彼女が冷蔵庫に手を掛けた時だ。その後ろ姿に、帰り際に考えていた事を思い出した。そう、念の為に黒子(ほくろ)を観(み)ておこうと思っていたのだ。
 その試みは上手くいってくれた。冷蔵庫を覗く素振りで近づくと、ソレはすんなりと確認する事が出来たのだ。
 見た瞬間にはーーあぁやっぱり“歳の差夫婦”の奈美子さんの“もの”とは違ってるじゃないかと、そんな声が聞こえた気がした。


 そんな私を「あら、あなた」妻がこちらをジイっと見詰めていた。
 「髪の毛が…」
 今更のその一言に心臓が縮み上がった。ホテルからの帰り、途中駅のトイレでいつもの髪型に直したつもりだったのに。
 それでも妻は「あなた、お風呂がまだならどうぞ。私は後でいいですから」と、それ以上に気にする素振りもなく呟いた。
 私はぎこちなく頷くと、逃げるようにバスルームに向かったのだった。


 脱衣所で下着姿になった時だ。 “その”事に気づいて、パンツを脱ぐと広げてみた。
 それは浮気の跡がないかの確認だった。
 問題の部分に顔を近づけてみる。どうやら精液の臭いも跡もないようだ。ホテルでシャワーを浴びたので大丈夫だと思っていたが念の為だった。
 私はふうっと息を吐いて、湯船に向かった。
 身体はいつもより丁寧に洗っていた。これが浮気した者の習性なのか。果たして私に妻を追求する資格はあるのだろうかと、色んな事を考えた。


 風呂から上がると真っ直ぐ自分の部屋に行く。
 イスに座れば直ぐそこにパソコンがある。が、今夜もそれを開くつもりはない…筈だったが、私は一旦ドアを振り返ってから電源を入れた。
 このパソコンを開くのは、妻に性癖を知られてからは初めてかもしれない。
 とは言え、エロサイトだけが目的ではないのだ。そんな何気な気持ちで検索サイトを立ち上げてみれば衝撃の…いやいや見慣れてしまったニュースの見出しに目がいった。


 【教員夫婦が自分達の裸を未成年に!】
 その文句に風呂上がりの身体が、更に熱くなるのを感じた。
 身体を前屈みにして読み始めてみる。


 記事に出ている教員夫婦は、九州にいる40代の中年夫婦だった。
 二人とも小学校で教鞭をとっているようで、その夫婦が公園の砂場で遊んでいた4 、5人の児童の前で露出プレイをしたみたいだ。
 素っ裸の上にコートだけを羽織った奥さんが、いきなりガバっと開げたらしい。旦那の方は、その様子をこっそり撮影していたとか。


 これまでも教師が教え子を盗撮したり、痴漢、それに買春に売春、そんな同じ職の人間の不祥事や事件をイヤというほど見てきた…いや、実際に目にしたわけではないが、事実として受け止めてきた。
 どこの学校でもそうだろうが、この類の事件があった日には、学校長からの注意と訓示めいたものがあったものだ。しかしそれも、回数が増すに連れて慣れたものになってしまった。そして、教師の職が長くなるに連れて同情の気持ちが強くなっていった。それは勿論、加害者への同情だ。
 教師という職業は、それほどストレスの溜まるもので、たちの悪い事に病的なものが多いーーと思っている。


 私は記事にある教員夫婦の様子を頭の中で想像してみたーー。
 広い公園。
 砂場で健気に遊ぶ子供達。
 平和な日常の光景だ。
 そんな平和な場面を息を殺して見詰める夫婦。
 彼らにとっては、初めての“露出”では無かった筈。
 魔が差してやった初めての行為が、きっと病みつきになったに違いない。
 話を持ちかけたのは夫の方ではなかったか。
 夫に“その手”の癖があったのは、想像が付く。それが溜まりに溜まったストレスで解放に向かってしまったのだ。
 妻の方は、その話を持ち掛けられた時にどんな事を考えたのだろうか。元々、その手の願望があったのか?
 どちらにせよ、妻も夫の企みに乗ってしまったわけだ。そして“嵌って“しまったのだろう。


 それにしても、私より上のキャリアの先生が露出プレイをしたなんて。
 しかし私の中には、この夫婦に対する軽蔑など全くない。
 あるのは同情とシンパシー。そして、素直に羨ましいという気持ちだ。そう、その気持ちもあるのだ。私達だって…このまま教師を続けて行ったら…。


 そんな露出夫婦の事を想っている時、大切な事を思い出した。尾行の事だ。
 久美子は明日の昼頃から奈美子さんと会うと云っていた。とすると、家を出るのは11時頃か。
 渋谷君の言葉を思い出してみる。彼は前に、このマンション近くから尾行を始めてもよいと言ってくれた筈だ。私は頭の中を整理してメールを送る事にした。


 返信が来たのは、ベッドに潜り込む寸前の時だった。
 彼はこちらの急な依頼にも快(こころよ)い返事をくれた。


 《畏まりました(笑)
 ご自宅の近くにコンビニがあるのがネットで分かりました。
 そこはイートインスペースがあるみたいなので、11時前にはそこに入って時間を潰してます。
 奥様が家を出たら連絡をよろしくです!》


 彼からのメールを読み終えた時には、そのコンビニの様子が頭に浮かんでいた。
 我が家もよくお世話になるコンビニだ。イートインスペースがあるのも、もちろん知っている。うん、あの席に座ればマンションのエントランスが見える筈だ。
 渋谷君によろしくお願いしますと返信を送って、私はベッドに横になり天井を見上げた。


 常夜灯の暗さの中、目はシッカリ開いている。昼間にあった気疲れは、今は不思議と感じない。
 私は先ほどネットで読んだ露出夫婦の事をもう一度考えてみた。
 彼らは捕まらなければ、これからも露出行為を続けたに違いない。そしてプレイは、間違いなくエスカレートして行った筈だ。その行為に歯止めは、あっただろうか。どこかのタイミングで神田先生のような人と出会えれば、カウンセリングを受け、秘密裏に変態プレイを行える場所を提供されたかもしれない。
 しかし、そんな願望を持った教員が神田先生に出会えたとしても“失敗”して世間の晒し者になる事だってある筈だ。
 そう、 “歳の差夫婦”だってギリギリだったのだ。
 あの御夫婦は渋谷君にそそのかされたとは言え、自宅の部屋のカーテンを開けて、隣のマンションに向かって局部を露出しているのだ。


 私はフト想った。私もやっていたのだと。
 酔ってたとはいえ、この部屋のカーテンを開けて惨めな格好で淫部を曝したのだ。そう、隣のマンションの窓、窓、窓に。


 身体がモゾモゾと蠢き始めていた。部屋の空気もザワザワと鳴っている。何かに導かるたように私は起き上がった。
 バルコニー側のカーテンの前に立って、隙間から外を覗いてみた。向こうのマンションの窓に薄っらとしたシルエットが見える。他も見てみれば、同じような影があるではないか。
 ゴクリ、喉が鳴った。


 向こう側の影、影、影に目を向けながら、パジャマのズボンに手をやった。
 テロンと露出される局部。ソレを右手で握ってみる。2、3度擦るとみるみる大きくなっていく。私はソレをカーテンの隙間からガラス窓に押し付けた。隙間をもう少し開けて、顔も近づけた。
 こちらは常夜灯。向こう側から私の姿など見える筈がない。私はヤモリになって股間を更に強く押し付けた。
 意識の奥から湧いて出るのは、奈美子さん。そう、歳の差夫婦の奈美子さんだ。
 あぁ、あの女(ひと)と鏡の前で中年に差し掛かった身体を見せ合って、刺激を得たい。世間に顔向け出来ないような秘密の行為を、聖職者同士で愉(たの)しみたい。
 あぁ…異様にアソコが硬くなっている。この惨めな姿も見られたい。軽蔑の視線を浴びてみたい。
 そうだ、久美子とも。
 久美子にカミングアウトして、変質者の世界に一緒に行かないかと話してみようか…。


 と、眼の前のガラス窓に小さな“何か”が張り付いている。
 それこそヤモリか。
 私は屈んでソレに目を近づけた。手を出して触れてみようとしたが、ソレはバルコニー側に引っ付いてある。
 その時、気配を感じた。人がいる。バルコニーに裸の女だ。
 瞬間、ゾゾゾと悪寒が走り抜けた。
 こちらに向いているのは、括れれた腰回りに豊満な臀。間違いなく一糸も纏わない裸の女性だ。
 その女が足を肩幅程に拡げて前傾に倒れて行く。
 豊満な臀が、膨れ上がって目の前に寄って来る。その迫力に私の身体は後退りしそうになった。女の股ぐらからは、手が伸びてくるではないか。そして“ヤモリ”を掴んだ。
 いや違う。ソレはアレだ。エロ小説や動画でもよく見たヤツ。
 ヤモリと思ったのはディルドだ!
 女がディルドを扱きながら破れ目に充てている。
 みるみるうちに飲み込まれていく卑猥な性具。同時に巨大化した臀が揺れ始めた。
 私は結合の部分に顔を寄せて、抉るように見詰めた。ふと、頭の中に渋谷君の言葉を思い出した。歳の差夫婦のご主人が、妻の奈美子さんと渋谷君の繋がりの部分を舐めた話を思い出してしまう。
 そんな私は、無意識に舌を出していた。そして、ディルドが女穴に挿し込まれてる部分に舌を当てた。
 冷やっとしたのはガラスに舌が当たったからだ。しかし、向こう側に突き破らんとばかりにガラスに舌をねじ込んだ。


 いつの間にか股間はカチカチだ。私は立ち上がると、中腰になって股間をディルドに向かって…ガラス窓に押し当てた。そして腰を振り始めた。
 ガラス1枚を隔てた疑似セックスだ。


 女の臀(ケツ)の揺れが激しくなっていく。私の身体も揺れてくる。
 女が地べたから手を離して中腰だ。そして振り向き、髪を掻き上げた。
 あ、黒子!
 私の様子に女がニヤリと笑った。瞬間、サーっと暗い幕が降りてきて…。
 私はハッと我に帰った。
 あぁ…又とんでもない夢を…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [17]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “465” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(14839) “
 ーー私はカフェで渋谷君が来るのを待っていた。
 この窓際の席からは、先程までいたホテルの姿を遠目ながら見る事が出来る。
 下の階から上に数えていって10の所で目を止める。
 あの部屋だっただろうかーー。
 今頃あの御夫婦はどんな事を考え、何をしている事やら。奈美子さんが私との“行為”の様子をご主人に話し、ご主人はそれを聞いて嫉妬の炎を燃やしながら奥様を責めているのだろうか。
 私の頭の中で繰り返されるのは、彼女が絶叫を上げたシーン…もあるが、その時目に映った一点だ。
 そう、まさに一点。四つん這いの肢体に後ろから私の硬直したソレを突き刺し、絶頂に導いた瞬間に目に映った首筋。
 ズボズボ厭らしい出し入れの音を聴きながら、私は彼女の耳に掛かる髪をまさぐった。
 ショートボブの髪が振り乱れ、耳たぶの下辺りに目をやった。
 そこには黒子(ほくろ)が有ったのだ!
 仄暗い灯りの下で、やっとその場所を見る事が出来たのだった。
 同時に心と身体が沈んで行く気がして、思わず一物を引き抜いてしまった。
 腰が止まった私に、喘ぎの声を上げていた肢体が振り返って、私達は見つめ合った。
 この女は…やはり…あぁ…。


 しかしだ『止めないでッ!お願いもっと突いてッ、突いて下さいッ!』
 その声に衝撃が走り抜けた。
 違うっ!久美子の声ではない!


 私の驚いた様子など気にする事なく、女ーー奈美子さん(?)が膝歩きで寄ってきた。そして私の物を咥えた。
 股間のソレは、再びヌルヌルになっていった。
 卑猥な舌使いを感じながら、奥様の右側の髪を掻き上げた。そして、もう一度確認しようと試みたがよく見えなかった。
 そこで私は、腰を浮かせながら一物を引き抜き抜いて、奥様の手を取って通路の壁にあった姿見の前へと連れて行ったのだ。


 姿見の前も薄暗いスペースだった。私は身体を出来るだけ鏡に近づけた。
 すると、直ぐに奥様が跪(ひざまづ)いて私の股間に唇を寄せてき。
 その唇からは『あぁ…嫌らしいィィ。変態女が映ってますわぁ』何とも言えない卑猥な響き。その声も間違いなく妻のものとは違っていた。
 と思った瞬間、私のソレはもう一度奥様の口の中へと飲み込まれていた。
 鏡の中はデジャブのようないつかのシーン。違うのは二つの顔が仮面に覆われている事だった。自分の髪型が滑稽に観(み)えたが、そんな事を気にする時ではなかった。
 私は跪(ひざまず)く女体を見下ろした。仮面を外してやりたい衝動が起こるが我慢する。


 鏡に映る奥様…奈美子さんのフェラチオは何とも厭らしく、快感の高まりと共に妻の口技との違いを意識してしまった。
 牡のシンボルは、あっという間に爆発の予兆を感じた。奥様が口を離して、信じられないような隠語を吐き出してきた。
 『アタシのアソコ、もう1度後ろから突いて下さぁい。アタシ、見ず知らずの他人(ひと)にオマンコを汚してもらいたいんでぇす。アタシ変態なんですよお』
 その声に導かれて、奥様の手を取り鏡に付かせた。そして、剛直を握ってアソコに先っぽを充てがった。
 泥濘を探して挿入すると、何かに急かされるように腰を打ち付けた。鏡の中の痴態を視ながら振り続けたのだ。


 理性は快楽に連れ去られそうになったが、私は奥様の耳たぶに掛かる髪をまさぐり問題のヶ所に目をやった。
 確かに黒子はあるが、声は間違いなく違っている。
 『イャンっ見て!鏡の中のアタシ達、凄く厭らしいわッ』
 その声は堪らないくらいの卑猥なものだった。声は出さないでーーそんな約束はとっくに消えていたのだ。
 『ねぇぇアタシのオマンコ気持ちいいですかぁ』鏡越しに卑猥な声が続いてやって来た。
 『あぁ…はい。ぐしょぐしょのヌレヌレですよ。凄く気持ちいいですっ』私は導かれるように応えてしまっていた。


 身体は卑猥なやり取りに高揚を感じっぱなしだった。
 私は腰を振りながら結合の箇所を観(み)てみようと破れ目を拡げてやった。
 『あぁ入ってますよ奥さん。奥さんの大好きなチンポが変態マンコに入ってる所が丸見えだ。アナルがヒクヒクしますよっ』
 『いやんッ!厭らしいわ!もっと見て。もっと突きながら見て!』
 しかし…。
 耐えに耐えていた射精の瞬間が来てしまったのだったーー。


 ーー逝った後、私はバツが悪そうに姿見の前からベッドへと奈美子さんの手を引いた。
 しかし、浮気を経験した事のない私は、ここでどうすれば良いか分からなかった。そんな私に気が付いていたのか、奈美子さんがバスルームを指さしていた。


 奈美子さんがシャワーを終えた後は私も使わせて貰った。バスルームで仮面を外して鏡に自分の顔を見た時だ。一気に現実に引き戻され、それまでの“行為”を思い出してか身体が震え出した。
 妻を裏切った事実と、牡としての役目に納得いかなかった愚息に打ち拉(ひし)がれていたのだ。
 バスルームから出た時の奈美子さんの視線が恐かった。だが、我慢してそこを出た。勿論、仮面を着け直してだ。
 出てみれば渋谷君の迎えの姿を見て、ホッとした惨めな私だった。


 先に部屋に戻った私は、取り敢えず着替える事にした。
 着替え終えた丁度その時に、ドアが開かれた。渋谷君だ。
 『先生、すいませんけど、さっきのカフェで待ってて貰えますか。ご主人も上がってきたので、もう少し話を』と、入ってくるなり目配せして、直ぐに隣の部屋へと戻って行ってしまった。
 そして私は、今いるカフェにやって来たわけだ。
 彼が姿を見せたのは、それから20分ほど経った頃だったーー。


 「すいません。お待たせしました」
 少し息を弾ませた彼の表情には、安堵の色が見て取れた。当然、あの御夫婦に彼なりの気遣いがあったのだ。
 彼の様子に「ご苦労様…」私の口には自然と労いの言葉が付く。
 しかし、私の口調に重いものを感じたのか「先生、疲れました?」と、心配そうに尋ねて来た。
 「いや、大丈夫ですよ」即座に首を振る私。
 それでも彼は、こちらをシゲシゲと眺めながら「本当ですか。思ったより早かったみたいですけど1発でした?」悪戯っ子のような笑みで訊いてくる。
 「えっ、ええ、まあね…」
 「そうですか。ふふっ、大丈夫ですよ。緊張で先生が勃(た)たなかったらどうしようかと、実はそっちを心配してましたから。ああ勿論、先生もそうですけどあっちの先生方にも悪いですからね」
 「あぁ、そうですね…」絞り出すように返事をした私だったが、早漏(はや)かったんですよ、とは言えなかった。


 そんな私は、話しの視点を変えたくて「ところで渋谷君さぁ、ご主人は何処にいたの?ずっと喫茶室?」と尋ねてみた。
 「ああ、ご主人ですか。ご主人は寺田先生が奥様の部屋に入って直ぐ、電話でこっちの部屋に呼んだんですよ。先生を迎えに行く時は一旦又、下に行ってもらいましたけどね」
 「そうだったんですね。私と顔を合わすと気まずいですもんね。それで、部屋にいる時はどんな感じだったんですか」
 「それがですね、部屋の中をウロウロしたり壁に耳を当てたり色々やってましたよ。自分から声は出すなって指示してたし、聞こえる筈もないのにね」
 彼の言葉に心臓が一跳ねした。まさか“アノ”声が訊かれていたのかと。


 「まぁでも、ご主人はご主人なりにムラムラモヤモヤ興奮してたと思いますよ」
 「………」
 「で、寺田先生の方はどうだったんですか」
 「え、どうと云うと?」
 「ん、あっちの奥様の身体ですよ。満足出来たんですか」
 「はぁ、まぁ一応…」
  私の答えに、渋谷君が意味深な目を向けながら「ふふふ」と笑いを浮かべた。
 「寺田先生、その云い方だと相手の奥様は久美子さんではなかったわけですね」
 あッ!改めて指摘されて慌てて頷いた「そ、そうなんですよ。申し訳ない。実は声…奥様が声を出してしまって、それが妻とは全然違ったんです」
 無意識に謝罪の言葉までついた私だったが、渋谷君はニコリと頷いた。同時にスマホを取り出した。
 見ればメールだろうか、画面を覗き込んでいる。
 私は彼を横目に、もう一度奈美子さんとのあのシーンを思い出してみた。右の耳たぶの下には確かに黒子(ほくろ)があった。あれは“白昼夢”ではなかったかと改めて自分に言い聞かせたのだーー。


 と、渋谷君の声だ。
 「先生、ご主人からのメールですよ。読みましょうか。いいですか。えっと『色々とありがとうございました。妻は想像以上に興奮したみたいです。御相手の先生のぺニスが自分に合ったのか、異様に気持ち良かったみたいです。私の方も妻の話に大興奮で、アソコがビンビンになってハッスルしました(笑)』…ですって先生」
 メールの内容に一瞬の安堵を覚えたが、直ぐに奥様の謙遜が入ってるのだろうと、私は却って自分の情けなさを自覚してしまった。


 「………」
 「先生、それにしたって良かったじゃないですか。相手は奥様の久美子さんじゃなかったんだし。おまけに奈美子さんとの身体の相性も良かったわけだから。奈美子さんもメールにあった通り満足したんですよ。そうそう、僕が別れ際の挨拶をしてる時も仮面を着けたまま俯いてましたね。やっぱり初めてのお相手だから恥ずかしかったんでしょうね」
 「ええ…そうかもしれませんが、でもね」
 「ん?ひょっとして浮気をしてしまったとか嘆いてます?」
 「そ、それはそうだよ」
 「………」


 渋谷君は私の言葉に口を閉じてしまった。
 沈黙の間に私は、繰り返しコーヒーを口に運ぶ。
 やがて。
 「お気持ちも分からなくはないですが、先生だって切っ掛けがあれば奥様を寝取られたいとか、ご自分も淫靡な世界を経験してみたいとか思ってたわけですよね」
 改めて“それ”を告(い)われると、ぎこちなくも頷いてしまう。確かに渋谷君の指摘は当たっているところなのだが。


 「ふふっ、まぁ先生の性格も分かってきたつもりですから、ここで責める気はありません。でも、神田先生も云ってましたけど寺田先生みたいな真面目な人に限って、嵌まると凄いと思ってますけどね」
 あぁッ、それは先日の酒の席でも先輩ーー大塚先生からも告(い)われた事だ。


 私は息苦しさを覚え始めていたが、その時彼が思い出したように訊いてきた。
 「そうだ。そうなると奥様の久美子さんが云ってた“半年前からしてる好きな事”。それって分からないままですよね」
 「そ、そうなんですよ。実は今日も、妻は友人の方の奈美子さんに会うと云って出掛けてるんですよ」
 「え、奥様の友達にも奈美子さんって方がいるんですか」
 「ああ、そうなんですよ。凄い偶然なんですけど…」
 「なるほどね。じゃあ、奥様はそっちの奈美子さん会うと云って、実は浮気の最中だったり…な~んてね」
 「あぁ…」
 「ふふふ…」


 渋谷君が口元を歪めながら意味深な目を向けている。
 「では先生、また機会があれば尾行してみますか。前にも云いましたけど、僕なら協力しますよ。はい、悩み多き中年教師の為なら身体張りますから。へへっ」
 「あ、ありがとうございます」
 素直に感謝の言葉が口に付いた私だった。
 しかし、その尾行のチャンスはいつ来るか分からない。妻が二日続けて…明日も出掛けるとは思わないし…。
 ところが…。
 この日、家に帰ると…。
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  ホテルのロビーは、かなりの人波だった。パッと見たところ、多いのは海外からの旅行者だ。私は彼等の視線さえ避けるように足を運んだ。前を行く渋谷君は慣れたものか、迷う事なく足を進めている。


 彼が足を止めたのは、エレベーターホールだった。そこは運良く、あまり人がいない。
 そこで彼は↑のボタンを押して「10階なんですよね」と呟いた。そして、周りの視線を気にしながら私の耳元に顔を寄せてきた。
 「係長、本日の接待ご苦労様です。先方の専務は既にお部屋にいらっしゃいます。社長の方は地下の喫茶室にお茶を飲みに行かれているようです」
 彼が私の緊張を解す為か“隠語”で状況を伝えて来た。そして小声で続けて来る。
 「係長、緊張してますよね。でも、ここまで来たら割り切って犯(や)っちゃって下さいね」
 「そ、そうですね…」
 「ふふっ、頑張って」
 私は彼の眼差しに「は、はい」と呟き、そして黙り込んだ。
 やがてエレベーターが到着して、上の階へと向かった。


 案内された部屋は、シングルタイプの思ったより狭い間取りだった。
 窓際に小ぶりなテーブルセットがあって、私達はそれぞれイスに腰掛けた。渋谷君が一呼吸置いて、私を真っ直ぐ見詰めてきた。
 そして。
 「では、奥様の方はシャワーを浴び終えてるでしょうから先生も…」
 その言葉に、口元を結んだまま立ち上がった。


 バスルームに入った私は、ジェルで固めた髪を濡らさないようにシャワーを浴びる。お湯の心地好さに目を閉じながらも、プレイのイメージを浮かべていた。
 ガウンに着替えてバスルームを出たところで「先生、はいコレ」渋谷君が手に持つソレを渡してきた。


 「あぁ、これが仮面ですか」
 「はい、着けてみて下さい」
 恐々と受け取って鏡の前で着けてみた。
 鏡の中に怪しい男が浮かび上がってくる。
 あぁ…これが私なのか。


 「フフフッ、まるで誰だか分かりませんよ。ええ、エロチックな感じです。うん、先生なら何でも出来ますよ」
 「あぁ…」
 「いいですか。先生はただの牡なんです。獲物を求める飢えた牡。相手は飢えた牝。飢えた者どうしで欲望をぶつけ合って下さい」


 彼の言葉を、鏡に映る仮面の顔を見ながら背中越しに聞いていた。
 その言葉は、不思議な感覚で身体の隅々に染み渡って行くようだった。同時に弱気な自分が消えていく気がするのは何故だろう。股間のアソコにも活力が満ちてきた気がする。これが仮面の魔力なのか。
 あぁ…犯(や)らなければならない。そんな気持ちが湧いてきた。


 「さぁ、そろそろ行きましょうか」
 声に私は、黙って振り返る。
 「そうそう、顔見せと声出しには気を付けて下さいね」


 渋谷君が先に廊下の様子を確認する。私は彼の合図で部屋を出る。
 彼の手には、隣の部屋のカードキーだ。それをドアノブの下の隙間に差し込む。解除の点滅があってドアが開かれた。
 私は素早く周囲を確認して彼に続いた。
 部屋は聞いてた通り、常夜灯だけで仄暗い。間取りは隣と同じようだが、薄暗くて奥の様子が分からない。


 「失礼します」
 薄暗い部屋の中に、透き通るような渋谷君の声。
 彼は足音を殺して奥へーーベッドの方へと進む。私も従うように着いて行く。
 彼が足を止めた直ぐその先、ベッドの端に腰掛ける後ろ姿を見る事が出来た。私と同じ白いガウンが、頼りない灯の下に佇んで観(み)えたのだ。


 「奥様、お連れ致しました」
 「………」
 「僕は一旦失礼しますけど、プレイが終わりましたら空メールを入れて下さい。直ぐにこちらの“先生”を迎えに参ります。では」
 渋谷君の畏まった言葉に、ベッドの後ろ姿が微かに頷いたのが分かった。
 彼はその後ろ姿に「ありがとうございます」落ち着いた声で告げて、そして私をチラリと盗み見した。その目にはどこか愉(たの)しげな色が浮かんでいる。


 渋谷君が出ていくドアの音を背中で聞いて、私は静かに深呼吸をした。そして、ゆっくりと近づいて行く。
 常夜灯の下、白いガウンになぜか神聖な気配を感じた。そして、私の手が白い肩に掛かって…。
 「………」
 無言のメッセージに、女が肩に置かれた私の手に自分の手を重ねてきた。私はその温かさに胸がキュンとなってしまった。
 シャワーのお湯のせいなのか、はたまた性への渇望が原因なのか“女”の熱さが伝わって来るようだ。
 その時、女が立ち上がって抱きついてきた。
 そして、私達は仮面越しに見つめ合った…と思ったのも一瞬で、私の唇は女に奪われていた。
 私の舌は女に絡み取られ、鼻の奥には香水の匂いが広がった。同時に背中がゾゾゾと粟立ち、意識の奥にあった“妻”の姿が霧に包まれていった。
 気づけば二人の口元から、嫌らしい音が立っている。
 ブチュチュ!
 ジュルジュルッ!


 声は出さないようにと云われていたが、この粘着音は構わないのか。その音の合間に渋谷君の声が聞こえてきた。
 『…相手は飢えた牝…飢えた者どうしで欲望を…』


 女の鼻からフンフンと嫌らしい音が聞こえている。間違いなく女の方は興奮している。
 女が舌を射し込んだまま、私のガウンの結び目に手をやって全てを剥ぎ取っていく。
 私を全裸にすると、次に女は自分のガウンを脱ぎ取った。そして私は、股間の物をギュッと握られた。ソコは女の手指によって、みるみるうちに硬くなっていく。


 反り上がったソレが二つの身体に挟まれたまま、私達は口づけを続けいていた。
 男根が感じる熱さはシャワーが原因なのか。それとも、コレが女の欲求に熱を発したのか。
 あぁ…女の鼻息がますます荒くなって行くではないか。この女は欲求不満が続いているのだと、自分に言い聞かせた。


 よし! “俺”が解放してやる。私の中にサディスティックな癖が湧き出てきた。この柔らかい唇から卑猥な叫びを吐き出させてやるのだ。
 私は指で女の乳首をつねり上げた。
 ンーーーッ!口づけの隙間から奇妙な叫びが上がる。
 なんだその叫びは!間違いなくマゾの叫びではないか。私は更に乳首を捻りながら舌を最奥へと射し入れた。
 私の口周りには女の鼻息が当たる。その艶かしさに呼応するように、私は唇を吸うだけ吸って、そのまま身体を押し倒した。
 イヤンッ!咄嗟に出た女の叫びなどもう気にしない。ベッドの上、私は強姦魔のつもりで股がったまま乳房にシャブりついた。
 目の辺りを仮面に覆われているが、そんな事はどうだっていい。匂いを嗅ぐようにジャブってやる。


 あぁ、乳首がビンビンに反応してるではないか。口からはくぐもった声が漏れてくる。間違いなく女は感じている。たっぷりシャブったら次はアソコだ。
 乳房から唇を這わせながら下腹へと進める。直ぐに口元が毛に触れる。あぁ、確かに剛毛だ。
 先だってのマジックミラー越しに曝されていた剛毛がこれなのだ。さぁ、この奥の秘密の部分を見てやるのだ。
 私は熟した股間の匂いを吸い込み、そして腿の内側に手を当てた。なるべく乱暴に、ガバッと拡げてやった。女にも覚悟を決めさせてやる。


 仮面越しの目に映ったのは、奇妙な生き物だ。
 ソレは仄暗い灯りの下で、パクパクと呼吸してるようだ。私はその左右のビラビラを鼻先で押し拡げて、唇を持っていった。そして、思い切り音を鳴らしてやる。
 ジュルジュルッ!
 ジュルジュルッ!
 ジュルジュルッ!


 ンアーーーッ!
 女の喘ぎが、暗がりを引き裂いた。
 私は泥濘に射し込んだ舌を回しながら、恥豆も責めてやる。
 ビンビンに尖った突起を舌で転がし続けてやる。
 上目遣いに目線を上げれば、左右の乳房の間に口を手の甲で押さえる仮面の女だ。声を出さないように必死になってやがる。私の責めに間違いなく感じているのだ。身体が、ますます熱くなっていくではないか。次の責めはアソコだ。


 私は女の片膝を持ち上げて、横向きにして尻にピシャリとムチを入れてやる。女も心得たものか、腰を浮かせて四つん這いになっていく。
 その丸みは暗い灯りの下でも、輝いて観(み)える。大きさは…あぁ、覚えのある大きさだ…。
 頭に血が昇っていき、尻の肉厚を両手で鷲掴んでそのまま上下左右にコネクリ回してやった。その中心で歪(いびつ)にゆがむ不浄の門。ソコを凝視してやる。


 ーー尻(ケツ)の穴 丸見えだよ。
 心の中で卑猥な声を掛けてやった。その言葉に私自身の身体がブルっと震えた。気がつけば私はアナルに舌を射し込んでいた。そしてソコを抉るように舐めてやる。ヒクヒク匂いを嗅ぎながら、唾液まみれにしてやる。


 ーー以前は尻(ケツ)の穴を見られのが恥ずかしいってか。でも今は嬉しいんだろ。
 おい、どうなんだよ。
 ほら、マンコ拡げてお願いしてみろよ!
 心の問いかけに、女穴がヒクヒク返事をした。
 私は股間の男根を握ってみる。間違いない巨(おお)きさだ。
 あぁ…遂に…。
 私の先っぽから我慢の汁が溢れてるではないか。
 コレを目の前の穴に射れるだけで良いのだ。後は勝手に反応して、快楽の局地に導いてくれるのだ。


 そして私は、女の膣(アナ)にソレをぶちこんだのだったーー。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 日曜の朝、私は目を覚ますと重い眼(まなこ)を擦って朝陽が射し込む窓に顔を向けた。
 起き上がって、そのバルコニー側のカーテンを開けてみる。そこには、いつもの朝の眺めだ。
 夕べの淫靡な夢を想いだしてみる。窓に貼り付いてあったディルドを中腰になって咥え込んでいた女だ。と、股間の硬さに気がついた。朝勃ちというやつだ。
 私は一物を握って苦笑いをすると、気付かれませんようにと念じながら部屋を後にした。


 リビングに行くと、今朝も妻の久美子が忙しそうに働いていた。ダイニングのテーブルには朝食用のパンケーキ。心が病んでなければ、平和な朝の風景なのに。
 朝食を腹に詰め込みながら、妻の様子を探った。目は自然と下半身に向く。既に外行きのスカートで、その短さは妻の“本気度”を考えてしまう。今日の相手は、私の知らない男だったりして。


 彼女が屈んだ。シンクの前、食べ残しでも床に溢したのか。
 こちら向きの後ろ姿から、臀が突き上がって来る。
 無防備な臀だ。いや、挑発しているのか。それともその膨らみを誰かに捧げようと曝しているのか。
 あぁ、スカートを捲ってみたい。夕べの女のように、アソコでディルドを咥えているのでは。私の股間が再び硬くなってくるではないか。
 その時、彼女が振り向いた。


 「あなたは、今日はどうされてますか」
 「へ、ああ、僕かい。僕は…」
 「また古本屋ですか」
 「あ、そうだね…。そうしようかな」


 どことなく冷たく感じた妻の言葉に、私は萎縮してしまった。私を見る彼女の目に、小馬鹿にしたような色が浮かんでみえたのだ。
 そんな彼女に気後れを感じて部屋に戻る事にした。
 部屋に入ると、ヤキモキしながら色々と考えた。そして頭を整理するーー。


 ーーこのところ感じていた妻への疑心は、教え子の相談事だった。共通の知人、秋葉先生の娘さんがストーカー被害にあっていたのだが、それは一応の解決をみた。
 直近の“黒子“騒動も、歳の差夫婦の奈美子さんとは別人であると確認出来た。
 あと残っているのが、友人の方の奈美子さんの事だ。その女性(ひと)が問題なく本物の奈美子さんと判れば、全てクリアーなのだ。いや違うか。半年前からしている“好きな事”、それだけが残るわけだ。しかし、まずは今日の尾行だ。
 私はそこまで頭を整理したところで、渋谷君にメールを送る事にした。今、何処にいますかと簡単な一文だ。


 返信が来たのは、10時半になる時だった。
 直ぐにメールを開けてみる。
 渋谷君は既にコンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいるとの事だった。私はホッとすると、落ち着いて返信をした。


 《朝から御苦労様です。
 妻の方はそろそろ出掛けそうな雰囲気です。
 出れば直ぐにメールします。
 私の方も少し遅れて家を出るつもりです。
 今日は小まめに連絡を取り合いましょう。 よろしくお願いします!》


 返信し終えた私は、今日の尾行を妄想してみた。
 妻は間違いなくバスで最寄り駅に向かう筈だ。そのバスには渋谷君がこっそり乗っている。私は一本遅れのバスに乗るつもりだ。勿論、時刻表も調べてある。
 バスが駅に着けば、渋谷君から細かい連絡が来るだろう。そして、妻の相手が友人の奈美子さんなら目的の半分以上は完了だ。その二人が怪しげな遊びをするとは思えないし。


 妻の久美子は予想通りの時間に家を出た。その事をメールで連絡して暫くすると、渋谷君からターゲットを確認できた、同じバスに乗り込めたと報告が来た。
 こちらも直ぐに家を出て、予定通りのバスに乗り込んだ。


 私の乗ったバスが駅に着いてからも、渋谷君とのメール連絡は上手くいってくれた。妻が電車に乗り、M駅で降りたと連絡があった時は流石に不穏なものを感じたーーまたM駅かと。しかし直ぐに、改札の前で女性と落ち合ったと報告があった時はホッとする私がいた。
 その次の報告では、相手の女性は髪型がショートボブで体系も雰囲気も妻と瓜二つ(うりふたつ)との事だった。それは間違いなく学生時代からの友達の奈美子さんだと、安堵の気持ちを感じていた。


 私は2、30分遅れで妻を追っていたわけだが、北口のカフェに入ったと報告があったところで一旦考えた。そう、渋谷君の事だ。妻の相手が友人と判れば目的は達成で、彼は帰ってしまうかもしれない。私としてはまだ居てほしいのだ。
 そんな事を考えながら、渋谷君に今いる場所を聞いてそこに向かった。
 彼を見つけたのは目的のカフェが観(み)える場所…と云っても、彼は電柱に身体を隠すようにして私を待っていたのだった。


 私は「渋谷君、御苦労様。色々とありがとうございます。けど、M駅とはびっくりしましたよ…」と、苦笑いを浮かべながら話し掛けた。
 渋谷君の様子は、何かを思いつめている感じだった。彼の口からはーーしょうがないですね寺田先生は心配性でーーでも良かったじゃないですか奥様の相手が男じゃなくて…なんて言葉が返って来るかと想像していたのに…。
 彼は「奥様達は、ほらあそこです。ここから見えますよね、窓際の後ろの席です」と、視線を投げて伝えてきた。その声も何処となくな重そうな感じだ。
 それでも私は視線をカフェの方に向けると、妻とその前に座る女性の姿を認めて頷いた。


 「うん、間違いなく妻の久美子ですよ。ありがとうね。ところで大丈夫?なんだか元気がないみたいだけど」
 「ヘ、ああ僕ですか。僕は大丈夫ですよ、はい…」


 私は心配そうに、もう一度彼の顔色を覗いてみた。
 すると「奥様の相手も問題のない女性(ひと)ですか」と、硬い声だ。
 彼のその声にもう一度窓際に座る二人に目をやった。
 「ああ、はい。髪型もショートボブだし、あれが友達の奈美子さんで間違いないと思います。それにしても似てるなあ…」
 「そうですよね、僕も最初見た時は双子かと思いましたよ」
 双子は大げさだと思いながらも「渋谷君、なんだかお疲れみたいだね」と声を返した。
 「いや、ちょっとばかし寝不足なだけですよ」
 その言葉に何となくだが納得がいった。確かに彼らくらいの年代は、夜型で朝は弱いのだ。私は黙ったまま頷いている。
 そんな私に彼が続けて来る。
 「先生、暫く二人を見張りますよね」
 彼のその言葉に背筋が伸びた気がした。私は「そ、そうだね」と呟いて「渋谷君は…」と尋ねてみた。
 「ああ勿論、僕もご一緒しますよ。ちょっと気になる事もあるし」
 見れば渋谷君の眼が、光った気がする。


 「僕、店の中に入ってもう少し近くから見てきますよ」
 そう告げて彼は、それまで手にしていたキャップを被って見せた。ポケットからはサングラスだ。
 カフェに向かう後ろ姿を見送りながら、私はスマホを取り出した。
 ここからカフェの窓まで10mチョッとか。スマホのカメラ機能をズームして覗いて見る事にする。そして当然、写真も撮っておく。
 3枚ほど写真を撮ったところで、その画像を確認しようと電柱の影で背を向けた。
 手元で広げてみる。妻は横顔、前に座る女性は私の方、こちらを向いているところだ。
 私は画像の中ーー奈美子さんを見詰めた。以前、妻から見せて貰った時以上に久美子とそっくりな気がする。渋谷君が双子みたいと云った理由も納得がいく。


 電柱からそっと顔を出して、もう一度妻達の様子を覗いて見る。彼女達のお喋りは続いているようで、奈美子さんの斜め後ろの席には渋谷君の姿も確認する事が出来た。
 頭の中にムラムラと盗撮者の気持ちが湧いて出て来た。いや、支配者か。いつかの妄想の場面が浮かんでくる。


 ーーさぁ久美子、テーブルの上に乗って全てを曝すんだ!
 ーーお前は好奇の視線に曝されるのが堪らないんだろ。
 ーーさぁ脱げ!
 ーー尖り立った乳首を見てもらうんだ。
 ーーマンコも自分の指で拡げて見て貰え!ドドメ色に変色したお前の嫌らしいマンコだ。
 ーーほら早く!


 その時、私の横を通り過ぎるカップルに気が付いた。彼らは訝(いぶか)しそうな目を向けていた。あぁ、無意識に一人言まで呟いていたのだ。
 身体中がカーっと熱くなって行く。顔から火が出そうだ。あぁ、怪しげな男を演じてしまっている。


 そして私は、俯いて溜息を吐き出した。そこから視線を上げれば妻達が立ち上がるところだ。
 渋谷君は?そう思いながらも、電柱で影になるように身を隠した。妻達がこちらに来ないようにと願いながらだ。
 それからどれ位、縮こまっていただろうか。メールの着信音にゆっくりスマホを開けてみ…と思ったら電話だ。画面に『渋谷優作』の文字。


 『先生、奥様達は駅のエスカレータを登ってますよ』
 『は、はい。直ぐに追いかけます』
 私は云うなり、スマホを耳に当てたまま歩き出した。
 渋谷君の後ろ姿を見つけると小走りになっていく。耳には『あれ、南口に行くのかな…』渋谷君の呟きが聞こえてくる。
 それからは通話状態のまま、渋谷君の呼吸音だけが聞こえていた。
 私の頭の中には『南口』のイメージが浮かんで来ていた。膳と悪が同居してる怪しげな街の姿だ…。
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 カフェで渋谷君と分かれた私は、真っ直ぐ家に向かった。
 夜になると妻の久美子も帰ってきたが、彼女の表情(かお)はどことなく浮かないものだった。 

 
 「お帰り。あの、どうだったのかな…デートは」
  妻を迎えた私の声には、緊張が混ざっていた。 “デート”の言葉を使ったのは、私なりの妻への探りだ。妻は私の言葉に「えっ…奈美子の事ですよね」と、彼女の声にも緊張が混ざっている。私は目で、そうだよ、と告げて頷いてみせた。


 「ああ…はい。それが実は、奈美子の体調が悪くて延期になったんですよ」
 「え、そうだったの」
 「はい。それで明日、お昼頃から会う事になったんです」
 「…じゃあ、今日はどうしてたの」
 「今日ですか…。奈美子からメールが来た時は駅に着いていたので、一人でショッピングモールに行ったり、後はカフェを2軒ばかし寄ったりしてましたわ」
 「ああ、そうだったのか…」
 それは短いやり取りであったが、心の中に不穏めいたものを感じていた。妻の方はそそくさとキッチンに足を運んでいる。


 彼女が冷蔵庫に手を掛けた時だ。その後ろ姿に、帰り際に考えていた事を思い出した。そう、念の為に黒子(ほくろ)を観(み)ておこうと思っていたのだ。
 その試みは上手くいってくれた。冷蔵庫を覗く素振りで近づくと、ソレはすんなりと確認する事が出来たのだ。
 見た瞬間にはーーあぁやっぱり“歳の差夫婦”の奈美子さんの“もの”とは違ってるじゃないかと、そんな声が聞こえた気がした。


 そんな私を「あら、あなた」妻がこちらをジイっと見詰めていた。
 「髪の毛が…」
 今更のその一言に心臓が縮み上がった。ホテルからの帰り、途中駅のトイレでいつもの髪型に直したつもりだったのに。
 それでも妻は「あなた、お風呂がまだならどうぞ。私は後でいいですから」と、それ以上に気にする素振りもなく呟いた。
 私はぎこちなく頷くと、逃げるようにバスルームに向かったのだった。


 脱衣所で下着姿になった時だ。 “その”事に気づいて、パンツを脱ぐと広げてみた。
 それは浮気の跡がないかの確認だった。
 問題の部分に顔を近づけてみる。どうやら精液の臭いも跡もないようだ。ホテルでシャワーを浴びたので大丈夫だと思っていたが念の為だった。
 私はふうっと息を吐いて、湯船に向かった。
 身体はいつもより丁寧に洗っていた。これが浮気した者の習性なのか。果たして私に妻を追求する資格はあるのだろうかと、色んな事を考えた。


 風呂から上がると真っ直ぐ自分の部屋に行く。
 イスに座れば直ぐそこにパソコンがある。が、今夜もそれを開くつもりはない…筈だったが、私は一旦ドアを振り返ってから電源を入れた。
 このパソコンを開くのは、妻に性癖を知られてからは初めてかもしれない。
 とは言え、エロサイトだけが目的ではないのだ。そんな何気な気持ちで検索サイトを立ち上げてみれば衝撃の…いやいや見慣れてしまったニュースの見出しに目がいった。


 【教員夫婦が自分達の裸を未成年に!】
 その文句に風呂上がりの身体が、更に熱くなるのを感じた。
 身体を前屈みにして読み始めてみる。


 記事に出ている教員夫婦は、九州にいる40代の中年夫婦だった。
 二人とも小学校で教鞭をとっているようで、その夫婦が公園の砂場で遊んでいた4 、5人の児童の前で露出プレイをしたみたいだ。
 素っ裸の上にコートだけを羽織った奥さんが、いきなりガバっと開げたらしい。旦那の方は、その様子をこっそり撮影していたとか。


 これまでも教師が教え子を盗撮したり、痴漢、それに買春に売春、そんな同じ職の人間の不祥事や事件をイヤというほど見てきた…いや、実際に目にしたわけではないが、事実として受け止めてきた。
 どこの学校でもそうだろうが、この類の事件があった日には、学校長からの注意と訓示めいたものがあったものだ。しかしそれも、回数が増すに連れて慣れたものになってしまった。そして、教師の職が長くなるに連れて同情の気持ちが強くなっていった。それは勿論、加害者への同情だ。
 教師という職業は、それほどストレスの溜まるもので、たちの悪い事に病的なものが多いーーと思っている。


 私は記事にある教員夫婦の様子を頭の中で想像してみたーー。
 広い公園。
 砂場で健気に遊ぶ子供達。
 平和な日常の光景だ。
 そんな平和な場面を息を殺して見詰める夫婦。
 彼らにとっては、初めての“露出”では無かった筈。
 魔が差してやった初めての行為が、きっと病みつきになったに違いない。
 話を持ちかけたのは夫の方ではなかったか。
 夫に“その手”の癖があったのは、想像が付く。それが溜まりに溜まったストレスで解放に向かってしまったのだ。
 妻の方は、その話を持ち掛けられた時にどんな事を考えたのだろうか。元々、その手の願望があったのか?
 どちらにせよ、妻も夫の企みに乗ってしまったわけだ。そして“嵌って“しまったのだろう。


 それにしても、私より上のキャリアの先生が露出プレイをしたなんて。
 しかし私の中には、この夫婦に対する軽蔑など全くない。
 あるのは同情とシンパシー。そして、素直に羨ましいという気持ちだ。そう、その気持ちもあるのだ。私達だって…このまま教師を続けて行ったら…。


 そんな露出夫婦の事を想っている時、大切な事を思い出した。尾行の事だ。
 久美子は明日の昼頃から奈美子さんと会うと云っていた。とすると、家を出るのは11時頃か。
 渋谷君の言葉を思い出してみる。彼は前に、このマンション近くから尾行を始めてもよいと言ってくれた筈だ。私は頭の中を整理してメールを送る事にした。


 返信が来たのは、ベッドに潜り込む寸前の時だった。
 彼はこちらの急な依頼にも快(こころよ)い返事をくれた。


 《畏まりました(笑)
 ご自宅の近くにコンビニがあるのがネットで分かりました。
 そこはイートインスペースがあるみたいなので、11時前にはそこに入って時間を潰してます。
 奥様が家を出たら連絡をよろしくです!》


 彼からのメールを読み終えた時には、そのコンビニの様子が頭に浮かんでいた。
 我が家もよくお世話になるコンビニだ。イートインスペースがあるのも、もちろん知っている。うん、あの席に座ればマンションのエントランスが見える筈だ。
 渋谷君によろしくお願いしますと返信を送って、私はベッドに横になり天井を見上げた。


 常夜灯の暗さの中、目はシッカリ開いている。昼間にあった気疲れは、今は不思議と感じない。
 私は先ほどネットで読んだ露出夫婦の事をもう一度考えてみた。
 彼らは捕まらなければ、これからも露出行為を続けたに違いない。そしてプレイは、間違いなくエスカレートして行った筈だ。その行為に歯止めは、あっただろうか。どこかのタイミングで神田先生のような人と出会えれば、カウンセリングを受け、秘密裏に変態プレイを行える場所を提供されたかもしれない。
 しかし、そんな願望を持った教員が神田先生に出会えたとしても“失敗”して世間の晒し者になる事だってある筈だ。
 そう、 “歳の差夫婦”だってギリギリだったのだ。
 あの御夫婦は渋谷君にそそのかされたとは言え、自宅の部屋のカーテンを開けて、隣のマンションに向かって局部を露出しているのだ。


 私はフト想った。私もやっていたのだと。
 酔ってたとはいえ、この部屋のカーテンを開けて惨めな格好で淫部を曝したのだ。そう、隣のマンションの窓、窓、窓に。


 身体がモゾモゾと蠢き始めていた。部屋の空気もザワザワと鳴っている。何かに導かるたように私は起き上がった。
 バルコニー側のカーテンの前に立って、隙間から外を覗いてみた。向こうのマンションの窓に薄っらとしたシルエットが見える。他も見てみれば、同じような影があるではないか。
 ゴクリ、喉が鳴った。


 向こう側の影、影、影に目を向けながら、パジャマのズボンに手をやった。
 テロンと露出される局部。ソレを右手で握ってみる。2、3度擦るとみるみる大きくなっていく。私はソレをカーテンの隙間からガラス窓に押し付けた。隙間をもう少し開けて、顔も近づけた。
 こちらは常夜灯。向こう側から私の姿など見える筈がない。私はヤモリになって股間を更に強く押し付けた。
 意識の奥から湧いて出るのは、奈美子さん。そう、歳の差夫婦の奈美子さんだ。
 あぁ、あの女(ひと)と鏡の前で中年に差し掛かった身体を見せ合って、刺激を得たい。世間に顔向け出来ないような秘密の行為を、聖職者同士で愉(たの)しみたい。
 あぁ…異様にアソコが硬くなっている。この惨めな姿も見られたい。軽蔑の視線を浴びてみたい。
 そうだ、久美子とも。
 久美子にカミングアウトして、変質者の世界に一緒に行かないかと話してみようか…。


 と、眼の前のガラス窓に小さな“何か”が張り付いている。
 それこそヤモリか。
 私は屈んでソレに目を近づけた。手を出して触れてみようとしたが、ソレはバルコニー側に引っ付いてある。
 その時、気配を感じた。人がいる。バルコニーに裸の女だ。
 瞬間、ゾゾゾと悪寒が走り抜けた。
 こちらに向いているのは、括れれた腰回りに豊満な臀。間違いなく一糸も纏わない裸の女性だ。
 その女が足を肩幅程に拡げて前傾に倒れて行く。
 豊満な臀が、膨れ上がって目の前に寄って来る。その迫力に私の身体は後退りしそうになった。女の股ぐらからは、手が伸びてくるではないか。そして“ヤモリ”を掴んだ。
 いや違う。ソレはアレだ。エロ小説や動画でもよく見たヤツ。
 ヤモリと思ったのはディルドだ!
 女がディルドを扱きながら破れ目に充てている。
 みるみるうちに飲み込まれていく卑猥な性具。同時に巨大化した臀が揺れ始めた。
 私は結合の部分に顔を寄せて、抉るように見詰めた。ふと、頭の中に渋谷君の言葉を思い出した。歳の差夫婦のご主人が、妻の奈美子さんと渋谷君の繋がりの部分を舐めた話を思い出してしまう。
 そんな私は、無意識に舌を出していた。そして、ディルドが女穴に挿し込まれてる部分に舌を当てた。
 冷やっとしたのはガラスに舌が当たったからだ。しかし、向こう側に突き破らんとばかりにガラスに舌をねじ込んだ。


 いつの間にか股間はカチカチだ。私は立ち上がると、中腰になって股間をディルドに向かって…ガラス窓に押し当てた。そして腰を振り始めた。
 ガラス1枚を隔てた疑似セックスだ。


 女の臀(ケツ)の揺れが激しくなっていく。私の身体も揺れてくる。
 女が地べたから手を離して中腰だ。そして振り向き、髪を掻き上げた。
 あ、黒子!
 私の様子に女がニヤリと笑った。瞬間、サーっと暗い幕が降りてきて…。
 私はハッと我に帰った。
 あぁ…又とんでもない夢を…。
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 ーー私はカフェで渋谷君が来るのを待っていた。
 この窓際の席からは、先程までいたホテルの姿を遠目ながら見る事が出来る。
 下の階から上に数えていって10の所で目を止める。
 あの部屋だっただろうかーー。
 今頃あの御夫婦はどんな事を考え、何をしている事やら。奈美子さんが私との“行為”の様子をご主人に話し、ご主人はそれを聞いて嫉妬の炎を燃やしながら奥様を責めているのだろうか。
 私の頭の中で繰り返されるのは、彼女が絶叫を上げたシーン…もあるが、その時目に映った一点だ。
 そう、まさに一点。四つん這いの肢体に後ろから私の硬直したソレを突き刺し、絶頂に導いた瞬間に目に映った首筋。
 ズボズボ厭らしい出し入れの音を聴きながら、私は彼女の耳に掛かる髪をまさぐった。
 ショートボブの髪が振り乱れ、耳たぶの下辺りに目をやった。
 そこには黒子(ほくろ)が有ったのだ!
 仄暗い灯りの下で、やっとその場所を見る事が出来たのだった。
 同時に心と身体が沈んで行く気がして、思わず一物を引き抜いてしまった。
 腰が止まった私に、喘ぎの声を上げていた肢体が振り返って、私達は見つめ合った。
 この女は…やはり…あぁ…。


 しかしだ『止めないでッ!お願いもっと突いてッ、突いて下さいッ!』
 その声に衝撃が走り抜けた。
 違うっ!久美子の声ではない!


 私の驚いた様子など気にする事なく、女ーー奈美子さん(?)が膝歩きで寄ってきた。そして私の物を咥えた。
 股間のソレは、再びヌルヌルになっていった。
 卑猥な舌使いを感じながら、奥様の右側の髪を掻き上げた。そして、もう一度確認しようと試みたがよく見えなかった。
 そこで私は、腰を浮かせながら一物を引き抜き抜いて、奥様の手を取って通路の壁にあった姿見の前へと連れて行ったのだ。


 姿見の前も薄暗いスペースだった。私は身体を出来るだけ鏡に近づけた。
 すると、直ぐに奥様が跪(ひざまづ)いて私の股間に唇を寄せてき。
 その唇からは『あぁ…嫌らしいィィ。変態女が映ってますわぁ』何とも言えない卑猥な響き。その声も間違いなく妻のものとは違っていた。
 と思った瞬間、私のソレはもう一度奥様の口の中へと飲み込まれていた。
 鏡の中はデジャブのようないつかのシーン。違うのは二つの顔が仮面に覆われている事だった。自分の髪型が滑稽に観(み)えたが、そんな事を気にする時ではなかった。
 私は跪(ひざまず)く女体を見下ろした。仮面を外してやりたい衝動が起こるが我慢する。


 鏡に映る奥様…奈美子さんのフェラチオは何とも厭らしく、快感の高まりと共に妻の口技との違いを意識してしまった。
 牡のシンボルは、あっという間に爆発の予兆を感じた。奥様が口を離して、信じられないような隠語を吐き出してきた。
 『アタシのアソコ、もう1度後ろから突いて下さぁい。アタシ、見ず知らずの他人(ひと)にオマンコを汚してもらいたいんでぇす。アタシ変態なんですよお』
 その声に導かれて、奥様の手を取り鏡に付かせた。そして、剛直を握ってアソコに先っぽを充てがった。
 泥濘を探して挿入すると、何かに急かされるように腰を打ち付けた。鏡の中の痴態を視ながら振り続けたのだ。


 理性は快楽に連れ去られそうになったが、私は奥様の耳たぶに掛かる髪をまさぐり問題のヶ所に目をやった。
 確かに黒子はあるが、声は間違いなく違っている。
 『イャンっ見て!鏡の中のアタシ達、凄く厭らしいわッ』
 その声は堪らないくらいの卑猥なものだった。声は出さないでーーそんな約束はとっくに消えていたのだ。
 『ねぇぇアタシのオマンコ気持ちいいですかぁ』鏡越しに卑猥な声が続いてやって来た。
 『あぁ…はい。ぐしょぐしょのヌレヌレですよ。凄く気持ちいいですっ』私は導かれるように応えてしまっていた。


 身体は卑猥なやり取りに高揚を感じっぱなしだった。
 私は腰を振りながら結合の箇所を観(み)てみようと破れ目を拡げてやった。
 『あぁ入ってますよ奥さん。奥さんの大好きなチンポが変態マンコに入ってる所が丸見えだ。アナルがヒクヒクしますよっ』
 『いやんッ!厭らしいわ!もっと見て。もっと突きながら見て!』
 しかし…。
 耐えに耐えていた射精の瞬間が来てしまったのだったーー。


 ーー逝った後、私はバツが悪そうに姿見の前からベッドへと奈美子さんの手を引いた。
 しかし、浮気を経験した事のない私は、ここでどうすれば良いか分からなかった。そんな私に気が付いていたのか、奈美子さんがバスルームを指さしていた。


 奈美子さんがシャワーを終えた後は私も使わせて貰った。バスルームで仮面を外して鏡に自分の顔を見た時だ。一気に現実に引き戻され、それまでの“行為”を思い出してか身体が震え出した。
 妻を裏切った事実と、牡としての役目に納得いかなかった愚息に打ち拉(ひし)がれていたのだ。
 バスルームから出た時の奈美子さんの視線が恐かった。だが、我慢してそこを出た。勿論、仮面を着け直してだ。
 出てみれば渋谷君の迎えの姿を見て、ホッとした惨めな私だった。


 先に部屋に戻った私は、取り敢えず着替える事にした。
 着替え終えた丁度その時に、ドアが開かれた。渋谷君だ。
 『先生、すいませんけど、さっきのカフェで待ってて貰えますか。ご主人も上がってきたので、もう少し話を』と、入ってくるなり目配せして、直ぐに隣の部屋へと戻って行ってしまった。
 そして私は、今いるカフェにやって来たわけだ。
 彼が姿を見せたのは、それから20分ほど経った頃だったーー。


 「すいません。お待たせしました」
 少し息を弾ませた彼の表情には、安堵の色が見て取れた。当然、あの御夫婦に彼なりの気遣いがあったのだ。
 彼の様子に「ご苦労様…」私の口には自然と労いの言葉が付く。
 しかし、私の口調に重いものを感じたのか「先生、疲れました?」と、心配そうに尋ねて来た。
 「いや、大丈夫ですよ」即座に首を振る私。
 それでも彼は、こちらをシゲシゲと眺めながら「本当ですか。思ったより早かったみたいですけど1発でした?」悪戯っ子のような笑みで訊いてくる。
 「えっ、ええ、まあね…」
 「そうですか。ふふっ、大丈夫ですよ。緊張で先生が勃(た)たなかったらどうしようかと、実はそっちを心配してましたから。ああ勿論、先生もそうですけどあっちの先生方にも悪いですからね」
 「あぁ、そうですね…」絞り出すように返事をした私だったが、早漏(はや)かったんですよ、とは言えなかった。


 そんな私は、話しの視点を変えたくて「ところで渋谷君さぁ、ご主人は何処にいたの?ずっと喫茶室?」と尋ねてみた。
 「ああ、ご主人ですか。ご主人は寺田先生が奥様の部屋に入って直ぐ、電話でこっちの部屋に呼んだんですよ。先生を迎えに行く時は一旦又、下に行ってもらいましたけどね」
 「そうだったんですね。私と顔を合わすと気まずいですもんね。それで、部屋にいる時はどんな感じだったんですか」
 「それがですね、部屋の中をウロウロしたり壁に耳を当てたり色々やってましたよ。自分から声は出すなって指示してたし、聞こえる筈もないのにね」
 彼の言葉に心臓が一跳ねした。まさか“アノ”声が訊かれていたのかと。


 「まぁでも、ご主人はご主人なりにムラムラモヤモヤ興奮してたと思いますよ」
 「………」
 「で、寺田先生の方はどうだったんですか」
 「え、どうと云うと?」
 「ん、あっちの奥様の身体ですよ。満足出来たんですか」
 「はぁ、まぁ一応…」
  私の答えに、渋谷君が意味深な目を向けながら「ふふふ」と笑いを浮かべた。
 「寺田先生、その云い方だと相手の奥様は久美子さんではなかったわけですね」
 あッ!改めて指摘されて慌てて頷いた「そ、そうなんですよ。申し訳ない。実は声…奥様が声を出してしまって、それが妻とは全然違ったんです」
 無意識に謝罪の言葉までついた私だったが、渋谷君はニコリと頷いた。同時にスマホを取り出した。
 見ればメールだろうか、画面を覗き込んでいる。
 私は彼を横目に、もう一度奈美子さんとのあのシーンを思い出してみた。右の耳たぶの下には確かに黒子(ほくろ)があった。あれは“白昼夢”ではなかったかと改めて自分に言い聞かせたのだーー。


 と、渋谷君の声だ。
 「先生、ご主人からのメールですよ。読みましょうか。いいですか。えっと『色々とありがとうございました。妻は想像以上に興奮したみたいです。御相手の先生のぺニスが自分に合ったのか、異様に気持ち良かったみたいです。私の方も妻の話に大興奮で、アソコがビンビンになってハッスルしました(笑)』…ですって先生」
 メールの内容に一瞬の安堵を覚えたが、直ぐに奥様の謙遜が入ってるのだろうと、私は却って自分の情けなさを自覚してしまった。


 「………」
 「先生、それにしたって良かったじゃないですか。相手は奥様の久美子さんじゃなかったんだし。おまけに奈美子さんとの身体の相性も良かったわけだから。奈美子さんもメールにあった通り満足したんですよ。そうそう、僕が別れ際の挨拶をしてる時も仮面を着けたまま俯いてましたね。やっぱり初めてのお相手だから恥ずかしかったんでしょうね」
 「ええ…そうかもしれませんが、でもね」
 「ん?ひょっとして浮気をしてしまったとか嘆いてます?」
 「そ、それはそうだよ」
 「………」


 渋谷君は私の言葉に口を閉じてしまった。
 沈黙の間に私は、繰り返しコーヒーを口に運ぶ。
 やがて。
 「お気持ちも分からなくはないですが、先生だって切っ掛けがあれば奥様を寝取られたいとか、ご自分も淫靡な世界を経験してみたいとか思ってたわけですよね」
 改めて“それ”を告(い)われると、ぎこちなくも頷いてしまう。確かに渋谷君の指摘は当たっているところなのだが。


 「ふふっ、まぁ先生の性格も分かってきたつもりですから、ここで責める気はありません。でも、神田先生も云ってましたけど寺田先生みたいな真面目な人に限って、嵌まると凄いと思ってますけどね」
 あぁッ、それは先日の酒の席でも先輩ーー大塚先生からも告(い)われた事だ。


 私は息苦しさを覚え始めていたが、その時彼が思い出したように訊いてきた。
 「そうだ。そうなると奥様の久美子さんが云ってた“半年前からしてる好きな事”。それって分からないままですよね」
 「そ、そうなんですよ。実は今日も、妻は友人の方の奈美子さんに会うと云って出掛けてるんですよ」
 「え、奥様の友達にも奈美子さんって方がいるんですか」
 「ああ、そうなんですよ。凄い偶然なんですけど…」
 「なるほどね。じゃあ、奥様はそっちの奈美子さん会うと云って、実は浮気の最中だったり…な~んてね」
 「あぁ…」
 「ふふふ…」


 渋谷君が口元を歪めながら意味深な目を向けている。
 「では先生、また機会があれば尾行してみますか。前にも云いましたけど、僕なら協力しますよ。はい、悩み多き中年教師の為なら身体張りますから。へへっ」
 「あ、ありがとうございます」
 素直に感謝の言葉が口に付いた私だった。
 しかし、その尾行のチャンスはいつ来るか分からない。妻が二日続けて…明日も出掛けるとは思わないし…。
 ところが…。
 この日、家に帰ると…。
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  ホテルのロビーは、かなりの人波だった。パッと見たところ、多いのは海外からの旅行者だ。私は彼等の視線さえ避けるように足を運んだ。前を行く渋谷君は慣れたものか、迷う事なく足を進めている。


 彼が足を止めたのは、エレベーターホールだった。そこは運良く、あまり人がいない。
 そこで彼は↑のボタンを押して「10階なんですよね」と呟いた。そして、周りの視線を気にしながら私の耳元に顔を寄せてきた。
 「係長、本日の接待ご苦労様です。先方の専務は既にお部屋にいらっしゃいます。社長の方は地下の喫茶室にお茶を飲みに行かれているようです」
 彼が私の緊張を解す為か“隠語”で状況を伝えて来た。そして小声で続けて来る。
 「係長、緊張してますよね。でも、ここまで来たら割り切って犯(や)っちゃって下さいね」
 「そ、そうですね…」
 「ふふっ、頑張って」
 私は彼の眼差しに「は、はい」と呟き、そして黙り込んだ。
 やがてエレベーターが到着して、上の階へと向かった。


 案内された部屋は、シングルタイプの思ったより狭い間取りだった。
 窓際に小ぶりなテーブルセットがあって、私達はそれぞれイスに腰掛けた。渋谷君が一呼吸置いて、私を真っ直ぐ見詰めてきた。
 そして。
 「では、奥様の方はシャワーを浴び終えてるでしょうから先生も…」
 その言葉に、口元を結んだまま立ち上がった。


 バスルームに入った私は、ジェルで固めた髪を濡らさないようにシャワーを浴びる。お湯の心地好さに目を閉じながらも、プレイのイメージを浮かべていた。
 ガウンに着替えてバスルームを出たところで「先生、はいコレ」渋谷君が手に持つソレを渡してきた。


 「あぁ、これが仮面ですか」
 「はい、着けてみて下さい」
 恐々と受け取って鏡の前で着けてみた。
 鏡の中に怪しい男が浮かび上がってくる。
 あぁ…これが私なのか。


 「フフフッ、まるで誰だか分かりませんよ。ええ、エロチックな感じです。うん、先生なら何でも出来ますよ」
 「あぁ…」
 「いいですか。先生はただの牡なんです。獲物を求める飢えた牡。相手は飢えた牝。飢えた者どうしで欲望をぶつけ合って下さい」


 彼の言葉を、鏡に映る仮面の顔を見ながら背中越しに聞いていた。
 その言葉は、不思議な感覚で身体の隅々に染み渡って行くようだった。同時に弱気な自分が消えていく気がするのは何故だろう。股間のアソコにも活力が満ちてきた気がする。これが仮面の魔力なのか。
 あぁ…犯(や)らなければならない。そんな気持ちが湧いてきた。


 「さぁ、そろそろ行きましょうか」
 声に私は、黙って振り返る。
 「そうそう、顔見せと声出しには気を付けて下さいね」


 渋谷君が先に廊下の様子を確認する。私は彼の合図で部屋を出る。
 彼の手には、隣の部屋のカードキーだ。それをドアノブの下の隙間に差し込む。解除の点滅があってドアが開かれた。
 私は素早く周囲を確認して彼に続いた。
 部屋は聞いてた通り、常夜灯だけで仄暗い。間取りは隣と同じようだが、薄暗くて奥の様子が分からない。


 「失礼します」
 薄暗い部屋の中に、透き通るような渋谷君の声。
 彼は足音を殺して奥へーーベッドの方へと進む。私も従うように着いて行く。
 彼が足を止めた直ぐその先、ベッドの端に腰掛ける後ろ姿を見る事が出来た。私と同じ白いガウンが、頼りない灯の下に佇んで観(み)えたのだ。


 「奥様、お連れ致しました」
 「………」
 「僕は一旦失礼しますけど、プレイが終わりましたら空メールを入れて下さい。直ぐにこちらの“先生”を迎えに参ります。では」
 渋谷君の畏まった言葉に、ベッドの後ろ姿が微かに頷いたのが分かった。
 彼はその後ろ姿に「ありがとうございます」落ち着いた声で告げて、そして私をチラリと盗み見した。その目にはどこか愉(たの)しげな色が浮かんでいる。


 渋谷君が出ていくドアの音を背中で聞いて、私は静かに深呼吸をした。そして、ゆっくりと近づいて行く。
 常夜灯の下、白いガウンになぜか神聖な気配を感じた。そして、私の手が白い肩に掛かって…。
 「………」
 無言のメッセージに、女が肩に置かれた私の手に自分の手を重ねてきた。私はその温かさに胸がキュンとなってしまった。
 シャワーのお湯のせいなのか、はたまた性への渇望が原因なのか“女”の熱さが伝わって来るようだ。
 その時、女が立ち上がって抱きついてきた。
 そして、私達は仮面越しに見つめ合った…と思ったのも一瞬で、私の唇は女に奪われていた。
 私の舌は女に絡み取られ、鼻の奥には香水の匂いが広がった。同時に背中がゾゾゾと粟立ち、意識の奥にあった“妻”の姿が霧に包まれていった。
 気づけば二人の口元から、嫌らしい音が立っている。
 ブチュチュ!
 ジュルジュルッ!


 声は出さないようにと云われていたが、この粘着音は構わないのか。その音の合間に渋谷君の声が聞こえてきた。
 『…相手は飢えた牝…飢えた者どうしで欲望を…』


 女の鼻からフンフンと嫌らしい音が聞こえている。間違いなく女の方は興奮している。
 女が舌を射し込んだまま、私のガウンの結び目に手をやって全てを剥ぎ取っていく。
 私を全裸にすると、次に女は自分のガウンを脱ぎ取った。そして私は、股間の物をギュッと握られた。ソコは女の手指によって、みるみるうちに硬くなっていく。


 反り上がったソレが二つの身体に挟まれたまま、私達は口づけを続けいていた。
 男根が感じる熱さはシャワーが原因なのか。それとも、コレが女の欲求に熱を発したのか。
 あぁ…女の鼻息がますます荒くなって行くではないか。この女は欲求不満が続いているのだと、自分に言い聞かせた。


 よし! “俺”が解放してやる。私の中にサディスティックな癖が湧き出てきた。この柔らかい唇から卑猥な叫びを吐き出させてやるのだ。
 私は指で女の乳首をつねり上げた。
 ンーーーッ!口づけの隙間から奇妙な叫びが上がる。
 なんだその叫びは!間違いなくマゾの叫びではないか。私は更に乳首を捻りながら舌を最奥へと射し入れた。
 私の口周りには女の鼻息が当たる。その艶かしさに呼応するように、私は唇を吸うだけ吸って、そのまま身体を押し倒した。
 イヤンッ!咄嗟に出た女の叫びなどもう気にしない。ベッドの上、私は強姦魔のつもりで股がったまま乳房にシャブりついた。
 目の辺りを仮面に覆われているが、そんな事はどうだっていい。匂いを嗅ぐようにジャブってやる。


 あぁ、乳首がビンビンに反応してるではないか。口からはくぐもった声が漏れてくる。間違いなく女は感じている。たっぷりシャブったら次はアソコだ。
 乳房から唇を這わせながら下腹へと進める。直ぐに口元が毛に触れる。あぁ、確かに剛毛だ。
 先だってのマジックミラー越しに曝されていた剛毛がこれなのだ。さぁ、この奥の秘密の部分を見てやるのだ。
 私は熟した股間の匂いを吸い込み、そして腿の内側に手を当てた。なるべく乱暴に、ガバッと拡げてやった。女にも覚悟を決めさせてやる。


 仮面越しの目に映ったのは、奇妙な生き物だ。
 ソレは仄暗い灯りの下で、パクパクと呼吸してるようだ。私はその左右のビラビラを鼻先で押し拡げて、唇を持っていった。そして、思い切り音を鳴らしてやる。
 ジュルジュルッ!
 ジュルジュルッ!
 ジュルジュルッ!


 ンアーーーッ!
 女の喘ぎが、暗がりを引き裂いた。
 私は泥濘に射し込んだ舌を回しながら、恥豆も責めてやる。
 ビンビンに尖った突起を舌で転がし続けてやる。
 上目遣いに目線を上げれば、左右の乳房の間に口を手の甲で押さえる仮面の女だ。声を出さないように必死になってやがる。私の責めに間違いなく感じているのだ。身体が、ますます熱くなっていくではないか。次の責めはアソコだ。


 私は女の片膝を持ち上げて、横向きにして尻にピシャリとムチを入れてやる。女も心得たものか、腰を浮かせて四つん這いになっていく。
 その丸みは暗い灯りの下でも、輝いて観(み)える。大きさは…あぁ、覚えのある大きさだ…。
 頭に血が昇っていき、尻の肉厚を両手で鷲掴んでそのまま上下左右にコネクリ回してやった。その中心で歪(いびつ)にゆがむ不浄の門。ソコを凝視してやる。


 ーー尻(ケツ)の穴 丸見えだよ。
 心の中で卑猥な声を掛けてやった。その言葉に私自身の身体がブルっと震えた。気がつけば私はアナルに舌を射し込んでいた。そしてソコを抉るように舐めてやる。ヒクヒク匂いを嗅ぎながら、唾液まみれにしてやる。


 ーー以前は尻(ケツ)の穴を見られのが恥ずかしいってか。でも今は嬉しいんだろ。
 おい、どうなんだよ。
 ほら、マンコ拡げてお願いしてみろよ!
 心の問いかけに、女穴がヒクヒク返事をした。
 私は股間の男根を握ってみる。間違いない巨(おお)きさだ。
 あぁ…遂に…。
 私の先っぽから我慢の汁が溢れてるではないか。
 コレを目の前の穴に射れるだけで良いのだ。後は勝手に反応して、快楽の局地に導いてくれるのだ。


 そして私は、女の膣(アナ)にソレをぶちこんだのだったーー。
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 職場の中学に着いた私は、席に座ったとたんにドッと疲れを感じた。
 二日酔いの怠さがあるのは勿論だが、今朝の車内での悪夢が重くのし掛かっていたのだ。
 私は重い眼(まなこ)で時計を見た。今朝は同僚達と擦り合わせをしておく事項もない。時間が来るまで目を瞑って、暫し心を休める事にする。


 瞼の裏に蔓延っているのは、久美子と女子高生が戯れる姿だ。いや、弄(もてあそ)ばれたシーンだ。
 立ったままガニ股開きした女子高生の股間を、妻が膝まずいた姿勢で舐めるシーンが浮かんで来た。
 女子高生が吐いた言葉が蘇る。


 ーーあぁんッ、気持ちいいわ。
 久美子先生、アタシのクリトリスいっぱい転がして!


 喘ぎ声を上げる彼女の股間をシャブりながら、押し倒されるように久美子は布団の上で仰向けになっていった。そして、妻の口の上、ウンチングスタイルで股間を押し付ける女子高生。彼女の口からはニュルっと舌が露(あらわ)れて…。
 あぁ、疑似3Pだ。
 妻は彼女の“ソコ”を舐めながら、自分のアソコに手を当てていた。恥豆を弄(いじく)りながら、泥濘に指を送り込んでいる。
 彼女の舌使いが激しくなっていく。目に見えぬ牡の直棒を舌で絡みとっている。
 この娘(こ)は本当に高校生なのか。まさか秋葉先生の娘さんなのか。
 そんな事を一瞬考えた私に、彼女は目を開けて嘆きの視線を向けてくる。
 と、その時聴きなれたチャイムの音に目が覚めた。
 私はゆっくり目を開けると、欠伸を我慢して伸びをしたのだった。
 この日、一時間目から教壇に立った私は、明日は土曜日と言い聞かせて自分にムチを入れた。
 昼休みには流石に空腹を覚えて、昼食を腹に詰め込んだ。
 そして一服した時だ。スマホの振動だ。


 この時間帯にメールが来るのも、もう慣れた。
 渋谷君を思い浮かべて開けてみた。


 《寺田先生、お元気かな。
 神田です。
 大塚君と一杯やったみたいだね。それで彼から聞いたのだが、先日話した教員夫婦の奈美子さんと、君の奥様が同じ人物ではないかと疑心があるんだね。
 あなたはハッキリさせたい性格だろうから渋谷優作君に相談しておいた。それで、良い方法を思いついたので伝えておく。
 あちらの御夫婦に3Pプレイを提案する事にした。勿論3人目は貴方だ。直接向こうの奥様、奈美子さんと肌を合わせて確かめてみるのが良い。渋谷君が既に向こうと連絡を取っていて、返事も直ぐに来ると思うので待っていてもらいたい。
 それと、プレイには互いが仮面を着けて素性が分からないようにする事も合わせて提案しておく。
 では》


 メールの内容に衝撃を覚えつつ、読み終えた時には先輩ーー大塚先生の顔を浮かべていた。
 間違いなく、先輩が私の引っ込み思案な性格を読んで動いたのだ。先輩は今朝、私にメールを送った時には神田先生にも送っていたのだ。
 向こうがもしOKして来れば、こちらも覚悟を決めないといけではないか。あぁ…どうなってしまうのだ。


 渋谷君からそのメールが来たのは予想よりも遥かに早く、帰宅途中の電車の中だった。
 《寺田先生、お仕事ご苦労様です。
 神田先生から聞きました。大塚先生が寺田先生を想っての事なんでしょうね(笑)
 僕の方は早速、あちらの御夫婦にお願いのメールを出しておきましたよ。
 メールでは、寺田先生の事は38歳の真面目な現役教師とだけしてあります。
 それで先ほど、早くもご主人の方から返信があって、ご主人は乗り気のようです。家に帰って奥様と相談をするとの事ですが、おそらく大丈夫な気がします。
 夜には返事が来ると思うので、また連絡しますね。
 よろしくです(´・з-)ノ》


 メールを読み終えて、あまりの速さに面食らった私だった。
 駅を降りてからも、スマホがいつ震えるか気が気でなかった。心の中には新たな想いも生まれていたのだ。もし、相手が妻の久美子でなく“本当”の奈美子さんだったら、私は“浮気”した事になってしまうのだから。
 あぁ…渋谷君からの連絡に何を期待する?吉報をか。吉報とはOKの返事か、断りの返事か。


 夕飯も食欲のなかった私だった。
 朝からの二日酔いを心配してくれてる妻の顔も、チラチラ盗み見るだけだった。
 そんな私は震えを帯びた声で「そ、そうだ、友達の奈美子さんとは約束できたのかなぁ」と囁くように訊いてみた。
 「あ、ええ、明日朝から約束できましたわ」と、飄々とした声が返ってきた。
 その瞬間、何故だか得体の知れない緊張が湧き上がった。


 そして夜の10時過ぎ、遂にそのメールが来てしまった。部屋で沈んでいる時だった。
 私は呼吸を整えてから、渋谷君からのそのメールを恐々と開けてみた。


 《お疲れ様です。
 連絡ありました。
 あちらの御夫婦ですが了解されました。
 ただし、3Pプレイを提案したのですが、ご主人は自信が無いので奥様とお二人でプレイをして下さいとの事です。
 ご主人は近くの別の場所で、奥様の痴態を想像してモンモンとしていたいらしいですよ(笑)
 それと、仮面を着ける件ですが向こうからもそのお願いをしようと思っていたそうなのでOKです。仮面は僕の方で用意して行きます。他には部屋はなるべく暗くとか、会話はあまりしないでとか、いくつか希望がありましたが、それは当日に伝えますので》


 私はそこまで読むと、全身の力が抜けていく気がした。
 メールの最後には、いきなり明日の待ち合わせの場所と時間が書かれていた。
 指定のシティホテルは、渋谷君達と初めて会った時のホテルだ。その近くのカフェが待ち合わせの場所なのだ。
 あぁ…どうする。今からでも妻を問いただすか。
 しかし、勇気の足りない私には…。




 当日ーー土曜の朝、寝坊して起きた私は、夢遊病患者のように朝のルーティンをこなした。
 妻の方は平日の朝のようにテキパキと動いている。服装は既に出掛ける恰好だ。
 やがて妻は「じゃあ行って来ますね」何処となく冷たい声で玄関に向かった。
 妻を見送った私は、彼女の後ろ姿に微かな嫉妬の芽生えを覚えた。
 行かせてよいのか。
 いや、もう行ってしまっている。
 じゃあ、どうするのだ。
 それから暫く自問を繰り返した私だったが腹を決めた。相手をするのだ。今日の相手の女性は“どっち”か分からないが、腹を決めてやるしかない。
 そして私は、直ぐに出掛けの準備に取り掛かったのだった。


 ホテルの最寄り駅に着くと、近くのコンビニでヘアージェルを購入した。
 渋谷君との待ち合わせのカフェでは、店内に入ると直ぐに化粧室に行く事にする。買ったヘアージェルは固めるタイプで、念の為にこれで髪型を変えておくのだ。プレイは仮面を着けてと聞いているが、少しでも素性が分からないようにしておきたいわけだ。


 トイレの鏡に向かって、慣れない手付きで髪を固めていく。
 やがて、オールバック気味の変な顔が出来上がった。それでも笑えない私がいる。既に心臓がバクバクなのだ。
 個室を出れば、タイミングよく彼と出くわした。
 「あれ、寺田先生…ですよね」
 私の髪型にだろう…目をパチクリさせる渋谷君。
 彼が笑いを堪えたのが分かったが、こちらは真剣だ。


 席で向かい合った彼は、何かを察したかウンウンと頷いて「先生、ご苦労様です。寺田先生の勇気に敬意を表します」と、真面目な口調なのかどうなのか、よく分からない様子で話し始めた。
 「思いがけない展開になりましたけど、今日はもう、割り切って犯(や)ちゃって下さいね。分かりますよね。相手の奈美子さんが先生の思い違いで奥様じゃなかったとしても、男としては向こうを悦(よろこば)せないといけないんですから」                                           
 彼の指摘は私も考えていた事だった。それでも私の返事は「ああ、はい」と頼りないものだった。
 渋谷君は私の声など気にする素振りもなく続けて来る。
 「それで、昨日のメールにも書きましたが、幾つか注意点があります」
 その声に思わず、背筋が伸びてしまう。
 「段取りはこうです。 “奈美子”さんが部屋で、ご自分で用意した仮面を着けて待ってらっしゃいます。ガウンは羽織っていますが中は裸です」
 ゴクリと私の喉がなる。
 「先生には最初、隣の部屋に待機してもらいます。はい、隣どうしで2部屋押さえてあるんです。そこでシャワーを浴びたら用意してあるガウンに着替えてもらいます。先生も中は裸でお願いしますね。向こうから“どうぞ”のメールが来たら、僕が受けまして隣に移動です」
 「ああ…はい」
 「部屋は薄暗くなってますが、慣れてくればお互いのシルエットや顔の輪郭などは分かると思います。勿論、肌を合わせる距離だと相手の身体の様子は分かる筈です。仮面を着けてますが、鼻とか口は露出してるでしょうから雰囲気も伝わると思いますので」
 「あぁ、な、なんだか艶かしいですね…」
 「ふふっ、もう興奮してますか」彼の口調は闇への案内人のものだ。


 「奈美子さんと相対しても、いきなり“黒子はありますか”なんて事は間違っても訊かないで下さいね。先生にとったら、奥様と同一人物かを確かめたいのが一番でしょうが、違った場合の事も忘れずシッカリ対応して下さいね。それに、同じ所に黒子(ほくろ)が合ったとしても偶然という事もありますから」
 渋谷君のその指摘も覚悟していたものだった。私は硬い表情で黙ったまま頷いてみせる。
 「もしモチベーションが上がらなかったら、そうですね、相手は教師のくせして誰にでも身体を許す売春婦…そんな女と思った方がいいでしょうね」
 「え!そんな…」良いのですか、と思わず聞きそうになってしまう。
 「ええ、あちらのご主人は妻の素行が怪しくて尾(つ)けてみたら、信じられない事をしていた、という設定で興奮したいみたいなんです」
 「アアっ、ウウウッ…」何故か記憶の奥から【白昼夢】の場面が浮かんで来る。
 「はい、ご主人はプレイの後で、奥様の口から男に抱かれた時の心境や肉体に感じた悦(よろこ)びを知りたいのです」
 「………」
 黙り込んでしまった私だったが、心の中では得体の知れない感情を感じていた。そこまでご主人が考えているとしたら、お二人は本物の夫婦なのだろうか…。


 「それと、ゴムは用意してませんから生でやっちゃって下さい。因みにアナルは無しですからね。いいですか」
 「あ、ああ…」
 「それとメールにも書きましたが、奥様はご主人から声は出さないようにと言われています…。まあ、素性がばれないようにしておきたいみたいですね」
 私は黙って頷くだけだ。
 「でも先生、変に畏まらないでリラックスして下さいね。さっきも云いましたけど、好きなように犯(や)って大丈夫だと思いますよ。 “穴奴隷”だと思って、やりたいようにやって下さい」
 そこまで告げた彼の顔は、ウインクでもして来そうな顔だった。こっちは心臓が飛び出しそうだというのに。


 「じゃあ、そろそろ電話してみますか」
 彼が時計を見て立ち上がった。
 スマホを取り出し、私に背を向け電話を掛ける渋谷君。私は頭の中に、先日のマジックミラーで見た仮面の女を浮かべてみた。
 あの女(ひと)は今頃、どんな気持ちで私が来るのを待っているのだろうか…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 841684984の時、$oは20array(20) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “481” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(18793) “
 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。
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 待ち合わせの時間に遅れないようにと店を出た私ーー寺田達夫。
 約束の5分前、北口の1番大きな改札の前にやって来た。秋葉先生はまだ、来られていないようだ。
 暫く改札の中を見つめていると、向こうの方から記憶通りの姿がこちらにやって来るのが見えた。秋葉先生だ。
 目の前に来られた先生は相変わらず恰幅が良く、茶色いブレザーを着こなした姿は威厳に溢れていた。


 「やあ、寺田君、久しぶりだね」
 「ご、ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
 先生を前にすると、私の緊張は嫌でも高まっていく。
 先生の方は、私の表情(かお)を覗くや「ちょっと痩せたかな?けど、顔色は思ったほど悪くないね。お世辞にも良いとは云えないけど」と、リラックスした感じだ。
 それから、ふふふと口元を歪めて「君の顔を見ると、何だか今日の相談事の中身が分かる気がするよ」と目を細めて告げてこられた。
 こちらは顔を強張らせるだけだと言うのに。


 「じゃあ、秘密の話をするのに相応しい店があるからそこに行こうか」
 先生は笑みを浮かべながら、踵を返して歩き始めた。私はその後を追いかける。
 人の波をやり過ごしながらエスカレーターに向かい、そこを下れば覚えのある場所だった。先日、久美子と秋葉先生が落ち合った場所だ。先生はそこを通り過ぎると足を速めた。
 先生の横に肩を並べてチラリと横顔を覗く。微かに白髪が確認出来るが、皺も少なく肌の艶も良さそうだ。歳は私より一回以上も上なのに。


 「久美子君とは上手くいってないのかい?そんな事はないよね」
 いきなり向けられた質問にドキリとした。先生を見れば、口元がニヤついている。
 「く、久美子とは、そのまぁボチボチです…はい」
 「ボチボチか。と言う事は悪くないという事だな」と告げて、今度は朗らかな笑みを向けてきた。
 「君は久美子君と結婚してどのくらい経つのかな」
 「えっと10年以上は…」
 「ん、何だか頼りない言い方だな。でも夫婦ってそんなもんだよな」
 「………」
 歩きながら話す先生。それも思った以上に口が回る先生に、意外な気がしながらも緊張が少し解れる気がした。これはすんなり、色んな事が聞けるかもしれない。


 やがて覚えのある通りにやって来た。
 雰囲気は先だってと同じで、今日土曜日のこの時間帯も人が疎(まば)らな飲み屋街だ。
 先生が足を止めたのは、例の店【BAR 白昼夢】の前だった。
 先生は扉の前で一旦振り返って私を見た。その目が、ここでいいよな、と怪しく誘ってる気がして、身体が竦みそうになってしまった。
 「さあ、ここだよ。入ろうか」と落ち着いた声だ。
 私は先生の後ろ姿に引き込まれるように足を進めた。


 店の中は想像した通り、落ち着いた感じの造りだった。
 先生が照明のスイッチを入れれば、浮かび出たのはレトロな灯りだ。


 カウンターの中に入った先生が「さぁどこでもいいけど、そこがいいかな」と云って、二人掛けのボックス席を指さした。
 店は小さなボックス席が二つに、カウンターは5人でいっぱい。かなり小ぢんまりとした店だった。


 瓶ビールを取り出し、グラスの用意を始めた後ろ姿に「あのぉ今日は誰もいないんですか」と聞いてみた。
 「ああ、開くのは暗くなってからだからね。来るのはバーテンが一人で、その彼がいつも一人で切り盛りしてるよ」
 「あっそう言えば」そこで私は久美子から聞いた言葉を思い出した「この店って、先生の教え子さんがやってるとか…」
 「久美子君から聞いたんだね。そうだよ、かなり古い子なんだけどね。うん、その彼からここの鍵を借りたんだよ」
 先生はそう云いながら、盆を持ってこちら側に出てきた。


 小さなテーブルを挟んで向かい合った私達。
 「さぁいこうか」
 私がビール瓶を持った所で、先に先生が注いでこられた。私は恐縮しながらも頂く事にした。そして直ぐさま注ぎ返す。
 軽く乾杯したところで「今日は久美子君の事で相談だったよね」と、いきなりの本題だ。私は蒸せそうになりながら頷いている。
 「ふふっ、何となく内容も分かりそうな気がするけど、喋り辛くなったら云っておくれ。酒は色々あるからね」
 はぁ…と、頼りない返事をしてしまう私に「それに、腹を割れないなら、口を割らせる酒もあるからね」
 一瞬、先生が冗談を云ったのかと思ったが、意味は読み込めない。先生は早くも1杯目を飲み終わって、2杯目を口にするところだ。
 私も酒の力を借りてと、自分に言い聞かせながらグラスの残りを一気に呑みほした。
 そして「秋葉先生、あのですね、妻の久美子から私の事で何か相談とか愚痴とか聞いてらっしゃいませんか」と、一息で口にした。そう、今日の相談とは言ってみればこれだけの事なのだ。
 先生はグラスを置くと口元に笑みを浮かべた。
 「ふふふ、聞いてるよ。聞いてるとも、君の事は色々とね」
 その声の響きに、背筋がキュッと硬くなっていった。


 「じゃあ、どこからか話そうか…そうだなぁ」
 先生が呟きながら、その目は私を甚振る目ではないのか。
 「でも、その前に僕自身の事を少し話そうかな。その方が君もこの後の話が聞きやすいと思うしね」
 あぁ…それはどう言う意味だ…。やはりこれは、飲まないと聞けない話なのか。
 そして私はもう一杯、手酌で注いで飲み干してみせた。


 「ふふっ、いい飲みっぷりだ」
 「………」
 「そう、君も既に知ってると思うが、僕は何年も前に離婚していて、今は独身なんだ。久美子君の世話になった娘は、別れた女房と一緒に暮らしているし、僕は一人暮らしなわけだよ」
 「はぁ…」そうですね、と心の中で応える。
 「だけどね、君にだから教えておくけど、実は恋人がいるんだ」
 え!っと驚いてみせた。が、その事実は妻から訊いている。
 先生は私の表情など気にせず、グラスを口に運んでいる。


 「恋人といったって子供じゃあるまいし分かるよね、それがどんな関係か」
 「は、はぁ」またも頼りない返事だ。
 「ふふっ、まぁ愛人とかセックスフレンドといった方が分かり易いよね」
 ううッ、改まってそんな言葉をぶつけられると萎縮してしまう。
 「どう?こんな話も聞きたいだろ」先生がビール瓶を向けて来ながら、私の覚悟を計っている、ような感じだ。
 「でもね、時には夫婦もやるんだよ」
 「え、どう言う意味ですか」
 「疑似夫婦さ」
 「疑似夫婦?」
 「そう。愛人、セックスフレンドだとしても付き合いが長くなればマンネリが生まれてくるだろ。だから新しい刺激を探したんだよ」
 「あぁ、それが…」
 「そう、その彼女と二人で夫婦として色んな所に顔を出したり、呼んだりネ」
 「それは…」と聞きかけてゴクッと息を飲み込んだ。先生の目が据わって見えたのだ。
 その先生がこちらに向かって顎をしゃくる。もっと飲めと云っているのか、私は慌ててグラスを口に運ぶ。


 「長い事教師をやってるとね、色んな人に会ったり色んな噂を聞いたりするんだよ」
 「………」
 「君は知ってるかな…悩みを抱える教師やお堅い職業の人達を相手に、コーディネートをしてる人がいてね。悩み多き人達がストレスから性犯罪なんかを犯さないように、解放出来る場所を用意したり、解放出来るシチュエーションを作ったりしてくれるんだ」
 「ああっ!」そんな事が…と云おうとしたが、口が開かなかった。それでも頭の中には、“ある人“の顔を浮かべていた。
 「まぁ僕も…と言うか僕達も縁があって、たまに世話になるんだけどね」
 「………」
 「とまぁ、それだけ我々教師連中は病的なストレスに犯されているという事だよ。それで半年ほど前、君の奥さん、久美子君から相談のメールを貰った時も直ぐにピンときたんだ。彼女も恐らく、病的なストレスを抱えてるってね。でも、悩みは彼女自身の事だけじゃなかったんだよね」と先生が口元を歪めた。
 私は遂に来たかと、身構えてしまう。
 「そう、久美子君の相談のメインは、君の事だったんだよ」
 「あぁ…」
 「彼女も話しずらかったと思う。だから僕の方から聞いてみたんだよ」
 「そ、それはどんな風にでしょうか…」
 「ああ、『ひょっとして、寺田君が性的な事件でも起こしそうなのかい?』って」
 「ああっ!」
 「ふふっ、その時の久美子君も今の君みたいな反応だったよ」
 あうッ、思わず今度は、背筋が伸びてしまう。
 「図星みたいな様子だったから『じゃあ、家にパソコンがあるなら1度ネットの履歴が見れないか試してごらん』って云ってみたわけさ」
 「………」
 「そう、それで久美子君は視たんだな。もちろん君自身もシッカリ記憶にあるやつをだね」
 ああっ!。


 「ふふふ。それでね、僕の娘のストーカー騒動の事で頻繁に連絡を取るようになってたんで、そのネット履歴の報告を聞く機会を改まって設けたんだ。じっくり聞かせて貰おうと思ってね」
 「あぁ、そんな事が…」
 「ああ、そうだよ。それで君の性癖も知る事になってね、久美子君にはこう告(い)ったんだ『ご主人…寺田君に付き合ってあげろ。おそらく彼の悩みは半端なものじゃない。間違いを起こして世間から後ろ指を指される前に、君も彼の性癖に寄りそってやれ』とね」
 「そうだったんですか!」
 「だけど久美子君は、ずっと戸惑ってる様子だったな。だから君の方に態度として現れたのは、最近じゃないのかな。思い当たる事はないかい?」
 あッと、見事に日曜の一夜の出来事が浮かんできた。そして、妻に最後の一押しをしたのはあの日の昼間、この店で秋葉先生と会ったからに違いない、と思えた。
 「ふふっ、どうやら身に覚えがあるみたいだね。それは大いに結構な事だよ」と口にして、先生がウンウンと頷いている。
 「まぁ僕としたら時間が掛かったと思ったけどね。と言うのも、久美子君がそのネット履歴の話を初めて僕にした時から、彼女自身も興味は持っていたみたいだからね」
 「きょ、興味を、妻が…ですか…。その興味って…」
 「んん、決まってるじゃないか、性的好奇心ってやつだよ」
 「ああッ!!」
 「そう、それで久美子君には色々とな…ふふふ」
 「い、色々とは…」
 「んん、まあ生徒に教えるのと同じ云い方をするなら“社会体験”ってところかな」
 「え!その社会体験って…」
 「ふふ、その詳しい内容を話すには飲みが足りないな。勿論、僕もだけど」
 と告げた先生が立ち上がって、カウンターの中へと進んでいく。新しいビールでも取りに行くのだろうか。


 先生は直ぐに戻ってきた。手にはよく見る栄養ドリンクの小瓶が2本。
 「これはね、実は中身は違うんだよ」と、手に持った小瓶を顔の前で振って「ブレンドなんだよね」と目を向けてきた。
 「ブ、ブレンド?」
 「あぁ、非合法のね」
 「ええっ!」
 「とは云っても、人体にはさほど影響はない。一時的に夢を見るだけだよ」
 「ほ、本当ですか」
 「ああ、この中身は“神華の雫(シンカノシズク)”といって一種の精力剤、それに興奮剤を少し混ぜて薄めたやつなんだ」
 「せ、先生は…」何故そんな物を…と続けようとしたが、口が動かなかった。
 「なんだ、びっくりしてるのかい。こんなのは普通の栄養ドリンクとそんなに変わらないさ。勿論、女性だって飲める物だよ」
 「ま、まさかソレを…」
 「ふふふ…」
 先生の笑いに身体がゾクゾクと震えて来た。あぁ…私は何か過ちを犯そうとしているのだろうか…。
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 妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
 その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
 その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
 私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
 とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。


 それともう一つ気になっている事があった。
 妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
 妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
 この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。


 金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
 早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
 妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
 そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。


 《寺田君
 ご無沙汰しています。
 僕の連絡先を探していたみたいですね。
 急ぎの用件でも出来たのかな。
 僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
 では。      秋葉洋司》


 私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
 私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
 と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
 おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。


 《秋葉先生
 寺田です。ご無沙汰しております。
 実は妻の事で相談したい事があります。
 明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
 詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
 よろしくお願いいたします》


 目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
 やがて返信が来た。


 《承知しました。
 では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》


 M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
 私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。


 ーー土曜日。
 今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
 顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
 久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。


 妻の手が一休みした時だ。
 「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
 「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。


 「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
 何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
 「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
 その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
 私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。


 昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
 家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。


 改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
 やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
 ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。


 少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
 事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。


 ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
 あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。


 ーーみんな訳ありだけど…。
 ーー家に帰れば普通の主婦だし。
 ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
 ーー旦那にやった事のないサービスだって…。


 ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
 と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
 駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。


 今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
 私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
 頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。


 食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
 あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
 そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
 ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
 そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
 あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
 いや…。
 それでも…。
 これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
 先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
 あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。
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 妻の表情は薄闇の中ではよく分からなかった。しかし、その中から落ち着いた声がしてきた。
 「その子…実はそれが奈美子なんですよ」
 「ええっ!な、奈美子さんも教師だったの!」
 「はい。彼女は大学卒業後、一度一般企業に就職したのですが、やっぱり教師になりたいと辞めたんですね」
 「じゃあ、教職課程は取っていたのか」
 「はい、アタシと一緒に履修してました。因みに、隣同士で席に座っていると、よく双子に間違えられましたわ」
 「そうか、そんな事が…。それで、奈美子さんが教師をやりたいって思ったのも、久美子の影響なのかな?」
 「ん~どうでしょうか。アタシは職場の愚痴を結構聞かせてましたけど…」
 「それでも奈美子さんは…」
 「はい。それで試験に受かって、最初の採用が◯◯中学だったんです」
 「あ~あそこか。じゃあ、僕達も同じ職場になった事はないよな」
 「ええ、何度かニアミスといいますか、入れ違いになった事がありましたけどね」
 「なるほどね。それにしたって、その奈美子さんがどうして上司と不倫を…」
 と、在り来りの疑問が口に付いたが…。


 「それはさっき云った通りで、最初は教務を指導されつつ、次第に仲が良くなり、やがてと…。それと因みに、奈美子は一度も結婚した事がないんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「はい、そうなんです。それで、奈美子とは会えない時もメールで近況は教え合ったりしてましたし、相談にも乗ってましたから」
 「なるほど。それで、決定的な不倫関係になった時も、直ぐには分かったの?」
 「そうですね、わりとすんなりと。彼女も周りに相談とか出来る人が少なくて」
 「そうなんだよな、教師は世間が狭いし、それに誰にでも相談できる話じゃないしな」
 「仰る通りです。それで何度かお酒に付き合ってるうちに色々と…」
 「ああ、それがさっき久美子が云った話で、二人のその…プ、プレイの内容の事までも…」
 「え、ええ、そうですね、多少は…。でも、さっきの造り話には、あなたの…そのぉ、エッチな履歴からの想像がかなり入っていますわ」
 「ああっ!!」
 妻の言葉に一瞬、声を上げてしまった。
 彼女の先ほどの卑猥な表現や描写は、私の“癖”を見抜いて、脚色も加えてたと言うのか…。ああ…そうだ、そうなのだ!それに、いくら親友といっても、不倫相手との情痴の内容をあそこまで細かく描写して教えたとは考えずらい。まして女性同士が。
 あぁ…またも身体が落下して行く気分だ。


 「………」
 「あなた…どうしましたか」
 「い、いや、大丈夫だよ…」
 私は妻の声に、コホンと咳払いをした。
 「そ、それで奈美子さんの相手の男性はどんな人?まさか僕の知ってる人だったりして」
 と私が口にしたところで「はい実は」と、口ごもりながらの妻の返事だ。
 「あの…秋葉先生…なんです」
 「な、何だって!」身体が飛び上がるほどに驚いた。
 「ええ…そうなんですよ。秋葉先生なんです」


 唖然とした私の中に、ジワジワと先日バッタリ会った秋葉先生の顔が浮かび上がってきた。
 確か先生は…ああ、そうだ。秋葉先生は今は離婚しているのだ。
 「あのさぁ、秋葉先生はだいぶ前に離婚してたよね。それって…」
 「ええ、離婚されたと噂で聞いてましたが、その詳しいところは…」
 「でも、その噂は本当だったって事だものね」
 「はい、そうです。奈美子との事が引き金になったのは間違いないでしょうし、別れた奥様とは以前からも上手く行ってなかったようで…」
 流石にその辺りの詳しい状況までは、妻も知らないらしい。奈美子さんにしたって、あまり話したくはないだろうし。
 それにしてもだ。あの秋葉先生が奈美子さんを調教してる場面を想像しようとすると、人は見かけによらずと言うか得体の知れない興奮が湧いてくるようだ。


 その時、もう一つ気になる事を思い付いた。久美子と秋葉先生の事だ。
 妻は以前の教え子ーー秋葉先生の娘さんのストーカー対策を先生から相談され、解決に乗り出した。その時は勿論、奈美子さんの存在もあった筈だ。そして、探偵を使ってそれを解決した事が要因で私ーー寺田達夫の事を相談した…と、今夜の妻の説明だった。そう、妻がそこのパソコンの履歴から知ってしまった“夫”の変態的な性癖の相談も秋葉先生に…。


 「あなた…大丈夫ですか」
 暗がりから何ともしおらしい声ではないか。妻はその“しおらしい“声で、秋葉先生にどんな風に“夫”の相談を持ち掛けたのだろうか。先ほど口にしたような卑猥な表現をリアルに聞かせたのか。まさか自ら実演を!
 と思ったところで、股間がキュッと刺激を感じた。久美子が私のアレに力を加えたのだ。
 そして、私の下腹部へと身体を…いや、唇を持って行くではないか。
 股間のソレがぬるっと唾液に塗(まみ)れた途端、ううっと声が漏れてしまった。
 そして妻が、先ほどと同じように亀頭からカリ首までを舐めだした。
 私の口からはウウウッ、オオオッと早くも情けない呻き声が上がった。


 「あなたぁ…」
 唇を離した妻から再び、しおらしい声がした。彼女が私の腰に手を回してくる。そして私の身体を横向きに、それから犬の格好へと誘ってきた。
 私の身体は四つん這いに、妻の顔に尻を向けて畏まった。すると直ぐに、ソコがネチャっと拡げられた。あぁっ、久美子が私のアナルを、と思った瞬間、その中心にドリルのような…ううッ、これはアナル舐めではないか!
 しかし、それだけではなかった。股間の“ソレ”を握るとシゴキだしたのだ。
 暗がりの中にネチャネチャとアナルを抉る音と、時折りチュッチュッと金の袋に唇を這わす音が交互に聞こえてきた。硬くなった肉棒をシゴかれながらだ。


 私は意識が飛びそうになる合間に、妻のこの変貌を考えた。
 奈美子さんと秋葉先生の情痴の戯れを知り、その上に私のエロ履歴を知って、刺激を受けたのが原因なのか。
 そんな事を考えながらも絶頂が近づいて来る!っと思った時だ。
 「あなた…アタシも…お願いします。…今度は上から」
 あぁ…又もしおらしい声だ。


 私は意図を察知して仰向けになると、妻を腰の上に導いた。
 彼女は直ぐに私のソレを握って自身のソコに充てがった。私の硬度は充分に保たれている。
 ググっと沈み込むと、妻の膣(ソコ)がジュルジュルに泥濘んでいるではないか。妻も自ら語る事で濡らしていたのだ。


 「はぁぁっ、ウウウッ…あなた、気持ちいいですわぁ」
 噎(むせ)び泣くような声の方を向けば、妻の表情がぼんやりと分かる。この角度なら常夜灯の灯りで分かるだ。その妻が「あぁ堪らない…」と呟けば、私は下から膣(つま)を突き上げた。
 「んーーッいいッ!」
 悲鳴に近い声を響かせ、妻は膝を立ててきた。そして両手で私の腰回りを掴むと、自ら腰を上下に振り始める。その揺れに乳房もユサユサと揺れ始めた。乳房の真ん中、乳輪が目玉のように見える。
 あぁ、この姿はあのマジックミラーのガラス窓に貼り着いていたヤモリじゃないか。そう、歳の差夫婦の方の奈美子さんの痴態だ。いや、ちょっと違うか。これはカエルだ。先ほど妻の口からも出た、秋葉先生の命令に応えた妻の友達の奈美子さんの痴態がこれではないのか。


 「いいッ、いいのぉーーッ!」
 妻が雄叫びを上げた。その口からニュルと舌が伸びてきた。そして宙を舐め回し始めた。
 あぁっ、これは擬似3Pだ。まさか久美子は3Pを…やった事があるのか!それともやりたい気持ちがあるのか!と私の思考が掛け上がっていく。
 その時ふっと二人の視線が合った。薄闇の中でも、そう感じたのだ。
 妻がニヤッと笑った…気がして身体がゾクゾクっと震えてきた。


 「あぁ…あなた、見ててぇ…」
 甘ったるい声を吐いて、妻が腰を少し浮かせる。ソコとソコが繋がったまま、彼女が身体を回す。背中を向けての騎乗位だ。
 「あなたぁ、もっと下さいっ。久美子をもっと突いてぇっ!」と、妻の膣(ソコ)が私を締め付けてきた。


 妻の懇願にも、既に限界が近づいていた。
 「ううう、ああっ…」今夜3度目の射精がやってき来そうな気配なのだ。
 顎を上げれば直ぐそこに不浄の門。臀(ケツ)が上下される度に、妻のアナルがヒクヒクする。この画も又、エロサイトの記憶そのものだ。あぁ…いつかこの穴に、私のコレを挿(い)れる時が…と思った瞬間、今夜最後の爆発を迎えたのだった…。
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  薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
 妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。


 「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
 予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。


 「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
 「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。


 「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
 妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
 ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。


 「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
 いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
 「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
 あぁ…。
 「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
 妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。


 「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
 「………」
 「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
 「………」あぁこの展開は…。
 「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。


 「それからその関係が…」
 妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
 「あなた…」
 妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
 唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。


 「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
 妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
 そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。


 「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
 あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
 「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
 私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。


 「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
 妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
 「彼は…」
 あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
 「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
 あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
 「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
 「あぁ、そ、それはどんな格好…」
 私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。


 「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
 「あぁ、ほ、他には…」
 「はい、ストリップをやらされた事もありました」
 「ス、ストリップ!」
 「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
 「あぁ…」
 「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
 「………」
 「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
 「ううッ、そ、それはどう言う…」
 「あぁっん、それを…云うんですか」
 「ああ、た、頼むよ」
 「…あなたってやっぱり」
 その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
 妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
 「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
 「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
 あぁ、それは“例”の格好ではないか。


 「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
 「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
 それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
 あぁ…と言う事は。
 「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
 「うっ!じゃあ自分でソコを!」
 「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
 あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。


 「か、彼はそれでどうしたの」
 「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
 「でも?」
 「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
 「そ、それはどんな…」
 「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
 「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
 「い、云うんですか」
 「あ、あぁ…うん」
 「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
 「そ、それで」
 「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
 「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
 妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。


 ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
 「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
 んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
 「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
 「そ、それもやったのか!」
 「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
 あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。


 「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
 「オモチャ!?」
 「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
 「久美子はソレを使われたのか!」
 「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
 「そ、ソレを受け入れて…」
 「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
 んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。


 「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
 「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
 「そ、そんなにか!」
 「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
 「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
 「ええ、それもありましたが、露出を」
 「えっ露出!…露出って」
 「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
 ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
 私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。


 「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
 告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
 しかし…。
 「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
 その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
 さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。


 それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
 闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
 その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
 「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
 「え!?」
 「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
 「なっ、ど、どう言う事?」
 「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
 あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。


 「ほ、本当に?」
 「…はい」
 「じゃあ、今のは誰の話なの」
 「………」


 妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
 そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
 「………」
 「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
 「アアッ!」
 「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
 「だ、だから、誰かって…」
 「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
 「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。


 「では、絶対にナイショですよ」
 と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。
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 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。
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  妻に云われるまま自分の部屋に戻った私は、ベッドに腰を降ろしていた。アルコールの酔いは殆ど治まっているが、変な緊張は続いている。久美子は改まって何をしようというのだ。シャワーと口にしたが、実のところ離婚届にサインでもしているのではないだろうか。
 そんな事を考えついたところで、ザワザワと不安の波が寄せてきた。私は立ち上がると、檻の中の動物のように部屋をクルクル歩き出した。時おりバルコニー側のカーテンを少し開けては、外を覗いて見る。
 薄闇の中から見えるのは、向こうに聳えるマンションの窓、窓、窓。しかし、何時ぞやの恥部を曝した露出行為を思い返せが背中が冷たくなってくる。よくあんな事が出来たものだと。


 私はドアの前で足を止めて、廊下の奥を覗いてみようかとノブに手をやろうとした。
 その瞬間ーー。
 カチャリと静かな音がして、ドアが開かれた。現れたのは勿論、妻の久美子。バスローブ姿の久美子だ。


 「シャワーを浴びてきました…」彼女の俯いた口から小さな呟きが零れ落ちた。
 「ど、どうして…」
 私が呟いたのと同時に、彼女の顔が少し上がった。
 私はもう一度「どうしたの…」同じような言葉を口にしていた。


 妻は黙ったまま背中を向けると、壁のスイッチを2度押した。照明がパパッと常夜灯に変わる。
 彼女の手元からは衣擦れの音がした。そしてこちらを振り向いた…かと思うとバスローブが開げられて行く。
 ゴクリと喉が鳴ってしまった。
 その中は何一つ身に着けていなかったのだ。それどころか、裸体がやけに艶めかしく感じて見える。常夜灯の灯りが妻の凹凸を扇情的に写しているのだ。
 私の足がフラリと妻に寄る。バサリとガウンが床に落ちて、彼女が私の胸に顔を預けてきた。瞬間、アルコールの匂いが鼻に付いた。


 「お酒を…」同じ言葉が二人の口から同時に出た。
 そして「あのホテルの時みたいに…」妻の朱い口唇がそう呟いた。
 私の首がぎこちなく縦に揺れる。それを見てか妻が屈んだ。そして私の、股間に顔を寄せてきた。
 妻が匂いを嗅ぐかのように鼻先を押し付ける。ムクムクと私の“ソレ”が膨らんで来る。そして妻が、一旦鼻先を離すとソコに手を充ててきた。
 ジジジとファスナーが降ろされ、ズボン、パンツと下げられた。露(あらわ)になったソレは、まだ半立ちの状態だ。


 妻の目が一瞬上を向く。しゃがんだ状態から見上げた顔が、妙に生々しい。
 ニュルッと蛇のような舌が私の“物”に伸びてきて、そのまま咥え込んだ。
 シャワーも浴びてない汗で汚れたチンポを…そう思った瞬間、ゾゾゾッと背中が粟だった。
 妻は匂いなど気する素振りもなくシャブリ出した。亀頭を舐め、カリ首にも舌を這わしてくる。時おり喉の奥までソレを迎え入れる。妻が私を味わっている。いや、これは嫐(なぶ)っているのか。
 股間の一物はこれでもかと巨大化していった。射精感が早くもやってくる。情けないーーこのまま射(い)ってしまったら…。
 私はその高鳴りを遠のけようと、意識を別の所にやろうと考えた。バルコニーに目を向け、カーテンの隙間から向こうのマンションを覗く。そして“嫐る”の漢字を思い浮かべた。『嫐る』には同じ読みで『嬲る』という漢字もある。女が男を挟む嫐ると、男が女を挟む嬲るだ。意味は一緒らしいが、深い所では違ってる?…などとむかし勉強した事を思い返しながら、何とか射精感を遠ざけようとした。
 と、その時だ。
 プハァッと妻がソレから口を離した。そして今度は頬ずりだ。よく見れば妻は、頬ずりしながらチラチラとカーテンの隙間を気にしている…ように見える。
 あぁ、そうなのか。妻はあのホテルでの姿見の場面を…。


 私は妻の手を取り、ガラス窓の前に誘導した。勿論ギリギリの所にだ。
 そして今度は、硬くなった肉の棒を強引に妻の口奥へと押し込んだ。イラマチオの開始だ。今度はこっちが主導権を握ってやるのだ。
 私は激しく腰を振り始めた。妻がウエッと嘔吐(えづ)くが、そんな事など気にしない。その歪んた表情(かお)を見たいのだ。そして妻にも自分の表情(かお)を拝ませてやるのだ、とカーテンの隙間を開けてやった。


 ガラス窓には、妻の横顔が薄っらと映る。私の下半身も映って視える。いや違う。妻を凌辱してるこの男は誰だ。そうか、コイツが間男だ。妻は…久美子は私の居ない間に男を家に上げていたのだ。そして、私の寝室で情痴に耽っていたのだ。
 あぁ、ゾクゾクと興奮が湧いて来るではないか。


 男が一物を抜く。そして久美子の髪を掴んで立ち上がらせると、バッとカーテンを開ける。
 あぁ、男は…いや二人はやっぱり変態なのだ。向こうのマンションに向かって露出セックスをおっ始める気だ。
 それは思った通りの立ちバックだ。久美子の方も、何も言われないのに窓に手を付いて中腰だ。


 ガラス窓の向こう、マンションの上に丸い月が浮かんでいる。
 視線を落としていけば、すぐそこには月のような丸い臀。その割れ目をグイッと拡げてやると、久美子の腰が気を張った。挿入を待ち望んでいるのだ。


 無言のまま、頭の中で問いかけてやる。
 ーー久美子、今夜はこの格好で欲しいのだな。
 妻が顎をカクカク縦に振りながら、臀(ケツ)を揺らしている。


 ーー旦那の寝室でオマンコ嵌めるのは平気なんだな。
 その問いにも、久美子は頭を縦に揺らし、臀も震わせて肯定の返事だ。


 ーーふふふ、じゃあブチ込んでやろうか。ほら!
 『イーーーッ!』久美子が咆哮を上げた。


 ーーオラオラッ、オラッ!マンコ気持ちいいだろ!
 『ムググッ、はい。気持ち…いいですぅ!』


 ーー久美子は私のコレが欲しかったんだな。
 『んんっ、そ、そうです。欲しかったんです!』


 ーーふふん、旦那のチンポと比べてどっちがいいんだね。
 『ンアっ!そ、それはご主人様の…』


 ーーそうか。じゃあ、自分の顔を見ながら云ってみなさい。
 『あぁッ、ど、どうやってですか』


 ーーほら、そのカーテンをもっと開けるんだ。顔が映るだろ。
 『あぁ、こうですか…あぁ、映りましたわ。はい、映ってます』


 ーーふふっ、よく見ろ。どんな顔をしている?
 『あぁ、やらしい…スケベ女の顔ですわ…あぁッ!』


 ーーじゃあ、その顔を見ながら云ってみなさい。今自分が何をしてるかを。
 『うううっ、はい。ア、アタシは今…エ、エッチしています…ううッ』


 ーーエッチ?エッチじゃないだろ、ちゃんと云いなさい。
 『あぁ、云うんですか…あぁ…オ、オマンコですわ』


 ーーふふっ、そう、オマンコだな。じゃあ、そのオマンコの中には何が入ってるんだね。
 『あぁ、オチンポ…ご主人様のオチンポです!』


 ーーふふっ、じゃあ、そのチンポは今どんな感じなんだ?
 『ううう、中を…中を掻き回してます』


 ーー久美子の中をか。マンコの中はどうなってるんだ。
 『あぁんッ。もうグショグショです。ご主人様のチンポでグショグショなんです!』


 ーークククッ、旦那のチンポじゃ濡れないのだな。
 『………』


 ーーん、どうした。この耳の下の黒子(ほくろ)は、スケベボクロみたいなもんだろ。この黒子を持つお前は、マゾ女なのだ。ほら、なにを黙っているんだ。遠慮なく云うんだ。云わないと抜くぞ!
 『いやっ、抜かないで下さいッ!。云いますから』


 ーーじゃあさっさと云え!旦那のチンポはどうなんだ!
 『うう…しゅ、主人のアレでは…ぬ、濡れないんです』


 ーーふふっ、旦那のは小さいんだな。そうなんだろ。
 『…は、はい』


 ーーじゃあ、久美子はどんなチンポが好きなのか告(い)ってみろ。
 『あぁ…ふ、太くて…お、大きい物ですわ』


 ーーそれと。
 『あぁ…それで、長くて逞しくて、厭らしいやつですわ』


 ーーふふっ、厭らしいときたか。で、他には。
 『うあぁ、ずっと…ズコズコ突いてくれるやつです…』


 ーーズコズコ突くか…と言う事は、旦那は早いんだな。
 『あぁ…そ、そう、とても早いんです』


 ーーぐふふ。そうか、久美子の旦那は早漏なのか。じゃあ私のコレはどうだ!
 『あぁ、ご主人様のチンポはとても長くて太くて、いくらでも久美子を逝かせてくれますわ』


 ーー私のチンポが好きなんだな。
 『あぁ、勿論です。大好きです。堪らないんです!』


 ーーそうか。けど、抜いてしまおうか。飽きてきたしな。
 『えっ!嫌ですッ!止めないで!』


 ーーじゃ私の言う事なら何でも聞くか。
 『は、はい、聞きます。ご主人様の事なら何でも聞きますから止めないで下さい。もっと久美子のオマンコ虐めて下さい!』


 ーーそれじゃあ、窓に映ってる自分の顔を見ながら宣言しなさい。自分がどんな女か、旦那がいると思って教えてやるのだ。それから私に服従の誓いを云うんだ。
 『あぁ、はい。云いますわ』


 ーーほら。
 『…あなた、アタシ久美子はあなたとのセックスでは何も感じてなかったんです。先日の久しぶりのデートごっこ…あの時も感じたフリをしてただけなんです…』


 ーー続けろ。
 『…だからアタシ…このご主人様のオチンポに夢中なんです。ご主人様のチンポを挿(い)れて貰うと天国に行けるんです。ストレスとか欲求不満とか、全て忘れさせてくれるんです。アタシ、このオチンポがあれば何もいらないんです。アタシはこのオチンポ様の奴隷なんです。あぁ…』


 ーークククッ、久美子、まぁよく云えた方だ。じゃあ、そろそろ膣(なか)に射精(だし)てやろうか。お前はそこに旦那…寺田君がいると思って逝き顔を曝してやるのだ。
 『あぁはい。お願いします』


 ーーよしっ。じゃあ出すぞ!生で出してやる。
 『あぁ…嬉しい…秋葉先生…ご主人様…お願いします』


 そして私は、ドクドクと牡精が注がれてい行く音を夢の中で聞いた…気がしたのだった。
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 妻の久美子が、昔お世話になった秋葉先生と、怪しげなBARに入って行く姿を目撃した日曜の昼下がり。私は店を見張るつもりで帽子とサングラスを買ったが、結局は逃げるようにその場を離れてしまっていた。
 確かに隠れる場所も無かったわけだけが、やはり私には荷が重い作業だったのだ。渋谷君がいてくれれば、機転を利かせてくれたかもしれないが、彼は今ごろ家で寝てる頃だろう。
 私の方は駅の北口まで戻ると、又もカフェで悶々と時間を過ごす事になってしまったのだ。


 帽子を被り、黒っぽいサングラスを掛けたままコーヒーを飲む。足の震えは治まってはいるが、心臓の方はまだ揺れてる感じだ。
 妻が恩師とはいえ、男と二人で歩いている姿をこの目で見たのだから。しかも二人が入って行ったのは、怪しげな匂いがするBARなのだ。
 二人が店の中で性的な行為をするとは思いたくはない。以前に妻が秋葉先生の娘さんと入った店だろうし問題は無いと思いたいのだが、現実は小説より奇なりと言うし。あぁ、二人はいったい何を…。
 しかし、私にはそれ以上に出来る事が無かった。結局、この界隈で自分の姿を見られる事を恐れて、そそくさと戻る事にした。


 家に帰った私は、夕飯前には滅多にやらないアルコールを口にした。
 妻が帰って来たのは夜の6時頃だった。彼女は私の酒の匂いに、怪訝な顔をみせていた。私はアルコールの力を借りて、妻を問い質そうとしていたのだ。


 一通り静かな食事の時間が終わった時だった。
 「あのさぁ…今日の奈美子さんとの“デート”はどんな感じだったの」
 「へ!?デート…あぁそうですね…いつもと一緒でしたわ」
 「ふ~ん、そうなんだ…。実はね、僕、今日ふらっM駅に行ったんだよ」
 え!っと久美子の頬が震えた。
 「ほら先日もM駅に行ったし、面白そうな所だと思ったんでね…」
 思い付いた事を口にしてしまった感はあったが、告(い)ってしまったから仕方ない。妻の方は何かしらの圧を感じ始めたのか、唇を噛み結んでいる。


 「………」
 「それでさぁ、南口の方にも出てみたんだよね」
 南口と口にした所で自分の声が微妙に震えた気がしたが、コレも仕方がない。
 妻をチラリと見れば、顔が俯き気味だ。それでもここから先を話すのは勇気がいる。
 コホンと、わざとらしい咳をしてみせて「うん、そこで偶然にも“君”を見かけたんだよね。隣にはそっくりな人がいたね」
 酒の力を借りて、何とかここまで問い質した。妻はまだ黙ったままだ。そんな妻に私は続ける。


 「あのぉ…久美子がほら、前に好きな事をしてるって云ってた“好きな事”って体操教室なのかい?」語尾が微かに震えてしまった。
 その言葉に「ええ…」と溜息のような声で返事が返ってきた。
 私の方は安堵とも疑心とも言える微妙な吐息を吐き出した。
 そしてもう一度、コホンと咳払いをして「それで僕はさ、カフェでお茶を飲んで適当に家に帰ろうと思ってたんだけど、店を出たタイミングで又“君”を見つけちゃってさ」
 その瞬間、妻の顔が少し上がった。
 「見てると一人で北口の方に行ったから、声を掛けようと思ったんだけど…中年の男と会ってて…あれ!?って」
 妻をそっと観(み)れば、目頭が潤んでいるようにもみえる。
 「それで思わず、後を尾(つ)けちゃったんだよね」
 そこで私は、気づかれないようにスゥっと息を吐いた。酒が入っていても緊張は続いているのだ。
 私が黙り込むと、ダイニングに奇妙な静けさが流れ始めた。重い空気が降り掛かって来る。


 暫く沈黙が続いた後、妻が顔を上げる。そしてこちらを伺いながら口を開いた。
 「あなた…告(い)ってもよろしいでしょうか」
 妻のその眼差しに、一瞬ドキリとした。
 「…あなたもM駅には以前も行かれた事がありましたよね。確か…何時かの水曜日です。教え子のストーカー騒動が治まって、そのお祝いにその子と私でM駅で打上げをやった日です」
 私は頷いた。それは勿論覚えている。渋谷君と会うのに指定された場所が、偶然にも同じM駅だったのだ。


 「あの日の夜、あなたは急用でM駅に行くってメールして来ましたけど、アタシは心配になりました」
 「………」
 「だってM駅って…ほら、治安の悪い“厭らしい”所じゃないですか。平日の夜に男の人がそんな街に…。それにあなたは、半年前から病的と言うか、おかしな感じがしてましたし」
 心の奥で『うう』とか『あぁ』とか、奇妙な唸りが上がった。


 「それに…」妻の口元が又も強く結ばれて「その前にもあなたは、アタシの下着を見たりしてましたよね」
 うっ!!その言葉に、今度は確かな唸り声を上げてしまった。
 「アタシがシャワーを浴びてる時でした。脱衣所にあなたが入って来たのは直ぐに分かりました。そして洗濯機の蓋を上げて覗いてましたよね」
 「………」
 急に身体が重くなってきた。痴漢が警察に問い質される時の気分はこんな感じなのか。勿論、私に反論の余地など全くない。
 「あなたが脱衣所から出て、暫く経ってからアタシは湯船を上がりました。そして直ぐに、洗濯機の中を調べました。奥の方でシャツの中に丸めておいた筈のショーツの位置が違ってました」
 そこで妻が一旦口を閉じてしまった。今度は私が無言の圧力を感じる番だ。


 やがて彼女が話を続ける。
 「そんな事があったし、思い切ってあなたを調べようと思ったんです」
 調べる?
 その言葉に疑問が湧いてくる。


 「はい。昨日の奈美子との約束が延期になったって云いましたけど、理由はあなたにあったんです」
 「え?」
 「アタシが出掛けるって告(い)ったら、あなたも出掛けるだろうと思って…。それで探偵を」
 「えっ探偵!?」
 「はい。ストーカー対策で雇った探偵さんに、あなたの尾行をお願いしようとずっと待機して貰ってたんです」
 「!…」
 「あなたの方から『奈美子と出掛ければ』って云われたんで、昨日辺りに動きがあるかと思ってたら、案の定といいますか…」
 「あぁ…く、久美子は…」
 「…はい、探偵と一緒にあなたを尾(つ)ける事が出来ました。あなたは〇〇町のシティホテルに行かれましたよね。途中で髪型まで変えて…」
 あぁ…あの滑稽な髪型にした私は、あの時既に醜態を曝していたのだ。
 「アタシは探偵の支持で近くのファミレスに入って、悶々としながら待っていました。探偵さんもあなたがどの部屋に入ったかまでは判りませんでしたが、何時間位いたかはアタシにも分かります」
 「………」
 「探偵さんが言うには『この手のホテルに入って、何時間も出て来ないところをみると…間違いなく…』って」
 あぁ、自然と頭が項垂れ、身体が震えてくる。穴があったら入りたいが、そんな物はどこにもない。


 「アタシも幾らかの覚悟はしてましたが、それでも確証は無かったので誰かに相談しようと思いました」
 「あぁ…」
 「それで今日、奈美子とは半年ほど前から時々体操教室に付き合って貰ってましたが、彼女にこの手の相談はしづらくて…。それで…」
 「あぁ、それを秋葉先生に相談したんだ」
 妻はコクリと頷いて「あなたにも秋葉先生だと分かってたんですね」
 私の方は黙ったまま頷いている。
 「そうです。娘さんのストーカー騒動を一応アタシが解決したので、それで今度はアタシの相談に…」
 「そ、その場所がM駅のあのBARだったんだ…」
 「その通りです。前にも云ったと思いますが、あの店は秋葉先生の若い頃の教え子さんがやってるお店なんですよ」
 「ああ、覚えてる。久美子から聞いた…」
 「ええ、はい」
 それから又も沈黙の時間がやって来た。今度、ソレを破ったのは私だった。


 「ぼ、僕はさ、久美子が本当に奈美子さんと会うのかが心配でさ…。いや、奈美子さんて女性がこの世に存在してるのかも不思議な感じがしてたんだけどね」
 「ヘ?あなた…おかしな事を…。前に奈美子と撮ったツーショットを見せましたよね」
 「あ、ああ、まぁそうなんだけどね…」
 黙り込んだ私は、この展開がどうなるか想像が付かなかった。もう、昨日の“浮気”を白状して土下座でもしようか。そして自分の性癖を言葉で伝えて、一層の事どこかの病院にでも入れて貰おうか。
 そんな事さえ思い付いた時だった。


 「あなた…あなたはやっぱり凄いストレスを感じていらっしゃったんですね。男性だしアタシよりもプレッシャーがあったんですね」
 「いや…それはお互い様だし…久美子だって学校で…」
 そこまで告げた時、彼女が潤んだ瞳を向けてきた。その目には哀れみの色も浮かんでる気がした。


 「あなた、あのパソコンに有った履歴…」
 あぁ…今更あの変態的な動画や画像、それに寝取り・寝取られの卑猥なエロ小説の事を責められるのか…と頭に浮かんだ時「アタシ、シャワーを…あなたはお部屋の方に…」と、妻がトロ~ンとした貌で告げた。
 私は妻の言葉に、一瞬何の事だと疑問を浮かべた。しかし妻は、席を立つと自分の部屋に向かったのだった。
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 渋谷君の体操教室の報告を聞いても、なぜだか私はボォっとしていた。そんな私の前で彼が欠伸をした。
 「早起きしたし、お腹もいっぱいで眠くなっちゃいましたよ。そろそろ帰ってもいいですかね」
 彼の様子に私は「どうもありがとうね。本当に助かりました」と改めて礼を云った。
 そして、席を立とうとする彼に財布を取り出して「渋谷君、コレは少ないけどほんの気持ちです」と一万円札を差し出した。
 彼は「あぁどうも」と受け取ってくれた。


 「先生はまだ暫く居ますか。帰る時とか奥様に見つからないように気をつけて下さいね」と笑ってウインクすると、出口の方に行ってしまった。
 彼の姿を見送ると腰を降ろし、ふうっと息を吐き出した。それから再び渋谷君の造り話を思い出したり、妻の事を考えていた。
 モヤモヤと意識の奥から滲み出てくるのは、私の浮気事実と妻が“白”だったというアンバランスな感情の縺(もつ)れだった。やはり私は、変態的な行いを妻に期待していたのだろうかと自問した。
 その時、ザワザワと胸の奥から得体のしれない蠢きが催してきた。頭に浮かぶのは夕べのネットニュースで読んだ教員夫婦の露出事件の事だ。
 私の指が無意識にスマホで検索を始めた。


 現れたのはここ最近の聖職者の性的不祥事の記事。
 【県立中学の保健室の先生がソープに勤務 】
 【教員カップルが県庁で性行為】
 【校長先生が乱交パーティーに参加】
 その見出しを上から追っていると、それだけでモワモワと熱い高鳴りがやって来た。
 記事の内容を読むまでもなく、アソコが硬くなってくるではないか。あぁ…私はやっぱり妻に期待をしている…。
 しかし、妻が半年ほど前からストレス解消に行っていたのは“残念”ながら体操教室のようだ。結局、私の“白昼夢”は夢のままで終わるのか…。


 それから変態教師の記事を読み終えると、席を立つ事にした。
 外に出て娑婆(シャバ)の空気に触れてみれば、自分の浮気事実の懺悔の気持ちだけが湧いてきた。やはり私は臆病者なのだ。


 顔を隠すように俯いて歩いて行くと、改札が見えてきた。この辺りは流石に凄い人波だ。その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
 その姿に足が竦む。それでも恐々ながら足を進めた。隣には誰もいないようだ。友人奈美子さんとは分かれたのか。


 妻の久美子が立ち止まったのは、北口の下りエスカレーターを降りて少し行った所だった。スマホを見ているのは時間の確認か。それともメールでもあったのか。
 私は急にソワソワし始めた。ゴクリと唾を飲み込むと、近くの壁に背中を預けた。そっと顔を出して妻を視線の端に置く。妻が首を振っている。誰かを探しているのか。
 その妻に一人の男が近づいてきた。
 誰だ!?
 と、もう一度目を凝らして見詰めた。
 秋葉先生!?
 どう言う事だ。


 唖然とする私を置き去りにするようにして、二人が歩き出した。私は慌てて後を追い掛ける。しかし直ぐに、足が震えているのが分かった。
 その足で追い掛けながら、二人の様子を探る。
 妻は秋葉先生から半歩下がって、そして俯き気味で歩いている。その雰囲気は主従の関係が成り立っているように見えてしまう。確かに二人は、以前同じ勤務先の学校で上司と部下の関係にあったのだが…。


 やがて二人の足が止まった。視線の先、約30mの辺りだ。
 ここは北口から10分ほどの場所。南口ほどの怪しい街並みではないが、繁華街の一角だ。
 秋葉先生が妻の背中に手を置いている。妻の方は黙って頷いているようだ。
 私は足を踏み出そうとしたが、慌てて止めて振り向いた。秋葉先生がチラッと後ろを確認した気がしたのだ。
 それから恐々前を向く。二人が目の前の店のドアを開けて入って行くではないか。


 店のドアが閉まった後も、暫く身体が竦んでいた。
 首を振って辺りを見れば、スナックの看板がやけに多い。もう少し先にはラーメン屋やコンビニもあるようだが。
 私は息を整え、妻達が入った店の前まで行く事にした。
 そこの壁には【BAR 白昼夢】くすんだ小さな看板があるだけだ。しかし、そのドアには『close』のプレートが掛けられている。
 私は暫くその看板を見ていた。白昼夢…頭の中に暗い幕が下りてくる感じだ。
 しかし…これはどう言う事だ。確かに日曜の昼間に、この手の店が開いている方が珍しいのかもしれないが。
 それにしても何故、妻と秋葉先生がこんな店に。


 心の中に不穏な気持ちと、ほんの少しの好奇心が生まれていた。妻達と出くわしたくはないが、このまま帰るわけにもいかない。先ほどから目にしていたコンビニに行ってみる事にする。帽子とサングラスを買って変装するのだ。
 コンビニのトイレを借りて、簡単な変装をしながら頭に浮かんでいたのは、以前妻から聞いた話だ。
 久美子の昔の教え子ーー秋葉先生の娘さんとのストーカー騒動の解決を祝っての打上げをやったのが、ここM駅のBARだと訊いていた。そこは秋葉先生の古い教え子がやっている店だと。あの店がそうなのか…。


 コンビニを出て、もう一度BARの近くまで行ってみる。
 あの店の中は、例の本の【白昼夢】に出てくる連れ込み旅館のようになっているのではないか。あぁ、又も怪しい妄想がモワモワと湧いてくるーー。


 店の奥には秘密の部屋があって、秋葉先生と久美子が秘め事を始めるのだ。いや、秋葉先生が妻をサディスティックに調教するのだ。そうだ。そして、その行為を客を呼んで見せるのだ。
 その時、思いついた。
 スマホを開けて検索してみる。
 M駅 BAR 白昼夢
 これで何かしらヒットするだろう。


 狙いは上手くいった。
 店のホームページも評価の書き込みも見当たらないが、電話番号は見つける事が出来た。
 非通知で繋がる事を祈りながら掛けてみる。
 きっと電話に出るのは怪しいマダムで、秘密のパーティーを告知してくれるのだ。
 しかし…残念ながら非通知は拒否されてしまった。
 どうしようか…と思ったところでコンビニを振り返ってみたが、あそこにはイートインスペースはない。
 何処で時間を…そう思った瞬間、立ち眩みがきた。身体がフラフラと近くの壁へと倒れるように寄り掛かる。
 陽射しが眩しく感じて目を細めた。頭の中が影に覆われていく…。


 いつの間にか、店の前で一人の女が立ち止まっている。
 誰だ!?
 あっ久美子!
 いや違う。奈美子さんだ!
 妻の友達の奈美子さんが店のドアをノックしているのだ。
 扉がスーっと開いて、奈美子さんが入って行く。私の意思も扉をスゥッとすり抜けて行くーー。


 ーー魂が浮遊している。
 視界にあるのは場末のBARの佇まい。
 カウンターの前を通り過ぎて行く女の後ろ姿。
 やがて女が足を止めて顎をしゃくった。そして女が、壁を指さした。そこには一枚の古いポスターが貼られている。
 女を見れば、掌を“私”に向けて広げている。
 ああ、金がいるのか。
 財布から札を取り出して、掌の上に置いてやった。先ほど渋谷君にもお礼をしているから、残りはあと僅かだ。フトそんな事を考えていると、ポスターが捲くられた。そこにあったのは穴。小さな覗き穴。
 その穴に引き寄せられるように近づいて目を充てた。


 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。中年男だ。
 男の手がニョロニョロと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私の肩を誰かが叩いた。
  振り向けば、久美子!!
 じゃあ、覗き穴の向こうの女は…。
 いいや、目の前のこの女は奈美子さんか!?
 その女が私の首に手を廻してくる。その手が蛇となって、首から身体中へと廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと我に帰った瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 壁により掛かったままハーハーと息を吐き出した。
 「あぁくそっ、また同じ夢だ」
 その姿勢のまま荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。運良く私を笑う人はいない。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間のテントが異様に膨れ上がっているのに気が付いた。
 自虐的な笑みを零すも、直ぐに羞恥の意識が働いてきた。
 店に視線を向ければ、ドアは閉まったままだ。それでもそのドアがいきなり開いたらと思うと、急に身体が震えてきた。
 私はサングラスを掛け直すと、急いでその場から逃げ出したのだった。
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 遂に妻の尾行に着手出来た日曜日。
 渋谷君の協力もあって、尾行自体は思った以上に上手く進んでくれた。妻と落ち合った女性は久美子とそっくりで、間違いなく妻の学生時代からの友人ーー奈美子さんと判断した。
 その二人はお喋りもそこそこに、直ぐに店を出ていったのだった。
 私は渋谷君の誘導で妻達を追い掛け、駅の南口に抜ける所で彼に追いついた。


 「し、渋谷君、ごめんごめん」私は息を切らしながら頭を下げた。
 「ほら先生、奥様達はあそこですよ」
 彼の落ち着いた声に視線を向ければ、妻達の後ろ姿がロータリーからビル群の方に進むのが見えた。
 二人の後ろ姿は身長、髪型、それに体型もそっくりだ。その姿が遠ざかって行く。


 「先生、あっちは“あれ”ですね」
 それは言われるまでもなく、私にも分かっていた。そうなのだ。あっちは善と悪が同居しているエリアなのだ。
 「どうしますか先生?お二人が立ち上がったんで咄嗟に追いかけてしまいましたけど、奥様と一緒にいたのはお友達で間違いないようだし、もう帰りますか?」
 「いや…あの…もう少し後を尾(つ)けてみてもいいですかね…だって南口だし…」
 「…ふふっ、そうこなくっちゃ」
 彼の口元には挑発の色が浮かんでいた。表情(かお)を窺えば、先程までの寝ぼけ眼(まなこ)など何処にもない。
 「じゃあ急ぎましょう、見失わないうちに」
 告げ終わらぬうちに歩き出した彼に、私は隠れるようにして着いて行く事にした。


 暫く進むと見覚えのある街並みが現れた。
 日曜日の昼間だというのに、辺り一帯が鈍よりとした空気に包まれている気がしてしまう。
 目に映るのは古い雑居ビルに昔ながらの居酒屋や喫茶店で、その合間には有名な塾やよく聞く名前の会社の看板などがあったりする。
 華の会という変わった名前の看板を横目に見ながら少し進むと、記憶にあるビルが現れた。
 それはーーあの時は夜だったが今見ても確かに暗く怪しい感じのビルだ。そう、神田先生の事務所が入った例のビルだった。


 「どうしましたか先生」
 足が竦んでしまった私を、渋谷君が振り返って見詰めてきた。
 「い、いや、渋谷君さぁ…あのビルは…」
 そう呟いて視線を向ける。
 妻達がそのビルの前で立ち止まっているのだ。まさか彼女達はマジックミラーの部屋に行く気なのか…。


 頭の中に幾度とネットで視てきた卑猥な映像が浮かんでくる。
 ーー妻の密会の相手は女だ。その女と濃厚な口吻を交わす妻。そして互いの性器をシャブリ合う二人。
 旦那に見せた事もない姿を、担保された秘密の場所で見せ合うのだ。それがあのマジックミラーの部屋…とすると二人は、客もよんでいるのか。妻達は既に、視られる事にも快感を覚えてしまっているのか…。


 と「先生、大丈夫ですか」
 その声でハッと顔を上げた。
 渋谷君が心配そうに覗き込んでいた。
 「あっあぁ…妻達がマジックミラーの部屋に…」
 何かを訴えようとする私の声に、彼が顔を顰(しか)めて首を左右に振る。
 「ほら、よ~く見て下さい」
 その声に改めて妻達を探した。よ~く見れば妻達が立っているのは隣のビルの前だ。そこの2階には一面に拡がる大きな窓。そして『体操教室』と描かれた看板の文字。
 その瞬間、あああっ、情けない声を発していた。そして力が抜けていく気がした。
 「あぁ…そうでした。妻も奈美子さんも体操をやってたんですよ」と、一人言が溢れ落ちていった。妻達は体操教室が入ったビルの階段を昇っていく所だったのだーー。


 ーーそれから20分ほど隠れるようにしてそのビルを見張っていたのだが、妻達が向かったのは体操教室だと判断して駅前まで戻る事にした。
 小さな喫茶店を見つけて入れば、渋谷君を労う食事の時間の始まりだった。


 私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
 注文したハンバーグ定食を食べ終わる頃だった。
 「渋谷君はこの辺りでご飯とか食べる事はあるの?」
 勿論、私が訊いた“この辺り”とは南口の事だ。
 「そうですねぇ、この辺りではないかなぁ。神田先生の“あの”事務所には何度か行った事がありますけど、お茶したりメシを食うのは北口の方ですね」
 「そうなんだ。僕もM駅自体、来る事はなかったんだけど、ほら初めて久美子を尾行してもらった時があったじゃない」
 「ええ良く覚えてますよ。奥様を見つけられなくて“造り話”をした時ですよね」
 「そう、その時です。あの日、渋谷君と連絡がつかないから駅の周りをウロウロしてこの南口にも来たんですよ。その時、休憩がてらに確かこの先にあったレトロ調の喫茶店に入ったんですよ」
 「ああ、そういえば昔ながらの店がありましたね」
 「そう、そこに入ったらね、店の女店主が女性を斡旋して来たんですよ。凄いよね、まるで昭和の色街かと思ったよ」
 「ああ、そうみたいですよ。神田先生に教えて貰ったんですけど、ずいぶんと昔は、この辺りは赤線って言うんですか、要は売春の盛んな街だったみたいで、その名残というか今もソレっぽい商売をしてる人がいるみたいですよ」
 「うんうん、僕もそんな感じがした。その女店主が云ってたけど、普通の人妻が旦那さんに出来ないようなサービスをするって…」
 「ふふっ、先生また妄想してますね」
 「あぁ、そうかもしれない。いつも…いや、半年前から妄想が酷いんだよね」
 「どんな妄想を見るか、いくつか教えて下さいよ。ほら、人も殆どいないし」
 確かに日曜の昼間だというのに客が少ないのだ。北口なら空いてる店を探すのが大変そうなのに、こっちは街の雰囲気のせいか入った時から客が疎(まば)らなのだ。


 「妄想か…でも、それはやっぱり恥ずかしいよ…」
 「と言う事はかなり、変態チックな話ですね」と彼が笑みを零す。
 「ま、まぁそうだね…うん」
 「ヘヘ、じゃあ僕がまた“造り話”でもしましょうか」
 「うっ、また…ですか」
 「ええ、実はさっき気になる事があるって言ったの覚えてます?」
 「ああ、そういえば呟いたのが聞こえましたよ」
 「そうなんです。さっきのカフェに奥様達が入ったじゃないですか。先生は僕が店に様子を探りに行くのを電柱の影から見てましたよね」
 「は、はい、そうでした」
 「僕はほら、帽子にサングラスで奥様達の後ろ側の席に座ろうと思ってたんですよ」
 「ええ、そうでしたね。僕の所からもそれは観(み)えましたよ」
 「はい、それでね。店に入って奥様の後ろ姿を見ながら進んだんですよ。その時にね、耳たぶの下辺りに黒子(ほくろ)があるか確かめてみたんです」
 「ああ…」
 「ええ、勿論ありましたよ。それで次にね、奈美子さんの後ろの席に座る時もチラっと彼女の耳たぶの下を覗いたんですよ」
 「…奈美子さんの耳たぶ…」
 「ええ、うまい具合に観(み)れましてね。そうしたらあったんですよ」
 「えっ黒子が!」
 「はい。その奈美子さんにも奥様と同じ位置に同じ黒子があったんですよ」
 「………」
 どういう事だ…と一瞬考えた。しかし直ぐに、頭の中を整理しようとした。


 「ひょ、ひょっとして…」
 「はい、僕も思い出したんですけどね。 “歳の差夫婦”と3Pの話があったじゃないですか。結局、旦那さんが自信がないとかで先生と“奈美子さん”の二人のプレイになりましたけど」
 「ええ…そうでした…」
 「はい。それであの時、ご主人があまり声を出さないようにって云ってましたけど、先生は相手の奥さんの声を聞いたんですよね。その声でその女(ひと)が奥様ではないという結論を出したんですから」
 「あぁ仰る通りです…」
 「僕も実は、あの日は奈美子とは殆ど喋ってなかったんですよ。はい、声を聞いてないんです。だからね、仮面もずっと着けてたし本当の奈美子かどうかは分からないんですよ」
 「うっ…となると、どういう事になるの…かな」
 「はい、入れ替わってたんですよ」
 「え!」
 「そう、 “歳の差夫婦”とは男と奥様の久美子さんの疑似夫婦なんですよ。要は二人は不倫関係で、夫婦ごっこをしていたんですね。それでも関係がマンネリになったか、本当に旦那がインポ気味になったかで神田先生に相談に来たんですよ」
 「うううっ、となると君は…渋谷君は僕の妻…久美子とセックスしてたってこと…」
 「はい、セックスだけじゃないですよ。精飲もさせたし、露出プレイもさせましたよ」
 「あぁぁ…で、でも君は、久美子の素顔を…」
 「そうです、何回も見てますよ。でも、さっきも言いましたけどホテルの部屋では仮面を着けてて、素顔を見てないんですよ。話をしなかったのも、奥様からしたら初めての浮気…といっても不倫者からみた浮気になるわけですが、そのプレイをする緊張で黙ってると思ってたんです。でも違ったんですね。友達の奈美子さんが入れ替わってたから声を出せなかったんですね」
 「と、という事は…」
 「久美子さんが友達の奈美子さんに入れ替わりを頼んだんでしょうね。二人は以前からそう言う事を頼める間柄で、ご主人もそれに乗ったんでしょうね」
 「そ、それに二人が似てるからか…」
 「そうですよ。さっき僕が言った“気になる事”って、久美子さんが歳の差夫婦の奥様に似てた事だったんです。今朝のバス停で見た時から似てるなってずっと思ってたんです。化粧の違いかとも思ったんですけど、そんな事はない。同一人物だったんですから」
 「そ、そうか…。それにしたって本当に久美子が不倫…それも一回りも歳が上の男と…」
 その瞬間、私はもう一つ衝撃の事実を思い出した。


 「じゃ、じゃあ、そこのマジックミラーの部屋でヤモリみたいにガラス窓にへばり着いていたのは…」
 「へばり着いてただけじゃないですよ。押し車っていう変わった体位を披露したり、男に跨って腰を振ってた女の正体は奥様の久美子さんですよ」
 「ウウウウッ!」
 「僕には奈美子っいう友達の名前を名乗ってましたけど、本当の名前は久美子なんですね。今度あったら“久美子”って呼んでやりますか。どんな反応を示すか楽しみですねぇ。あら、先生大丈夫ですか」
 「………」


 私は暫く項垂れていた。しかしその中でも、奈美子と久美子の入れ替わりの事実を整理していて思いついた事を何とか口にした。
 「そうだとしてもだよ…なぜ私が3Pプレイに誘われたタイミングで入れ替わりが…私は何処の誰か分からない38歳の中年教師だったのに…」
 「………」
 「うん、妻の久美子に私が浮気…まして3Pなんかに行くなんて絶対分かる筈がないと思うんですよ」と絞り出すように疑問を口にした。


 「ふ、ふふふっ」渋谷君が俯いて笑い出した。
 その笑いにデジャのようなシーンが湧いて来た。彼が堪えているのだ。いつかと同じように笑いを堪えているのだ。
 「せ、先生、真剣です。顔が真剣ですよ」と、遂に吹き出した。
 「だ、だから、ププッ…造り話をするって言ったじゃないですか」
 「あ…」
 「そうですよ。その通りです。久美子奥様が先生の3Pに行くなんて分かる筈ありませんよ。あの日は奈美子さんの素顔こそ見てませんが、あれは間違いなく本物の奈美子さんですからね。それに黒子の話も嘘です」
 「嘘?」
 「はい、さっきカフェで奈美子さんの耳たぶの下に黒子があったって云ったでしょ。あれも嘘ですからね。黒子なんて有りませんでしたよ。はい断言します」
 「じゃ、じゃあ…」
 「はい、では整理しましょうか。奈美子さんて名前の人が二人いるからややこしいんですけど、よく聞いて下さいね」
 「………」
 「歳の差夫婦の奈美子、久美子さん、友達の奈美子さん、3人は髪型や体型、それに顔までも似てますが全員別人で先生の奥様は浮気もしていません。それと久美子さんには黒子があり、偶然にも歳の差夫婦の奈美子にも同じような黒子があります。友達の奈美子さんには黒子はありません、以上」
 云い終えて渋谷君がペコリと頭を下げた。そしてニコっと笑った。その笑いにジワジワと安堵の気持ちが湧くのを自覚した。
 そんな私を見ながら、渋谷君がもう一つの事を告げて来た。


 「それと久美子奥様の半年前からの“好きな事”って、体操教室で間違いないと思いますけど確かめて来ますよ」
 「へ?」
 「この店に入って30分位経ってますよね。と言う事は奥様達があの教室に行ってもうすぐ1時間位でしょ。だから終わらないうちにチョッと覗いて来ますよ。それで色々聞き出してみます。先生はここにいて下さいね。顔を見られると不味いですから」
 彼はそう言うなり、席を立って店の外へと行ってしまった。


 一人になると、今ほどの“造り話”を思い返してみた。渋谷君の話は見事なほどに良く出来てると思えた。騙された事にも心地好さまで感じてしまう。しかし…。
 妻久美子の潔白が決まった事で、残るのは私一人が浮気をしたという事実だ。妻は半年前に私の様子が病的だと感じてその事にも悩みを抱えてしまい、学生時代の部活仲間の奈美子さんを誘って体操教室にストレス解消に行ったのだろう。
 そんな事をあれこれ考えていると、渋谷君が戻ってきた。


 「先生、奥様達は体操教室にいましたよ。2階に行きますとね、教室の壁が一面ガラスで中の様子が見えるようになってるんですよ。それで直ぐに奥様と友達の奈美子さんが分かりました。二人とも同じウェアに着替えられてましたね」
 「ああ、同じウェアですか」
 「はい、たぶんレンタルですね。他の人達も同じ格好の人がいましたし」
 「生徒は結構いたんですか」
 「ん~そうですね、10人はいましたね。壁にポスターが貼ってたり、リーフレットなんかもあったから見てみたんですけど、空手教室やダンス教室なんかもあるみたいで、土曜日と日曜日に健康志向の人の為の体操教室をやってるみたいですね」
 「ああ、そうでしたか」
 「それでね、スタッフの人が通ったんで聞いてみたんですよ」
 「なんて…?」
 「ええ、『僕やった事なくて身体が硬いけど大丈夫ですかねって。あちらの方なんか、ずいぶん身体が軟(やわ)らかそうですけど』って。…勿論、奥様の事ですよ」
 「それでなんて」
 「ええ『あの方はここに来て半年くらいですね。半年もすれば軟らかくなりますよ』って。その人は奥様が経験者って知らなかったんでしょうね」
 ああ…私は心の中で見事に納得の声を上げてしまっていた。
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 日曜の朝、私は目を覚ますと重い眼(まなこ)を擦って朝陽が射し込む窓に顔を向けた。
 起き上がって、そのバルコニー側のカーテンを開けてみる。そこには、いつもの朝の眺めだ。
 夕べの淫靡な夢を想いだしてみる。窓に貼り付いてあったディルドを中腰になって咥え込んでいた女だ。と、股間の硬さに気がついた。朝勃ちというやつだ。
 私は一物を握って苦笑いをすると、気付かれませんようにと念じながら部屋を後にした。


 リビングに行くと、今朝も妻の久美子が忙しそうに働いていた。ダイニングのテーブルには朝食用のパンケーキ。心が病んでなければ、平和な朝の風景なのに。
 朝食を腹に詰め込みながら、妻の様子を探った。目は自然と下半身に向く。既に外行きのスカートで、その短さは妻の“本気度”を考えてしまう。今日の相手は、私の知らない男だったりして。


 彼女が屈んだ。シンクの前、食べ残しでも床に溢したのか。
 こちら向きの後ろ姿から、臀が突き上がって来る。
 無防備な臀だ。いや、挑発しているのか。それともその膨らみを誰かに捧げようと曝しているのか。
 あぁ、スカートを捲ってみたい。夕べの女のように、アソコでディルドを咥えているのでは。私の股間が再び硬くなってくるではないか。
 その時、彼女が振り向いた。


 「あなたは、今日はどうされてますか」
 「へ、ああ、僕かい。僕は…」
 「また古本屋ですか」
 「あ、そうだね…。そうしようかな」


 どことなく冷たく感じた妻の言葉に、私は萎縮してしまった。私を見る彼女の目に、小馬鹿にしたような色が浮かんでみえたのだ。
 そんな彼女に気後れを感じて部屋に戻る事にした。
 部屋に入ると、ヤキモキしながら色々と考えた。そして頭を整理するーー。


 ーーこのところ感じていた妻への疑心は、教え子の相談事だった。共通の知人、秋葉先生の娘さんがストーカー被害にあっていたのだが、それは一応の解決をみた。
 直近の“黒子“騒動も、歳の差夫婦の奈美子さんとは別人であると確認出来た。
 あと残っているのが、友人の方の奈美子さんの事だ。その女性(ひと)が問題なく本物の奈美子さんと判れば、全てクリアーなのだ。いや違うか。半年前からしている“好きな事”、それだけが残るわけだ。しかし、まずは今日の尾行だ。
 私はそこまで頭を整理したところで、渋谷君にメールを送る事にした。今、何処にいますかと簡単な一文だ。


 返信が来たのは、10時半になる時だった。
 直ぐにメールを開けてみる。
 渋谷君は既にコンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいるとの事だった。私はホッとすると、落ち着いて返信をした。


 《朝から御苦労様です。
 妻の方はそろそろ出掛けそうな雰囲気です。
 出れば直ぐにメールします。
 私の方も少し遅れて家を出るつもりです。
 今日は小まめに連絡を取り合いましょう。 よろしくお願いします!》


 返信し終えた私は、今日の尾行を妄想してみた。
 妻は間違いなくバスで最寄り駅に向かう筈だ。そのバスには渋谷君がこっそり乗っている。私は一本遅れのバスに乗るつもりだ。勿論、時刻表も調べてある。
 バスが駅に着けば、渋谷君から細かい連絡が来るだろう。そして、妻の相手が友人の奈美子さんなら目的の半分以上は完了だ。その二人が怪しげな遊びをするとは思えないし。


 妻の久美子は予想通りの時間に家を出た。その事をメールで連絡して暫くすると、渋谷君からターゲットを確認できた、同じバスに乗り込めたと報告が来た。
 こちらも直ぐに家を出て、予定通りのバスに乗り込んだ。


 私の乗ったバスが駅に着いてからも、渋谷君とのメール連絡は上手くいってくれた。妻が電車に乗り、M駅で降りたと連絡があった時は流石に不穏なものを感じたーーまたM駅かと。しかし直ぐに、改札の前で女性と落ち合ったと報告があった時はホッとする私がいた。
 その次の報告では、相手の女性は髪型がショートボブで体系も雰囲気も妻と瓜二つ(うりふたつ)との事だった。それは間違いなく学生時代からの友達の奈美子さんだと、安堵の気持ちを感じていた。


 私は2、30分遅れで妻を追っていたわけだが、北口のカフェに入ったと報告があったところで一旦考えた。そう、渋谷君の事だ。妻の相手が友人と判れば目的は達成で、彼は帰ってしまうかもしれない。私としてはまだ居てほしいのだ。
 そんな事を考えながら、渋谷君に今いる場所を聞いてそこに向かった。
 彼を見つけたのは目的のカフェが観(み)える場所…と云っても、彼は電柱に身体を隠すようにして私を待っていたのだった。


 私は「渋谷君、御苦労様。色々とありがとうございます。けど、M駅とはびっくりしましたよ…」と、苦笑いを浮かべながら話し掛けた。
 渋谷君の様子は、何かを思いつめている感じだった。彼の口からはーーしょうがないですね寺田先生は心配性でーーでも良かったじゃないですか奥様の相手が男じゃなくて…なんて言葉が返って来るかと想像していたのに…。
 彼は「奥様達は、ほらあそこです。ここから見えますよね、窓際の後ろの席です」と、視線を投げて伝えてきた。その声も何処となくな重そうな感じだ。
 それでも私は視線をカフェの方に向けると、妻とその前に座る女性の姿を認めて頷いた。


 「うん、間違いなく妻の久美子ですよ。ありがとうね。ところで大丈夫?なんだか元気がないみたいだけど」
 「ヘ、ああ僕ですか。僕は大丈夫ですよ、はい…」


 私は心配そうに、もう一度彼の顔色を覗いてみた。
 すると「奥様の相手も問題のない女性(ひと)ですか」と、硬い声だ。
 彼のその声にもう一度窓際に座る二人に目をやった。
 「ああ、はい。髪型もショートボブだし、あれが友達の奈美子さんで間違いないと思います。それにしても似てるなあ…」
 「そうですよね、僕も最初見た時は双子かと思いましたよ」
 双子は大げさだと思いながらも「渋谷君、なんだかお疲れみたいだね」と声を返した。
 「いや、ちょっとばかし寝不足なだけですよ」
 その言葉に何となくだが納得がいった。確かに彼らくらいの年代は、夜型で朝は弱いのだ。私は黙ったまま頷いている。
 そんな私に彼が続けて来る。
 「先生、暫く二人を見張りますよね」
 彼のその言葉に背筋が伸びた気がした。私は「そ、そうだね」と呟いて「渋谷君は…」と尋ねてみた。
 「ああ勿論、僕もご一緒しますよ。ちょっと気になる事もあるし」
 見れば渋谷君の眼が、光った気がする。


 「僕、店の中に入ってもう少し近くから見てきますよ」
 そう告げて彼は、それまで手にしていたキャップを被って見せた。ポケットからはサングラスだ。
 カフェに向かう後ろ姿を見送りながら、私はスマホを取り出した。
 ここからカフェの窓まで10mチョッとか。スマホのカメラ機能をズームして覗いて見る事にする。そして当然、写真も撮っておく。
 3枚ほど写真を撮ったところで、その画像を確認しようと電柱の影で背を向けた。
 手元で広げてみる。妻は横顔、前に座る女性は私の方、こちらを向いているところだ。
 私は画像の中ーー奈美子さんを見詰めた。以前、妻から見せて貰った時以上に久美子とそっくりな気がする。渋谷君が双子みたいと云った理由も納得がいく。


 電柱からそっと顔を出して、もう一度妻達の様子を覗いて見る。彼女達のお喋りは続いているようで、奈美子さんの斜め後ろの席には渋谷君の姿も確認する事が出来た。
 頭の中にムラムラと盗撮者の気持ちが湧いて出て来た。いや、支配者か。いつかの妄想の場面が浮かんでくる。


 ーーさぁ久美子、テーブルの上に乗って全てを曝すんだ!
 ーーお前は好奇の視線に曝されるのが堪らないんだろ。
 ーーさぁ脱げ!
 ーー尖り立った乳首を見てもらうんだ。
 ーーマンコも自分の指で拡げて見て貰え!ドドメ色に変色したお前の嫌らしいマンコだ。
 ーーほら早く!


 その時、私の横を通り過ぎるカップルに気が付いた。彼らは訝(いぶか)しそうな目を向けていた。あぁ、無意識に一人言まで呟いていたのだ。
 身体中がカーっと熱くなって行く。顔から火が出そうだ。あぁ、怪しげな男を演じてしまっている。


 そして私は、俯いて溜息を吐き出した。そこから視線を上げれば妻達が立ち上がるところだ。
 渋谷君は?そう思いながらも、電柱で影になるように身を隠した。妻達がこちらに来ないようにと願いながらだ。
 それからどれ位、縮こまっていただろうか。メールの着信音にゆっくりスマホを開けてみ…と思ったら電話だ。画面に『渋谷優作』の文字。


 『先生、奥様達は駅のエスカレータを登ってますよ』
 『は、はい。直ぐに追いかけます』
 私は云うなり、スマホを耳に当てたまま歩き出した。
 渋谷君の後ろ姿を見つけると小走りになっていく。耳には『あれ、南口に行くのかな…』渋谷君の呟きが聞こえてくる。
 それからは通話状態のまま、渋谷君の呼吸音だけが聞こえていた。
 私の頭の中には『南口』のイメージが浮かんで来ていた。膳と悪が同居してる怪しげな街の姿だ…。
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 カフェで渋谷君と分かれた私は、真っ直ぐ家に向かった。
 夜になると妻の久美子も帰ってきたが、彼女の表情(かお)はどことなく浮かないものだった。 

 
 「お帰り。あの、どうだったのかな…デートは」
  妻を迎えた私の声には、緊張が混ざっていた。 “デート”の言葉を使ったのは、私なりの妻への探りだ。妻は私の言葉に「えっ…奈美子の事ですよね」と、彼女の声にも緊張が混ざっている。私は目で、そうだよ、と告げて頷いてみせた。


 「ああ…はい。それが実は、奈美子の体調が悪くて延期になったんですよ」
 「え、そうだったの」
 「はい。それで明日、お昼頃から会う事になったんです」
 「…じゃあ、今日はどうしてたの」
 「今日ですか…。奈美子からメールが来た時は駅に着いていたので、一人でショッピングモールに行ったり、後はカフェを2軒ばかし寄ったりしてましたわ」
 「ああ、そうだったのか…」
 それは短いやり取りであったが、心の中に不穏めいたものを感じていた。妻の方はそそくさとキッチンに足を運んでいる。


 彼女が冷蔵庫に手を掛けた時だ。その後ろ姿に、帰り際に考えていた事を思い出した。そう、念の為に黒子(ほくろ)を観(み)ておこうと思っていたのだ。
 その試みは上手くいってくれた。冷蔵庫を覗く素振りで近づくと、ソレはすんなりと確認する事が出来たのだ。
 見た瞬間にはーーあぁやっぱり“歳の差夫婦”の奈美子さんの“もの”とは違ってるじゃないかと、そんな声が聞こえた気がした。


 そんな私を「あら、あなた」妻がこちらをジイっと見詰めていた。
 「髪の毛が…」
 今更のその一言に心臓が縮み上がった。ホテルからの帰り、途中駅のトイレでいつもの髪型に直したつもりだったのに。
 それでも妻は「あなた、お風呂がまだならどうぞ。私は後でいいですから」と、それ以上に気にする素振りもなく呟いた。
 私はぎこちなく頷くと、逃げるようにバスルームに向かったのだった。


 脱衣所で下着姿になった時だ。 “その”事に気づいて、パンツを脱ぐと広げてみた。
 それは浮気の跡がないかの確認だった。
 問題の部分に顔を近づけてみる。どうやら精液の臭いも跡もないようだ。ホテルでシャワーを浴びたので大丈夫だと思っていたが念の為だった。
 私はふうっと息を吐いて、湯船に向かった。
 身体はいつもより丁寧に洗っていた。これが浮気した者の習性なのか。果たして私に妻を追求する資格はあるのだろうかと、色んな事を考えた。


 風呂から上がると真っ直ぐ自分の部屋に行く。
 イスに座れば直ぐそこにパソコンがある。が、今夜もそれを開くつもりはない…筈だったが、私は一旦ドアを振り返ってから電源を入れた。
 このパソコンを開くのは、妻に性癖を知られてからは初めてかもしれない。
 とは言え、エロサイトだけが目的ではないのだ。そんな何気な気持ちで検索サイトを立ち上げてみれば衝撃の…いやいや見慣れてしまったニュースの見出しに目がいった。


 【教員夫婦が自分達の裸を未成年に!】
 その文句に風呂上がりの身体が、更に熱くなるのを感じた。
 身体を前屈みにして読み始めてみる。


 記事に出ている教員夫婦は、九州にいる40代の中年夫婦だった。
 二人とも小学校で教鞭をとっているようで、その夫婦が公園の砂場で遊んでいた4 、5人の児童の前で露出プレイをしたみたいだ。
 素っ裸の上にコートだけを羽織った奥さんが、いきなりガバっと開げたらしい。旦那の方は、その様子をこっそり撮影していたとか。


 これまでも教師が教え子を盗撮したり、痴漢、それに買春に売春、そんな同じ職の人間の不祥事や事件をイヤというほど見てきた…いや、実際に目にしたわけではないが、事実として受け止めてきた。
 どこの学校でもそうだろうが、この類の事件があった日には、学校長からの注意と訓示めいたものがあったものだ。しかしそれも、回数が増すに連れて慣れたものになってしまった。そして、教師の職が長くなるに連れて同情の気持ちが強くなっていった。それは勿論、加害者への同情だ。
 教師という職業は、それほどストレスの溜まるもので、たちの悪い事に病的なものが多いーーと思っている。


 私は記事にある教員夫婦の様子を頭の中で想像してみたーー。
 広い公園。
 砂場で健気に遊ぶ子供達。
 平和な日常の光景だ。
 そんな平和な場面を息を殺して見詰める夫婦。
 彼らにとっては、初めての“露出”では無かった筈。
 魔が差してやった初めての行為が、きっと病みつきになったに違いない。
 話を持ちかけたのは夫の方ではなかったか。
 夫に“その手”の癖があったのは、想像が付く。それが溜まりに溜まったストレスで解放に向かってしまったのだ。
 妻の方は、その話を持ち掛けられた時にどんな事を考えたのだろうか。元々、その手の願望があったのか?
 どちらにせよ、妻も夫の企みに乗ってしまったわけだ。そして“嵌って“しまったのだろう。


 それにしても、私より上のキャリアの先生が露出プレイをしたなんて。
 しかし私の中には、この夫婦に対する軽蔑など全くない。
 あるのは同情とシンパシー。そして、素直に羨ましいという気持ちだ。そう、その気持ちもあるのだ。私達だって…このまま教師を続けて行ったら…。


 そんな露出夫婦の事を想っている時、大切な事を思い出した。尾行の事だ。
 久美子は明日の昼頃から奈美子さんと会うと云っていた。とすると、家を出るのは11時頃か。
 渋谷君の言葉を思い出してみる。彼は前に、このマンション近くから尾行を始めてもよいと言ってくれた筈だ。私は頭の中を整理してメールを送る事にした。


 返信が来たのは、ベッドに潜り込む寸前の時だった。
 彼はこちらの急な依頼にも快(こころよ)い返事をくれた。


 《畏まりました(笑)
 ご自宅の近くにコンビニがあるのがネットで分かりました。
 そこはイートインスペースがあるみたいなので、11時前にはそこに入って時間を潰してます。
 奥様が家を出たら連絡をよろしくです!》


 彼からのメールを読み終えた時には、そのコンビニの様子が頭に浮かんでいた。
 我が家もよくお世話になるコンビニだ。イートインスペースがあるのも、もちろん知っている。うん、あの席に座ればマンションのエントランスが見える筈だ。
 渋谷君によろしくお願いしますと返信を送って、私はベッドに横になり天井を見上げた。


 常夜灯の暗さの中、目はシッカリ開いている。昼間にあった気疲れは、今は不思議と感じない。
 私は先ほどネットで読んだ露出夫婦の事をもう一度考えてみた。
 彼らは捕まらなければ、これからも露出行為を続けたに違いない。そしてプレイは、間違いなくエスカレートして行った筈だ。その行為に歯止めは、あっただろうか。どこかのタイミングで神田先生のような人と出会えれば、カウンセリングを受け、秘密裏に変態プレイを行える場所を提供されたかもしれない。
 しかし、そんな願望を持った教員が神田先生に出会えたとしても“失敗”して世間の晒し者になる事だってある筈だ。
 そう、 “歳の差夫婦”だってギリギリだったのだ。
 あの御夫婦は渋谷君にそそのかされたとは言え、自宅の部屋のカーテンを開けて、隣のマンションに向かって局部を露出しているのだ。


 私はフト想った。私もやっていたのだと。
 酔ってたとはいえ、この部屋のカーテンを開けて惨めな格好で淫部を曝したのだ。そう、隣のマンションの窓、窓、窓に。


 身体がモゾモゾと蠢き始めていた。部屋の空気もザワザワと鳴っている。何かに導かるたように私は起き上がった。
 バルコニー側のカーテンの前に立って、隙間から外を覗いてみた。向こうのマンションの窓に薄っらとしたシルエットが見える。他も見てみれば、同じような影があるではないか。
 ゴクリ、喉が鳴った。


 向こう側の影、影、影に目を向けながら、パジャマのズボンに手をやった。
 テロンと露出される局部。ソレを右手で握ってみる。2、3度擦るとみるみる大きくなっていく。私はソレをカーテンの隙間からガラス窓に押し付けた。隙間をもう少し開けて、顔も近づけた。
 こちらは常夜灯。向こう側から私の姿など見える筈がない。私はヤモリになって股間を更に強く押し付けた。
 意識の奥から湧いて出るのは、奈美子さん。そう、歳の差夫婦の奈美子さんだ。
 あぁ、あの女(ひと)と鏡の前で中年に差し掛かった身体を見せ合って、刺激を得たい。世間に顔向け出来ないような秘密の行為を、聖職者同士で愉(たの)しみたい。
 あぁ…異様にアソコが硬くなっている。この惨めな姿も見られたい。軽蔑の視線を浴びてみたい。
 そうだ、久美子とも。
 久美子にカミングアウトして、変質者の世界に一緒に行かないかと話してみようか…。


 と、眼の前のガラス窓に小さな“何か”が張り付いている。
 それこそヤモリか。
 私は屈んでソレに目を近づけた。手を出して触れてみようとしたが、ソレはバルコニー側に引っ付いてある。
 その時、気配を感じた。人がいる。バルコニーに裸の女だ。
 瞬間、ゾゾゾと悪寒が走り抜けた。
 こちらに向いているのは、括れれた腰回りに豊満な臀。間違いなく一糸も纏わない裸の女性だ。
 その女が足を肩幅程に拡げて前傾に倒れて行く。
 豊満な臀が、膨れ上がって目の前に寄って来る。その迫力に私の身体は後退りしそうになった。女の股ぐらからは、手が伸びてくるではないか。そして“ヤモリ”を掴んだ。
 いや違う。ソレはアレだ。エロ小説や動画でもよく見たヤツ。
 ヤモリと思ったのはディルドだ!
 女がディルドを扱きながら破れ目に充てている。
 みるみるうちに飲み込まれていく卑猥な性具。同時に巨大化した臀が揺れ始めた。
 私は結合の部分に顔を寄せて、抉るように見詰めた。ふと、頭の中に渋谷君の言葉を思い出した。歳の差夫婦のご主人が、妻の奈美子さんと渋谷君の繋がりの部分を舐めた話を思い出してしまう。
 そんな私は、無意識に舌を出していた。そして、ディルドが女穴に挿し込まれてる部分に舌を当てた。
 冷やっとしたのはガラスに舌が当たったからだ。しかし、向こう側に突き破らんとばかりにガラスに舌をねじ込んだ。


 いつの間にか股間はカチカチだ。私は立ち上がると、中腰になって股間をディルドに向かって…ガラス窓に押し当てた。そして腰を振り始めた。
 ガラス1枚を隔てた疑似セックスだ。


 女の臀(ケツ)の揺れが激しくなっていく。私の身体も揺れてくる。
 女が地べたから手を離して中腰だ。そして振り向き、髪を掻き上げた。
 あ、黒子!
 私の様子に女がニヤリと笑った。瞬間、サーっと暗い幕が降りてきて…。
 私はハッと我に帰った。
 あぁ…又とんでもない夢を…。
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 ーー私はカフェで渋谷君が来るのを待っていた。
 この窓際の席からは、先程までいたホテルの姿を遠目ながら見る事が出来る。
 下の階から上に数えていって10の所で目を止める。
 あの部屋だっただろうかーー。
 今頃あの御夫婦はどんな事を考え、何をしている事やら。奈美子さんが私との“行為”の様子をご主人に話し、ご主人はそれを聞いて嫉妬の炎を燃やしながら奥様を責めているのだろうか。
 私の頭の中で繰り返されるのは、彼女が絶叫を上げたシーン…もあるが、その時目に映った一点だ。
 そう、まさに一点。四つん這いの肢体に後ろから私の硬直したソレを突き刺し、絶頂に導いた瞬間に目に映った首筋。
 ズボズボ厭らしい出し入れの音を聴きながら、私は彼女の耳に掛かる髪をまさぐった。
 ショートボブの髪が振り乱れ、耳たぶの下辺りに目をやった。
 そこには黒子(ほくろ)が有ったのだ!
 仄暗い灯りの下で、やっとその場所を見る事が出来たのだった。
 同時に心と身体が沈んで行く気がして、思わず一物を引き抜いてしまった。
 腰が止まった私に、喘ぎの声を上げていた肢体が振り返って、私達は見つめ合った。
 この女は…やはり…あぁ…。


 しかしだ『止めないでッ!お願いもっと突いてッ、突いて下さいッ!』
 その声に衝撃が走り抜けた。
 違うっ!久美子の声ではない!


 私の驚いた様子など気にする事なく、女ーー奈美子さん(?)が膝歩きで寄ってきた。そして私の物を咥えた。
 股間のソレは、再びヌルヌルになっていった。
 卑猥な舌使いを感じながら、奥様の右側の髪を掻き上げた。そして、もう一度確認しようと試みたがよく見えなかった。
 そこで私は、腰を浮かせながら一物を引き抜き抜いて、奥様の手を取って通路の壁にあった姿見の前へと連れて行ったのだ。


 姿見の前も薄暗いスペースだった。私は身体を出来るだけ鏡に近づけた。
 すると、直ぐに奥様が跪(ひざまづ)いて私の股間に唇を寄せてき。
 その唇からは『あぁ…嫌らしいィィ。変態女が映ってますわぁ』何とも言えない卑猥な響き。その声も間違いなく妻のものとは違っていた。
 と思った瞬間、私のソレはもう一度奥様の口の中へと飲み込まれていた。
 鏡の中はデジャブのようないつかのシーン。違うのは二つの顔が仮面に覆われている事だった。自分の髪型が滑稽に観(み)えたが、そんな事を気にする時ではなかった。
 私は跪(ひざまず)く女体を見下ろした。仮面を外してやりたい衝動が起こるが我慢する。


 鏡に映る奥様…奈美子さんのフェラチオは何とも厭らしく、快感の高まりと共に妻の口技との違いを意識してしまった。
 牡のシンボルは、あっという間に爆発の予兆を感じた。奥様が口を離して、信じられないような隠語を吐き出してきた。
 『アタシのアソコ、もう1度後ろから突いて下さぁい。アタシ、見ず知らずの他人(ひと)にオマンコを汚してもらいたいんでぇす。アタシ変態なんですよお』
 その声に導かれて、奥様の手を取り鏡に付かせた。そして、剛直を握ってアソコに先っぽを充てがった。
 泥濘を探して挿入すると、何かに急かされるように腰を打ち付けた。鏡の中の痴態を視ながら振り続けたのだ。


 理性は快楽に連れ去られそうになったが、私は奥様の耳たぶに掛かる髪をまさぐり問題のヶ所に目をやった。
 確かに黒子はあるが、声は間違いなく違っている。
 『イャンっ見て!鏡の中のアタシ達、凄く厭らしいわッ』
 その声は堪らないくらいの卑猥なものだった。声は出さないでーーそんな約束はとっくに消えていたのだ。
 『ねぇぇアタシのオマンコ気持ちいいですかぁ』鏡越しに卑猥な声が続いてやって来た。
 『あぁ…はい。ぐしょぐしょのヌレヌレですよ。凄く気持ちいいですっ』私は導かれるように応えてしまっていた。


 身体は卑猥なやり取りに高揚を感じっぱなしだった。
 私は腰を振りながら結合の箇所を観(み)てみようと破れ目を拡げてやった。
 『あぁ入ってますよ奥さん。奥さんの大好きなチンポが変態マンコに入ってる所が丸見えだ。アナルがヒクヒクしますよっ』
 『いやんッ!厭らしいわ!もっと見て。もっと突きながら見て!』
 しかし…。
 耐えに耐えていた射精の瞬間が来てしまったのだったーー。


 ーー逝った後、私はバツが悪そうに姿見の前からベッドへと奈美子さんの手を引いた。
 しかし、浮気を経験した事のない私は、ここでどうすれば良いか分からなかった。そんな私に気が付いていたのか、奈美子さんがバスルームを指さしていた。


 奈美子さんがシャワーを終えた後は私も使わせて貰った。バスルームで仮面を外して鏡に自分の顔を見た時だ。一気に現実に引き戻され、それまでの“行為”を思い出してか身体が震え出した。
 妻を裏切った事実と、牡としての役目に納得いかなかった愚息に打ち拉(ひし)がれていたのだ。
 バスルームから出た時の奈美子さんの視線が恐かった。だが、我慢してそこを出た。勿論、仮面を着け直してだ。
 出てみれば渋谷君の迎えの姿を見て、ホッとした惨めな私だった。


 先に部屋に戻った私は、取り敢えず着替える事にした。
 着替え終えた丁度その時に、ドアが開かれた。渋谷君だ。
 『先生、すいませんけど、さっきのカフェで待ってて貰えますか。ご主人も上がってきたので、もう少し話を』と、入ってくるなり目配せして、直ぐに隣の部屋へと戻って行ってしまった。
 そして私は、今いるカフェにやって来たわけだ。
 彼が姿を見せたのは、それから20分ほど経った頃だったーー。


 「すいません。お待たせしました」
 少し息を弾ませた彼の表情には、安堵の色が見て取れた。当然、あの御夫婦に彼なりの気遣いがあったのだ。
 彼の様子に「ご苦労様…」私の口には自然と労いの言葉が付く。
 しかし、私の口調に重いものを感じたのか「先生、疲れました?」と、心配そうに尋ねて来た。
 「いや、大丈夫ですよ」即座に首を振る私。
 それでも彼は、こちらをシゲシゲと眺めながら「本当ですか。思ったより早かったみたいですけど1発でした?」悪戯っ子のような笑みで訊いてくる。
 「えっ、ええ、まあね…」
 「そうですか。ふふっ、大丈夫ですよ。緊張で先生が勃(た)たなかったらどうしようかと、実はそっちを心配してましたから。ああ勿論、先生もそうですけどあっちの先生方にも悪いですからね」
 「あぁ、そうですね…」絞り出すように返事をした私だったが、早漏(はや)かったんですよ、とは言えなかった。


 そんな私は、話しの視点を変えたくて「ところで渋谷君さぁ、ご主人は何処にいたの?ずっと喫茶室?」と尋ねてみた。
 「ああ、ご主人ですか。ご主人は寺田先生が奥様の部屋に入って直ぐ、電話でこっちの部屋に呼んだんですよ。先生を迎えに行く時は一旦又、下に行ってもらいましたけどね」
 「そうだったんですね。私と顔を合わすと気まずいですもんね。それで、部屋にいる時はどんな感じだったんですか」
 「それがですね、部屋の中をウロウロしたり壁に耳を当てたり色々やってましたよ。自分から声は出すなって指示してたし、聞こえる筈もないのにね」
 彼の言葉に心臓が一跳ねした。まさか“アノ”声が訊かれていたのかと。


 「まぁでも、ご主人はご主人なりにムラムラモヤモヤ興奮してたと思いますよ」
 「………」
 「で、寺田先生の方はどうだったんですか」
 「え、どうと云うと?」
 「ん、あっちの奥様の身体ですよ。満足出来たんですか」
 「はぁ、まぁ一応…」
  私の答えに、渋谷君が意味深な目を向けながら「ふふふ」と笑いを浮かべた。
 「寺田先生、その云い方だと相手の奥様は久美子さんではなかったわけですね」
 あッ!改めて指摘されて慌てて頷いた「そ、そうなんですよ。申し訳ない。実は声…奥様が声を出してしまって、それが妻とは全然違ったんです」
 無意識に謝罪の言葉までついた私だったが、渋谷君はニコリと頷いた。同時にスマホを取り出した。
 見ればメールだろうか、画面を覗き込んでいる。
 私は彼を横目に、もう一度奈美子さんとのあのシーンを思い出してみた。右の耳たぶの下には確かに黒子(ほくろ)があった。あれは“白昼夢”ではなかったかと改めて自分に言い聞かせたのだーー。


 と、渋谷君の声だ。
 「先生、ご主人からのメールですよ。読みましょうか。いいですか。えっと『色々とありがとうございました。妻は想像以上に興奮したみたいです。御相手の先生のぺニスが自分に合ったのか、異様に気持ち良かったみたいです。私の方も妻の話に大興奮で、アソコがビンビンになってハッスルしました(笑)』…ですって先生」
 メールの内容に一瞬の安堵を覚えたが、直ぐに奥様の謙遜が入ってるのだろうと、私は却って自分の情けなさを自覚してしまった。


 「………」
 「先生、それにしたって良かったじゃないですか。相手は奥様の久美子さんじゃなかったんだし。おまけに奈美子さんとの身体の相性も良かったわけだから。奈美子さんもメールにあった通り満足したんですよ。そうそう、僕が別れ際の挨拶をしてる時も仮面を着けたまま俯いてましたね。やっぱり初めてのお相手だから恥ずかしかったんでしょうね」
 「ええ…そうかもしれませんが、でもね」
 「ん?ひょっとして浮気をしてしまったとか嘆いてます?」
 「そ、それはそうだよ」
 「………」


 渋谷君は私の言葉に口を閉じてしまった。
 沈黙の間に私は、繰り返しコーヒーを口に運ぶ。
 やがて。
 「お気持ちも分からなくはないですが、先生だって切っ掛けがあれば奥様を寝取られたいとか、ご自分も淫靡な世界を経験してみたいとか思ってたわけですよね」
 改めて“それ”を告(い)われると、ぎこちなくも頷いてしまう。確かに渋谷君の指摘は当たっているところなのだが。


 「ふふっ、まぁ先生の性格も分かってきたつもりですから、ここで責める気はありません。でも、神田先生も云ってましたけど寺田先生みたいな真面目な人に限って、嵌まると凄いと思ってますけどね」
 あぁッ、それは先日の酒の席でも先輩ーー大塚先生からも告(い)われた事だ。


 私は息苦しさを覚え始めていたが、その時彼が思い出したように訊いてきた。
 「そうだ。そうなると奥様の久美子さんが云ってた“半年前からしてる好きな事”。それって分からないままですよね」
 「そ、そうなんですよ。実は今日も、妻は友人の方の奈美子さんに会うと云って出掛けてるんですよ」
 「え、奥様の友達にも奈美子さんって方がいるんですか」
 「ああ、そうなんですよ。凄い偶然なんですけど…」
 「なるほどね。じゃあ、奥様はそっちの奈美子さん会うと云って、実は浮気の最中だったり…な~んてね」
 「あぁ…」
 「ふふふ…」


 渋谷君が口元を歪めながら意味深な目を向けている。
 「では先生、また機会があれば尾行してみますか。前にも云いましたけど、僕なら協力しますよ。はい、悩み多き中年教師の為なら身体張りますから。へへっ」
 「あ、ありがとうございます」
 素直に感謝の言葉が口に付いた私だった。
 しかし、その尾行のチャンスはいつ来るか分からない。妻が二日続けて…明日も出掛けるとは思わないし…。
 ところが…。
 この日、家に帰ると…。
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  ホテルのロビーは、かなりの人波だった。パッと見たところ、多いのは海外からの旅行者だ。私は彼等の視線さえ避けるように足を運んだ。前を行く渋谷君は慣れたものか、迷う事なく足を進めている。


 彼が足を止めたのは、エレベーターホールだった。そこは運良く、あまり人がいない。
 そこで彼は↑のボタンを押して「10階なんですよね」と呟いた。そして、周りの視線を気にしながら私の耳元に顔を寄せてきた。
 「係長、本日の接待ご苦労様です。先方の専務は既にお部屋にいらっしゃいます。社長の方は地下の喫茶室にお茶を飲みに行かれているようです」
 彼が私の緊張を解す為か“隠語”で状況を伝えて来た。そして小声で続けて来る。
 「係長、緊張してますよね。でも、ここまで来たら割り切って犯(や)っちゃって下さいね」
 「そ、そうですね…」
 「ふふっ、頑張って」
 私は彼の眼差しに「は、はい」と呟き、そして黙り込んだ。
 やがてエレベーターが到着して、上の階へと向かった。


 案内された部屋は、シングルタイプの思ったより狭い間取りだった。
 窓際に小ぶりなテーブルセットがあって、私達はそれぞれイスに腰掛けた。渋谷君が一呼吸置いて、私を真っ直ぐ見詰めてきた。
 そして。
 「では、奥様の方はシャワーを浴び終えてるでしょうから先生も…」
 その言葉に、口元を結んだまま立ち上がった。


 バスルームに入った私は、ジェルで固めた髪を濡らさないようにシャワーを浴びる。お湯の心地好さに目を閉じながらも、プレイのイメージを浮かべていた。
 ガウンに着替えてバスルームを出たところで「先生、はいコレ」渋谷君が手に持つソレを渡してきた。


 「あぁ、これが仮面ですか」
 「はい、着けてみて下さい」
 恐々と受け取って鏡の前で着けてみた。
 鏡の中に怪しい男が浮かび上がってくる。
 あぁ…これが私なのか。


 「フフフッ、まるで誰だか分かりませんよ。ええ、エロチックな感じです。うん、先生なら何でも出来ますよ」
 「あぁ…」
 「いいですか。先生はただの牡なんです。獲物を求める飢えた牡。相手は飢えた牝。飢えた者どうしで欲望をぶつけ合って下さい」


 彼の言葉を、鏡に映る仮面の顔を見ながら背中越しに聞いていた。
 その言葉は、不思議な感覚で身体の隅々に染み渡って行くようだった。同時に弱気な自分が消えていく気がするのは何故だろう。股間のアソコにも活力が満ちてきた気がする。これが仮面の魔力なのか。
 あぁ…犯(や)らなければならない。そんな気持ちが湧いてきた。


 「さぁ、そろそろ行きましょうか」
 声に私は、黙って振り返る。
 「そうそう、顔見せと声出しには気を付けて下さいね」


 渋谷君が先に廊下の様子を確認する。私は彼の合図で部屋を出る。
 彼の手には、隣の部屋のカードキーだ。それをドアノブの下の隙間に差し込む。解除の点滅があってドアが開かれた。
 私は素早く周囲を確認して彼に続いた。
 部屋は聞いてた通り、常夜灯だけで仄暗い。間取りは隣と同じようだが、薄暗くて奥の様子が分からない。


 「失礼します」
 薄暗い部屋の中に、透き通るような渋谷君の声。
 彼は足音を殺して奥へーーベッドの方へと進む。私も従うように着いて行く。
 彼が足を止めた直ぐその先、ベッドの端に腰掛ける後ろ姿を見る事が出来た。私と同じ白いガウンが、頼りない灯の下に佇んで観(み)えたのだ。


 「奥様、お連れ致しました」
 「………」
 「僕は一旦失礼しますけど、プレイが終わりましたら空メールを入れて下さい。直ぐにこちらの“先生”を迎えに参ります。では」
 渋谷君の畏まった言葉に、ベッドの後ろ姿が微かに頷いたのが分かった。
 彼はその後ろ姿に「ありがとうございます」落ち着いた声で告げて、そして私をチラリと盗み見した。その目にはどこか愉(たの)しげな色が浮かんでいる。


 渋谷君が出ていくドアの音を背中で聞いて、私は静かに深呼吸をした。そして、ゆっくりと近づいて行く。
 常夜灯の下、白いガウンになぜか神聖な気配を感じた。そして、私の手が白い肩に掛かって…。
 「………」
 無言のメッセージに、女が肩に置かれた私の手に自分の手を重ねてきた。私はその温かさに胸がキュンとなってしまった。
 シャワーのお湯のせいなのか、はたまた性への渇望が原因なのか“女”の熱さが伝わって来るようだ。
 その時、女が立ち上がって抱きついてきた。
 そして、私達は仮面越しに見つめ合った…と思ったのも一瞬で、私の唇は女に奪われていた。
 私の舌は女に絡み取られ、鼻の奥には香水の匂いが広がった。同時に背中がゾゾゾと粟立ち、意識の奥にあった“妻”の姿が霧に包まれていった。
 気づけば二人の口元から、嫌らしい音が立っている。
 ブチュチュ!
 ジュルジュルッ!


 声は出さないようにと云われていたが、この粘着音は構わないのか。その音の合間に渋谷君の声が聞こえてきた。
 『…相手は飢えた牝…飢えた者どうしで欲望を…』


 女の鼻からフンフンと嫌らしい音が聞こえている。間違いなく女の方は興奮している。
 女が舌を射し込んだまま、私のガウンの結び目に手をやって全てを剥ぎ取っていく。
 私を全裸にすると、次に女は自分のガウンを脱ぎ取った。そして私は、股間の物をギュッと握られた。ソコは女の手指によって、みるみるうちに硬くなっていく。


 反り上がったソレが二つの身体に挟まれたまま、私達は口づけを続けいていた。
 男根が感じる熱さはシャワーが原因なのか。それとも、コレが女の欲求に熱を発したのか。
 あぁ…女の鼻息がますます荒くなって行くではないか。この女は欲求不満が続いているのだと、自分に言い聞かせた。


 よし! “俺”が解放してやる。私の中にサディスティックな癖が湧き出てきた。この柔らかい唇から卑猥な叫びを吐き出させてやるのだ。
 私は指で女の乳首をつねり上げた。
 ンーーーッ!口づけの隙間から奇妙な叫びが上がる。
 なんだその叫びは!間違いなくマゾの叫びではないか。私は更に乳首を捻りながら舌を最奥へと射し入れた。
 私の口周りには女の鼻息が当たる。その艶かしさに呼応するように、私は唇を吸うだけ吸って、そのまま身体を押し倒した。
 イヤンッ!咄嗟に出た女の叫びなどもう気にしない。ベッドの上、私は強姦魔のつもりで股がったまま乳房にシャブりついた。
 目の辺りを仮面に覆われているが、そんな事はどうだっていい。匂いを嗅ぐようにジャブってやる。


 あぁ、乳首がビンビンに反応してるではないか。口からはくぐもった声が漏れてくる。間違いなく女は感じている。たっぷりシャブったら次はアソコだ。
 乳房から唇を這わせながら下腹へと進める。直ぐに口元が毛に触れる。あぁ、確かに剛毛だ。
 先だってのマジックミラー越しに曝されていた剛毛がこれなのだ。さぁ、この奥の秘密の部分を見てやるのだ。
 私は熟した股間の匂いを吸い込み、そして腿の内側に手を当てた。なるべく乱暴に、ガバッと拡げてやった。女にも覚悟を決めさせてやる。


 仮面越しの目に映ったのは、奇妙な生き物だ。
 ソレは仄暗い灯りの下で、パクパクと呼吸してるようだ。私はその左右のビラビラを鼻先で押し拡げて、唇を持っていった。そして、思い切り音を鳴らしてやる。
 ジュルジュルッ!
 ジュルジュルッ!
 ジュルジュルッ!


 ンアーーーッ!
 女の喘ぎが、暗がりを引き裂いた。
 私は泥濘に射し込んだ舌を回しながら、恥豆も責めてやる。
 ビンビンに尖った突起を舌で転がし続けてやる。
 上目遣いに目線を上げれば、左右の乳房の間に口を手の甲で押さえる仮面の女だ。声を出さないように必死になってやがる。私の責めに間違いなく感じているのだ。身体が、ますます熱くなっていくではないか。次の責めはアソコだ。


 私は女の片膝を持ち上げて、横向きにして尻にピシャリとムチを入れてやる。女も心得たものか、腰を浮かせて四つん這いになっていく。
 その丸みは暗い灯りの下でも、輝いて観(み)える。大きさは…あぁ、覚えのある大きさだ…。
 頭に血が昇っていき、尻の肉厚を両手で鷲掴んでそのまま上下左右にコネクリ回してやった。その中心で歪(いびつ)にゆがむ不浄の門。ソコを凝視してやる。


 ーー尻(ケツ)の穴 丸見えだよ。
 心の中で卑猥な声を掛けてやった。その言葉に私自身の身体がブルっと震えた。気がつけば私はアナルに舌を射し込んでいた。そしてソコを抉るように舐めてやる。ヒクヒク匂いを嗅ぎながら、唾液まみれにしてやる。


 ーー以前は尻(ケツ)の穴を見られのが恥ずかしいってか。でも今は嬉しいんだろ。
 おい、どうなんだよ。
 ほら、マンコ拡げてお願いしてみろよ!
 心の問いかけに、女穴がヒクヒク返事をした。
 私は股間の男根を握ってみる。間違いない巨(おお)きさだ。
 あぁ…遂に…。
 私の先っぽから我慢の汁が溢れてるではないか。
 コレを目の前の穴に射れるだけで良いのだ。後は勝手に反応して、快楽の局地に導いてくれるのだ。


 そして私は、女の膣(アナ)にソレをぶちこんだのだったーー。
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 職場の中学に着いた私は、席に座ったとたんにドッと疲れを感じた。
 二日酔いの怠さがあるのは勿論だが、今朝の車内での悪夢が重くのし掛かっていたのだ。
 私は重い眼(まなこ)で時計を見た。今朝は同僚達と擦り合わせをしておく事項もない。時間が来るまで目を瞑って、暫し心を休める事にする。


 瞼の裏に蔓延っているのは、久美子と女子高生が戯れる姿だ。いや、弄(もてあそ)ばれたシーンだ。
 立ったままガニ股開きした女子高生の股間を、妻が膝まずいた姿勢で舐めるシーンが浮かんで来た。
 女子高生が吐いた言葉が蘇る。


 ーーあぁんッ、気持ちいいわ。
 久美子先生、アタシのクリトリスいっぱい転がして!


 喘ぎ声を上げる彼女の股間をシャブりながら、押し倒されるように久美子は布団の上で仰向けになっていった。そして、妻の口の上、ウンチングスタイルで股間を押し付ける女子高生。彼女の口からはニュルっと舌が露(あらわ)れて…。
 あぁ、疑似3Pだ。
 妻は彼女の“ソコ”を舐めながら、自分のアソコに手を当てていた。恥豆を弄(いじく)りながら、泥濘に指を送り込んでいる。
 彼女の舌使いが激しくなっていく。目に見えぬ牡の直棒を舌で絡みとっている。
 この娘(こ)は本当に高校生なのか。まさか秋葉先生の娘さんなのか。
 そんな事を一瞬考えた私に、彼女は目を開けて嘆きの視線を向けてくる。
 と、その時聴きなれたチャイムの音に目が覚めた。
 私はゆっくり目を開けると、欠伸を我慢して伸びをしたのだった。
 この日、一時間目から教壇に立った私は、明日は土曜日と言い聞かせて自分にムチを入れた。
 昼休みには流石に空腹を覚えて、昼食を腹に詰め込んだ。
 そして一服した時だ。スマホの振動だ。


 この時間帯にメールが来るのも、もう慣れた。
 渋谷君を思い浮かべて開けてみた。


 《寺田先生、お元気かな。
 神田です。
 大塚君と一杯やったみたいだね。それで彼から聞いたのだが、先日話した教員夫婦の奈美子さんと、君の奥様が同じ人物ではないかと疑心があるんだね。
 あなたはハッキリさせたい性格だろうから渋谷優作君に相談しておいた。それで、良い方法を思いついたので伝えておく。
 あちらの御夫婦に3Pプレイを提案する事にした。勿論3人目は貴方だ。直接向こうの奥様、奈美子さんと肌を合わせて確かめてみるのが良い。渋谷君が既に向こうと連絡を取っていて、返事も直ぐに来ると思うので待っていてもらいたい。
 それと、プレイには互いが仮面を着けて素性が分からないようにする事も合わせて提案しておく。
 では》


 メールの内容に衝撃を覚えつつ、読み終えた時には先輩ーー大塚先生の顔を浮かべていた。
 間違いなく、先輩が私の引っ込み思案な性格を読んで動いたのだ。先輩は今朝、私にメールを送った時には神田先生にも送っていたのだ。
 向こうがもしOKして来れば、こちらも覚悟を決めないといけではないか。あぁ…どうなってしまうのだ。


 渋谷君からそのメールが来たのは予想よりも遥かに早く、帰宅途中の電車の中だった。
 《寺田先生、お仕事ご苦労様です。
 神田先生から聞きました。大塚先生が寺田先生を想っての事なんでしょうね(笑)
 僕の方は早速、あちらの御夫婦にお願いのメールを出しておきましたよ。
 メールでは、寺田先生の事は38歳の真面目な現役教師とだけしてあります。
 それで先ほど、早くもご主人の方から返信があって、ご主人は乗り気のようです。家に帰って奥様と相談をするとの事ですが、おそらく大丈夫な気がします。
 夜には返事が来ると思うので、また連絡しますね。
 よろしくです(´・з-)ノ》


 メールを読み終えて、あまりの速さに面食らった私だった。
 駅を降りてからも、スマホがいつ震えるか気が気でなかった。心の中には新たな想いも生まれていたのだ。もし、相手が妻の久美子でなく“本当”の奈美子さんだったら、私は“浮気”した事になってしまうのだから。
 あぁ…渋谷君からの連絡に何を期待する?吉報をか。吉報とはOKの返事か、断りの返事か。


 夕飯も食欲のなかった私だった。
 朝からの二日酔いを心配してくれてる妻の顔も、チラチラ盗み見るだけだった。
 そんな私は震えを帯びた声で「そ、そうだ、友達の奈美子さんとは約束できたのかなぁ」と囁くように訊いてみた。
 「あ、ええ、明日朝から約束できましたわ」と、飄々とした声が返ってきた。
 その瞬間、何故だか得体の知れない緊張が湧き上がった。


 そして夜の10時過ぎ、遂にそのメールが来てしまった。部屋で沈んでいる時だった。
 私は呼吸を整えてから、渋谷君からのそのメールを恐々と開けてみた。


 《お疲れ様です。
 連絡ありました。
 あちらの御夫婦ですが了解されました。
 ただし、3Pプレイを提案したのですが、ご主人は自信が無いので奥様とお二人でプレイをして下さいとの事です。
 ご主人は近くの別の場所で、奥様の痴態を想像してモンモンとしていたいらしいですよ(笑)
 それと、仮面を着ける件ですが向こうからもそのお願いをしようと思っていたそうなのでOKです。仮面は僕の方で用意して行きます。他には部屋はなるべく暗くとか、会話はあまりしないでとか、いくつか希望がありましたが、それは当日に伝えますので》


 私はそこまで読むと、全身の力が抜けていく気がした。
 メールの最後には、いきなり明日の待ち合わせの場所と時間が書かれていた。
 指定のシティホテルは、渋谷君達と初めて会った時のホテルだ。その近くのカフェが待ち合わせの場所なのだ。
 あぁ…どうする。今からでも妻を問いただすか。
 しかし、勇気の足りない私には…。




 当日ーー土曜の朝、寝坊して起きた私は、夢遊病患者のように朝のルーティンをこなした。
 妻の方は平日の朝のようにテキパキと動いている。服装は既に出掛ける恰好だ。
 やがて妻は「じゃあ行って来ますね」何処となく冷たい声で玄関に向かった。
 妻を見送った私は、彼女の後ろ姿に微かな嫉妬の芽生えを覚えた。
 行かせてよいのか。
 いや、もう行ってしまっている。
 じゃあ、どうするのだ。
 それから暫く自問を繰り返した私だったが腹を決めた。相手をするのだ。今日の相手の女性は“どっち”か分からないが、腹を決めてやるしかない。
 そして私は、直ぐに出掛けの準備に取り掛かったのだった。


 ホテルの最寄り駅に着くと、近くのコンビニでヘアージェルを購入した。
 渋谷君との待ち合わせのカフェでは、店内に入ると直ぐに化粧室に行く事にする。買ったヘアージェルは固めるタイプで、念の為にこれで髪型を変えておくのだ。プレイは仮面を着けてと聞いているが、少しでも素性が分からないようにしておきたいわけだ。


 トイレの鏡に向かって、慣れない手付きで髪を固めていく。
 やがて、オールバック気味の変な顔が出来上がった。それでも笑えない私がいる。既に心臓がバクバクなのだ。
 個室を出れば、タイミングよく彼と出くわした。
 「あれ、寺田先生…ですよね」
 私の髪型にだろう…目をパチクリさせる渋谷君。
 彼が笑いを堪えたのが分かったが、こちらは真剣だ。


 席で向かい合った彼は、何かを察したかウンウンと頷いて「先生、ご苦労様です。寺田先生の勇気に敬意を表します」と、真面目な口調なのかどうなのか、よく分からない様子で話し始めた。
 「思いがけない展開になりましたけど、今日はもう、割り切って犯(や)ちゃって下さいね。分かりますよね。相手の奈美子さんが先生の思い違いで奥様じゃなかったとしても、男としては向こうを悦(よろこば)せないといけないんですから」                                           
 彼の指摘は私も考えていた事だった。それでも私の返事は「ああ、はい」と頼りないものだった。
 渋谷君は私の声など気にする素振りもなく続けて来る。
 「それで、昨日のメールにも書きましたが、幾つか注意点があります」
 その声に思わず、背筋が伸びてしまう。
 「段取りはこうです。 “奈美子”さんが部屋で、ご自分で用意した仮面を着けて待ってらっしゃいます。ガウンは羽織っていますが中は裸です」
 ゴクリと私の喉がなる。
 「先生には最初、隣の部屋に待機してもらいます。はい、隣どうしで2部屋押さえてあるんです。そこでシャワーを浴びたら用意してあるガウンに着替えてもらいます。先生も中は裸でお願いしますね。向こうから“どうぞ”のメールが来たら、僕が受けまして隣に移動です」
 「ああ…はい」
 「部屋は薄暗くなってますが、慣れてくればお互いのシルエットや顔の輪郭などは分かると思います。勿論、肌を合わせる距離だと相手の身体の様子は分かる筈です。仮面を着けてますが、鼻とか口は露出してるでしょうから雰囲気も伝わると思いますので」
 「あぁ、な、なんだか艶かしいですね…」
 「ふふっ、もう興奮してますか」彼の口調は闇への案内人のものだ。


 「奈美子さんと相対しても、いきなり“黒子はありますか”なんて事は間違っても訊かないで下さいね。先生にとったら、奥様と同一人物かを確かめたいのが一番でしょうが、違った場合の事も忘れずシッカリ対応して下さいね。それに、同じ所に黒子(ほくろ)が合ったとしても偶然という事もありますから」
 渋谷君のその指摘も覚悟していたものだった。私は硬い表情で黙ったまま頷いてみせる。
 「もしモチベーションが上がらなかったら、そうですね、相手は教師のくせして誰にでも身体を許す売春婦…そんな女と思った方がいいでしょうね」
 「え!そんな…」良いのですか、と思わず聞きそうになってしまう。
 「ええ、あちらのご主人は妻の素行が怪しくて尾(つ)けてみたら、信じられない事をしていた、という設定で興奮したいみたいなんです」
 「アアっ、ウウウッ…」何故か記憶の奥から【白昼夢】の場面が浮かんで来る。
 「はい、ご主人はプレイの後で、奥様の口から男に抱かれた時の心境や肉体に感じた悦(よろこ)びを知りたいのです」
 「………」
 黙り込んでしまった私だったが、心の中では得体の知れない感情を感じていた。そこまでご主人が考えているとしたら、お二人は本物の夫婦なのだろうか…。


 「それと、ゴムは用意してませんから生でやっちゃって下さい。因みにアナルは無しですからね。いいですか」
 「あ、ああ…」
 「それとメールにも書きましたが、奥様はご主人から声は出さないようにと言われています…。まあ、素性がばれないようにしておきたいみたいですね」
 私は黙って頷くだけだ。
 「でも先生、変に畏まらないでリラックスして下さいね。さっきも云いましたけど、好きなように犯(や)って大丈夫だと思いますよ。 “穴奴隷”だと思って、やりたいようにやって下さい」
 そこまで告げた彼の顔は、ウインクでもして来そうな顔だった。こっちは心臓が飛び出しそうだというのに。


 「じゃあ、そろそろ電話してみますか」
 彼が時計を見て立ち上がった。
 スマホを取り出し、私に背を向け電話を掛ける渋谷君。私は頭の中に、先日のマジックミラーで見た仮面の女を浮かべてみた。
 あの女(ひと)は今頃、どんな気持ちで私が来るのを待っているのだろうか…。
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 次の日の朝ーー。
 寝不足の頭は、ここ最近では1番重かった。そう、昨日の朝よりも。
 そんな私は、ダイニングのイスからキッチンに立つ妻の後ろ姿を追っていた。これはデジャブなのかと、頭の奥では二日酔いのノイズ音が鳴っている。


 「あなた、無理なら食べなくていいですよ。かなり飲んで帰って来たみたいですし」
 その声に、ふっと我に帰った。
 私の前には手付かずの皿がいくつか、今朝は水を1杯飲んだだけだ。


 まだノイズが鳴っている…と思ったら、スマホが振動していた。
 開けて見れば酒を勧めた張本人ーー先輩教師の大塚先生だ。


 《おはようございます。
 夕べはかなり飲んでたけど大丈夫だった?
 奥さんの口から例の事は聞き出せたのかな(笑)
 まぁ焦らずに…いやいや、早くこちら側の世界に来てほしいんだけどね。
 とにかくシッカリね。
 では》


 私は読み終えると、何がシッカリねだ、と頬を歪めて重い頭を一振りした。
 そんな私を観(み)て、妻は何かを察したか「あなた、夕べのメールにあった大塚先生という方は、あれですか。たしか私達の結婚式に来て頂いた…」と、計ったように尋ねてきた。
 「ああ、そうそう。こっちで会議があるとかで、終わった後に飲まないかって急に誘われてね」
 「そうでしたか。それにしても最近は忙しそうですね。一昨日はあなたもM駅で…」
 その瞬間、ピリリと頭の芯が震えた。そうなのだ。あの夜の妻の事をもっと探らねばならない。私は重い頭のまま考えておいた話をする事にした。


 「そ、そう言えばさ、久美子もM駅で打ち上げだったよね…。それで、ストーカーの件は一件落着でお終いなのかな」
 「はぁ、まぁ、そうですね…」
 「そうか。長い事時間が掛かって大変だったね」
 私の声が諄(くど)く感じたのか、妻は首を傾げてから頷いた。


 会話のおかげか、二日酔いが少しだけスッキリした気がしてきた。
 「それでさぁ、奈美子さん…友達の奈美子さんとは会う約束はないのかい?」
 「え!奈美子ですか。そ、そうですね…。けど、どうして奈美子の名前が」
 「あ、いやいや、教え子のストーカー騒動が落ち着いたしさ、気晴らしにと思って…」
 「そうですか…。じゃあ、都合を訊いておこうかしら…」
 妻が呟いた時には、頭の中に“尾行”の二文字を浮かべていた。そう、妻に外出を促して尾行を決行する作戦だ。渋谷君にも協力を仰がなければならない。


 「あら、もうこんな時間ですよ」
 妻が壁掛けの時計に目をやっている。私は“作戦”の事を考えつつ席を立ったのだった。


 今朝は時間ギリギリでいつものバスに乗り込んだ。席に着いてからも色んな事を考える。
 バスを降りれば私鉄に乗りかえ、職場の中学まで30分ほど。
 今朝の車内は何故か女子高生の姿が多い気がした。車両がいつもより混雑しているのだ。


 私はいつものように、両手で手摺を掴んでいる。こうやって手の位置を周囲に示しているわけだ。万が一の時に、痴漢の加害者に間違われないようにする為だ。
 思い出してみれば、自分が教師になってからも何度同じ職の人間が性犯罪の加害者になった事か。
 それにしても女子高生が多い…。
 私は目を閉じた。いつものように揺れに身を任すのだ。


 目を瞑っていても、やけに瞼が重く感じる…。
 二日酔いの影響だ。
 このまま寝落ちてしまいそうだ…。


 ポンポン、誰かが肩を叩く。
 薄っらと目を開けて、振り返れば可愛らしい女子高生。
 彼女の周りには同じ制服の女の子達が十数名、私を取り囲んでいる。
 肩を叩いた彼女が、輪の中の一人の腕を握って、私の方へと引き寄せる。


 だ、誰だ?
 え、久美子!?


 ーーねぇオジサン。あなた、この女(ひと)の旦那さんなんでしょ。
 なのに、長い事この女(ひと)を抱いてなかったんだってね。


 ーーな、長い事…抱いてなかったって…。


 ーーだからね、今朝はオジサンを欲情させようかと連れて来たのよ。
 この女(ひと)も欲求不満が溜まってるみたいだしさ。


 ーーな、何を云ってるのだこの娘(こ)は…。


 ーーじゃあ先生、今からいいものを見せてあげるわね。


 ーーああっ!なぜ私の事を教師と…。


 彼女の合図に、周りの娘(こ)達が一斉に久美子に群がった。
 そして久美子が、靴から上着へと脱がされていく。
 私の身体がカーッと熱くなっていく。
 膝が震えてくる。


 あっという間に全裸にされた妻が、ドアの前に立たされる。
 私の目には妻の後ろ姿。
 よく見ると妻の身体が揺れている。窓に股間と乳房を押し付けている。
 ああっ、これは巨大ヤモリの後ろ姿。


 卑猥な動きを始めた後ろ姿に唖然とする私。周りでは何故か女子高生達が布団を敷いている。
 これはどういう事だ。


 ーーさあ先生、久美子とセックスしてみせて。


 ーーええっ!


 ーーどうしたのよ先生。久美子を見てごらんなさいよ。あの格好のまま逝かせていいの?


 見れば妻の動きが激しくなっている。


 ーーあ~ひょっとして、勃(た)たないんでしょ。勃起しないんだぁ。


 明らかにバカにした彼女の声に、取り囲む娘(こ)達が一気に笑い声を上げる。
 私の額には汗が滲み出る。


 ーーじゃあ仕方ないわね。アタシが相手をするわ。


 彼女が靴を脱いで布団に上がるとブレザーからスカートへと着ている物を脱いでいく。やがてそこに、真っ赤なランジェリー姿。


 ーーさぁ久美子、アタシのを舐めるところからよ。


 ーーああっ!なんだ今のその言葉…。


 膝まずいた久美子が、彼女の真っ赤なショーツに手をやっている。そしてソレを下ろしていく。
 彼女が、はしたない格好…足をガニ股開きで拡げていく。
 股間から伺えるのは幼い恥毛の様子。


 ーーうふふ、舐めなさい。


 ーーアウッ!く、久美子…。


 ニュルっと伸びた妻の舌か゛グルグルと回る。それに合わせて私の目が回る。頭も揺れる。
 足元がふらついてくる…。


 あぶない!
 その声に頭が跳ね上がった。
 瞬きすれば、窓の外で景色が流れていく。
 焦点がゆっくり移動すると、見知らぬ人が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


 「あ、えっ、ええ大丈夫です。すいません」
 私は悪夢を振り払うように頭を振ったのだった。
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 私は右手に黒いマスクを握っていた。全頭マスクと呼ばれるSMチックなやつだ。
 鏡には裸の私と、顔を伏せた女が映っている。女の膣と私のソコは繋がったままだが、腰は止まっていた。
 私は思い出したように、黒マスクを左手に持ち直した。そして右手で、女の右耳に掛かる髪を掻き上げた。一瞬、女の膣が私のソレを噛み締めた。それでもそのまま顔を近づけ、耳下の黒い点に目をやった。
 そこには間違いなく“黒子”があった。
 と言う事は、この女は妻で良かったのだ。
 しかし…。
 妻の手が私の手を払いのけるように、自分で髪を掻き上げた。はっきりと黒子を見せようというのか。
 私はそこを凝視しようと、最度顔を近づけた。
 ところが女の小指が、黒子に触れたかと思うとカリカリと掻き始めた。
 その瞬間、昨日、秋葉先生が口にした言葉を思い出した『…奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ…たまにシールを貼る事がある…』
 シール!
 まさか…。
 唖然とする私の目に晒されながら、ポロリと黒く小さな塊が剥がれ落ちた。


 ガチャ。その時ドアの開く音がした。
 顔を向ければ、そこにはなんと、秋葉先生ではないか。更にその後ろには…。
 それは、黒い全頭マスクを被ったもう一人の女だった。
 女と繋がったまま、私は呆然となっている。
 そんな私に「ふふふ」秋葉先生の嬉しそうな含み笑いが聞こえてきた。
 「奈美子、どうだね寺田君のチンポは」
 ああッ、奈美子さん!。
 「あなたぁ、寺田先生のおチンポいいわぁ、やっぱりアタシのマンコにピッタリみたいよぉ」
 その声は間違いなく、あのシティホテルの薄暗い部屋の中で訊いた声だった。そして鏡の中、奈美子さんが顔を上げた。
 私は鏡越しに、その顔を見詰める。久美子に似てはいるが、確かに奈美子さんだ。となると、秋葉先生の後ろで佇む黒マスクの女が…。


 私の何とも云えない視線を受けながら、先生が後ろにいる女の肩に手を回した。
 「寺田君、君が奈美子とオマンコしてるって事は…ふふっ、僕は“この女”と犯(や)っていいって事だよね」
 えっ!
 「ええ、そうよ。アタシも気持ちいい事してるんだから、あなたも犯(や)ってぇ!」
 奈美子さんが、私と繋がったまま先生に訴えるように声を張り上げた。
 彼女の声に頷き、先生が女の手を引いて隣へと寄って来る。奈美子さんの方は“私”を逃すまいとするかのように、膣の締め付けを強めてきた。
 「ねぇ、寺田先生も止めないでぇ、もっとアタシのオマンコ突いてぇッ」
 蜜を塗したような甘ったるい声。秋葉先生の方は奈美子さんの声質にか、口元を歪めて変質者のような笑みを漂わせている。


 「さぁ久美子君!」
 あぁ…遂に、先生の口からその名前が。
 私は衝撃を覚えながら、黒マスクを見た。身体は震えてみえるが、抵抗はみられない。それどころか、二人の口が重なっていく。
 久美子が唇を許している…。
 「うふふぅ…寺田先生ぃ、アソコが膨らんで来たわよぉ」奈美子さんのアソコが、更に“私”を締め付けてきた「もっと突いてぇ、ほらほらぁ」


 隣では口吻したまま、先生が久美子の上着に手を掛けた。
 久美子はされるままに、素肌を曝されていく。
 やがて裸体が現れた。見るからに奈美子さんと良く似た裸体だ。
 黒マスク一枚で全裸になった久美子が震えている、ように観(み)える。その横では、先生までもが服を脱ぎ始めた。
 「さぁ早く、久美子もアタシの隣でオマンコ犯(や)りましょうよぉ」奈美子さんが又も甘ったるい声を吐き出している。
 服を脱ぎ終えた先生が妻の背中を押す。久美子が奈美子さんの隣、両手を鏡にあてた。


 「久美子君も向こう側から、モヤモヤしながら覗いていたんだよな。旦那と親友がオマンコしてる所を覗くのはどんな気持ちだったんだい」
 そう云って、先生がバチンっと久美子の尻(ケツ)を一打ちした。
 「いや~んッ」むせび泣くような鳴きが上がった。間違いなく久美子の声だ。
 久美子が腰を引いて、奈美子さんと同じように中腰になる。
 鏡の中に、二つの顔が並んだ。一人は素顔で、一人は黒マスクの妻だ。
 「寺田君、見てごらん。僕の方はこんなに硬くなってるよ」
 先生を見れば、股間のモノを指さしている。天に向かって聳え立つ牡のシンボルだ。
 「ふふ、一時は元気がなかったけど今はコレだからね」
 ソレを握って見せつけるこの“男”。その先生の貌が醜く歪んでいく。


 「では、久美子君のマンコを見せてもらおうかな」そう云うと先生が屈んだ。すると直ぐに、ネチャネチャと厭らしい音が聞こえてきた。
 「ああ凄いッ、凄いよ寺田君。久美子君のマンコ、ビショビショじゃないか」
 その声に私のソコがキュンとなってしまった。


 「ぐふふ、じゃあ、さっそく頂くとするか」
 秋葉先生がソレを握ると立ち上がって、妻の後ろから破れ目に当てた。まさに挿入の瞬間だ。しかし…。
 私に最後の判断を求めているのか、先生の目が見つめて来た。心の中に何時かの声が降って来る。
 『…こちら側の世界に…』
 これは白昼夢の世界か…いや、違う、奈美子さんの下の口に咥えられたアソコが、確かな“痛み”と気持ちよさを感じているのだ。


 私は心で妻に問いかける…。
 ーー久美子、いいのかい…。
 「…………」
 ーーいいんだよね?
 それから秋葉先生の目を見た…。
 そして…。
 私の頭がゆっくりと縦に揺れた。
 先生がニヤリと笑う。任せておけ、そんな声が聞こえた気がして、私はもう一度頷いた。
 すると。
 「んーーッ!」歪な響きが轟いた。先生が遂に久美子に挿入したのだ。
 「ほらッ、ほらッ、ほらッ!」
 先生がいきなり腰を激しく振り始めた。
 久美子の尻(ケツ)も激しく揺れる。その揺れが私の方まで伝わってきた。
 「ほら久美子、遠慮するな!」
 先生が妻を『久美子』と呼び捨てた。その現実にも私の身体の震えが増す。同時に奈美子さんへの突き上げが激しさを増した。


 鏡の中で黒マスクが激しく揺れている。その口元に手がニュっと伸びた。先生がマスクを捲る気だ。
 ゆっくりと…しかし、手際よくマスクが捲くられて、額が見えたかと思うと、遂に素顔が現れた。
 先生が無造作にマスクを投げ捨てて、俯く妻の口元に手を当てたかと思うと前を向かせた。
 「さぁ見せて上げなさい。貴女の厭らしい顔を、ほら!」
 声と同時に、先生の腰が妻をカチ上げた。その一撃に、妻の顔が跳ね上がる。しかし、前髪がへばり付いて表情はよく分からない。
 「さぁどうなんだ、旦那が見ているぞ。今の気持ちを教えてやれ」
 あぁ、久美子…。
 と、その時だ。
 「ヒヒヒッ、いっ、いいのおーーーッ!」
 動物のような奇妙な鳴き声が発せられた。


 「いいのよぉマンコがッ。アタシ早く、こんな変態な事、したかったの!」
 妻の声が変だ。表情もおかしい。妻は恐らく、あの薬を飲んでいる。
 その時、奈美子さんの声だ。
 「そうなのよ久美子、遠慮なんていらないのよ。旦那に本当の顔を見せれば楽になるのよ」
 奈美子さんの言葉に、私の身体は心底震えた。そこに又も、久美子の叫びだ。
 「そうよアタシ、奈美子より変態なのよ!」


 鏡の中に、卑猥な言葉を吐きあった二人が映って視える。中腰で突かれる二人の牝。
 私の勃起中枢がますます刺激されていく。血の気が引いて、何かが落ちていく感じだ。得体の知れない高鳴りが続いている。鏡に映る私の顔が、ますます歪んでいく。
 妻の表情(かお)は明らかに“逝って”いる。薬は自分の意思で飲んだのか、それとも上手く言い包められたのかは分からない。それでも、そんな事はどうでもよくなっていた。
 「寺田君、最高じゃないかッ」
 腰を抉り続ける先生の声に「ひゃひゃひゃ」私は奇妙な笑いを返した。
 この狭い空間の中で、新たな変態夫婦が誕生していたのだ。


 それからの事はまさに、白昼夢のような世界だったーー。
 秋葉先生と妻が繋がった部分に唇を持っていき、シャブったりもした。
 妻が四つん這いで突かれれば、妻の口に私のソレを咥えさせた。その私の唇は奈美子さんと口吻を繰り返した。
 奈美子さんを正常位で突き刺した私のアナルを誰かが舐めてきた。勿論、妻しかいない。狂気の声を上げて私は、久美子に飛び移った。鏡の前で立ちバックに誘った。鏡に曝す妻の顔は、完全にラリった顔だった。その貌に魅入られながら私は突き続けた。頭の中には、いつかのシーンが浮かび“押し車”を試みた。先生達の嘲笑にさえ興奮を覚えながら、私達夫婦は部屋の中を奇妙な格好で歩き廻った。


 私達4人の交わりは、いつ果てたかは分からない。薬をやってない私だったが、逝く度に女どもがシャブって来たのだ。それはもう、どっちの女か分からなかった。それほど頭の中が弾けていたのだった。
 やがて、我々4人は精魂尽きた果てたかのように、眠りに落ちていったのだった…。


  どのくらい眠っていただろうか…。
 ゆっくりと瞼が開いていき、その目に天井が映った。いつの間にか床の上で寝落ちていたのか。
 身体を起こそうとして鏡の方を向いた。鏡の前では、秋葉先生が眠っているようだ。その身に覆い被さるように身体を預けているのは奈美子さんか。
 妻はどこだろうか、と立ち上がろうとして気がついた。ベッドが揺れてる気配。そして怪しい息遣いだ。
 私はバッと背中の方を振り向いた。
 ベッドの上で、女ーー久美子が騎乗位で腰を振っているではないか。
 相手は誰だ!
 知らない男だ。
 これは夢か。それこそ白昼夢か!?
 しかしその時だ。カチャリと部屋のドアが開くと同時に、人影が現われた。


 「やぁ、いい画(え)が撮れていたのに、バッテリーが無くなってしまったよ」と、一人言でも云うように部屋の中へと進んで来たのは、神田先生だった。
 「それにしても、凄い匂いだねぇ、性臭の匂いとでも言うのかな」
 神田先生の言葉に、思わず私は自分の股間を隠そうとした。そんな私の様子など気にせず、先生が続ける。
 「寺田先生のソコも、尻の穴もバッチリ撮らせてもらっからね。勿論、久美子君もな」
 先生が笑っている。その笑みが腰を振り続ける久美子に向く。
 「撮った動画は大切に保管させてもらうよ。これからは君達にも協力者として活動してもらいたいしね」
 「そ、それは…」人質みたいなものですか…と続けようとしたが、そんな事よりも…。
 「ああ、この“彼”かい。誰だと思うね」私の表情を察した先生の声だ。
 先生の問い掛けに、私は妻達を改めた。妻の喘ぎ声は止みそうにない。
 「ほら、秋葉君の娘の元彼でストーカーした男がいただろ。それがこの彼じゃよ」
 「えっ、どういう事ですか!」
 「実はな、この彼も教師だったんじゃよ」
 ええッ!
 「そう、教師のくせに以前の教え子と付き合って、別れたあげくにストーカーになったとは言語道断だわな」
 「……….」
 「でもな、彼にも悩みがあるのが分かって、久美子君が色々と訊いてあげたんじゃ。うん、その悩みが病的なストレスから来るものだったんでな…。まぁ、ここまで話せば事の成り行きは理解できるだろ」
 「そ、そんな事が…」
 妻達はと、二人を覗けば完全に桃源郷の世界だ。それを眺める私のアソコが再び硬くなってきた。


 「それでだ、寺田君」
 ハッと顔を上げれば、嬉しそうな先生の顔だ。
 「さっきも云ったが、あなたには協力者になってもらうぞ。ほら、久美子君をご覧なさい。彼女は既に協力してくれておる。悩み多き教師の救済なんじゃよコレは」
 神田先生の言葉を頭の中で反芻しながら、腰を振り続ける妻を見詰めた。妻の蕩けきった表情は、薬が原因かもしれない。それでも…。
 先生に向き直り、顔をジッと見詰めた。
 心の中に声が降りて来るーーこれで良いのだ。これが良いのだ。
 そして…。
 私は、先生の目を見ながら黙ったまま深く頷いたのだった。




 エピローグ


 あのマジックミラーの部屋で、破廉恥な交ぐわりをしてからの私達ーー神田先生からのミッションは今のところないが、私の性癖は満たされていた。週に何度か“妻の一人語り”があるからだ。
 日常においては、久美子は週に1度奈美子さんと堂々と体操教室に出掛けている。
 私の方は暇があれば、相変わらずの古本屋通いだ。あの“白昼夢“みたいな本に出会えないかと、足を運んでいるわけだ。
 そして今日も、目的の本屋に向かっているところだった。


 最寄り駅で降りて、いつもの商店街を進むと、向こうから懐かしい顔が歩いて来るのに気が付いた。
 「渋谷君!」
 「あれ~寺田先生じゃないですか」
 久し振りに見る彼は、清々しい雰囲気だ。
 「その節はお世話になりました。渋谷君は元気でやってましたか」
 「はい、おかげさまで。寺田先生の方は如何ですか。 “ご活躍”はこれからだとか」
 彼の明るい口調には、苦笑いが浮かんでしまう。
 「活躍って、神田先生からミッションの依頼はまだ無いから、僕の方は相変わらずで、今も古本屋に行く途中だったんだよ」
 「そうでしたか」
 「ところで渋谷君の方こそ、何で又こんな所へ」
 「ああ、云ってませんでしたっけ。僕、そこの予備校に通ってるんですよ」
 「え!予備校は辞めたんじゃなかったの」
 「ええ、2年くらい前に1回辞めてるんですけど、実は又行き始めたんですよ」
 「そうだったんだ。でも又、なんで?」
 「ヘヘ、実はですね、大学に進んで教師を目指そうかと思って」
 「ええっ、教師!?」
 「そうなんです」
 「どうしてまた…」
 「うん、先生になって、病的な悩みを持つ同僚達を救ってやろうと思いましてね」
 「あぁ…」
 「ええ、女性教師には“俺”が直接。男性教師には、そうですね、奥様にでも協力してもらって、上手く“こっち側の世界”にね」
 ウィンクして見せた彼を見詰めた。彼の表情(かお)には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいる。
 私は彼とのやり取りを何処か懐かしく想いながらも、怪しいミッションを心待ちしている自分に気が付いた。そして、目の前と同じ悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。


 おしまい。
 サンきゅー(`・ω・´)ゞ
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 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!
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 秋葉先生と【BAR 白昼夢】での話を終えた私は、真っすぐ駅へと来た道を歩いていた。あの薬ーーシンカノシズクでボォっとした頭は既にシッカリしている。
 最後に先生から告げられた言葉が、気にならないと言えば嘘になるが、私はなるべく気にしないようにしようと思っていた。
 駅が見えてきた時だ。渋谷君の顔を思い出して、彼にメール打っておこうと足を止めた。


 《渋谷君
 ご無沙汰しています。
 先般からの諸々の相談事ですが、何とか私自身の中で解決に至りました。
 妻との日常が充実に代わりつつあり、私のストレスも何とかなりそうな雰囲気なんです。
 渋谷君には、色々と心配と迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。
 今後、もし何かありましたら、相談するかもしれませんが、その時は又懲りずに相手をして頂けれればと思います。
 では、神田先生にもよろしくお伝え下さいませ。
 寺田 》


 硬い文面になってしまったが、送り終えるとフッと肩の力が抜けた気がした。
 彼からの返信は直ぐに来た。駅の改札前まで来た時だった。


 《良かったですね(笑)
 また何かあったら気軽に連絡下さい》


 あっさりすぎる内容だったが、渋谷君らしいと私は笑みをもらした。そして、まだ南口の体操教室にいるかもしれない久美子に会わないようにと、急いで改札を潜ったのだった。


 家に戻った私。
 妻はまだ帰っていなかった。
 着替えもせず部屋のベッドに横になると、これまでの事を色々と思い返してみた。


 ーー半年ほど前から急にストレスを実感するようになった私。その様子に気づいていた妻。その妻も又、病的なストレスを抱えていた。
 妻は私の事を心配して、奈美子さんや秋葉先生に相談していた。そこで“疑似夫婦”に翻弄されたり、私のパソコンを覗いたりして、妻自身も性の深淵に近づいてしまった。
 妻はストレス解消の一つとして、体操教室に通い始めていたが、どの程度解消に至っているかは分からない。
 私の方はと言えば、滑稽な姿だけを晒していた気がする。
 久美子に浮気疑惑を抱き、その相手を探ろうとしたが、結局のところ疑惑などなく、妻は教え子のストーカー対策をしていたのだった。その教え子と言うのが、秋葉先生の娘さんだったと意外な事実もあったわけだが。
 先輩ーー大塚先生の勧めで諸々と相談した相手、神田先生と渋谷優作君にも翻弄された。渋谷君は私を、M駅の南口の怪しい街に誘い、淫靡な造り話を聞かせ、そしてマジックミラーで、ある変態夫婦の痴態を覗かせたのだ。その夫婦が、秋葉先生と妻の学生時代からの友人でもある奈美子さんとの“疑似夫婦”だった事は今日知ったばかりだった。
 秋葉先生が悩みの相談をしていた相手も、渋谷君と神田先生だったと知った時は更なる驚きだった。頭の中に蔓延っていた“歳の差夫婦“が秋葉ー奈美子の疑似夫婦だった偶然には感動すら覚えてしまう。
 何れにせよ、ここ数日の妻は私好みというか本人の資質の開放もあってか、変態的な振る舞いをしてくれている。
 これ以上に私が望むものがあるだろうか…そんな事を考えつつ、睡魔を感じ始めていた。そして何時しか、眠りに落ちていったのだった。


 ーー目が覚めたのは何時頃だったか。
 瞼の開いた私の目の前には、妻久美子の顔があった。


 「あなた、起きましたか。ずいぶん長いお昼寝でしたね」
 「ああ、ゴメン、ゴメン」と、身体を起こそうとした。
 妻は私の様子を確認すると「お茶、淹れますね」と、笑みを浮かべて部屋を後にする。
 妻の後に続いてリビングに向かった私は、寝床で考えていた事を口にした。
 「あのさぁ、今日の夜だけど、例の“ごっこ“…アレを又やらないかい?」
 『ごっこ』とは、私達夫婦が何年か前に始めた文字通りの遊びだった。夫婦のマンネリを無くす為に、恋人同士だった頃に戻ったつもりで、別々に家を出て目的の場所で『久しぶり、元気だった?』と会って、腕を組むのだ。そして、お茶や食事をして、その後は手と手を繋ぎながら厭らしいホテルへと向かうのだ。最近も一度、久しぶりにその“ごっこ”をやっているのだが、ソレを今夜もやらないかと提案したのだった。
 しかし。
 「ごめんなさい。実は何だか身体の調子が悪いんですよ」
 「え、そうなの!」
 「はい。体操教室で身体を動かしてる時から、変な感じがして」
 「熱は?」
 「熱は無いみたいです。でも頭が…」
 「そうか…じゃあユックリ休んでおくれ」
 「ありがとうございます。たぶん、事務作業が立て込んでて、根を詰め過ぎてたんだと思います。でも、直ぐに良くなると思いますから」
 「それならいいんだけど…」
 「はい。それと、夕飯用にお弁当を買って来てるので、適当に食べて下さい」
 「うん、分かった。ありがとうね」
 そして妻は、申し訳なさそうに自分の部屋へと足を向けた。


 夜ーー。
 適当なところで夕飯用の弁当を一人で食べた私。
 妻は自分の部屋にこもったきりで、物音も聞こえない。本人が告(い)ってた以上に具合が悪いのかも知れない。私の方は昼寝をしたからだろうか、目がパッチリだ。
 そのせいか、この夜、眠りについたのは明け方近かった。




 日曜日、目が覚めたのは時計の針が10時を指した頃だった。
 起き上がって、いつものように枕元のスマホを手に取れば、見慣れた点滅に気が付いた。
 開けてみればメールが何件か入っている。
 まず目に付いたのは、妻の久美子からのものだった。


 《おはようございます。
 声を掛けても起きなかったので、メールにしました。
 体調の方はすっかり良くなりました。
 今日のアタシですが、急用が出来たので出掛けます》


 私はそのメールをもう一度読み返した。
 そこにあった“急用”ーーこれは気にならないと言えば嘘になる。しかし、久美子の体調が戻っているなら、それは良しとしないといけないだろうか…。


 心に引っ掛かりを覚えながらも、他のメールにも目をやった。取り立てて意味のあるメールは見当たらない。と思ったところでショートメールに気が付いた。
 このところショートメールを私に送ってくる相手と言えば、一人しか浮かばない。


 《寺田君、秋葉です。
 昨日の今日で申し訳ないのだが、昼からまたM駅まで出て来てくれないかな。
 久美子君には、僕と会うと云って出掛けても大丈夫だからね。
 では》


 読み終えると、暫く腕を組んで考え込んだ。
 確かに一昨日の金曜日に秋葉先生に送ったメールでは、土曜、日曜ともに時間が空いてると伝えていた。先生もそれを分かっていて、急な誘いをしてきたと思えるのだが。
 何処となく不穏な匂いも感じた私だったが、時間を決めて返信を送る事にした。


 軽く食事をして家を出る。
 久美子は既に出掛けているので、秋葉先生と会う事は黙っておく事にした。
 M駅での待ち合わせの場所は決めていなかったが、昨日と同じ北口でいいだろうと考えた。
 電車の中では、妻からのメールと秋葉先生からのメールを何度も見比べながら読み返した。
 今日はこれから、一体どういう話が待ち受けているのだろうか。


 電車がM駅に差し掛かった頃だった。スマホが震えた。開けてみれば秋葉先生からのショートメールだ。
 《今どの辺りかな。
 着いたら南口のロータリーの方に向かって下さい》


 南口の文字に、一瞬武者震いが起こってしまった。
 やはり、淫靡な“性的“な話の続きなのだろうか。
 電車を降りた私は、真っ直ぐ南口へと足を進めた。
 エスカレーターを降りて、目的のロータリーからタクシー乗り場の方を向いた時だった。
 「寺田先生」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り向けば意外すぎる人ではないか。


 「か、神田先生、どうしてこちらに…」
 それは、例の怪しげな老紳士、神田先生だった。
 「やぁ、久し振りだね。元気にしておられたかな」
 「は、はぁ、まぁ…」
 私の頼りない頷きに、先生は「ふふふ」と笑う。
 「秋葉君の代わりに私が迎えに来たんだよ」
 秋葉君…そう告げた先生の目が、怪しい光を放っている、ように観(み)える。その先生が続ける。
 「さぁ、さっそく行くとしようか」
 「あ、あの、どちらへ?」
 「ん、秋葉君から聞いておらんのか。じゃあ着いてきたまえ」と先生が笑った。


 歩き始めて暫くすると「ところで、優作君から聞いたが、貴方はだいぶ元気になったみたいだな。良かった良かった」先生が話し掛けてきた。
 「ワシの方は、最近膝が痛くてな。こうして歩いていても、時々ズキンとくるんだ」
 「そ、それは…」大変ですね、と云おうとしたが口が動かなかった。早くも緊張が生まれている。そう、私の勘は何かの予兆を感じていたのだ。


 「それにしても、人の出会いは偶然と縁に置き換えられるが本当に不思議なものだなぁ」
 落ち着いた口調で話す先生に、私の方は黙って頷くだけだ。
 「あなたと秋葉君達にも縁があったと知った時は、さすがのワシも驚いたよ」
 あぁ…やはり、この先生の耳には事実がシッカリと伝わっていたのだ。


 「でも考えてみれば、私等の仕事のコミュニティは狭い世界での話だ。その更に狭い教師の世界で生きてる先生連中は、もっと互いを認め合わねばいけない。そう思わないかね」
 「は、はぁ、確かに…」
 「ふふっ、そうだろう。そう、人間が持つ“欲“…その一つである性欲を素直に出し合って認め合えれば、ストレスが減る。その事が健全へと繋がるのじゃよ。ふふふ」
 あぁ…。
 それから暫くは、黙ったまま足を進めた。
 やがて、見慣れた風景の先に、やはり見慣れてしまった建物の姿を見たのだった。
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 私の目の前、秋葉先生がようやくウンウンと頷いた。
 そして「黒子だけど、奈美子の右の耳たぶの下に黒子なんて無いよ」
 「!…」
 「だけどね、ふふっ、たまにシールを貼る事があるんだ」
 「シール?」
 「ああ、そうだよ、シールだ」
 「何故シールなんかを」
 「んっ、それは久美子君の耳たぶの下にあるからだよ、黒子が」
 「えっ、どういう意味ですか」
 「実はね、以前に久美子君と同じ勤務先になった時期があっただろ」
 「ああ、それは私も聞いています」
 「うむ、その頃、僕と久美子君は言わば上司と部下の関係で、色々と指導していたわけだ。そのうちに僕の方が、彼女に対して好意を持つようになってな」
 「え、それって」
 「ああ、分かり易く言えば、久美子君と犯(や)りたくなったわけだよ」
 「ええっ!」
 「それでも中々上手くいかず、いずれ僕が別の学校に転勤になったんだ」
 「………」
 「その後は会う機会もなくなって、疎遠になっていったわけだよ。そんな時、当時の勤め先に赴任して来たのが奈美子だ。初めて見た時に、ずいぶん久美子君と似てると思ってな。その事を奈美子と親しくなった時にポロっと云ったんだ。奈美子もそれが直ぐに久美子君と分かってな。聞けば同じ大学を出ていて、仲も良かったと言うから更にビックリだよ」
 「そんな事があったんですか」
 「ああ、それから僕と奈美子は親密な関係になって行くわけだが、ある時に、久美子君の耳たぶの下に黒子があった事を何故か覚えていてね、それを思い出したんだ。奈美子にも訊いてみれば、親友の黒子をよく覚えていてね。それで暫くして、奈美子にお願いしたんだ」
 「そ、それは何を?」
 「うん、黒子を付けてくれと。久美子君と同じ所にシールでいいから付けてみてくれないかとね」
 「あぁ…」
 「そう、僕は正直に告(い)ったよ。前から久美子君と一度オマンコしてみたいと思ってたんだ、ってね」
 「あッ!」
 「奈美子は特に驚く事もなくてね。と言うのも、その頃の僕達は互いに変態度を認めあってて、性癖をカミングアウトしあってたから、奈美子も理解を示してくれたわけだよ」
 「せ、先生に、そんな癖が…」
 「ああ、そうだよ。今の君なら聞ける話だろ」
 「ああ、はい」
 「ふふっ、それだけでも薬の効果があったかな」
 「ああっ」
 「そう、それで髪型も久美子君に似させて、時に黒子のシールを貼って貰って、奈美子に久美子君を演じて貰ったわけだよ。それにしても、今のシールは精巧に出来てるね。僕はその黒子を意識しながら奈美子を久美子君と思って、これまで頭の中だけでしか犯(や)れなかった事をたっぷりやったんだよ」
 「な、奈美子さんはそんな…扱いといいますか、それを受け入れたんですか…」
 「だから、奈美子もストレスの塊だったんだよ」
 「ああッ!」
 「そう、教師特有の病的なストレスに蝕まれたから…いや、蝕れないように、精神の開放を性的開放に委ねたんだよ」
 「アアアッッ、ウウウッ」
 「そしてある時、久美子君から君の相談を貰って、それを切っ掛けに会うようになってね。背景には奈美子が僕への相談を促した、と言う事もあるんだけどな」
 「………」
 「そう、それに娘のストーカー被害が発覚して、それを久美子君に相談したりもしたんで、余計に会う機会が増えてね。久美子君自身も凄いストレスを抱えてるのは分かっていたから、解消の手伝いをしてやろうと思ってね」
 「そ、それって」
 「ん、もう分かっているだろ。奈美子と相談してマンションに呼ぶようになったんだよ」
 「あぁ、奈美子さんと夫婦として借りてるマンションですか」
 「覚えていたね。そう、そこでさっきも云った変態プレイの協力をして貰ったよ」
 「………」
 「ん、どうだね?」
 「あ、あの…それで先生は、く、久美子とはセックスまでいったんでしょうか…」
 「それはさっきも云ったじゃないか」
 「あ、あぁ…そうでしたか。けど、ハッキリしないんですよ頭の中が。先生の話なのか自分の妄想なのかが。思い出そうとしても…そう、ひょっとしたら、全ては白昼夢ではないかと…」
 「………」
 「………」
 「…じゃあ、どっちが良い?」
 「え!どっちと言いますと…」
 「ん、だから久美子君とセックスした方が良かったのか不味かったのか」
 「そ、それは…」
 「ふふふ、いや、悪い悪い。久美子君とはまだ犯(や)ってないから大丈夫だよ」
 「………」
 「逆に聞くけど、君は奥さん以外の“誰か“と浮気…セックスをした事はないのかい?」
 「あうッ!」
 その一言に、身体の中を電流が走り抜けた。


 「んっ、どうした、大丈夫かい?」
 「あ、あの…実は1度だけ」
 「ふふっ、分かってるって」
 「えっ!」
 「ああ、君は何時だったか◯◯町の◯◯ホテルに行った事があるだろ」
 その言葉に、一瞬にして電流が流れたように背筋が伸びてしまった。
 「ロビーをこっそり見ていたら、変な髪型をした男性を見つけてね。本人は上手く化けたつもりかもしれなかったが、僕には直ぐに分ったよ」
 あぁ、あの時…。
 そして、やはり「先生と奈美子さんだったんですね“歳の差夫婦”って…」
 「ん、歳の差…?」
 「あ、いや…」
 「確かに、僕と奈美子は一回り以上の“歳の差”があるが?」
 「いえ、それはこちらの事でして…はい」
 私の聞き取れないような小さな声にも、先生は特に興味を示すような事はなかった。


 「あの…確かに私は“ある人”を通して誘いを受け、そのホテルに行きました。そこで」
 「ああ、分かっているよ。僕もまさか寺田君が現れるとは思っていなかったから、その時は凄くビックリしたよ。同時に恐ろしい偶然があるものだと2度ビックリしたね」
 「本当に仰る通りです」
 「しかし狭い世界だから、共通の知り合いがいてもおかしくはないよね」
 「はい…」
 頭の中には、渋谷君や神田先生の顔が浮かんでいた。考えてみれば、彼等の仕事の範囲もある程度は決まっている筈なのだ。まして体験者によって紹介が生まれるのだろうから、自ずと狭い世界での出会いになってしまう。


 コホン、先生の咳払いがした。私は改めて先生の顔を見つめる。
 「それで、君は奈美子を抱いたわけだ。だから僕も、堂々と久美子君をね。どうだい“ご主人”」
 「あぁ…」
 私には先に奈美子さんとセックスしてしまった負い目がある。それに、妻を寝取られたいという願望もある。そう、今ならハッキリそれが自覚できるのだ。
 しかし…。
 「あのぉ、先生」
 「ん、なんだね?」
 「やっぱり、その、無理そうです…」
 「………」
 先生は私は暫く見詰めた後、フーっと大きく息を吐き出した。そしてニコリと笑った。
 「そうか。それは仕方ないなぁ」
 「す、すいません」
 「いや、気にする事なんか何もないよ」
 「………」
 「君の方は、最近になって久美子君との仲が良い方向に向かってるみたいだしね」
 先生の言葉に、私は無意識に頷いていた。そうなのだ。先だっての日曜日から、久美子の“一人語り”によって私の欲求は満たされつつあるのだ。同時に妻の精神も開放されてると実感する事が出来ているのだ。奈美子さんとセックスした負い目はあるわけだが、その秘密を内に秘めるのも快感の一種と考えよう。私は自分の思考を上手くコントロールしようとしていたのだ。


 先生との会話はその後、世間のニュースや職場の話題に変わり、いたって健康的な時間となっていった。不思議なもので、陰湿な空気が流れていたこの店の雰囲気も、開店を待つ有りふれた酒場の一つに思えていた。
 そして、頃合いを見計らった時だった。
 「秋葉先生、ではそろそろ」と腰を浮かせようとした。
 先生の方も、引き留める素振りを見せる事もなく、あっさりとお別れの挨拶となったのだった。
 「じゃあ寺田君、また何かあればね」
 先生は最後に、ウインクまでみせていた。その表情(かお)は、年甲斐もなくお茶目な一面を浮かべていた。


 先生が店のドアを開けてくれて、私は陽の高い世間へと歩み出た。その時だ。
 「そうだ。久美子君の事だけど」
 その言葉に、一瞬緊張が走った。
 「奈美子が今まで通り、お茶会なんかに誘うのは許しておくれ」
 私は笑みを作ろうと試みながら頷く。
 「僕から久美子君を誘う事は、もうないからね」
 「は、はい」と私は畏まった。
 「でも、久美子君の方から“僕達夫婦“に新たな相談でもあったら…ふふふ」
 「………」
 先生がまだ何か云いたそうに見えた私だったが、その会話を自ら打ち消すように、先生はニコリと微笑んでドアを閉めたのだった。
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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分の