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まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは2array(2) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
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事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは3array(3) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
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レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは4array(4) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
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「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
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まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “420” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(28798) “太陽が照りつけ、見ているだけでも暑い日差し。
その中を家に向かって走る車。
助手席に座っている探偵に言う。


「俺どうなるかわからない。」


探偵は俺がマンションの部屋から出てきてから一言もしゃべっていない。
外にいても中からの音で何が起こっていたのかはわかっているのだろう。
いや、今は何も聞くべきではないと読んでいるのかもしれない。
そうであれば気の利く男だと思った。


「お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ。もちろん、今の状況はわかるのですが・・・」


おれ自身が損をするか・・・。
さっき俺がやったことも警察沙汰になってもおかしくない。
そして俺がこれから理性を抑えられないことでもっと酷い結果を生むかもしれないこともわかっていた。
もし警察沙汰になれば勤めている会社にも知れるだろう。
それでもよかった。
法律や常識の通用する相手ではないことはわかっている。
そいつらに常識という盾をもって戦っても勝てるわけがない。


「心配ありがとう。でも今どうにかしないと後には戻れないんだよ」



俺は何かに試されていたんだろうか。
旦那としての資格が俺にあるのかどうか。
だとしたら俺はもう旦那失格なのかもしれない。
今起きていることの現実感のなさにそんなことを考える。

これは全部夢で、朝起きたら妻は朝食を作っていつも通りに「おはよう」と言ってくれるんだ。
でもその夢を覚まし、いくら眠りから覚めようとしても起きれない。
自分ではどうにもならない。
どうしていいかわからない。
ずっとこの嫌な夢を見続けなければならない。
俺は夢の中でそこがどこなのか考えても見つからず、先にも進まず後ろにも戻らない。
このままじゃ永遠に同じ夢の中にいなければならない。
そして一つだけある扉。
その先に光が待っているのか闇が待っているのかわからない。
それが怖くて避け続けてきた扉。
もっと早くに開けてたら良かったのだろうか。
見えない扉の向こう側を恐れていた自分が酷く弱い存在に思えた。
それでももうその扉を開けなければ自分はその場所で力尽きてしまう。
自分は試されているんだろうか・・・。
そんな感覚だった。



車は家に一番近い交差点に差し掛かった。
赤信号で停まっている車。
この信号が青になれば左折し、ものの1分もかからずに家に着く。
探偵がポツリと言う。


「ええ、探偵である自分にはわからないことです。ただ、このような場面に何件か立ち合わせていただいた経験から一言だけ、冷静さも必要です。」


冷静に考えないといけないこともわかっている。
それでも今のこの心の底から湧きあがる感情が最も必要だった。
自分の性格もわかっている。
ある程度の理性は働いている。
それが冷静さだろう。
それでもその理性が吹っ飛ぶことは理解していたし、それでもいいと思っていた。



信号が青になり、車を発進させる。
だんだんと家が近づくにつれ、心臓がバクバクと響くのがわかる。
さっきのマンションにいた男達は怯えていた。
まさか俺が来るなんて思いもしなかったのだろう。
しかし今度は俺が来ることを知っている。
妻と一緒にいるその男は家で何をしようとしていたのだろう。
家主である俺がいないときに妻と一緒に家に入り込む男。
考えるだけ憤りと早く家に行かなければという思いが募る。


家が見えてきた。
家の前にはワンボックスカーが止まっていた。
俺の家に確実に俺の知らない男がいる。
我が物顔で俺の家で何をしているんだ。
車を駐車場に前向きに停めた。

そして急いで車を出る。
助手席に乗っていた探偵も一緒についてきた。
今度は俺の家だ。
玄関のドアを開けるが鍵が掛かっていた。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。
手が震えて鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかない。
自分が動揺しているのがわかった。
鍵を開け、ドアを開く。
玄関には知らない靴が4足あった。
男物の靴が4足。
4人も男がいるのか。
そしてもう一足、妻の靴もあった。
中からは何も音がしない。
靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。



エアコンで冷やされた涼しい空気が中から出できた。
ソファに一人座っている男がいた。


「やあ旦那さん、はじめまして。」


スーツに短髪の男。
冷静な目つきで俺を見ている。
こいつが主犯か!
探偵と2人で入ってきても俺が旦那だとわかるということは俺の顔も知っているということか。

周りを見る。
ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男が一人。
そしてその横に立っている体格のいい男が一人。
手に持っているものが目に入る。
ビデオカメラ。
今まさにビデオカメラで俺を撮っているのか。
人の家で家主を馬鹿にしているのを楽しんでいるかのような薄笑いした男が。


「何を撮ってるんだ!」


俺は冷静を心がけて叫んだ。
しかし男は無言で本格的にカメラをまわし始める。
カメラのレンズを通して俺を見ている。
俺を挑発するかのように。


「はじめまして旦那さん、今日はお邪魔してます。」


その時ソファに座っていた短髪の男が立ち上がって俺に挨拶をする。

人の家に勝手に上がりこんでおいて何がお邪魔してますだ。
それでも冷静に聞く。

「妻はどこだ?」



「典子ですね、典子はそこにいますよ。」


男がキッチンを指差す。
ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに人影があった。
この家を建てるとき妻が希望したカウンター形式の間仕切り。
キッチンで皿を洗いながらリビングにいる人と会話でき、テレビも見れる今風の作りだ。
私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
家を建てるときにそう話していたのを思い出す。

そしてその間仕切りの向こうを見る。
妻だった。
うつむいた様子の妻。
家では見たことが無いワンピースを来ている妻。
そして妻のすぐ後ろに男が立っていた。
これで4人か。

妻を見ながら叫ぶ。


「どういうつもりだ!?」


しばらくの沈黙の後妻が口を開く。


「ごめんなさい。」


「ごめんなさいじゃ何もわからないだろ!この状況は何なんだ!ここをどこだと思ってる!」
憤りを抑えきれない自分がいた。


長髪の男が言う。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください。」


「とりあえず初めから全部説明しろ!」


「今日は旦那さんに会うつもりでここにきたのではないのですが、さっき電話であなたが乗り込んできたとの話があったのでそろそろ潮時かなと思いましてあなたをお呼びしました。」


「じゃあ何をしに来たんだ!それに俺を呼んだだと?ここは俺の家だ。」


「ええ、わかってますよ。・・・ですから、今日はあなたに全てお話しようと思いましてね。」


男が話始めるのを待つ。


「私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります。」


AV制作会社だと?
典子はAV女優ということか?
俺は今までずっと妻に騙されていたのか?
男の言っていることが真実か嘘かはわからない。
だが顔では冷静を装えても心の中では動揺が隠せなかった。
それと同時に怒りが込み上げる。
それに旦那である俺に対して「典子」と呼び捨て。
その時点で俺も心底馬鹿にされていることはわかった。
今までさんざんDVDを送ってくることからわかってはいたが、目の前にいる旦那に対してもその話し方。

男はそのまま話を続ける。


「AVと言ってもその辺にあるAVとはまた違ったものでしてね、ああ、無修正という意味ではありませんよ、あなたがた一般人は買えないような特別な流通をしているAVのことです。
1本2時間ものの販売価格が10万以上するものでして、内容により価格が上がっていくという仕組みをとってます。
なぜそんな価格でAVが売れるかわかりますか?
・・・お金を出してでも見たいと思わせる内容だからです。
お金を出してでも見たいものに対して、金に糸目をつけずに購入する層、つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。
お金持ちというのは大変なものでね、お金でできることはすべて経験してしまうんですよ。
車、家、海外旅行、好きなときに好きなことをする生活をしていると手に入らないものを手に入れたくなる。
それでもそんなに多くはいませんよ。」



「だから抱きたいと思った女を金で抱こうとするのか?
人の妻でも関係なしに金で何とかしようとするってことか!」


「いいえ。人間の欲望とは恐ろしいものですよ。
一種の例えですが、あなたがただぼーっと街中に立っていて、ただ目の前に好みの女が歩いていたら「あの女を抱きたい」と思うでしょう?
それでも金持ちというのは冷静で常識的なんです。
地位は保証されてますからね。
だから金にものを言わせてその女性を抱くなんてことはしません。
自分でリスクなんて犯さないんですよ。」


「つまり、金持ちが好きになった女にお前らみたいな下っ端がちょっかいをだすと?」


「違う。そんな下品なことはしない。
その女性に対してはかなわぬ夢です。
ただね、商品としてあるものに対しては恐ろしく貪欲なんです。
普段見れないAVを見れるとしたら・・・。
ビジネスチャンスがここにあるんです。
どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。
そういうことをしている会社です。
絶対に普通のAVにはないことです。
まあ、それはご自分でご覧になったからわかるとは思いますが。」



人の妻で遊び、その旦那をおちょくる。そのすべてを撮影したビデオテープ・・・。ということか。



「う~ん、名前は伏せておきましょうか、Sという男、彼が彼女を私のところに連れてきましてね。
その時典子の写真をいくつか見せてもらいまして、これはMの資質があると見ましてね。
その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました。」



頭の中が整理できなかった。
現実に起こっていることとは思えない話に自分はおちょくられているだけなんじゃないか?


「人の妻であり、子供達の母親であるということを理解してそういうことをしていたのか?」



「もちろん。じゃなかったら価値はない。
人妻だから価値があるんですよ。
旦那もいて子供もいて幸せな人妻だから。」



幸せな人妻だから・・・。
幸せを奪うことで自分達の利益を確保しているってことか。
男達の私利私欲のために壊された自分の家族。
こいつらの話を聞いているとどんなに平静を装っても次の話を聞くたびに冷静さを保つのが難しくなる。


「それがどういうことかわかってるのか?
倫理的にも、それに俺がお前らを訴えたらお前らがどうなるかわかってやってるのか!」



「まあまあ、もともとSという男が典子を気に入り、一方的に好意を寄せていたようですが、なぜか身体の関係も持っていたようです。
もともとあなたの奥さんは旦那であるあなたの以外の男と関係を持っていた。 だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。 それはわかってください。」


典子を見る。

「本当か!?この男の言ってることは本当か!?」

怒鳴り散らすように典子に問いかける。

典子は俯いたままだ。
更に典子に訴えかけるように聞く。

「おい、事実じゃないのなら否定しろ!お前自身のことだろ!」


典子は一瞬俺のほうを見て、そして頷いた。
まだ妻から聞くまでは本当のことか男達のでっち上げた話なのかわからなかった。
そしてそれが唯一の気休めだった。
しかし妻自身がそれを否定した。
妻は他の男と関係を持っていた・・・。


「本人も認めてる通り、Sと性的関係があった。
どういう経緯で関係があったのかは知りませんが恋愛関係ではなく身体の関係ということです。」



「いつから?」


典子が口を開く。

「あなたが転勤になる少し前から・・・」



「相手とはどういう関係で?」


「前に務めてた会社の取引先の人で、飲みに誘われて、、、断れなくて・・」
妻は涙を流しながら言葉を詰まらせた。


「断れなくてセックスしたってことか?どういうつもりだ!断れないのはお前が弱いだけだろ!」


「飲みにいかなかったら、、私の所為で会社との取引に影響が出るって言われて・・・」


「そんなこと知るか!お前は何のために働いてるんだ!家庭の為だろ!」


「もちろんそんなことする気はなかったけど、帰り際にに断ったら、、私の会社での居場所も無くなるから」
典子の目からどんどん溢れ出てくる涙。


男が口を開く

「旦那さん、典子にそんなことを言わせるもんじゃありませんよ。
まあ彼から聞いたことを簡潔にいうと、彼は取引停止をチラつかせて典子を飲みに誘い、何回目かの酒の席のあとで典子に言い寄ったようです。
男だからそういう下心はありますよね。彼も同様に典子を女性として見て、飲みに誘うのと同じように典子の身体を触ったそうです。
典子も仕事先、そしてあなたに対する罪悪感に耐えられなかったのでしょう。
でも男は逆にその罪悪感を利用し、言葉巧みに関係を強要しました。
関係を持てばもう楽になれる、1回男とセックスをすればもうこんなにつらい日々が終わるとでも言われたのでしょう。それで関係をもった。そうだろ?典子」


涙を流しながら無言で俯いている典子。


「ところがその男は1回じゃ終わらなかった。そりゃそうでしょう。男にとっては1回やれば2回も3回も同じ。一度やった女ならまたやらせてくれると。
それでも典子は抵抗したようです。でも1回関係した事実は消えない。典子はどんどん追い込まれる。旦那や子供達家族への裏切り、所属する会社への本当に言い逃れのできない行為。
苦境から逃れたいが為に自分の感情を捨て、男に抱かれるようになる。
そしていつしか快楽を感じ始める・・・人間、弱い部分から付け入れば誰だってそうなります。」



「その関係した時期に撮られていた写真を持ってSは私たちのところに来ました。
紹介者には報酬が出ます。おそらくSは仕事柄金持ちとの繋がりで私たちのことを知っていたのでしょう。
しかしSは報酬目当てではありませんでした。
典子に飽きたわけではなく、典子でもっと興奮を得たいと思ったのでしょう。
心も何もない身体だけの典子を好きにコントロールしていると勘違いしていた愚かな男。
私たちからしたら過去はそれほど関係ない。金になるかならないか。
そういった典子の経緯からも素質は十分に見抜けました。
Sには通常の倍の報酬を与える代わりに典子との関係の一切を切らせました。」



男の口から語られることが事実とは思えなかった。
それでも典子は話が進むに連れて大泣きしている。
本当のことなのか・・・。


その時ずっと後ろで話を聞いていた探偵が話をしだした。



「私、旦那さんから依頼された調査会社のものです。
今の話をお聞きしておりましたが、もしそれが事実であるとしたら少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。
わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です。
それはわかっておられるのですか?」


男が言う。


「探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。
しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか?
典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?」


探偵が答える。

「ええそうです。
典子さんはそのSという男に無理やり行為を持たされ、そしてあなた方は金を出して典子さんを譲り受けた。
これは売春にもあたります。そしてその後も典子さんの意思と関係なくAV女優という行為を繰り返させた。」


探偵には今までのDVDは見せていない。
それでも男達の威勢を抑えるために法律という武器を提示しているのだろう。
こいつらに法律なんか通用しない。
それでも味方になってくれる姿勢が嬉しかった。


探偵と男の話を遮るように聞く。

「なぜ妻でなくてはならなかったんだ!
AV女優を使ってAV撮影すればいいだけの話だ。 いくら男が連れてきたからってなぜ普通に生活してる妻をターゲットにした。」



「普通に生活している妻・・・だからですよ。
典子は普通に生活している平凡な人妻、幸せな家庭があり、AVなどの裏の世界とは無縁の女。
それが外見でも十分に判断できる。
だからこそ興奮するんですよ。うちの客達がね。
AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。
そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?
AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ。
そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと。
あなたは気をわるくするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます。もちろん住所も。
作ったものではなく、それだけの事実を映像に残しているだけ。
でもそれだけに典子の全てがわかるんです。
本当の姿だから。
ファンも大勢いますよ。
典子と会いたいという話もたくさん来る。
金に糸目をつけない連中がね。」



すべてを撮った映像?
今この会話を撮っているカメラを見る。


「まさか今この場で撮影してるのも売るってわけじゃないだろうな!」


男は言う。
「もちろんそのつもりです。」


すると今まで黙っていたテーブルの椅子に座っていた男が口を開いた。

「その辺にしておけ。」

ソファに座っている男がそれに反応して押し黙った気がした。
椅子に座っている男がボスみたいなものなのか?



しかし湧き上る殺意を抑え切れなかった。
体が勝手に動き出す。
それを予測してか、探偵が俺の体を手で押さえる。
明らかに顔色が変わっていたのだろう。

「冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。
今の話はすべて録音してます。
今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。
外に停めてある車のナンバーも全て記録してます。」


冷静になれというほうが無理だ。
それでも俺は冷静でいなればばならないのか。
頭の中で正しいこと間違っていることの判断がつかない。
むしろそんなことはどうでもよかった。
そして探偵が男達に聞き始めた。




「いくら紹介者がいようと無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。
あなた方には反論の余地は無いはず。
典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、
こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう。
この場でどう落とし前をつけるか旦那さんと話をするべきです。」



男が探偵に言う。

「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。
ただ典子の意思はどうでしょうね。
あなたが思ってるほど純粋な世の中じゃないんだよ。
典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね、旦那さん、あなただけだ。
典子の意思が確認したい?
じゃあ今この現状はどう説明する?
旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。
そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。
それが答えだ。
わからないなら見せてあげよう。」



そうして男は妻の方を見る。
すると妻の後ろに立っていた男が動き出した。
妻を後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始めた。
まるで目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように。
乳房の形を確かめるように撫で回す。
しかし妻は抵抗をしなかった。
ずっと俯いたまま、まるで俺や探偵がそこにいることを知らないかのように、
そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということが記憶から消し去ったかのように。
それを目の当たりにして頭の中が真っ白になった。
妻が目の前で男に好きにされていること、それを拒否しないこと、何がショックなのかすらわからなかった。
妻を弄っている男は妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にした。
気が動転した。
探偵にも妻の裸を見られた。



頭に血が上った状態だったのだろう。
ソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
男が抵抗してきたがそれでもお構いなしに殴り続けた。
こいつは殺していい。
男はガードをするがそれがないところを殴りまくった。
探偵が止めに入る。
探偵だけではない。
他の男も止めに入っているのだろうか。
自分がどんどん取り押さえつけられるのがわかる。
腕を押さえられたら足で男を蹴る。
俺はこいつをできるだけ殴らなければ・・・。
すると取り押さえられた俺に今度は男が殴り始めた。
顔から血が出ている男が俺を。
探偵がその男を止めようとしているのが見える。
俺はこの男を殴る理由がある。
なぜこの男は俺を殴るのか。



「もうやめろ」



椅子に座っている男の声だろうか?
その声がしているのだけはわかった。
どんどん目の前が白っぽくなり俺は気を失った。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは6array(6) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “420” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(28798) “太陽が照りつけ、見ているだけでも暑い日差し。
その中を家に向かって走る車。
助手席に座っている探偵に言う。


「俺どうなるかわからない。」


探偵は俺がマンションの部屋から出てきてから一言もしゃべっていない。
外にいても中からの音で何が起こっていたのかはわかっているのだろう。
いや、今は何も聞くべきではないと読んでいるのかもしれない。
そうであれば気の利く男だと思った。


「お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ。もちろん、今の状況はわかるのですが・・・」


おれ自身が損をするか・・・。
さっき俺がやったことも警察沙汰になってもおかしくない。
そして俺がこれから理性を抑えられないことでもっと酷い結果を生むかもしれないこともわかっていた。
もし警察沙汰になれば勤めている会社にも知れるだろう。
それでもよかった。
法律や常識の通用する相手ではないことはわかっている。
そいつらに常識という盾をもって戦っても勝てるわけがない。


「心配ありがとう。でも今どうにかしないと後には戻れないんだよ」



俺は何かに試されていたんだろうか。
旦那としての資格が俺にあるのかどうか。
だとしたら俺はもう旦那失格なのかもしれない。
今起きていることの現実感のなさにそんなことを考える。

これは全部夢で、朝起きたら妻は朝食を作っていつも通りに「おはよう」と言ってくれるんだ。
でもその夢を覚まし、いくら眠りから覚めようとしても起きれない。
自分ではどうにもならない。
どうしていいかわからない。
ずっとこの嫌な夢を見続けなければならない。
俺は夢の中でそこがどこなのか考えても見つからず、先にも進まず後ろにも戻らない。
このままじゃ永遠に同じ夢の中にいなければならない。
そして一つだけある扉。
その先に光が待っているのか闇が待っているのかわからない。
それが怖くて避け続けてきた扉。
もっと早くに開けてたら良かったのだろうか。
見えない扉の向こう側を恐れていた自分が酷く弱い存在に思えた。
それでももうその扉を開けなければ自分はその場所で力尽きてしまう。
自分は試されているんだろうか・・・。
そんな感覚だった。



車は家に一番近い交差点に差し掛かった。
赤信号で停まっている車。
この信号が青になれば左折し、ものの1分もかからずに家に着く。
探偵がポツリと言う。


「ええ、探偵である自分にはわからないことです。ただ、このような場面に何件か立ち合わせていただいた経験から一言だけ、冷静さも必要です。」


冷静に考えないといけないこともわかっている。
それでも今のこの心の底から湧きあがる感情が最も必要だった。
自分の性格もわかっている。
ある程度の理性は働いている。
それが冷静さだろう。
それでもその理性が吹っ飛ぶことは理解していたし、それでもいいと思っていた。



信号が青になり、車を発進させる。
だんだんと家が近づくにつれ、心臓がバクバクと響くのがわかる。
さっきのマンションにいた男達は怯えていた。
まさか俺が来るなんて思いもしなかったのだろう。
しかし今度は俺が来ることを知っている。
妻と一緒にいるその男は家で何をしようとしていたのだろう。
家主である俺がいないときに妻と一緒に家に入り込む男。
考えるだけ憤りと早く家に行かなければという思いが募る。


家が見えてきた。
家の前にはワンボックスカーが止まっていた。
俺の家に確実に俺の知らない男がいる。
我が物顔で俺の家で何をしているんだ。
車を駐車場に前向きに停めた。

そして急いで車を出る。
助手席に乗っていた探偵も一緒についてきた。
今度は俺の家だ。
玄関のドアを開けるが鍵が掛かっていた。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。
手が震えて鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかない。
自分が動揺しているのがわかった。
鍵を開け、ドアを開く。
玄関には知らない靴が4足あった。
男物の靴が4足。
4人も男がいるのか。
そしてもう一足、妻の靴もあった。
中からは何も音がしない。
靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。



エアコンで冷やされた涼しい空気が中から出できた。
ソファに一人座っている男がいた。


「やあ旦那さん、はじめまして。」


スーツに短髪の男。
冷静な目つきで俺を見ている。
こいつが主犯か!
探偵と2人で入ってきても俺が旦那だとわかるということは俺の顔も知っているということか。

周りを見る。
ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男が一人。
そしてその横に立っている体格のいい男が一人。
手に持っているものが目に入る。
ビデオカメラ。
今まさにビデオカメラで俺を撮っているのか。
人の家で家主を馬鹿にしているのを楽しんでいるかのような薄笑いした男が。


「何を撮ってるんだ!」


俺は冷静を心がけて叫んだ。
しかし男は無言で本格的にカメラをまわし始める。
カメラのレンズを通して俺を見ている。
俺を挑発するかのように。


「はじめまして旦那さん、今日はお邪魔してます。」


その時ソファに座っていた短髪の男が立ち上がって俺に挨拶をする。

人の家に勝手に上がりこんでおいて何がお邪魔してますだ。
それでも冷静に聞く。

「妻はどこだ?」



「典子ですね、典子はそこにいますよ。」


男がキッチンを指差す。
ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに人影があった。
この家を建てるとき妻が希望したカウンター形式の間仕切り。
キッチンで皿を洗いながらリビングにいる人と会話でき、テレビも見れる今風の作りだ。
私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
家を建てるときにそう話していたのを思い出す。

そしてその間仕切りの向こうを見る。
妻だった。
うつむいた様子の妻。
家では見たことが無いワンピースを来ている妻。
そして妻のすぐ後ろに男が立っていた。
これで4人か。

妻を見ながら叫ぶ。


「どういうつもりだ!?」


しばらくの沈黙の後妻が口を開く。


「ごめんなさい。」


「ごめんなさいじゃ何もわからないだろ!この状況は何なんだ!ここをどこだと思ってる!」
憤りを抑えきれない自分がいた。


長髪の男が言う。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください。」


「とりあえず初めから全部説明しろ!」


「今日は旦那さんに会うつもりでここにきたのではないのですが、さっき電話であなたが乗り込んできたとの話があったのでそろそろ潮時かなと思いましてあなたをお呼びしました。」


「じゃあ何をしに来たんだ!それに俺を呼んだだと?ここは俺の家だ。」


「ええ、わかってますよ。・・・ですから、今日はあなたに全てお話しようと思いましてね。」


男が話始めるのを待つ。


「私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります。」


AV制作会社だと?
典子はAV女優ということか?
俺は今までずっと妻に騙されていたのか?
男の言っていることが真実か嘘かはわからない。
だが顔では冷静を装えても心の中では動揺が隠せなかった。
それと同時に怒りが込み上げる。
それに旦那である俺に対して「典子」と呼び捨て。
その時点で俺も心底馬鹿にされていることはわかった。
今までさんざんDVDを送ってくることからわかってはいたが、目の前にいる旦那に対してもその話し方。

男はそのまま話を続ける。


「AVと言ってもその辺にあるAVとはまた違ったものでしてね、ああ、無修正という意味ではありませんよ、あなたがた一般人は買えないような特別な流通をしているAVのことです。
1本2時間ものの販売価格が10万以上するものでして、内容により価格が上がっていくという仕組みをとってます。
なぜそんな価格でAVが売れるかわかりますか?
・・・お金を出してでも見たいと思わせる内容だからです。
お金を出してでも見たいものに対して、金に糸目をつけずに購入する層、つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。
お金持ちというのは大変なものでね、お金でできることはすべて経験してしまうんですよ。
車、家、海外旅行、好きなときに好きなことをする生活をしていると手に入らないものを手に入れたくなる。
それでもそんなに多くはいませんよ。」



「だから抱きたいと思った女を金で抱こうとするのか?
人の妻でも関係なしに金で何とかしようとするってことか!」


「いいえ。人間の欲望とは恐ろしいものですよ。
一種の例えですが、あなたがただぼーっと街中に立っていて、ただ目の前に好みの女が歩いていたら「あの女を抱きたい」と思うでしょう?
それでも金持ちというのは冷静で常識的なんです。
地位は保証されてますからね。
だから金にものを言わせてその女性を抱くなんてことはしません。
自分でリスクなんて犯さないんですよ。」


「つまり、金持ちが好きになった女にお前らみたいな下っ端がちょっかいをだすと?」


「違う。そんな下品なことはしない。
その女性に対してはかなわぬ夢です。
ただね、商品としてあるものに対しては恐ろしく貪欲なんです。
普段見れないAVを見れるとしたら・・・。
ビジネスチャンスがここにあるんです。
どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。
そういうことをしている会社です。
絶対に普通のAVにはないことです。
まあ、それはご自分でご覧になったからわかるとは思いますが。」



人の妻で遊び、その旦那をおちょくる。そのすべてを撮影したビデオテープ・・・。ということか。



「う~ん、名前は伏せておきましょうか、Sという男、彼が彼女を私のところに連れてきましてね。
その時典子の写真をいくつか見せてもらいまして、これはMの資質があると見ましてね。
その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました。」



頭の中が整理できなかった。
現実に起こっていることとは思えない話に自分はおちょくられているだけなんじゃないか?


「人の妻であり、子供達の母親であるということを理解してそういうことをしていたのか?」



「もちろん。じゃなかったら価値はない。
人妻だから価値があるんですよ。
旦那もいて子供もいて幸せな人妻だから。」



幸せな人妻だから・・・。
幸せを奪うことで自分達の利益を確保しているってことか。
男達の私利私欲のために壊された自分の家族。
こいつらの話を聞いているとどんなに平静を装っても次の話を聞くたびに冷静さを保つのが難しくなる。


「それがどういうことかわかってるのか?
倫理的にも、それに俺がお前らを訴えたらお前らがどうなるかわかってやってるのか!」



「まあまあ、もともとSという男が典子を気に入り、一方的に好意を寄せていたようですが、なぜか身体の関係も持っていたようです。
もともとあなたの奥さんは旦那であるあなたの以外の男と関係を持っていた。 だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。 それはわかってください。」


典子を見る。

「本当か!?この男の言ってることは本当か!?」

怒鳴り散らすように典子に問いかける。

典子は俯いたままだ。
更に典子に訴えかけるように聞く。

「おい、事実じゃないのなら否定しろ!お前自身のことだろ!」


典子は一瞬俺のほうを見て、そして頷いた。
まだ妻から聞くまでは本当のことか男達のでっち上げた話なのかわからなかった。
そしてそれが唯一の気休めだった。
しかし妻自身がそれを否定した。
妻は他の男と関係を持っていた・・・。


「本人も認めてる通り、Sと性的関係があった。
どういう経緯で関係があったのかは知りませんが恋愛関係ではなく身体の関係ということです。」



「いつから?」


典子が口を開く。

「あなたが転勤になる少し前から・・・」



「相手とはどういう関係で?」


「前に務めてた会社の取引先の人で、飲みに誘われて、、、断れなくて・・」
妻は涙を流しながら言葉を詰まらせた。


「断れなくてセックスしたってことか?どういうつもりだ!断れないのはお前が弱いだけだろ!」


「飲みにいかなかったら、、私の所為で会社との取引に影響が出るって言われて・・・」


「そんなこと知るか!お前は何のために働いてるんだ!家庭の為だろ!」


「もちろんそんなことする気はなかったけど、帰り際にに断ったら、、私の会社での居場所も無くなるから」
典子の目からどんどん溢れ出てくる涙。


男が口を開く

「旦那さん、典子にそんなことを言わせるもんじゃありませんよ。
まあ彼から聞いたことを簡潔にいうと、彼は取引停止をチラつかせて典子を飲みに誘い、何回目かの酒の席のあとで典子に言い寄ったようです。
男だからそういう下心はありますよね。彼も同様に典子を女性として見て、飲みに誘うのと同じように典子の身体を触ったそうです。
典子も仕事先、そしてあなたに対する罪悪感に耐えられなかったのでしょう。
でも男は逆にその罪悪感を利用し、言葉巧みに関係を強要しました。
関係を持てばもう楽になれる、1回男とセックスをすればもうこんなにつらい日々が終わるとでも言われたのでしょう。それで関係をもった。そうだろ?典子」


涙を流しながら無言で俯いている典子。


「ところがその男は1回じゃ終わらなかった。そりゃそうでしょう。男にとっては1回やれば2回も3回も同じ。一度やった女ならまたやらせてくれると。
それでも典子は抵抗したようです。でも1回関係した事実は消えない。典子はどんどん追い込まれる。旦那や子供達家族への裏切り、所属する会社への本当に言い逃れのできない行為。
苦境から逃れたいが為に自分の感情を捨て、男に抱かれるようになる。
そしていつしか快楽を感じ始める・・・人間、弱い部分から付け入れば誰だってそうなります。」



「その関係した時期に撮られていた写真を持ってSは私たちのところに来ました。
紹介者には報酬が出ます。おそらくSは仕事柄金持ちとの繋がりで私たちのことを知っていたのでしょう。
しかしSは報酬目当てではありませんでした。
典子に飽きたわけではなく、典子でもっと興奮を得たいと思ったのでしょう。
心も何もない身体だけの典子を好きにコントロールしていると勘違いしていた愚かな男。
私たちからしたら過去はそれほど関係ない。金になるかならないか。
そういった典子の経緯からも素質は十分に見抜けました。
Sには通常の倍の報酬を与える代わりに典子との関係の一切を切らせました。」



男の口から語られることが事実とは思えなかった。
それでも典子は話が進むに連れて大泣きしている。
本当のことなのか・・・。


その時ずっと後ろで話を聞いていた探偵が話をしだした。



「私、旦那さんから依頼された調査会社のものです。
今の話をお聞きしておりましたが、もしそれが事実であるとしたら少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。
わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です。
それはわかっておられるのですか?」


男が言う。


「探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。
しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか?
典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?」


探偵が答える。

「ええそうです。
典子さんはそのSという男に無理やり行為を持たされ、そしてあなた方は金を出して典子さんを譲り受けた。
これは売春にもあたります。そしてその後も典子さんの意思と関係なくAV女優という行為を繰り返させた。」


探偵には今までのDVDは見せていない。
それでも男達の威勢を抑えるために法律という武器を提示しているのだろう。
こいつらに法律なんか通用しない。
それでも味方になってくれる姿勢が嬉しかった。


探偵と男の話を遮るように聞く。

「なぜ妻でなくてはならなかったんだ!
AV女優を使ってAV撮影すればいいだけの話だ。 いくら男が連れてきたからってなぜ普通に生活してる妻をターゲットにした。」



「普通に生活している妻・・・だからですよ。
典子は普通に生活している平凡な人妻、幸せな家庭があり、AVなどの裏の世界とは無縁の女。
それが外見でも十分に判断できる。
だからこそ興奮するんですよ。うちの客達がね。
AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。
そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?
AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ。
そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと。
あなたは気をわるくするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます。もちろん住所も。
作ったものではなく、それだけの事実を映像に残しているだけ。
でもそれだけに典子の全てがわかるんです。
本当の姿だから。
ファンも大勢いますよ。
典子と会いたいという話もたくさん来る。
金に糸目をつけない連中がね。」



すべてを撮った映像?
今この会話を撮っているカメラを見る。


「まさか今この場で撮影してるのも売るってわけじゃないだろうな!」


男は言う。
「もちろんそのつもりです。」


すると今まで黙っていたテーブルの椅子に座っていた男が口を開いた。

「その辺にしておけ。」

ソファに座っている男がそれに反応して押し黙った気がした。
椅子に座っている男がボスみたいなものなのか?



しかし湧き上る殺意を抑え切れなかった。
体が勝手に動き出す。
それを予測してか、探偵が俺の体を手で押さえる。
明らかに顔色が変わっていたのだろう。

「冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。
今の話はすべて録音してます。
今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。
外に停めてある車のナンバーも全て記録してます。」


冷静になれというほうが無理だ。
それでも俺は冷静でいなればばならないのか。
頭の中で正しいこと間違っていることの判断がつかない。
むしろそんなことはどうでもよかった。
そして探偵が男達に聞き始めた。




「いくら紹介者がいようと無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。
あなた方には反論の余地は無いはず。
典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、
こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう。
この場でどう落とし前をつけるか旦那さんと話をするべきです。」



男が探偵に言う。

「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。
ただ典子の意思はどうでしょうね。
あなたが思ってるほど純粋な世の中じゃないんだよ。
典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね、旦那さん、あなただけだ。
典子の意思が確認したい?
じゃあ今この現状はどう説明する?
旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。
そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。
それが答えだ。
わからないなら見せてあげよう。」



そうして男は妻の方を見る。
すると妻の後ろに立っていた男が動き出した。
妻を後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始めた。
まるで目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように。
乳房の形を確かめるように撫で回す。
しかし妻は抵抗をしなかった。
ずっと俯いたまま、まるで俺や探偵がそこにいることを知らないかのように、
そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということが記憶から消し去ったかのように。
それを目の当たりにして頭の中が真っ白になった。
妻が目の前で男に好きにされていること、それを拒否しないこと、何がショックなのかすらわからなかった。
妻を弄っている男は妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にした。
気が動転した。
探偵にも妻の裸を見られた。



頭に血が上った状態だったのだろう。
ソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
男が抵抗してきたがそれでもお構いなしに殴り続けた。
こいつは殺していい。
男はガードをするがそれがないところを殴りまくった。
探偵が止めに入る。
探偵だけではない。
他の男も止めに入っているのだろうか。
自分がどんどん取り押さえつけられるのがわかる。
腕を押さえられたら足で男を蹴る。
俺はこいつをできるだけ殴らなければ・・・。
すると取り押さえられた俺に今度は男が殴り始めた。
顔から血が出ている男が俺を。
探偵がその男を止めようとしているのが見える。
俺はこの男を殴る理由がある。
なぜこの男は俺を殴るのか。



「もうやめろ」



椅子に座っている男の声だろうか?
その声がしているのだけはわかった。
どんどん目の前が白っぽくなり俺は気を失った。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [6]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “419” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(14051) “「・・・なんでここに・・・」


赤坂は自分がどうすればいいかわからないかのように俺に質問した。
赤坂は裸にバスタオルを巻いた状態だった。
手で胸の辺りを押さえ、バスタオルが落ちるのを防いでいる。
慌てて取り繕ったのだろうか?



「なんでじゃないだろ、どういうことだ赤坂」


黙り込む赤坂。
男の声がした。


「誰だお前は、赤坂の知り合いか知らんが勝手に人の家に入ってきて何してる。警察呼ぶから待ってろ。」


男が携帯電話をポケットから取り出す。

すると赤坂が言った。


「この人は典子さんの旦那さんです。」


男のポケットから携帯を探す仕草が一瞬止まった。
俺の顔を見る。


「典子の旦那って・・・なんでここにいるんだ!?」


どうやらこいつがここを仕切っているらしい。
男が何かを言おうとしている中、それを遮るように大声で言った。


「どういうことだ!」


男はたじろぎながら口を開く。


「どういうことって・・・そっちこそどういう・・」


男の震えるような声にイライラしながら言う。


「どういうことだって聞いてんだよ!典子はどこだ?今すぐつれて来い!」


男は俺の顔を見たまま固まっていた。
ベッドの上の男女、そして赤坂も何も言うことなく、ただ固まった時間が過ぎた。


「典子は、ここにはいない。今日は社長と・・・」


「社長?お前の会社の社長は人の妻をかっさらって何してんだ!どんな会社なんだここは!!」


「俺もよく知らないんだ。典子は最近はほとんど見かけていない。社長が直々に・・・。」


明らかにその先の言葉に詰まった感じだった。


「直々になんだ?」


男が考えながら話し出す。


「社長と一緒の仕事が多くて、ずっと見てない。」


「だったら社長をここに呼べ!今すぐだ。」


「今どこにいるかわからない。社長は忙しいから・・・」


その言葉を遮るように言う。


「だから今すぐ連絡取れって言ってんだよ」


そういいながら足元にあったティッシュの箱を蹴り飛ばす。
飛ばした箱は男の足元に当たり、転がり落ちた。


「ああ、わかった。すぐ電話する・・・ちょっと待っててくれ。」


男が携帯電話を手に取り、電話を掛け始める。
明らかに怯えた表情でどうしていいかわからない様子の男達。
そりゃそうだ。
人の妻を寝取っておいて、その旦那が突然踏み込んできたとなればビビるに決まってる。
こいつらの趣味なのかなんだかわからないがこの異様な空間で自分だけがまともな人間だという感覚だった。
裸でバスタオルを巻いている赤坂、この女がいったいここで何をしているのかもわからない。
ただ裸でいることからしようとしていることはわかる。
それでもそれはどうでもいいことだった。
自分がたどり着くべき先は妻だけだ。

男の掛けた電話が繋がったようだった。


「あ、社長、その、旦那が、典子の旦那が部屋に来てるんですけど・・・」


明らかに弱腰の男だった。
こんな男に呼び捨てにされてること事態が腹立たしい。
湧き上る怒りを抑えながら電話の話を待つ。


「それで、旦那が今すぐ典子を連れて来いと・・・」


典子を連れて来い、こんな言葉を俺の目の前で話すほと礼儀も常識も無い男。
今までされてきたことを考えれば常識なんて通用しない奴らなのはわかりきっている。
それでもそんな下衆に妻がいいようにされていると思うとはちきれそうな感情が湧き上る。


「ええー、それは・・・今この状況では・・・はい、すみません。わかりました。では今から・・・」


そう言って男は電話を切った。


「あの、社長が・・・今社長と奥さんが一緒にはいないらしくて、典子さんがいる場所を教えるから旦那さんがそこへ直接来いとのことで・・・」


人の妻と一緒にいるからその旦那である俺が直接来いだと?
何様だ?


「ああー?立場わかってんのかてめぇ!」


その言葉を発すると共に体が勝手に動き出し、左手で男の胸倉を掴み顔を力一杯引き寄せた。
今にも殴ってしまいそうなほど右の拳を握り締めた状態だった。

するとベッドの上で女と重なっていた男が全裸でこっちに向かってきた。


「ちょ、ちょっと、やめましょう。ちゃんと話を聞きましょうよ・・・」


この空気の中全裸という滑稽なその男の言葉を聞き終わらないうちにその男の顔を右の拳の裏で殴った。
思いっきり力をこめて殴った。
もう理性だけで我慢できる限界を突破していた。
この部屋中をめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな衝動が抑えられなかった。
顔の真ん中を思いっきり殴られた男はベッドの傍でうずくまっている。

胸倉を掴まれたままの男が口を開く。


「お、落ち着いてください。もちろんこちらはあなたにこんな偉そうなことをいえる立場ではありません。ただ私達も社長には逆らえないんです。わかってください。」


わかってくださいだと?
自分達がやっていることを棚に上げてわかってくださいだと?
人の妻を散々使いまわし、旦那の俺までも馬鹿にしてきたこの糞共が何を言ってやがる。


「お願いします。私達にできることはもう無いんです」


男は目に涙を浮かべながら話す。
こんな弱い男に妻はいいようにされてきたのか?
何か弱みを握られたにせよ、妻の意思にせよ、何もかもが悔しくて堪らなかった。
もうこの男に何を言ってもだめだ。


「どこに行けばいいんだよ」


苛立ちを抑えられない声で男に聞く。


「あの、こんなことをお願いするのは無理な話ですし、怒らないで聞いてほしいんですが、奥さんは・・・」


自分にだけは危害を加えないでくださいとでも言わんばかりの言い回しだった。
そんなものはどうでもいいから早く場所を言え。
その感情を押し付けるように男の顔の前で大声で叫ぶ。


「何だよ!」


男は目をそらしながら俺に言った。


「あなたの、あなたの家にいるそうです。うちの社員と一緒に」


思いもよらない答えが返ってきた。
頭が真っ白になりそうな時間だった。
ずっと帰ってない妻が、家に戻ってきてる?
どういうことだ。
ん?
社長と一緒じゃないと言ってたな。
社員と家に戻ってきてる?
頭の中がしばらく整理できなかった。

俺が数秒の間動かなかったことで、ご機嫌を取ろうとしてたのか男が口を開いた。


「でも子供さんたちは今外出中らしくて」


俺がその言葉を聞けば安心するとでも思ったのだろうか。
俺と妻と子供2人が生活している家、その家に社員と2人?
社員が男なのか女なのかすらわからない。
その状況だけでもおかしくなりそうなんだ。
何が何だか整理ができない。
明らかに自分がおかしくなりそうだった。
子供たちがいないから安心しろってことか?


「その言葉で安心しろってか!?」


そう叫びながら男の胸倉を掴んだ手をそのまま窓の方に思いっきり押し飛ばそうとしていた。
そのまま窓を割り、ベランダを越えて下に落としてもいいと思った。
無意識に全身の力を込めて男を窓ガラスに叩きつける。
窓ガラスの割れる音と共にガラスが散乱し始める映像が見えた。
もう精神がおかしくなりそうなほどだった。
自分の理性を保てなかった。
散乱するガラスの上に男は倒れている。
しかしその目は俺を見て怯えているようだった。
スーツを着ていた男に怪我は無いらしく、起き上がろうとしている。
それでも外傷がないだけで体は痛んでいるはずだった。
逃げようとするのだろうか。
しかし男は立ち上がるとベランダの隅に立ち尽くし、俺の方を見ている。


こんな糞な男に馬鹿にされていたのかと思い涙が溢れ出てきた。
もうここには用無しだ。
そして俺の行くべきところは自分の家。
家族の住む自分の家。
体に蓄積された涙がすべて溢れ出てくるかのようだった。
その涙を服の袖でふき取る。
そして部屋を出ようと後ろを振り返り、歩き出す。
視界の左下に映る女性。
赤坂。
何もなく立ち去るわけには行かない。
自分のしていたことの意味がこの女にわかっているのだろうか?
バスタオルで身体を覆っている赤坂の目の前に立ち尽くす。
落ちないように手で押さえているバスタオル。
そのバスタオルを力ずくで奪い取り、その場に投げ落とす。
赤坂は力を入れて抵抗したが、その前にバスタオルはすべて剥ぎ取られた。
露になる赤坂の全裸。
この男受けするスタイルでここの男達と遊んでいたのか。
赤坂は屈みながら手や腕を使って俺に裸を見られないように必死に隠す。
何を隠してるんだ。
妻はすべてをDVDで男達の前に晒されたんだぞ。
お前だけがなぜ女の体裁を守ろうとしてる!
赤坂の腕を掴み、立ち上がらせ、両手首を掴み、壁に押し付ける。
力ずくで押し付けられた反動で赤坂の胸が揺れる。
隠すことができずに俺の前で露になる裸。
まさか俺に裸を見られるなんて思いもしなかっただろう。
この女こそ俺を馬鹿にした元凶じゃないのか。
あんなに親身になってくれたと信じていたこの女、裏切られたことに実感が湧かないほどだ。
男達に言われていたとはいえ何も無かったことになると思うな。
赤坂の頬を右手で一発張った。
赤坂は何も言わず張られた頬を痛むわけでもなくただ右下を向いている。
手に込められた力も抜けた。
赤坂を壁に押し付けていた腕の力を抜く。
力なく座り込む赤坂。

俺はバスタオルを再び手に取り、赤坂に向かって投げつけた。
そして玄関に向かって歩き出す。
ガラスの割れた音で近所の人が警察を呼んだりしているのではないか、あれだけ大声で散々わめき散らしたんだ。
それでも不思議ではない。
外で待っている探偵はどうしているだろうか。
たった5分にも満たないこの時間が長く感じた。
もう元には戻らない。
妻がどうしているのかと心配するここ最近の日々はもう来ない、そこから進むことも無ければ戻ることもなかったあの悶々とした日々は。
なぜなら俺は前に進んだからだ。
男達にこちらから踏み込んで行った以上、決着をつける。

そして探偵と共に、自分の妻と誰かが一緒にいるという、自分の大切な家族の家へと向かった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは7array(7) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “420” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(28798) “太陽が照りつけ、見ているだけでも暑い日差し。
その中を家に向かって走る車。
助手席に座っている探偵に言う。


「俺どうなるかわからない。」


探偵は俺がマンションの部屋から出てきてから一言もしゃべっていない。
外にいても中からの音で何が起こっていたのかはわかっているのだろう。
いや、今は何も聞くべきではないと読んでいるのかもしれない。
そうであれば気の利く男だと思った。


「お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ。もちろん、今の状況はわかるのですが・・・」


おれ自身が損をするか・・・。
さっき俺がやったことも警察沙汰になってもおかしくない。
そして俺がこれから理性を抑えられないことでもっと酷い結果を生むかもしれないこともわかっていた。
もし警察沙汰になれば勤めている会社にも知れるだろう。
それでもよかった。
法律や常識の通用する相手ではないことはわかっている。
そいつらに常識という盾をもって戦っても勝てるわけがない。


「心配ありがとう。でも今どうにかしないと後には戻れないんだよ」



俺は何かに試されていたんだろうか。
旦那としての資格が俺にあるのかどうか。
だとしたら俺はもう旦那失格なのかもしれない。
今起きていることの現実感のなさにそんなことを考える。

これは全部夢で、朝起きたら妻は朝食を作っていつも通りに「おはよう」と言ってくれるんだ。
でもその夢を覚まし、いくら眠りから覚めようとしても起きれない。
自分ではどうにもならない。
どうしていいかわからない。
ずっとこの嫌な夢を見続けなければならない。
俺は夢の中でそこがどこなのか考えても見つからず、先にも進まず後ろにも戻らない。
このままじゃ永遠に同じ夢の中にいなければならない。
そして一つだけある扉。
その先に光が待っているのか闇が待っているのかわからない。
それが怖くて避け続けてきた扉。
もっと早くに開けてたら良かったのだろうか。
見えない扉の向こう側を恐れていた自分が酷く弱い存在に思えた。
それでももうその扉を開けなければ自分はその場所で力尽きてしまう。
自分は試されているんだろうか・・・。
そんな感覚だった。



車は家に一番近い交差点に差し掛かった。
赤信号で停まっている車。
この信号が青になれば左折し、ものの1分もかからずに家に着く。
探偵がポツリと言う。


「ええ、探偵である自分にはわからないことです。ただ、このような場面に何件か立ち合わせていただいた経験から一言だけ、冷静さも必要です。」


冷静に考えないといけないこともわかっている。
それでも今のこの心の底から湧きあがる感情が最も必要だった。
自分の性格もわかっている。
ある程度の理性は働いている。
それが冷静さだろう。
それでもその理性が吹っ飛ぶことは理解していたし、それでもいいと思っていた。



信号が青になり、車を発進させる。
だんだんと家が近づくにつれ、心臓がバクバクと響くのがわかる。
さっきのマンションにいた男達は怯えていた。
まさか俺が来るなんて思いもしなかったのだろう。
しかし今度は俺が来ることを知っている。
妻と一緒にいるその男は家で何をしようとしていたのだろう。
家主である俺がいないときに妻と一緒に家に入り込む男。
考えるだけ憤りと早く家に行かなければという思いが募る。


家が見えてきた。
家の前にはワンボックスカーが止まっていた。
俺の家に確実に俺の知らない男がいる。
我が物顔で俺の家で何をしているんだ。
車を駐車場に前向きに停めた。

そして急いで車を出る。
助手席に乗っていた探偵も一緒についてきた。
今度は俺の家だ。
玄関のドアを開けるが鍵が掛かっていた。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。
手が震えて鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかない。
自分が動揺しているのがわかった。
鍵を開け、ドアを開く。
玄関には知らない靴が4足あった。
男物の靴が4足。
4人も男がいるのか。
そしてもう一足、妻の靴もあった。
中からは何も音がしない。
靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。



エアコンで冷やされた涼しい空気が中から出できた。
ソファに一人座っている男がいた。


「やあ旦那さん、はじめまして。」


スーツに短髪の男。
冷静な目つきで俺を見ている。
こいつが主犯か!
探偵と2人で入ってきても俺が旦那だとわかるということは俺の顔も知っているということか。

周りを見る。
ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男が一人。
そしてその横に立っている体格のいい男が一人。
手に持っているものが目に入る。
ビデオカメラ。
今まさにビデオカメラで俺を撮っているのか。
人の家で家主を馬鹿にしているのを楽しんでいるかのような薄笑いした男が。


「何を撮ってるんだ!」


俺は冷静を心がけて叫んだ。
しかし男は無言で本格的にカメラをまわし始める。
カメラのレンズを通して俺を見ている。
俺を挑発するかのように。


「はじめまして旦那さん、今日はお邪魔してます。」


その時ソファに座っていた短髪の男が立ち上がって俺に挨拶をする。

人の家に勝手に上がりこんでおいて何がお邪魔してますだ。
それでも冷静に聞く。

「妻はどこだ?」



「典子ですね、典子はそこにいますよ。」


男がキッチンを指差す。
ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに人影があった。
この家を建てるとき妻が希望したカウンター形式の間仕切り。
キッチンで皿を洗いながらリビングにいる人と会話でき、テレビも見れる今風の作りだ。
私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
家を建てるときにそう話していたのを思い出す。

そしてその間仕切りの向こうを見る。
妻だった。
うつむいた様子の妻。
家では見たことが無いワンピースを来ている妻。
そして妻のすぐ後ろに男が立っていた。
これで4人か。

妻を見ながら叫ぶ。


「どういうつもりだ!?」


しばらくの沈黙の後妻が口を開く。


「ごめんなさい。」


「ごめんなさいじゃ何もわからないだろ!この状況は何なんだ!ここをどこだと思ってる!」
憤りを抑えきれない自分がいた。


長髪の男が言う。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください。」


「とりあえず初めから全部説明しろ!」


「今日は旦那さんに会うつもりでここにきたのではないのですが、さっき電話であなたが乗り込んできたとの話があったのでそろそろ潮時かなと思いましてあなたをお呼びしました。」


「じゃあ何をしに来たんだ!それに俺を呼んだだと?ここは俺の家だ。」


「ええ、わかってますよ。・・・ですから、今日はあなたに全てお話しようと思いましてね。」


男が話始めるのを待つ。


「私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります。」


AV制作会社だと?
典子はAV女優ということか?
俺は今までずっと妻に騙されていたのか?
男の言っていることが真実か嘘かはわからない。
だが顔では冷静を装えても心の中では動揺が隠せなかった。
それと同時に怒りが込み上げる。
それに旦那である俺に対して「典子」と呼び捨て。
その時点で俺も心底馬鹿にされていることはわかった。
今までさんざんDVDを送ってくることからわかってはいたが、目の前にいる旦那に対してもその話し方。

男はそのまま話を続ける。


「AVと言ってもその辺にあるAVとはまた違ったものでしてね、ああ、無修正という意味ではありませんよ、あなたがた一般人は買えないような特別な流通をしているAVのことです。
1本2時間ものの販売価格が10万以上するものでして、内容により価格が上がっていくという仕組みをとってます。
なぜそんな価格でAVが売れるかわかりますか?
・・・お金を出してでも見たいと思わせる内容だからです。
お金を出してでも見たいものに対して、金に糸目をつけずに購入する層、つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。
お金持ちというのは大変なものでね、お金でできることはすべて経験してしまうんですよ。
車、家、海外旅行、好きなときに好きなことをする生活をしていると手に入らないものを手に入れたくなる。
それでもそんなに多くはいませんよ。」



「だから抱きたいと思った女を金で抱こうとするのか?
人の妻でも関係なしに金で何とかしようとするってことか!」


「いいえ。人間の欲望とは恐ろしいものですよ。
一種の例えですが、あなたがただぼーっと街中に立っていて、ただ目の前に好みの女が歩いていたら「あの女を抱きたい」と思うでしょう?
それでも金持ちというのは冷静で常識的なんです。
地位は保証されてますからね。
だから金にものを言わせてその女性を抱くなんてことはしません。
自分でリスクなんて犯さないんですよ。」


「つまり、金持ちが好きになった女にお前らみたいな下っ端がちょっかいをだすと?」


「違う。そんな下品なことはしない。
その女性に対してはかなわぬ夢です。
ただね、商品としてあるものに対しては恐ろしく貪欲なんです。
普段見れないAVを見れるとしたら・・・。
ビジネスチャンスがここにあるんです。
どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。
そういうことをしている会社です。
絶対に普通のAVにはないことです。
まあ、それはご自分でご覧になったからわかるとは思いますが。」



人の妻で遊び、その旦那をおちょくる。そのすべてを撮影したビデオテープ・・・。ということか。



「う~ん、名前は伏せておきましょうか、Sという男、彼が彼女を私のところに連れてきましてね。
その時典子の写真をいくつか見せてもらいまして、これはMの資質があると見ましてね。
その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました。」



頭の中が整理できなかった。
現実に起こっていることとは思えない話に自分はおちょくられているだけなんじゃないか?


「人の妻であり、子供達の母親であるということを理解してそういうことをしていたのか?」



「もちろん。じゃなかったら価値はない。
人妻だから価値があるんですよ。
旦那もいて子供もいて幸せな人妻だから。」



幸せな人妻だから・・・。
幸せを奪うことで自分達の利益を確保しているってことか。
男達の私利私欲のために壊された自分の家族。
こいつらの話を聞いているとどんなに平静を装っても次の話を聞くたびに冷静さを保つのが難しくなる。


「それがどういうことかわかってるのか?
倫理的にも、それに俺がお前らを訴えたらお前らがどうなるかわかってやってるのか!」



「まあまあ、もともとSという男が典子を気に入り、一方的に好意を寄せていたようですが、なぜか身体の関係も持っていたようです。
もともとあなたの奥さんは旦那であるあなたの以外の男と関係を持っていた。 だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。 それはわかってください。」


典子を見る。

「本当か!?この男の言ってることは本当か!?」

怒鳴り散らすように典子に問いかける。

典子は俯いたままだ。
更に典子に訴えかけるように聞く。

「おい、事実じゃないのなら否定しろ!お前自身のことだろ!」


典子は一瞬俺のほうを見て、そして頷いた。
まだ妻から聞くまでは本当のことか男達のでっち上げた話なのかわからなかった。
そしてそれが唯一の気休めだった。
しかし妻自身がそれを否定した。
妻は他の男と関係を持っていた・・・。


「本人も認めてる通り、Sと性的関係があった。
どういう経緯で関係があったのかは知りませんが恋愛関係ではなく身体の関係ということです。」



「いつから?」


典子が口を開く。

「あなたが転勤になる少し前から・・・」



「相手とはどういう関係で?」


「前に務めてた会社の取引先の人で、飲みに誘われて、、、断れなくて・・」
妻は涙を流しながら言葉を詰まらせた。


「断れなくてセックスしたってことか?どういうつもりだ!断れないのはお前が弱いだけだろ!」


「飲みにいかなかったら、、私の所為で会社との取引に影響が出るって言われて・・・」


「そんなこと知るか!お前は何のために働いてるんだ!家庭の為だろ!」


「もちろんそんなことする気はなかったけど、帰り際にに断ったら、、私の会社での居場所も無くなるから」
典子の目からどんどん溢れ出てくる涙。


男が口を開く

「旦那さん、典子にそんなことを言わせるもんじゃありませんよ。
まあ彼から聞いたことを簡潔にいうと、彼は取引停止をチラつかせて典子を飲みに誘い、何回目かの酒の席のあとで典子に言い寄ったようです。
男だからそういう下心はありますよね。彼も同様に典子を女性として見て、飲みに誘うのと同じように典子の身体を触ったそうです。
典子も仕事先、そしてあなたに対する罪悪感に耐えられなかったのでしょう。
でも男は逆にその罪悪感を利用し、言葉巧みに関係を強要しました。
関係を持てばもう楽になれる、1回男とセックスをすればもうこんなにつらい日々が終わるとでも言われたのでしょう。それで関係をもった。そうだろ?典子」


涙を流しながら無言で俯いている典子。


「ところがその男は1回じゃ終わらなかった。そりゃそうでしょう。男にとっては1回やれば2回も3回も同じ。一度やった女ならまたやらせてくれると。
それでも典子は抵抗したようです。でも1回関係した事実は消えない。典子はどんどん追い込まれる。旦那や子供達家族への裏切り、所属する会社への本当に言い逃れのできない行為。
苦境から逃れたいが為に自分の感情を捨て、男に抱かれるようになる。
そしていつしか快楽を感じ始める・・・人間、弱い部分から付け入れば誰だってそうなります。」



「その関係した時期に撮られていた写真を持ってSは私たちのところに来ました。
紹介者には報酬が出ます。おそらくSは仕事柄金持ちとの繋がりで私たちのことを知っていたのでしょう。
しかしSは報酬目当てではありませんでした。
典子に飽きたわけではなく、典子でもっと興奮を得たいと思ったのでしょう。
心も何もない身体だけの典子を好きにコントロールしていると勘違いしていた愚かな男。
私たちからしたら過去はそれほど関係ない。金になるかならないか。
そういった典子の経緯からも素質は十分に見抜けました。
Sには通常の倍の報酬を与える代わりに典子との関係の一切を切らせました。」



男の口から語られることが事実とは思えなかった。
それでも典子は話が進むに連れて大泣きしている。
本当のことなのか・・・。


その時ずっと後ろで話を聞いていた探偵が話をしだした。



「私、旦那さんから依頼された調査会社のものです。
今の話をお聞きしておりましたが、もしそれが事実であるとしたら少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。
わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です。
それはわかっておられるのですか?」


男が言う。


「探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。
しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか?
典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?」


探偵が答える。

「ええそうです。
典子さんはそのSという男に無理やり行為を持たされ、そしてあなた方は金を出して典子さんを譲り受けた。
これは売春にもあたります。そしてその後も典子さんの意思と関係なくAV女優という行為を繰り返させた。」


探偵には今までのDVDは見せていない。
それでも男達の威勢を抑えるために法律という武器を提示しているのだろう。
こいつらに法律なんか通用しない。
それでも味方になってくれる姿勢が嬉しかった。


探偵と男の話を遮るように聞く。

「なぜ妻でなくてはならなかったんだ!
AV女優を使ってAV撮影すればいいだけの話だ。 いくら男が連れてきたからってなぜ普通に生活してる妻をターゲットにした。」



「普通に生活している妻・・・だからですよ。
典子は普通に生活している平凡な人妻、幸せな家庭があり、AVなどの裏の世界とは無縁の女。
それが外見でも十分に判断できる。
だからこそ興奮するんですよ。うちの客達がね。
AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。
そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?
AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ。
そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと。
あなたは気をわるくするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます。もちろん住所も。
作ったものではなく、それだけの事実を映像に残しているだけ。
でもそれだけに典子の全てがわかるんです。
本当の姿だから。
ファンも大勢いますよ。
典子と会いたいという話もたくさん来る。
金に糸目をつけない連中がね。」



すべてを撮った映像?
今この会話を撮っているカメラを見る。


「まさか今この場で撮影してるのも売るってわけじゃないだろうな!」


男は言う。
「もちろんそのつもりです。」


すると今まで黙っていたテーブルの椅子に座っていた男が口を開いた。

「その辺にしておけ。」

ソファに座っている男がそれに反応して押し黙った気がした。
椅子に座っている男がボスみたいなものなのか?



しかし湧き上る殺意を抑え切れなかった。
体が勝手に動き出す。
それを予測してか、探偵が俺の体を手で押さえる。
明らかに顔色が変わっていたのだろう。

「冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。
今の話はすべて録音してます。
今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。
外に停めてある車のナンバーも全て記録してます。」


冷静になれというほうが無理だ。
それでも俺は冷静でいなればばならないのか。
頭の中で正しいこと間違っていることの判断がつかない。
むしろそんなことはどうでもよかった。
そして探偵が男達に聞き始めた。




「いくら紹介者がいようと無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。
あなた方には反論の余地は無いはず。
典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、
こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう。
この場でどう落とし前をつけるか旦那さんと話をするべきです。」



男が探偵に言う。

「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。
ただ典子の意思はどうでしょうね。
あなたが思ってるほど純粋な世の中じゃないんだよ。
典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね、旦那さん、あなただけだ。
典子の意思が確認したい?
じゃあ今この現状はどう説明する?
旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。
そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。
それが答えだ。
わからないなら見せてあげよう。」



そうして男は妻の方を見る。
すると妻の後ろに立っていた男が動き出した。
妻を後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始めた。
まるで目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように。
乳房の形を確かめるように撫で回す。
しかし妻は抵抗をしなかった。
ずっと俯いたまま、まるで俺や探偵がそこにいることを知らないかのように、
そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということが記憶から消し去ったかのように。
それを目の当たりにして頭の中が真っ白になった。
妻が目の前で男に好きにされていること、それを拒否しないこと、何がショックなのかすらわからなかった。
妻を弄っている男は妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にした。
気が動転した。
探偵にも妻の裸を見られた。



頭に血が上った状態だったのだろう。
ソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
男が抵抗してきたがそれでもお構いなしに殴り続けた。
こいつは殺していい。
男はガードをするがそれがないところを殴りまくった。
探偵が止めに入る。
探偵だけではない。
他の男も止めに入っているのだろうか。
自分がどんどん取り押さえつけられるのがわかる。
腕を押さえられたら足で男を蹴る。
俺はこいつをできるだけ殴らなければ・・・。
すると取り押さえられた俺に今度は男が殴り始めた。
顔から血が出ている男が俺を。
探偵がその男を止めようとしているのが見える。
俺はこの男を殴る理由がある。
なぜこの男は俺を殴るのか。



「もうやめろ」



椅子に座っている男の声だろうか?
その声がしているのだけはわかった。
どんどん目の前が白っぽくなり俺は気を失った。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [6]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “419” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(14051) “「・・・なんでここに・・・」


赤坂は自分がどうすればいいかわからないかのように俺に質問した。
赤坂は裸にバスタオルを巻いた状態だった。
手で胸の辺りを押さえ、バスタオルが落ちるのを防いでいる。
慌てて取り繕ったのだろうか?



「なんでじゃないだろ、どういうことだ赤坂」


黙り込む赤坂。
男の声がした。


「誰だお前は、赤坂の知り合いか知らんが勝手に人の家に入ってきて何してる。警察呼ぶから待ってろ。」


男が携帯電話をポケットから取り出す。

すると赤坂が言った。


「この人は典子さんの旦那さんです。」


男のポケットから携帯を探す仕草が一瞬止まった。
俺の顔を見る。


「典子の旦那って・・・なんでここにいるんだ!?」


どうやらこいつがここを仕切っているらしい。
男が何かを言おうとしている中、それを遮るように大声で言った。


「どういうことだ!」


男はたじろぎながら口を開く。


「どういうことって・・・そっちこそどういう・・」


男の震えるような声にイライラしながら言う。


「どういうことだって聞いてんだよ!典子はどこだ?今すぐつれて来い!」


男は俺の顔を見たまま固まっていた。
ベッドの上の男女、そして赤坂も何も言うことなく、ただ固まった時間が過ぎた。


「典子は、ここにはいない。今日は社長と・・・」


「社長?お前の会社の社長は人の妻をかっさらって何してんだ!どんな会社なんだここは!!」


「俺もよく知らないんだ。典子は最近はほとんど見かけていない。社長が直々に・・・。」


明らかにその先の言葉に詰まった感じだった。


「直々になんだ?」


男が考えながら話し出す。


「社長と一緒の仕事が多くて、ずっと見てない。」


「だったら社長をここに呼べ!今すぐだ。」


「今どこにいるかわからない。社長は忙しいから・・・」


その言葉を遮るように言う。


「だから今すぐ連絡取れって言ってんだよ」


そういいながら足元にあったティッシュの箱を蹴り飛ばす。
飛ばした箱は男の足元に当たり、転がり落ちた。


「ああ、わかった。すぐ電話する・・・ちょっと待っててくれ。」


男が携帯電話を手に取り、電話を掛け始める。
明らかに怯えた表情でどうしていいかわからない様子の男達。
そりゃそうだ。
人の妻を寝取っておいて、その旦那が突然踏み込んできたとなればビビるに決まってる。
こいつらの趣味なのかなんだかわからないがこの異様な空間で自分だけがまともな人間だという感覚だった。
裸でバスタオルを巻いている赤坂、この女がいったいここで何をしているのかもわからない。
ただ裸でいることからしようとしていることはわかる。
それでもそれはどうでもいいことだった。
自分がたどり着くべき先は妻だけだ。

男の掛けた電話が繋がったようだった。


「あ、社長、その、旦那が、典子の旦那が部屋に来てるんですけど・・・」


明らかに弱腰の男だった。
こんな男に呼び捨てにされてること事態が腹立たしい。
湧き上る怒りを抑えながら電話の話を待つ。


「それで、旦那が今すぐ典子を連れて来いと・・・」


典子を連れて来い、こんな言葉を俺の目の前で話すほと礼儀も常識も無い男。
今までされてきたことを考えれば常識なんて通用しない奴らなのはわかりきっている。
それでもそんな下衆に妻がいいようにされていると思うとはちきれそうな感情が湧き上る。


「ええー、それは・・・今この状況では・・・はい、すみません。わかりました。では今から・・・」


そう言って男は電話を切った。


「あの、社長が・・・今社長と奥さんが一緒にはいないらしくて、典子さんがいる場所を教えるから旦那さんがそこへ直接来いとのことで・・・」


人の妻と一緒にいるからその旦那である俺が直接来いだと?
何様だ?


「ああー?立場わかってんのかてめぇ!」


その言葉を発すると共に体が勝手に動き出し、左手で男の胸倉を掴み顔を力一杯引き寄せた。
今にも殴ってしまいそうなほど右の拳を握り締めた状態だった。

するとベッドの上で女と重なっていた男が全裸でこっちに向かってきた。


「ちょ、ちょっと、やめましょう。ちゃんと話を聞きましょうよ・・・」


この空気の中全裸という滑稽なその男の言葉を聞き終わらないうちにその男の顔を右の拳の裏で殴った。
思いっきり力をこめて殴った。
もう理性だけで我慢できる限界を突破していた。
この部屋中をめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな衝動が抑えられなかった。
顔の真ん中を思いっきり殴られた男はベッドの傍でうずくまっている。

胸倉を掴まれたままの男が口を開く。


「お、落ち着いてください。もちろんこちらはあなたにこんな偉そうなことをいえる立場ではありません。ただ私達も社長には逆らえないんです。わかってください。」


わかってくださいだと?
自分達がやっていることを棚に上げてわかってくださいだと?
人の妻を散々使いまわし、旦那の俺までも馬鹿にしてきたこの糞共が何を言ってやがる。


「お願いします。私達にできることはもう無いんです」


男は目に涙を浮かべながら話す。
こんな弱い男に妻はいいようにされてきたのか?
何か弱みを握られたにせよ、妻の意思にせよ、何もかもが悔しくて堪らなかった。
もうこの男に何を言ってもだめだ。


「どこに行けばいいんだよ」


苛立ちを抑えられない声で男に聞く。


「あの、こんなことをお願いするのは無理な話ですし、怒らないで聞いてほしいんですが、奥さんは・・・」


自分にだけは危害を加えないでくださいとでも言わんばかりの言い回しだった。
そんなものはどうでもいいから早く場所を言え。
その感情を押し付けるように男の顔の前で大声で叫ぶ。


「何だよ!」


男は目をそらしながら俺に言った。


「あなたの、あなたの家にいるそうです。うちの社員と一緒に」


思いもよらない答えが返ってきた。
頭が真っ白になりそうな時間だった。
ずっと帰ってない妻が、家に戻ってきてる?
どういうことだ。
ん?
社長と一緒じゃないと言ってたな。
社員と家に戻ってきてる?
頭の中がしばらく整理できなかった。

俺が数秒の間動かなかったことで、ご機嫌を取ろうとしてたのか男が口を開いた。


「でも子供さんたちは今外出中らしくて」


俺がその言葉を聞けば安心するとでも思ったのだろうか。
俺と妻と子供2人が生活している家、その家に社員と2人?
社員が男なのか女なのかすらわからない。
その状況だけでもおかしくなりそうなんだ。
何が何だか整理ができない。
明らかに自分がおかしくなりそうだった。
子供たちがいないから安心しろってことか?


「その言葉で安心しろってか!?」


そう叫びながら男の胸倉を掴んだ手をそのまま窓の方に思いっきり押し飛ばそうとしていた。
そのまま窓を割り、ベランダを越えて下に落としてもいいと思った。
無意識に全身の力を込めて男を窓ガラスに叩きつける。
窓ガラスの割れる音と共にガラスが散乱し始める映像が見えた。
もう精神がおかしくなりそうなほどだった。
自分の理性を保てなかった。
散乱するガラスの上に男は倒れている。
しかしその目は俺を見て怯えているようだった。
スーツを着ていた男に怪我は無いらしく、起き上がろうとしている。
それでも外傷がないだけで体は痛んでいるはずだった。
逃げようとするのだろうか。
しかし男は立ち上がるとベランダの隅に立ち尽くし、俺の方を見ている。


こんな糞な男に馬鹿にされていたのかと思い涙が溢れ出てきた。
もうここには用無しだ。
そして俺の行くべきところは自分の家。
家族の住む自分の家。
体に蓄積された涙がすべて溢れ出てくるかのようだった。
その涙を服の袖でふき取る。
そして部屋を出ようと後ろを振り返り、歩き出す。
視界の左下に映る女性。
赤坂。
何もなく立ち去るわけには行かない。
自分のしていたことの意味がこの女にわかっているのだろうか?
バスタオルで身体を覆っている赤坂の目の前に立ち尽くす。
落ちないように手で押さえているバスタオル。
そのバスタオルを力ずくで奪い取り、その場に投げ落とす。
赤坂は力を入れて抵抗したが、その前にバスタオルはすべて剥ぎ取られた。
露になる赤坂の全裸。
この男受けするスタイルでここの男達と遊んでいたのか。
赤坂は屈みながら手や腕を使って俺に裸を見られないように必死に隠す。
何を隠してるんだ。
妻はすべてをDVDで男達の前に晒されたんだぞ。
お前だけがなぜ女の体裁を守ろうとしてる!
赤坂の腕を掴み、立ち上がらせ、両手首を掴み、壁に押し付ける。
力ずくで押し付けられた反動で赤坂の胸が揺れる。
隠すことができずに俺の前で露になる裸。
まさか俺に裸を見られるなんて思いもしなかっただろう。
この女こそ俺を馬鹿にした元凶じゃないのか。
あんなに親身になってくれたと信じていたこの女、裏切られたことに実感が湧かないほどだ。
男達に言われていたとはいえ何も無かったことになると思うな。
赤坂の頬を右手で一発張った。
赤坂は何も言わず張られた頬を痛むわけでもなくただ右下を向いている。
手に込められた力も抜けた。
赤坂を壁に押し付けていた腕の力を抜く。
力なく座り込む赤坂。

俺はバスタオルを再び手に取り、赤坂に向かって投げつけた。
そして玄関に向かって歩き出す。
ガラスの割れた音で近所の人が警察を呼んだりしているのではないか、あれだけ大声で散々わめき散らしたんだ。
それでも不思議ではない。
外で待っている探偵はどうしているだろうか。
たった5分にも満たないこの時間が長く感じた。
もう元には戻らない。
妻がどうしているのかと心配するここ最近の日々はもう来ない、そこから進むことも無ければ戻ることもなかったあの悶々とした日々は。
なぜなら俺は前に進んだからだ。
男達にこちらから踏み込んで行った以上、決着をつける。

そして探偵と共に、自分の妻と誰かが一緒にいるという、自分の大切な家族の家へと向かった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “418” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(12940) “翌日の月曜、有給を取り、ある場所へ向かった。
そう大きくはないマンションを見上げる。
マンスリーマンションとのことだ。
中に人がいるのかどうかすらわからない。
ただここに来なければ何も進まない。

付き添ってもらっている探偵には十分な証拠を持ってきてもらっている。
もちろんDVDのことは言っていない。
探偵と共にマンションの205号室へ向かう。
角部屋のようだった。
部屋のドアの前に立つ。
もしかしたらここに妻がいるのかもしれない。
そう大きな部屋ではないはずだ。
外観の大きさを見てもワンルームマンションのような感じだろう。


ドアを開こうとドアノブに手を掛ける。
音を立てないようにドアを開け、一気に中に入り込むつもりだった。
インターホンを鳴らす気など無い。
インターホンを押して事情を説明しろだの、宅配便の振りをして中の様子を伺えなどの探偵の助言もあった。
だが何も考えず、ただ中に突入することしか考えていなかった。

ドアノブを動かし手前に引こうとしたとき、中からかすかな声が聞こえてきた。
女の声だ。
まさか、妻か?
耳をすまし、音を聞き入る。
明らかな女性の淫音だった。
自分の心の中に動揺があるのは事実だった。
妻がこの中でDVDのようなことをしている可能性もある。
それでもそれをぶち壊すために自分はここにきたのではないか。
考えるほど動揺が増すばかりなのはわかっていた。
その動揺が大きくなる前にドアを開ける。
音を立てないように手前に引く。
ドアノブを握る自分の手に汗が噴き出しているのがわかる。
ドアが開き、少しずつなかの様子が見えはじめる。
鍵は掛かっていない。
中を見る限りチェーンのようなものもしていない。
中から響く女性の声がはっきりと聞こえる。
10cmほど開けたドアから中を見る。
ワンルームの部屋、バスルームらしき場所、キッチンらしき場所、その奥にドアがあった。
玄関には靴が5足あった。
男ものが3足に女物が2足。
この家の借主の靴が何足かあるはずだ。
中に何人がいるのかはわからない。
ただ男一人と女一人は確実にいるだろう。

自分の心音が自分で聞こえる。
全身が脈打ち、もう前に進むしかない状況だった。
後ろにいる探偵の顔を見る。
探偵は真剣なまなざしで自分を見ている。
事前に、自分が中に入るから探偵は外で待っていてくれとお願いしておいた。
探偵はちゃんとインターホンを鳴らして話をするべきだと言ったが、それは拒否した。
今までの状況がわかっていないやつが何を言っているんだ。
一般的に考えたら探偵がつけた目星というだけで突然ドアを開け、突然中に突入したらどう考えても犯罪だろう。
だが自分にとってはそんなことはどうでもよかった。
考えることによって自分の今の気持ちが削がれる要素、それはすべて遮断した。

探偵の顔を見ながら頷くように今から行くと合図をする。
探偵も覚悟をしたかのように頷き返す。
視線を部屋の中に戻す。
中からは相変わらず女性の声が聞こえている。
妻をあんな風にした男達。
原因は自分にもあるのかもしれない。
だが今はそんなことは考える気は無かった。
すべてあの男達が仕組み、自分の家庭を半ば崩壊状態へと持ち込んだのだ。
ただ平凡な幸せがあったはずの自分の築いてきた家庭。
それを弄ぶように壊しにかかってきている敵。
守るべき娘、息子、そして妻。
自分は今自分の家族3人の為に戦う。
中で何が起きようと、自分がどうなろうと、守るべきものの為に動く。


ドアノブを一気に引き、中へと入る。
玄関にある靴を踏み、土足で上がりこむ。
3mほどの距離、電気がついておらず、窓も無く薄暗い空間のその奥にあるドアに向かって歩く。
まだ玄関のドアは閉まっておらず、ドアの閉まる音もしていない。
音がしないようゆっくりと閉まるタイプのドアだった。
まだ中のやつらも俺の存在には気付いてないだろう。
2秒もかからないほどの時間だっただろう。
奥のドアノブに手を掛ける。
その時ようやく玄関のドアが閉まる音がした。
中の奴らももう誰かが中に入ってきたことは気付いただろう。
それと同時にドアを開ける。

ここを開けたらどんな光景が待っているのかわからない。
少なくとも女の淫らな声が聞こえていることから想像はつく。
もちろん中で何を話すかなんて何も考えていない。
ただ勢いで中に突入するだけだった。
開くドアがスローモーションのように感じる。
中は外光が差し込んでいるらしく、その光が薄暗い玄関の方を照らし出す。
まるで自分を照らし出すかのように。
覚悟は決まってる。

ドアを開け放ち中からの光がすべて自分へと引き付けられているような感覚がした。
全てが1秒もしない間のことだった。
それでもコマ送りのように鮮明に覚えている。
そしてその光の中、部屋の奥にある大きな窓が目に入る。
その視界の両端に人の気配を感じる。
右側は人間の肌の色が大きく見える。
おそらくベッドの上だろう。
視線を右下に移す。
妻だったら・・・妻だったらどうしよう。
左側に一人、ベッドの上に2人。
少なくとも3人はいる。
いや、ベッドの横、部屋の角にあたる場所にも一人座っているいるようだった。
4人。
妻ではないことを祈りながらベッドの上を見る。
男の背中が大きく見えた。
その下に女性がいるらしい。
女性の足が男の腰の辺りから見える。
視線を頭の方へ移す。
首から顎、唇、鼻・・・目・・・そして顔全体がはっきりと自分の目に映し出された。
心臓がはち切れそうだった。
他のものは何も目に入っていない。
他の3人よりも、その女性が妻なのかそうでないか。
それだけを確かめるべく、女性の顔を見た。
自分の頭の中で何度もその女性と、自分の知っている妻を重ね合わせる。
自分の妻が他の男と重なっているところなんて見たくはない。
そういうことが好きな男性もいるのは知っている。
だが自分の人生まで壊されかねない現状では、ただそれが妻ではないことを確かめるのが怖く、気が遠くなりそうな感覚だった。



男の下になっていた女性・・・それは妻ではなかった。
見たこともない女性。
妻なのかそうではないのかということだけにしか頭を使いきれていなかっただけに、妻ではない安堵よりも自分が何をしているのか分からなくなりそうだった。
妻ではない。
じゃあこの女性は・・・DVDに出てた他の女性?
その女性はようやく自分の存在に気付き、こっちを見ている。
その上を見ると男が驚いた顔で自分を見ていた。
窓の左側に立っていた男性もこっちを見ていた。
黒っぽいスーツを着ている男性。
ベッドで絡み合っている全裸の男女。
そして思い出したようにベッド側の部屋の角に座っている人を見る。
思わず声が出た。


「は・・・赤坂さん・・・」








妻の居場所らしきところがわかったという報告が探偵からあったのが昨日だった。
「どうやら奥さんの会社の社長名義で借りられているマンションが候補としてあがってます。」
それから今朝探偵に会い、直接根拠を見せてもらった。
写真で確認する限り、その部屋に届けられた郵便物の名義と、妻の会社社長の名義が同じだった。
そこに出入りする人の写真も見た。
そこに写っている女性、それが赤坂だった。



妻のDVDでの俺へのメッセージ、その中で妻は言った。

「探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください」

それを聞いた当初はその映像から受ける衝撃で何も考えられなかった。
妻が男に跨りながらDVDを通して俺への決別のメッセージを残している。
気が狂いそうなほどの衝撃、そして嫉妬、言葉に表すことのできないほどの感情が入り混じり、目の前が真っ暗に見えた。
そして妻からのメッセージが何度も頭の中を駆け巡った。
そして一つの疑問が浮かんだ。
なぜ妻は俺が探偵に依頼をしていることを知ってるんだ?
妻に男達が言わせてるとして、なぜ男達は探偵のことを知ってるんだ?
その疑問の答えを考える中、一つの糸のようなものが見え始めた。

探偵のことなど誰にも言っていない。
もちろん、こんなことを相談できる人などいない。
そして探偵の話を思い出した。

「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。」

同僚の方2人。
ということは、同僚2人は少なくとも妻のことで何かを聞かれたことは確かだ。
探偵に詳しい話を聞くと、自分が探偵だとを名乗ったわけではないから自分が探偵だとは気付かれていない、そして典子の直接的な関係がある人への聴取はその2人だけだとの話。
同僚2人がそれで探偵だと気付いたのかどうかは定かではないが、男達に探偵のことが知られているとしたらそこしかない。
そして同僚2人が聞かれたことを社内で誰かに話したとしたら、会社の人間は知っていることになる。

そして探偵に相談した。
これからは妻の会社の人間を張ってほしい。
今できる唯一の可能性はそこにしかなかった。
そしてその時点で自分ができる最大限のこと。
男達の警戒を解くために、探偵は今週いっぱいで止めるとの情報を赤坂に話した。
それで油断したのか、元々探偵に知られるのを警戒していなかったのかわからないが、すぐに繋がりがわかった。
会社から出てきた一人の女性が行った場所がそのマンスリーマンションだった。
そして同じマンションの住人の話によるとそのマンションから妻らしき女性が出てきたところを見たとのこと。
何も知らない住人の話がどれだけ信用できるかはわからない。
だがそこに何かがあることはわかった。
その報告があったのは昨日の夜だった。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは8array(8) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “420” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(28798) “太陽が照りつけ、見ているだけでも暑い日差し。
その中を家に向かって走る車。
助手席に座っている探偵に言う。


「俺どうなるかわからない。」


探偵は俺がマンションの部屋から出てきてから一言もしゃべっていない。
外にいても中からの音で何が起こっていたのかはわかっているのだろう。
いや、今は何も聞くべきではないと読んでいるのかもしれない。
そうであれば気の利く男だと思った。


「お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ。もちろん、今の状況はわかるのですが・・・」


おれ自身が損をするか・・・。
さっき俺がやったことも警察沙汰になってもおかしくない。
そして俺がこれから理性を抑えられないことでもっと酷い結果を生むかもしれないこともわかっていた。
もし警察沙汰になれば勤めている会社にも知れるだろう。
それでもよかった。
法律や常識の通用する相手ではないことはわかっている。
そいつらに常識という盾をもって戦っても勝てるわけがない。


「心配ありがとう。でも今どうにかしないと後には戻れないんだよ」



俺は何かに試されていたんだろうか。
旦那としての資格が俺にあるのかどうか。
だとしたら俺はもう旦那失格なのかもしれない。
今起きていることの現実感のなさにそんなことを考える。

これは全部夢で、朝起きたら妻は朝食を作っていつも通りに「おはよう」と言ってくれるんだ。
でもその夢を覚まし、いくら眠りから覚めようとしても起きれない。
自分ではどうにもならない。
どうしていいかわからない。
ずっとこの嫌な夢を見続けなければならない。
俺は夢の中でそこがどこなのか考えても見つからず、先にも進まず後ろにも戻らない。
このままじゃ永遠に同じ夢の中にいなければならない。
そして一つだけある扉。
その先に光が待っているのか闇が待っているのかわからない。
それが怖くて避け続けてきた扉。
もっと早くに開けてたら良かったのだろうか。
見えない扉の向こう側を恐れていた自分が酷く弱い存在に思えた。
それでももうその扉を開けなければ自分はその場所で力尽きてしまう。
自分は試されているんだろうか・・・。
そんな感覚だった。



車は家に一番近い交差点に差し掛かった。
赤信号で停まっている車。
この信号が青になれば左折し、ものの1分もかからずに家に着く。
探偵がポツリと言う。


「ええ、探偵である自分にはわからないことです。ただ、このような場面に何件か立ち合わせていただいた経験から一言だけ、冷静さも必要です。」


冷静に考えないといけないこともわかっている。
それでも今のこの心の底から湧きあがる感情が最も必要だった。
自分の性格もわかっている。
ある程度の理性は働いている。
それが冷静さだろう。
それでもその理性が吹っ飛ぶことは理解していたし、それでもいいと思っていた。



信号が青になり、車を発進させる。
だんだんと家が近づくにつれ、心臓がバクバクと響くのがわかる。
さっきのマンションにいた男達は怯えていた。
まさか俺が来るなんて思いもしなかったのだろう。
しかし今度は俺が来ることを知っている。
妻と一緒にいるその男は家で何をしようとしていたのだろう。
家主である俺がいないときに妻と一緒に家に入り込む男。
考えるだけ憤りと早く家に行かなければという思いが募る。


家が見えてきた。
家の前にはワンボックスカーが止まっていた。
俺の家に確実に俺の知らない男がいる。
我が物顔で俺の家で何をしているんだ。
車を駐車場に前向きに停めた。

そして急いで車を出る。
助手席に乗っていた探偵も一緒についてきた。
今度は俺の家だ。
玄関のドアを開けるが鍵が掛かっていた。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。
手が震えて鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかない。
自分が動揺しているのがわかった。
鍵を開け、ドアを開く。
玄関には知らない靴が4足あった。
男物の靴が4足。
4人も男がいるのか。
そしてもう一足、妻の靴もあった。
中からは何も音がしない。
靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。



エアコンで冷やされた涼しい空気が中から出できた。
ソファに一人座っている男がいた。


「やあ旦那さん、はじめまして。」


スーツに短髪の男。
冷静な目つきで俺を見ている。
こいつが主犯か!
探偵と2人で入ってきても俺が旦那だとわかるということは俺の顔も知っているということか。

周りを見る。
ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男が一人。
そしてその横に立っている体格のいい男が一人。
手に持っているものが目に入る。
ビデオカメラ。
今まさにビデオカメラで俺を撮っているのか。
人の家で家主を馬鹿にしているのを楽しんでいるかのような薄笑いした男が。


「何を撮ってるんだ!」


俺は冷静を心がけて叫んだ。
しかし男は無言で本格的にカメラをまわし始める。
カメラのレンズを通して俺を見ている。
俺を挑発するかのように。


「はじめまして旦那さん、今日はお邪魔してます。」


その時ソファに座っていた短髪の男が立ち上がって俺に挨拶をする。

人の家に勝手に上がりこんでおいて何がお邪魔してますだ。
それでも冷静に聞く。

「妻はどこだ?」



「典子ですね、典子はそこにいますよ。」


男がキッチンを指差す。
ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに人影があった。
この家を建てるとき妻が希望したカウンター形式の間仕切り。
キッチンで皿を洗いながらリビングにいる人と会話でき、テレビも見れる今風の作りだ。
私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
家を建てるときにそう話していたのを思い出す。

そしてその間仕切りの向こうを見る。
妻だった。
うつむいた様子の妻。
家では見たことが無いワンピースを来ている妻。
そして妻のすぐ後ろに男が立っていた。
これで4人か。

妻を見ながら叫ぶ。


「どういうつもりだ!?」


しばらくの沈黙の後妻が口を開く。


「ごめんなさい。」


「ごめんなさいじゃ何もわからないだろ!この状況は何なんだ!ここをどこだと思ってる!」
憤りを抑えきれない自分がいた。


長髪の男が言う。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください。」


「とりあえず初めから全部説明しろ!」


「今日は旦那さんに会うつもりでここにきたのではないのですが、さっき電話であなたが乗り込んできたとの話があったのでそろそろ潮時かなと思いましてあなたをお呼びしました。」


「じゃあ何をしに来たんだ!それに俺を呼んだだと?ここは俺の家だ。」


「ええ、わかってますよ。・・・ですから、今日はあなたに全てお話しようと思いましてね。」


男が話始めるのを待つ。


「私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります。」


AV制作会社だと?
典子はAV女優ということか?
俺は今までずっと妻に騙されていたのか?
男の言っていることが真実か嘘かはわからない。
だが顔では冷静を装えても心の中では動揺が隠せなかった。
それと同時に怒りが込み上げる。
それに旦那である俺に対して「典子」と呼び捨て。
その時点で俺も心底馬鹿にされていることはわかった。
今までさんざんDVDを送ってくることからわかってはいたが、目の前にいる旦那に対してもその話し方。

男はそのまま話を続ける。


「AVと言ってもその辺にあるAVとはまた違ったものでしてね、ああ、無修正という意味ではありませんよ、あなたがた一般人は買えないような特別な流通をしているAVのことです。
1本2時間ものの販売価格が10万以上するものでして、内容により価格が上がっていくという仕組みをとってます。
なぜそんな価格でAVが売れるかわかりますか?
・・・お金を出してでも見たいと思わせる内容だからです。
お金を出してでも見たいものに対して、金に糸目をつけずに購入する層、つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。
お金持ちというのは大変なものでね、お金でできることはすべて経験してしまうんですよ。
車、家、海外旅行、好きなときに好きなことをする生活をしていると手に入らないものを手に入れたくなる。
それでもそんなに多くはいませんよ。」



「だから抱きたいと思った女を金で抱こうとするのか?
人の妻でも関係なしに金で何とかしようとするってことか!」


「いいえ。人間の欲望とは恐ろしいものですよ。
一種の例えですが、あなたがただぼーっと街中に立っていて、ただ目の前に好みの女が歩いていたら「あの女を抱きたい」と思うでしょう?
それでも金持ちというのは冷静で常識的なんです。
地位は保証されてますからね。
だから金にものを言わせてその女性を抱くなんてことはしません。
自分でリスクなんて犯さないんですよ。」


「つまり、金持ちが好きになった女にお前らみたいな下っ端がちょっかいをだすと?」


「違う。そんな下品なことはしない。
その女性に対してはかなわぬ夢です。
ただね、商品としてあるものに対しては恐ろしく貪欲なんです。
普段見れないAVを見れるとしたら・・・。
ビジネスチャンスがここにあるんです。
どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。
そういうことをしている会社です。
絶対に普通のAVにはないことです。
まあ、それはご自分でご覧になったからわかるとは思いますが。」



人の妻で遊び、その旦那をおちょくる。そのすべてを撮影したビデオテープ・・・。ということか。



「う~ん、名前は伏せておきましょうか、Sという男、彼が彼女を私のところに連れてきましてね。
その時典子の写真をいくつか見せてもらいまして、これはMの資質があると見ましてね。
その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました。」



頭の中が整理できなかった。
現実に起こっていることとは思えない話に自分はおちょくられているだけなんじゃないか?


「人の妻であり、子供達の母親であるということを理解してそういうことをしていたのか?」



「もちろん。じゃなかったら価値はない。
人妻だから価値があるんですよ。
旦那もいて子供もいて幸せな人妻だから。」



幸せな人妻だから・・・。
幸せを奪うことで自分達の利益を確保しているってことか。
男達の私利私欲のために壊された自分の家族。
こいつらの話を聞いているとどんなに平静を装っても次の話を聞くたびに冷静さを保つのが難しくなる。


「それがどういうことかわかってるのか?
倫理的にも、それに俺がお前らを訴えたらお前らがどうなるかわかってやってるのか!」



「まあまあ、もともとSという男が典子を気に入り、一方的に好意を寄せていたようですが、なぜか身体の関係も持っていたようです。
もともとあなたの奥さんは旦那であるあなたの以外の男と関係を持っていた。 だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。 それはわかってください。」


典子を見る。

「本当か!?この男の言ってることは本当か!?」

怒鳴り散らすように典子に問いかける。

典子は俯いたままだ。
更に典子に訴えかけるように聞く。

「おい、事実じゃないのなら否定しろ!お前自身のことだろ!」


典子は一瞬俺のほうを見て、そして頷いた。
まだ妻から聞くまでは本当のことか男達のでっち上げた話なのかわからなかった。
そしてそれが唯一の気休めだった。
しかし妻自身がそれを否定した。
妻は他の男と関係を持っていた・・・。


「本人も認めてる通り、Sと性的関係があった。
どういう経緯で関係があったのかは知りませんが恋愛関係ではなく身体の関係ということです。」



「いつから?」


典子が口を開く。

「あなたが転勤になる少し前から・・・」



「相手とはどういう関係で?」


「前に務めてた会社の取引先の人で、飲みに誘われて、、、断れなくて・・」
妻は涙を流しながら言葉を詰まらせた。


「断れなくてセックスしたってことか?どういうつもりだ!断れないのはお前が弱いだけだろ!」


「飲みにいかなかったら、、私の所為で会社との取引に影響が出るって言われて・・・」


「そんなこと知るか!お前は何のために働いてるんだ!家庭の為だろ!」


「もちろんそんなことする気はなかったけど、帰り際にに断ったら、、私の会社での居場所も無くなるから」
典子の目からどんどん溢れ出てくる涙。


男が口を開く

「旦那さん、典子にそんなことを言わせるもんじゃありませんよ。
まあ彼から聞いたことを簡潔にいうと、彼は取引停止をチラつかせて典子を飲みに誘い、何回目かの酒の席のあとで典子に言い寄ったようです。
男だからそういう下心はありますよね。彼も同様に典子を女性として見て、飲みに誘うのと同じように典子の身体を触ったそうです。
典子も仕事先、そしてあなたに対する罪悪感に耐えられなかったのでしょう。
でも男は逆にその罪悪感を利用し、言葉巧みに関係を強要しました。
関係を持てばもう楽になれる、1回男とセックスをすればもうこんなにつらい日々が終わるとでも言われたのでしょう。それで関係をもった。そうだろ?典子」


涙を流しながら無言で俯いている典子。


「ところがその男は1回じゃ終わらなかった。そりゃそうでしょう。男にとっては1回やれば2回も3回も同じ。一度やった女ならまたやらせてくれると。
それでも典子は抵抗したようです。でも1回関係した事実は消えない。典子はどんどん追い込まれる。旦那や子供達家族への裏切り、所属する会社への本当に言い逃れのできない行為。
苦境から逃れたいが為に自分の感情を捨て、男に抱かれるようになる。
そしていつしか快楽を感じ始める・・・人間、弱い部分から付け入れば誰だってそうなります。」



「その関係した時期に撮られていた写真を持ってSは私たちのところに来ました。
紹介者には報酬が出ます。おそらくSは仕事柄金持ちとの繋がりで私たちのことを知っていたのでしょう。
しかしSは報酬目当てではありませんでした。
典子に飽きたわけではなく、典子でもっと興奮を得たいと思ったのでしょう。
心も何もない身体だけの典子を好きにコントロールしていると勘違いしていた愚かな男。
私たちからしたら過去はそれほど関係ない。金になるかならないか。
そういった典子の経緯からも素質は十分に見抜けました。
Sには通常の倍の報酬を与える代わりに典子との関係の一切を切らせました。」



男の口から語られることが事実とは思えなかった。
それでも典子は話が進むに連れて大泣きしている。
本当のことなのか・・・。


その時ずっと後ろで話を聞いていた探偵が話をしだした。



「私、旦那さんから依頼された調査会社のものです。
今の話をお聞きしておりましたが、もしそれが事実であるとしたら少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。
わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です。
それはわかっておられるのですか?」


男が言う。


「探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。
しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか?
典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?」


探偵が答える。

「ええそうです。
典子さんはそのSという男に無理やり行為を持たされ、そしてあなた方は金を出して典子さんを譲り受けた。
これは売春にもあたります。そしてその後も典子さんの意思と関係なくAV女優という行為を繰り返させた。」


探偵には今までのDVDは見せていない。
それでも男達の威勢を抑えるために法律という武器を提示しているのだろう。
こいつらに法律なんか通用しない。
それでも味方になってくれる姿勢が嬉しかった。


探偵と男の話を遮るように聞く。

「なぜ妻でなくてはならなかったんだ!
AV女優を使ってAV撮影すればいいだけの話だ。 いくら男が連れてきたからってなぜ普通に生活してる妻をターゲットにした。」



「普通に生活している妻・・・だからですよ。
典子は普通に生活している平凡な人妻、幸せな家庭があり、AVなどの裏の世界とは無縁の女。
それが外見でも十分に判断できる。
だからこそ興奮するんですよ。うちの客達がね。
AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。
そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?
AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ。
そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと。
あなたは気をわるくするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます。もちろん住所も。
作ったものではなく、それだけの事実を映像に残しているだけ。
でもそれだけに典子の全てがわかるんです。
本当の姿だから。
ファンも大勢いますよ。
典子と会いたいという話もたくさん来る。
金に糸目をつけない連中がね。」



すべてを撮った映像?
今この会話を撮っているカメラを見る。


「まさか今この場で撮影してるのも売るってわけじゃないだろうな!」


男は言う。
「もちろんそのつもりです。」


すると今まで黙っていたテーブルの椅子に座っていた男が口を開いた。

「その辺にしておけ。」

ソファに座っている男がそれに反応して押し黙った気がした。
椅子に座っている男がボスみたいなものなのか?



しかし湧き上る殺意を抑え切れなかった。
体が勝手に動き出す。
それを予測してか、探偵が俺の体を手で押さえる。
明らかに顔色が変わっていたのだろう。

「冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。
今の話はすべて録音してます。
今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。
外に停めてある車のナンバーも全て記録してます。」


冷静になれというほうが無理だ。
それでも俺は冷静でいなればばならないのか。
頭の中で正しいこと間違っていることの判断がつかない。
むしろそんなことはどうでもよかった。
そして探偵が男達に聞き始めた。




「いくら紹介者がいようと無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。
あなた方には反論の余地は無いはず。
典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、
こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう。
この場でどう落とし前をつけるか旦那さんと話をするべきです。」



男が探偵に言う。

「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。
ただ典子の意思はどうでしょうね。
あなたが思ってるほど純粋な世の中じゃないんだよ。
典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね、旦那さん、あなただけだ。
典子の意思が確認したい?
じゃあ今この現状はどう説明する?
旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。
そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。
それが答えだ。
わからないなら見せてあげよう。」



そうして男は妻の方を見る。
すると妻の後ろに立っていた男が動き出した。
妻を後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始めた。
まるで目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように。
乳房の形を確かめるように撫で回す。
しかし妻は抵抗をしなかった。
ずっと俯いたまま、まるで俺や探偵がそこにいることを知らないかのように、
そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということが記憶から消し去ったかのように。
それを目の当たりにして頭の中が真っ白になった。
妻が目の前で男に好きにされていること、それを拒否しないこと、何がショックなのかすらわからなかった。
妻を弄っている男は妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にした。
気が動転した。
探偵にも妻の裸を見られた。



頭に血が上った状態だったのだろう。
ソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
男が抵抗してきたがそれでもお構いなしに殴り続けた。
こいつは殺していい。
男はガードをするがそれがないところを殴りまくった。
探偵が止めに入る。
探偵だけではない。
他の男も止めに入っているのだろうか。
自分がどんどん取り押さえつけられるのがわかる。
腕を押さえられたら足で男を蹴る。
俺はこいつをできるだけ殴らなければ・・・。
すると取り押さえられた俺に今度は男が殴り始めた。
顔から血が出ている男が俺を。
探偵がその男を止めようとしているのが見える。
俺はこの男を殴る理由がある。
なぜこの男は俺を殴るのか。



「もうやめろ」



椅子に座っている男の声だろうか?
その声がしているのだけはわかった。
どんどん目の前が白っぽくなり俺は気を失った。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [6]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “419” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(14051) “「・・・なんでここに・・・」


赤坂は自分がどうすればいいかわからないかのように俺に質問した。
赤坂は裸にバスタオルを巻いた状態だった。
手で胸の辺りを押さえ、バスタオルが落ちるのを防いでいる。
慌てて取り繕ったのだろうか?



「なんでじゃないだろ、どういうことだ赤坂」


黙り込む赤坂。
男の声がした。


「誰だお前は、赤坂の知り合いか知らんが勝手に人の家に入ってきて何してる。警察呼ぶから待ってろ。」


男が携帯電話をポケットから取り出す。

すると赤坂が言った。


「この人は典子さんの旦那さんです。」


男のポケットから携帯を探す仕草が一瞬止まった。
俺の顔を見る。


「典子の旦那って・・・なんでここにいるんだ!?」


どうやらこいつがここを仕切っているらしい。
男が何かを言おうとしている中、それを遮るように大声で言った。


「どういうことだ!」


男はたじろぎながら口を開く。


「どういうことって・・・そっちこそどういう・・」


男の震えるような声にイライラしながら言う。


「どういうことだって聞いてんだよ!典子はどこだ?今すぐつれて来い!」


男は俺の顔を見たまま固まっていた。
ベッドの上の男女、そして赤坂も何も言うことなく、ただ固まった時間が過ぎた。


「典子は、ここにはいない。今日は社長と・・・」


「社長?お前の会社の社長は人の妻をかっさらって何してんだ!どんな会社なんだここは!!」


「俺もよく知らないんだ。典子は最近はほとんど見かけていない。社長が直々に・・・。」


明らかにその先の言葉に詰まった感じだった。


「直々になんだ?」


男が考えながら話し出す。


「社長と一緒の仕事が多くて、ずっと見てない。」


「だったら社長をここに呼べ!今すぐだ。」


「今どこにいるかわからない。社長は忙しいから・・・」


その言葉を遮るように言う。


「だから今すぐ連絡取れって言ってんだよ」


そういいながら足元にあったティッシュの箱を蹴り飛ばす。
飛ばした箱は男の足元に当たり、転がり落ちた。


「ああ、わかった。すぐ電話する・・・ちょっと待っててくれ。」


男が携帯電話を手に取り、電話を掛け始める。
明らかに怯えた表情でどうしていいかわからない様子の男達。
そりゃそうだ。
人の妻を寝取っておいて、その旦那が突然踏み込んできたとなればビビるに決まってる。
こいつらの趣味なのかなんだかわからないがこの異様な空間で自分だけがまともな人間だという感覚だった。
裸でバスタオルを巻いている赤坂、この女がいったいここで何をしているのかもわからない。
ただ裸でいることからしようとしていることはわかる。
それでもそれはどうでもいいことだった。
自分がたどり着くべき先は妻だけだ。

男の掛けた電話が繋がったようだった。


「あ、社長、その、旦那が、典子の旦那が部屋に来てるんですけど・・・」


明らかに弱腰の男だった。
こんな男に呼び捨てにされてること事態が腹立たしい。
湧き上る怒りを抑えながら電話の話を待つ。


「それで、旦那が今すぐ典子を連れて来いと・・・」


典子を連れて来い、こんな言葉を俺の目の前で話すほと礼儀も常識も無い男。
今までされてきたことを考えれば常識なんて通用しない奴らなのはわかりきっている。
それでもそんな下衆に妻がいいようにされていると思うとはちきれそうな感情が湧き上る。


「ええー、それは・・・今この状況では・・・はい、すみません。わかりました。では今から・・・」


そう言って男は電話を切った。


「あの、社長が・・・今社長と奥さんが一緒にはいないらしくて、典子さんがいる場所を教えるから旦那さんがそこへ直接来いとのことで・・・」


人の妻と一緒にいるからその旦那である俺が直接来いだと?
何様だ?


「ああー?立場わかってんのかてめぇ!」


その言葉を発すると共に体が勝手に動き出し、左手で男の胸倉を掴み顔を力一杯引き寄せた。
今にも殴ってしまいそうなほど右の拳を握り締めた状態だった。

するとベッドの上で女と重なっていた男が全裸でこっちに向かってきた。


「ちょ、ちょっと、やめましょう。ちゃんと話を聞きましょうよ・・・」


この空気の中全裸という滑稽なその男の言葉を聞き終わらないうちにその男の顔を右の拳の裏で殴った。
思いっきり力をこめて殴った。
もう理性だけで我慢できる限界を突破していた。
この部屋中をめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな衝動が抑えられなかった。
顔の真ん中を思いっきり殴られた男はベッドの傍でうずくまっている。

胸倉を掴まれたままの男が口を開く。


「お、落ち着いてください。もちろんこちらはあなたにこんな偉そうなことをいえる立場ではありません。ただ私達も社長には逆らえないんです。わかってください。」


わかってくださいだと?
自分達がやっていることを棚に上げてわかってくださいだと?
人の妻を散々使いまわし、旦那の俺までも馬鹿にしてきたこの糞共が何を言ってやがる。


「お願いします。私達にできることはもう無いんです」


男は目に涙を浮かべながら話す。
こんな弱い男に妻はいいようにされてきたのか?
何か弱みを握られたにせよ、妻の意思にせよ、何もかもが悔しくて堪らなかった。
もうこの男に何を言ってもだめだ。


「どこに行けばいいんだよ」


苛立ちを抑えられない声で男に聞く。


「あの、こんなことをお願いするのは無理な話ですし、怒らないで聞いてほしいんですが、奥さんは・・・」


自分にだけは危害を加えないでくださいとでも言わんばかりの言い回しだった。
そんなものはどうでもいいから早く場所を言え。
その感情を押し付けるように男の顔の前で大声で叫ぶ。


「何だよ!」


男は目をそらしながら俺に言った。


「あなたの、あなたの家にいるそうです。うちの社員と一緒に」


思いもよらない答えが返ってきた。
頭が真っ白になりそうな時間だった。
ずっと帰ってない妻が、家に戻ってきてる?
どういうことだ。
ん?
社長と一緒じゃないと言ってたな。
社員と家に戻ってきてる?
頭の中がしばらく整理できなかった。

俺が数秒の間動かなかったことで、ご機嫌を取ろうとしてたのか男が口を開いた。


「でも子供さんたちは今外出中らしくて」


俺がその言葉を聞けば安心するとでも思ったのだろうか。
俺と妻と子供2人が生活している家、その家に社員と2人?
社員が男なのか女なのかすらわからない。
その状況だけでもおかしくなりそうなんだ。
何が何だか整理ができない。
明らかに自分がおかしくなりそうだった。
子供たちがいないから安心しろってことか?


「その言葉で安心しろってか!?」


そう叫びながら男の胸倉を掴んだ手をそのまま窓の方に思いっきり押し飛ばそうとしていた。
そのまま窓を割り、ベランダを越えて下に落としてもいいと思った。
無意識に全身の力を込めて男を窓ガラスに叩きつける。
窓ガラスの割れる音と共にガラスが散乱し始める映像が見えた。
もう精神がおかしくなりそうなほどだった。
自分の理性を保てなかった。
散乱するガラスの上に男は倒れている。
しかしその目は俺を見て怯えているようだった。
スーツを着ていた男に怪我は無いらしく、起き上がろうとしている。
それでも外傷がないだけで体は痛んでいるはずだった。
逃げようとするのだろうか。
しかし男は立ち上がるとベランダの隅に立ち尽くし、俺の方を見ている。


こんな糞な男に馬鹿にされていたのかと思い涙が溢れ出てきた。
もうここには用無しだ。
そして俺の行くべきところは自分の家。
家族の住む自分の家。
体に蓄積された涙がすべて溢れ出てくるかのようだった。
その涙を服の袖でふき取る。
そして部屋を出ようと後ろを振り返り、歩き出す。
視界の左下に映る女性。
赤坂。
何もなく立ち去るわけには行かない。
自分のしていたことの意味がこの女にわかっているのだろうか?
バスタオルで身体を覆っている赤坂の目の前に立ち尽くす。
落ちないように手で押さえているバスタオル。
そのバスタオルを力ずくで奪い取り、その場に投げ落とす。
赤坂は力を入れて抵抗したが、その前にバスタオルはすべて剥ぎ取られた。
露になる赤坂の全裸。
この男受けするスタイルでここの男達と遊んでいたのか。
赤坂は屈みながら手や腕を使って俺に裸を見られないように必死に隠す。
何を隠してるんだ。
妻はすべてをDVDで男達の前に晒されたんだぞ。
お前だけがなぜ女の体裁を守ろうとしてる!
赤坂の腕を掴み、立ち上がらせ、両手首を掴み、壁に押し付ける。
力ずくで押し付けられた反動で赤坂の胸が揺れる。
隠すことができずに俺の前で露になる裸。
まさか俺に裸を見られるなんて思いもしなかっただろう。
この女こそ俺を馬鹿にした元凶じゃないのか。
あんなに親身になってくれたと信じていたこの女、裏切られたことに実感が湧かないほどだ。
男達に言われていたとはいえ何も無かったことになると思うな。
赤坂の頬を右手で一発張った。
赤坂は何も言わず張られた頬を痛むわけでもなくただ右下を向いている。
手に込められた力も抜けた。
赤坂を壁に押し付けていた腕の力を抜く。
力なく座り込む赤坂。

俺はバスタオルを再び手に取り、赤坂に向かって投げつけた。
そして玄関に向かって歩き出す。
ガラスの割れた音で近所の人が警察を呼んだりしているのではないか、あれだけ大声で散々わめき散らしたんだ。
それでも不思議ではない。
外で待っている探偵はどうしているだろうか。
たった5分にも満たないこの時間が長く感じた。
もう元には戻らない。
妻がどうしているのかと心配するここ最近の日々はもう来ない、そこから進むことも無ければ戻ることもなかったあの悶々とした日々は。
なぜなら俺は前に進んだからだ。
男達にこちらから踏み込んで行った以上、決着をつける。

そして探偵と共に、自分の妻と誰かが一緒にいるという、自分の大切な家族の家へと向かった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “418” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(12940) “翌日の月曜、有給を取り、ある場所へ向かった。
そう大きくはないマンションを見上げる。
マンスリーマンションとのことだ。
中に人がいるのかどうかすらわからない。
ただここに来なければ何も進まない。

付き添ってもらっている探偵には十分な証拠を持ってきてもらっている。
もちろんDVDのことは言っていない。
探偵と共にマンションの205号室へ向かう。
角部屋のようだった。
部屋のドアの前に立つ。
もしかしたらここに妻がいるのかもしれない。
そう大きな部屋ではないはずだ。
外観の大きさを見てもワンルームマンションのような感じだろう。


ドアを開こうとドアノブに手を掛ける。
音を立てないようにドアを開け、一気に中に入り込むつもりだった。
インターホンを鳴らす気など無い。
インターホンを押して事情を説明しろだの、宅配便の振りをして中の様子を伺えなどの探偵の助言もあった。
だが何も考えず、ただ中に突入することしか考えていなかった。

ドアノブを動かし手前に引こうとしたとき、中からかすかな声が聞こえてきた。
女の声だ。
まさか、妻か?
耳をすまし、音を聞き入る。
明らかな女性の淫音だった。
自分の心の中に動揺があるのは事実だった。
妻がこの中でDVDのようなことをしている可能性もある。
それでもそれをぶち壊すために自分はここにきたのではないか。
考えるほど動揺が増すばかりなのはわかっていた。
その動揺が大きくなる前にドアを開ける。
音を立てないように手前に引く。
ドアノブを握る自分の手に汗が噴き出しているのがわかる。
ドアが開き、少しずつなかの様子が見えはじめる。
鍵は掛かっていない。
中を見る限りチェーンのようなものもしていない。
中から響く女性の声がはっきりと聞こえる。
10cmほど開けたドアから中を見る。
ワンルームの部屋、バスルームらしき場所、キッチンらしき場所、その奥にドアがあった。
玄関には靴が5足あった。
男ものが3足に女物が2足。
この家の借主の靴が何足かあるはずだ。
中に何人がいるのかはわからない。
ただ男一人と女一人は確実にいるだろう。

自分の心音が自分で聞こえる。
全身が脈打ち、もう前に進むしかない状況だった。
後ろにいる探偵の顔を見る。
探偵は真剣なまなざしで自分を見ている。
事前に、自分が中に入るから探偵は外で待っていてくれとお願いしておいた。
探偵はちゃんとインターホンを鳴らして話をするべきだと言ったが、それは拒否した。
今までの状況がわかっていないやつが何を言っているんだ。
一般的に考えたら探偵がつけた目星というだけで突然ドアを開け、突然中に突入したらどう考えても犯罪だろう。
だが自分にとってはそんなことはどうでもよかった。
考えることによって自分の今の気持ちが削がれる要素、それはすべて遮断した。

探偵の顔を見ながら頷くように今から行くと合図をする。
探偵も覚悟をしたかのように頷き返す。
視線を部屋の中に戻す。
中からは相変わらず女性の声が聞こえている。
妻をあんな風にした男達。
原因は自分にもあるのかもしれない。
だが今はそんなことは考える気は無かった。
すべてあの男達が仕組み、自分の家庭を半ば崩壊状態へと持ち込んだのだ。
ただ平凡な幸せがあったはずの自分の築いてきた家庭。
それを弄ぶように壊しにかかってきている敵。
守るべき娘、息子、そして妻。
自分は今自分の家族3人の為に戦う。
中で何が起きようと、自分がどうなろうと、守るべきものの為に動く。


ドアノブを一気に引き、中へと入る。
玄関にある靴を踏み、土足で上がりこむ。
3mほどの距離、電気がついておらず、窓も無く薄暗い空間のその奥にあるドアに向かって歩く。
まだ玄関のドアは閉まっておらず、ドアの閉まる音もしていない。
音がしないようゆっくりと閉まるタイプのドアだった。
まだ中のやつらも俺の存在には気付いてないだろう。
2秒もかからないほどの時間だっただろう。
奥のドアノブに手を掛ける。
その時ようやく玄関のドアが閉まる音がした。
中の奴らももう誰かが中に入ってきたことは気付いただろう。
それと同時にドアを開ける。

ここを開けたらどんな光景が待っているのかわからない。
少なくとも女の淫らな声が聞こえていることから想像はつく。
もちろん中で何を話すかなんて何も考えていない。
ただ勢いで中に突入するだけだった。
開くドアがスローモーションのように感じる。
中は外光が差し込んでいるらしく、その光が薄暗い玄関の方を照らし出す。
まるで自分を照らし出すかのように。
覚悟は決まってる。

ドアを開け放ち中からの光がすべて自分へと引き付けられているような感覚がした。
全てが1秒もしない間のことだった。
それでもコマ送りのように鮮明に覚えている。
そしてその光の中、部屋の奥にある大きな窓が目に入る。
その視界の両端に人の気配を感じる。
右側は人間の肌の色が大きく見える。
おそらくベッドの上だろう。
視線を右下に移す。
妻だったら・・・妻だったらどうしよう。
左側に一人、ベッドの上に2人。
少なくとも3人はいる。
いや、ベッドの横、部屋の角にあたる場所にも一人座っているいるようだった。
4人。
妻ではないことを祈りながらベッドの上を見る。
男の背中が大きく見えた。
その下に女性がいるらしい。
女性の足が男の腰の辺りから見える。
視線を頭の方へ移す。
首から顎、唇、鼻・・・目・・・そして顔全体がはっきりと自分の目に映し出された。
心臓がはち切れそうだった。
他のものは何も目に入っていない。
他の3人よりも、その女性が妻なのかそうでないか。
それだけを確かめるべく、女性の顔を見た。
自分の頭の中で何度もその女性と、自分の知っている妻を重ね合わせる。
自分の妻が他の男と重なっているところなんて見たくはない。
そういうことが好きな男性もいるのは知っている。
だが自分の人生まで壊されかねない現状では、ただそれが妻ではないことを確かめるのが怖く、気が遠くなりそうな感覚だった。



男の下になっていた女性・・・それは妻ではなかった。
見たこともない女性。
妻なのかそうではないのかということだけにしか頭を使いきれていなかっただけに、妻ではない安堵よりも自分が何をしているのか分からなくなりそうだった。
妻ではない。
じゃあこの女性は・・・DVDに出てた他の女性?
その女性はようやく自分の存在に気付き、こっちを見ている。
その上を見ると男が驚いた顔で自分を見ていた。
窓の左側に立っていた男性もこっちを見ていた。
黒っぽいスーツを着ている男性。
ベッドで絡み合っている全裸の男女。
そして思い出したようにベッド側の部屋の角に座っている人を見る。
思わず声が出た。


「は・・・赤坂さん・・・」








妻の居場所らしきところがわかったという報告が探偵からあったのが昨日だった。
「どうやら奥さんの会社の社長名義で借りられているマンションが候補としてあがってます。」
それから今朝探偵に会い、直接根拠を見せてもらった。
写真で確認する限り、その部屋に届けられた郵便物の名義と、妻の会社社長の名義が同じだった。
そこに出入りする人の写真も見た。
そこに写っている女性、それが赤坂だった。



妻のDVDでの俺へのメッセージ、その中で妻は言った。

「探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください」

それを聞いた当初はその映像から受ける衝撃で何も考えられなかった。
妻が男に跨りながらDVDを通して俺への決別のメッセージを残している。
気が狂いそうなほどの衝撃、そして嫉妬、言葉に表すことのできないほどの感情が入り混じり、目の前が真っ暗に見えた。
そして妻からのメッセージが何度も頭の中を駆け巡った。
そして一つの疑問が浮かんだ。
なぜ妻は俺が探偵に依頼をしていることを知ってるんだ?
妻に男達が言わせてるとして、なぜ男達は探偵のことを知ってるんだ?
その疑問の答えを考える中、一つの糸のようなものが見え始めた。

探偵のことなど誰にも言っていない。
もちろん、こんなことを相談できる人などいない。
そして探偵の話を思い出した。

「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。」

同僚の方2人。
ということは、同僚2人は少なくとも妻のことで何かを聞かれたことは確かだ。
探偵に詳しい話を聞くと、自分が探偵だとを名乗ったわけではないから自分が探偵だとは気付かれていない、そして典子の直接的な関係がある人への聴取はその2人だけだとの話。
同僚2人がそれで探偵だと気付いたのかどうかは定かではないが、男達に探偵のことが知られているとしたらそこしかない。
そして同僚2人が聞かれたことを社内で誰かに話したとしたら、会社の人間は知っていることになる。

そして探偵に相談した。
これからは妻の会社の人間を張ってほしい。
今できる唯一の可能性はそこにしかなかった。
そしてその時点で自分ができる最大限のこと。
男達の警戒を解くために、探偵は今週いっぱいで止めるとの情報を赤坂に話した。
それで油断したのか、元々探偵に知られるのを警戒していなかったのかわからないが、すぐに繋がりがわかった。
会社から出てきた一人の女性が行った場所がそのマンスリーマンションだった。
そして同じマンションの住人の話によるとそのマンションから妻らしき女性が出てきたところを見たとのこと。
何も知らない住人の話がどれだけ信用できるかはわからない。
だがそこに何かがあることはわかった。
その報告があったのは昨日の夜だった。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “417” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15940) “眠れるはずもなく、ただ何をすればいいかもわからずに仰向けになり散らかりきった部屋の天井を眺める。
体を動かす力すらないほど精神的ショックを受けていることは明白だった。
浮気どころの話ではなくなった。
俺のことが嫌いなわけでもなく、子供たちのへの気持ちがないわけでもない。
ただ、見ず知らずの男の意思によって考えを変えられ、普通の主婦だった自分の妻が男達の好き放題に使われている。
恋愛などではなく、妻を使って遊んでいるようにしか見えない。
人の妻であり、子供のいる母親を、そのような背景を逆に楽しむかのように。


改めて冷静になって考える。
冷静というよりも心身ともに疲れ果てているのかもしれない。
今まで見てきたDVDのような客観性はなく、俺に対するメッセージを投げかけてきた妻。
あんな言葉を妻に言われる旦那がどこにいるだろう。
考えれば考えるほど頭が混乱し、考えることを止めたい衝動に駆られる。
どうしたら妻に会えるだろうか。
・・・ん?
昨日見たDVDを思い出し、一つの疑問が浮かんできた。
頭が混乱した状態の中浮かんできた疑問。


とにかく妻に会わなければどうにもならない。
電話をかけても繋がらない。
妻に会うには・・・。
妻は失踪してから会社にも行っていない。
・・・・・一つ思い立った糸を手繰り寄せるしかない。


翌日、仕事を午前中で切り上げ、妻の会社へ向かった。
有給ばかり取っていては部下からの信頼も何もないかもしれない。
だがそんなことはどうでも良かった。
夕方に妻の会社に着いた。
インターホンを鳴らす。
自分の名を名乗り、赤坂を訪ねる。


「赤坂さんはいらっしゃいますか?」


少しした後で赤坂が出てきた。


「お久しぶりです・・・」


赤坂はそう言い、会社の外へと出てきた。
赤坂は口を開く。


「あの、奥さん最近休まれてますが、どうかなさったのですか?」


「ああ、ちょっと体調を崩してしまって。それより、仕事終わったら少し時間作れませんか?」


「ええ、あと30分で仕事終わるので、それからでよかったら。」


そう言い、近くの喫茶店で待ち合わせた。

その場で赤坂に失踪の事実を言ってもよかった。
ただ、軽く話すにはあまりも重い話だった。
ただ一つ赤坂に話しておくこと。
赤坂が妻のことで何かを知っているのであればその一筋の光しか希望が無かった。

赤坂の仕事が終わり、待ち合わせの喫茶店に入ってきた。
席に座り、コーヒーを注文する。
俺は分のコーヒーを啜り、口を開く。


「赤坂さん、正直に言いますが、妻が帰ってきてません。」


赤坂は驚いた表情で返した。


「え、帰ってきてないって、どういうことですか?」


「私にもわかりません、見当もつかない。ただ、ここ2週間は妻が家に帰ってないことだけは確かです。帰らないとの連絡を残してから」


「帰らないって言われたってことですか? まさか浮気相手の人と・・・?」


「ですからそれすらわかりません。私としても妻を捜したいが、電話にも出ないし何も手がかりが無い。警察にも探偵会社にも依頼したが手がかりが何もないから捜しようがないみたいで・・・。」


「警察はどうやって捜してるんですか?」


「それはわからない。ただ積極的に探してないことは確かです。そして探偵会社も限界を感じてるみたいで・・・それで赤坂さんなら何か知ってるんじゃないかと思って、こうしてすべてを話したんです。」


「え、知ってるといっても私は奥さんから聞いた話程度にしか・・・浮気相手の名前も聞いてないし、どこで会ってるとかも・・・あ、浮気相手と一緒にいるって決まったわけじゃないですよね、ごめんなさい。。。」


「いいんです、その可能性が高いことは確かです。だからこそ、その相手との話を聞いている赤坂さんにお話を伺いたくて。」


「ええ、もちろん知ってることならすべて話します。ただ、知ってることといっても限られてるから・・・。」


「赤坂さん以外の同僚の方は何か知ってることとか無いんですか?」


「どうだろう、、、でも、私以外の人には多分その話はしてないと思うんですけど。仲良くさせてもらってたので。」


「そうですか、それでその相手のこと、何か知ってることはありませんか?どこに出かけたとか、どれくらいの頻度で連絡してたとか、何でもいいんです。」


「場所ですか。。。特に話してたのは付き合ってるとか恋愛感が合うとかそういう話ばかりで、私もあまり聞いちゃいけないことだと思って詳しくは聞いてなくて、ごめんなさい。」


「場所じゃなくても、出会ったきっかけとか何でもいいんです。現状、依頼してる探偵会社しかあてが無くて、それでも探偵会社に払う費用ばかりが嵩んで、それでも何も進展しない状況に焦ってしまって、こうやって手繰っていこうと思ってまして。」


「探偵会社は何か居場所をつかめそうな情報はあったんですか?」


「何も無いんですよ。浮気してた事実とか、そういうのが何も無い状況だから手探りで探していくしかないらしくて、だから余計に費用も掛かって。」


「そうですか。急には思い出せないんですけど、何か手がかりになりそうなこと思い出したら連絡します。でもまさか失踪してたなんて。この間まで一緒にいた人が失踪だなんて・・・」


赤坂の顔にショックの色が見える。
この間まで一緒に働いていた同僚が突然いなくなったことを知らされたらそれは当然の反応だろう。
しかし頼りにならない探偵会社と、赤坂しか頼れる存在がない今、この女性に何か思い出してもらうしかない。


「ええ、お願いしますよ。実は探偵会社も今週一杯で依頼を打ち切る予定なんです。打ち切るというよりも、週契約でずっと手がかり無しだとお手上げだと。何か手がかりが見つかってから再依頼してもらったほうがいいとの話で。」


「じゃあ、後は警察に頼るしかないんですね。」


「そういうことになりますね。」


赤坂との話で何も得ることはなかった。
それでも探偵会社や警察よりは典子について知っている。
何でもいいから知りたいという気持ちだけだった。




夜、単身赴任先の部屋のソファで横になっていた。
今は待つしかない。
時間がたつのが怖かった。
妻の会社には妻は入院したと伝えた。
軽い病気だからまた連絡するとだけしか伝えていない。
子供たちには妻は2週間ほどの長期出張になると言っている。
突然のことだから不信に思ってることは確かだろう。
妻に電話したりしていないだろうか。
どこから家族が崩れていくかわからない。
何もかもがめちゃくちゃになりそうだ。



その時インターホンが鳴った。
まさか、妻か?
誤りにここまで来たんだろう。
焦燥感と喜びの両方が体中を駆け巡る中ドアを開ける。

「メール便で~す」

威勢のいい兄ちゃん封筒を差し出す。
それを受け取りながら、心臓がドキドキするのがわかった。
配達の兄ちゃんに礼を言い、部屋のソファに座りながら封筒を見る。
差出人は書いていなく、軽い。
中身は紙のようだ。
あのDVDの入った差出人が書いてない配達物が届いたのは昨日のことだ。
同じ人間が送っていることは明白だった。
手紙の封を開け、中身を取り出す。


今度は手書きではなく、パソコンで作られたらしき文体だった。
何が書いてあるのかを読むのに勇気がいる。
一つ深呼吸をし、手紙を読む。




———————————————





はじめまして、典子の所有者です。名前は明かすつもりはありません。
昨日のDVDはご覧いただけたでしょうか?
ご覧いただけたらわかると思いますが、私達は典子を私達の女としていくものとして考えております。 典子もそれに同意しており、複数いる所有物の一人として私のために生きてもらうこととしました。 典子自身もそれを望んでおり、これからの人生をこちらにささげることを喜んでおります。
典子はあなたと出会い、家庭を気付いてきたことに対しては大切な思い出として考えているようです。 今でもあなた方の話をすると泣き出してしまいます。 しかし今後は所有主である私の女として、子供も作り別の人生を生きていくことを決断いたしました。
私達といたしましては、婚姻などの法的なものには興味はありません。 あなた様が婚姻関係を続けたいとのことであればそれでも構いません。 しかしながらそれは手続き上の問題であり、典子の今後は私達と共にあることをご了承ください。
一般の感覚ではご理解いただけないかも知れません。
それに際しまして、せめてもの温情として今後典子が歩むべき道としての私共の考えをお知らせいたします。
今後1年、私達の所有物として所有主の決めた箇所への所有主の決める刻印を打つこと、所有主の利害関係者への接待要因として自身の意思を捨て完全なる奴隷としての行き方を学ぶこと。
今後1年で考えていることは以上です。
見ていただければわかるとおり、今までの生活を続けることは難しいと思われます。
典子の生活の一切をこちらで引き受け、管理させていただきます旨、お伝えいたします。 それでも現実を受け止め、私達もあなた様も別の人生を歩んでいけるよう、心から望んでおります。



——————————————–




目からあふれ出てくる涙。
どうすればいいかわからない自分の愚かさを心の底から感じた。
何を意図しているかわからない。
もう自分が考えているような話ではないのかもしれない。
自分の男達への追及の意欲を削がれようとしているのかもしれない。
沸々と湧き上る男達への憎しみと、すべてが崩れ去っていく空虚さの両方を同時に感じていた。
最終的にどっちの感情が残るのかはわからない。
いろんな感情が入り混じりどうしたらいいのかわからなかった。

子供たちの母親であり、妻である典子と会うこともできず話すこともできない。
気持ちを確かめることもできない。
それでいて決別宣言ならぬものを見せられ、浮気相手からは典子と新しい家庭を作るとの手紙。
まるでネット上で性欲の為に卑猥に見せるために晒されている女性たちのような扱いを受けている自分の妻。
ただ平凡に暮らしているだけでなぜこんな風になってしまったのか。
それとも平凡だと思っていた生活は虚像のもので、今実態を現し始めただけなのか。
自分の中の自信が崩れ去っていく。
本当に大切にしたいものが何なのか、今まで生きてきた意味すらわからなくなってくる。
出会い、お互いに想い合い、結婚し、家庭を作り、幸せといえる生活をしてきた。
それがもう終わりだと突然の宣告を受けた。
宣告ではなく、男からの勝手な考え。
頭の中で整理する気も起きず、ただ湧き上るべき感情が湧き上ってくるのかだけを確かめていた。



・・・その週末は妻のいない福岡の家に帰った。
子供たちは何事も無いように普通に過ごしていた。
料理も娘が作り、自分がいなくてもすべてが回っていることに改めて気付く。
今すべきことへのモチベーションすら湧かない。
感情がおかしくなっている気がした。
自分の心の底、本質の部分から湧き上ってくる感情があるとすればいつ湧き上ってくるのだろう。
大切なもの、守りたいもの、やるべきことを認識してくれる感情。



そして1週間後の日曜の夜、一本の電話からすべてが動き出した。
わからなくなっていた感情が自分の中に確かに湧き上ってくる。
楽観的に考えれば良い方向に進むという考え、人を憎むことなど避けてきた性格、それがどれだけ取り返しのつかないことを招いたか自分でもわかっている。
自覚しながらも仕事で経験を重ね、自信を付け、取り繕ってきた鎧。
その鎧はすべて剥がれ落ちた。
今あるものは自分の本能から出てくるたった一つの感情。
やらなければならないたった一つのことをやる手段を掴んだ。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは9array(9) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “420” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(28798) “太陽が照りつけ、見ているだけでも暑い日差し。
その中を家に向かって走る車。
助手席に座っている探偵に言う。


「俺どうなるかわからない。」


探偵は俺がマンションの部屋から出てきてから一言もしゃべっていない。
外にいても中からの音で何が起こっていたのかはわかっているのだろう。
いや、今は何も聞くべきではないと読んでいるのかもしれない。
そうであれば気の利く男だと思った。


「お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ。もちろん、今の状況はわかるのですが・・・」


おれ自身が損をするか・・・。
さっき俺がやったことも警察沙汰になってもおかしくない。
そして俺がこれから理性を抑えられないことでもっと酷い結果を生むかもしれないこともわかっていた。
もし警察沙汰になれば勤めている会社にも知れるだろう。
それでもよかった。
法律や常識の通用する相手ではないことはわかっている。
そいつらに常識という盾をもって戦っても勝てるわけがない。


「心配ありがとう。でも今どうにかしないと後には戻れないんだよ」



俺は何かに試されていたんだろうか。
旦那としての資格が俺にあるのかどうか。
だとしたら俺はもう旦那失格なのかもしれない。
今起きていることの現実感のなさにそんなことを考える。

これは全部夢で、朝起きたら妻は朝食を作っていつも通りに「おはよう」と言ってくれるんだ。
でもその夢を覚まし、いくら眠りから覚めようとしても起きれない。
自分ではどうにもならない。
どうしていいかわからない。
ずっとこの嫌な夢を見続けなければならない。
俺は夢の中でそこがどこなのか考えても見つからず、先にも進まず後ろにも戻らない。
このままじゃ永遠に同じ夢の中にいなければならない。
そして一つだけある扉。
その先に光が待っているのか闇が待っているのかわからない。
それが怖くて避け続けてきた扉。
もっと早くに開けてたら良かったのだろうか。
見えない扉の向こう側を恐れていた自分が酷く弱い存在に思えた。
それでももうその扉を開けなければ自分はその場所で力尽きてしまう。
自分は試されているんだろうか・・・。
そんな感覚だった。



車は家に一番近い交差点に差し掛かった。
赤信号で停まっている車。
この信号が青になれば左折し、ものの1分もかからずに家に着く。
探偵がポツリと言う。


「ええ、探偵である自分にはわからないことです。ただ、このような場面に何件か立ち合わせていただいた経験から一言だけ、冷静さも必要です。」


冷静に考えないといけないこともわかっている。
それでも今のこの心の底から湧きあがる感情が最も必要だった。
自分の性格もわかっている。
ある程度の理性は働いている。
それが冷静さだろう。
それでもその理性が吹っ飛ぶことは理解していたし、それでもいいと思っていた。



信号が青になり、車を発進させる。
だんだんと家が近づくにつれ、心臓がバクバクと響くのがわかる。
さっきのマンションにいた男達は怯えていた。
まさか俺が来るなんて思いもしなかったのだろう。
しかし今度は俺が来ることを知っている。
妻と一緒にいるその男は家で何をしようとしていたのだろう。
家主である俺がいないときに妻と一緒に家に入り込む男。
考えるだけ憤りと早く家に行かなければという思いが募る。


家が見えてきた。
家の前にはワンボックスカーが止まっていた。
俺の家に確実に俺の知らない男がいる。
我が物顔で俺の家で何をしているんだ。
車を駐車場に前向きに停めた。

そして急いで車を出る。
助手席に乗っていた探偵も一緒についてきた。
今度は俺の家だ。
玄関のドアを開けるが鍵が掛かっていた。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。
手が震えて鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかない。
自分が動揺しているのがわかった。
鍵を開け、ドアを開く。
玄関には知らない靴が4足あった。
男物の靴が4足。
4人も男がいるのか。
そしてもう一足、妻の靴もあった。
中からは何も音がしない。
靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。



エアコンで冷やされた涼しい空気が中から出できた。
ソファに一人座っている男がいた。


「やあ旦那さん、はじめまして。」


スーツに短髪の男。
冷静な目つきで俺を見ている。
こいつが主犯か!
探偵と2人で入ってきても俺が旦那だとわかるということは俺の顔も知っているということか。

周りを見る。
ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男が一人。
そしてその横に立っている体格のいい男が一人。
手に持っているものが目に入る。
ビデオカメラ。
今まさにビデオカメラで俺を撮っているのか。
人の家で家主を馬鹿にしているのを楽しんでいるかのような薄笑いした男が。


「何を撮ってるんだ!」


俺は冷静を心がけて叫んだ。
しかし男は無言で本格的にカメラをまわし始める。
カメラのレンズを通して俺を見ている。
俺を挑発するかのように。


「はじめまして旦那さん、今日はお邪魔してます。」


その時ソファに座っていた短髪の男が立ち上がって俺に挨拶をする。

人の家に勝手に上がりこんでおいて何がお邪魔してますだ。
それでも冷静に聞く。

「妻はどこだ?」



「典子ですね、典子はそこにいますよ。」


男がキッチンを指差す。
ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに人影があった。
この家を建てるとき妻が希望したカウンター形式の間仕切り。
キッチンで皿を洗いながらリビングにいる人と会話でき、テレビも見れる今風の作りだ。
私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
家を建てるときにそう話していたのを思い出す。

そしてその間仕切りの向こうを見る。
妻だった。
うつむいた様子の妻。
家では見たことが無いワンピースを来ている妻。
そして妻のすぐ後ろに男が立っていた。
これで4人か。

妻を見ながら叫ぶ。


「どういうつもりだ!?」


しばらくの沈黙の後妻が口を開く。


「ごめんなさい。」


「ごめんなさいじゃ何もわからないだろ!この状況は何なんだ!ここをどこだと思ってる!」
憤りを抑えきれない自分がいた。


長髪の男が言う。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください。」


「とりあえず初めから全部説明しろ!」


「今日は旦那さんに会うつもりでここにきたのではないのですが、さっき電話であなたが乗り込んできたとの話があったのでそろそろ潮時かなと思いましてあなたをお呼びしました。」


「じゃあ何をしに来たんだ!それに俺を呼んだだと?ここは俺の家だ。」


「ええ、わかってますよ。・・・ですから、今日はあなたに全てお話しようと思いましてね。」


男が話始めるのを待つ。


「私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります。」


AV制作会社だと?
典子はAV女優ということか?
俺は今までずっと妻に騙されていたのか?
男の言っていることが真実か嘘かはわからない。
だが顔では冷静を装えても心の中では動揺が隠せなかった。
それと同時に怒りが込み上げる。
それに旦那である俺に対して「典子」と呼び捨て。
その時点で俺も心底馬鹿にされていることはわかった。
今までさんざんDVDを送ってくることからわかってはいたが、目の前にいる旦那に対してもその話し方。

男はそのまま話を続ける。


「AVと言ってもその辺にあるAVとはまた違ったものでしてね、ああ、無修正という意味ではありませんよ、あなたがた一般人は買えないような特別な流通をしているAVのことです。
1本2時間ものの販売価格が10万以上するものでして、内容により価格が上がっていくという仕組みをとってます。
なぜそんな価格でAVが売れるかわかりますか?
・・・お金を出してでも見たいと思わせる内容だからです。
お金を出してでも見たいものに対して、金に糸目をつけずに購入する層、つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。
お金持ちというのは大変なものでね、お金でできることはすべて経験してしまうんですよ。
車、家、海外旅行、好きなときに好きなことをする生活をしていると手に入らないものを手に入れたくなる。
それでもそんなに多くはいませんよ。」



「だから抱きたいと思った女を金で抱こうとするのか?
人の妻でも関係なしに金で何とかしようとするってことか!」


「いいえ。人間の欲望とは恐ろしいものですよ。
一種の例えですが、あなたがただぼーっと街中に立っていて、ただ目の前に好みの女が歩いていたら「あの女を抱きたい」と思うでしょう?
それでも金持ちというのは冷静で常識的なんです。
地位は保証されてますからね。
だから金にものを言わせてその女性を抱くなんてことはしません。
自分でリスクなんて犯さないんですよ。」


「つまり、金持ちが好きになった女にお前らみたいな下っ端がちょっかいをだすと?」


「違う。そんな下品なことはしない。
その女性に対してはかなわぬ夢です。
ただね、商品としてあるものに対しては恐ろしく貪欲なんです。
普段見れないAVを見れるとしたら・・・。
ビジネスチャンスがここにあるんです。
どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。
そういうことをしている会社です。
絶対に普通のAVにはないことです。
まあ、それはご自分でご覧になったからわかるとは思いますが。」



人の妻で遊び、その旦那をおちょくる。そのすべてを撮影したビデオテープ・・・。ということか。



「う~ん、名前は伏せておきましょうか、Sという男、彼が彼女を私のところに連れてきましてね。
その時典子の写真をいくつか見せてもらいまして、これはMの資質があると見ましてね。
その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました。」



頭の中が整理できなかった。
現実に起こっていることとは思えない話に自分はおちょくられているだけなんじゃないか?


「人の妻であり、子供達の母親であるということを理解してそういうことをしていたのか?」



「もちろん。じゃなかったら価値はない。
人妻だから価値があるんですよ。
旦那もいて子供もいて幸せな人妻だから。」



幸せな人妻だから・・・。
幸せを奪うことで自分達の利益を確保しているってことか。
男達の私利私欲のために壊された自分の家族。
こいつらの話を聞いているとどんなに平静を装っても次の話を聞くたびに冷静さを保つのが難しくなる。


「それがどういうことかわかってるのか?
倫理的にも、それに俺がお前らを訴えたらお前らがどうなるかわかってやってるのか!」



「まあまあ、もともとSという男が典子を気に入り、一方的に好意を寄せていたようですが、なぜか身体の関係も持っていたようです。
もともとあなたの奥さんは旦那であるあなたの以外の男と関係を持っていた。 だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。 それはわかってください。」


典子を見る。

「本当か!?この男の言ってることは本当か!?」

怒鳴り散らすように典子に問いかける。

典子は俯いたままだ。
更に典子に訴えかけるように聞く。

「おい、事実じゃないのなら否定しろ!お前自身のことだろ!」


典子は一瞬俺のほうを見て、そして頷いた。
まだ妻から聞くまでは本当のことか男達のでっち上げた話なのかわからなかった。
そしてそれが唯一の気休めだった。
しかし妻自身がそれを否定した。
妻は他の男と関係を持っていた・・・。


「本人も認めてる通り、Sと性的関係があった。
どういう経緯で関係があったのかは知りませんが恋愛関係ではなく身体の関係ということです。」



「いつから?」


典子が口を開く。

「あなたが転勤になる少し前から・・・」



「相手とはどういう関係で?」


「前に務めてた会社の取引先の人で、飲みに誘われて、、、断れなくて・・」
妻は涙を流しながら言葉を詰まらせた。


「断れなくてセックスしたってことか?どういうつもりだ!断れないのはお前が弱いだけだろ!」


「飲みにいかなかったら、、私の所為で会社との取引に影響が出るって言われて・・・」


「そんなこと知るか!お前は何のために働いてるんだ!家庭の為だろ!」


「もちろんそんなことする気はなかったけど、帰り際にに断ったら、、私の会社での居場所も無くなるから」
典子の目からどんどん溢れ出てくる涙。


男が口を開く

「旦那さん、典子にそんなことを言わせるもんじゃありませんよ。
まあ彼から聞いたことを簡潔にいうと、彼は取引停止をチラつかせて典子を飲みに誘い、何回目かの酒の席のあとで典子に言い寄ったようです。
男だからそういう下心はありますよね。彼も同様に典子を女性として見て、飲みに誘うのと同じように典子の身体を触ったそうです。
典子も仕事先、そしてあなたに対する罪悪感に耐えられなかったのでしょう。
でも男は逆にその罪悪感を利用し、言葉巧みに関係を強要しました。
関係を持てばもう楽になれる、1回男とセックスをすればもうこんなにつらい日々が終わるとでも言われたのでしょう。それで関係をもった。そうだろ?典子」


涙を流しながら無言で俯いている典子。


「ところがその男は1回じゃ終わらなかった。そりゃそうでしょう。男にとっては1回やれば2回も3回も同じ。一度やった女ならまたやらせてくれると。
それでも典子は抵抗したようです。でも1回関係した事実は消えない。典子はどんどん追い込まれる。旦那や子供達家族への裏切り、所属する会社への本当に言い逃れのできない行為。
苦境から逃れたいが為に自分の感情を捨て、男に抱かれるようになる。
そしていつしか快楽を感じ始める・・・人間、弱い部分から付け入れば誰だってそうなります。」



「その関係した時期に撮られていた写真を持ってSは私たちのところに来ました。
紹介者には報酬が出ます。おそらくSは仕事柄金持ちとの繋がりで私たちのことを知っていたのでしょう。
しかしSは報酬目当てではありませんでした。
典子に飽きたわけではなく、典子でもっと興奮を得たいと思ったのでしょう。
心も何もない身体だけの典子を好きにコントロールしていると勘違いしていた愚かな男。
私たちからしたら過去はそれほど関係ない。金になるかならないか。
そういった典子の経緯からも素質は十分に見抜けました。
Sには通常の倍の報酬を与える代わりに典子との関係の一切を切らせました。」



男の口から語られることが事実とは思えなかった。
それでも典子は話が進むに連れて大泣きしている。
本当のことなのか・・・。


その時ずっと後ろで話を聞いていた探偵が話をしだした。



「私、旦那さんから依頼された調査会社のものです。
今の話をお聞きしておりましたが、もしそれが事実であるとしたら少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。
わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です。
それはわかっておられるのですか?」


男が言う。


「探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。
しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか?
典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?」


探偵が答える。

「ええそうです。
典子さんはそのSという男に無理やり行為を持たされ、そしてあなた方は金を出して典子さんを譲り受けた。
これは売春にもあたります。そしてその後も典子さんの意思と関係なくAV女優という行為を繰り返させた。」


探偵には今までのDVDは見せていない。
それでも男達の威勢を抑えるために法律という武器を提示しているのだろう。
こいつらに法律なんか通用しない。
それでも味方になってくれる姿勢が嬉しかった。


探偵と男の話を遮るように聞く。

「なぜ妻でなくてはならなかったんだ!
AV女優を使ってAV撮影すればいいだけの話だ。 いくら男が連れてきたからってなぜ普通に生活してる妻をターゲットにした。」



「普通に生活している妻・・・だからですよ。
典子は普通に生活している平凡な人妻、幸せな家庭があり、AVなどの裏の世界とは無縁の女。
それが外見でも十分に判断できる。
だからこそ興奮するんですよ。うちの客達がね。
AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。
そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?
AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ。
そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと。
あなたは気をわるくするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます。もちろん住所も。
作ったものではなく、それだけの事実を映像に残しているだけ。
でもそれだけに典子の全てがわかるんです。
本当の姿だから。
ファンも大勢いますよ。
典子と会いたいという話もたくさん来る。
金に糸目をつけない連中がね。」



すべてを撮った映像?
今この会話を撮っているカメラを見る。


「まさか今この場で撮影してるのも売るってわけじゃないだろうな!」


男は言う。
「もちろんそのつもりです。」


すると今まで黙っていたテーブルの椅子に座っていた男が口を開いた。

「その辺にしておけ。」

ソファに座っている男がそれに反応して押し黙った気がした。
椅子に座っている男がボスみたいなものなのか?



しかし湧き上る殺意を抑え切れなかった。
体が勝手に動き出す。
それを予測してか、探偵が俺の体を手で押さえる。
明らかに顔色が変わっていたのだろう。

「冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。
今の話はすべて録音してます。
今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。
外に停めてある車のナンバーも全て記録してます。」


冷静になれというほうが無理だ。
それでも俺は冷静でいなればばならないのか。
頭の中で正しいこと間違っていることの判断がつかない。
むしろそんなことはどうでもよかった。
そして探偵が男達に聞き始めた。




「いくら紹介者がいようと無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。
あなた方には反論の余地は無いはず。
典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、
こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう。
この場でどう落とし前をつけるか旦那さんと話をするべきです。」



男が探偵に言う。

「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。
ただ典子の意思はどうでしょうね。
あなたが思ってるほど純粋な世の中じゃないんだよ。
典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね、旦那さん、あなただけだ。
典子の意思が確認したい?
じゃあ今この現状はどう説明する?
旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。
そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。
それが答えだ。
わからないなら見せてあげよう。」



そうして男は妻の方を見る。
すると妻の後ろに立っていた男が動き出した。
妻を後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始めた。
まるで目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように。
乳房の形を確かめるように撫で回す。
しかし妻は抵抗をしなかった。
ずっと俯いたまま、まるで俺や探偵がそこにいることを知らないかのように、
そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということが記憶から消し去ったかのように。
それを目の当たりにして頭の中が真っ白になった。
妻が目の前で男に好きにされていること、それを拒否しないこと、何がショックなのかすらわからなかった。
妻を弄っている男は妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にした。
気が動転した。
探偵にも妻の裸を見られた。



頭に血が上った状態だったのだろう。
ソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
男が抵抗してきたがそれでもお構いなしに殴り続けた。
こいつは殺していい。
男はガードをするがそれがないところを殴りまくった。
探偵が止めに入る。
探偵だけではない。
他の男も止めに入っているのだろうか。
自分がどんどん取り押さえつけられるのがわかる。
腕を押さえられたら足で男を蹴る。
俺はこいつをできるだけ殴らなければ・・・。
すると取り押さえられた俺に今度は男が殴り始めた。
顔から血が出ている男が俺を。
探偵がその男を止めようとしているのが見える。
俺はこの男を殴る理由がある。
なぜこの男は俺を殴るのか。



「もうやめろ」



椅子に座っている男の声だろうか?
その声がしているのだけはわかった。
どんどん目の前が白っぽくなり俺は気を失った。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [6]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “419” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(14051) “「・・・なんでここに・・・」


赤坂は自分がどうすればいいかわからないかのように俺に質問した。
赤坂は裸にバスタオルを巻いた状態だった。
手で胸の辺りを押さえ、バスタオルが落ちるのを防いでいる。
慌てて取り繕ったのだろうか?



「なんでじゃないだろ、どういうことだ赤坂」


黙り込む赤坂。
男の声がした。


「誰だお前は、赤坂の知り合いか知らんが勝手に人の家に入ってきて何してる。警察呼ぶから待ってろ。」


男が携帯電話をポケットから取り出す。

すると赤坂が言った。


「この人は典子さんの旦那さんです。」


男のポケットから携帯を探す仕草が一瞬止まった。
俺の顔を見る。


「典子の旦那って・・・なんでここにいるんだ!?」


どうやらこいつがここを仕切っているらしい。
男が何かを言おうとしている中、それを遮るように大声で言った。


「どういうことだ!」


男はたじろぎながら口を開く。


「どういうことって・・・そっちこそどういう・・」


男の震えるような声にイライラしながら言う。


「どういうことだって聞いてんだよ!典子はどこだ?今すぐつれて来い!」


男は俺の顔を見たまま固まっていた。
ベッドの上の男女、そして赤坂も何も言うことなく、ただ固まった時間が過ぎた。


「典子は、ここにはいない。今日は社長と・・・」


「社長?お前の会社の社長は人の妻をかっさらって何してんだ!どんな会社なんだここは!!」


「俺もよく知らないんだ。典子は最近はほとんど見かけていない。社長が直々に・・・。」


明らかにその先の言葉に詰まった感じだった。


「直々になんだ?」


男が考えながら話し出す。


「社長と一緒の仕事が多くて、ずっと見てない。」


「だったら社長をここに呼べ!今すぐだ。」


「今どこにいるかわからない。社長は忙しいから・・・」


その言葉を遮るように言う。


「だから今すぐ連絡取れって言ってんだよ」


そういいながら足元にあったティッシュの箱を蹴り飛ばす。
飛ばした箱は男の足元に当たり、転がり落ちた。


「ああ、わかった。すぐ電話する・・・ちょっと待っててくれ。」


男が携帯電話を手に取り、電話を掛け始める。
明らかに怯えた表情でどうしていいかわからない様子の男達。
そりゃそうだ。
人の妻を寝取っておいて、その旦那が突然踏み込んできたとなればビビるに決まってる。
こいつらの趣味なのかなんだかわからないがこの異様な空間で自分だけがまともな人間だという感覚だった。
裸でバスタオルを巻いている赤坂、この女がいったいここで何をしているのかもわからない。
ただ裸でいることからしようとしていることはわかる。
それでもそれはどうでもいいことだった。
自分がたどり着くべき先は妻だけだ。

男の掛けた電話が繋がったようだった。


「あ、社長、その、旦那が、典子の旦那が部屋に来てるんですけど・・・」


明らかに弱腰の男だった。
こんな男に呼び捨てにされてること事態が腹立たしい。
湧き上る怒りを抑えながら電話の話を待つ。


「それで、旦那が今すぐ典子を連れて来いと・・・」


典子を連れて来い、こんな言葉を俺の目の前で話すほと礼儀も常識も無い男。
今までされてきたことを考えれば常識なんて通用しない奴らなのはわかりきっている。
それでもそんな下衆に妻がいいようにされていると思うとはちきれそうな感情が湧き上る。


「ええー、それは・・・今この状況では・・・はい、すみません。わかりました。では今から・・・」


そう言って男は電話を切った。


「あの、社長が・・・今社長と奥さんが一緒にはいないらしくて、典子さんがいる場所を教えるから旦那さんがそこへ直接来いとのことで・・・」


人の妻と一緒にいるからその旦那である俺が直接来いだと?
何様だ?


「ああー?立場わかってんのかてめぇ!」


その言葉を発すると共に体が勝手に動き出し、左手で男の胸倉を掴み顔を力一杯引き寄せた。
今にも殴ってしまいそうなほど右の拳を握り締めた状態だった。

するとベッドの上で女と重なっていた男が全裸でこっちに向かってきた。


「ちょ、ちょっと、やめましょう。ちゃんと話を聞きましょうよ・・・」


この空気の中全裸という滑稽なその男の言葉を聞き終わらないうちにその男の顔を右の拳の裏で殴った。
思いっきり力をこめて殴った。
もう理性だけで我慢できる限界を突破していた。
この部屋中をめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな衝動が抑えられなかった。
顔の真ん中を思いっきり殴られた男はベッドの傍でうずくまっている。

胸倉を掴まれたままの男が口を開く。


「お、落ち着いてください。もちろんこちらはあなたにこんな偉そうなことをいえる立場ではありません。ただ私達も社長には逆らえないんです。わかってください。」


わかってくださいだと?
自分達がやっていることを棚に上げてわかってくださいだと?
人の妻を散々使いまわし、旦那の俺までも馬鹿にしてきたこの糞共が何を言ってやがる。


「お願いします。私達にできることはもう無いんです」


男は目に涙を浮かべながら話す。
こんな弱い男に妻はいいようにされてきたのか?
何か弱みを握られたにせよ、妻の意思にせよ、何もかもが悔しくて堪らなかった。
もうこの男に何を言ってもだめだ。


「どこに行けばいいんだよ」


苛立ちを抑えられない声で男に聞く。


「あの、こんなことをお願いするのは無理な話ですし、怒らないで聞いてほしいんですが、奥さんは・・・」


自分にだけは危害を加えないでくださいとでも言わんばかりの言い回しだった。
そんなものはどうでもいいから早く場所を言え。
その感情を押し付けるように男の顔の前で大声で叫ぶ。


「何だよ!」


男は目をそらしながら俺に言った。


「あなたの、あなたの家にいるそうです。うちの社員と一緒に」


思いもよらない答えが返ってきた。
頭が真っ白になりそうな時間だった。
ずっと帰ってない妻が、家に戻ってきてる?
どういうことだ。
ん?
社長と一緒じゃないと言ってたな。
社員と家に戻ってきてる?
頭の中がしばらく整理できなかった。

俺が数秒の間動かなかったことで、ご機嫌を取ろうとしてたのか男が口を開いた。


「でも子供さんたちは今外出中らしくて」


俺がその言葉を聞けば安心するとでも思ったのだろうか。
俺と妻と子供2人が生活している家、その家に社員と2人?
社員が男なのか女なのかすらわからない。
その状況だけでもおかしくなりそうなんだ。
何が何だか整理ができない。
明らかに自分がおかしくなりそうだった。
子供たちがいないから安心しろってことか?


「その言葉で安心しろってか!?」


そう叫びながら男の胸倉を掴んだ手をそのまま窓の方に思いっきり押し飛ばそうとしていた。
そのまま窓を割り、ベランダを越えて下に落としてもいいと思った。
無意識に全身の力を込めて男を窓ガラスに叩きつける。
窓ガラスの割れる音と共にガラスが散乱し始める映像が見えた。
もう精神がおかしくなりそうなほどだった。
自分の理性を保てなかった。
散乱するガラスの上に男は倒れている。
しかしその目は俺を見て怯えているようだった。
スーツを着ていた男に怪我は無いらしく、起き上がろうとしている。
それでも外傷がないだけで体は痛んでいるはずだった。
逃げようとするのだろうか。
しかし男は立ち上がるとベランダの隅に立ち尽くし、俺の方を見ている。


こんな糞な男に馬鹿にされていたのかと思い涙が溢れ出てきた。
もうここには用無しだ。
そして俺の行くべきところは自分の家。
家族の住む自分の家。
体に蓄積された涙がすべて溢れ出てくるかのようだった。
その涙を服の袖でふき取る。
そして部屋を出ようと後ろを振り返り、歩き出す。
視界の左下に映る女性。
赤坂。
何もなく立ち去るわけには行かない。
自分のしていたことの意味がこの女にわかっているのだろうか?
バスタオルで身体を覆っている赤坂の目の前に立ち尽くす。
落ちないように手で押さえているバスタオル。
そのバスタオルを力ずくで奪い取り、その場に投げ落とす。
赤坂は力を入れて抵抗したが、その前にバスタオルはすべて剥ぎ取られた。
露になる赤坂の全裸。
この男受けするスタイルでここの男達と遊んでいたのか。
赤坂は屈みながら手や腕を使って俺に裸を見られないように必死に隠す。
何を隠してるんだ。
妻はすべてをDVDで男達の前に晒されたんだぞ。
お前だけがなぜ女の体裁を守ろうとしてる!
赤坂の腕を掴み、立ち上がらせ、両手首を掴み、壁に押し付ける。
力ずくで押し付けられた反動で赤坂の胸が揺れる。
隠すことができずに俺の前で露になる裸。
まさか俺に裸を見られるなんて思いもしなかっただろう。
この女こそ俺を馬鹿にした元凶じゃないのか。
あんなに親身になってくれたと信じていたこの女、裏切られたことに実感が湧かないほどだ。
男達に言われていたとはいえ何も無かったことになると思うな。
赤坂の頬を右手で一発張った。
赤坂は何も言わず張られた頬を痛むわけでもなくただ右下を向いている。
手に込められた力も抜けた。
赤坂を壁に押し付けていた腕の力を抜く。
力なく座り込む赤坂。

俺はバスタオルを再び手に取り、赤坂に向かって投げつけた。
そして玄関に向かって歩き出す。
ガラスの割れた音で近所の人が警察を呼んだりしているのではないか、あれだけ大声で散々わめき散らしたんだ。
それでも不思議ではない。
外で待っている探偵はどうしているだろうか。
たった5分にも満たないこの時間が長く感じた。
もう元には戻らない。
妻がどうしているのかと心配するここ最近の日々はもう来ない、そこから進むことも無ければ戻ることもなかったあの悶々とした日々は。
なぜなら俺は前に進んだからだ。
男達にこちらから踏み込んで行った以上、決着をつける。

そして探偵と共に、自分の妻と誰かが一緒にいるという、自分の大切な家族の家へと向かった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “418” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(12940) “翌日の月曜、有給を取り、ある場所へ向かった。
そう大きくはないマンションを見上げる。
マンスリーマンションとのことだ。
中に人がいるのかどうかすらわからない。
ただここに来なければ何も進まない。

付き添ってもらっている探偵には十分な証拠を持ってきてもらっている。
もちろんDVDのことは言っていない。
探偵と共にマンションの205号室へ向かう。
角部屋のようだった。
部屋のドアの前に立つ。
もしかしたらここに妻がいるのかもしれない。
そう大きな部屋ではないはずだ。
外観の大きさを見てもワンルームマンションのような感じだろう。


ドアを開こうとドアノブに手を掛ける。
音を立てないようにドアを開け、一気に中に入り込むつもりだった。
インターホンを鳴らす気など無い。
インターホンを押して事情を説明しろだの、宅配便の振りをして中の様子を伺えなどの探偵の助言もあった。
だが何も考えず、ただ中に突入することしか考えていなかった。

ドアノブを動かし手前に引こうとしたとき、中からかすかな声が聞こえてきた。
女の声だ。
まさか、妻か?
耳をすまし、音を聞き入る。
明らかな女性の淫音だった。
自分の心の中に動揺があるのは事実だった。
妻がこの中でDVDのようなことをしている可能性もある。
それでもそれをぶち壊すために自分はここにきたのではないか。
考えるほど動揺が増すばかりなのはわかっていた。
その動揺が大きくなる前にドアを開ける。
音を立てないように手前に引く。
ドアノブを握る自分の手に汗が噴き出しているのがわかる。
ドアが開き、少しずつなかの様子が見えはじめる。
鍵は掛かっていない。
中を見る限りチェーンのようなものもしていない。
中から響く女性の声がはっきりと聞こえる。
10cmほど開けたドアから中を見る。
ワンルームの部屋、バスルームらしき場所、キッチンらしき場所、その奥にドアがあった。
玄関には靴が5足あった。
男ものが3足に女物が2足。
この家の借主の靴が何足かあるはずだ。
中に何人がいるのかはわからない。
ただ男一人と女一人は確実にいるだろう。

自分の心音が自分で聞こえる。
全身が脈打ち、もう前に進むしかない状況だった。
後ろにいる探偵の顔を見る。
探偵は真剣なまなざしで自分を見ている。
事前に、自分が中に入るから探偵は外で待っていてくれとお願いしておいた。
探偵はちゃんとインターホンを鳴らして話をするべきだと言ったが、それは拒否した。
今までの状況がわかっていないやつが何を言っているんだ。
一般的に考えたら探偵がつけた目星というだけで突然ドアを開け、突然中に突入したらどう考えても犯罪だろう。
だが自分にとってはそんなことはどうでもよかった。
考えることによって自分の今の気持ちが削がれる要素、それはすべて遮断した。

探偵の顔を見ながら頷くように今から行くと合図をする。
探偵も覚悟をしたかのように頷き返す。
視線を部屋の中に戻す。
中からは相変わらず女性の声が聞こえている。
妻をあんな風にした男達。
原因は自分にもあるのかもしれない。
だが今はそんなことは考える気は無かった。
すべてあの男達が仕組み、自分の家庭を半ば崩壊状態へと持ち込んだのだ。
ただ平凡な幸せがあったはずの自分の築いてきた家庭。
それを弄ぶように壊しにかかってきている敵。
守るべき娘、息子、そして妻。
自分は今自分の家族3人の為に戦う。
中で何が起きようと、自分がどうなろうと、守るべきものの為に動く。


ドアノブを一気に引き、中へと入る。
玄関にある靴を踏み、土足で上がりこむ。
3mほどの距離、電気がついておらず、窓も無く薄暗い空間のその奥にあるドアに向かって歩く。
まだ玄関のドアは閉まっておらず、ドアの閉まる音もしていない。
音がしないようゆっくりと閉まるタイプのドアだった。
まだ中のやつらも俺の存在には気付いてないだろう。
2秒もかからないほどの時間だっただろう。
奥のドアノブに手を掛ける。
その時ようやく玄関のドアが閉まる音がした。
中の奴らももう誰かが中に入ってきたことは気付いただろう。
それと同時にドアを開ける。

ここを開けたらどんな光景が待っているのかわからない。
少なくとも女の淫らな声が聞こえていることから想像はつく。
もちろん中で何を話すかなんて何も考えていない。
ただ勢いで中に突入するだけだった。
開くドアがスローモーションのように感じる。
中は外光が差し込んでいるらしく、その光が薄暗い玄関の方を照らし出す。
まるで自分を照らし出すかのように。
覚悟は決まってる。

ドアを開け放ち中からの光がすべて自分へと引き付けられているような感覚がした。
全てが1秒もしない間のことだった。
それでもコマ送りのように鮮明に覚えている。
そしてその光の中、部屋の奥にある大きな窓が目に入る。
その視界の両端に人の気配を感じる。
右側は人間の肌の色が大きく見える。
おそらくベッドの上だろう。
視線を右下に移す。
妻だったら・・・妻だったらどうしよう。
左側に一人、ベッドの上に2人。
少なくとも3人はいる。
いや、ベッドの横、部屋の角にあたる場所にも一人座っているいるようだった。
4人。
妻ではないことを祈りながらベッドの上を見る。
男の背中が大きく見えた。
その下に女性がいるらしい。
女性の足が男の腰の辺りから見える。
視線を頭の方へ移す。
首から顎、唇、鼻・・・目・・・そして顔全体がはっきりと自分の目に映し出された。
心臓がはち切れそうだった。
他のものは何も目に入っていない。
他の3人よりも、その女性が妻なのかそうでないか。
それだけを確かめるべく、女性の顔を見た。
自分の頭の中で何度もその女性と、自分の知っている妻を重ね合わせる。
自分の妻が他の男と重なっているところなんて見たくはない。
そういうことが好きな男性もいるのは知っている。
だが自分の人生まで壊されかねない現状では、ただそれが妻ではないことを確かめるのが怖く、気が遠くなりそうな感覚だった。



男の下になっていた女性・・・それは妻ではなかった。
見たこともない女性。
妻なのかそうではないのかということだけにしか頭を使いきれていなかっただけに、妻ではない安堵よりも自分が何をしているのか分からなくなりそうだった。
妻ではない。
じゃあこの女性は・・・DVDに出てた他の女性?
その女性はようやく自分の存在に気付き、こっちを見ている。
その上を見ると男が驚いた顔で自分を見ていた。
窓の左側に立っていた男性もこっちを見ていた。
黒っぽいスーツを着ている男性。
ベッドで絡み合っている全裸の男女。
そして思い出したようにベッド側の部屋の角に座っている人を見る。
思わず声が出た。


「は・・・赤坂さん・・・」








妻の居場所らしきところがわかったという報告が探偵からあったのが昨日だった。
「どうやら奥さんの会社の社長名義で借りられているマンションが候補としてあがってます。」
それから今朝探偵に会い、直接根拠を見せてもらった。
写真で確認する限り、その部屋に届けられた郵便物の名義と、妻の会社社長の名義が同じだった。
そこに出入りする人の写真も見た。
そこに写っている女性、それが赤坂だった。



妻のDVDでの俺へのメッセージ、その中で妻は言った。

「探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください」

それを聞いた当初はその映像から受ける衝撃で何も考えられなかった。
妻が男に跨りながらDVDを通して俺への決別のメッセージを残している。
気が狂いそうなほどの衝撃、そして嫉妬、言葉に表すことのできないほどの感情が入り混じり、目の前が真っ暗に見えた。
そして妻からのメッセージが何度も頭の中を駆け巡った。
そして一つの疑問が浮かんだ。
なぜ妻は俺が探偵に依頼をしていることを知ってるんだ?
妻に男達が言わせてるとして、なぜ男達は探偵のことを知ってるんだ?
その疑問の答えを考える中、一つの糸のようなものが見え始めた。

探偵のことなど誰にも言っていない。
もちろん、こんなことを相談できる人などいない。
そして探偵の話を思い出した。

「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。」

同僚の方2人。
ということは、同僚2人は少なくとも妻のことで何かを聞かれたことは確かだ。
探偵に詳しい話を聞くと、自分が探偵だとを名乗ったわけではないから自分が探偵だとは気付かれていない、そして典子の直接的な関係がある人への聴取はその2人だけだとの話。
同僚2人がそれで探偵だと気付いたのかどうかは定かではないが、男達に探偵のことが知られているとしたらそこしかない。
そして同僚2人が聞かれたことを社内で誰かに話したとしたら、会社の人間は知っていることになる。

そして探偵に相談した。
これからは妻の会社の人間を張ってほしい。
今できる唯一の可能性はそこにしかなかった。
そしてその時点で自分ができる最大限のこと。
男達の警戒を解くために、探偵は今週いっぱいで止めるとの情報を赤坂に話した。
それで油断したのか、元々探偵に知られるのを警戒していなかったのかわからないが、すぐに繋がりがわかった。
会社から出てきた一人の女性が行った場所がそのマンスリーマンションだった。
そして同じマンションの住人の話によるとそのマンションから妻らしき女性が出てきたところを見たとのこと。
何も知らない住人の話がどれだけ信用できるかはわからない。
だがそこに何かがあることはわかった。
その報告があったのは昨日の夜だった。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “417” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15940) “眠れるはずもなく、ただ何をすればいいかもわからずに仰向けになり散らかりきった部屋の天井を眺める。
体を動かす力すらないほど精神的ショックを受けていることは明白だった。
浮気どころの話ではなくなった。
俺のことが嫌いなわけでもなく、子供たちのへの気持ちがないわけでもない。
ただ、見ず知らずの男の意思によって考えを変えられ、普通の主婦だった自分の妻が男達の好き放題に使われている。
恋愛などではなく、妻を使って遊んでいるようにしか見えない。
人の妻であり、子供のいる母親を、そのような背景を逆に楽しむかのように。


改めて冷静になって考える。
冷静というよりも心身ともに疲れ果てているのかもしれない。
今まで見てきたDVDのような客観性はなく、俺に対するメッセージを投げかけてきた妻。
あんな言葉を妻に言われる旦那がどこにいるだろう。
考えれば考えるほど頭が混乱し、考えることを止めたい衝動に駆られる。
どうしたら妻に会えるだろうか。
・・・ん?
昨日見たDVDを思い出し、一つの疑問が浮かんできた。
頭が混乱した状態の中浮かんできた疑問。


とにかく妻に会わなければどうにもならない。
電話をかけても繋がらない。
妻に会うには・・・。
妻は失踪してから会社にも行っていない。
・・・・・一つ思い立った糸を手繰り寄せるしかない。


翌日、仕事を午前中で切り上げ、妻の会社へ向かった。
有給ばかり取っていては部下からの信頼も何もないかもしれない。
だがそんなことはどうでも良かった。
夕方に妻の会社に着いた。
インターホンを鳴らす。
自分の名を名乗り、赤坂を訪ねる。


「赤坂さんはいらっしゃいますか?」


少しした後で赤坂が出てきた。


「お久しぶりです・・・」


赤坂はそう言い、会社の外へと出てきた。
赤坂は口を開く。


「あの、奥さん最近休まれてますが、どうかなさったのですか?」


「ああ、ちょっと体調を崩してしまって。それより、仕事終わったら少し時間作れませんか?」


「ええ、あと30分で仕事終わるので、それからでよかったら。」


そう言い、近くの喫茶店で待ち合わせた。

その場で赤坂に失踪の事実を言ってもよかった。
ただ、軽く話すにはあまりも重い話だった。
ただ一つ赤坂に話しておくこと。
赤坂が妻のことで何かを知っているのであればその一筋の光しか希望が無かった。

赤坂の仕事が終わり、待ち合わせの喫茶店に入ってきた。
席に座り、コーヒーを注文する。
俺は分のコーヒーを啜り、口を開く。


「赤坂さん、正直に言いますが、妻が帰ってきてません。」


赤坂は驚いた表情で返した。


「え、帰ってきてないって、どういうことですか?」


「私にもわかりません、見当もつかない。ただ、ここ2週間は妻が家に帰ってないことだけは確かです。帰らないとの連絡を残してから」


「帰らないって言われたってことですか? まさか浮気相手の人と・・・?」


「ですからそれすらわかりません。私としても妻を捜したいが、電話にも出ないし何も手がかりが無い。警察にも探偵会社にも依頼したが手がかりが何もないから捜しようがないみたいで・・・。」


「警察はどうやって捜してるんですか?」


「それはわからない。ただ積極的に探してないことは確かです。そして探偵会社も限界を感じてるみたいで・・・それで赤坂さんなら何か知ってるんじゃないかと思って、こうしてすべてを話したんです。」


「え、知ってるといっても私は奥さんから聞いた話程度にしか・・・浮気相手の名前も聞いてないし、どこで会ってるとかも・・・あ、浮気相手と一緒にいるって決まったわけじゃないですよね、ごめんなさい。。。」


「いいんです、その可能性が高いことは確かです。だからこそ、その相手との話を聞いている赤坂さんにお話を伺いたくて。」


「ええ、もちろん知ってることならすべて話します。ただ、知ってることといっても限られてるから・・・。」


「赤坂さん以外の同僚の方は何か知ってることとか無いんですか?」


「どうだろう、、、でも、私以外の人には多分その話はしてないと思うんですけど。仲良くさせてもらってたので。」


「そうですか、それでその相手のこと、何か知ってることはありませんか?どこに出かけたとか、どれくらいの頻度で連絡してたとか、何でもいいんです。」


「場所ですか。。。特に話してたのは付き合ってるとか恋愛感が合うとかそういう話ばかりで、私もあまり聞いちゃいけないことだと思って詳しくは聞いてなくて、ごめんなさい。」


「場所じゃなくても、出会ったきっかけとか何でもいいんです。現状、依頼してる探偵会社しかあてが無くて、それでも探偵会社に払う費用ばかりが嵩んで、それでも何も進展しない状況に焦ってしまって、こうやって手繰っていこうと思ってまして。」


「探偵会社は何か居場所をつかめそうな情報はあったんですか?」


「何も無いんですよ。浮気してた事実とか、そういうのが何も無い状況だから手探りで探していくしかないらしくて、だから余計に費用も掛かって。」


「そうですか。急には思い出せないんですけど、何か手がかりになりそうなこと思い出したら連絡します。でもまさか失踪してたなんて。この間まで一緒にいた人が失踪だなんて・・・」


赤坂の顔にショックの色が見える。
この間まで一緒に働いていた同僚が突然いなくなったことを知らされたらそれは当然の反応だろう。
しかし頼りにならない探偵会社と、赤坂しか頼れる存在がない今、この女性に何か思い出してもらうしかない。


「ええ、お願いしますよ。実は探偵会社も今週一杯で依頼を打ち切る予定なんです。打ち切るというよりも、週契約でずっと手がかり無しだとお手上げだと。何か手がかりが見つかってから再依頼してもらったほうがいいとの話で。」


「じゃあ、後は警察に頼るしかないんですね。」


「そういうことになりますね。」


赤坂との話で何も得ることはなかった。
それでも探偵会社や警察よりは典子について知っている。
何でもいいから知りたいという気持ちだけだった。




夜、単身赴任先の部屋のソファで横になっていた。
今は待つしかない。
時間がたつのが怖かった。
妻の会社には妻は入院したと伝えた。
軽い病気だからまた連絡するとだけしか伝えていない。
子供たちには妻は2週間ほどの長期出張になると言っている。
突然のことだから不信に思ってることは確かだろう。
妻に電話したりしていないだろうか。
どこから家族が崩れていくかわからない。
何もかもがめちゃくちゃになりそうだ。



その時インターホンが鳴った。
まさか、妻か?
誤りにここまで来たんだろう。
焦燥感と喜びの両方が体中を駆け巡る中ドアを開ける。

「メール便で~す」

威勢のいい兄ちゃん封筒を差し出す。
それを受け取りながら、心臓がドキドキするのがわかった。
配達の兄ちゃんに礼を言い、部屋のソファに座りながら封筒を見る。
差出人は書いていなく、軽い。
中身は紙のようだ。
あのDVDの入った差出人が書いてない配達物が届いたのは昨日のことだ。
同じ人間が送っていることは明白だった。
手紙の封を開け、中身を取り出す。


今度は手書きではなく、パソコンで作られたらしき文体だった。
何が書いてあるのかを読むのに勇気がいる。
一つ深呼吸をし、手紙を読む。




———————————————





はじめまして、典子の所有者です。名前は明かすつもりはありません。
昨日のDVDはご覧いただけたでしょうか?
ご覧いただけたらわかると思いますが、私達は典子を私達の女としていくものとして考えております。 典子もそれに同意しており、複数いる所有物の一人として私のために生きてもらうこととしました。 典子自身もそれを望んでおり、これからの人生をこちらにささげることを喜んでおります。
典子はあなたと出会い、家庭を気付いてきたことに対しては大切な思い出として考えているようです。 今でもあなた方の話をすると泣き出してしまいます。 しかし今後は所有主である私の女として、子供も作り別の人生を生きていくことを決断いたしました。
私達といたしましては、婚姻などの法的なものには興味はありません。 あなた様が婚姻関係を続けたいとのことであればそれでも構いません。 しかしながらそれは手続き上の問題であり、典子の今後は私達と共にあることをご了承ください。
一般の感覚ではご理解いただけないかも知れません。
それに際しまして、せめてもの温情として今後典子が歩むべき道としての私共の考えをお知らせいたします。
今後1年、私達の所有物として所有主の決めた箇所への所有主の決める刻印を打つこと、所有主の利害関係者への接待要因として自身の意思を捨て完全なる奴隷としての行き方を学ぶこと。
今後1年で考えていることは以上です。
見ていただければわかるとおり、今までの生活を続けることは難しいと思われます。
典子の生活の一切をこちらで引き受け、管理させていただきます旨、お伝えいたします。 それでも現実を受け止め、私達もあなた様も別の人生を歩んでいけるよう、心から望んでおります。



——————————————–




目からあふれ出てくる涙。
どうすればいいかわからない自分の愚かさを心の底から感じた。
何を意図しているかわからない。
もう自分が考えているような話ではないのかもしれない。
自分の男達への追及の意欲を削がれようとしているのかもしれない。
沸々と湧き上る男達への憎しみと、すべてが崩れ去っていく空虚さの両方を同時に感じていた。
最終的にどっちの感情が残るのかはわからない。
いろんな感情が入り混じりどうしたらいいのかわからなかった。

子供たちの母親であり、妻である典子と会うこともできず話すこともできない。
気持ちを確かめることもできない。
それでいて決別宣言ならぬものを見せられ、浮気相手からは典子と新しい家庭を作るとの手紙。
まるでネット上で性欲の為に卑猥に見せるために晒されている女性たちのような扱いを受けている自分の妻。
ただ平凡に暮らしているだけでなぜこんな風になってしまったのか。
それとも平凡だと思っていた生活は虚像のもので、今実態を現し始めただけなのか。
自分の中の自信が崩れ去っていく。
本当に大切にしたいものが何なのか、今まで生きてきた意味すらわからなくなってくる。
出会い、お互いに想い合い、結婚し、家庭を作り、幸せといえる生活をしてきた。
それがもう終わりだと突然の宣告を受けた。
宣告ではなく、男からの勝手な考え。
頭の中で整理する気も起きず、ただ湧き上るべき感情が湧き上ってくるのかだけを確かめていた。



・・・その週末は妻のいない福岡の家に帰った。
子供たちは何事も無いように普通に過ごしていた。
料理も娘が作り、自分がいなくてもすべてが回っていることに改めて気付く。
今すべきことへのモチベーションすら湧かない。
感情がおかしくなっている気がした。
自分の心の底、本質の部分から湧き上ってくる感情があるとすればいつ湧き上ってくるのだろう。
大切なもの、守りたいもの、やるべきことを認識してくれる感情。



そして1週間後の日曜の夜、一本の電話からすべてが動き出した。
わからなくなっていた感情が自分の中に確かに湧き上ってくる。
楽観的に考えれば良い方向に進むという考え、人を憎むことなど避けてきた性格、それがどれだけ取り返しのつかないことを招いたか自分でもわかっている。
自覚しながらも仕事で経験を重ね、自信を付け、取り繕ってきた鎧。
その鎧はすべて剥がれ落ちた。
今あるものは自分の本能から出てくるたった一つの感情。
やらなければならないたった一つのことをやる手段を掴んだ。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [9]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “416” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(16229) “タクシーの着いた場所、そこは住宅街から少し離れた場所にポツンとある2階建ての建物だった。
タクシーを待たせながら歩いて近づく。
外からみる限り電気はついていない。
四角く、その一辺がおよそ15mほどの建物の周りを歩いてみるが中は見えなかった。
それでもこの建物の大きさ、駐車場の広さからして10人から15人はいる会社だろう。
もちろんただの憶測にしか過ぎない。
正面玄関にあるインターホンを押してみるが返答はない。
深夜3時だ。
わかってはいたが妻が今も仕事をしているわけではないのは確認できた。
どこを探せばいいかの目処すらつかない。
家に帰っているかもしれない。
いや、帰ってくるかもしれない。
今できることは家で待つこと。
それだけだ。
いや、それしかなかった。
・・・そしてそのまま一晩が明けた。





きれいなオフィスビルの5F 、自動ドアが開き中のきれいなつくりのオフィスが見える。
朝11時にもかかわらず客らしき人が一人いた。


「いらっしゃいませ。」


笑顔の女性がこちらを向いて挨拶している。


「こちらへどうぞ」


カウンター型できれいな不動産屋のような室内だった。
その女性の対面の席に座る。
興信所といえば古びたビルの一室という印象だったがここは違う。
社員教育もしっかりされている。
こんな状況をそのまま話すのは抵抗がある。
しかしここなら任せてもいいという雰囲気を感じる。


「今回はどのようなご用件で」


変わらず笑顔の女性が口を開く。


「あの、妻が昨日から帰ってなくて、恥ずかしいんですが実は浮気してるみたいなんです。だから妻を探してほしいのと、浮気相手の住所などわかればと思って。」


「奥さんの居場所ですね。一昨日までは普通に帰ってこられたんですか?」


「はい、家には帰ってきてて、私が浮気の事実を知ったことを妻も知り、それで帰らないのではないかと。」


「そうですか・・・奥さんと連絡はとられてみましたか?」


「一度電話が掛かってきて、事情は話すと言われたんですが、それから電源を切ってるみたいで。」


「では浮気相手と一緒にいる可能性が高いから浮気相手を探すというご依頼でよろしいですね。」


「ええ、ただ私自身もどうなっているのかわからない状態で、一緒にいるのか、妻が一人でいるのかすらわからないんです。」


「奥さんは普段通帳など持ち歩いてますか?カードや現金など、数日過ごせるだけのお金があればいいのですが、なければ相手と一緒にいるかお宅に帰られるしかないと思われます。なのでこちらでの調査に加えて奥さんが帰られる可能性も考えたほうがいいかも知れませんね。」


そして妻のDVDのことは言わずに調査依頼した。
こんな話を聞いても表情を一切崩さない受付の女性、こういう話になれているのか、それとも客の心理を気遣ってのことなのか、どちらかはわからないがしっかりした会社だという印象が深まる。
子供たちの将来、自分達の将来の為に貯めてきたお金を少しでもこんなことの為に使うのが悔しかった。
そして情けなかった。
一通りの調査以来をし、興信所を後にする。

そしてそのまま妻の会社を訪ねた。
妻は会社に出勤しているかもしれない。
インターホンを押し、自分の立場を隠し妻を訪ねる。
しかし帰ってきたのは予想通りの言葉だった。


「今日はお休みいただいてますが、どちらさまでしょうか?」


何も言わずに妻の会社を跡にした。

家のソファに座り、ただ流れているだけのテレビを見る。
即日調査するとの話だったがどうなるのかわからない。
妻の会社、実家・・・さまざまな情報を示した。
あたれるところをすべてあたってみるとのことだ。
心身が疲れ果てているのがわかる。
昨晩は一睡もできず、気分は落ち込み体もひどく疲れている。
家に妻が帰ってくる可能性だって十分にある。
ちょっと飲みすぎてホテルに泊まってきたといいながら帰ってきてくれたらどれだけ楽だろう。
まだ心の中に現実感のなさが残っている。
しかし時間が過ぎていくにどんどん妻が遠くに離れていき、帰ってこないことが現実として突きつけられる。
蒸発か・・・子供がいるんだぞ。



結局夜になっても妻は帰ってこなかった。
娘達にはなんと言おう。
昨日から帰ってこない妻、そしていつもはいない日にいる俺。
この状況で何をいったら怪しまれずに信じてもらえるだろうか。
取りあえず仕事で急に出張になったとでもいうしかないだろう。
娘にはその通り伝え、自分はこっちに仕事があったから帰ってきたと伝えた。
有給を取れたのは今日までだ。
明日から北九州に行かなければならない。
会社を休んでも家で待っているだけではどうにもならない。
せめて警察、そして興信所からの連絡を待つしか・・・。

翌日の夜、北九州での仕事を終え、単身赴任の部屋に戻った時、家から電話があった。


「あ、お父さん?今日お母さんの会社から電話があって、今日会社に来てないけど連絡くださいって電話があったんだけど。」


妻は会社を休んでいるんじゃなかったのか?
そうか、妻が会社に連絡を入れたのではなく、妻は会社を無断で休んでいたのか。
だから会社を訪ねてもお休みだと言われたのか。
それでも真菜に余計な心配をさせてしまう。


「ああ、お父さんのところにも電話が来て、間違いだったって。出張に出てるから来てないと思われて間違って連絡したらしいよ。」


そんな対応をするので精一杯だった。
急いで妻の会社に電話をする。
夜7時を回ったところだったが電話は繋がった。
そして典子が体調不良で休むと伝えた。
取りあえず2,3日と言ったがこの先どうなるのかがまったく見えない状態だ。
妻が失踪したなんて言える訳がない。
しかし先のことを考える余裕はなかった。

1週間後、北九州の仕事場で働いている時、興信所からの連絡が来た。
週に1回現状報告をしてもらうことになっていたが、遠いのもあり電話連絡をしてもらうようにしていた。


「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。
奥さんが浮気をしていたという事実はまだ確認できませんが、職場での様子は出張が多く忙しい印象を持たれている同僚が多いようです。
仕事を休んで何かをしていたなどは考えづらいかと思われます。」



結局居場所に関してはまったくわからなかった。
あれから妻の会社には、しばらく休むとだけ伝えておいた。
会社でそんな理由が通用するわけが無いのはわかっている。
でも今はどうしようもない。
今後の調査で何か手がかりがつかめるのだろうか。


その翌日の木曜だった。
単身赴任先の部屋見覚えのある封筒が届いた。
いや、見覚えがあるというのは錯覚だ。
普通A4サイズの茶封筒だ。
しかしこの部屋に物が届くなんてほとんどない。
ただ一回あったのは典子のDVDが届いたとき。
そのときの封筒小包とは違うA4封筒だが送り主がそれと同じであることは容易に推測できた。
典子の手がかりになる、もしくは典子からの直接の手紙かもしれない。
中身は手触りでなんであるか確認できる。
封を開け、中身を取り出す。
手紙とDVDだった。
またか・・・でも今はこれしか典子への繋がりはない。
手紙を読む。


「ごめんなさい。こっちを選びます。探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください。私には私の人生があります。
あなたと、そして子供たちと過ごしたこの20年近く、すごく楽しかった。私には一番大切なものでした。
でも今後も一緒に過ごす資格は私にはありません。裏切りの時間を過ごせば過ごすほどあなたと子供たちへの罪悪感が増していき、それでも裏切り続けてしまう自分を許せません。
すべて言い訳ですが、正直にすべてを話します。DVDを見てください。」


読みながら何度も胸を殴られたような感覚に陥った。
全身の血流が増して何かがおかしくなるような感覚。
理由はどうあれ典子から確実なを拒否受けた自分と子供たち。
妻であり母親である自分を捨てるという意思表示。
それは典子だけの問題ではない。
そこにあって当然の、それを基盤とした人生であるはずの家族。
それを一気に崩壊させるということを理解しているのだろうか。
理解していてでもこの道を選ぶという彼女の考えを確認したくて仕方がなかった。
今まで見てきたDVDの中にある典子の姿は彼女のその意思表示を裏付けるようなものだった。


そしてDVDをPCにセットし、再生する。
それは、部屋でショーツ1枚の姿になった典子が机に座り、手紙を書いている様子だった。
表情は見えないが、とても寂しげに見えた。
画面がその手紙をアップで映す。
今俺が読んだ手紙だった。

そして手紙を書き終えた妻は男に促されるようにベッドの上に行き、カメラに向かって股を開いた。
ショーツの隙間から男の手が典子の秘部を弄る。
中からローターが取り出される。
ローターを入れた状態で手紙を書かされていたのだ。
さっき読んだ手紙が本音なのかどうか強制なのかもわからなくなる。
そしてカメラが固定され、男はベッドに仰向けになり、典子はそれに跨った。
男の足のほうを向き、その延長線上にあるカメラを見ながら腰を降り始める。


「よし、奥さん、気持ちいいのはこれくらいにして、旦那に教えてあげなきゃな。真実を。」


そういいながら男は妻の太ももを両手で持ち上げ、カメラに結合部が丸見えの状態になった。
下を向き、どうしていいかわからないような表情をしている典子。


「早くいわなきゃ。ほら」


典子が口を開いた。


「あなたが知ってる通り、今見ている通り、私はこんな女です。こんなことが大好きで、離れられなくなった女なの。
初めは嫌だったけど、どんどんいろんなことをさせられるうちに身体が快楽を覚えてしまって、いくら理性で抑えようとしても身体がいうことを聞いてくれない。
それがあなた達への裏切りだってわかってても、あなた達さえ知らなければ、ばれなければと思ったらその理性がどんどん小さくなってしまって・・・。」

すると男が小刻みに腰を振り始めた。
妻は下を向き、それに耐えている。
自分の妻の、それも他の男との性交に没頭しているという告白など聞きたくはなかった。
それでもそれが現実なのかどうかすらわからないほど自分の頭が混乱していた。
妻が俺へのメッセージを、それも他の男の上に跨った状態で・・・。


「ほら、ちゃんと言えよ奥さん。」


男に促されて妻が再び口を開く。


「こうなったきっかけは・・・ま」


ピー・・・
なんだ?
音が消えた。
映像は普通に再生されているのに音がでない。
巻き戻してもう一度見てみるがやはり音が消えてる。
きっかけ?
映像以外の一切の音が消えてる。
映像の中で妻はしゃべり続けている。
音が聞きたい。
DVDが原因なんだろうか、そう思いながら音が復活するのを待つ。
3分くらいしたところだろうか、音が戻った。


「それが私です」


自分の頭の中に血が上るのがわかった。
理性ではなく本能でこの男に対しての怒りが満ち溢れていた。
これはDVDの問題じゃない。
あとから編集してわざと音を切ってある。
妻の告白の部分のみを。
それは聞かれたくないことだからか?
いや違う。
だったらDVDを俺に送る必要はない。
DVDを送ってまで音を切る理由。
それは一つだった。
俺を馬鹿にすることを楽しんでいる。
行き場のない怒りがテーブルの上に置いてあるカップに向かった。
カップを手に取り、そのまま床に思いっきり投げつけた。
テーブルもひっくり返し、PCは床に落下した。
どうすればいいかわからない怒りで狂いそうだった。
すべてを破壊しつくしても収まりようのない怒り。
普段仕事で嫌なことがあっても我慢したり、大人の対応をするものだ。
しかし本当の怒りを感じたらそんなものは通用しない。
思うことは一つだった。
この男を潰す。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 477602530の時、$oは10array(10) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “424” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(10707) “男は目線を逸らさずに俺を見ている。
まるで妻を完全に自分のものにしたかのような目で。
事実を旦那である俺に言うことですべてを自分のものとしようとしている。


「旦那さん、どうでしょう、まだ典子に未練はありますか?」


男は目を逸らさずに言った。
未練だと?
俺と典子を引き離そうとしているのか。
俺だけではない。
俺と子供たち、家族から典子を自分のものにしようとしているのだろうか。
俺の存在はないかのように振る舞う男たち。
しかしそれに憤ることはなかった。
何を言われても受け流せる。


「今日で妻とは縁を切ってもらう。」


男は俺の目をずっと見たままだった。


「わかっておられるのですか?
典子はもうあなたの知っている典子ではありません。
普通の生活ができる状態ではない。
それはわかるはずだ。
あれだけの映像をみたのならね。」


男は妻をどうしたいのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ妻を救いたい。
それだけだった。


「だからなんだ。
俺はお前らから妻を取り返しに来た。
それだけだ。」


すると、典子の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「もう、私は…。私は汚れてるの。家に帰る資格なんてないの」


泣きながら妻はそう言った。
本心を聞きたい。
誰を気遣うわけでもなく、妻の本心を。


「お前がどう思ってるかは関係ない。
俺の妻である以上一緒に帰るんだ。
お前が今までの生活に戻りたいか、こいつらといたいのか、どちらかだろ!」


妻はゆっくりと話し出した。


「この人たちといたいとは思わない。
今までだって好きでいたわけじゃない。
でも・・・。」



「でも身体がいうことを聞かなかったんだろう?
頭ではわかっていてもどうしても身体が理性を抑え込んでしまう。
それが女の性というやつだ。
なにもおかしいことではない。」


男が妻の言葉を遮るように言った。
俯いて泣いている妻。



「お前の本心を聞いてるんだ!」


大声で妻に向かって言った。


「今までのことじゃない。これからお前がどうしたいかだ!」


妻もそれに返すように大きな声で言う。


「私だって・・私だって今までの生活に戻りたいわよ!」


それが妻の本心なのか。
ほんの少しだけの安堵感を感じた。
そして男に言う。


「お前らのやっていたことは許されるわけがない。
ただ俺はもう今までのことじゃなく、これからのことしか考えていない。
もう今日限りで一切の妻との接触をやめてくれ。」



男はもう一度妻に聞いた。



「本当にいいのか?
一度抜けて戻れるものではない。
これから何もない生活でお前は本当に満足ができるのか?」


妻は即答した。


「もう、そんな世界に戻りたくない。」


男は言った。


「わかった。
旦那さん、今後一切こちらから連絡を取るのは止めにしましょう。
本人にその意思がないのであればいくらこちらから接触しても仕方ない。
我々はスマートな組織だ。
ビジネスの観点から見てもメリットがないのであれば典子には何の魅力もない。
もちろん、女としての典子に魅せられたスタッフが多数いるのは事実ですがね。」



メリットデメリットでしかものを考えていない男たち。
妻を商売道具としてしか見ていない。
それは結果としていい方向に働いたということか。


「当然だ。
接触はもちろん連絡先も今すべて削除するんだ。」


男は携帯を取り出し、いじりはじめた。
そして後ろにいた男に指示した。


「おい、パソコンに入ってる住所も電話番号もすべて消すんだ。
旦那さんの目の前で消せ。」


後ろにいた男は俺のところにパソコンを持ってきて、その場で削除した。


「いいか、本当にこれで終わりだ。
お前らのやったことを考えるとこれだけで済ませるわけにはいかない。
ただ妻のこれからのことを考えてお互いにこれで終わりだ。
俺にとっても妻にとっても、お前らにとってもこれ以上デメリットのあることはしないこと。
それだけは共通認識として持っていてくれ。」


そういうと、男は返事をした。


「ええ、もちろん。」


そして妻と一緒に部屋を出た。


2人しかいないエレベーターの中、妻は言った。


「本当に・・・ごめんなさい。。
私には家に帰る資格ない・・・」


泣きながら小さな声で言った。
そんな妻に言う。


「お前のやっていたことは許されることじゃない。
ただ、お前だけの問題じゃない。
俺も気づいていながら何もできなかった。
そして子供たちにとってはお前は立派な母親なんだ。
ずっと母親としているべき存在なんだ。
もちろん、俺にとっても・・・。」


妻は嗚咽を漏らしながら泣き始め、エレベーターが1Fについてドアが開いても止まらず、待っていた人達に怪訝な目で見られたのを覚えている。






あれから2か月。
夕食を囲む家族4人。
妻がいなかった期間のことは、子供たちには急な出張だったと言ってある。
だからこそ何もなかったかのように接しているのも事実だ。
子供たちも幼いわけではない。
何かを感じ取ってはいるだろう。
しかしそれはこの家族にとっては問題にするべきことではなかった。
それよりも先を見ること。
過去を振り返るのではなく未来を見ること。
それが逃げだと思われることもあるかもしれない。
しかし自分たちにとって今本当に大切なことはそれだと気付いた。
夕飯を家族4人で食べられるこの喜びを感じられることが幸せな日常だと。


もう2度と見たくない。
私の知らない妻なんて。










東京都内某ホテルの一室。
某大企業会長はソファーに座っていた。
部屋へ入ってくる長髪の男。


会長は口を開く。


「やあ、久しぶりだね。
この間のやつ見たよ。」


長髪の男が返す。


「ええ、ありがとうございます。」


会長はにやけた顔で言う。


「しかし私は前に見せてもらった例の人妻がよかったねぇ。
あの何でもありな人妻さん。
新作はまだかい?
また今度お相手させてもらいたいね。」


「実は、彼女はの新作はもう出ません。
我々の元を去りました。
ですがまた別の女を見つけましてね。
会長好みだと思いますよ。
今度は専業主婦です。」


「まってくれ、去ったとはどういうことだ?
彼女にはかなり出資したはずだ。」


「ええ、我々としても残念でしてね。
しかし本人がそういうのですから仕方のないことです。
こちらが新しく見つけた主婦の映像です。
一度ご覧頂けたらと思いお持ちしました。」


そういうと長髪の男はCDROMを一枚テーブルの上に置いた。


「それでは、またご連絡お待ちしております。」


そう言うと部屋を出て行った。



会長は電話を取出し、あるどこかに電話を掛けた。


「ああ、お久しぶりですね。実はね、今、中西君が来ましてね、例の女のシリーズはもう中止になったらしくてね、聞いてますか?
ええ、もちろんですよ。どれだけ出資したと思ってるんだあの男は。
まあね、映像はありますから居場所も何も丸わかりですからね。
こちらの好きにさせてもらいますよ。」


しばらく話をして電話を切る会長。
会長はソファーから立ち上がると別のところへ電話を掛けた。
コール音が鳴る中、ポツリと言う。


「終わりにできるわけないだろう。あの女の裸も、隠している淫乱な部分も何もかもすべて知っているんだよ私は。」
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [2]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “423” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15834) “夕方の慌しい駅前を抜け、数百メートル離れたホテルのロビー。
レストランの待ち合わせをしている客、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる客、さまざまな人々が日常を過ごしている空間。
その中を妻と探偵と俺の3人で歩く。


「君はここで待っててほしい。」


探偵の仕事の領域を超えているであろうことはわかっていた。
しかしそれを承知でついてきてくれた探偵、今自分にとって信じていいと言えるただ一人の人間だろう。
探偵は頷き、ロビーにあるソファーの方へと歩きだした。
そして俺はエレベーターの方へ向かう。
妻は何も言わずについてくる。
エレベーターが到着し、乗り込む。
他に客はいない。
妻と2人だけのエレベーター内。
11階のボタンを押す。
ホテルから1歩外に出れば帰宅途中のサラリーマンや若者が行き交ういつも通りの日常。
非日常を歩んでいるたった一人の自分。
今でも夢なんじゃないかと感じることがある。
それでも2人っきりのエレベーター内でどんどん上に進んでいくことで更に非日常を大きなものに感じさせられる。
これが今の俺の現実なんだ。


エレベーターは11階に到着し、ドアが開く。
明るく重厚な雰囲気の廊下を進んでいく。
1101・・・1102・・・男達のいる部屋が近づく。
なぜかさっきまであった怒りが収まり、異常なほど冷静な自分がいた。
自分の弱さ、自信の無さ、今起こっている現実にどうすればいいかわからない自分には怒りに身を任せることしかできなかった。
今はやるべきことを見つけた。
いや、自分でもそれが一番正しいことなのかわからない。
ただ、少なくとも自分の本能が今俺を動かしていることだけは確かだった。
原因を考えることから逃げているのかもしれない。
それでもいい。
解決なんてないかもしれない。
ただ一つ一つ絡まった糸を解くことへの動機付けはある。
それは過去を信じることだ。
自分が妻や子供たちと過ごした過去は事実であり、それは何物にも代え難い大切なもの。
自分がそれを信じているからこそ今こうして行動しているのだろう。
論理的な考えは一切必要ない。
ただ自分の本能がどう感じているか。
そしてその感情のままに。
子供たち、そして妻を・・・。



1105室のドアの前で立ち止まる。
インターホンを押す。
中の音は一切聞こえない。
突然、部屋のドアが開いた。


「ああ、どうも。」


さっきの短髪の男だ。


「どうぞ」


そういうと男は中に入っていった。
俺と妻は部屋に入り、男の向かった方へと歩く。
スイートルームだろう。
少し歩いた程度では部屋の全てがわからないほど広く、いろんな部屋があるようだ。
ドアから真っ直ぐ進むと大きな窓から外の夜景が見える広い部屋があった。
キッチンや冷蔵庫、それに暖炉まである。
暖炉の前のガラスのテーブルの傍に人が立っていた。
さっき家に来ていた長髪の男。
おそらくさっきの電話もこの男だろう。
妻は今どんな顔をしてこの場にいるのだろう。


「旦那さん、さっきはすみませんでした。あいつもわるい奴じゃないんですがね、どうも短期というか・・・俺から言っておいたんでどうか多めに見てあげてください。」


短髪の男はその言葉が気に入らない様子でこっちを見ていた。


「話をしにきた。」


俺は長髪の男の目を見て言った。


「ええ、我々もお話が。どうぞお掛けください。」


そういいながらガラステーブルの横にあるソファーに手を差し出した。
妻と2人でソファーに座る。
長髪の男も向かい側のソファーに座った。


「妻と今後一切関係を切ってくれ。俺が言いにきたのはそれだけだ。」


長髪の男は俺の目を真っ直ぐ見てそれを聞いていた。
その状態のまま5秒ほど経っただろうか、男が口を開く。


「実は我々の話というのもそのことです。奥さんの今後のことです。
・・・まあ、こんな状態になったらもう旦那さんも今まで通りにはいかないでしょう。
離婚していただきたいと思いまして。その慰謝料や子供さんの残りの学費なんかの話もしなければと思いましてね。」


男は俺の目から一切視線を逸らさずに言い放った。
離婚してくれだと?


「なぜお前らにそんなことを決められなければならない!俺は関係を切れと言ってるんだ。」



しばらくの沈黙の後、長髪の男は言った。


「ご主人は、奥さんとこれからどうされるおつもりですか?
我々は・・・奥さんを女として育てていこうと考えてます。
もちろん環境も今までより豪勢な生活ができる環境になりますし、苦労はさせるつもりはありません。
これからお金を稼いでそのあとは自分の好きな人生を歩めばいいと思ってます。」


困惑、不安、焦燥、いろんな表情の入り混じった顔の妻。
この男は俺を挑発しているのだろうか。


「俺は離婚する気は無い。」


まるでこっちの言うことを聞いていないかのようにかみ合わない会話だった。
妻はもう自分たちの奴隷だとでも言わんばかりの言い方。


「離婚する気は無い?
それが旦那さんのご意思ということですか・・・。」


「そうだ。」


「旦那さんはDVDもご覧になっているのですよね?
それでも構わないと?」


妻の目に涙が溜まり始める。
俺は言った。


「俺はこれからの話をしている。」


俺の言った事が想像とは違った答えだったのだろうか。
一度も俺から目線を逸らさなかった自信の溢れたその男は少し下を向き、もう一度俺の目を見て言った。


「そうですか・・・わかりました。」


わかりました。
妻の意思などまるで無いものと同然で話をしている男。
こいつから了承を得る気は無い。
ただこの話をしなければ先に進めないことがわかっていたから話しただけだ。


それでも未練がましく話し始める。


「我々はそれでも構いません。
ただ、典子がどういう女になったのかを知らずに今後のことを考えることはできないと思いますよ。
これはあなたの為に言っています。」


そういうと男は立ち上がり、部屋の奥のほうへ行きながら俺に言った。


「旦那さん、ちょっとこちらへ。」


男は広い部屋の奥、のドアへと向かっている。
俺を誘い出してどうにかするつもりだろうか。
すると男は振り返り、少し笑いながら言った。


「安心してください。手を出したりするわけじゃありません。ちょっとお見せしておかなければならないものがあります。」


見せておかなければならないもの?
俺は立ち上がり、男について行く。
妻はソファーに座ったままだった。


「あ、奥さんもこちらへ。」


今更奥さんと呼ぶのか。
妻も後をついてきた。
男はドアの前で立ち止まり、俺や妻が来るのを待った。
4,5秒して3人ともドアの前に立ち止まり、男はドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開ける。


部屋の中は明るく、人が数人いるようだった。
男が中に入っていき、俺と妻も続いた。
すると声が聞こえてきた。
女性の声。
それもAVのような喘ぎ声。
何も無ければただテレビからAVの音がしているとしか思わなかっただろう。
しかし今この男達と一緒にいるこの空間でこの声が意味しているものは一つだった。
それでも男は中に入っていく。


真っ白なベッドの上で女性がロープで全裸で全身を縛られ、男に跨っていた。
後手に縄で縛られ、その分前へと突き出された胸も縛られ、苦しそうに張り詰めている乳房。
俺達が入ってきたことに気づいているのだろうか。
下を向き、髪が乱れ顔もよく見えない。
そして何も無いかのように腰を振り続けている。
無我夢中でそれ以外のものは一切見えない状態。



「この女も奥さんと同じ、人の妻です。
ご主人がいる普通の奥さん。
自分でもこういう関係が続くことに嫌悪感を感じているにもかかわらずまた我々のところへ来るんです。
なぜかわかりますか?
もう身体がそんな身体になってしまってるんですよ。
もちろん自分からこちらへ連絡が来るなんてことはないですよ。
ただ定期的にこっちから連絡して呼び出しています。
ちなみにこちら下の男性はうちの株主の方です。」


男がしゃべりだした瞬間、縛られている女性はこちらに気づいたようだった。
驚くよりも気が動転している様子で必死に顔をそむけている。
それを楽しむかのように株主の男は腰を強く振り始める。
通常ではありえないようなこの状況でもその女性は逃げようとせずに男に腰を掴まれ、されるがままだった。



「・・・そして、あなたの奥さんもこの奥さんも同じ境遇だということ。」


「それでも奥さんとやっていけますか?
我々はそれでも構わない。
ただ旦那さんがまた傷つくことも覚悟の上でということです。
我々も責任は取るつもりで動いてますので。」



女性の喘ぎ声がいっそう激しくなる。
自分と男が話をしているこの状況や空気、それと同じ空間にいるはずだ。
それすら理解に苦しむほど異質な状況だった。
株主の男は女性を仰向けに寝かせ、女性の腰を掴み、そこに自分の腰を力いっぱい押し付けている。
まるでオスとメスだった。
この2人が同じ人間とは思えなくなる。
水と油のように、同じ部屋にいるのに緊迫した空気と隠微な空気が混じりあわずに分離し続ける異様なもの。



男がしゃべり終るとすぐ傍の妻のすすり泣く声が聞こえてきた。


「もう・・・私は汚れてる・・・もうやだ・・・無理なの」


泣きじゃくりながら話す妻。
過去を後悔しているのだろうか、それとも今目の前にある光景に自分を重ねて見ているのだろうか。
自分が今までしてきたことを客観的に見れていたはずはない。



「いい加減にしろ。自分で自分を卑下するようなことはするな。」


弱気になり、自分を汚れたものとしかみれなくなっている妻に憤りを感じた。
俺はそんな妻を救おうとしているんだ。


そしてそのまま妻を連れてその部屋を出た。
これ以上あの部屋で話なんてできるはずがない。
あの光景を見ている分妻の中の何かが壊れていってしまう気がする。


長髪の男も後をついて部屋を出てきた。


「覚悟をして欲しかったんです。」


男が俺に向かって言った。
覚悟?
自分の妻との間の覚悟だと?


男は続けて話し出す。


「DVDで見ただけではわからない部分、あなたの知らない部分がたくさんある。
もしかしたらあなたに見せている典子の一面はほんの一部に過ぎず、我々と共にいる典子が本当の典子かもしれない。
それに典子自身も気づいていないのかもしれない。
何が正しくて何が間違っているのかなんて誰にもわからないんですよ。」


男の言葉がどこか冷めた感じに聞こえた。


「それは間違っている方に引き込んだお前が言うことか?」


男は視線を俺の目から逸らさずに数秒沈黙し、しゃべりだした。


「間違っているとは思っていません。
そして、私がなぜこんなことを言うのか・・・あなたに覚悟をして欲しかっただけです。
それがないのであれば典子はうちで引き取る意思があるということ。
今まで放した女がどうなったかはわかりません。
後追いするようなことはしませんからね。
しかし私は典子がどこまで堕ちたのかを知っています。
だから言っているんです。」



どこまで堕ちたか・・・。
そんな言葉が出る事に下らなさを感じた。
遊びの延長で生きているこいつらの生き様を見たような気がした。
そして冷静でいる自分に対してもこれでいいのかと迷いすら感じる。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [3]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “422” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9687) “音が消えたかのように静まり返る家の中、妻の声が響く。


「もしもし、私です・・・」


目の前に旦那である俺がいることで気を使っているのか、自分の罪悪感に耐えられないのか、ずっと下を向いたまま話続ける。


「今から会いたいんですけど、、どこにいますか?・・・いえ、そういうことではなくて、旦那が・・・警察に通報されるかもしれません。」


警察という言葉を出せば男たちが言うことを聞くと思ってのことだろうか、妻が自ら警察という言葉を使っていた。


「あの、お願いします。このままじゃお・・・・・」


妻は携帯電話を耳から話、ボタンを押す。
男たちに一方的に電話を切られたらしい。


「やつらはなんと言ってた?」


妻に聞く。
俺に対するさっきまでの口調とは違い、目上の人に接するかのように電話で話す妻に悲しさを感じた。
しかし今は男達に話をつけるのが先だ。


「用はないから会うつもりはないって・・・。」


俺は何も考えずに足元に落ちていたテレビのリモコンを手に取り、思いっきり床に投げつけた。
リモコンは割れ、電池が散乱しながら転がっていった。


「俺は男達と話をすると言ってるんだぞ!何が用はないだ!あれだけのことをしておいてふざけてんのか!」


妻は激高した俺を見て動揺した様子で俺の目を見ていた。


「ごめんなさい!でも・・・私もどうしたらいいか・・・もう何を言っても言い訳にしかならない。謝るしかない。あなたの前から姿を消しますから・・・お願いだから・・・」


動揺してパニックになっている妻を見て探偵が口を開く。


「少し落ち着いてください。今は冷静に、混乱しても仕方のない状況ですが冷静でいないと。」


わかってる。そんなことはわかってる。
でもどうしようもなく傷つけられ、侮辱され続けた自分は怒りに任せて暴れるしかできなかった。
心の中でピンと張り詰めていた一本の糸が切れそうになる。
自分の感情をどうコントロールしたらいいかわからない。
目からは涙が溢れ出てくる。
俺が何をしたって言うんだ・・・。


それから妻のすすり泣く声と俺の嗚咽だけが部屋に響いていた。
疲れたのか次第に落ち着き始め、部屋の静けさが戻る。
いつもと変わらない室内なのにいつもとまったく違う空気が流れていた。
どれくらいの時間がたったかわからなかったが、ただ時間が過ぎるだけのその空間に身を任せていた。


「お前はどうしたい?これからどうしたいと思ってる?」


落ち着き静まり返った室内。
俺の小さな声だけが聞こえた。
しばらくして妻が口を開く。


「もう、私の意思も権利も何もない。すべてあなたに従います。離婚してもっと素敵な人を見つけてください。」


なぜこんなになってしまったのだろう。
ついこの間まで普通に暮らしてたはずなのに。
その普通がどれだけ幸せだったかを今感じる。
俺が単身赴任になったから、俺が妻を見ていなかったから、俺が稼ぎがよくないから・・・。
自分がどこでどうしたらこうならなかったのかを考えずにはいられなかった。
男達にいいようにされていた妻が謝り、すがり付いてくれることを期待していたのに。
妻の口から「離婚」という言葉が出てきたことでもう元の生活には戻れないのだと自覚させられる。
誰かへの怒りよりも自分の無力さを感じずにいられなかった。



「男達との関係が良いのか?」


自信をなくした男の声に妻が答える。


「そういうことじゃない!あれは・・・あの人たちの言いなりになってるのはつらかった。あなたや子供たちへの罪悪感に耐え切れなくてもうやめたい、逃げたいって思ってた。」


罪悪感・・・。


「でも逃げなかった。」


この言葉が妻をどれだけ傷つけるかわからなかったわけではない。
しかし俺の口から自然と出ていた。



室内に広がる沈黙。


俺も妻も下を向いたまま、ただ床だけを見つめていた。
しばらくして妻の声が聞こえてくる。


「・・・私みたいなのが妻になって・・すみませんでした。あなたが大好きで、傷つけたくなかったのに・・・う・・・あなたの人生をこんなに・・・めちゃくちゃにしてしまって・・・。」


妻の声を聞きながら再び涙が出てくる。
付き合い始めて結婚し、何気ない幸せな生活が思い出される。
妻は今まで俺や家族のために一生懸命やってきてくれたのに・・・。
それが嘘だったかのような大きな出来事。


「・・・・・」


「やめたいのか?」



妻に聞く。


「お前はその関係をやめたいのか?」


下を向いたまま妻は答える。


「もちろんやめたい・・・こんな風になることなんか望んでない。でも、私だけじゃどうにもならなくて・・・もうこんな関係やめたいって何回も言ったけど、私も駄目で・・・。」


妻の目を見る。
俺の妻、子供たちの母親でありながら自分の意思ではどうにもならない状況。
普通に生活していたら到底信じがたい状況。
それがDVDを見せられ、男達と会い、今現実に目の前にある。


「今からお前の会社に行こう。男達はいないかもしれないけど関係がないわけじゃないはずだ。なんとかして男達と会う。」


妻は素直にうなずく。


「でも、会社は普通に仕事してる人だけだから難しいと思う」


妻がそう言ったとき、妻の電話が鳴った。
妻は携帯の画面を見て、俺の顔を見る。


「男達か?」


妻は頷く。


妻に携帯電話を渡すよう、手を差し出す。
妻は携帯電話を俺に渡す。
子供が生まれてから強い母親になっていたはずの妻が、付き合い始めた当初のか弱い女に見えた。


携帯電話の通話ボタンを押し、電話に出る。


「今どこにいる?」


男達は妻が俺と一緒にいることはわかっている。
まるでそれも想定内と言わんばかりに落ち着いて答えた。


「旦那さんですか?先ほどは失礼しました。あの場にいても混乱するだけだと思い失礼させていただきました。」


この冷静な口調に言葉使い、長髪の男か。


「お前らに話がある。」


「旦那さん、私たちもお話があって電話しました。できれば今から言う場所に来ていただいてもよろしいでしょうか?」


「どこだ?」


「福岡クレイホテルの1105室によろしいでしょうか?今そこで待ってます。」


ホテルの一室で話をしようということか?
公共の場なだけ話はしやすいだろう。


「今から行く。」


そう答えた。
冷静な男。
人の妻を弄びながらその旦那である俺に躊躇も何もない口調で話す男。
暴力的な男よりも話はできるだろう。
今やるべきことはこの男達と話をつけるだけだ。
今一番必要なこと。
子供たちの為、そして妻自身の為に、俺自身の為に今一番必要なことが何かを考えた。
男達がどういうつもりでこんなことをしているのかは到底理解できない。
しかし俺が今やるべきことは唯一つ。
妻から手を引かせること。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [4]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “421” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(19999) “「ねえ、大丈夫?」


声が聞こえる。
妻の声だ。
俺に声をかけてくれているのか。
俺を心配してくれているのか。
辛いことの連続で心が折れかけている俺に安らぎを与えてくれる声。
俺は妻を俺の人生の付属品のように考えていた気がする。
妻は俺のパートナーだから俺だけに尽くしてくれる。
でもそうではなかったという現実を突きつけられ、俺は動転している。
そんな中俺を気遣ってくれる妻の声に安らぎを感じる。


体を揺すられ意識が戻り始める。
でも体は動かない。
感覚もない。
目も開かない。
俺はまだ意識を失っているのか。
目が覚めることを拒否しているのか。
夢なのか現実なのか区別が付かない。
出口のないこの夢の中をずっとループし続けるしかないのか。


リビングに倒れ、意識を失っている俺。
そしてその状況を利用するかのように台所で妻を犯す男達。
旦那である俺がいるにも関わらず喘ぎ声をあげ、ただ快楽にのに身を委ねる妻。
妻は俺を気遣ってくれていたのでは・・・?
それが俺の意識の中で見た幻想だったことに気づく。
俺の希望する幻想。
DVDを見て何が起こっているか覚悟はできていたはずだ。
ただの浮気ではなく、どんどんエスカレートしているものとはわかっていた。
しかし今、目の前に現れた現実は想像を遥かに超えていた。
妻はもう俺の知っている妻ではないのか。
何をすればいいのかわからない。
いや、何からすべきなのかを考えることができない。
混乱?知ることへの恐怖?現実を見つめることから逃げている?
頭の回転を俺自身が拒否していた。
手足も動かない。
男達は俺がそこにいないかのように妻を弄ぶ。
何もできずにただ見ているだけ。
まるで俺の意識だけがそこにあるかのように。


妻がいつも俺や子供達に料理を作っていたその場所で、システムキッチンに手を付き、後ろから男に犯されている。
それを舐め回すかのように撮影する男。
そこで料理を作り、テーブルで家族4人で食事をしていた頃。
それが果てしなく遠い昔のことのように感じられた。
今、妻はその場所で男達に犯されている。
何もできない俺をあざ笑っているのだろうか。
妻の胸を揉みしだきながら腰を動かす男。
男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
旦那と住んでいる家で人妻を犯すこと、そしてそれを撮影していることに興奮しているのか。
その息遣いをかき消すように喘ぎ声をあげる妻・・・。
そこに倒れている俺は完全な傍観者。
ただそこにある家具と同じ存在。
俺の家のはずなのに・・・。
このまま・・・ずっとこのまま目を覚ましたくない。
俺はそこまで強い人間じゃない。
どんどん意識がマイナスな思考に囚われる。
消えそうになる意識を呼び戻すかのように大きくなる妻の喘ぎ声。
俺以外の男にあんな風に・・・。
妻は何を思っているのだろうか。
俺を見ているのか。
俺の存在をしっているのか。
今どんな表情でどこを見ているのか。
どれくらいの時間こんなことをしているんだろう。
子供達はまだ帰ってないのかな。
子供達は・・・。
今帰ってきたら子供達は・・・。






意識が戻り始めるのがわかった。
何も聞こえない。
目を開けると探偵が俺を揺すっている。
何が起きたんだ?
今のは夢か?
一抹の期待を感じながらも、探偵がいるこの家を見渡すとそんな期待も打ちひしがれる。
やっぱり現実か。。。


「大丈夫ですか?」


探偵の声がはっきり聞こえる。
どうやらソファに寝せられていたらしい。


「俺、気を失っていたのか?」


だんだんと意識がはっきりしてきた。


「ええ、男達に殴られて・・・。1,2分ほどですが。救急車を呼ぼうかと考えていたところですよ。」


「そうか、やつらは?」


「今去っていきました。」


「妻は?」


探偵の顔を見る。
探偵は俺の目を見て、テーブルのほうを指さした。
探偵の指す先を見る。
テーブルの横に妻が立っていた。



まだ重い頭を振り払うかのように立ち上がり、妻の方を向く。
出て行った男たちに対する怒りや理不尽さを感じ憤る自分。
それを抑えるように妻に問う。


「どういうことだ。」


これを言うのが精一杯だった。
怒ればいいのか悲しめばいいのかわからない。
客観的に見て怒るところなのだろう。
しかし今起きているこの非現実的なことに頭が慣れない。


「ごめんなさい。」


妻が口を開く。


「浮気してたのか?いや、浮気どころの話じゃない。お前AV会社で働いてたのか?AV女優として。」


この言葉を口に出すことが凄く躊躇われた。
あの男たちの言ったことが本当なのかどうなのかわからない。
言葉に出し妻の返事を聞くことで、もう戻れないところにいってしまうような気がした。
もう今の混乱から抜け出したい。
それが一番の本音だった。
だからこそ妻の口から聞きたくない。
だがもう逃げ場は無い。
そう自分に言い聞かせる。


「あの人達の言うことは・・・」


妻が自分で言葉に出すのを恐れているのがわかった。
口を動かし、なんどもしゃべろうとするが言葉が出てこない。
耐え難い沈黙だった。
しかし必要な沈黙・・・。
迷いながら、目線を部屋の隅に移したり俺を見たりと覚悟が決まらない妻だった。
その迷いがその空間の空気を更に重くしていく。
妻は意を決した様子で俺の目を見た。。


「事実です。」


妻は認めた。
目に涙を一杯に溜め、今にも零れ落ちそうな状態で。
何で泣くんだ。
怒りが襲ってくると思っていた俺の中には喪失感しかなかった。
なぜ怒れない。
怒らなきゃ、妻を大切に思ってるのなら怒らなきゃ。
もう妻への感情は怒りすら通り越しているのだろうか。


妻は涙声で言う。


「謝るしかないです。私みたいな人間にあなたと話をする資格も何もありません。」


敬語でそう話す妻。
どんどん妻との関係が開いていく気がした。
妻は脅されていたのかもしれない、何か弱みを握られていたのかもしれない。
しかし今、そういう擁護の気持ちが湧かない。
冷静なのか気力がないのかわからない、ただ淡々と聞いた。


「資格とかどうでもいい。すべてをお前の言葉で話してくれ。なぜAVなんかに出た。金か?」


「お金じゃないです。」


相変わらず泣きながら話す妻。


「お金じゃないのなら何だ。弱みでも握られたのか、ただの浮気か?」


だんだんと今話していることが現実だということに慣れ始めたのか、頭が回るようになってきた。


「違う。。。浮気なんかじゃ・・・あなたや子供達を大切に思ってたのに・・ぃ・・」


どんどん感情が溢れ出す妻。


「取りあえず落ち着け。椅子に座れ。」


そう言って妻を座らせる。
俺もテーブルを挟んで逆側の椅子に座る。
探偵にはソファーに座ってもらった。


まずは落ち着くまで待たなければならない。
それから5分ほど、妻が泣きやむまで待っていた。


落ち着いた妻は話し始めた。


「何を言っても私のやったことの言い訳にしかならないし謝る以外何もできないです。でも・・・」


妻の話を遮るように言った。


「それはもうわかったから事の成り行きを詳しく教えてくれ。言い訳でも何でもいいからお前の思うとおりに話してくれ。なぜこうなった?」


妻自ら選んだことなのか無理やりこんな状態になったのかはわからない。
ただ今は妻の立場になって聞くしかなかった。
妻は答え始める。


「AVに出たつもりも浮気したつもりもない。前の会社にいる時に取引先の人に飲みに誘われて・・・断ったんだけど・・・しつこく誘われて・・・。」


飲みに誘われた?さっきの男達が言っていたSという男か?


「その取引先の男との飲みにいったのが始まりか?」


「はい、その取引先の担当者が横暴な人で、私が断るたびに機嫌損ねて、、会社の取引にまで関係して競うになって・・・。」


「それで?」


「飲みに行くのを断ったくらいで取引に影響したら私にも責任が出てきちゃうと思って怖くて・・・あなたにとっては全部言い訳に聞こえるだろうけど、私・・怖くて・・・。」


「だから言い訳でもいいからすべてありのままに話せ!その担当者はお前が結婚してるのは知らなかったのか?なぜそんな非常識な誘いにのったんだ!」


「ごめんなさい、、その人も結婚してるのは知ってたよ。。それでも誘われて、もうどうしようもなくて・・・飲みに行ったの。」


「そこで大人の関係になったということか?」


「1回飲みに行くだけだって言われたからついていったんだけど、その後も何回も誘われて数回のみに行ったの。そして・・そういう関係になった。」


そういう関係。俺の前で他の男と関係したと改めて口に出されるとショックを受けると思っていた。
しかし何も感じなかった。
ただ脱力するだけ。
既にDVDを見ているからだろうか。


「はー・・・それで不倫関係になったということか。」


「違う。お酒も飲まされて酔った状態で・・・私だってあんな人とは・・・」


再び妻の目から涙が溢れる。
妻はそのまま話し続ける。


「でもどんどん私のやっていることが会社やあなたにばれるのが怖くて言いなりになるしかなくて・・・会うようになった。」


Sという男の卑屈なやり方に怒りを感じる。
弱みに付け込んで脅しているのと同じじゃないか。
それでも冷静を装って聞く。


「そしてその男がAV会社にお前を紹介したということか?」


「私だってAV会社だって認識はなかった。ただ、もう戻れないところまで行ってしまって。」


認識はなかった?
どういうことだ。
妻がそのまま話始める。


「さっきの男の人を連れてこられて、関係させられた。それまで撮られてた写真や映像をネタに脅迫されて、もう会うしかなくて。」


「そしてそのまま撮影してたってことか?」


「撮影だなんて。。。売られてるなんて知らなかった。さっき初めて聞いたの。」


「お前車の中にあったDVD見たよ。あんな感じで撮影させられてるのに知らなかったと言えるのか?」


「ごめんなさい。でも本当に知らなくて、今の会社に転職したのだってさっきの男達に言われて。。それでも事務の仕事してるの。だからAV女優なんかじゃない!」


妻に驚きの反応はなかった。やっぱり俺がDVDを見ていることは知らされているのか。
それに事務の仕事をしている?
ますます混乱が深まり始める。
たった数分の話では理解できないほど根深く行き渡ったものなのだろうか。


「そもそもなんで転職までする必要があるんだ!」


「怖くて・・・」


妻は完全に泣いていた。
会社を移れと言われたのか?
話だけを聞くと妻は完全な被害者じゃないのか?
こんなにボロボロに泣くほど辛い思いをしてきたんじゃないのか?



「なぜ言わなかった!」


「言えないわよ!あなただってDVDを見たんでしょう?あんな状態の私を見て誰が私を庇ってくれるの・・・誰にも相談する事もできない。。何もできないじゃない・・・」


感情を表に出し始める妻。
今まで我慢していたものが一気に噴出したかのようだった。
警察が相手にしてくれるかそうでないかの話じゃない。
証拠云々の話じゃない。
男達のやっていることは犯罪だ。


「今から警察に連絡する」


俺は妻に言った。
すると予想外の返事が返ってきた。


「やめて!これ以上傷つきたくない。。。」


まだ男達を庇っているのか?


「犯罪に巻き込まれておいて警察に言わないってどういうことだ!」


「警察に言ったら・・・私どうすれば・・・」


DVDを見られることを心配しているのだろうか。
確かにあのDVDは証拠品になるかもしれない。
しかし妻がDVDの存在を認めなければ何も意味を持たない。
それ以外に証拠なんて無い。
妻がDVDを認め、その上で証拠として出すしかない。
しばらくの沈黙の後、探偵が口を開いた。
2人っきりの話でそこに探偵がいることを忘れていた自分に気づく。


「あの、奥さんの気持ちもわかります。
職業柄いろんな人と話をする機会があるのですが、特にレイプ被害者なんかは警察に言わずに泣き寝入るする女性も多いようです。
それは警察に話をすることでレイプされたという現実を認めることになる、また事情聴取ですべてを話さなければならないなど女性にとってはとても敷居の高いものだからだそうです。
奥さんもそれと同じ風に考えてもいいのではないでしょうか?
もちろん奥さんの意思でやっていたのではないとわかった今、やつらのやっていたことは犯罪なのでそのままにしておけるわけがありません。
しかし今一番に考えるべきは奥さんのことじゃないですか?」


探偵は妻を心配してくれていたのだろう。
しかしその言葉が俺にとっては男達を庇う言葉にしか聞こえなかった。


「じゃあこのまま何も無かったことにしろっていうのか?お前はやつらの味方か!」


荒い口調で探偵に吐き捨てるように言う。


「そういうことではないんです。 それで傷つくのは奥さんですよ。それに男達の言っていたようにまず奥さんが被害者だということを訴えなければどうしようもありません。」


何もできないこの状態にイライラが募る。


「今からお前の会社に行く。男達と話をつける。もう2度とお前に接触させない。そしてお前の映像を渡してもらう。」


妻は俯いたまま口を開く。


「あの人たちは会社にはいない。あの会社の社員じゃないの。会社は普通の映像製作会社。社長が仲間内で個人的にやってるだけだから他の社員も何も知らない。」


社員じゃない?
どういうことだ?
社長の個人的趣味で妻が遊ばれていたということか?
でも男達はビジネスだと言っていた。
下っ端には何も知らせずにやっていたということか!
とにかく男達と話をしなければ何も始まらない。


「じゃあ電話をかけろ!」


妻はしばらく俺の目を見たまま動かなかった。 電話をしたくないということなのだろうか。 それが男たちへの気持ちなのか俺への躊躇いなのかわからない。 俺はそのまま何も言わずに妻の目を見続けた。 30秒ほどだろうか固まった時間が終わり、妻は携帯を手にし、電話をかけ始めた。
妻を許せるのかそうでないかを考える余裕は無かった。
ただ男たちと妻の関係を切ること。
できるかできないかではなく行動し続けるしかなかった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “420” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(28798) “太陽が照りつけ、見ているだけでも暑い日差し。
その中を家に向かって走る車。
助手席に座っている探偵に言う。


「俺どうなるかわからない。」


探偵は俺がマンションの部屋から出てきてから一言もしゃべっていない。
外にいても中からの音で何が起こっていたのかはわかっているのだろう。
いや、今は何も聞くべきではないと読んでいるのかもしれない。
そうであれば気の利く男だと思った。


「お気持ちはわかります・・・ただ、あまりやりすぎるとあなた自身が損をする形になりますよ。もちろん、今の状況はわかるのですが・・・」


おれ自身が損をするか・・・。
さっき俺がやったことも警察沙汰になってもおかしくない。
そして俺がこれから理性を抑えられないことでもっと酷い結果を生むかもしれないこともわかっていた。
もし警察沙汰になれば勤めている会社にも知れるだろう。
それでもよかった。
法律や常識の通用する相手ではないことはわかっている。
そいつらに常識という盾をもって戦っても勝てるわけがない。


「心配ありがとう。でも今どうにかしないと後には戻れないんだよ」



俺は何かに試されていたんだろうか。
旦那としての資格が俺にあるのかどうか。
だとしたら俺はもう旦那失格なのかもしれない。
今起きていることの現実感のなさにそんなことを考える。

これは全部夢で、朝起きたら妻は朝食を作っていつも通りに「おはよう」と言ってくれるんだ。
でもその夢を覚まし、いくら眠りから覚めようとしても起きれない。
自分ではどうにもならない。
どうしていいかわからない。
ずっとこの嫌な夢を見続けなければならない。
俺は夢の中でそこがどこなのか考えても見つからず、先にも進まず後ろにも戻らない。
このままじゃ永遠に同じ夢の中にいなければならない。
そして一つだけある扉。
その先に光が待っているのか闇が待っているのかわからない。
それが怖くて避け続けてきた扉。
もっと早くに開けてたら良かったのだろうか。
見えない扉の向こう側を恐れていた自分が酷く弱い存在に思えた。
それでももうその扉を開けなければ自分はその場所で力尽きてしまう。
自分は試されているんだろうか・・・。
そんな感覚だった。



車は家に一番近い交差点に差し掛かった。
赤信号で停まっている車。
この信号が青になれば左折し、ものの1分もかからずに家に着く。
探偵がポツリと言う。


「ええ、探偵である自分にはわからないことです。ただ、このような場面に何件か立ち合わせていただいた経験から一言だけ、冷静さも必要です。」


冷静に考えないといけないこともわかっている。
それでも今のこの心の底から湧きあがる感情が最も必要だった。
自分の性格もわかっている。
ある程度の理性は働いている。
それが冷静さだろう。
それでもその理性が吹っ飛ぶことは理解していたし、それでもいいと思っていた。



信号が青になり、車を発進させる。
だんだんと家が近づくにつれ、心臓がバクバクと響くのがわかる。
さっきのマンションにいた男達は怯えていた。
まさか俺が来るなんて思いもしなかったのだろう。
しかし今度は俺が来ることを知っている。
妻と一緒にいるその男は家で何をしようとしていたのだろう。
家主である俺がいないときに妻と一緒に家に入り込む男。
考えるだけ憤りと早く家に行かなければという思いが募る。


家が見えてきた。
家の前にはワンボックスカーが止まっていた。
俺の家に確実に俺の知らない男がいる。
我が物顔で俺の家で何をしているんだ。
車を駐車場に前向きに停めた。

そして急いで車を出る。
助手席に乗っていた探偵も一緒についてきた。
今度は俺の家だ。
玄関のドアを開けるが鍵が掛かっていた。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。
手が震えて鍵穴に鍵を差し込むのがうまくいかない。
自分が動揺しているのがわかった。
鍵を開け、ドアを開く。
玄関には知らない靴が4足あった。
男物の靴が4足。
4人も男がいるのか。
そしてもう一足、妻の靴もあった。
中からは何も音がしない。
靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。



エアコンで冷やされた涼しい空気が中から出できた。
ソファに一人座っている男がいた。


「やあ旦那さん、はじめまして。」


スーツに短髪の男。
冷静な目つきで俺を見ている。
こいつが主犯か!
探偵と2人で入ってきても俺が旦那だとわかるということは俺の顔も知っているということか。

周りを見る。
ダイニングの椅子に座っている長髪を後ろで束ねたオールバックの男が一人。
そしてその横に立っている体格のいい男が一人。
手に持っているものが目に入る。
ビデオカメラ。
今まさにビデオカメラで俺を撮っているのか。
人の家で家主を馬鹿にしているのを楽しんでいるかのような薄笑いした男が。


「何を撮ってるんだ!」


俺は冷静を心がけて叫んだ。
しかし男は無言で本格的にカメラをまわし始める。
カメラのレンズを通して俺を見ている。
俺を挑発するかのように。


「はじめまして旦那さん、今日はお邪魔してます。」


その時ソファに座っていた短髪の男が立ち上がって俺に挨拶をする。

人の家に勝手に上がりこんでおいて何がお邪魔してますだ。
それでも冷静に聞く。

「妻はどこだ?」



「典子ですね、典子はそこにいますよ。」


男がキッチンを指差す。
ダイニングとのカウンター形式の間仕切りの向こうに人影があった。
この家を建てるとき妻が希望したカウンター形式の間仕切り。
キッチンで皿を洗いながらリビングにいる人と会話でき、テレビも見れる今風の作りだ。
私がこのカウンターに料理を置くから、あなたがテーブルに運んでね。
家を建てるときにそう話していたのを思い出す。

そしてその間仕切りの向こうを見る。
妻だった。
うつむいた様子の妻。
家では見たことが無いワンピースを来ている妻。
そして妻のすぐ後ろに男が立っていた。
これで4人か。

妻を見ながら叫ぶ。


「どういうつもりだ!?」


しばらくの沈黙の後妻が口を開く。


「ごめんなさい。」


「ごめんなさいじゃ何もわからないだろ!この状況は何なんだ!ここをどこだと思ってる!」
憤りを抑えきれない自分がいた。


長髪の男が言う。


「まあまあ旦那さん、いろいろ事情がありましてね。落ち着いてください。」


「とりあえず初めから全部説明しろ!」


「今日は旦那さんに会うつもりでここにきたのではないのですが、さっき電話であなたが乗り込んできたとの話があったのでそろそろ潮時かなと思いましてあなたをお呼びしました。」


「じゃあ何をしに来たんだ!それに俺を呼んだだと?ここは俺の家だ。」


「ええ、わかってますよ。・・・ですから、今日はあなたに全てお話しようと思いましてね。」


男が話始めるのを待つ。


「私たちはAV制作会社でしてね、典子が現在所属している会社でもあります。」


AV制作会社だと?
典子はAV女優ということか?
俺は今までずっと妻に騙されていたのか?
男の言っていることが真実か嘘かはわからない。
だが顔では冷静を装えても心の中では動揺が隠せなかった。
それと同時に怒りが込み上げる。
それに旦那である俺に対して「典子」と呼び捨て。
その時点で俺も心底馬鹿にされていることはわかった。
今までさんざんDVDを送ってくることからわかってはいたが、目の前にいる旦那に対してもその話し方。

男はそのまま話を続ける。


「AVと言ってもその辺にあるAVとはまた違ったものでしてね、ああ、無修正という意味ではありませんよ、あなたがた一般人は買えないような特別な流通をしているAVのことです。
1本2時間ものの販売価格が10万以上するものでして、内容により価格が上がっていくという仕組みをとってます。
なぜそんな価格でAVが売れるかわかりますか?
・・・お金を出してでも見たいと思わせる内容だからです。
お金を出してでも見たいものに対して、金に糸目をつけずに購入する層、つまりお金持ちの部類の楽しみとして作ってます。
お金持ちというのは大変なものでね、お金でできることはすべて経験してしまうんですよ。
車、家、海外旅行、好きなときに好きなことをする生活をしていると手に入らないものを手に入れたくなる。
それでもそんなに多くはいませんよ。」



「だから抱きたいと思った女を金で抱こうとするのか?
人の妻でも関係なしに金で何とかしようとするってことか!」


「いいえ。人間の欲望とは恐ろしいものですよ。
一種の例えですが、あなたがただぼーっと街中に立っていて、ただ目の前に好みの女が歩いていたら「あの女を抱きたい」と思うでしょう?
それでも金持ちというのは冷静で常識的なんです。
地位は保証されてますからね。
だから金にものを言わせてその女性を抱くなんてことはしません。
自分でリスクなんて犯さないんですよ。」


「つまり、金持ちが好きになった女にお前らみたいな下っ端がちょっかいをだすと?」


「違う。そんな下品なことはしない。
その女性に対してはかなわぬ夢です。
ただね、商品としてあるものに対しては恐ろしく貪欲なんです。
普段見れないAVを見れるとしたら・・・。
ビジネスチャンスがここにあるんです。
どこでも見れないAVがあったら金持ち達はお金を出すんです。
そういうことをしている会社です。
絶対に普通のAVにはないことです。
まあ、それはご自分でご覧になったからわかるとは思いますが。」



人の妻で遊び、その旦那をおちょくる。そのすべてを撮影したビデオテープ・・・。ということか。



「う~ん、名前は伏せておきましょうか、Sという男、彼が彼女を私のところに連れてきましてね。
その時典子の写真をいくつか見せてもらいまして、これはMの資質があると見ましてね。
その時点では何もできないただの奥さんだったんですが・・・育てる価値があると判断しました。」



頭の中が整理できなかった。
現実に起こっていることとは思えない話に自分はおちょくられているだけなんじゃないか?


「人の妻であり、子供達の母親であるということを理解してそういうことをしていたのか?」



「もちろん。じゃなかったら価値はない。
人妻だから価値があるんですよ。
旦那もいて子供もいて幸せな人妻だから。」



幸せな人妻だから・・・。
幸せを奪うことで自分達の利益を確保しているってことか。
男達の私利私欲のために壊された自分の家族。
こいつらの話を聞いているとどんなに平静を装っても次の話を聞くたびに冷静さを保つのが難しくなる。


「それがどういうことかわかってるのか?
倫理的にも、それに俺がお前らを訴えたらお前らがどうなるかわかってやってるのか!」



「まあまあ、もともとSという男が典子を気に入り、一方的に好意を寄せていたようですが、なぜか身体の関係も持っていたようです。
もともとあなたの奥さんは旦那であるあなたの以外の男と関係を持っていた。 だから私たちがどうとはいいませんが、何も知らないのはあなただけでした。 それはわかってください。」


典子を見る。

「本当か!?この男の言ってることは本当か!?」

怒鳴り散らすように典子に問いかける。

典子は俯いたままだ。
更に典子に訴えかけるように聞く。

「おい、事実じゃないのなら否定しろ!お前自身のことだろ!」


典子は一瞬俺のほうを見て、そして頷いた。
まだ妻から聞くまでは本当のことか男達のでっち上げた話なのかわからなかった。
そしてそれが唯一の気休めだった。
しかし妻自身がそれを否定した。
妻は他の男と関係を持っていた・・・。


「本人も認めてる通り、Sと性的関係があった。
どういう経緯で関係があったのかは知りませんが恋愛関係ではなく身体の関係ということです。」



「いつから?」


典子が口を開く。

「あなたが転勤になる少し前から・・・」



「相手とはどういう関係で?」


「前に務めてた会社の取引先の人で、飲みに誘われて、、、断れなくて・・」
妻は涙を流しながら言葉を詰まらせた。


「断れなくてセックスしたってことか?どういうつもりだ!断れないのはお前が弱いだけだろ!」


「飲みにいかなかったら、、私の所為で会社との取引に影響が出るって言われて・・・」


「そんなこと知るか!お前は何のために働いてるんだ!家庭の為だろ!」


「もちろんそんなことする気はなかったけど、帰り際にに断ったら、、私の会社での居場所も無くなるから」
典子の目からどんどん溢れ出てくる涙。


男が口を開く

「旦那さん、典子にそんなことを言わせるもんじゃありませんよ。
まあ彼から聞いたことを簡潔にいうと、彼は取引停止をチラつかせて典子を飲みに誘い、何回目かの酒の席のあとで典子に言い寄ったようです。
男だからそういう下心はありますよね。彼も同様に典子を女性として見て、飲みに誘うのと同じように典子の身体を触ったそうです。
典子も仕事先、そしてあなたに対する罪悪感に耐えられなかったのでしょう。
でも男は逆にその罪悪感を利用し、言葉巧みに関係を強要しました。
関係を持てばもう楽になれる、1回男とセックスをすればもうこんなにつらい日々が終わるとでも言われたのでしょう。それで関係をもった。そうだろ?典子」


涙を流しながら無言で俯いている典子。


「ところがその男は1回じゃ終わらなかった。そりゃそうでしょう。男にとっては1回やれば2回も3回も同じ。一度やった女ならまたやらせてくれると。
それでも典子は抵抗したようです。でも1回関係した事実は消えない。典子はどんどん追い込まれる。旦那や子供達家族への裏切り、所属する会社への本当に言い逃れのできない行為。
苦境から逃れたいが為に自分の感情を捨て、男に抱かれるようになる。
そしていつしか快楽を感じ始める・・・人間、弱い部分から付け入れば誰だってそうなります。」



「その関係した時期に撮られていた写真を持ってSは私たちのところに来ました。
紹介者には報酬が出ます。おそらくSは仕事柄金持ちとの繋がりで私たちのことを知っていたのでしょう。
しかしSは報酬目当てではありませんでした。
典子に飽きたわけではなく、典子でもっと興奮を得たいと思ったのでしょう。
心も何もない身体だけの典子を好きにコントロールしていると勘違いしていた愚かな男。
私たちからしたら過去はそれほど関係ない。金になるかならないか。
そういった典子の経緯からも素質は十分に見抜けました。
Sには通常の倍の報酬を与える代わりに典子との関係の一切を切らせました。」



男の口から語られることが事実とは思えなかった。
それでも典子は話が進むに連れて大泣きしている。
本当のことなのか・・・。


その時ずっと後ろで話を聞いていた探偵が話をしだした。



「私、旦那さんから依頼された調査会社のものです。
今の話をお聞きしておりましたが、もしそれが事実であるとしたら少なくともあなた方は典子さんを無理やり強姦したということになる。
わかっておられると思いますがそれは立派な犯罪です。
それはわかっておられるのですか?」


男が言う。


「探偵さん、訴えるなら訴えられてもいい。
しかし典子の意思というものを確認してから言うべきではないか?
典子がこの期間ずっと無理やり俺達に犯された?」


探偵が答える。

「ええそうです。
典子さんはそのSという男に無理やり行為を持たされ、そしてあなた方は金を出して典子さんを譲り受けた。
これは売春にもあたります。そしてその後も典子さんの意思と関係なくAV女優という行為を繰り返させた。」


探偵には今までのDVDは見せていない。
それでも男達の威勢を抑えるために法律という武器を提示しているのだろう。
こいつらに法律なんか通用しない。
それでも味方になってくれる姿勢が嬉しかった。


探偵と男の話を遮るように聞く。

「なぜ妻でなくてはならなかったんだ!
AV女優を使ってAV撮影すればいいだけの話だ。 いくら男が連れてきたからってなぜ普通に生活してる妻をターゲットにした。」



「普通に生活している妻・・・だからですよ。
典子は普通に生活している平凡な人妻、幸せな家庭があり、AVなどの裏の世界とは無縁の女。
それが外見でも十分に判断できる。
だからこそ興奮するんですよ。うちの客達がね。
AV女優のAVなんてただ自分を堕としてるだけの低レベルな人間。
そんな女の出ているAVを見て何が楽しいんですか?
AVに出るはずの無い平凡な人の奥さんの姿だからこそ需要があるんですよ。
そしてそんな奥さんの背景もわかること、普通の流通じゃないからこそ何も隠す必要が無いこと。
あなたは気をわるくするでしょうが、映像の中ではあなたに向けてDVDを送るシーンも全て撮影されてます。もちろん住所も。
作ったものではなく、それだけの事実を映像に残しているだけ。
でもそれだけに典子の全てがわかるんです。
本当の姿だから。
ファンも大勢いますよ。
典子と会いたいという話もたくさん来る。
金に糸目をつけない連中がね。」



すべてを撮った映像?
今この会話を撮っているカメラを見る。


「まさか今この場で撮影してるのも売るってわけじゃないだろうな!」


男は言う。
「もちろんそのつもりです。」


すると今まで黙っていたテーブルの椅子に座っていた男が口を開いた。

「その辺にしておけ。」

ソファに座っている男がそれに反応して押し黙った気がした。
椅子に座っている男がボスみたいなものなのか?



しかし湧き上る殺意を抑え切れなかった。
体が勝手に動き出す。
それを予測してか、探偵が俺の体を手で押さえる。
明らかに顔色が変わっていたのだろう。

「冷静になってください。こいつらのやったことは犯罪です。
今の話はすべて録音してます。
今この現状を見る限り、すぐに警察を呼んでも十分です。
外に停めてある車のナンバーも全て記録してます。」


冷静になれというほうが無理だ。
それでも俺は冷静でいなればばならないのか。
頭の中で正しいこと間違っていることの判断がつかない。
むしろそんなことはどうでもよかった。
そして探偵が男達に聞き始めた。




「いくら紹介者がいようと無理やり典子さんと関係を持った点は事実ですね。
あなた方には反論の余地は無いはず。
典子さんも今までは旦那さんに対する罪悪感から何も言えなかったのでしょうが、
こうしてすべてを旦那さんが知った時点で典子さんは全てを正直に話すでしょう。
この場でどう落とし前をつけるか旦那さんと話をするべきです。」



男が探偵に言う。

「ふふ、あなたが無理やりだと思うのであればそれでもいい。
ただ典子の意思はどうでしょうね。
あなたが思ってるほど純粋な世の中じゃないんだよ。
典子が今どんな状況なのか、何も知らないのはね、旦那さん、あなただけだ。
典子の意思が確認したい?
じゃあ今この現状はどう説明する?
旦那や子供と一緒に住んでいたこの家に俺達と一緒にいる。
そしてそこに旦那が来るとわかっていて何も拒否しない典子。
それが答えだ。
わからないなら見せてあげよう。」



そうして男は妻の方を見る。
すると妻の後ろに立っていた男が動き出した。
妻を後ろから抱きしめるようにして両手で服の上から乳房を弄り始めた。
まるで目の前に肉を与えられた飢えた野獣のように。
乳房の形を確かめるように撫で回す。
しかし妻は抵抗をしなかった。
ずっと俯いたまま、まるで俺や探偵がそこにいることを知らないかのように、
そしてこの家が家族と住んでいる大切な場所だということが記憶から消し去ったかのように。
それを目の当たりにして頭の中が真っ白になった。
妻が目の前で男に好きにされていること、それを拒否しないこと、何がショックなのかすらわからなかった。
妻を弄っている男は妻のワンピースを捲り上げ乳房を露にした。
気が動転した。
探偵にも妻の裸を見られた。



頭に血が上った状態だったのだろう。
ソファに座っている男に近づき、そのまま渾身の力を込めて殴った。
男が抵抗してきたがそれでもお構いなしに殴り続けた。
こいつは殺していい。
男はガードをするがそれがないところを殴りまくった。
探偵が止めに入る。
探偵だけではない。
他の男も止めに入っているのだろうか。
自分がどんどん取り押さえつけられるのがわかる。
腕を押さえられたら足で男を蹴る。
俺はこいつをできるだけ殴らなければ・・・。
すると取り押さえられた俺に今度は男が殴り始めた。
顔から血が出ている男が俺を。
探偵がその男を止めようとしているのが見える。
俺はこの男を殴る理由がある。
なぜこの男は俺を殴るのか。



「もうやめろ」



椅子に座っている男の声だろうか?
その声がしているのだけはわかった。
どんどん目の前が白っぽくなり俺は気を失った。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [6]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “419” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(14051) “「・・・なんでここに・・・」


赤坂は自分がどうすればいいかわからないかのように俺に質問した。
赤坂は裸にバスタオルを巻いた状態だった。
手で胸の辺りを押さえ、バスタオルが落ちるのを防いでいる。
慌てて取り繕ったのだろうか?



「なんでじゃないだろ、どういうことだ赤坂」


黙り込む赤坂。
男の声がした。


「誰だお前は、赤坂の知り合いか知らんが勝手に人の家に入ってきて何してる。警察呼ぶから待ってろ。」


男が携帯電話をポケットから取り出す。

すると赤坂が言った。


「この人は典子さんの旦那さんです。」


男のポケットから携帯を探す仕草が一瞬止まった。
俺の顔を見る。


「典子の旦那って・・・なんでここにいるんだ!?」


どうやらこいつがここを仕切っているらしい。
男が何かを言おうとしている中、それを遮るように大声で言った。


「どういうことだ!」


男はたじろぎながら口を開く。


「どういうことって・・・そっちこそどういう・・」


男の震えるような声にイライラしながら言う。


「どういうことだって聞いてんだよ!典子はどこだ?今すぐつれて来い!」


男は俺の顔を見たまま固まっていた。
ベッドの上の男女、そして赤坂も何も言うことなく、ただ固まった時間が過ぎた。


「典子は、ここにはいない。今日は社長と・・・」


「社長?お前の会社の社長は人の妻をかっさらって何してんだ!どんな会社なんだここは!!」


「俺もよく知らないんだ。典子は最近はほとんど見かけていない。社長が直々に・・・。」


明らかにその先の言葉に詰まった感じだった。


「直々になんだ?」


男が考えながら話し出す。


「社長と一緒の仕事が多くて、ずっと見てない。」


「だったら社長をここに呼べ!今すぐだ。」


「今どこにいるかわからない。社長は忙しいから・・・」


その言葉を遮るように言う。


「だから今すぐ連絡取れって言ってんだよ」


そういいながら足元にあったティッシュの箱を蹴り飛ばす。
飛ばした箱は男の足元に当たり、転がり落ちた。


「ああ、わかった。すぐ電話する・・・ちょっと待っててくれ。」


男が携帯電話を手に取り、電話を掛け始める。
明らかに怯えた表情でどうしていいかわからない様子の男達。
そりゃそうだ。
人の妻を寝取っておいて、その旦那が突然踏み込んできたとなればビビるに決まってる。
こいつらの趣味なのかなんだかわからないがこの異様な空間で自分だけがまともな人間だという感覚だった。
裸でバスタオルを巻いている赤坂、この女がいったいここで何をしているのかもわからない。
ただ裸でいることからしようとしていることはわかる。
それでもそれはどうでもいいことだった。
自分がたどり着くべき先は妻だけだ。

男の掛けた電話が繋がったようだった。


「あ、社長、その、旦那が、典子の旦那が部屋に来てるんですけど・・・」


明らかに弱腰の男だった。
こんな男に呼び捨てにされてること事態が腹立たしい。
湧き上る怒りを抑えながら電話の話を待つ。


「それで、旦那が今すぐ典子を連れて来いと・・・」


典子を連れて来い、こんな言葉を俺の目の前で話すほと礼儀も常識も無い男。
今までされてきたことを考えれば常識なんて通用しない奴らなのはわかりきっている。
それでもそんな下衆に妻がいいようにされていると思うとはちきれそうな感情が湧き上る。


「ええー、それは・・・今この状況では・・・はい、すみません。わかりました。では今から・・・」


そう言って男は電話を切った。


「あの、社長が・・・今社長と奥さんが一緒にはいないらしくて、典子さんがいる場所を教えるから旦那さんがそこへ直接来いとのことで・・・」


人の妻と一緒にいるからその旦那である俺が直接来いだと?
何様だ?


「ああー?立場わかってんのかてめぇ!」


その言葉を発すると共に体が勝手に動き出し、左手で男の胸倉を掴み顔を力一杯引き寄せた。
今にも殴ってしまいそうなほど右の拳を握り締めた状態だった。

するとベッドの上で女と重なっていた男が全裸でこっちに向かってきた。


「ちょ、ちょっと、やめましょう。ちゃんと話を聞きましょうよ・・・」


この空気の中全裸という滑稽なその男の言葉を聞き終わらないうちにその男の顔を右の拳の裏で殴った。
思いっきり力をこめて殴った。
もう理性だけで我慢できる限界を突破していた。
この部屋中をめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな衝動が抑えられなかった。
顔の真ん中を思いっきり殴られた男はベッドの傍でうずくまっている。

胸倉を掴まれたままの男が口を開く。


「お、落ち着いてください。もちろんこちらはあなたにこんな偉そうなことをいえる立場ではありません。ただ私達も社長には逆らえないんです。わかってください。」


わかってくださいだと?
自分達がやっていることを棚に上げてわかってくださいだと?
人の妻を散々使いまわし、旦那の俺までも馬鹿にしてきたこの糞共が何を言ってやがる。


「お願いします。私達にできることはもう無いんです」


男は目に涙を浮かべながら話す。
こんな弱い男に妻はいいようにされてきたのか?
何か弱みを握られたにせよ、妻の意思にせよ、何もかもが悔しくて堪らなかった。
もうこの男に何を言ってもだめだ。


「どこに行けばいいんだよ」


苛立ちを抑えられない声で男に聞く。


「あの、こんなことをお願いするのは無理な話ですし、怒らないで聞いてほしいんですが、奥さんは・・・」


自分にだけは危害を加えないでくださいとでも言わんばかりの言い回しだった。
そんなものはどうでもいいから早く場所を言え。
その感情を押し付けるように男の顔の前で大声で叫ぶ。


「何だよ!」


男は目をそらしながら俺に言った。


「あなたの、あなたの家にいるそうです。うちの社員と一緒に」


思いもよらない答えが返ってきた。
頭が真っ白になりそうな時間だった。
ずっと帰ってない妻が、家に戻ってきてる?
どういうことだ。
ん?
社長と一緒じゃないと言ってたな。
社員と家に戻ってきてる?
頭の中がしばらく整理できなかった。

俺が数秒の間動かなかったことで、ご機嫌を取ろうとしてたのか男が口を開いた。


「でも子供さんたちは今外出中らしくて」


俺がその言葉を聞けば安心するとでも思ったのだろうか。
俺と妻と子供2人が生活している家、その家に社員と2人?
社員が男なのか女なのかすらわからない。
その状況だけでもおかしくなりそうなんだ。
何が何だか整理ができない。
明らかに自分がおかしくなりそうだった。
子供たちがいないから安心しろってことか?


「その言葉で安心しろってか!?」


そう叫びながら男の胸倉を掴んだ手をそのまま窓の方に思いっきり押し飛ばそうとしていた。
そのまま窓を割り、ベランダを越えて下に落としてもいいと思った。
無意識に全身の力を込めて男を窓ガラスに叩きつける。
窓ガラスの割れる音と共にガラスが散乱し始める映像が見えた。
もう精神がおかしくなりそうなほどだった。
自分の理性を保てなかった。
散乱するガラスの上に男は倒れている。
しかしその目は俺を見て怯えているようだった。
スーツを着ていた男に怪我は無いらしく、起き上がろうとしている。
それでも外傷がないだけで体は痛んでいるはずだった。
逃げようとするのだろうか。
しかし男は立ち上がるとベランダの隅に立ち尽くし、俺の方を見ている。


こんな糞な男に馬鹿にされていたのかと思い涙が溢れ出てきた。
もうここには用無しだ。
そして俺の行くべきところは自分の家。
家族の住む自分の家。
体に蓄積された涙がすべて溢れ出てくるかのようだった。
その涙を服の袖でふき取る。
そして部屋を出ようと後ろを振り返り、歩き出す。
視界の左下に映る女性。
赤坂。
何もなく立ち去るわけには行かない。
自分のしていたことの意味がこの女にわかっているのだろうか?
バスタオルで身体を覆っている赤坂の目の前に立ち尽くす。
落ちないように手で押さえているバスタオル。
そのバスタオルを力ずくで奪い取り、その場に投げ落とす。
赤坂は力を入れて抵抗したが、その前にバスタオルはすべて剥ぎ取られた。
露になる赤坂の全裸。
この男受けするスタイルでここの男達と遊んでいたのか。
赤坂は屈みながら手や腕を使って俺に裸を見られないように必死に隠す。
何を隠してるんだ。
妻はすべてをDVDで男達の前に晒されたんだぞ。
お前だけがなぜ女の体裁を守ろうとしてる!
赤坂の腕を掴み、立ち上がらせ、両手首を掴み、壁に押し付ける。
力ずくで押し付けられた反動で赤坂の胸が揺れる。
隠すことができずに俺の前で露になる裸。
まさか俺に裸を見られるなんて思いもしなかっただろう。
この女こそ俺を馬鹿にした元凶じゃないのか。
あんなに親身になってくれたと信じていたこの女、裏切られたことに実感が湧かないほどだ。
男達に言われていたとはいえ何も無かったことになると思うな。
赤坂の頬を右手で一発張った。
赤坂は何も言わず張られた頬を痛むわけでもなくただ右下を向いている。
手に込められた力も抜けた。
赤坂を壁に押し付けていた腕の力を抜く。
力なく座り込む赤坂。

俺はバスタオルを再び手に取り、赤坂に向かって投げつけた。
そして玄関に向かって歩き出す。
ガラスの割れた音で近所の人が警察を呼んだりしているのではないか、あれだけ大声で散々わめき散らしたんだ。
それでも不思議ではない。
外で待っている探偵はどうしているだろうか。
たった5分にも満たないこの時間が長く感じた。
もう元には戻らない。
妻がどうしているのかと心配するここ最近の日々はもう来ない、そこから進むことも無ければ戻ることもなかったあの悶々とした日々は。
なぜなら俺は前に進んだからだ。
男達にこちらから踏み込んで行った以上、決着をつける。

そして探偵と共に、自分の妻と誰かが一緒にいるという、自分の大切な家族の家へと向かった。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [7]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “418” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(12940) “翌日の月曜、有給を取り、ある場所へ向かった。
そう大きくはないマンションを見上げる。
マンスリーマンションとのことだ。
中に人がいるのかどうかすらわからない。
ただここに来なければ何も進まない。

付き添ってもらっている探偵には十分な証拠を持ってきてもらっている。
もちろんDVDのことは言っていない。
探偵と共にマンションの205号室へ向かう。
角部屋のようだった。
部屋のドアの前に立つ。
もしかしたらここに妻がいるのかもしれない。
そう大きな部屋ではないはずだ。
外観の大きさを見てもワンルームマンションのような感じだろう。


ドアを開こうとドアノブに手を掛ける。
音を立てないようにドアを開け、一気に中に入り込むつもりだった。
インターホンを鳴らす気など無い。
インターホンを押して事情を説明しろだの、宅配便の振りをして中の様子を伺えなどの探偵の助言もあった。
だが何も考えず、ただ中に突入することしか考えていなかった。

ドアノブを動かし手前に引こうとしたとき、中からかすかな声が聞こえてきた。
女の声だ。
まさか、妻か?
耳をすまし、音を聞き入る。
明らかな女性の淫音だった。
自分の心の中に動揺があるのは事実だった。
妻がこの中でDVDのようなことをしている可能性もある。
それでもそれをぶち壊すために自分はここにきたのではないか。
考えるほど動揺が増すばかりなのはわかっていた。
その動揺が大きくなる前にドアを開ける。
音を立てないように手前に引く。
ドアノブを握る自分の手に汗が噴き出しているのがわかる。
ドアが開き、少しずつなかの様子が見えはじめる。
鍵は掛かっていない。
中を見る限りチェーンのようなものもしていない。
中から響く女性の声がはっきりと聞こえる。
10cmほど開けたドアから中を見る。
ワンルームの部屋、バスルームらしき場所、キッチンらしき場所、その奥にドアがあった。
玄関には靴が5足あった。
男ものが3足に女物が2足。
この家の借主の靴が何足かあるはずだ。
中に何人がいるのかはわからない。
ただ男一人と女一人は確実にいるだろう。

自分の心音が自分で聞こえる。
全身が脈打ち、もう前に進むしかない状況だった。
後ろにいる探偵の顔を見る。
探偵は真剣なまなざしで自分を見ている。
事前に、自分が中に入るから探偵は外で待っていてくれとお願いしておいた。
探偵はちゃんとインターホンを鳴らして話をするべきだと言ったが、それは拒否した。
今までの状況がわかっていないやつが何を言っているんだ。
一般的に考えたら探偵がつけた目星というだけで突然ドアを開け、突然中に突入したらどう考えても犯罪だろう。
だが自分にとってはそんなことはどうでもよかった。
考えることによって自分の今の気持ちが削がれる要素、それはすべて遮断した。

探偵の顔を見ながら頷くように今から行くと合図をする。
探偵も覚悟をしたかのように頷き返す。
視線を部屋の中に戻す。
中からは相変わらず女性の声が聞こえている。
妻をあんな風にした男達。
原因は自分にもあるのかもしれない。
だが今はそんなことは考える気は無かった。
すべてあの男達が仕組み、自分の家庭を半ば崩壊状態へと持ち込んだのだ。
ただ平凡な幸せがあったはずの自分の築いてきた家庭。
それを弄ぶように壊しにかかってきている敵。
守るべき娘、息子、そして妻。
自分は今自分の家族3人の為に戦う。
中で何が起きようと、自分がどうなろうと、守るべきものの為に動く。


ドアノブを一気に引き、中へと入る。
玄関にある靴を踏み、土足で上がりこむ。
3mほどの距離、電気がついておらず、窓も無く薄暗い空間のその奥にあるドアに向かって歩く。
まだ玄関のドアは閉まっておらず、ドアの閉まる音もしていない。
音がしないようゆっくりと閉まるタイプのドアだった。
まだ中のやつらも俺の存在には気付いてないだろう。
2秒もかからないほどの時間だっただろう。
奥のドアノブに手を掛ける。
その時ようやく玄関のドアが閉まる音がした。
中の奴らももう誰かが中に入ってきたことは気付いただろう。
それと同時にドアを開ける。

ここを開けたらどんな光景が待っているのかわからない。
少なくとも女の淫らな声が聞こえていることから想像はつく。
もちろん中で何を話すかなんて何も考えていない。
ただ勢いで中に突入するだけだった。
開くドアがスローモーションのように感じる。
中は外光が差し込んでいるらしく、その光が薄暗い玄関の方を照らし出す。
まるで自分を照らし出すかのように。
覚悟は決まってる。

ドアを開け放ち中からの光がすべて自分へと引き付けられているような感覚がした。
全てが1秒もしない間のことだった。
それでもコマ送りのように鮮明に覚えている。
そしてその光の中、部屋の奥にある大きな窓が目に入る。
その視界の両端に人の気配を感じる。
右側は人間の肌の色が大きく見える。
おそらくベッドの上だろう。
視線を右下に移す。
妻だったら・・・妻だったらどうしよう。
左側に一人、ベッドの上に2人。
少なくとも3人はいる。
いや、ベッドの横、部屋の角にあたる場所にも一人座っているいるようだった。
4人。
妻ではないことを祈りながらベッドの上を見る。
男の背中が大きく見えた。
その下に女性がいるらしい。
女性の足が男の腰の辺りから見える。
視線を頭の方へ移す。
首から顎、唇、鼻・・・目・・・そして顔全体がはっきりと自分の目に映し出された。
心臓がはち切れそうだった。
他のものは何も目に入っていない。
他の3人よりも、その女性が妻なのかそうでないか。
それだけを確かめるべく、女性の顔を見た。
自分の頭の中で何度もその女性と、自分の知っている妻を重ね合わせる。
自分の妻が他の男と重なっているところなんて見たくはない。
そういうことが好きな男性もいるのは知っている。
だが自分の人生まで壊されかねない現状では、ただそれが妻ではないことを確かめるのが怖く、気が遠くなりそうな感覚だった。



男の下になっていた女性・・・それは妻ではなかった。
見たこともない女性。
妻なのかそうではないのかということだけにしか頭を使いきれていなかっただけに、妻ではない安堵よりも自分が何をしているのか分からなくなりそうだった。
妻ではない。
じゃあこの女性は・・・DVDに出てた他の女性?
その女性はようやく自分の存在に気付き、こっちを見ている。
その上を見ると男が驚いた顔で自分を見ていた。
窓の左側に立っていた男性もこっちを見ていた。
黒っぽいスーツを着ている男性。
ベッドで絡み合っている全裸の男女。
そして思い出したようにベッド側の部屋の角に座っている人を見る。
思わず声が出た。


「は・・・赤坂さん・・・」








妻の居場所らしきところがわかったという報告が探偵からあったのが昨日だった。
「どうやら奥さんの会社の社長名義で借りられているマンションが候補としてあがってます。」
それから今朝探偵に会い、直接根拠を見せてもらった。
写真で確認する限り、その部屋に届けられた郵便物の名義と、妻の会社社長の名義が同じだった。
そこに出入りする人の写真も見た。
そこに写っている女性、それが赤坂だった。



妻のDVDでの俺へのメッセージ、その中で妻は言った。

「探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください」

それを聞いた当初はその映像から受ける衝撃で何も考えられなかった。
妻が男に跨りながらDVDを通して俺への決別のメッセージを残している。
気が狂いそうなほどの衝撃、そして嫉妬、言葉に表すことのできないほどの感情が入り混じり、目の前が真っ暗に見えた。
そして妻からのメッセージが何度も頭の中を駆け巡った。
そして一つの疑問が浮かんだ。
なぜ妻は俺が探偵に依頼をしていることを知ってるんだ?
妻に男達が言わせてるとして、なぜ男達は探偵のことを知ってるんだ?
その疑問の答えを考える中、一つの糸のようなものが見え始めた。

探偵のことなど誰にも言っていない。
もちろん、こんなことを相談できる人などいない。
そして探偵の話を思い出した。

「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。」

同僚の方2人。
ということは、同僚2人は少なくとも妻のことで何かを聞かれたことは確かだ。
探偵に詳しい話を聞くと、自分が探偵だとを名乗ったわけではないから自分が探偵だとは気付かれていない、そして典子の直接的な関係がある人への聴取はその2人だけだとの話。
同僚2人がそれで探偵だと気付いたのかどうかは定かではないが、男達に探偵のことが知られているとしたらそこしかない。
そして同僚2人が聞かれたことを社内で誰かに話したとしたら、会社の人間は知っていることになる。

そして探偵に相談した。
これからは妻の会社の人間を張ってほしい。
今できる唯一の可能性はそこにしかなかった。
そしてその時点で自分ができる最大限のこと。
男達の警戒を解くために、探偵は今週いっぱいで止めるとの情報を赤坂に話した。
それで油断したのか、元々探偵に知られるのを警戒していなかったのかわからないが、すぐに繋がりがわかった。
会社から出てきた一人の女性が行った場所がそのマンスリーマンションだった。
そして同じマンションの住人の話によるとそのマンションから妻らしき女性が出てきたところを見たとのこと。
何も知らない住人の話がどれだけ信用できるかはわからない。
だがそこに何かがあることはわかった。
その報告があったのは昨日の夜だった。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [8]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “417” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(15940) “眠れるはずもなく、ただ何をすればいいかもわからずに仰向けになり散らかりきった部屋の天井を眺める。
体を動かす力すらないほど精神的ショックを受けていることは明白だった。
浮気どころの話ではなくなった。
俺のことが嫌いなわけでもなく、子供たちのへの気持ちがないわけでもない。
ただ、見ず知らずの男の意思によって考えを変えられ、普通の主婦だった自分の妻が男達の好き放題に使われている。
恋愛などではなく、妻を使って遊んでいるようにしか見えない。
人の妻であり、子供のいる母親を、そのような背景を逆に楽しむかのように。


改めて冷静になって考える。
冷静というよりも心身ともに疲れ果てているのかもしれない。
今まで見てきたDVDのような客観性はなく、俺に対するメッセージを投げかけてきた妻。
あんな言葉を妻に言われる旦那がどこにいるだろう。
考えれば考えるほど頭が混乱し、考えることを止めたい衝動に駆られる。
どうしたら妻に会えるだろうか。
・・・ん?
昨日見たDVDを思い出し、一つの疑問が浮かんできた。
頭が混乱した状態の中浮かんできた疑問。


とにかく妻に会わなければどうにもならない。
電話をかけても繋がらない。
妻に会うには・・・。
妻は失踪してから会社にも行っていない。
・・・・・一つ思い立った糸を手繰り寄せるしかない。


翌日、仕事を午前中で切り上げ、妻の会社へ向かった。
有給ばかり取っていては部下からの信頼も何もないかもしれない。
だがそんなことはどうでも良かった。
夕方に妻の会社に着いた。
インターホンを鳴らす。
自分の名を名乗り、赤坂を訪ねる。


「赤坂さんはいらっしゃいますか?」


少しした後で赤坂が出てきた。


「お久しぶりです・・・」


赤坂はそう言い、会社の外へと出てきた。
赤坂は口を開く。


「あの、奥さん最近休まれてますが、どうかなさったのですか?」


「ああ、ちょっと体調を崩してしまって。それより、仕事終わったら少し時間作れませんか?」


「ええ、あと30分で仕事終わるので、それからでよかったら。」


そう言い、近くの喫茶店で待ち合わせた。

その場で赤坂に失踪の事実を言ってもよかった。
ただ、軽く話すにはあまりも重い話だった。
ただ一つ赤坂に話しておくこと。
赤坂が妻のことで何かを知っているのであればその一筋の光しか希望が無かった。

赤坂の仕事が終わり、待ち合わせの喫茶店に入ってきた。
席に座り、コーヒーを注文する。
俺は分のコーヒーを啜り、口を開く。


「赤坂さん、正直に言いますが、妻が帰ってきてません。」


赤坂は驚いた表情で返した。


「え、帰ってきてないって、どういうことですか?」


「私にもわかりません、見当もつかない。ただ、ここ2週間は妻が家に帰ってないことだけは確かです。帰らないとの連絡を残してから」


「帰らないって言われたってことですか? まさか浮気相手の人と・・・?」


「ですからそれすらわかりません。私としても妻を捜したいが、電話にも出ないし何も手がかりが無い。警察にも探偵会社にも依頼したが手がかりが何もないから捜しようがないみたいで・・・。」


「警察はどうやって捜してるんですか?」


「それはわからない。ただ積極的に探してないことは確かです。そして探偵会社も限界を感じてるみたいで・・・それで赤坂さんなら何か知ってるんじゃないかと思って、こうしてすべてを話したんです。」


「え、知ってるといっても私は奥さんから聞いた話程度にしか・・・浮気相手の名前も聞いてないし、どこで会ってるとかも・・・あ、浮気相手と一緒にいるって決まったわけじゃないですよね、ごめんなさい。。。」


「いいんです、その可能性が高いことは確かです。だからこそ、その相手との話を聞いている赤坂さんにお話を伺いたくて。」


「ええ、もちろん知ってることならすべて話します。ただ、知ってることといっても限られてるから・・・。」


「赤坂さん以外の同僚の方は何か知ってることとか無いんですか?」


「どうだろう、、、でも、私以外の人には多分その話はしてないと思うんですけど。仲良くさせてもらってたので。」


「そうですか、それでその相手のこと、何か知ってることはありませんか?どこに出かけたとか、どれくらいの頻度で連絡してたとか、何でもいいんです。」


「場所ですか。。。特に話してたのは付き合ってるとか恋愛感が合うとかそういう話ばかりで、私もあまり聞いちゃいけないことだと思って詳しくは聞いてなくて、ごめんなさい。」


「場所じゃなくても、出会ったきっかけとか何でもいいんです。現状、依頼してる探偵会社しかあてが無くて、それでも探偵会社に払う費用ばかりが嵩んで、それでも何も進展しない状況に焦ってしまって、こうやって手繰っていこうと思ってまして。」


「探偵会社は何か居場所をつかめそうな情報はあったんですか?」


「何も無いんですよ。浮気してた事実とか、そういうのが何も無い状況だから手探りで探していくしかないらしくて、だから余計に費用も掛かって。」


「そうですか。急には思い出せないんですけど、何か手がかりになりそうなこと思い出したら連絡します。でもまさか失踪してたなんて。この間まで一緒にいた人が失踪だなんて・・・」


赤坂の顔にショックの色が見える。
この間まで一緒に働いていた同僚が突然いなくなったことを知らされたらそれは当然の反応だろう。
しかし頼りにならない探偵会社と、赤坂しか頼れる存在がない今、この女性に何か思い出してもらうしかない。


「ええ、お願いしますよ。実は探偵会社も今週一杯で依頼を打ち切る予定なんです。打ち切るというよりも、週契約でずっと手がかり無しだとお手上げだと。何か手がかりが見つかってから再依頼してもらったほうがいいとの話で。」


「じゃあ、後は警察に頼るしかないんですね。」


「そういうことになりますね。」


赤坂との話で何も得ることはなかった。
それでも探偵会社や警察よりは典子について知っている。
何でもいいから知りたいという気持ちだけだった。




夜、単身赴任先の部屋のソファで横になっていた。
今は待つしかない。
時間がたつのが怖かった。
妻の会社には妻は入院したと伝えた。
軽い病気だからまた連絡するとだけしか伝えていない。
子供たちには妻は2週間ほどの長期出張になると言っている。
突然のことだから不信に思ってることは確かだろう。
妻に電話したりしていないだろうか。
どこから家族が崩れていくかわからない。
何もかもがめちゃくちゃになりそうだ。



その時インターホンが鳴った。
まさか、妻か?
誤りにここまで来たんだろう。
焦燥感と喜びの両方が体中を駆け巡る中ドアを開ける。

「メール便で~す」

威勢のいい兄ちゃん封筒を差し出す。
それを受け取りながら、心臓がドキドキするのがわかった。
配達の兄ちゃんに礼を言い、部屋のソファに座りながら封筒を見る。
差出人は書いていなく、軽い。
中身は紙のようだ。
あのDVDの入った差出人が書いてない配達物が届いたのは昨日のことだ。
同じ人間が送っていることは明白だった。
手紙の封を開け、中身を取り出す。


今度は手書きではなく、パソコンで作られたらしき文体だった。
何が書いてあるのかを読むのに勇気がいる。
一つ深呼吸をし、手紙を読む。




———————————————





はじめまして、典子の所有者です。名前は明かすつもりはありません。
昨日のDVDはご覧いただけたでしょうか?
ご覧いただけたらわかると思いますが、私達は典子を私達の女としていくものとして考えております。 典子もそれに同意しており、複数いる所有物の一人として私のために生きてもらうこととしました。 典子自身もそれを望んでおり、これからの人生をこちらにささげることを喜んでおります。
典子はあなたと出会い、家庭を気付いてきたことに対しては大切な思い出として考えているようです。 今でもあなた方の話をすると泣き出してしまいます。 しかし今後は所有主である私の女として、子供も作り別の人生を生きていくことを決断いたしました。
私達といたしましては、婚姻などの法的なものには興味はありません。 あなた様が婚姻関係を続けたいとのことであればそれでも構いません。 しかしながらそれは手続き上の問題であり、典子の今後は私達と共にあることをご了承ください。
一般の感覚ではご理解いただけないかも知れません。
それに際しまして、せめてもの温情として今後典子が歩むべき道としての私共の考えをお知らせいたします。
今後1年、私達の所有物として所有主の決めた箇所への所有主の決める刻印を打つこと、所有主の利害関係者への接待要因として自身の意思を捨て完全なる奴隷としての行き方を学ぶこと。
今後1年で考えていることは以上です。
見ていただければわかるとおり、今までの生活を続けることは難しいと思われます。
典子の生活の一切をこちらで引き受け、管理させていただきます旨、お伝えいたします。 それでも現実を受け止め、私達もあなた様も別の人生を歩んでいけるよう、心から望んでおります。



——————————————–




目からあふれ出てくる涙。
どうすればいいかわからない自分の愚かさを心の底から感じた。
何を意図しているかわからない。
もう自分が考えているような話ではないのかもしれない。
自分の男達への追及の意欲を削がれようとしているのかもしれない。
沸々と湧き上る男達への憎しみと、すべてが崩れ去っていく空虚さの両方を同時に感じていた。
最終的にどっちの感情が残るのかはわからない。
いろんな感情が入り混じりどうしたらいいのかわからなかった。

子供たちの母親であり、妻である典子と会うこともできず話すこともできない。
気持ちを確かめることもできない。
それでいて決別宣言ならぬものを見せられ、浮気相手からは典子と新しい家庭を作るとの手紙。
まるでネット上で性欲の為に卑猥に見せるために晒されている女性たちのような扱いを受けている自分の妻。
ただ平凡に暮らしているだけでなぜこんな風になってしまったのか。
それとも平凡だと思っていた生活は虚像のもので、今実態を現し始めただけなのか。
自分の中の自信が崩れ去っていく。
本当に大切にしたいものが何なのか、今まで生きてきた意味すらわからなくなってくる。
出会い、お互いに想い合い、結婚し、家庭を作り、幸せといえる生活をしてきた。
それがもう終わりだと突然の宣告を受けた。
宣告ではなく、男からの勝手な考え。
頭の中で整理する気も起きず、ただ湧き上るべき感情が湧き上ってくるのかだけを確かめていた。



・・・その週末は妻のいない福岡の家に帰った。
子供たちは何事も無いように普通に過ごしていた。
料理も娘が作り、自分がいなくてもすべてが回っていることに改めて気付く。
今すべきことへのモチベーションすら湧かない。
感情がおかしくなっている気がした。
自分の心の底、本質の部分から湧き上ってくる感情があるとすればいつ湧き上ってくるのだろう。
大切なもの、守りたいもの、やるべきことを認識してくれる感情。



そして1週間後の日曜の夜、一本の電話からすべてが動き出した。
わからなくなっていた感情が自分の中に確かに湧き上ってくる。
楽観的に考えれば良い方向に進むという考え、人を憎むことなど避けてきた性格、それがどれだけ取り返しのつかないことを招いたか自分でもわかっている。
自覚しながらも仕事で経験を重ね、自信を付け、取り繕ってきた鎧。
その鎧はすべて剥がれ落ちた。
今あるものは自分の本能から出てくるたった一つの感情。
やらなければならないたった一つのことをやる手段を掴んだ。” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [9]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “416” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(16229) “タクシーの着いた場所、そこは住宅街から少し離れた場所にポツンとある2階建ての建物だった。
タクシーを待たせながら歩いて近づく。
外からみる限り電気はついていない。
四角く、その一辺がおよそ15mほどの建物の周りを歩いてみるが中は見えなかった。
それでもこの建物の大きさ、駐車場の広さからして10人から15人はいる会社だろう。
もちろんただの憶測にしか過ぎない。
正面玄関にあるインターホンを押してみるが返答はない。
深夜3時だ。
わかってはいたが妻が今も仕事をしているわけではないのは確認できた。
どこを探せばいいかの目処すらつかない。
家に帰っているかもしれない。
いや、帰ってくるかもしれない。
今できることは家で待つこと。
それだけだ。
いや、それしかなかった。
・・・そしてそのまま一晩が明けた。





きれいなオフィスビルの5F 、自動ドアが開き中のきれいなつくりのオフィスが見える。
朝11時にもかかわらず客らしき人が一人いた。


「いらっしゃいませ。」


笑顔の女性がこちらを向いて挨拶している。


「こちらへどうぞ」


カウンター型できれいな不動産屋のような室内だった。
その女性の対面の席に座る。
興信所といえば古びたビルの一室という印象だったがここは違う。
社員教育もしっかりされている。
こんな状況をそのまま話すのは抵抗がある。
しかしここなら任せてもいいという雰囲気を感じる。


「今回はどのようなご用件で」


変わらず笑顔の女性が口を開く。


「あの、妻が昨日から帰ってなくて、恥ずかしいんですが実は浮気してるみたいなんです。だから妻を探してほしいのと、浮気相手の住所などわかればと思って。」


「奥さんの居場所ですね。一昨日までは普通に帰ってこられたんですか?」


「はい、家には帰ってきてて、私が浮気の事実を知ったことを妻も知り、それで帰らないのではないかと。」


「そうですか・・・奥さんと連絡はとられてみましたか?」


「一度電話が掛かってきて、事情は話すと言われたんですが、それから電源を切ってるみたいで。」


「では浮気相手と一緒にいる可能性が高いから浮気相手を探すというご依頼でよろしいですね。」


「ええ、ただ私自身もどうなっているのかわからない状態で、一緒にいるのか、妻が一人でいるのかすらわからないんです。」


「奥さんは普段通帳など持ち歩いてますか?カードや現金など、数日過ごせるだけのお金があればいいのですが、なければ相手と一緒にいるかお宅に帰られるしかないと思われます。なのでこちらでの調査に加えて奥さんが帰られる可能性も考えたほうがいいかも知れませんね。」


そして妻のDVDのことは言わずに調査依頼した。
こんな話を聞いても表情を一切崩さない受付の女性、こういう話になれているのか、それとも客の心理を気遣ってのことなのか、どちらかはわからないがしっかりした会社だという印象が深まる。
子供たちの将来、自分達の将来の為に貯めてきたお金を少しでもこんなことの為に使うのが悔しかった。
そして情けなかった。
一通りの調査以来をし、興信所を後にする。

そしてそのまま妻の会社を訪ねた。
妻は会社に出勤しているかもしれない。
インターホンを押し、自分の立場を隠し妻を訪ねる。
しかし帰ってきたのは予想通りの言葉だった。


「今日はお休みいただいてますが、どちらさまでしょうか?」


何も言わずに妻の会社を跡にした。

家のソファに座り、ただ流れているだけのテレビを見る。
即日調査するとの話だったがどうなるのかわからない。
妻の会社、実家・・・さまざまな情報を示した。
あたれるところをすべてあたってみるとのことだ。
心身が疲れ果てているのがわかる。
昨晩は一睡もできず、気分は落ち込み体もひどく疲れている。
家に妻が帰ってくる可能性だって十分にある。
ちょっと飲みすぎてホテルに泊まってきたといいながら帰ってきてくれたらどれだけ楽だろう。
まだ心の中に現実感のなさが残っている。
しかし時間が過ぎていくにどんどん妻が遠くに離れていき、帰ってこないことが現実として突きつけられる。
蒸発か・・・子供がいるんだぞ。



結局夜になっても妻は帰ってこなかった。
娘達にはなんと言おう。
昨日から帰ってこない妻、そしていつもはいない日にいる俺。
この状況で何をいったら怪しまれずに信じてもらえるだろうか。
取りあえず仕事で急に出張になったとでもいうしかないだろう。
娘にはその通り伝え、自分はこっちに仕事があったから帰ってきたと伝えた。
有給を取れたのは今日までだ。
明日から北九州に行かなければならない。
会社を休んでも家で待っているだけではどうにもならない。
せめて警察、そして興信所からの連絡を待つしか・・・。

翌日の夜、北九州での仕事を終え、単身赴任の部屋に戻った時、家から電話があった。


「あ、お父さん?今日お母さんの会社から電話があって、今日会社に来てないけど連絡くださいって電話があったんだけど。」


妻は会社を休んでいるんじゃなかったのか?
そうか、妻が会社に連絡を入れたのではなく、妻は会社を無断で休んでいたのか。
だから会社を訪ねてもお休みだと言われたのか。
それでも真菜に余計な心配をさせてしまう。


「ああ、お父さんのところにも電話が来て、間違いだったって。出張に出てるから来てないと思われて間違って連絡したらしいよ。」


そんな対応をするので精一杯だった。
急いで妻の会社に電話をする。
夜7時を回ったところだったが電話は繋がった。
そして典子が体調不良で休むと伝えた。
取りあえず2,3日と言ったがこの先どうなるのかがまったく見えない状態だ。
妻が失踪したなんて言える訳がない。
しかし先のことを考える余裕はなかった。

1週間後、北九州の仕事場で働いている時、興信所からの連絡が来た。
週に1回現状報告をしてもらうことになっていたが、遠いのもあり電話連絡をしてもらうようにしていた。


「一週間調査させていただきまして、同僚の方2人にもお話を伺ったのですが、奥さんは会社にも来ていないとのことで、居場所はわかりませんでした。
奥さんが浮気をしていたという事実はまだ確認できませんが、職場での様子は出張が多く忙しい印象を持たれている同僚が多いようです。
仕事を休んで何かをしていたなどは考えづらいかと思われます。」



結局居場所に関してはまったくわからなかった。
あれから妻の会社には、しばらく休むとだけ伝えておいた。
会社でそんな理由が通用するわけが無いのはわかっている。
でも今はどうしようもない。
今後の調査で何か手がかりがつかめるのだろうか。


その翌日の木曜だった。
単身赴任先の部屋見覚えのある封筒が届いた。
いや、見覚えがあるというのは錯覚だ。
普通A4サイズの茶封筒だ。
しかしこの部屋に物が届くなんてほとんどない。
ただ一回あったのは典子のDVDが届いたとき。
そのときの封筒小包とは違うA4封筒だが送り主がそれと同じであることは容易に推測できた。
典子の手がかりになる、もしくは典子からの直接の手紙かもしれない。
中身は手触りでなんであるか確認できる。
封を開け、中身を取り出す。
手紙とDVDだった。
またか・・・でも今はこれしか典子への繋がりはない。
手紙を読む。


「ごめんなさい。こっちを選びます。探偵にも言ってるみたいだけどもうやめてください。私には私の人生があります。
あなたと、そして子供たちと過ごしたこの20年近く、すごく楽しかった。私には一番大切なものでした。
でも今後も一緒に過ごす資格は私にはありません。裏切りの時間を過ごせば過ごすほどあなたと子供たちへの罪悪感が増していき、それでも裏切り続けてしまう自分を許せません。
すべて言い訳ですが、正直にすべてを話します。DVDを見てください。」


読みながら何度も胸を殴られたような感覚に陥った。
全身の血流が増して何かがおかしくなるような感覚。
理由はどうあれ典子から確実なを拒否受けた自分と子供たち。
妻であり母親である自分を捨てるという意思表示。
それは典子だけの問題ではない。
そこにあって当然の、それを基盤とした人生であるはずの家族。
それを一気に崩壊させるということを理解しているのだろうか。
理解していてでもこの道を選ぶという彼女の考えを確認したくて仕方がなかった。
今まで見てきたDVDの中にある典子の姿は彼女のその意思表示を裏付けるようなものだった。


そしてDVDをPCにセットし、再生する。
それは、部屋でショーツ1枚の姿になった典子が机に座り、手紙を書いている様子だった。
表情は見えないが、とても寂しげに見えた。
画面がその手紙をアップで映す。
今俺が読んだ手紙だった。

そして手紙を書き終えた妻は男に促されるようにベッドの上に行き、カメラに向かって股を開いた。
ショーツの隙間から男の手が典子の秘部を弄る。
中からローターが取り出される。
ローターを入れた状態で手紙を書かされていたのだ。
さっき読んだ手紙が本音なのかどうか強制なのかもわからなくなる。
そしてカメラが固定され、男はベッドに仰向けになり、典子はそれに跨った。
男の足のほうを向き、その延長線上にあるカメラを見ながら腰を降り始める。


「よし、奥さん、気持ちいいのはこれくらいにして、旦那に教えてあげなきゃな。真実を。」


そういいながら男は妻の太ももを両手で持ち上げ、カメラに結合部が丸見えの状態になった。
下を向き、どうしていいかわからないような表情をしている典子。


「早くいわなきゃ。ほら」


典子が口を開いた。


「あなたが知ってる通り、今見ている通り、私はこんな女です。こんなことが大好きで、離れられなくなった女なの。
初めは嫌だったけど、どんどんいろんなことをさせられるうちに身体が快楽を覚えてしまって、いくら理性で抑えようとしても身体がいうことを聞いてくれない。
それがあなた達への裏切りだってわかってても、あなた達さえ知らなければ、ばれなければと思ったらその理性がどんどん小さくなってしまって・・・。」

すると男が小刻みに腰を振り始めた。
妻は下を向き、それに耐えている。
自分の妻の、それも他の男との性交に没頭しているという告白など聞きたくはなかった。
それでもそれが現実なのかどうかすらわからないほど自分の頭が混乱していた。
妻が俺へのメッセージを、それも他の男の上に跨った状態で・・・。


「ほら、ちゃんと言えよ奥さん。」


男に促されて妻が再び口を開く。


「こうなったきっかけは・・・ま」


ピー・・・
なんだ?
音が消えた。
映像は普通に再生されているのに音がでない。
巻き戻してもう一度見てみるがやはり音が消えてる。
きっかけ?
映像以外の一切の音が消えてる。
映像の中で妻はしゃべり続けている。
音が聞きたい。
DVDが原因なんだろうか、そう思いながら音が復活するのを待つ。
3分くらいしたところだろうか、音が戻った。


「それが私です」


自分の頭の中に血が上るのがわかった。
理性ではなく本能でこの男に対しての怒りが満ち溢れていた。
これはDVDの問題じゃない。
あとから編集してわざと音を切ってある。
妻の告白の部分のみを。
それは聞かれたくないことだからか?
いや違う。
だったらDVDを俺に送る必要はない。
DVDを送ってまで音を切る理由。
それは一つだった。
俺を馬鹿にすることを楽しんでいる。
行き場のない怒りがテーブルの上に置いてあるカップに向かった。
カップを手に取り、そのまま床に思いっきり投げつけた。
テーブルもひっくり返し、PCは床に落下した。
どうすればいいかわからない怒りで狂いそうだった。
すべてを破壊しつくしても収まりようのない怒り。
普段仕事で嫌なことがあっても我慢したり、大人の対応をするものだ。
しかし本当の怒りを感じたらそんなものは通用しない。
思うことは一つだった。
この男を潰す。
” [“publish_status”]=> string(1) “2” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [10]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “415” [“user_name”]=> string(11) “aoi higesai” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(16095) “誰から送られてきたかもわからないDVD。
確かなのは妻が他の男に奪われている状況だということ。
それが意味することは家庭崩壊。
今まで地道に積み重ねてきた家庭。
それが誰だかもわからない連中に壊されようとしている。
DVDもその連中が送ってきたのだろうか。
とことんまで自分を馬鹿にすることを楽しんでいるとしか思えない。
悔しさよりも妻を好き放題にしている男達への苛立ちが増すばかりだった。

そして自分が今、そんな状況に追い込まれていることに気づく。
自分の手で男どもを殴ってやりたい。
旦那がいるということを知っていながらこういうことをする限度を知らない男。
妻が浮気をしたりするわけがないと勝手に思い込んで何もしなかった自分が腹立たしかった。


その週の週末は妻のいる家には戻らなかった。
その代わり会社に休日出勤して仕事を進めた。
火曜日と水曜日に有給を取る為だ。


「毎週火曜が楽しみで仕方ない。」


男のこの言葉が頭から離れない。
自分が今悩み苦しんでいる原因であるこの状況。
そして人の妻で遊ぶことを楽しみにしているというこの男の言葉。
心を抉り取られるような感覚だった。


火曜日、もちろん妻には言わずに妻のいる福岡市の家に帰る。
妻も仕事中のいはずだが、あれだけの映像を見せられた後だ、何を信用していいのかすらわからない。
家の中で撮影されたものもあった。
何も考えずにただ現場を押さえつけてやるという意思だけで動いていた。
いつも妻に迎えに来てもらう駅、そこからはタクシーで家の近所まで行く。
近所で降り、家の方へと歩き出す。
様子を伺うようにゆっくりと歩いている自分がいた。
何で自分の家に戻るのに様子を伺わなければならないんだ。
何があってもおかしくない。
でも何もしなければ何もかも失ってしまう。
ただ自分の中に今は溜め込んだものを吐き出し、現状を壊してしまいたいという気持ちでいっぱいだった。
心に決意を決めて歩き出す。
視界に自分の家が見えた。
そのまま近づく。
玄関に車はない。
いないのか。
そして玄関の鍵を開け、家の中に入る。
静かな室内。
自分が心臓をバクバクさせながらここまで来ていたことに気づく。
家にはいないか。。。
靴を脱ぎ、リビングのソファに座り込む。
仕事中なのか?
それともどこかで・・・。
とりあえず妻に電話をし、今夜帰ると伝えておこうと思い、携帯電話を手に取る。
妻からの着信履歴を探し、電話を掛ける。
今夜帰ると伝えて、今夜話をしよう。
仕事を休んだと言ったら妻も意識してしまうに違いない。
複数回呼び出し音が鳴り、妻が電話に出た。


「もしもし~。」


明るい声だった。いつもの妻だ。


「ああ、俺だけど」


「どうしたの~?何かあった?」


妻に言う。


「今夜帰るから、ご飯作っといて。」


「え、明日お休みなの?」


「いや、今日のうちの北九州に帰るよ。」


「そう、わかった。じゃあご飯作っておくね」


電話を切る。
そして夜に帰ることにして夜まで時間を潰すために家を出た。


その日の夜、8時過ぎに再び家に向かった。
いつもは駅まで迎えに来てもらっている。
突然家に帰ってきたらびっくりするだろうか。

家に着き、玄関のドアを開ける。


「ただいま~」


そう言いながらリビングに向かうが、リビングの電気はついていなかった。
まだ帰ってないのか?
2階にいるであろう娘の真菜に声を掛ける。


「お~い、真菜、お母さんは?」


真菜が部屋から出てきた。


「お母さんまだだよ。というかお母さんだと思ったらお父さんじゃん。今日仕事じゃないの?」


「仕事だけど、ちょっとこっちに用事があってね。」


まだ帰ってきてないのか。
娘に嘘をつくのが申し訳なかった。
子供達には何の関係もない話だ。
ただ事実を知ったらショックは計り知れないだろう。


それから時間が過ぎた。
時計の針は11時を回った。
典子に電話をしてみる。
数回のコール、しかし電話に出ない。
自分の中に焦燥感が高まっていくのがわかった。
真菜に聞くといつもは遅くても9時には帰ってくるらしい。
着信履歴は残ったはずだ。
典子から電話が掛かってくるのを待つ。
11時30分、12時近くになっても電話は掛かってこない。
その間何回か電話を掛けたがコールが鳴るだけ。
そもそも今日は会社に行ってなかったのか?
火曜びはいつも・・・。
考えてみれば妻の会社の住所さえもわからなかった。
自分が単身赴任で家を留守にしている間に妻は転職し、妻の勤務先すら聞いていなかった。
自分がどれだけ家のことを蔑ろにしてきたのかを少しずつ感じる。
そうだ、赤坂さん、彼女なら知ってるはずだ。
そう思い赤坂に電話をする。
こんな夜遅くに電話をすることは非常識だろう。
だが彼女しか頼る人がいない。
数回のコールの後、赤坂は電話に出た。


「もしもし、夜分遅くすみません。」


赤坂が驚いたような口調で言う。


「どうしたんですか?」


簡潔に事情を説明する。


「あの、妻がまだ帰ってこないんですけど、妻の会社の連絡先がわからなかったもので、赤坂さんしか頼る人がいないので電話させていただいたんですが・・・」


「え、まだ帰ってないんですか?もう終わってるはずですけど」


「今日妻は出勤してました?」


「はい、私が先に帰ったんですけど、こんな遅くまで仕事してるわけないと思います。ちょっと、一応会社に電話してみますね。」


そういって赤坂は会社に電話を掛けてくれた。
数分後、自分の携帯電話が鳴る。


「もしもし、どうでしたか?」


「会社はやっぱり誰もでませんでした。」


「そうですか、わかりました。ありがとうございます。」


今まで家に帰らなかったことなんてない。
何かあったんだろうか。
警察に言うか・・・。
携帯電話のディスプレイを見ながら110を番号を押し、発信ボタンを見つめる。
そのとき、妻からの電話が掛かってきた。
すぐに電話に出る。


「どこにいるんだ!何かあったのか?」


静かだった室内に自分の怒鳴り声が響く。


「ごめんなさい。事情は説明するから、とりあえず何かあったわけじゃないから・・・」


「だからどこで何を・・・」


「ツー、ツー」


通話が切れていた。
何かあったわけじゃない?
事情は説明する?
どういうことだ。
掛けなおすがコール音すら鳴らない。
電源を切っているのか。
電話での怒鳴り声を聞いて真菜が自分の部屋から降りてきた。


「お母さん何かあったの?」


心配そうな目で俺に問いかける。
明らかに何かを隠している妻、それをこの子に言うわけには行かない。


「お母さん会社でトラブルがあったから近くのホテルに泊まってくるって」


娘も高校生だ。
簡単な嘘はすぐに見破られてしまう。
とりあえず話を終わらせよう。


「もう明日学校だから早く寝な。」


そう言って真菜を部屋に戻した。
学校は夏休み中だが毎日学校の部活で後輩の指導をしている真菜。
今起っている現実を知ったらどうなるかわからない。
幸いなことに娘も息子も打つ込むことがあるようだ。
それだけが救いだった。


もううんざりだ。
そう思い警察に電話をした。
そして警察署に出向き、事情を説明する。

もちろんDVDのことなど言えるわけがない。
今夜妻が帰ってこないこと、事情は説明するとの連絡があったこと・・・。
言えるのはそれだけだ。
妻自らが何かあったわけではないと言っている