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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
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 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “434” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9716) “
 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 私はカフェの喧騒を遠くに感じていた。 “歳の差夫婦”のその後の話が刺激すぎて、私の意識はその余韻だけで麻痺していたのだ。


 「先生…寺田先生、大丈夫ですか」
 その声に顔を上げれば、渋谷君が私を見詰めている。
 「寺田先生って、よく話の途中で意識が飛ぶ事がありますよね。見てると何となく分かりますよ」
 「あぁ、ごめんなさい」と素直に頭を下げた。そんな私を見ながら彼が続ける。
 「それってやっぱり、奥様…先生の奥様と話の中の奥さんがダブってしまうからですかね」
 「そ、そうなんですよ…話に出て来た“歳の差夫婦”…その奥様と私の妻がどうもダブって視えましてね…それも私の“性癖”なんですかね…」


 私の様子見ながら、一瞬黙りかけた彼だったが、思い出したように訊いてきた。
 「そういえば今日は、その奥様の事で相談があったんじゃなかったでしたっけ」
 「あぁ、はい」頷きながら私は周囲を見回した。周りは相変わらずの混み具合だ。私は今更ながら、これまでの会話が聞かれていたのではと、背中が冷たくなるのを感じた。
 あまりにも彼の話に入りすぎて、周りに注意が行かなかったのだ。彼の方は全く平気な様子だ。私は前に乗り出すようにして、妻の事を話す事にした。もちろん小声でだ。


 「前回、渋谷君と初めて会った時も自分の気持ちがハッキリしていなかったんです。私の妄想が妻に向いてるのは分かってるつもりだったんですけど、その妻をどうしたいのか、或いは自分がどうなりたいのか…」
 「………」
 「で、それが今でもハッキリしないんで迷ってたわけですけど…実はその妻にも怪しいところがあるような気がしてきましてね」
 「怪しいところ…と言いますと」
 「ええ、実は半年ほど前から妻の帰宅が遅かったり。それに休日に出掛ける事が結構ありまして」
 「ああ、そうだったんですか。それでそれが、浮気じゃないかと」
 「はぁ、その可能性もあるのかと。私も自分の妄想でいっぱいで日常の妻には注意が向いてなかったんですね。妻の方も私の様子がおかしい事に気が付いていて、その原因を探るのに家用の私のパソコンを視たんですよ」
 「ん、パスワードは設定してなかったんですか」
 「はい、うっかりしてましてね。それで恥ずかしい事に、私が視てきた変態チックな動画や画像、それに読んだ寝取られ小説の履歴なんかを知られたみたいなんですよ」
 「あぁ…」彼は呻きのような声を出した。しかし、その表情(かお)を観(み)れば、どこか愉(たのし)げな感じもする。


 「それで、妻が言うには『その履歴を視てからは、アタシも好きな事をしている』と」
 私の言葉に彼は、フムフムと腕を組み換えた。


 「そんな事をつい先日、渋谷君と初めて会った後…たしか水曜の夜に告(い)われましてね…」
 「なるほど。それで先生は半年前に遡って考えてみて、奥様の動きに不穏なところがあるかと」
 「ええ、まぁ、そう言う事なんです」


 眉間に皺を寄せた私は、うだつの上がらない中年男だ。渋谷君を見れば、腕を組んだまま考え込んでいる。
 その彼が覗き込むように訊いてきた「あのぉ、今の先生は奥様を“寝取られたい“という気持ちの前に、浮気疑惑をハッキリさせたいわけですよね」
 「あ、ああ…」と、情けない声を出して認めてしまっていた。
 「えっと、その疑惑の続きで奥様をどうにかしたいとか願望はお有りなんでしょうけど、それは取り敢えず置いといて尾行でもしてみましょうか」
 「ええっ!?」思わず感嘆の声を上げてしまった。
 遥か年下の彼は、私の痒い所に手を伸ばすかのように、要望を先取りしてくれたのだ。
 「ええ。でも、本来は神田先生が請ける仕事に尾行はなかった筈なんですよ。なので僕が、個人的にやりますよ」
 「えっいいんですか!」
 「はい。なんだか寺田先生を見てますと、力になってあげたくなりましてね」
 ああ!私はもう一度感嘆の声を上げていた。


 それから私はコーヒーのお代わりをさせて貰って、妻のいわゆる個人情報を伝えたのだった。
 勿論その中には自宅の住所もあったが仕方ない。勤務先の中学の名前を出した時も、自分は聖職者失格と思ったりしたが何を今さらだ。
 最後に妻の写真ーーかなり昔に撮った物を彼のスマホに転送した。


 彼は妻の画像を見ながら頷いて「この写真似てますよ。うん、あの“歳の差夫婦”の奥様にそっくりですよ」
 「あぁそうですか。私も話を聞きながらそんなイメージが浮かんでたんですよ」
 「うん、髪型もそうですね、ショートボブだし体型は脱がないと分かりませんが」
 「いや、体型もたぶんそっくりですよ。渋谷君が言ってたサイズ…妻も同じぐらいだと思うんですよ」
 「そう言えばあの奥様の名前、たしか“奈美子”って呼ばれてましたね」
 「あぁ名前もどことなく似てますね」
 私は変な感覚を覚えながら妻の顔を思い浮かべた。
 そして、最近の妻の気になるポイントを伝える事にしたーー頻繁に口にするようになった女子高生の事だーー。


 「なるほど、先生が今1番気になるのは、以前の教え子の事ですか」
 「はい…」
 「でも、さすがに女子高生と浮気は結びつきませんよね」と、苦笑いを浮かべる彼。
 「ええ、まあ、そうなんです…でも」
 「はい分かりますよ。教え子の相談に行くと言って、違う誰かと会ってる可能性もありますからね」
 「そうなんですよ」
 「それじゃあ今度、奥様が教え子に会うって言って出掛けたら、取り敢えず連絡して下さいよ。僕のタイミングが合えば奥様を尾(つ)けてみますよ」


 彼の申し出を受けて、私は妻の授業が終わる時間帯を教える事にした。その日によって時間はまちまちだが、目安にはなるだろう。
 それから私は「あの、それで渋谷君に払う報酬は…」と言いかけた途中で…。
 「そうですねぇ、もし本当に奥様が浮気でもしてたら、僕も仲間に入れて貰いましょうかね」
 「ええっ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった。


 「ははっ、な~んて…半分本気ですけどね」と彼の表情(かお)には、それでも真剣味が交じってみえる。
 私の背中には冷や汗が落ちていく感じだ。


 「そうなんですよ寺田先生。先程、自分の中に迷いがあるって仰りましたけど、その選択肢の中には“妻を他人に“ってあるんですものね」
 あぁ…改まって指摘された通り、間違いなくその気持ちは…。
 しかし…いざ、そんな場面が来た時には、私はどんな精神状態でどんな対応をするだろうか。


 「先生…寺田先生、そんな真剣にならないで下さいよ。ちょっと弾みで口にしただけですから」
 「あ、あぁ…」私は又も呻くような声で返事をしてしまった。


 「さっきも云いましたけど、取り敢えず教え子の話…奥様の口からそれが出たら僕に連絡を、って事で」
 最後の渋谷君の様子はウインクでもする感じだった。私の方はぎこちなさを残したままだ。
 あぁ…又も自分と向き合う時間の始まりだ。新たな妄想は湧き上がるのだろうか…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 841684984の時、$oは7array(7) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “438” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(16746) “
 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
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 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 私はカフェの喧騒を遠くに感じていた。 “歳の差夫婦”のその後の話が刺激すぎて、私の意識はその余韻だけで麻痺していたのだ。


 「先生…寺田先生、大丈夫ですか」
 その声に顔を上げれば、渋谷君が私を見詰めている。
 「寺田先生って、よく話の途中で意識が飛ぶ事がありますよね。見てると何となく分かりますよ」
 「あぁ、ごめんなさい」と素直に頭を下げた。そんな私を見ながら彼が続ける。
 「それってやっぱり、奥様…先生の奥様と話の中の奥さんがダブってしまうからですかね」
 「そ、そうなんですよ…話に出て来た“歳の差夫婦”…その奥様と私の妻がどうもダブって視えましてね…それも私の“性癖”なんですかね…」


 私の様子見ながら、一瞬黙りかけた彼だったが、思い出したように訊いてきた。
 「そういえば今日は、その奥様の事で相談があったんじゃなかったでしたっけ」
 「あぁ、はい」頷きながら私は周囲を見回した。周りは相変わらずの混み具合だ。私は今更ながら、これまでの会話が聞かれていたのではと、背中が冷たくなるのを感じた。
 あまりにも彼の話に入りすぎて、周りに注意が行かなかったのだ。彼の方は全く平気な様子だ。私は前に乗り出すようにして、妻の事を話す事にした。もちろん小声でだ。


 「前回、渋谷君と初めて会った時も自分の気持ちがハッキリしていなかったんです。私の妄想が妻に向いてるのは分かってるつもりだったんですけど、その妻をどうしたいのか、或いは自分がどうなりたいのか…」
 「………」
 「で、それが今でもハッキリしないんで迷ってたわけですけど…実はその妻にも怪しいところがあるような気がしてきましてね」
 「怪しいところ…と言いますと」
 「ええ、実は半年ほど前から妻の帰宅が遅かったり。それに休日に出掛ける事が結構ありまして」
 「ああ、そうだったんですか。それでそれが、浮気じゃないかと」
 「はぁ、その可能性もあるのかと。私も自分の妄想でいっぱいで日常の妻には注意が向いてなかったんですね。妻の方も私の様子がおかしい事に気が付いていて、その原因を探るのに家用の私のパソコンを視たんですよ」
 「ん、パスワードは設定してなかったんですか」
 「はい、うっかりしてましてね。それで恥ずかしい事に、私が視てきた変態チックな動画や画像、それに読んだ寝取られ小説の履歴なんかを知られたみたいなんですよ」
 「あぁ…」彼は呻きのような声を出した。しかし、その表情(かお)を観(み)れば、どこか愉(たのし)げな感じもする。


 「それで、妻が言うには『その履歴を視てからは、アタシも好きな事をしている』と」
 私の言葉に彼は、フムフムと腕を組み換えた。


 「そんな事をつい先日、渋谷君と初めて会った後…たしか水曜の夜に告(い)われましてね…」
 「なるほど。それで先生は半年前に遡って考えてみて、奥様の動きに不穏なところがあるかと」
 「ええ、まぁ、そう言う事なんです」


 眉間に皺を寄せた私は、うだつの上がらない中年男だ。渋谷君を見れば、腕を組んだまま考え込んでいる。
 その彼が覗き込むように訊いてきた「あのぉ、今の先生は奥様を“寝取られたい“という気持ちの前に、浮気疑惑をハッキリさせたいわけですよね」
 「あ、ああ…」と、情けない声を出して認めてしまっていた。
 「えっと、その疑惑の続きで奥様をどうにかしたいとか願望はお有りなんでしょうけど、それは取り敢えず置いといて尾行でもしてみましょうか」
 「ええっ!?」思わず感嘆の声を上げてしまった。
 遥か年下の彼は、私の痒い所に手を伸ばすかのように、要望を先取りしてくれたのだ。
 「ええ。でも、本来は神田先生が請ける仕事に尾行はなかった筈なんですよ。なので僕が、個人的にやりますよ」
 「えっいいんですか!」
 「はい。なんだか寺田先生を見てますと、力になってあげたくなりましてね」
 ああ!私はもう一度感嘆の声を上げていた。


 それから私はコーヒーのお代わりをさせて貰って、妻のいわゆる個人情報を伝えたのだった。
 勿論その中には自宅の住所もあったが仕方ない。勤務先の中学の名前を出した時も、自分は聖職者失格と思ったりしたが何を今さらだ。
 最後に妻の写真ーーかなり昔に撮った物を彼のスマホに転送した。


 彼は妻の画像を見ながら頷いて「この写真似てますよ。うん、あの“歳の差夫婦”の奥様にそっくりですよ」
 「あぁそうですか。私も話を聞きながらそんなイメージが浮かんでたんですよ」
 「うん、髪型もそうですね、ショートボブだし体型は脱がないと分かりませんが」
 「いや、体型もたぶんそっくりですよ。渋谷君が言ってたサイズ…妻も同じぐらいだと思うんですよ」
 「そう言えばあの奥様の名前、たしか“奈美子”って呼ばれてましたね」
 「あぁ名前もどことなく似てますね」
 私は変な感覚を覚えながら妻の顔を思い浮かべた。
 そして、最近の妻の気になるポイントを伝える事にしたーー頻繁に口にするようになった女子高生の事だーー。


 「なるほど、先生が今1番気になるのは、以前の教え子の事ですか」
 「はい…」
 「でも、さすがに女子高生と浮気は結びつきませんよね」と、苦笑いを浮かべる彼。
 「ええ、まあ、そうなんです…でも」
 「はい分かりますよ。教え子の相談に行くと言って、違う誰かと会ってる可能性もありますからね」
 「そうなんですよ」
 「それじゃあ今度、奥様が教え子に会うって言って出掛けたら、取り敢えず連絡して下さいよ。僕のタイミングが合えば奥様を尾(つ)けてみますよ」


 彼の申し出を受けて、私は妻の授業が終わる時間帯を教える事にした。その日によって時間はまちまちだが、目安にはなるだろう。
 それから私は「あの、それで渋谷君に払う報酬は…」と言いかけた途中で…。
 「そうですねぇ、もし本当に奥様が浮気でもしてたら、僕も仲間に入れて貰いましょうかね」
 「ええっ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった。


 「ははっ、な~んて…半分本気ですけどね」と彼の表情(かお)には、それでも真剣味が交じってみえる。
 私の背中には冷や汗が落ちていく感じだ。


 「そうなんですよ寺田先生。先程、自分の中に迷いがあるって仰りましたけど、その選択肢の中には“妻を他人に“ってあるんですものね」
 あぁ…改まって指摘された通り、間違いなくその気持ちは…。
 しかし…いざ、そんな場面が来た時には、私はどんな精神状態でどんな対応をするだろうか。


 「先生…寺田先生、そんな真剣にならないで下さいよ。ちょっと弾みで口にしただけですから」
 「あ、あぁ…」私は又も呻くような声で返事をしてしまった。


 「さっきも云いましたけど、取り敢えず教え子の話…奥様の口からそれが出たら僕に連絡を、って事で」
 最後の渋谷君の様子はウインクでもする感じだった。私の方はぎこちなさを残したままだ。
 あぁ…又も自分と向き合う時間の始まりだ。新たな妄想は湧き上がるのだろうか…。
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 土曜日のカフェで渋谷優作君と会える事になった私ーー寺田達夫。
 彼は私の意向に応えるように、あの“歳の差夫婦”のその後を話してくれたのだ。


 「神田先生の下でする“仕事”ってアフターフォローなんかもそれなりにするんですよ。あのご夫婦にも、その後はどうですか~なんてメールで聞いたりしたんですね。そうしますとちょうど先日、神田先生経由で連絡がありまして…」
 彼の口からはさっそく、歯切れの良い言葉が溢れ出した。私の方は期待に心震わすと言ったところだ。


 「ええ、それでね、あのご主人の“アソコ”完全に復活したんですよ。はい、勃(た)ちが全盛期に戻ったんです」と彼が笑う。
 「え、渋谷君は又呼ばれて行ってきたの?」
 「はい、ご自宅のマンションに行って、お二人をいたぶって…」
 いたぶって…あぁ、それは“調教”と聞きそうになったところで「あのご夫婦って二人ともMじゃないですか。ご主人も分かってて僕を呼んだんだと思うんです。だから期待に応えてやりましたよ」
 「ああ、じゃあやっぱり」
 呟きながら彼を見れば、口元には早くもサディスティックな色が浮かんでいる。
 「へへっ、今日はこんな話も聞きたかったんでしょ」そう云って彼の目は、私の奥底を覗き込んで来る。
 私はコクコク頷くだけだ。


 「僕が着いた時には、二人はシャワーを浴び終えていてガウン姿で迎えてくれましたよ」
 「………」
 「それでさっそく旦那をソファーに座らせてまして、俺は服を脱ぎ始めましたよ」
 彼の口調がこの前と同じように、『ご主人』が“旦那”に『僕』が“俺”に変わっていく。


 「前回と同じように奥さんを膝まずかせて、俺のバンツを下ろさせましてね。それで“即尺(そくしゃく)”です。分かりますよね先生」
 は、はい、と小声で頷いた。私もその意味ぐらいは知っている。エロ動画の中で何度も視た事がある。
 「ええ、俺の小便臭いチンポを綺麗にさせたんですよ。遠慮なく突っ込んで出して、奥さんは苦しそうにしながらも悦(よろこ)んでましたよ」
 早くもその奥様の姿が浮かんでくる。イラマチオをされて悦ぶ女はーー妻の久美子だ。


 「へへっ、フェラチオを続けてましたらね、旦那がガウンを脱ぎ出して、股間のアレを握ってオロオロするんですよ。この人、早く遣りたいだなと思ったんで、取り敢えず呼んであげましたよ」
 「………」
 「俺はチンポを抜いて、奥さんのガウンをとって素っ裸にしましてね。それから立ったままの奥さんの唇を旦那と二人で責めましたよ」
 又もその場面が浮かんでくる。左右から交互に唇を奪われる妻だ。


 「その次は胸。ええ、あの程よい大きさの胸を、揉みながら舐めてやりました」
 それも久美子の乳房だ。舐めるのは片方から渋谷君で、もう片方を責める男は私だ。
 「乳首を舐めてますと、旦那がアレを握って、挿れたくて仕方ないって感じなんですよ。でもね」
 そこで彼が、又も口元を歪める。私にまで“お預け”を喰らわしそうな感じだ。
 「旦那にはまだ我慢させる事にして、俺は奥さんを後ろから犯(や)る事にしましたよ」
 「………」
 「でも旦那にはフェラチオだけ許可してやりましたね。射精はするなって云いましたけど」
 「あぁ…」
 「はい、さっきも言いましたけど二人ともマゾ気質なんですよね。だから旦那の射精をコントロールしてやろうと思ったんです。旦那の方も一切文句なんか言いませんでしたよ」
 あぁ、50歳の教員を務める男が遥か年下の若者に射精を支配されるのだ…。


 「初めての時はほら、俺も奥さんの膣(なか)に出さなかったじゃないですか。だからその時は、思い切り出してやろうなんて思いながら突いてやりましたよ」
 そうなのだ。渋谷君は相手の射精をコントロールして、自分の射精もコントロールするのだ。


 「奥さんは後ろから俺に突かれて、前の口は旦那のチンポですよ」
 その場面も頭に浮かんでしまう。四つん這いの妻の、前後の口が支配されるシーンだ。
 「でもね、奥さんが直ぐに逝きそうになったんで待ったを掛けてやりましたよ」
 「あっ、それって」
 「ふふっ、旦那のチンポを一旦吐き出させてね、逝きたけりゃお願いしろって云ってやったんですよ。分かりますよね」
 「あぁ、はい…。で、どんな風に…」


 「旦那の目を見ながら、若い男のチンポがイイーッ、このチンポで逝かせて下さいッ、お願いしますッてね」
 (ウアアッ…)
 「旦那の方はそれを聞いてか、フンフン唸り声を上げてましてねぇ。チンポもカチンカチンになってて、収まりどころが早く欲しかったんでしょうね」
 「で、でも旦那さんは直ぐには…」
 「そうですよ。俺が帰るまでは犯(や)らせるつもりはありませんでしたからね」


 目の前の彼は間違いなくサディスティックだ。私の喉は早くもカラカラで、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「その時、閃きましてね。俺はバックを止めて、背面座位でやる事にしたんです。その格好、分かりますよね、前にやったやつです」
 勿論、それは知っている。背中を男に預けて、大股開きで下から突き上げられる妻の姿が浮かぶ。
 「ふふ、それで俺が突いてるところ…その結合の部分を旦那に舐めさせてやろうと思ったんです」
 「ええっ!」
 「前回の時は、その繋がってる部分をガン見してたじゃないですか。だから今度は、舐めさてやったんですよ」
 「…ほ、本当にご主人は舐めたんですか…」
 「はい、俺が見立てた通りのマゾですから、最初は躊躇した感じはありましたけど、意外と素直に舐めましたよ」


 彼の淡々と話す中からも、私には異様な香りが降りかかっていた。私は又も唾を飲み込み、息を繋いでいる。


 「奥さんもそのシチュエーションに興奮してるようでしたね。俺が突きながら耳元で『ほら、目をよく開けて見てみなよ。旦那が繋がってるところを舌で舐めてるだろ』って云ってやったんですよ」
 「あぁッ!そ、それで聞いた奥さんは…」
 「ん、目を見開いて、ヒィーーッて意味わかんない叫び声を上げてましたね」
 「ウウッ!…」
 「そうそう、二人とも教師で旦那がかなり歳上じゃないですか。だから仕事上の先輩でもある旦那さんのその姿が変に刺激的だったんじゃないですか」
 ああっ…私の中には、得体の知れない感慨が渦巻いてきた。
 聖職と呼ばれる職に就く二人の浅ましい姿。それは二人が、望んでいた姿なのだろうか。二人揃って性の深淵に堕ちて行くのが幸せなのだろうか。私の中で渦を巻いた感慨は、妖しい炎となって胸を熱くしてくる。
 そして、先ほどからその夫婦を自分達夫婦に置き換えている私がいる。


 ふうっと息を吐く。
 「…ええっと、それで他には…」
 私の言葉に彼は、一瞬きょとんとしたが、直ぐに思い出したように笑う。
 「ああ、それでね、俺も1回射精(だし)たんですよ。奥さんの方は当然何回も逝ってたんですけどね。でも、逝く時もすんなり許可はしませんでしたよ。『待て』を何回も掛けてやってね」
 と云って彼が笑う。


 「で、旦那はカチンカチンのままじゃないですか。だからそのまま“お預け”を続けてやろうと思いましてね…」
 ゴクリ、又も喉が鳴ってしまう。


 「フラフラの奥さんを立たせましてね、バルコニーのカーテンを開けてやったんです」
 「えっ!」
 「そう、外から見えるように…素っ裸の奥さんを外に向かって曝してやったんですよ」
 「な、なんて事を…」と、口に付きそうになった私。この期に及んで、世間様に対する不埒な行いを注意でもしようとしたのか…なんて思ったのも一瞬で、変態性癖な私の思考は、その場面を浮かべて怪しい高鳴りを発していた。


 「奥さんも旦那もさすがに焦ってましたかね。カーテン1枚とはいえ、それが密室と世間の境界線になってたわけですからね」
 あぁその通りなのだ。彼が口にした“密室”、それは我々聖職者の隠れ蓑で、変質的な性癖が担保される場所なのだ。そこを越えてしまったという事なのか…。


 「あ、あの…窓の外側って…」
 「ああ、そこの部屋はたしか4階だったと思うんですけど、向こう側の建物と結構密接してましてね。あっちのカーテンが開けばフェイス トゥ フェイスって言うんですか、要は丸見えですよ」
 無邪気に笑う彼を見ながらも、私の中には冷たいものが落ちていくような感じがした。


 「へへっ。それでね、その奥さんを窓いっぱいまで近づけてね、命令をしてやったわけですよ。寺田先生なら分かりますよね、それがどんなシチュエーションか。エロ動画なんかでも視たんじゃないですか」
 「アアッ」
 私は呻き声で、肯定の返事をしてしまっている。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「さあ、ここで問題です。俺は奥さんにどんな格好を命令したと思いますか」
 「………」
 頭の中では色んな場面が渦巻いていく。卑猥な動画で視まくった場面と、妄想が働いて頭の中で再現してきた場面だ。


 「まぁ大体は想像つきますよね。そうなんです、身体を外に向けたままガニ股の格好を命令したんです。そして、マンコの際に手を当てて拡げさせたんです」
 「ンググッ」
 「へへっ、興奮しますか。旦那は震えながら立ったまま奥さんのその格好を見てましたよ。ああ、立ったままってアソコもそうでしょうけど、足で立ったままって意味ですよ」
 彼の細かいというか丁寧というか、その言葉にも緊張が続く私がいる。そんな私を愉(たのし)げに見ながら彼は続ける。


 「次はですね、尻(ケツ)を外に向かせたんですね。はい、そこで今度は立ったまま…こう、頭を下げさせまして、股の下から外を覗かせたんです。分かりますよね」
 ううっ、と呻き声を上げてしまった。さっき見た夢のシーンとそっくりではないか。


 「その奥さん、結構身体が柔らかいんですよ。脚をピンっと伸ばした状態で、手がピタリと床に付くんですよ。それでその格好で向こうを覗いて…尻(ケツ)の破れ目を突き出してるんですよ」
 私は又も呻きと同時に唾を飲み込んだ。頭の中には妻だ。妻の姿が浮かんでいる。そう、体操をやってた妻も身体が柔らかいのだ。しかし…私は妻にそんなポーズをやらせた事がない。頼んだ事もない。昔から勇気のない私なのだ。


 「旦那も次第にオロオロしてきましてね。そりゃそうですよね、いつ向こうに人が現れるか分かんないわけですし。俺なんかは、向こうの部屋の人がこっちと知り合いだったら面白いのに、なんて考えてましたけどね」
 そう云って笑う彼に、私は唸り声を上げるだけだ。しかしそれは、同意でもあるのだ。他人様の恥態ならいくらでも眺められる。あぁどうしようもない卑怯者がここにいる。


 「俺はオロオロする旦那に徐々にイライラしてきましてね。それで旦那にも命令してやりましたよ」
 「ああ、それは何て…」
 「ん、ええ、奥さんの横に行って、アンタも同じ格好しろって」
 「そ、それって」
 「そうですよ。旦那はビビってましたけど、1度やったら病みつきになるからって云ってやったら…。そうしたら恐々奥さんの横に行って、同じように股ぐらから向こうを覗きましたよ」
 「アアッ!」
 「向こう側から見たら凄い光景ですよね。全裸の男と女が並んで尻を向けて、股から顔を覗かせてるんですから」
 「………」
 「へへっ。それでね、俺はその二人の姿をシッカリ動画に撮ってやりましたよ。だってその日は、二人の姿を撮るのも仕事でしたから」


 いつの間にか、私は口からハーハーと息を吐き出していた。私の精神は、そのご夫婦の姿を自分達夫婦とシンクロさせていたのだ。そして、その私の口から久美子…と小さな声が零れ落ちた。
 それを聞いてか、渋谷君がウンウンと頷いたのだった…。
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } [5]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “434” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(9716) “
 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 私はカフェの喧騒を遠くに感じていた。 “歳の差夫婦”のその後の話が刺激すぎて、私の意識はその余韻だけで麻痺していたのだ。


 「先生…寺田先生、大丈夫ですか」
 その声に顔を上げれば、渋谷君が私を見詰めている。
 「寺田先生って、よく話の途中で意識が飛ぶ事がありますよね。見てると何となく分かりますよ」
 「あぁ、ごめんなさい」と素直に頭を下げた。そんな私を見ながら彼が続ける。
 「それってやっぱり、奥様…先生の奥様と話の中の奥さんがダブってしまうからですかね」
 「そ、そうなんですよ…話に出て来た“歳の差夫婦”…その奥様と私の妻がどうもダブって視えましてね…それも私の“性癖”なんですかね…」


 私の様子見ながら、一瞬黙りかけた彼だったが、思い出したように訊いてきた。
 「そういえば今日は、その奥様の事で相談があったんじゃなかったでしたっけ」
 「あぁ、はい」頷きながら私は周囲を見回した。周りは相変わらずの混み具合だ。私は今更ながら、これまでの会話が聞かれていたのではと、背中が冷たくなるのを感じた。
 あまりにも彼の話に入りすぎて、周りに注意が行かなかったのだ。彼の方は全く平気な様子だ。私は前に乗り出すようにして、妻の事を話す事にした。もちろん小声でだ。


 「前回、渋谷君と初めて会った時も自分の気持ちがハッキリしていなかったんです。私の妄想が妻に向いてるのは分かってるつもりだったんですけど、その妻をどうしたいのか、或いは自分がどうなりたいのか…」
 「………」
 「で、それが今でもハッキリしないんで迷ってたわけですけど…実はその妻にも怪しいところがあるような気がしてきましてね」
 「怪しいところ…と言いますと」
 「ええ、実は半年ほど前から妻の帰宅が遅かったり。それに休日に出掛ける事が結構ありまして」
 「ああ、そうだったんですか。それでそれが、浮気じゃないかと」
 「はぁ、その可能性もあるのかと。私も自分の妄想でいっぱいで日常の妻には注意が向いてなかったんですね。妻の方も私の様子がおかしい事に気が付いていて、その原因を探るのに家用の私のパソコンを視たんですよ」
 「ん、パスワードは設定してなかったんですか」
 「はい、うっかりしてましてね。それで恥ずかしい事に、私が視てきた変態チックな動画や画像、それに読んだ寝取られ小説の履歴なんかを知られたみたいなんですよ」
 「あぁ…」彼は呻きのような声を出した。しかし、その表情(かお)を観(み)れば、どこか愉(たのし)げな感じもする。


 「それで、妻が言うには『その履歴を視てからは、アタシも好きな事をしている』と」
 私の言葉に彼は、フムフムと腕を組み換えた。


 「そんな事をつい先日、渋谷君と初めて会った後…たしか水曜の夜に告(い)われましてね…」
 「なるほど。それで先生は半年前に遡って考えてみて、奥様の動きに不穏なところがあるかと」
 「ええ、まぁ、そう言う事なんです」


 眉間に皺を寄せた私は、うだつの上がらない中年男だ。渋谷君を見れば、腕を組んだまま考え込んでいる。
 その彼が覗き込むように訊いてきた「あのぉ、今の先生は奥様を“寝取られたい“という気持ちの前に、浮気疑惑をハッキリさせたいわけですよね」
 「あ、ああ…」と、情けない声を出して認めてしまっていた。
 「えっと、その疑惑の続きで奥様をどうにかしたいとか願望はお有りなんでしょうけど、それは取り敢えず置いといて尾行でもしてみましょうか」
 「ええっ!?」思わず感嘆の声を上げてしまった。
 遥か年下の彼は、私の痒い所に手を伸ばすかのように、要望を先取りしてくれたのだ。
 「ええ。でも、本来は神田先生が請ける仕事に尾行はなかった筈なんですよ。なので僕が、個人的にやりますよ」
 「えっいいんですか!」
 「はい。なんだか寺田先生を見てますと、力になってあげたくなりましてね」
 ああ!私はもう一度感嘆の声を上げていた。


 それから私はコーヒーのお代わりをさせて貰って、妻のいわゆる個人情報を伝えたのだった。
 勿論その中には自宅の住所もあったが仕方ない。勤務先の中学の名前を出した時も、自分は聖職者失格と思ったりしたが何を今さらだ。
 最後に妻の写真ーーかなり昔に撮った物を彼のスマホに転送した。


 彼は妻の画像を見ながら頷いて「この写真似てますよ。うん、あの“歳の差夫婦”の奥様にそっくりですよ」
 「あぁそうですか。私も話を聞きながらそんなイメージが浮かんでたんですよ」
 「うん、髪型もそうですね、ショートボブだし体型は脱がないと分かりませんが」
 「いや、体型もたぶんそっくりですよ。渋谷君が言ってたサイズ…妻も同じぐらいだと思うんですよ」
 「そう言えばあの奥様の名前、たしか“奈美子”って呼ばれてましたね」
 「あぁ名前もどことなく似てますね」
 私は変な感覚を覚えながら妻の顔を思い浮かべた。
 そして、最近の妻の気になるポイントを伝える事にしたーー頻繁に口にするようになった女子高生の事だーー。


 「なるほど、先生が今1番気になるのは、以前の教え子の事ですか」
 「はい…」
 「でも、さすがに女子高生と浮気は結びつきませんよね」と、苦笑いを浮かべる彼。
 「ええ、まあ、そうなんです…でも」
 「はい分かりますよ。教え子の相談に行くと言って、違う誰かと会ってる可能性もありますからね」
 「そうなんですよ」
 「それじゃあ今度、奥様が教え子に会うって言って出掛けたら、取り敢えず連絡して下さいよ。僕のタイミングが合えば奥様を尾(つ)けてみますよ」


 彼の申し出を受けて、私は妻の授業が終わる時間帯を教える事にした。その日によって時間はまちまちだが、目安にはなるだろう。
 それから私は「あの、それで渋谷君に払う報酬は…」と言いかけた途中で…。
 「そうですねぇ、もし本当に奥様が浮気でもしてたら、僕も仲間に入れて貰いましょうかね」
 「ええっ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった。


 「ははっ、な~んて…半分本気ですけどね」と彼の表情(かお)には、それでも真剣味が交じってみえる。
 私の背中には冷や汗が落ちていく感じだ。


 「そうなんですよ寺田先生。先程、自分の中に迷いがあるって仰りましたけど、その選択肢の中には“妻を他人に“ってあるんですものね」
 あぁ…改まって指摘された通り、間違いなくその気持ちは…。
 しかし…いざ、そんな場面が来た時には、私はどんな精神状態でどんな対応をするだろうか。


 「先生…寺田先生、そんな真剣にならないで下さいよ。ちょっと弾みで口にしただけですから」
 「あ、あぁ…」私は又も呻くような声で返事をしてしまった。


 「さっきも云いましたけど、取り敢えず教え子の話…奥様の口からそれが出たら僕に連絡を、って事で」
 最後の渋谷君の様子はウインクでもする感じだった。私の方はぎこちなさを残したままだ。
 あぁ…又も自分と向き合う時間の始まりだ。新たな妄想は湧き上がるのだろうか…。
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 土曜日のカフェで渋谷優作君と会える事になった私ーー寺田達夫。
 彼は私の意向に応えるように、あの“歳の差夫婦”のその後を話してくれたのだ。


 「神田先生の下でする“仕事”ってアフターフォローなんかもそれなりにするんですよ。あのご夫婦にも、その後はどうですか~なんてメールで聞いたりしたんですね。そうしますとちょうど先日、神田先生経由で連絡がありまして…」
 彼の口からはさっそく、歯切れの良い言葉が溢れ出した。私の方は期待に心震わすと言ったところだ。


 「ええ、それでね、あのご主人の“アソコ”完全に復活したんですよ。はい、勃(た)ちが全盛期に戻ったんです」と彼が笑う。
 「え、渋谷君は又呼ばれて行ってきたの?」
 「はい、ご自宅のマンションに行って、お二人をいたぶって…」
 いたぶって…あぁ、それは“調教”と聞きそうになったところで「あのご夫婦って二人ともMじゃないですか。ご主人も分かってて僕を呼んだんだと思うんです。だから期待に応えてやりましたよ」
 「ああ、じゃあやっぱり」
 呟きながら彼を見れば、口元には早くもサディスティックな色が浮かんでいる。
 「へへっ、今日はこんな話も聞きたかったんでしょ」そう云って彼の目は、私の奥底を覗き込んで来る。
 私はコクコク頷くだけだ。


 「僕が着いた時には、二人はシャワーを浴び終えていてガウン姿で迎えてくれましたよ」
 「………」
 「それでさっそく旦那をソファーに座らせてまして、俺は服を脱ぎ始めましたよ」
 彼の口調がこの前と同じように、『ご主人』が“旦那”に『僕』が“俺”に変わっていく。


 「前回と同じように奥さんを膝まずかせて、俺のバンツを下ろさせましてね。それで“即尺(そくしゃく)”です。分かりますよね先生」
 は、はい、と小声で頷いた。私もその意味ぐらいは知っている。エロ動画の中で何度も視た事がある。
 「ええ、俺の小便臭いチンポを綺麗にさせたんですよ。遠慮なく突っ込んで出して、奥さんは苦しそうにしながらも悦(よろこ)んでましたよ」
 早くもその奥様の姿が浮かんでくる。イラマチオをされて悦ぶ女はーー妻の久美子だ。


 「へへっ、フェラチオを続けてましたらね、旦那がガウンを脱ぎ出して、股間のアレを握ってオロオロするんですよ。この人、早く遣りたいだなと思ったんで、取り敢えず呼んであげましたよ」
 「………」
 「俺はチンポを抜いて、奥さんのガウンをとって素っ裸にしましてね。それから立ったままの奥さんの唇を旦那と二人で責めましたよ」
 又もその場面が浮かんでくる。左右から交互に唇を奪われる妻だ。


 「その次は胸。ええ、あの程よい大きさの胸を、揉みながら舐めてやりました」
 それも久美子の乳房だ。舐めるのは片方から渋谷君で、もう片方を責める男は私だ。
 「乳首を舐めてますと、旦那がアレを握って、挿れたくて仕方ないって感じなんですよ。でもね」
 そこで彼が、又も口元を歪める。私にまで“お預け”を喰らわしそうな感じだ。
 「旦那にはまだ我慢させる事にして、俺は奥さんを後ろから犯(や)る事にしましたよ」
 「………」
 「でも旦那にはフェラチオだけ許可してやりましたね。射精はするなって云いましたけど」
 「あぁ…」
 「はい、さっきも言いましたけど二人ともマゾ気質なんですよね。だから旦那の射精をコントロールしてやろうと思ったんです。旦那の方も一切文句なんか言いませんでしたよ」
 あぁ、50歳の教員を務める男が遥か年下の若者に射精を支配されるのだ…。


 「初めての時はほら、俺も奥さんの膣(なか)に出さなかったじゃないですか。だからその時は、思い切り出してやろうなんて思いながら突いてやりましたよ」
 そうなのだ。渋谷君は相手の射精をコントロールして、自分の射精もコントロールするのだ。


 「奥さんは後ろから俺に突かれて、前の口は旦那のチンポですよ」
 その場面も頭に浮かんでしまう。四つん這いの妻の、前後の口が支配されるシーンだ。
 「でもね、奥さんが直ぐに逝きそうになったんで待ったを掛けてやりましたよ」
 「あっ、それって」
 「ふふっ、旦那のチンポを一旦吐き出させてね、逝きたけりゃお願いしろって云ってやったんですよ。分かりますよね」
 「あぁ、はい…。で、どんな風に…」


 「旦那の目を見ながら、若い男のチンポがイイーッ、このチンポで逝かせて下さいッ、お願いしますッてね」
 (ウアアッ…)
 「旦那の方はそれを聞いてか、フンフン唸り声を上げてましてねぇ。チンポもカチンカチンになってて、収まりどころが早く欲しかったんでしょうね」
 「で、でも旦那さんは直ぐには…」
 「そうですよ。俺が帰るまでは犯(や)らせるつもりはありませんでしたからね」


 目の前の彼は間違いなくサディスティックだ。私の喉は早くもカラカラで、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「その時、閃きましてね。俺はバックを止めて、背面座位でやる事にしたんです。その格好、分かりますよね、前にやったやつです」
 勿論、それは知っている。背中を男に預けて、大股開きで下から突き上げられる妻の姿が浮かぶ。
 「ふふ、それで俺が突いてるところ…その結合の部分を旦那に舐めさせてやろうと思ったんです」
 「ええっ!」
 「前回の時は、その繋がってる部分をガン見してたじゃないですか。だから今度は、舐めさてやったんですよ」
 「…ほ、本当にご主人は舐めたんですか…」
 「はい、俺が見立てた通りのマゾですから、最初は躊躇した感じはありましたけど、意外と素直に舐めましたよ」


 彼の淡々と話す中からも、私には異様な香りが降りかかっていた。私は又も唾を飲み込み、息を繋いでいる。


 「奥さんもそのシチュエーションに興奮してるようでしたね。俺が突きながら耳元で『ほら、目をよく開けて見てみなよ。旦那が繋がってるところを舌で舐めてるだろ』って云ってやったんですよ」
 「あぁッ!そ、それで聞いた奥さんは…」
 「ん、目を見開いて、ヒィーーッて意味わかんない叫び声を上げてましたね」
 「ウウッ!…」
 「そうそう、二人とも教師で旦那がかなり歳上じゃないですか。だから仕事上の先輩でもある旦那さんのその姿が変に刺激的だったんじゃないですか」
 ああっ…私の中には、得体の知れない感慨が渦巻いてきた。
 聖職と呼ばれる職に就く二人の浅ましい姿。それは二人が、望んでいた姿なのだろうか。二人揃って性の深淵に堕ちて行くのが幸せなのだろうか。私の中で渦を巻いた感慨は、妖しい炎となって胸を熱くしてくる。
 そして、先ほどからその夫婦を自分達夫婦に置き換えている私がいる。


 ふうっと息を吐く。
 「…ええっと、それで他には…」
 私の言葉に彼は、一瞬きょとんとしたが、直ぐに思い出したように笑う。
 「ああ、それでね、俺も1回射精(だし)たんですよ。奥さんの方は当然何回も逝ってたんですけどね。でも、逝く時もすんなり許可はしませんでしたよ。『待て』を何回も掛けてやってね」
 と云って彼が笑う。


 「で、旦那はカチンカチンのままじゃないですか。だからそのまま“お預け”を続けてやろうと思いましてね…」
 ゴクリ、又も喉が鳴ってしまう。


 「フラフラの奥さんを立たせましてね、バルコニーのカーテンを開けてやったんです」
 「えっ!」
 「そう、外から見えるように…素っ裸の奥さんを外に向かって曝してやったんですよ」
 「な、なんて事を…」と、口に付きそうになった私。この期に及んで、世間様に対する不埒な行いを注意でもしようとしたのか…なんて思ったのも一瞬で、変態性癖な私の思考は、その場面を浮かべて怪しい高鳴りを発していた。


 「奥さんも旦那もさすがに焦ってましたかね。カーテン1枚とはいえ、それが密室と世間の境界線になってたわけですからね」
 あぁその通りなのだ。彼が口にした“密室”、それは我々聖職者の隠れ蓑で、変質的な性癖が担保される場所なのだ。そこを越えてしまったという事なのか…。


 「あ、あの…窓の外側って…」
 「ああ、そこの部屋はたしか4階だったと思うんですけど、向こう側の建物と結構密接してましてね。あっちのカーテンが開けばフェイス トゥ フェイスって言うんですか、要は丸見えですよ」
 無邪気に笑う彼を見ながらも、私の中には冷たいものが落ちていくような感じがした。


 「へへっ。それでね、その奥さんを窓いっぱいまで近づけてね、命令をしてやったわけですよ。寺田先生なら分かりますよね、それがどんなシチュエーションか。エロ動画なんかでも視たんじゃないですか」
 「アアッ」
 私は呻き声で、肯定の返事をしてしまっている。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「さあ、ここで問題です。俺は奥さんにどんな格好を命令したと思いますか」
 「………」
 頭の中では色んな場面が渦巻いていく。卑猥な動画で視まくった場面と、妄想が働いて頭の中で再現してきた場面だ。


 「まぁ大体は想像つきますよね。そうなんです、身体を外に向けたままガニ股の格好を命令したんです。そして、マンコの際に手を当てて拡げさせたんです」
 「ンググッ」
 「へへっ、興奮しますか。旦那は震えながら立ったまま奥さんのその格好を見てましたよ。ああ、立ったままってアソコもそうでしょうけど、足で立ったままって意味ですよ」
 彼の細かいというか丁寧というか、その言葉にも緊張が続く私がいる。そんな私を愉(たのし)げに見ながら彼は続ける。


 「次はですね、尻(ケツ)を外に向かせたんですね。はい、そこで今度は立ったまま…こう、頭を下げさせまして、股の下から外を覗かせたんです。分かりますよね」
 ううっ、と呻き声を上げてしまった。さっき見た夢のシーンとそっくりではないか。


 「その奥さん、結構身体が柔らかいんですよ。脚をピンっと伸ばした状態で、手がピタリと床に付くんですよ。それでその格好で向こうを覗いて…尻(ケツ)の破れ目を突き出してるんですよ」
 私は又も呻きと同時に唾を飲み込んだ。頭の中には妻だ。妻の姿が浮かんでいる。そう、体操をやってた妻も身体が柔らかいのだ。しかし…私は妻にそんなポーズをやらせた事がない。頼んだ事もない。昔から勇気のない私なのだ。


 「旦那も次第にオロオロしてきましてね。そりゃそうですよね、いつ向こうに人が現れるか分かんないわけですし。俺なんかは、向こうの部屋の人がこっちと知り合いだったら面白いのに、なんて考えてましたけどね」
 そう云って笑う彼に、私は唸り声を上げるだけだ。しかしそれは、同意でもあるのだ。他人様の恥態ならいくらでも眺められる。あぁどうしようもない卑怯者がここにいる。


 「俺はオロオロする旦那に徐々にイライラしてきましてね。それで旦那にも命令してやりましたよ」
 「ああ、それは何て…」
 「ん、ええ、奥さんの横に行って、アンタも同じ格好しろって」
 「そ、それって」
 「そうですよ。旦那はビビってましたけど、1度やったら病みつきになるからって云ってやったら…。そうしたら恐々奥さんの横に行って、同じように股ぐらから向こうを覗きましたよ」
 「アアッ!」
 「向こう側から見たら凄い光景ですよね。全裸の男と女が並んで尻を向けて、股から顔を覗かせてるんですから」
 「………」
 「へへっ。それでね、俺はその二人の姿をシッカリ動画に撮ってやりましたよ。だってその日は、二人の姿を撮るのも仕事でしたから」


 いつの間にか、私は口からハーハーと息を吐き出していた。私の精神は、そのご夫婦の姿を自分達夫婦とシンクロさせていたのだ。そして、その私の口から久美子…と小さな声が零れ落ちた。
 それを聞いてか、渋谷君がウンウンと頷いたのだった…。
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 土曜日、私が待ち合わせのカフェに着いたのは、約束の時間よりも30分早い1時半だった。
 今日は妻の尾行を思い付いて、渋谷君に相談するわけだが目的はソレだけではない。彼がこれまでして来た“仕事”ーー神田先生の元で行ってきた変態教師のお相手、あの話をもっと聞きたい、それもあるのだ。


 そういえば妻は、今日も午前中から出掛けている。色々と記憶を探ってみて思った事だが、確かにこの半年間の妻は帰宅が遅かったり、休日に出掛ける事が多かった気がする。私は自分のエロい妄想に翻弄されてか、妻の日常をそれほど気にしていなかったのだ。
 彼女から良く聞く教え子の話。それも本当の事かと考えてしまうわけで、そんな話も渋谷君にしてみようかと思っている。
 あぁ、その妻は今頃どこで何をしているのだろうか。


 私は店内の向こう側、路面に面した大きなガラス窓に目を向けた。この店はそこに見える歩道を通って入る造りになっているのだが、まだ彼が来る気配はない。
 視線を戻せば店内の様子が窺える。休日のこの時間はかなりの混み具合だ。多いのはノートパソコンを開げている人達だ。ノマドワーカーといって、最近はカフェなどで仕事をする人が結構いるらしい。もちろん本を読んでる人もいる。
 私の視線は、真ん中辺りの席で本を読む一人の女性の所で止まった。
 目を凝らしてみると、本の表紙の文字が何とか読む事が出来る。
 はくちゅうむーーその文字を読み取ると、瞼の裏に不穏な影が落ちてきた。そしてそれが、サーッと広がって行き…。
 その彼女が本を置き、ふっと顔を上げ…周囲の様子を窺うように軽く頭を振り…。ちらりと視えた片方の耳にはワイヤレスのイヤホン。
 彼女はスッと立ち上がると路面に面したガラス窓に身体を向け…。
 陽が差し込むその大きな窓を眺めながら、彼女は徐に上着に手をやって…。


 周囲の客席では、パソコンに講じる人々。軽やかなBGMが流れる中を、静かに上着を脱ぎとった女。露(あらわ)になるのは豊満な脹らみ。ソレを包むのは漆黒のブラジャー。
 一旦背筋を伸ばして軽く胸を張ったのは、その出で立ちを“誰か”に見せようとしたのか。或いは何かに対して畏まったのか…。
 彼女が傾げるようにして耳元に手をやる。そこのイヤホンから“指令”が届くのか。
 軽く頷いたかと思える仕草も、表情は変わらない。そう、立ち上がった時から彼女はどこか浮遊してるような顔。
 次に彼女はスカートに手をやり…。その素振りに戸惑いは見られない。
 ガラス窓の向こう…通りから店を覗く“男”がいた。耳にスマホを当てて指令を飛ばしている…ように視える。
 店の中では、あちこちから軽蔑な目が彼女に向き始めている。やがて、小さなざわめきが起こる…。


 ーー見て、服を脱いでる人がいるわ。
 いゃんッ、スカートまで脱ぎ出したわ!


 ーーうわっ、あの女、ついに下着だけになっちゃったよ!
 あぁ…エロい身体…。


 ーーねぇ、あそこに変態がいるわよ。
 あぁ…凄い、あれが露出狂っていうの?


 ーーお、おい、こんな所でAVの撮影かよ。
 けど結構美人じゃん。流行りの調教ものだな。


 ーーええっ!?ソレまで脱いじゃうの…。
 そ、それはマズイんじゃ…。


 ーーああッ、全部脱いじゃったよ!
 それにしても…。


 ーーあの貌(かお)、見てみろよ。
 ああ言うの、恍惚の表情って云うんだぜ。


 ーーあぁ…羨ましい…。でも私にはあんな真似は出来ないわ。
 それにしても、なんて卑猥な身体…。


 ーーああ…な、なんなんだよ。今度は中腰になって尻を突き出したぞ!
 お、おい、いい加減に店員気づけよ。


 ーーこっからだとハッキリ見えちゃうよ。
 ああ、うん。見える見える、人妻のオ◯ンコ!。


 ーーもう止めて。流石に止めて。こっちまでおかしくなりそうよ。


 店の中で起こった小さなざわめきは、既に大きくなっている。その喧騒の中で自分一人の世界に入り、産まれたままの姿になった女…。不意に彼女は気づく…周りの目が自分に向いている事に。軽蔑の視線、哀れみの視線、そして好奇の視線、それらを一心に集めながらも変わらない表情。そう、まるで白痴のような貌(かお)。
 その時、彼女の口がグニャリと歪んだ…かと思うと奇妙な声を発した…。
 ーーあぁ…ご主人様、久美子のオマンコを御覧になってぇ…。


 女が両足を四股(しこ)を踏むほどに広げる。
 そして、頭をグイっと下げて股座(またぐら)からガラス窓を覗く。女のショートボブの髪は、床に付く寸前で止まり、揺れる。
 床を踏みしめる脚はピンと伸びて、その張りが巨尻に伝わり、見る者に威圧さえ与える。
 開陳された部分は、黒い翳りの奥から顔を覗かすドドメ色のアソコ。
 股の下からガラス窓の向こうの男を見つめる顔が、その時初めて表情を浮かべた。


 ーーご主人様、これでよろしいでぇすか…。
 どうか御覧になって下さい。これが変態女 久美子のマンコです。


 この世のものとは思えない恍惚の表情。不気味ささえ覚える驚愕の振舞い。
 突き上がった尻は、男に媚びを売るように震え出す。それは振動を起こし、周囲に地響きとなって伝わっていく。
 ふらつく人々。
 ガクガクと身体が揺れて、遂には足元が抜けて行く…。
 と、ガクン!


 …頭を振って身じろぎした。
 あぁ、椅子から滑り落ちそうになっていた…。
 またしても私は、淫夢の中に迷い込んでいたのだ。


 その時。
 「こんにちは寺田先生。あれっ、どうかしたんですか?」
 肩越しから覚えのある声が聞こえて来た。
 「ああ、渋谷君。いや、大丈夫ですよ、ちょっとウトウトしてて…」


 彼に会釈した私の表情(かお)は、虚ろさが残っていたと思う。
 その私を心配そうに見ながら彼は、目の前の椅子に腰を降ろした。私はバツが悪そうに座り直したのだった。


 何日ぶりかに見る彼は、初めて会った時より爽やかに観(み)える気がした。
 あの薄ら暗い淫靡な世界より、昼間の世界の方が…と考えたところで頭を振った。今日の私はクライアントで、彼に会う目的もハッキリしている。私は改めて自分に言い聞かせて彼の顔をジリリと見詰めた。


 「あ、先生、気合いが入って来ましたね。うん、エロはモチベーションを上げますからね」と笑って、そして続けた「僕も今日は会えるのを楽しみにしてたんですよ。神田先生からも寺田先生の事をシッカリと、と言われて来ましたし」
 私は彼の言葉に心で頷いて、遠慮なく話そうと決めた。


 「今日はわざわざ時間を取ってくれて、ありがとうございます」
 改まって頭を下げると、彼は、いえいえ、と謙遜した顔でペコリと頷いた。


 「ええっと、どこから話せば言いかな…」と云いかけたところで思い付いた。
 「ああ、それよりも渋谷君は元気だった?あの…その後も忙しいのかな…ほら“例”の仕事とか…」
 私の言葉に、彼は少し意外な表情(かお)をした。
 しかし「あれっ、ひょっとして“あっち“の話も聞きたかったんですか?」と、ニヤリと笑って「いいですよ。じゃあ、この間の“歳の差夫婦”のその後の話からでも始めましょうか」


 彼の言葉で気持ちが前掛かりになった。今から聞くのは妄想話ではない。そう、リアルな変態夫婦の話だ。
 私は“あの夫婦”の痴態を思い浮かべて、フツフツと高鳴りを感じ始めたのだった…。
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
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 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 私はカフェの喧騒を遠くに感じていた。 “歳の差夫婦”のその後の話が刺激すぎて、私の意識はその余韻だけで麻痺していたのだ。


 「先生…寺田先生、大丈夫ですか」
 その声に顔を上げれば、渋谷君が私を見詰めている。
 「寺田先生って、よく話の途中で意識が飛ぶ事がありますよね。見てると何となく分かりますよ」
 「あぁ、ごめんなさい」と素直に頭を下げた。そんな私を見ながら彼が続ける。
 「それってやっぱり、奥様…先生の奥様と話の中の奥さんがダブってしまうからですかね」
 「そ、そうなんですよ…話に出て来た“歳の差夫婦”…その奥様と私の妻がどうもダブって視えましてね…それも私の“性癖”なんですかね…」


 私の様子見ながら、一瞬黙りかけた彼だったが、思い出したように訊いてきた。
 「そういえば今日は、その奥様の事で相談があったんじゃなかったでしたっけ」
 「あぁ、はい」頷きながら私は周囲を見回した。周りは相変わらずの混み具合だ。私は今更ながら、これまでの会話が聞かれていたのではと、背中が冷たくなるのを感じた。
 あまりにも彼の話に入りすぎて、周りに注意が行かなかったのだ。彼の方は全く平気な様子だ。私は前に乗り出すようにして、妻の事を話す事にした。もちろん小声でだ。


 「前回、渋谷君と初めて会った時も自分の気持ちがハッキリしていなかったんです。私の妄想が妻に向いてるのは分かってるつもりだったんですけど、その妻をどうしたいのか、或いは自分がどうなりたいのか…」
 「………」
 「で、それが今でもハッキリしないんで迷ってたわけですけど…実はその妻にも怪しいところがあるような気がしてきましてね」
 「怪しいところ…と言いますと」
 「ええ、実は半年ほど前から妻の帰宅が遅かったり。それに休日に出掛ける事が結構ありまして」
 「ああ、そうだったんですか。それでそれが、浮気じゃないかと」
 「はぁ、その可能性もあるのかと。私も自分の妄想でいっぱいで日常の妻には注意が向いてなかったんですね。妻の方も私の様子がおかしい事に気が付いていて、その原因を探るのに家用の私のパソコンを視たんですよ」
 「ん、パスワードは設定してなかったんですか」
 「はい、うっかりしてましてね。それで恥ずかしい事に、私が視てきた変態チックな動画や画像、それに読んだ寝取られ小説の履歴なんかを知られたみたいなんですよ」
 「あぁ…」彼は呻きのような声を出した。しかし、その表情(かお)を観(み)れば、どこか愉(たのし)げな感じもする。


 「それで、妻が言うには『その履歴を視てからは、アタシも好きな事をしている』と」
 私の言葉に彼は、フムフムと腕を組み換えた。


 「そんな事をつい先日、渋谷君と初めて会った後…たしか水曜の夜に告(い)われましてね…」
 「なるほど。それで先生は半年前に遡って考えてみて、奥様の動きに不穏なところがあるかと」
 「ええ、まぁ、そう言う事なんです」


 眉間に皺を寄せた私は、うだつの上がらない中年男だ。渋谷君を見れば、腕を組んだまま考え込んでいる。
 その彼が覗き込むように訊いてきた「あのぉ、今の先生は奥様を“寝取られたい“という気持ちの前に、浮気疑惑をハッキリさせたいわけですよね」
 「あ、ああ…」と、情けない声を出して認めてしまっていた。
 「えっと、その疑惑の続きで奥様をどうにかしたいとか願望はお有りなんでしょうけど、それは取り敢えず置いといて尾行でもしてみましょうか」
 「ええっ!?」思わず感嘆の声を上げてしまった。
 遥か年下の彼は、私の痒い所に手を伸ばすかのように、要望を先取りしてくれたのだ。
 「ええ。でも、本来は神田先生が請ける仕事に尾行はなかった筈なんですよ。なので僕が、個人的にやりますよ」
 「えっいいんですか!」
 「はい。なんだか寺田先生を見てますと、力になってあげたくなりましてね」
 ああ!私はもう一度感嘆の声を上げていた。


 それから私はコーヒーのお代わりをさせて貰って、妻のいわゆる個人情報を伝えたのだった。
 勿論その中には自宅の住所もあったが仕方ない。勤務先の中学の名前を出した時も、自分は聖職者失格と思ったりしたが何を今さらだ。
 最後に妻の写真ーーかなり昔に撮った物を彼のスマホに転送した。


 彼は妻の画像を見ながら頷いて「この写真似てますよ。うん、あの“歳の差夫婦”の奥様にそっくりですよ」
 「あぁそうですか。私も話を聞きながらそんなイメージが浮かんでたんですよ」
 「うん、髪型もそうですね、ショートボブだし体型は脱がないと分かりませんが」
 「いや、体型もたぶんそっくりですよ。渋谷君が言ってたサイズ…妻も同じぐらいだと思うんですよ」
 「そう言えばあの奥様の名前、たしか“奈美子”って呼ばれてましたね」
 「あぁ名前もどことなく似てますね」
 私は変な感覚を覚えながら妻の顔を思い浮かべた。
 そして、最近の妻の気になるポイントを伝える事にしたーー頻繁に口にするようになった女子高生の事だーー。


 「なるほど、先生が今1番気になるのは、以前の教え子の事ですか」
 「はい…」
 「でも、さすがに女子高生と浮気は結びつきませんよね」と、苦笑いを浮かべる彼。
 「ええ、まあ、そうなんです…でも」
 「はい分かりますよ。教え子の相談に行くと言って、違う誰かと会ってる可能性もありますからね」
 「そうなんですよ」
 「それじゃあ今度、奥様が教え子に会うって言って出掛けたら、取り敢えず連絡して下さいよ。僕のタイミングが合えば奥様を尾(つ)けてみますよ」


 彼の申し出を受けて、私は妻の授業が終わる時間帯を教える事にした。その日によって時間はまちまちだが、目安にはなるだろう。
 それから私は「あの、それで渋谷君に払う報酬は…」と言いかけた途中で…。
 「そうですねぇ、もし本当に奥様が浮気でもしてたら、僕も仲間に入れて貰いましょうかね」
 「ええっ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった。


 「ははっ、な~んて…半分本気ですけどね」と彼の表情(かお)には、それでも真剣味が交じってみえる。
 私の背中には冷や汗が落ちていく感じだ。


 「そうなんですよ寺田先生。先程、自分の中に迷いがあるって仰りましたけど、その選択肢の中には“妻を他人に“ってあるんですものね」
 あぁ…改まって指摘された通り、間違いなくその気持ちは…。
 しかし…いざ、そんな場面が来た時には、私はどんな精神状態でどんな対応をするだろうか。


 「先生…寺田先生、そんな真剣にならないで下さいよ。ちょっと弾みで口にしただけですから」
 「あ、あぁ…」私は又も呻くような声で返事をしてしまった。


 「さっきも云いましたけど、取り敢えず教え子の話…奥様の口からそれが出たら僕に連絡を、って事で」
 最後の渋谷君の様子はウインクでもする感じだった。私の方はぎこちなさを残したままだ。
 あぁ…又も自分と向き合う時間の始まりだ。新たな妄想は湧き上がるのだろうか…。
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 土曜日のカフェで渋谷優作君と会える事になった私ーー寺田達夫。
 彼は私の意向に応えるように、あの“歳の差夫婦”のその後を話してくれたのだ。


 「神田先生の下でする“仕事”ってアフターフォローなんかもそれなりにするんですよ。あのご夫婦にも、その後はどうですか~なんてメールで聞いたりしたんですね。そうしますとちょうど先日、神田先生経由で連絡がありまして…」
 彼の口からはさっそく、歯切れの良い言葉が溢れ出した。私の方は期待に心震わすと言ったところだ。


 「ええ、それでね、あのご主人の“アソコ”完全に復活したんですよ。はい、勃(た)ちが全盛期に戻ったんです」と彼が笑う。
 「え、渋谷君は又呼ばれて行ってきたの?」
 「はい、ご自宅のマンションに行って、お二人をいたぶって…」
 いたぶって…あぁ、それは“調教”と聞きそうになったところで「あのご夫婦って二人ともMじゃないですか。ご主人も分かってて僕を呼んだんだと思うんです。だから期待に応えてやりましたよ」
 「ああ、じゃあやっぱり」
 呟きながら彼を見れば、口元には早くもサディスティックな色が浮かんでいる。
 「へへっ、今日はこんな話も聞きたかったんでしょ」そう云って彼の目は、私の奥底を覗き込んで来る。
 私はコクコク頷くだけだ。


 「僕が着いた時には、二人はシャワーを浴び終えていてガウン姿で迎えてくれましたよ」
 「………」
 「それでさっそく旦那をソファーに座らせてまして、俺は服を脱ぎ始めましたよ」
 彼の口調がこの前と同じように、『ご主人』が“旦那”に『僕』が“俺”に変わっていく。


 「前回と同じように奥さんを膝まずかせて、俺のバンツを下ろさせましてね。それで“即尺(そくしゃく)”です。分かりますよね先生」
 は、はい、と小声で頷いた。私もその意味ぐらいは知っている。エロ動画の中で何度も視た事がある。
 「ええ、俺の小便臭いチンポを綺麗にさせたんですよ。遠慮なく突っ込んで出して、奥さんは苦しそうにしながらも悦(よろこ)んでましたよ」
 早くもその奥様の姿が浮かんでくる。イラマチオをされて悦ぶ女はーー妻の久美子だ。


 「へへっ、フェラチオを続けてましたらね、旦那がガウンを脱ぎ出して、股間のアレを握ってオロオロするんですよ。この人、早く遣りたいだなと思ったんで、取り敢えず呼んであげましたよ」
 「………」
 「俺はチンポを抜いて、奥さんのガウンをとって素っ裸にしましてね。それから立ったままの奥さんの唇を旦那と二人で責めましたよ」
 又もその場面が浮かんでくる。左右から交互に唇を奪われる妻だ。


 「その次は胸。ええ、あの程よい大きさの胸を、揉みながら舐めてやりました」
 それも久美子の乳房だ。舐めるのは片方から渋谷君で、もう片方を責める男は私だ。
 「乳首を舐めてますと、旦那がアレを握って、挿れたくて仕方ないって感じなんですよ。でもね」
 そこで彼が、又も口元を歪める。私にまで“お預け”を喰らわしそうな感じだ。
 「旦那にはまだ我慢させる事にして、俺は奥さんを後ろから犯(や)る事にしましたよ」
 「………」
 「でも旦那にはフェラチオだけ許可してやりましたね。射精はするなって云いましたけど」
 「あぁ…」
 「はい、さっきも言いましたけど二人ともマゾ気質なんですよね。だから旦那の射精をコントロールしてやろうと思ったんです。旦那の方も一切文句なんか言いませんでしたよ」
 あぁ、50歳の教員を務める男が遥か年下の若者に射精を支配されるのだ…。


 「初めての時はほら、俺も奥さんの膣(なか)に出さなかったじゃないですか。だからその時は、思い切り出してやろうなんて思いながら突いてやりましたよ」
 そうなのだ。渋谷君は相手の射精をコントロールして、自分の射精もコントロールするのだ。


 「奥さんは後ろから俺に突かれて、前の口は旦那のチンポですよ」
 その場面も頭に浮かんでしまう。四つん這いの妻の、前後の口が支配されるシーンだ。
 「でもね、奥さんが直ぐに逝きそうになったんで待ったを掛けてやりましたよ」
 「あっ、それって」
 「ふふっ、旦那のチンポを一旦吐き出させてね、逝きたけりゃお願いしろって云ってやったんですよ。分かりますよね」
 「あぁ、はい…。で、どんな風に…」


 「旦那の目を見ながら、若い男のチンポがイイーッ、このチンポで逝かせて下さいッ、お願いしますッてね」
 (ウアアッ…)
 「旦那の方はそれを聞いてか、フンフン唸り声を上げてましてねぇ。チンポもカチンカチンになってて、収まりどころが早く欲しかったんでしょうね」
 「で、でも旦那さんは直ぐには…」
 「そうですよ。俺が帰るまでは犯(や)らせるつもりはありませんでしたからね」


 目の前の彼は間違いなくサディスティックだ。私の喉は早くもカラカラで、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「その時、閃きましてね。俺はバックを止めて、背面座位でやる事にしたんです。その格好、分かりますよね、前にやったやつです」
 勿論、それは知っている。背中を男に預けて、大股開きで下から突き上げられる妻の姿が浮かぶ。
 「ふふ、それで俺が突いてるところ…その結合の部分を旦那に舐めさせてやろうと思ったんです」
 「ええっ!」
 「前回の時は、その繋がってる部分をガン見してたじゃないですか。だから今度は、舐めさてやったんですよ」
 「…ほ、本当にご主人は舐めたんですか…」
 「はい、俺が見立てた通りのマゾですから、最初は躊躇した感じはありましたけど、意外と素直に舐めましたよ」


 彼の淡々と話す中からも、私には異様な香りが降りかかっていた。私は又も唾を飲み込み、息を繋いでいる。


 「奥さんもそのシチュエーションに興奮してるようでしたね。俺が突きながら耳元で『ほら、目をよく開けて見てみなよ。旦那が繋がってるところを舌で舐めてるだろ』って云ってやったんですよ」
 「あぁッ!そ、それで聞いた奥さんは…」
 「ん、目を見開いて、ヒィーーッて意味わかんない叫び声を上げてましたね」
 「ウウッ!…」
 「そうそう、二人とも教師で旦那がかなり歳上じゃないですか。だから仕事上の先輩でもある旦那さんのその姿が変に刺激的だったんじゃないですか」
 ああっ…私の中には、得体の知れない感慨が渦巻いてきた。
 聖職と呼ばれる職に就く二人の浅ましい姿。それは二人が、望んでいた姿なのだろうか。二人揃って性の深淵に堕ちて行くのが幸せなのだろうか。私の中で渦を巻いた感慨は、妖しい炎となって胸を熱くしてくる。
 そして、先ほどからその夫婦を自分達夫婦に置き換えている私がいる。


 ふうっと息を吐く。
 「…ええっと、それで他には…」
 私の言葉に彼は、一瞬きょとんとしたが、直ぐに思い出したように笑う。
 「ああ、それでね、俺も1回射精(だし)たんですよ。奥さんの方は当然何回も逝ってたんですけどね。でも、逝く時もすんなり許可はしませんでしたよ。『待て』を何回も掛けてやってね」
 と云って彼が笑う。


 「で、旦那はカチンカチンのままじゃないですか。だからそのまま“お預け”を続けてやろうと思いましてね…」
 ゴクリ、又も喉が鳴ってしまう。


 「フラフラの奥さんを立たせましてね、バルコニーのカーテンを開けてやったんです」
 「えっ!」
 「そう、外から見えるように…素っ裸の奥さんを外に向かって曝してやったんですよ」
 「な、なんて事を…」と、口に付きそうになった私。この期に及んで、世間様に対する不埒な行いを注意でもしようとしたのか…なんて思ったのも一瞬で、変態性癖な私の思考は、その場面を浮かべて怪しい高鳴りを発していた。


 「奥さんも旦那もさすがに焦ってましたかね。カーテン1枚とはいえ、それが密室と世間の境界線になってたわけですからね」
 あぁその通りなのだ。彼が口にした“密室”、それは我々聖職者の隠れ蓑で、変質的な性癖が担保される場所なのだ。そこを越えてしまったという事なのか…。


 「あ、あの…窓の外側って…」
 「ああ、そこの部屋はたしか4階だったと思うんですけど、向こう側の建物と結構密接してましてね。あっちのカーテンが開けばフェイス トゥ フェイスって言うんですか、要は丸見えですよ」
 無邪気に笑う彼を見ながらも、私の中には冷たいものが落ちていくような感じがした。


 「へへっ。それでね、その奥さんを窓いっぱいまで近づけてね、命令をしてやったわけですよ。寺田先生なら分かりますよね、それがどんなシチュエーションか。エロ動画なんかでも視たんじゃないですか」
 「アアッ」
 私は呻き声で、肯定の返事をしてしまっている。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「さあ、ここで問題です。俺は奥さんにどんな格好を命令したと思いますか」
 「………」
 頭の中では色んな場面が渦巻いていく。卑猥な動画で視まくった場面と、妄想が働いて頭の中で再現してきた場面だ。


 「まぁ大体は想像つきますよね。そうなんです、身体を外に向けたままガニ股の格好を命令したんです。そして、マンコの際に手を当てて拡げさせたんです」
 「ンググッ」
 「へへっ、興奮しますか。旦那は震えながら立ったまま奥さんのその格好を見てましたよ。ああ、立ったままってアソコもそうでしょうけど、足で立ったままって意味ですよ」
 彼の細かいというか丁寧というか、その言葉にも緊張が続く私がいる。そんな私を愉(たのし)げに見ながら彼は続ける。


 「次はですね、尻(ケツ)を外に向かせたんですね。はい、そこで今度は立ったまま…こう、頭を下げさせまして、股の下から外を覗かせたんです。分かりますよね」
 ううっ、と呻き声を上げてしまった。さっき見た夢のシーンとそっくりではないか。


 「その奥さん、結構身体が柔らかいんですよ。脚をピンっと伸ばした状態で、手がピタリと床に付くんですよ。それでその格好で向こうを覗いて…尻(ケツ)の破れ目を突き出してるんですよ」
 私は又も呻きと同時に唾を飲み込んだ。頭の中には妻だ。妻の姿が浮かんでいる。そう、体操をやってた妻も身体が柔らかいのだ。しかし…私は妻にそんなポーズをやらせた事がない。頼んだ事もない。昔から勇気のない私なのだ。


 「旦那も次第にオロオロしてきましてね。そりゃそうですよね、いつ向こうに人が現れるか分かんないわけですし。俺なんかは、向こうの部屋の人がこっちと知り合いだったら面白いのに、なんて考えてましたけどね」
 そう云って笑う彼に、私は唸り声を上げるだけだ。しかしそれは、同意でもあるのだ。他人様の恥態ならいくらでも眺められる。あぁどうしようもない卑怯者がここにいる。


 「俺はオロオロする旦那に徐々にイライラしてきましてね。それで旦那にも命令してやりましたよ」
 「ああ、それは何て…」
 「ん、ええ、奥さんの横に行って、アンタも同じ格好しろって」
 「そ、それって」
 「そうですよ。旦那はビビってましたけど、1度やったら病みつきになるからって云ってやったら…。そうしたら恐々奥さんの横に行って、同じように股ぐらから向こうを覗きましたよ」
 「アアッ!」
 「向こう側から見たら凄い光景ですよね。全裸の男と女が並んで尻を向けて、股から顔を覗かせてるんですから」
 「………」
 「へへっ。それでね、俺はその二人の姿をシッカリ動画に撮ってやりましたよ。だってその日は、二人の姿を撮るのも仕事でしたから」


 いつの間にか、私は口からハーハーと息を吐き出していた。私の精神は、そのご夫婦の姿を自分達夫婦とシンクロさせていたのだ。そして、その私の口から久美子…と小さな声が零れ落ちた。
 それを聞いてか、渋谷君がウンウンと頷いたのだった…。
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 土曜日、私が待ち合わせのカフェに着いたのは、約束の時間よりも30分早い1時半だった。
 今日は妻の尾行を思い付いて、渋谷君に相談するわけだが目的はソレだけではない。彼がこれまでして来た“仕事”ーー神田先生の元で行ってきた変態教師のお相手、あの話をもっと聞きたい、それもあるのだ。


 そういえば妻は、今日も午前中から出掛けている。色々と記憶を探ってみて思った事だが、確かにこの半年間の妻は帰宅が遅かったり、休日に出掛ける事が多かった気がする。私は自分のエロい妄想に翻弄されてか、妻の日常をそれほど気にしていなかったのだ。
 彼女から良く聞く教え子の話。それも本当の事かと考えてしまうわけで、そんな話も渋谷君にしてみようかと思っている。
 あぁ、その妻は今頃どこで何をしているのだろうか。


 私は店内の向こう側、路面に面した大きなガラス窓に目を向けた。この店はそこに見える歩道を通って入る造りになっているのだが、まだ彼が来る気配はない。
 視線を戻せば店内の様子が窺える。休日のこの時間はかなりの混み具合だ。多いのはノートパソコンを開げている人達だ。ノマドワーカーといって、最近はカフェなどで仕事をする人が結構いるらしい。もちろん本を読んでる人もいる。
 私の視線は、真ん中辺りの席で本を読む一人の女性の所で止まった。
 目を凝らしてみると、本の表紙の文字が何とか読む事が出来る。
 はくちゅうむーーその文字を読み取ると、瞼の裏に不穏な影が落ちてきた。そしてそれが、サーッと広がって行き…。
 その彼女が本を置き、ふっと顔を上げ…周囲の様子を窺うように軽く頭を振り…。ちらりと視えた片方の耳にはワイヤレスのイヤホン。
 彼女はスッと立ち上がると路面に面したガラス窓に身体を向け…。
 陽が差し込むその大きな窓を眺めながら、彼女は徐に上着に手をやって…。


 周囲の客席では、パソコンに講じる人々。軽やかなBGMが流れる中を、静かに上着を脱ぎとった女。露(あらわ)になるのは豊満な脹らみ。ソレを包むのは漆黒のブラジャー。
 一旦背筋を伸ばして軽く胸を張ったのは、その出で立ちを“誰か”に見せようとしたのか。或いは何かに対して畏まったのか…。
 彼女が傾げるようにして耳元に手をやる。そこのイヤホンから“指令”が届くのか。
 軽く頷いたかと思える仕草も、表情は変わらない。そう、立ち上がった時から彼女はどこか浮遊してるような顔。
 次に彼女はスカートに手をやり…。その素振りに戸惑いは見られない。
 ガラス窓の向こう…通りから店を覗く“男”がいた。耳にスマホを当てて指令を飛ばしている…ように視える。
 店の中では、あちこちから軽蔑な目が彼女に向き始めている。やがて、小さなざわめきが起こる…。


 ーー見て、服を脱いでる人がいるわ。
 いゃんッ、スカートまで脱ぎ出したわ!


 ーーうわっ、あの女、ついに下着だけになっちゃったよ!
 あぁ…エロい身体…。


 ーーねぇ、あそこに変態がいるわよ。
 あぁ…凄い、あれが露出狂っていうの?


 ーーお、おい、こんな所でAVの撮影かよ。
 けど結構美人じゃん。流行りの調教ものだな。


 ーーええっ!?ソレまで脱いじゃうの…。
 そ、それはマズイんじゃ…。


 ーーああッ、全部脱いじゃったよ!
 それにしても…。


 ーーあの貌(かお)、見てみろよ。
 ああ言うの、恍惚の表情って云うんだぜ。


 ーーあぁ…羨ましい…。でも私にはあんな真似は出来ないわ。
 それにしても、なんて卑猥な身体…。


 ーーああ…な、なんなんだよ。今度は中腰になって尻を突き出したぞ!
 お、おい、いい加減に店員気づけよ。


 ーーこっからだとハッキリ見えちゃうよ。
 ああ、うん。見える見える、人妻のオ◯ンコ!。


 ーーもう止めて。流石に止めて。こっちまでおかしくなりそうよ。


 店の中で起こった小さなざわめきは、既に大きくなっている。その喧騒の中で自分一人の世界に入り、産まれたままの姿になった女…。不意に彼女は気づく…周りの目が自分に向いている事に。軽蔑の視線、哀れみの視線、そして好奇の視線、それらを一心に集めながらも変わらない表情。そう、まるで白痴のような貌(かお)。
 その時、彼女の口がグニャリと歪んだ…かと思うと奇妙な声を発した…。
 ーーあぁ…ご主人様、久美子のオマンコを御覧になってぇ…。


 女が両足を四股(しこ)を踏むほどに広げる。
 そして、頭をグイっと下げて股座(またぐら)からガラス窓を覗く。女のショートボブの髪は、床に付く寸前で止まり、揺れる。
 床を踏みしめる脚はピンと伸びて、その張りが巨尻に伝わり、見る者に威圧さえ与える。
 開陳された部分は、黒い翳りの奥から顔を覗かすドドメ色のアソコ。
 股の下からガラス窓の向こうの男を見つめる顔が、その時初めて表情を浮かべた。


 ーーご主人様、これでよろしいでぇすか…。
 どうか御覧になって下さい。これが変態女 久美子のマンコです。


 この世のものとは思えない恍惚の表情。不気味ささえ覚える驚愕の振舞い。
 突き上がった尻は、男に媚びを売るように震え出す。それは振動を起こし、周囲に地響きとなって伝わっていく。
 ふらつく人々。
 ガクガクと身体が揺れて、遂には足元が抜けて行く…。
 と、ガクン!


 …頭を振って身じろぎした。
 あぁ、椅子から滑り落ちそうになっていた…。
 またしても私は、淫夢の中に迷い込んでいたのだ。


 その時。
 「こんにちは寺田先生。あれっ、どうかしたんですか?」
 肩越しから覚えのある声が聞こえて来た。
 「ああ、渋谷君。いや、大丈夫ですよ、ちょっとウトウトしてて…」


 彼に会釈した私の表情(かお)は、虚ろさが残っていたと思う。
 その私を心配そうに見ながら彼は、目の前の椅子に腰を降ろした。私はバツが悪そうに座り直したのだった。


 何日ぶりかに見る彼は、初めて会った時より爽やかに観(み)える気がした。
 あの薄ら暗い淫靡な世界より、昼間の世界の方が…と考えたところで頭を振った。今日の私はクライアントで、彼に会う目的もハッキリしている。私は改めて自分に言い聞かせて彼の顔をジリリと見詰めた。


 「あ、先生、気合いが入って来ましたね。うん、エロはモチベーションを上げますからね」と笑って、そして続けた「僕も今日は会えるのを楽しみにしてたんですよ。神田先生からも寺田先生の事をシッカリと、と言われて来ましたし」
 私は彼の言葉に心で頷いて、遠慮なく話そうと決めた。


 「今日はわざわざ時間を取ってくれて、ありがとうございます」
 改まって頭を下げると、彼は、いえいえ、と謙遜した顔でペコリと頷いた。


 「ええっと、どこから話せば言いかな…」と云いかけたところで思い付いた。
 「ああ、それよりも渋谷君は元気だった?あの…その後も忙しいのかな…ほら“例”の仕事とか…」
 私の言葉に、彼は少し意外な表情(かお)をした。
 しかし「あれっ、ひょっとして“あっち“の話も聞きたかったんですか?」と、ニヤリと笑って「いいですよ。じゃあ、この間の“歳の差夫婦”のその後の話からでも始めましょうか」


 彼の言葉で気持ちが前掛かりになった。今から聞くのは妄想話ではない。そう、リアルな変態夫婦の話だ。
 私は“あの夫婦”の痴態を思い浮かべて、フツフツと高鳴りを感じ始めたのだった…。
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 ーー金曜日。
 今朝の私の挨拶も硬いものだった。
 妻の方も重い雰囲気が続いてる感じで、食事も互いが無口なままで採る事になってしまった。
 食事が終わればそそくさと出勤の準備をして、私は重い荷物を背負った気分で家を出た。


 学校に着けばこの日も、生徒の親からクレームが来ていた。それを処理すると、待っていたのは学年主任の小言だ。
 授業中はスマホを弄る生徒を注意しては、逆に挑発的な目を向けられて気疲れしてしまった。


 昼休みは一息つけるように、リラックスしようと思った。
 昼食を食べ終えた私は、背もたれに身体を預けて伸びをして、肩の力を抜きながら目を瞑った。


 今日は陽射しが暖かい。
 気温も上がってきている。
 お腹は満幅だ。
 今にも睡魔がやって来そうな気配を感じる。
 このまま少し寝てしまおうか…。


 どこからともなく、黒い雲が降りて来る…。
 …若い男の前に、一人の女性が立っている。


 ーーなに突っ立てんだよ。ほら早く脱ぎなよ。
 は?恥ずかしいってか。
 何を改まって。
 まさか旦那に悪いなんて思ってないよね。さんざん裏切ってるんだからさ。


 ーーあぁ…でも、こんなのは初めてだし…。


 ーーでもね、1度やったら直ぐに慣れるんだからさ。
 それに言っておいた通り、お相手は若い男だけなんだから。
 先生も嬉しいでしょ。


 ーーは、はい。


 ーーそう、素直にならないとね。
 じゃあ脱いで。


 ーーああ、はい…。


 ーーうん、いいねえ。
 30代には見えないよ。やっぱり子供を産んでないからかな。
 さぁ最後のパンティーも脱いだら、そこで気を付けの姿勢で立ってみてね。


 ーーああ…こうですか?


 ーー手は腰の横でしょ。
 学校の先生なんだから、分かるよね。
 そう、うん、隠さないでいいんだから。
 あれっ、そこの毛ってそんなに 毛深かかったっけ。


 ーーあっいやん。


 ーーフフ。
 じゃあその格好のまま言ってみようか、さっき教えたよね。


 ーーは、はい…。
 あ、あなた…アタシ、これから若い男の方とオマンコします。
 アタシ…あなたとのセックスじゃずっと満足できなくて、同僚の先生と浮気してたんです。けど…それも満足できなくて…。
 そんな時、偶然に渋谷君と出会って…そして、その彼に抱かれたんです。


 ーーえっ何だって?もう一回言ってみて。


 ーーあぁ…そう、ダメでしたね『抱かれる』なんて上品な言い方は…。あぁ、オマンコです。彼にいっぱいオマンコしてもらったんです。
 彼はアタシが本当は淫乱で下品な女である事を教えてくれたんです。同時に本性を素直に出せるように調教もしてくれたんです。
 今のアタシ、彼が言う事なら何でも出来るんです。それでも彼は時々キツイ事も言うんです。
 それでアタシ…売春するんです。はい、人妻教師の売春婦になるんです。
 命令された時は恐怖に震えましたわ。でも、どこからか喜びも沸いてきたんです。自分の中にこんな願望もあったんだって気づいたんですから。
 でも、それには試験があるんです。
 お相手するのは、彼のお知り合いの若い人達なんです。それで、その方々が満足できるか、身体や舌の使い方、それにアソコの締まり具合なんかをテストしてもらうんです。
 あぁ…これに合格したら、アタシは晴れて肉便器の女教師って事になるんです。


 ーーフフフ、いいねえ。なかなかよく言えたよ。そうそう久美子って語る事でオマンコ濡らすんだよね。
 ほら、確かめてみてよマンコ拡げてさ。指、突っ込んでさ。


 ーーあぁ…こうですか?こう、ガニ股に…。
 ウアァ、あぁ…濡れてますわ、はい…。


 ーーおっ、いい画(え)だねぇ。動画にも撮っとくか。
 うん。さぁそのまま云ってごらん。向こうに旦那がいると思って。
 ほら、寺田先生にさ。


 立ったまま股座(またぐら)を拡げて、ソコを弄っていた女の指がヌボっと抜き出て、私の方に向かってきた。
 その濡れた指が私の肩を掴み、そして揺する。


 んぐっ。
 んかが。
 んはっ。


 「ちょっ、ちょっとどうしたんですか寺田先生。悪い夢でも見てるんですか。しっかりして下さいよ」
 ハッと気が付けば、同僚の手が私の肩を揺らしていた。
 またも白昼夢か。私はバツが悪そうに誰にでもなくペコリと頭を下げてから首筋の汗を拭った。


 立ち去る同僚を横目に、頭を振って今の夢を思い浮かべてみる。あの本【白昼夢】にも刺激されての夢だったか。出てきた女性は久美子で、若者は渋谷君か…なんて思いながら苦笑いをした。
 それにしても先日の夜に妻が口にした言葉『…好きな事を…』ーーあれは実際、どう意味なのだろう。妻は半年前から“何”をして来たのだろうか。
 あの言葉の意味を深読みしてみれば【白昼夢】の女性のように、夫ーー私の目を盗んで“男”と会っていた、とか。妻の“ソレ”の理由が、私と同種の病的な振る舞いであれば、こちらの気持ちも少しは救われる…そんな変態的な考えも一瞬想ったわけだが、もしも本当にそうだとしたら…。あぁ、でもこれも又私の妄想なのか…。


 私は午後からの授業を続けながらも、好奇心が湧く自分を感じていた。妻の動きが気になって仕方なくなってきたのだ。
 と、そこで渋谷君だ。
 渋谷君達の仕事に“尾行”は、あるのだろうか。
 そこに考えついたところで、急に彼ーー渋谷君に会いたくなってきた。
 心の何処かには彼が体験して来た“仕事”、それの続きを聞きたい私もいたのかも知れない。それも良しだ。とにかく渋谷君に会う事でストレスが軽減されて、私の好奇心も満たされるーーそんな自分勝手な欲望を新たに、彼に連絡をする事にしたーー。


 ーー渋谷君からの返事は、その夜に来た。
 夕方にメールを送ってからは、ずっとヤキモキしながら待っていたのだ。
 そういえば彼は、2年前に予備校を辞めたと神田先生から聞かされていた。その経緯を詮索する気はないが、若い彼から感じた繊細さとサディスティックな色。あれを思い出すと、興味が湧いて来る。それもあってか、彼からの返信を楽しみにしていたわけだ。


 《寺田先生、こんにちは。ご指名ありがとうございます(笑)
 その後はお元気でしたか。
 奥様の事や、何か諸々相談があるようですね。
 僕もいつも暇というわけではありませんが、先生の都合が良い日を幾つか出してみて下さい。
 では、よろしくお願いします》


 彼から送られてきたメールを読んだ後は返信をして、土曜日に会う約束をする事が出来た。時間は午後の2時だ。
 予定が決まると、心の中に高揚感が湧いてきた。 
 さあ、私の“癖”は満たされるのだろうか…。
” [“publish_status”]=> string(1) “1” [“publish_date”]=> NULL [“category_id”]=> NULL } } 841684984の時、$oは10array(10) { [1]=> array(7) { [“id”]=> string(3) “438” [“user_name”]=> string(2) “NT” [“novel_title”]=> NULL [“novel_body”]=> string(16746) “
 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
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 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 私はカフェの喧騒を遠くに感じていた。 “歳の差夫婦”のその後の話が刺激すぎて、私の意識はその余韻だけで麻痺していたのだ。


 「先生…寺田先生、大丈夫ですか」
 その声に顔を上げれば、渋谷君が私を見詰めている。
 「寺田先生って、よく話の途中で意識が飛ぶ事がありますよね。見てると何となく分かりますよ」
 「あぁ、ごめんなさい」と素直に頭を下げた。そんな私を見ながら彼が続ける。
 「それってやっぱり、奥様…先生の奥様と話の中の奥さんがダブってしまうからですかね」
 「そ、そうなんですよ…話に出て来た“歳の差夫婦”…その奥様と私の妻がどうもダブって視えましてね…それも私の“性癖”なんですかね…」


 私の様子見ながら、一瞬黙りかけた彼だったが、思い出したように訊いてきた。
 「そういえば今日は、その奥様の事で相談があったんじゃなかったでしたっけ」
 「あぁ、はい」頷きながら私は周囲を見回した。周りは相変わらずの混み具合だ。私は今更ながら、これまでの会話が聞かれていたのではと、背中が冷たくなるのを感じた。
 あまりにも彼の話に入りすぎて、周りに注意が行かなかったのだ。彼の方は全く平気な様子だ。私は前に乗り出すようにして、妻の事を話す事にした。もちろん小声でだ。


 「前回、渋谷君と初めて会った時も自分の気持ちがハッキリしていなかったんです。私の妄想が妻に向いてるのは分かってるつもりだったんですけど、その妻をどうしたいのか、或いは自分がどうなりたいのか…」
 「………」
 「で、それが今でもハッキリしないんで迷ってたわけですけど…実はその妻にも怪しいところがあるような気がしてきましてね」
 「怪しいところ…と言いますと」
 「ええ、実は半年ほど前から妻の帰宅が遅かったり。それに休日に出掛ける事が結構ありまして」
 「ああ、そうだったんですか。それでそれが、浮気じゃないかと」
 「はぁ、その可能性もあるのかと。私も自分の妄想でいっぱいで日常の妻には注意が向いてなかったんですね。妻の方も私の様子がおかしい事に気が付いていて、その原因を探るのに家用の私のパソコンを視たんですよ」
 「ん、パスワードは設定してなかったんですか」
 「はい、うっかりしてましてね。それで恥ずかしい事に、私が視てきた変態チックな動画や画像、それに読んだ寝取られ小説の履歴なんかを知られたみたいなんですよ」
 「あぁ…」彼は呻きのような声を出した。しかし、その表情(かお)を観(み)れば、どこか愉(たのし)げな感じもする。


 「それで、妻が言うには『その履歴を視てからは、アタシも好きな事をしている』と」
 私の言葉に彼は、フムフムと腕を組み換えた。


 「そんな事をつい先日、渋谷君と初めて会った後…たしか水曜の夜に告(い)われましてね…」
 「なるほど。それで先生は半年前に遡って考えてみて、奥様の動きに不穏なところがあるかと」
 「ええ、まぁ、そう言う事なんです」


 眉間に皺を寄せた私は、うだつの上がらない中年男だ。渋谷君を見れば、腕を組んだまま考え込んでいる。
 その彼が覗き込むように訊いてきた「あのぉ、今の先生は奥様を“寝取られたい“という気持ちの前に、浮気疑惑をハッキリさせたいわけですよね」
 「あ、ああ…」と、情けない声を出して認めてしまっていた。
 「えっと、その疑惑の続きで奥様をどうにかしたいとか願望はお有りなんでしょうけど、それは取り敢えず置いといて尾行でもしてみましょうか」
 「ええっ!?」思わず感嘆の声を上げてしまった。
 遥か年下の彼は、私の痒い所に手を伸ばすかのように、要望を先取りしてくれたのだ。
 「ええ。でも、本来は神田先生が請ける仕事に尾行はなかった筈なんですよ。なので僕が、個人的にやりますよ」
 「えっいいんですか!」
 「はい。なんだか寺田先生を見てますと、力になってあげたくなりましてね」
 ああ!私はもう一度感嘆の声を上げていた。


 それから私はコーヒーのお代わりをさせて貰って、妻のいわゆる個人情報を伝えたのだった。
 勿論その中には自宅の住所もあったが仕方ない。勤務先の中学の名前を出した時も、自分は聖職者失格と思ったりしたが何を今さらだ。
 最後に妻の写真ーーかなり昔に撮った物を彼のスマホに転送した。


 彼は妻の画像を見ながら頷いて「この写真似てますよ。うん、あの“歳の差夫婦”の奥様にそっくりですよ」
 「あぁそうですか。私も話を聞きながらそんなイメージが浮かんでたんですよ」
 「うん、髪型もそうですね、ショートボブだし体型は脱がないと分かりませんが」
 「いや、体型もたぶんそっくりですよ。渋谷君が言ってたサイズ…妻も同じぐらいだと思うんですよ」
 「そう言えばあの奥様の名前、たしか“奈美子”って呼ばれてましたね」
 「あぁ名前もどことなく似てますね」
 私は変な感覚を覚えながら妻の顔を思い浮かべた。
 そして、最近の妻の気になるポイントを伝える事にしたーー頻繁に口にするようになった女子高生の事だーー。


 「なるほど、先生が今1番気になるのは、以前の教え子の事ですか」
 「はい…」
 「でも、さすがに女子高生と浮気は結びつきませんよね」と、苦笑いを浮かべる彼。
 「ええ、まあ、そうなんです…でも」
 「はい分かりますよ。教え子の相談に行くと言って、違う誰かと会ってる可能性もありますからね」
 「そうなんですよ」
 「それじゃあ今度、奥様が教え子に会うって言って出掛けたら、取り敢えず連絡して下さいよ。僕のタイミングが合えば奥様を尾(つ)けてみますよ」


 彼の申し出を受けて、私は妻の授業が終わる時間帯を教える事にした。その日によって時間はまちまちだが、目安にはなるだろう。
 それから私は「あの、それで渋谷君に払う報酬は…」と言いかけた途中で…。
 「そうですねぇ、もし本当に奥様が浮気でもしてたら、僕も仲間に入れて貰いましょうかね」
 「ええっ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった。


 「ははっ、な~んて…半分本気ですけどね」と彼の表情(かお)には、それでも真剣味が交じってみえる。
 私の背中には冷や汗が落ちていく感じだ。


 「そうなんですよ寺田先生。先程、自分の中に迷いがあるって仰りましたけど、その選択肢の中には“妻を他人に“ってあるんですものね」
 あぁ…改まって指摘された通り、間違いなくその気持ちは…。
 しかし…いざ、そんな場面が来た時には、私はどんな精神状態でどんな対応をするだろうか。


 「先生…寺田先生、そんな真剣にならないで下さいよ。ちょっと弾みで口にしただけですから」
 「あ、あぁ…」私は又も呻くような声で返事をしてしまった。


 「さっきも云いましたけど、取り敢えず教え子の話…奥様の口からそれが出たら僕に連絡を、って事で」
 最後の渋谷君の様子はウインクでもする感じだった。私の方はぎこちなさを残したままだ。
 あぁ…又も自分と向き合う時間の始まりだ。新たな妄想は湧き上がるのだろうか…。
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 土曜日のカフェで渋谷優作君と会える事になった私ーー寺田達夫。
 彼は私の意向に応えるように、あの“歳の差夫婦”のその後を話してくれたのだ。


 「神田先生の下でする“仕事”ってアフターフォローなんかもそれなりにするんですよ。あのご夫婦にも、その後はどうですか~なんてメールで聞いたりしたんですね。そうしますとちょうど先日、神田先生経由で連絡がありまして…」
 彼の口からはさっそく、歯切れの良い言葉が溢れ出した。私の方は期待に心震わすと言ったところだ。


 「ええ、それでね、あのご主人の“アソコ”完全に復活したんですよ。はい、勃(た)ちが全盛期に戻ったんです」と彼が笑う。
 「え、渋谷君は又呼ばれて行ってきたの?」
 「はい、ご自宅のマンションに行って、お二人をいたぶって…」
 いたぶって…あぁ、それは“調教”と聞きそうになったところで「あのご夫婦って二人ともMじゃないですか。ご主人も分かってて僕を呼んだんだと思うんです。だから期待に応えてやりましたよ」
 「ああ、じゃあやっぱり」
 呟きながら彼を見れば、口元には早くもサディスティックな色が浮かんでいる。
 「へへっ、今日はこんな話も聞きたかったんでしょ」そう云って彼の目は、私の奥底を覗き込んで来る。
 私はコクコク頷くだけだ。


 「僕が着いた時には、二人はシャワーを浴び終えていてガウン姿で迎えてくれましたよ」
 「………」
 「それでさっそく旦那をソファーに座らせてまして、俺は服を脱ぎ始めましたよ」
 彼の口調がこの前と同じように、『ご主人』が“旦那”に『僕』が“俺”に変わっていく。


 「前回と同じように奥さんを膝まずかせて、俺のバンツを下ろさせましてね。それで“即尺(そくしゃく)”です。分かりますよね先生」
 は、はい、と小声で頷いた。私もその意味ぐらいは知っている。エロ動画の中で何度も視た事がある。
 「ええ、俺の小便臭いチンポを綺麗にさせたんですよ。遠慮なく突っ込んで出して、奥さんは苦しそうにしながらも悦(よろこ)んでましたよ」
 早くもその奥様の姿が浮かんでくる。イラマチオをされて悦ぶ女はーー妻の久美子だ。


 「へへっ、フェラチオを続けてましたらね、旦那がガウンを脱ぎ出して、股間のアレを握ってオロオロするんですよ。この人、早く遣りたいだなと思ったんで、取り敢えず呼んであげましたよ」
 「………」
 「俺はチンポを抜いて、奥さんのガウンをとって素っ裸にしましてね。それから立ったままの奥さんの唇を旦那と二人で責めましたよ」
 又もその場面が浮かんでくる。左右から交互に唇を奪われる妻だ。


 「その次は胸。ええ、あの程よい大きさの胸を、揉みながら舐めてやりました」
 それも久美子の乳房だ。舐めるのは片方から渋谷君で、もう片方を責める男は私だ。
 「乳首を舐めてますと、旦那がアレを握って、挿れたくて仕方ないって感じなんですよ。でもね」
 そこで彼が、又も口元を歪める。私にまで“お預け”を喰らわしそうな感じだ。
 「旦那にはまだ我慢させる事にして、俺は奥さんを後ろから犯(や)る事にしましたよ」
 「………」
 「でも旦那にはフェラチオだけ許可してやりましたね。射精はするなって云いましたけど」
 「あぁ…」
 「はい、さっきも言いましたけど二人ともマゾ気質なんですよね。だから旦那の射精をコントロールしてやろうと思ったんです。旦那の方も一切文句なんか言いませんでしたよ」
 あぁ、50歳の教員を務める男が遥か年下の若者に射精を支配されるのだ…。


 「初めての時はほら、俺も奥さんの膣(なか)に出さなかったじゃないですか。だからその時は、思い切り出してやろうなんて思いながら突いてやりましたよ」
 そうなのだ。渋谷君は相手の射精をコントロールして、自分の射精もコントロールするのだ。


 「奥さんは後ろから俺に突かれて、前の口は旦那のチンポですよ」
 その場面も頭に浮かんでしまう。四つん這いの妻の、前後の口が支配されるシーンだ。
 「でもね、奥さんが直ぐに逝きそうになったんで待ったを掛けてやりましたよ」
 「あっ、それって」
 「ふふっ、旦那のチンポを一旦吐き出させてね、逝きたけりゃお願いしろって云ってやったんですよ。分かりますよね」
 「あぁ、はい…。で、どんな風に…」


 「旦那の目を見ながら、若い男のチンポがイイーッ、このチンポで逝かせて下さいッ、お願いしますッてね」
 (ウアアッ…)
 「旦那の方はそれを聞いてか、フンフン唸り声を上げてましてねぇ。チンポもカチンカチンになってて、収まりどころが早く欲しかったんでしょうね」
 「で、でも旦那さんは直ぐには…」
 「そうですよ。俺が帰るまでは犯(や)らせるつもりはありませんでしたからね」


 目の前の彼は間違いなくサディスティックだ。私の喉は早くもカラカラで、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「その時、閃きましてね。俺はバックを止めて、背面座位でやる事にしたんです。その格好、分かりますよね、前にやったやつです」
 勿論、それは知っている。背中を男に預けて、大股開きで下から突き上げられる妻の姿が浮かぶ。
 「ふふ、それで俺が突いてるところ…その結合の部分を旦那に舐めさせてやろうと思ったんです」
 「ええっ!」
 「前回の時は、その繋がってる部分をガン見してたじゃないですか。だから今度は、舐めさてやったんですよ」
 「…ほ、本当にご主人は舐めたんですか…」
 「はい、俺が見立てた通りのマゾですから、最初は躊躇した感じはありましたけど、意外と素直に舐めましたよ」


 彼の淡々と話す中からも、私には異様な香りが降りかかっていた。私は又も唾を飲み込み、息を繋いでいる。


 「奥さんもそのシチュエーションに興奮してるようでしたね。俺が突きながら耳元で『ほら、目をよく開けて見てみなよ。旦那が繋がってるところを舌で舐めてるだろ』って云ってやったんですよ」
 「あぁッ!そ、それで聞いた奥さんは…」
 「ん、目を見開いて、ヒィーーッて意味わかんない叫び声を上げてましたね」
 「ウウッ!…」
 「そうそう、二人とも教師で旦那がかなり歳上じゃないですか。だから仕事上の先輩でもある旦那さんのその姿が変に刺激的だったんじゃないですか」
 ああっ…私の中には、得体の知れない感慨が渦巻いてきた。
 聖職と呼ばれる職に就く二人の浅ましい姿。それは二人が、望んでいた姿なのだろうか。二人揃って性の深淵に堕ちて行くのが幸せなのだろうか。私の中で渦を巻いた感慨は、妖しい炎となって胸を熱くしてくる。
 そして、先ほどからその夫婦を自分達夫婦に置き換えている私がいる。


 ふうっと息を吐く。
 「…ええっと、それで他には…」
 私の言葉に彼は、一瞬きょとんとしたが、直ぐに思い出したように笑う。
 「ああ、それでね、俺も1回射精(だし)たんですよ。奥さんの方は当然何回も逝ってたんですけどね。でも、逝く時もすんなり許可はしませんでしたよ。『待て』を何回も掛けてやってね」
 と云って彼が笑う。


 「で、旦那はカチンカチンのままじゃないですか。だからそのまま“お預け”を続けてやろうと思いましてね…」
 ゴクリ、又も喉が鳴ってしまう。


 「フラフラの奥さんを立たせましてね、バルコニーのカーテンを開けてやったんです」
 「えっ!」
 「そう、外から見えるように…素っ裸の奥さんを外に向かって曝してやったんですよ」
 「な、なんて事を…」と、口に付きそうになった私。この期に及んで、世間様に対する不埒な行いを注意でもしようとしたのか…なんて思ったのも一瞬で、変態性癖な私の思考は、その場面を浮かべて怪しい高鳴りを発していた。


 「奥さんも旦那もさすがに焦ってましたかね。カーテン1枚とはいえ、それが密室と世間の境界線になってたわけですからね」
 あぁその通りなのだ。彼が口にした“密室”、それは我々聖職者の隠れ蓑で、変質的な性癖が担保される場所なのだ。そこを越えてしまったという事なのか…。


 「あ、あの…窓の外側って…」
 「ああ、そこの部屋はたしか4階だったと思うんですけど、向こう側の建物と結構密接してましてね。あっちのカーテンが開けばフェイス トゥ フェイスって言うんですか、要は丸見えですよ」
 無邪気に笑う彼を見ながらも、私の中には冷たいものが落ちていくような感じがした。


 「へへっ。それでね、その奥さんを窓いっぱいまで近づけてね、命令をしてやったわけですよ。寺田先生なら分かりますよね、それがどんなシチュエーションか。エロ動画なんかでも視たんじゃないですか」
 「アアッ」
 私は呻き声で、肯定の返事をしてしまっている。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「さあ、ここで問題です。俺は奥さんにどんな格好を命令したと思いますか」
 「………」
 頭の中では色んな場面が渦巻いていく。卑猥な動画で視まくった場面と、妄想が働いて頭の中で再現してきた場面だ。


 「まぁ大体は想像つきますよね。そうなんです、身体を外に向けたままガニ股の格好を命令したんです。そして、マンコの際に手を当てて拡げさせたんです」
 「ンググッ」
 「へへっ、興奮しますか。旦那は震えながら立ったまま奥さんのその格好を見てましたよ。ああ、立ったままってアソコもそうでしょうけど、足で立ったままって意味ですよ」
 彼の細かいというか丁寧というか、その言葉にも緊張が続く私がいる。そんな私を愉(たのし)げに見ながら彼は続ける。


 「次はですね、尻(ケツ)を外に向かせたんですね。はい、そこで今度は立ったまま…こう、頭を下げさせまして、股の下から外を覗かせたんです。分かりますよね」
 ううっ、と呻き声を上げてしまった。さっき見た夢のシーンとそっくりではないか。


 「その奥さん、結構身体が柔らかいんですよ。脚をピンっと伸ばした状態で、手がピタリと床に付くんですよ。それでその格好で向こうを覗いて…尻(ケツ)の破れ目を突き出してるんですよ」
 私は又も呻きと同時に唾を飲み込んだ。頭の中には妻だ。妻の姿が浮かんでいる。そう、体操をやってた妻も身体が柔らかいのだ。しかし…私は妻にそんなポーズをやらせた事がない。頼んだ事もない。昔から勇気のない私なのだ。


 「旦那も次第にオロオロしてきましてね。そりゃそうですよね、いつ向こうに人が現れるか分かんないわけですし。俺なんかは、向こうの部屋の人がこっちと知り合いだったら面白いのに、なんて考えてましたけどね」
 そう云って笑う彼に、私は唸り声を上げるだけだ。しかしそれは、同意でもあるのだ。他人様の恥態ならいくらでも眺められる。あぁどうしようもない卑怯者がここにいる。


 「俺はオロオロする旦那に徐々にイライラしてきましてね。それで旦那にも命令してやりましたよ」
 「ああ、それは何て…」
 「ん、ええ、奥さんの横に行って、アンタも同じ格好しろって」
 「そ、それって」
 「そうですよ。旦那はビビってましたけど、1度やったら病みつきになるからって云ってやったら…。そうしたら恐々奥さんの横に行って、同じように股ぐらから向こうを覗きましたよ」
 「アアッ!」
 「向こう側から見たら凄い光景ですよね。全裸の男と女が並んで尻を向けて、股から顔を覗かせてるんですから」
 「………」
 「へへっ。それでね、俺はその二人の姿をシッカリ動画に撮ってやりましたよ。だってその日は、二人の姿を撮るのも仕事でしたから」


 いつの間にか、私は口からハーハーと息を吐き出していた。私の精神は、そのご夫婦の姿を自分達夫婦とシンクロさせていたのだ。そして、その私の口から久美子…と小さな声が零れ落ちた。
 それを聞いてか、渋谷君がウンウンと頷いたのだった…。
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 土曜日、私が待ち合わせのカフェに着いたのは、約束の時間よりも30分早い1時半だった。
 今日は妻の尾行を思い付いて、渋谷君に相談するわけだが目的はソレだけではない。彼がこれまでして来た“仕事”ーー神田先生の元で行ってきた変態教師のお相手、あの話をもっと聞きたい、それもあるのだ。


 そういえば妻は、今日も午前中から出掛けている。色々と記憶を探ってみて思った事だが、確かにこの半年間の妻は帰宅が遅かったり、休日に出掛ける事が多かった気がする。私は自分のエロい妄想に翻弄されてか、妻の日常をそれほど気にしていなかったのだ。
 彼女から良く聞く教え子の話。それも本当の事かと考えてしまうわけで、そんな話も渋谷君にしてみようかと思っている。
 あぁ、その妻は今頃どこで何をしているのだろうか。


 私は店内の向こう側、路面に面した大きなガラス窓に目を向けた。この店はそこに見える歩道を通って入る造りになっているのだが、まだ彼が来る気配はない。
 視線を戻せば店内の様子が窺える。休日のこの時間はかなりの混み具合だ。多いのはノートパソコンを開げている人達だ。ノマドワーカーといって、最近はカフェなどで仕事をする人が結構いるらしい。もちろん本を読んでる人もいる。
 私の視線は、真ん中辺りの席で本を読む一人の女性の所で止まった。
 目を凝らしてみると、本の表紙の文字が何とか読む事が出来る。
 はくちゅうむーーその文字を読み取ると、瞼の裏に不穏な影が落ちてきた。そしてそれが、サーッと広がって行き…。
 その彼女が本を置き、ふっと顔を上げ…周囲の様子を窺うように軽く頭を振り…。ちらりと視えた片方の耳にはワイヤレスのイヤホン。
 彼女はスッと立ち上がると路面に面したガラス窓に身体を向け…。
 陽が差し込むその大きな窓を眺めながら、彼女は徐に上着に手をやって…。


 周囲の客席では、パソコンに講じる人々。軽やかなBGMが流れる中を、静かに上着を脱ぎとった女。露(あらわ)になるのは豊満な脹らみ。ソレを包むのは漆黒のブラジャー。
 一旦背筋を伸ばして軽く胸を張ったのは、その出で立ちを“誰か”に見せようとしたのか。或いは何かに対して畏まったのか…。
 彼女が傾げるようにして耳元に手をやる。そこのイヤホンから“指令”が届くのか。
 軽く頷いたかと思える仕草も、表情は変わらない。そう、立ち上がった時から彼女はどこか浮遊してるような顔。
 次に彼女はスカートに手をやり…。その素振りに戸惑いは見られない。
 ガラス窓の向こう…通りから店を覗く“男”がいた。耳にスマホを当てて指令を飛ばしている…ように視える。
 店の中では、あちこちから軽蔑な目が彼女に向き始めている。やがて、小さなざわめきが起こる…。


 ーー見て、服を脱いでる人がいるわ。
 いゃんッ、スカートまで脱ぎ出したわ!


 ーーうわっ、あの女、ついに下着だけになっちゃったよ!
 あぁ…エロい身体…。


 ーーねぇ、あそこに変態がいるわよ。
 あぁ…凄い、あれが露出狂っていうの?


 ーーお、おい、こんな所でAVの撮影かよ。
 けど結構美人じゃん。流行りの調教ものだな。


 ーーええっ!?ソレまで脱いじゃうの…。
 そ、それはマズイんじゃ…。


 ーーああッ、全部脱いじゃったよ!
 それにしても…。


 ーーあの貌(かお)、見てみろよ。
 ああ言うの、恍惚の表情って云うんだぜ。


 ーーあぁ…羨ましい…。でも私にはあんな真似は出来ないわ。
 それにしても、なんて卑猥な身体…。


 ーーああ…な、なんなんだよ。今度は中腰になって尻を突き出したぞ!
 お、おい、いい加減に店員気づけよ。


 ーーこっからだとハッキリ見えちゃうよ。
 ああ、うん。見える見える、人妻のオ◯ンコ!。


 ーーもう止めて。流石に止めて。こっちまでおかしくなりそうよ。


 店の中で起こった小さなざわめきは、既に大きくなっている。その喧騒の中で自分一人の世界に入り、産まれたままの姿になった女…。不意に彼女は気づく…周りの目が自分に向いている事に。軽蔑の視線、哀れみの視線、そして好奇の視線、それらを一心に集めながらも変わらない表情。そう、まるで白痴のような貌(かお)。
 その時、彼女の口がグニャリと歪んだ…かと思うと奇妙な声を発した…。
 ーーあぁ…ご主人様、久美子のオマンコを御覧になってぇ…。


 女が両足を四股(しこ)を踏むほどに広げる。
 そして、頭をグイっと下げて股座(またぐら)からガラス窓を覗く。女のショートボブの髪は、床に付く寸前で止まり、揺れる。
 床を踏みしめる脚はピンと伸びて、その張りが巨尻に伝わり、見る者に威圧さえ与える。
 開陳された部分は、黒い翳りの奥から顔を覗かすドドメ色のアソコ。
 股の下からガラス窓の向こうの男を見つめる顔が、その時初めて表情を浮かべた。


 ーーご主人様、これでよろしいでぇすか…。
 どうか御覧になって下さい。これが変態女 久美子のマンコです。


 この世のものとは思えない恍惚の表情。不気味ささえ覚える驚愕の振舞い。
 突き上がった尻は、男に媚びを売るように震え出す。それは振動を起こし、周囲に地響きとなって伝わっていく。
 ふらつく人々。
 ガクガクと身体が揺れて、遂には足元が抜けて行く…。
 と、ガクン!


 …頭を振って身じろぎした。
 あぁ、椅子から滑り落ちそうになっていた…。
 またしても私は、淫夢の中に迷い込んでいたのだ。


 その時。
 「こんにちは寺田先生。あれっ、どうかしたんですか?」
 肩越しから覚えのある声が聞こえて来た。
 「ああ、渋谷君。いや、大丈夫ですよ、ちょっとウトウトしてて…」


 彼に会釈した私の表情(かお)は、虚ろさが残っていたと思う。
 その私を心配そうに見ながら彼は、目の前の椅子に腰を降ろした。私はバツが悪そうに座り直したのだった。


 何日ぶりかに見る彼は、初めて会った時より爽やかに観(み)える気がした。
 あの薄ら暗い淫靡な世界より、昼間の世界の方が…と考えたところで頭を振った。今日の私はクライアントで、彼に会う目的もハッキリしている。私は改めて自分に言い聞かせて彼の顔をジリリと見詰めた。


 「あ、先生、気合いが入って来ましたね。うん、エロはモチベーションを上げますからね」と笑って、そして続けた「僕も今日は会えるのを楽しみにしてたんですよ。神田先生からも寺田先生の事をシッカリと、と言われて来ましたし」
 私は彼の言葉に心で頷いて、遠慮なく話そうと決めた。


 「今日はわざわざ時間を取ってくれて、ありがとうございます」
 改まって頭を下げると、彼は、いえいえ、と謙遜した顔でペコリと頷いた。


 「ええっと、どこから話せば言いかな…」と云いかけたところで思い付いた。
 「ああ、それよりも渋谷君は元気だった?あの…その後も忙しいのかな…ほら“例”の仕事とか…」
 私の言葉に、彼は少し意外な表情(かお)をした。
 しかし「あれっ、ひょっとして“あっち“の話も聞きたかったんですか?」と、ニヤリと笑って「いいですよ。じゃあ、この間の“歳の差夫婦”のその後の話からでも始めましょうか」


 彼の言葉で気持ちが前掛かりになった。今から聞くのは妄想話ではない。そう、リアルな変態夫婦の話だ。
 私は“あの夫婦”の痴態を思い浮かべて、フツフツと高鳴りを感じ始めたのだった…。
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 ーー金曜日。
 今朝の私の挨拶も硬いものだった。
 妻の方も重い雰囲気が続いてる感じで、食事も互いが無口なままで採る事になってしまった。
 食事が終わればそそくさと出勤の準備をして、私は重い荷物を背負った気分で家を出た。


 学校に着けばこの日も、生徒の親からクレームが来ていた。それを処理すると、待っていたのは学年主任の小言だ。
 授業中はスマホを弄る生徒を注意しては、逆に挑発的な目を向けられて気疲れしてしまった。


 昼休みは一息つけるように、リラックスしようと思った。
 昼食を食べ終えた私は、背もたれに身体を預けて伸びをして、肩の力を抜きながら目を瞑った。


 今日は陽射しが暖かい。
 気温も上がってきている。
 お腹は満幅だ。
 今にも睡魔がやって来そうな気配を感じる。
 このまま少し寝てしまおうか…。


 どこからともなく、黒い雲が降りて来る…。
 …若い男の前に、一人の女性が立っている。


 ーーなに突っ立てんだよ。ほら早く脱ぎなよ。
 は?恥ずかしいってか。
 何を改まって。
 まさか旦那に悪いなんて思ってないよね。さんざん裏切ってるんだからさ。


 ーーあぁ…でも、こんなのは初めてだし…。


 ーーでもね、1度やったら直ぐに慣れるんだからさ。
 それに言っておいた通り、お相手は若い男だけなんだから。
 先生も嬉しいでしょ。


 ーーは、はい。


 ーーそう、素直にならないとね。
 じゃあ脱いで。


 ーーああ、はい…。


 ーーうん、いいねえ。
 30代には見えないよ。やっぱり子供を産んでないからかな。
 さぁ最後のパンティーも脱いだら、そこで気を付けの姿勢で立ってみてね。


 ーーああ…こうですか?


 ーー手は腰の横でしょ。
 学校の先生なんだから、分かるよね。
 そう、うん、隠さないでいいんだから。
 あれっ、そこの毛ってそんなに 毛深かかったっけ。


 ーーあっいやん。


 ーーフフ。
 じゃあその格好のまま言ってみようか、さっき教えたよね。


 ーーは、はい…。
 あ、あなた…アタシ、これから若い男の方とオマンコします。
 アタシ…あなたとのセックスじゃずっと満足できなくて、同僚の先生と浮気してたんです。けど…それも満足できなくて…。
 そんな時、偶然に渋谷君と出会って…そして、その彼に抱かれたんです。


 ーーえっ何だって?もう一回言ってみて。


 ーーあぁ…そう、ダメでしたね『抱かれる』なんて上品な言い方は…。あぁ、オマンコです。彼にいっぱいオマンコしてもらったんです。
 彼はアタシが本当は淫乱で下品な女である事を教えてくれたんです。同時に本性を素直に出せるように調教もしてくれたんです。
 今のアタシ、彼が言う事なら何でも出来るんです。それでも彼は時々キツイ事も言うんです。
 それでアタシ…売春するんです。はい、人妻教師の売春婦になるんです。
 命令された時は恐怖に震えましたわ。でも、どこからか喜びも沸いてきたんです。自分の中にこんな願望もあったんだって気づいたんですから。
 でも、それには試験があるんです。
 お相手するのは、彼のお知り合いの若い人達なんです。それで、その方々が満足できるか、身体や舌の使い方、それにアソコの締まり具合なんかをテストしてもらうんです。
 あぁ…これに合格したら、アタシは晴れて肉便器の女教師って事になるんです。


 ーーフフフ、いいねえ。なかなかよく言えたよ。そうそう久美子って語る事でオマンコ濡らすんだよね。
 ほら、確かめてみてよマンコ拡げてさ。指、突っ込んでさ。


 ーーあぁ…こうですか?こう、ガニ股に…。
 ウアァ、あぁ…濡れてますわ、はい…。


 ーーおっ、いい画(え)だねぇ。動画にも撮っとくか。
 うん。さぁそのまま云ってごらん。向こうに旦那がいると思って。
 ほら、寺田先生にさ。


 立ったまま股座(またぐら)を拡げて、ソコを弄っていた女の指がヌボっと抜き出て、私の方に向かってきた。
 その濡れた指が私の肩を掴み、そして揺する。


 んぐっ。
 んかが。
 んはっ。


 「ちょっ、ちょっとどうしたんですか寺田先生。悪い夢でも見てるんですか。しっかりして下さいよ」
 ハッと気が付けば、同僚の手が私の肩を揺らしていた。
 またも白昼夢か。私はバツが悪そうに誰にでもなくペコリと頭を下げてから首筋の汗を拭った。


 立ち去る同僚を横目に、頭を振って今の夢を思い浮かべてみる。あの本【白昼夢】にも刺激されての夢だったか。出てきた女性は久美子で、若者は渋谷君か…なんて思いながら苦笑いをした。
 それにしても先日の夜に妻が口にした言葉『…好きな事を…』ーーあれは実際、どう意味なのだろう。妻は半年前から“何”をして来たのだろうか。
 あの言葉の意味を深読みしてみれば【白昼夢】の女性のように、夫ーー私の目を盗んで“男”と会っていた、とか。妻の“ソレ”の理由が、私と同種の病的な振る舞いであれば、こちらの気持ちも少しは救われる…そんな変態的な考えも一瞬想ったわけだが、もしも本当にそうだとしたら…。あぁ、でもこれも又私の妄想なのか…。


 私は午後からの授業を続けながらも、好奇心が湧く自分を感じていた。妻の動きが気になって仕方なくなってきたのだ。
 と、そこで渋谷君だ。
 渋谷君達の仕事に“尾行”は、あるのだろうか。
 そこに考えついたところで、急に彼ーー渋谷君に会いたくなってきた。
 心の何処かには彼が体験して来た“仕事”、それの続きを聞きたい私もいたのかも知れない。それも良しだ。とにかく渋谷君に会う事でストレスが軽減されて、私の好奇心も満たされるーーそんな自分勝手な欲望を新たに、彼に連絡をする事にしたーー。


 ーー渋谷君からの返事は、その夜に来た。
 夕方にメールを送ってからは、ずっとヤキモキしながら待っていたのだ。
 そういえば彼は、2年前に予備校を辞めたと神田先生から聞かされていた。その経緯を詮索する気はないが、若い彼から感じた繊細さとサディスティックな色。あれを思い出すと、興味が湧いて来る。それもあってか、彼からの返信を楽しみにしていたわけだ。


 《寺田先生、こんにちは。ご指名ありがとうございます(笑)
 その後はお元気でしたか。
 奥様の事や、何か諸々相談があるようですね。
 僕もいつも暇というわけではありませんが、先生の都合が良い日を幾つか出してみて下さい。
 では、よろしくお願いします》


 彼から送られてきたメールを読んだ後は返信をして、土曜日に会う約束をする事が出来た。時間は午後の2時だ。
 予定が決まると、心の中に高揚感が湧いてきた。 
 さあ、私の“癖”は満たされるのだろうか…。
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 私達夫婦が何年ぶりかに行った“デートごっこ”。そして何ヵ月ぶりかのセックス。
 妻は久しぶりのセックスをどんな風に感じたのだろうか…。私の方には満足もあったが不安も生まれている。彼女に満足はあったのか?それとも不満が残ったか…。
 そんな事を聞けないまま日常はやって来て、月曜日が始れば時間が流れて行くーー。


 ーー水曜の夜。
 コンコン、ノックの音にドアを開けると、口元を引き結んで妻が立っていた。


 いつもと違う彼女の様子に嫌な予感がした。
 「ど、どうしたの…」
 私の問いに、妻はどこか不安げに見詰めてくる。
 「あの…あなた、実は前から思ってたんですけど、アタシに何か言いたい事があるんじゃないでしょうか」
 いきなり投げかけられたその言葉に、緊張が走り抜けた。
 私は強張りながらも質問の意図を考えてみる。このタイミングで聞かれるとしたら、やはり先日のホテルの事か。
 と、思いついたところで、妻が続けてきた。
 「先日のホテルの時に改めて思ったんです。あなたの“クセ”…ソレを感じて確信してしまったんです」
 クセ?…そう訊こえた言葉に私は首を傾げている。


 「クセ…って云いましたけど、あなたに馴染みのある言い方だと“性癖”になるでしょうか」
 性癖!!まさかのその言葉に、身体が一瞬で固まってしまった。
 「ど、どういう事…かな」
 震えを帯びた声が零れ落ちていく。


 「…はい、半年ぐらい前からあなたの様子がおかしいんです。雰囲気もどこか病的な感じで…アタシもあなたに何か言葉を掛ければ良かったのかも知れませんが…。そんな時、申し訳ないと思いつつパソコン…あなたのパソコンを視れば何か掴めるかと思って、その…つい覗いてしまったんです」
 「ええっ!!」
 「はい、それでネット…インターネットであなたが視て来た履歴を知ってしまったんです…」
 「ああッ!!」
 私の身体は瞬時に身震いを起こした。そして急激に熱くなっていった。穴があったら入りたいとは、この事だ。


 …妻とは何年か前から寝室を別にしていた。そこに深い意味はないが、互いの部屋への出入りには遠慮があったのだ。だからか家用の私のパソコンにはパスワードを設定していなかったのだ。


 頭の中では、これまで視まくってきたエロのシーンが渦を巻いている。あの映像や、あんな動画を妻が視たのかと思うと、身体の震えが増すばかりだ。そんな私に彼女が続ける。
 「それで、あなたの履歴に色々と思う事がありまして…」
 彼女が口にする『履歴』ーーそれは間違いなく“エロの履歴”だ。そう、私が隠し持っている変態的な妄想を証明するものだ。
 身体は更に硬くなっていき、唇は震えるばかりだ。


 「それでその時、アタシも思ったんです。…好きな事をしようと…」
 ああ…っ。それは“離婚”か、と思ったところで彼女が首を振って「…離婚は考えていません」私の表情を読み取ったのか、彼女は落ち着いた感じでそう告げた。


 「…はい、離婚をいうつもりはありません…けど、その時アタシも好きな事をしようと思って…」
 好きな事ーー彼女はその言葉を2度使い、そこで俯いた。
 そんな彼女に、私は何とか言葉を探して「あ、あの…それは半年くらい前には、そう思ってたって事なの…」
 黙って頷く妻。
 私は仕方なしといった感じで、ウンウンと小さく頷いている。そうなのだ。それまでのストレスに耐え兼ねなくなって、エロサイトに嵌まり出したのが半年ほど前なのだ。やはり、妻の目に私の様子は病的に映っていたのだ。


 妻も同じ教師としてストレスには同情してくれてると思っていた。勿論お互い様のところもある。
 しかし、私のストレス解消の方法が軽蔑の対象になってしまったわけだ。それでもソレが、救い用のない私の性癖なのは間違いない。


 「あなた…それでアタシも、その頃から好きな事をさせて貰ってるわけなんです…」


 言い終えた彼女の目には涙か、後悔の色も浮かんだ気がする。
 パソコンを覗いてしまった事が彼女の後悔に繋がたっとしたら、申し訳ない気持ちと同時にやるせなさも湧いてくる。
 その彼女が俯いたまま背中を向けた。
 立ち竦んだままの私は、部屋を出て行く後ろ姿を見送るだけだった。


 部屋のドアが閉まる音を聞いて、私は倒れ込むようにベッドに横になった。
 時計を見ればもうこんな時間だ。そう、いつもならエロサイトを覗いてる時間だ…。しかし、さすがに今夜はパソコンに電源が入る事はない。


 目を開けて天井を見ていれば、浮かんでくるのは先ほどの妻の事。頭の中で彼女が言った言葉を思い返してみる。
 妻は『…好きな事をさせて貰ってる…』と告げた。
 それがせめて私と同種の変態的な振る舞いなら、この気持ちが少しは救われるのか..。私はそんな病的な事を考えながら、眠れぬ夜を過ごしたのだった。




 次の日の朝は重いものだった。妻に“おはよう”の挨拶を掛けて良いのか。と、そんな心配を胸にリビングに行ってみたが、彼女の様子はいつもと変わらなかった。しいて言えば口数が少ない気がしたが。


 朝の出勤時間は別々だ。先に家を出る私。この日の私は足早に家を後にした。
 最寄り駅に向かうバスの中では、出掛けに言われた妻の言葉が蘇る。
 『今夜はまた教え子と約束があります。相談の続きなんです』
 これまでなら『~ですよ。~なので食事は自分でお願いしますね』そういう云い方をしたのではないだろうか。私はそんな事を考えながら勤務先の中学に向かっていた。


 学校に着いた私は、この日も重い気分で一日を過ごした。とは言っても、授業はそれなりに真面目にやったつもりだ。
 何とかこの日の教務を終わらせ、残業めいた事もこなした私は、急いで学校を後にする。
 こんな時は居酒屋で一杯やりたいところだが、その相手も思い付かない。それに酔えば、とんでもない事を吐き出しそうな自分が怖い。
 そんな私は、一駅足を伸ばして隣町に行く事にした。そこに昔馴染みの古本屋があるのを思い出したのだ。


 そこは掘り出し物がよく見つかる店だった。
 昔から読書好きの私には有難い店なのだ。
 店に着いた私は、さっそく出会いを求めて店内を歩き始めた。


 暫くして見つけてしまったのは、一冊のかなり古い本。たしか私が10代の頃に同じく古本屋で買った事のある本だ。なぜあの時、この本を買ったのかーーおそらく性に興味を持ち始めた私に、ピンと来るものがあったのだ。いわゆる衝動買いと言うやつか。あの時はソレを買って、隠すように持ち帰った記憶がある。
 その後、その本をどうしたかは忘れてしまったが、目の前には同じ物があるのだ。私は迷う事なくそれを手に取るとレジに向かったーー。


 ーー選んだ店は、駅前にあったカフェだった。
 そう、私は買ったばかりのこの本を家で読む勇気がなかったのだ。妻に見つかりでもすれば、どう思われるか考えただけで暗い気持ちになる。この場で読んで、直ぐに棄ててしまう気でいるわけだ。


 その本ーー【白昼夢】を開けてみる。
 私は一応、周りの視線を意識しながら読み始める事にした。妻は今夜も遅い筈だし、時間はたっぷりある。


 白昼夢…。
 主人公はお偉い大学教授だ。


 その教授ーー男には医者や弁護士、お偉い知り合いが大勢いた。
 しかし男は、悲しい事に奥さんを早くに亡くしていた。
 大きな屋敷に使用人と住むこの男は、出世欲に金欲、それに性欲を人並み以上に持っていた。
 奥さんを亡くして以来、男は性欲を妖しいパーティーで誤魔化していた。しかし心の奥底では、もっと嫌らしくて隠れ家的な裏寒いエロスを欲していた。
 そんな男が、知人の弁護士の紹介で見合いをする事になる。
 男は一目で相手の女性を気に入り、後妻として迎え入れる。
 周りの人達が気にしたのは、その女性の歳が一回り近く若かった事。
 陰口は女性を財産目的と叩いたが、男はそんな事を気にしない。
 それよりも気になったのは、新しい妻が性に淡白すぎた事だ。それでも男は、妻を自分好みに育てようと可愛がった。
 しかし…。


 暫く経つと、妻は退屈な時間に嫌気がさしてくる。妻は籠の中の鳥だったのだ。
 習い事をしたいと言い出す妻。しぶしぶ認める男。
 やがて男の仕事が忙しくなって、小遣いだけを与えて構ってやれなくなる。
 夜の方は相変わらずの淡白が続いてる。


 ある頃から男の精力が目に見えて落ちていく。仕事のストレスが異常に大きくなってきたのだ。
 それに比例するように妻の外出が増えていく。
 そして、妻の化粧が日に日に濃くなっていく。
 それまで幼く見えてた妻が大人びて映って見えてきた。蛹が蝶にでも変わるように誰かが妻を研(みが)いているのか。
 疑惑を抱いた男は探偵を雇って妻の尾行を命じる。
 探偵からもたらされる驚きの事実。
 妻は若い男と会っていた。いや、若い男だけではない。遥か歳上もいるらしい。
 狼狽した男は“その現場”を覗きたいと言い出す。
 止めようとする探偵。それに反発する男。


  どういう事だ!
  お前はただの雇われだ!
  俺の命令に従え!


 男は探偵と一緒に妻を尾行する。
 つき当てたのは変哲のない古いだけの一軒家。そこにいたのは一人の老婆。
 探偵達の姿に気味の悪い笑みを浮べる老婆。
 何も知らない男は老婆に促されて暗い一室に通される。そこで金を要求する老婆。
 金を受け取った老婆が壁に貼られたポスターを捲る。そこには小さな覗き穴。
 男はその穴に近づこうとしてハッと気づき振り返る。居るはずの探偵の姿が何処にもない。


 意味深な笑みを浮べて老婆が部屋を後にする。
 一人になった男は心を決め、壁に近づき穴を覗き込む。
 見えたのは和室部屋と、そこには似合わない巨大な洋風ベッドにソコを照らすピンク色の光線。
 そしてそこに蠢く二つの肉体。
 二つの身体は上に下に肉を擦り合わせて絡み合う。まるで互いの急所を探すように。
 蛇(ヘビ)のように絡み合っていた一体が顔を上げる。若い男だ。その目が“私”を見つめる。
 若者の手が、にょろにょろと女の首に巻き付く。女が苦しそうに顔を振る。しかしその表情は悦(よろこ)びに歪んでいる。


 私は目を凝らした。炙り出されるように浮かび上がる女の貌。その女と目が合った。
  アーーーーッ、く、久美子!!
 驚愕に震える私。その私に若者が寄ってきた。
  ああっ、き、君は探偵の渋谷君!


 若者の腕が蛇となってこちらに向かってくる。
 私の首を絞め、やがて身体中に廻って行く。


 んぐぐぐっ、私は呪縛から逃れようと力を振り絞った。
 そして…。
 ハッと跳ね起きた瞬間、一斉に汗が噴き出るのを感じた。
 俯いてハーハーと息を吐き出した。
 「な、何なんだよ今のは…」
 暫く荒い呼吸を続けていた私は、周りを見まわした。どうやら椅子に座ったまま眠りに落ちていたようだ。


 やがて落ち着きを取り戻すと、股間が異様に硬くなっている事に気がついた。
 あぁ…今のコレ、蛇みたいな亀頭になってんだろうな。
 そんな自分で吐いた冗談にも笑えない私がいる。
 それにしたって…久美子がまさか…。
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 朝ーー。
 私は重い頭を振りながら身体を起こした。
 バルコニー側の大きな窓からは、陽の光が射し込んでいる。カーテンを引かずに眠ってしまったのか。そんな事を考えながら、ベッドから足を下ろそうとして、躓(つまず)きそうになってしまった。見ればパジャマのズボンが腿の上辺りで止まっている。ブリーフパンツも少しズレて中途半端な位置にある。
 これはどう言う事だ。
 上はどうだ…と、胸の辺りに手をやるとボタンが幾つか外れている。いや、これは上手く着せれなかったと言う事か。


 そんな事を考えていると、次第に頭の中がハッキリとしてきた。あぁ…アレは夢ではなかったのか。パンツを下ろしてソレが当たる部分に指をやった。しかし、アレの染みは見当たらない。私自身の先っぽもソレらしい痕はない…気がする。
 私は身だしなみを整えて立ち上がった。まだ不思議な感覚に包まれてる感じはするが、頭を振って部屋を出ようとした。その時、枕元においてあったスマホの点滅に気がついた。
 渋谷君からのメールだーー咄嗟にそう考えて、手に取って開けてみた。


 《おはようございます。
 声を掛けましたが、全然起きないのでメールにしました。
 昨日 言い忘れましたが、今日は学生時代の友人の奈美子と久しぶりに会う約束があって出掛けます。
 サンドイッチを作っておいたので食べて下さい。
 帰りは遅くなるかも知れませんので、夕飯は御自身でお願いします》


 私は妻からのそのメールを読み終えると、時間を確認した。なんともう10時近くだ。こんなに寝坊したのは何時以来だ。
 それからもう一度メールを見た。
 奈美子ーーその文字を声に出して呟いてみた。不思議な感覚が再びやって来る。確かに妻の学生時代の友人に、この名前の人がいた気はするが…。
 それにしたって、渋谷君の話に出て来る“歳の差夫婦”の『奈美子』と同じ名前とは…。


 リビングまで行った私は、ソファーに腰を下ろした。
 頭の中で夕べ…いや、深夜の“あの“出来事”について考えてみる。白昼夢…その言葉が浮かぶが、真夜中に白昼夢はないだろうと苦笑いして、それでも不思議な感覚が残る自分を自覚した。
 私は取り敢えず濃いめのコーヒーでも飲もうかと腰を上げた。


 コーヒーを飲み終えると出掛ける事にした。特に当てもないが、重い頭を振り払う為に日常の空気に触れたかったのだ。サンドイッチは半分だけ食べて、取り敢えず向かうのはバスに乗って最寄り駅だ。


 駅に着いて、改札に向かっている時だった。
 「あっ、先生!」
 前から歩いてくる恰幅の良い男性に、反射的に声を掛けていた。
 その人は私の声に立ち止まって「なんだ、寺田君じゃないか」驚いたような声を上げた。
 秋葉洋司(アキバ ヨウジ)先生ーー私が駆け出しの頃、若手教員の勉強会で指導役を務めたのがこの方だった。その後、妻も一度同じ職場になって上司と部下の関係があった筈だ。そして、確か今は隣り町の中学で教頭をしていたのではなかったか。


 「久しぶりだね、寺田君。どうしたんだいこんな所で」
 その声に緊張を覚えて会釈した。久しぶりに会った先生は、髪に少し白い物が混ざって見えるが、昔と同じ威圧感を感じてしまう。歳は50を超えている筈だ。


 「大変ご無沙汰しています。今日はえっと…古本屋にでも行こうかと…」
 「ああ、君は昔から本好きだったよね、うんうん」
 咄嗟に思いついた『古本屋』という言葉にも、私の顔は強張っていたか。そんな私を覗き込んでいる秋葉先生の目尻には皺が寄っている。柔和さと貫禄のギャップも、この人の魅力の一つだ。


 「ええ、本好きは相変わらずです。ところで先生はどちらに」
 「ああ、僕も散歩みたいなものだよ。この近くに行きつけの喫茶店があってね。それに家に居ても誰もいないしね」
 その言葉に思い出すものがあった。
 そうだった。先生は何年か前に離婚しているのだ。そんな記憶が過って私は、ぎこちなく頷いた。


 「ああ、そう言えば久美子先生には迷惑を掛けてるね」
 突然の言葉に、頭の中に?マークが浮かんでくる。
 「娘の奴も変な別れ方をするから付きまとわられたりするんだよ。そう思わないかい寺田君」
 「え、ええ…」
 曖昧に頷いてみたが、頭の中は追いつかない。


 「それにしても久美子先生は相変わらずマメで助かるよ。探偵まで連れて来てくれるとは」
 その瞬間、心の中で驚きが上がった。久美子が告(い)ってた教え子とは、秋葉先生の娘さんだったのか。


 「そ、そう言えば先生の娘さんって…」
 「あぁそうなんだよ。別れた女房と一緒にいるんだけど、元カレのストーカー行為はアイツじゃ手に負えないのか私の所に相談を持ってきおってな。でも私の方も忙しくて大した事は出来なかったんだ…そんな時、久美子先生と偶然に会ってな」
 あぁ、そこでまた記憶が甦って来た。そうだったーー妻の久美子は秋葉先生の娘さんが中学の時の担任をしているのだ。そう言えば当時、『やりにくい』と何度も口にしていたではないか。


 「先生、ちょうど昨日ですけど久美子からも聞きました。ようやくストーカーの正体が分かったので一安心だとか」
 「うん、まあそういうところだ」
 と云い終えたところで「おっとすまんすまん。これから本屋に行くんだったな。余計な愚痴に付き合わせる所だったよ」ニコリと笑って先生は立ち去ろうとする。
 私は緊張を残したまま先生を見送った。


 小さくなっていく後ろ姿を、暫く見ていた。その姿には、中年男の悲哀を感じないでもない。離婚の原因は分からないが、独り身の男の“あの“処理”はどうしているのかーー不意に頭の中に、そんな不穏な考えが浮かんで来た。M駅の近くにあった怪しげな喫茶店。ひょっとして秋葉先生は、あの様な店に女を注文しに行くのだろうか。あの時の女店主の言葉が浮かんで来る。
 『…真面目そうな…そんな男(ひと)がお忍びで来てるのよ…』
 頭の中にあの怪しげな女の姿を描きながら、私は駅の改札へと足を向けたのだった。




 結局古本屋には行ってみたが、何も買う事なく店を後にした。帰る途中で目に付いたカフェに入り、一人でお茶を飲む事にする。虚しい休日を実感するが仕方ない。
 コーヒーカップを手に持ち席に座れば、あの本【白昼夢】を持ってくれば良かった事に気が付いたがもう遅い。それから考えた事といえば、妻と秋葉先生の事だった。いや、その娘さんと妻の事か。
 その時、夕べの“女”の姿が脳裏に浮かんできた。あの女ーー久美子は実在していたのだろうか。朝、起きた時の下半身の脱力感は射精の証拠なのか。しかし確証は何処にもない。今夜にでも、妻に探りを入れてみようか。しかし…。
 妻の証言によっては、私達夫婦の関係がどうなってしまうのか、恐怖に震えを起こしてしまいそうだ。
 やはり私は小心者で臆病ものだ。自分の行動に自信が持てないのだ。妻に話すとしたら教え子の事になるだろう。それと…。
 妻が会うと云ってた友人の“奈美子”さんの事だ。その辺りの話題を振って、上手く夕べの出来事に付いて聞き出せれば…。


 家に帰った私。
 妻はまだ居ない。
 食欲のない私は、今朝のサンドイッチの残りを摘まむと、久し振りにテレビを視る事にした。しかし頭の中には何も入らない。
 それから暫くして、シャワーを浴びようと部屋に着替えを取りに行く。その瞬間、良からぬ事を思い付いてしまった。


 向かったのは妻の部屋だった。滅多に入る事のないこの部屋に漂う匂いは妻の好みか。と、不意に夕べの“女”の匂いが記憶から湧いてきた。あぁ、あの女は香水をつけていたのではなかったか…。
 そのままボォっと記憶を思い返していたがハッと我に帰った。妻がいつ帰って来てもおかしくない。タンスを漁っている所を現行犯で見られたら、何と言い訳すればいいのだ。私はブルルと身体を震わすと、急いでタンスを開ける事にした。


 上から開けていくと、3段目にソレらしい物が見つかった。小さく丸まったソレらを順番に手に取り拡げてみる。色は水色に白系が多くて黒が少しか。エロサイトによく視るSMチックな物や際どい物は見当たらない。それはブラも同じだ。私は安堵の気持ちと残念(?)な気持ちの両方を感じて引き出しを戻す事にした。
 それから他の段も開けてみるが、怪しい物は見当たらない。まさか“大人のオモチャ”といわれる性具があったりして…と思ったりもしたがソレもない。
 15分ほど他の所も漁るように見てみたが、諦めて捜索をここまでとした。
 部屋を出ようとして振り返ってみた。この部屋にパソコンはない。久美子は以前からノートパソコンを仕事用と兼用で持ち歩いているのだ。


 結局この夜、妻が帰って来たのは彼女の部屋を出てから1時間ほど経った頃だった。
 インタフォンが鳴ると、玄関までさりげなく出迎えた。
 「お帰り…」
 「ああ、あなた…ただいま…帰りました」
 私の出迎えに少し驚いたようにも観(み)える妻。その表情(かお)には疲れが浮かんでいる…みたいだ。久し振りの友人ーー奈美子さんとの時間はどんなものだったのだろうか。


 私の横をすり抜ける彼女の横顔に「思ったより早かったね」声を掛ける私。
 そして、首筋辺りの匂いを嗅ぐかのように覗き込む私。その私の目には、小指の爪の大きさの薄い黒子(ほくろ)が映った。


 「え、ええ、奈美子も忙しいみたいで…」
 「そうなんだ…」
 ボソリと呟いた私に、黙って頷き返して、彼女はそのまま私の横を通り抜けると自分の部屋に入っていく。私の方は再びリビングに戻るとソファーに腰掛けた。


 暫くすると部屋から出る妻の気配を感じた。シャワーを浴びるのか。その瞬間、妻の下着の事が浮かんで来たが、今夜は洗濯機の中を覗く事は止めておく。
 やがて聞こえてきたシャワーの音を遠くに感じながら、私は暫く腰を落ち着かせていた。


 シャワーを浴び終えた妻が、リビングに入ってきた。
 「あなた、どうしたんですか」この時間帯に、ソファーでボォっとしている私が珍しかったのだろう。
 妻はドライヤーで乾かした髪を手櫛で撫でながら冷蔵庫を開けている。その後ろ姿にそれまで考えていた話題を振る事にした。
 「…あのさぁ、奈美子さんってどんな女性(ひと)だったけっか」
 質問に背中を向けたままの彼女の首が小さく傾げたのが見えた。そして、振り向くと更に質問の意図を探るような目を向けてきた。
 「たしか、あなたは会った事なかったと思いますよ」
 「ああ、そうだったっけ。最近記憶に自信がなくてね。それで、奈美子さんは…」と問い掛けてる途中で、彼女がスマホを操作しながら寄って来た。
 「久し振りだったんで撮ったんですよ」
 彼女が見せてくれたのは二人のツーショットだった。妻が腕を伸ばして自撮りした写真だ。
 その写真に顔を寄せて覗いてみる。瞬間、良い香りがプンっと鼻を突いて来た。私はその匂いを懐かしく感じながら、手元を覗く目に力を入れた。


 「あっ!」
 思わず声が上がっていた。写真の二人がそっくりなのだ。髪型も雰囲気も。
 「この髪型って…」
 「ああ、ショートボブ…昼間会った時、私も思い出しましたわ。あの頃の体操部って皆な髪を短くしてたって」
 「ああ…奈美子さんも体操部だったのか…」何故だか力が抜けていくような私の声。
 私はもう一度その写真をよく見ようと首を伸ばした。同時に「もういいですか」そう云って彼女は、スマホを隠すように持ち上げた。
 身体が不思議な感覚に包まれて、フワフワと浮かんで行くようだ。今夜も変な夢を見そうな感じがする。


 「あなたの方は何をしていたんですか。朝、全然起きないから心配しましたよ」
 あぁ…小さな息を零して、妻に聞こうとしていた事を思い出した。
 「そう言えば…昼間、出掛けたんだよ。そうしたら駅で秋葉先生に会ったんだ」
 言い終わると、妻の頬が一瞬氷ついた…ように見えた。


 「久美子、どうしたんだい」
 「えっ、いえ…。そうですか、秋葉先生と」
 「ああ、久美子が相談に乗ってた教え子って秋葉先生の娘さんだったんだね」
 「ええ、実はそうなんですよ…」
 「言ってくれても良かったんじゃないの。今日も先生から聞かれて、返事に困っちゃったよ」
 「あぁ、すいません。あなたに告(い)うと要らぬ心配を掛けるかと思いまして…」
 妻はそれだけ言うと、バツが悪そうに立ち去ろうとする。
 その背中に「そうそう、久美子は最近よく眠れる?僕の方はさ、変な夢を見るんだよね」語尾の震えが気になりながらも私は告げていた。


 「え、ええ、アタシの方はお陰様で…良く眠れてますわ」
 「そ、そうか…」
 「はい、夕べもぐっすりと…」
 「……」
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 私は電車に揺られていた。
  頭の中では、先程まで一緒にいた渋谷君の“話”が何度も回っている。
  彼の造り話を聞いている時は、ショックと得体の知れない戸惑いがあったが、その後の説明を聞いて確かな納得が生まれていた。
 『あの駅の人混みの中では、奥様を見付ける事なんて出来ませんよ』
 その通りなのだ。カフェからの帰りも感じたが、土曜日という事もあって物凄い人の波なのだ。それに改札だって幾つかあって、私は無意識に1番大きな所に行ったが、妻がそこを通る確約だってあったものではない。
 改めて私は、ずさんな計画を立てた自分に恥ずかしくなって、渋谷君に頭を下げていたのだ。
 彼の方は、いい暇潰しにでもなったのか、私にドッキリを仕掛けた事を素直に喜んでいる様子だった。そして、別れ際にこう云ったのだ『また奥様が出掛ける際は連絡を下さい。今度は御自宅の前まで行って、そこから後を尾(つ)けますよ。よろしいですか』
 私に断る理由などなかった。もう一度頭を下げて、お願いしていたのだ。
 それにしてもだ…。
 渋谷君のあの造り話の出来映えはどうだ。彼のこれまでの体験が物を言ったのだろうが、リアルすぎて今になっても興奮を覚えてしまう。
 しかし“本当の妻”は何処で何をしていたのだろうか。言葉通り、教え子と会っていたのか。
 電車が最寄り駅に近づいている。
 今夜、妻にもう少し突っ込んで聞いてみようか…。


 家に着くと、当の妻は先に帰っていた。
 「ただいま」
 挨拶はいつにもまして緊張が混ざったものだった。
 妻の方からは小さな声が返ってくる。表情を観(み)ればどことなく疲れた感じに見てとれる。


 「あのさぁ、今日の教え子の相談会はどうだったの。難しい年頃だから何かと大変だよね」
 こちらの探りに、妻の様子は一瞬強張った感じだ。
 「そうですね、ストーカーに悩まされてたんですよ。でもようやく、その相手が分かったんです。いわゆる“元彼”みたいなんです」
 「えっ、そうだったの!」
 具体的な返答に、私の方に驚きと戸惑いが生まれた。教え子の話は本当の事だったのか。それでも私は、もう少し突っ込んで訊いてみる事にした。
 「よく相手が分かったね。家の前で張ってたとか」
 「ええ、その通りです。こちらも探偵を雇って、彼女の周辺を見張ってたんです。そうしましたら人物を特定出来まして、逆に相手を尾行して貰ったんです」
 「そ、そうなんだ」
 彼女がスラスラと口にした『探偵、尾行』そんな言葉にドキリとしてしまった。私の疑心が揺らいでいく気がする。妻自身は“白”なのだろうか。


 「どうしたんですか、黙り込んで」
 「い、いや、大丈夫だよ。でも良かったじゃないか相手が分かったなら」
 自分で吐いた『相手』『分かったなら』その言葉にも私自身が考えさせられてしまう。妻には“相手”がいなかったという結論でよいのか。


 「あなた、何だかお疲れのようですけど…。今日は古本屋に行かれたんですよね。何か良い物は見つかりましたか」
 「えっ、ああ…」
 そうだった。私の方は古本屋に行く事になっていたのだ。
 「いや、今日は行ったけど、これといった物はなかったんだ。だから一人でカフェでお茶してきたよ…ははっ」
 苦笑いを浮かべて見せたが“一人で”と強調した事が、わざとらしいかと心配してしまう小心者の私がいる。
 「でも何だか疲れたなぁ。明日も休みだけど今日は早く寝ようかな」
 彼女に背中を向けながら呟いて、いったん自分の部屋に行く事にした。


 部屋に入った私はパソコンも見ずにボォっとしていた。すると、浴室から音が聞こえてきた。妻がシャワーを浴びるのか。と、無意識に腰が浮いている。
 そして私の足は、洗面所の方へと進んでいる。
 頭の中はなぜか妻の下着だ。


 そっとドアを開けると、勢いのよいシャワーの音がする。曇りガラスのドアには妻のシルエット。
 私は気づかれぬようにと、ゆっくり洗濯機の蓋を開けた。このドキドキ感は下着泥棒の気分か。


 目的の“物”は直ぐに見つかった。底の方でシャツと一緒に丸められていたショーツを取り出してみる。
 目の前で拡げたソレは、先日のホテルで見た物とほぼ同じで白くて清純な物だった。しかし私は、問題の部分、クロッチの所を注視しようと顔を近づけた。そして匂いを嗅いでみる。もう一度拡げて照明に照らして色を確認する。
 どうやら怪しい所はないみたいだ。エロ小説にあった“栗の花の臭い”ーーソレはない。
 と、シャワーの音が小さくなっていく。私は慌ててショーツを洗濯機に戻して退出した。間違いなく下着泥棒の気分だ。


 その夜ーー。
 寝付きの悪い私の頭に浮かぶのは妻の事。
 教え子の相談事が本当に元カレのストーカー行為と分かれば、それは一段落という事で良いだろう。先程の白くて汚れのない下着も、その裏づけととって良いだろう。
 となると、先日妻が口にした『半年前から好きな事をしてる』ーーその“好きな事”とは何だろう。ひょっとしたらソレは、全く気にする必要のない在り来たりの事なのだろうか。要は私は、妄想癖に囚われた変質者のおめでたい野郎だったというだけの話なのか。
 けれど…。
 もう一度、もう一度だけ尾行のチャンスがあれば、それで結論付けよう、と考えた頃、ようやく睡魔がやって来た…。


 深夜ーー。
 …物音に瞼がゆっくり開いていく。
 常夜灯が部屋を鈍より浮かび上がらせる。
 バルコニー側の大きな吐き出し窓からは、微かな月の明かり。
 部屋は異様に静かだ。
 その時、眼(まなこ)が揺れる人影を認識した…気がする。
 誰だ…。
 人影が頼りない灯りを遮るように多い被さって来たーー。
 えっ、香水の匂い!?


 影ーー女が布団を捲って首筋を襲って来た。
 首筋をなぶった唇が、次に唇を被う。
 私の身体は全く動かない。
 口の奥へと舌が射し込まれて来る。それが暴れる。口元から唾液が零れて、首筋を伝っていく。
 女がいったん身体を起こすと、着ているシャツを脱ぎとった。ゴム毬のような乳房が揺れている。
 今度は細い指が私のシャツを捲り上げていく。
 黒い唇が私の乳首に吸い付いて来た。いや、噛んでいる。やがてソレが下へと向かう。
 あっという間にパンツが下ろされ、一瞬の清涼を感じる下半身。そこにも唇が寄っていく。


 身体は相変わらず動かない。金縛りにあったようだ。しかし、下半身のソノ部分だけが泥濘を感じた。それが脳に快楽の信号を送ってくる。
 目を細めれば、女がショーツを脱ぎとり全裸姿だ。扇情的なシルエットが、月の明かりを浴びて浮かび上がっている。
 その影からニュッと手が伸びて、私の“アレ”を握った。硬さを確かめたか女の口元が笑った気がする。
 そして、女が“私”を握って、自身の股間に当てがった。
 私に跨がり、ガニ股開きで腰を下ろして来る。
 泥濘を感じる私のアソコ。そして直ぐに、粘膜が擦れる感触。
 女が一心不乱に腰を振り始めた。見れば女はウンチングスタイルだ。この女は妻なのか。久美子とこんな騎乗位などやった事がない。久美子にはもっと羞恥心があった筈だ。それがコレはどうだ。女は私を道具のように、自分の快楽だけの為に腰を動かしているではないか。
 と、強烈な快感が襲ってきた。下半身から高鳴りが沸いて来る。我慢が効かない。寸前の声が零れ落ちる。
 ウウッ!このドクドクとする放出の感触は、夢精の瞬間かーー。


 ーー放出の後、アソコが女の口にシャブられている。萎れたアレが女の舌に絡み取られている。
 女が唇を離して、私の手を取った。そして、窓ガラスへと連れていく。月明かりの下、全てを脱がされる私。
 言いなりの身体は、女に誘導されて窓ガラスに手を当てた。腰が引けて、尻が突き出た格好。後ろで女が、私の尻の割れ目を拡げる。ネチャっとアナルが開陳される音を聞いた気がした。同時に女が鼻で嗤った気もする。
 そして、ヌルっとアナルに舌が射し込まれて来た。
 うううっ…情けない声が口から落ちていく。窓ガラスにその顔が薄っすらと浮かんでいる。


 女はアナルを舐め回しながら、サワサワと細い指を股間へと伸ばして来た。そしてユックリとソレを扱きながら囁いた。
 『お尻の穴で感じるって女の子みたい』
 今の声は妻なのか。久美子がこんな下品な事を口にする筈がない。
 女の舌が背中を這いずりながら登って来た。やがて耳たぶに軽い痛みを感じる。女が私の耳を噛んだのだ。やはりこの女は妻ではない。久美子がこんな痴女の筈がない。


 『ねぇあなた…アタシの下着を調べてたでしょ』
 あぁッ!女は妻だったのか。
 『あなたって思った通りの変態だったわね。それでどうだったの、アタシのショーツにザーメンの痕はあったの?』
 女の声に身体が震えていく。アソコは女の手指にシッカリと握られている。
 『うふふ、あなたのココ、また硬くなって来たわよ』
 確かに硬直を感じる。私は苦し紛れに『く、久美子…君は半年前から“何を”しているんだ』何とか問い掛けた。
 『…知りたいの?ふふっ、どうしようかしら』
 『アウッ!』股間がギュッと握られた。
 『知りたければ教えてあげてもいいわよ…』
 強度を加えられたアソコが、ヌルヌルとシゴかれる。先っぽから我慢の汁が溢れ出ている。
 『…それはねぇ、バ・イ・シュ・ン。…アタシ、あなたに内緒で見ず知らずの男に身体を売ってるのよ。うふふ、これでいいかしら』
 『んぐッ!』
 『他にはねぇ…』
 続けざまに妖しい声が耳元を襲ってくる。
 『レズもしてるのよ』
 『あぁッ!』瞬間、アソコが跳ね上がった。その反動に女が嗤う。そして再び、耳元に囁き掛けてくる。
 『昔の教え子に偶然会ったのよ。その娘(こ)、アタシに興味があったみたいで『好きでした』なんてカミングアウトするの…。だからアタシも相手をしてあげたのよ。あなたには黙っていたけどアタシって…ふふふ、両刀使いなのよ』
 『あーーッ!』
 『あら、また硬くなったわよ。やっぱりあなたって重度の変態だったのね』
 『うううっ』
 『また、犯(や)りたくなってきたの?…フフッ』
 女の声に無意識に顎が、コクコクと上下に揺れてしまう。


 『じゃあ後ろから犯(や)る?立ちバック好きなんでしょ』
 言い終わるや、女は私と入れ替わるように窓ガラスに手を当てた。


 『さぁいらして。好きにしていいのよ、御主人様』
 女が中腰になって尻を突き出している。
 私は何かに取り付かれたように膣(あな)に挿入すると腰を振り始めた。


 窓ガラスの中では、裸の男と女が絡み合っている。
 やがて…。
 そのシルエットが形を無くして、闇の向こうに消えていく。
 これは夢なのか。


 ~うつし世はゆめ…夜の夢こそ、まこと~
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 私は駅の改札の前に来ると、キョロキョロと首を振りながら売店の横に移動した。
 土曜のこの時間は凄い人波だ。目の前を通り過ぎていく人々が私の顔を見れば、どう思うだろう。きっと青白い顔の病人がいると思うのではないだろうか。


 その時。
 「寺田先生」
 後ろから声を掛けられた。振り向けば渋谷君だ。
 何日ぶりかに見る彼の顔にも、緊張が窺えた。やはり妻の疑惑は確信に変わってしまったのか。


 彼は私を見るなり「先生、お疲れ様です。近くに空いてるカフェがあるので、そこで話を…」と、先を促す感じだ。
 私は足早に歩き始めた彼の姿を見失わないように続いた。その彼がここにいると言う事は、妻はもう“事”を終えたと言う事か。それはやはり“秘め事”だったのか。


 渋谷君が入ったのは、良く聞く名前のカフェだった。
 店内は彼が言った通り、比較的空いている。これなら、秘密の話に適してるかもしれない。


 渋谷君が二人分のコーヒーを持って来る。彼が座るのを待って、乗り出すようにして訊いてみた。
 「あの、妻を見つけたんだね。それで妻に“何か”あったんだね…」
 私の言葉に真剣な表情を浮かべる渋谷君。彼は小さく頷いて、同じように身を乗り出して来た。
 「…先生、辛いと思いますけど、見た事を正直に話しますので聞いて下さい。よろしいですか」
 緊張が高まる自分を自覚して、恐々と頷いた。ここはもう、腹を括るしかないのだ。


 「実は奥様を運良く見付ける事が出来まして、売店の横から見張ってたんです。暫くすると、中年の男が奥様に声を掛けて来たんですよ。あの時の雰囲気は、時間に遅れてゴメンって慣れた感じでしたね」
 あぁ、心の中にやはり“男”だったのかと、何とも言えない感情が立ち込めてくる。


 「女子高生の事が頭にあったので意外な気がしました。でも、二人が自然と並んで歩き出したんで、慌てて後を追いかけました」
 あぁ、今度は嘆きのような想いが立ち込めてきた。


 「二人を尾(つ)けて行ったら、ちょうどココ…」と云って、彼がテーブルを指さす。
 「…この店に入りまして、その席に」と、隣の席に視線を向ける。
 「奥様と男がそこに座って、遅れて入った僕はこの席に座ったんです」
 彼がもう一度このテーブルを指差して、頷き掛けて来た。私の方は生めかしさを感じて、身体を震わせている。


 暫く私の様子を心配げに観(み)ていた彼だが、何かを計ったように頷いた。
 「…僕はここに座って、二人の会話を聞き取ろうと集中しました。今思えば、ボイスレコーダーでも用意しておけば良かったのですが…」
 「あぁ…」私の口からはタメ息が落ちていく。


 「その時はもう少し混んでまして、聞き取りにくかったのですが、会話の内容は何となく分かったつもりです」
 今度は、ウウッと覚悟を示す呻き声が落ちて行く。
 彼の目を見れば、続けてよろしいですか、と問われてる気がする。私は恐々と頷くだけだ。


 「はい。男の方は見た感じ結構な歳上で、奥様はずっと『です、ます』と敬語を使ってました」
 「………」
 「男の口調は『どうだ、どうなんだ、どうしたい』って詰問調が多くて、奥様は俯きながら小声で『はい』とか『いいえ』とか首を振る感じでした」
 「………」
 「そうしたら男が、『じゃあ確認の電話を入れてくる』って云って席を立って、1度外に出ていったんです。奥様はその間も俯いて座ってましたね」
 「ああ…」
 「男が戻って来ましたら『行くぞ』って一言云って、直ぐに奥様も立ち上がりました。結局この店にいたのは、30分位ですかね。僕も少し遅れて店を出る事にしました」


 渋谷君が一息つけて、コーヒーカップを口に運んでいる。私の方は喉がカラカラだが、何も飲む気になれない。この展開は一体どういう事なのか。あまりにもハッキリと妻の疑惑が確定ではないか。


 「寺田先生、よろしいでしょうか」
 目を向ければ、渋谷君が哀れな私を見詰めている。
 「外に出ますと、二人は南口の方に向かってまして…。この辺りの事は僕も良く知ってて、あっち側って怪しい所なんですよ」
 「………」
 「奥に行くと、古めかしいビルがたくさんあるんですけど、奥様達はその中の一つに入って行きまして…」
 「………」
 「…でも、そのビル、偶然なんですけど、よく知ってるビルだったんです」
 「えっ!?」
 「はい。実はそのビルの中に、神田先生が借りてる部屋がありまして…」
 神田先生…久しぶりに聞く名前だ。


 「その部屋って、神田先生の別の“仕事”の事務所になってるんですよ。それで、中がチョッと面白い造りになってましてね」
 「面白い造り?」
 「ええ、事務所の奥にもう一つ別の部屋がありまして…」
 「そ、そこは何なんですか…」
 「はい、マジックミラーって分かりますよね?」
 あぁッ!今度は大きな声が上がってしまった。
 マジックミラー…勿論それは知っている。実際に見た事はないが、エロ動画で視たりSMチックな寝取られ小説に出て来たヤツだ。まさかそこに妻が登場してしまうのか…。


 「それで、そのマジックミラーの部屋って、時間貸ししてるんですよ」
 「時間貸し?」
 「はい、変態趣味の人達にレンタルルームとして貸し出ししてるんです」
 そこで彼が、今日初めて意味深な笑みを浮かべた。こっちは恐怖が高まるばかりだ。
 それでも私は、自分の気持ちを落ち着かせて訊いてみた。
 「で、でも、そのビルに妻が入ったからといって、神田先生のその事務所に…ましてマジックミラーの部屋を利用したとは限りませんよね」
 緊張のあまりか、さっきから敬語になっている私だ。渋谷君はそんな私の顔を見ると、静かに頷いた。
 「それでも僕は、嫌な予感がして直ぐにその場から神田先生に電話を入れました。事務所に入っていいですかと、お願いしてみたんです」


 「………」
 「先生は僕の説明をシッカリ聞いてくれました。内緒で尾行の仕事を請けた事には小言を言われましたが、神田先生も“嫌い”じゃないですからね」と彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 「結果的に寺田先生に事実を伝える為なら仕方ないじゃないかと、中に入る事を許してくれました。受付の者には直ぐに連絡しておくからと仰って」
 「じゃっ、じゃあ…妻はその部屋に入っていたって事ですね!」
 震えた私の言葉に、渋谷君の唇が先ほど以上に歪んだ。そして軽く頷いた。


 「僕の方は少し遅れて、部屋に行きました」
 うううっ、私の胸が締め付けられていく。
 「その事務所に入ったのは久しぶりでした。でも、直ぐに受付の野郎が“聞いてるよ”って目配せしてきて、僕も迷う事なく奥の一角に進みました」
 いつの間にか、渋谷君の目には妖しい光が宿ってみえる。私の方は、その目に見入れらて瞬きさえ許されない感じだ。
 「最初のドアを開けると、既に部屋の中が透けて見えてましてね…。先生なら分かりますよね」
 あぁ…エロ小説で読んだ場面が浮かんでしまう。部屋の中では、全裸の男女が鏡に写る自分達の姿を見つめている。そして、その姿は外側からシッカリと覗かれるのだ。
 そんな光景を思い浮かべたところで「それで妻は…」と震える声で問い掛けた。


 「僕はよく見えるように前まで行きました。中では男女が抱き合ってました。…はい、奥様と中年の男です」
 「あぁっ」
 私は呻き声を発した。その後は身体の力が抜けて行く。


 「し、渋谷君…」
 「…先生、どうしますか。続けますか」


 頭の中に複雑な感情が渦巻いて来る。
 エロ小説を読むようになって知った“寝取られ”。妻の浮気や妻が他人に抱かれる姿に興奮を覚えて、進んで妻を他の男に抱かす男達の話だ。読んだ時は自分の中にも似たような癖があったのかと、そんな気にもなったりした。
 しかし…。
 それが現実の我が身に起こったとなると…。


 渋谷君の方は、私への遠慮を封印したように淡々と話しを続ける。
 「お二人はエロドラマのワンシーンと同じでした。唇を離すと、男が奥様の胸元に手をやりましてね、ゆっくり服を脱がせにかかりました」
 「………」


 「奥様の下着は白が多いですかね?」
 予期せぬ言葉にドキリとした。先日のホテルでの久美子のランジェリー姿が自然と浮かんでくる。私は黙ったまま小さく頷いている。
 彼は2、3度頷いて周りを見渡した。いつの間にか店内は客でいっぱいだ。


 「男が奥様の背中を押すようにして鏡の前に連れて来ましてね」
 頭の中にはそのシーンも浮かんでしまう。
 久美子は部屋の中から、鏡に映る自分達の姿を見詰めるのだ。そして、渋谷君は外側から二人を盗撮者の気分で覗くのだ。


 「男は鏡の向こうから誰かが覗いてるのを想像でもしたんでしょうね。焦らすように奥様を下着姿にしたんです」
 「あ、まさか男にそんな趣味があったんでしょうか」
 「どうでしょうか。でも、そういう癖を持った人達はいますよね。それに、そこの部屋を利用する人達の中には覗き趣味の連中を呼んで、自分達の絡みを見せ付けたりする事もあるみたいですよ」
 「ああっ」まさにこれまで視てきたエロ動画や寝取られ小説の世界と一緒ではないか。しかし彼の話はフィクションではない。真実の話なのだ。


 「奥様達は以前からその部屋を利用してたんでしょうね。そんな気がします。男が後ろから抱きしめながら舌を奥様の唇に差し入れるんですよ。そして、キスしたまま鏡に向かせるんです。奥様は抵抗するんですけど、あれは“嫌よ嫌よ”の素振りですよね」
 あぁ…『嫌よ嫌よ』その意味は私だって承知している。妻はもう男と“阿吽”の呼吸なのか。
 「キスをしながら胸を揉まれて、ブラを脱がされましてね。次に下を脱がされますと、奥様の眉間にシワが寄ったのが分かりました。嘆きの皺ってヤツですかね。でも、あの表情(かお)も慣れたものって感じでした」
 彼の表現に呻きを繰り返すだけの私だ。それに“嘆きの皺”ーーその表情も頭に浮かんでしまう。


 「奥様ってマゾっけがありますよね。あの“歳の差夫婦”の奈美子にやっぱり似てますよ」
 「ウウッ」
 「男は奥様を素っ裸にした後はお決まりでしたね。しゃがませてアレをシャブらせましたよ。先生も頭に浮かびますよね、ショートボブの髪をかき分けて…」
 その姿も頭に浮かんでしまう。先日のホテルで私もやっているのだ。姿見の前で、妻のシャブる口元を鏡越しに見ていたのだ。


 「その後もお決まりでした。鏡に手を付いて“立ちバック”ですよ」
 あぁ、それも分かる。久美子は鏡に映る自分の“逝き顔“を見るのだ。


 「先生もご存知のように、向こうの声は聞こえない造りなんですよ。でもね、奥様と男の口元を見てますと何となく分かりますよね、何を云ってるか」
 「あぁっ」
 「ええ、再現すると、ーーほら、久美子の膣(なか)に何が入ってんだよ。どこが気持ちいいか言ってみろよ。ーーこんな感じですかね」
 あぁ、その通りだ。それを続けるとしたら、ーーチンポです。御主人様のチンポが久美子のオマンコに入って気持ちいいんです!ーーこんな感じなのだ。
 顔を上げれば、渋谷君がニヤニヤ笑っている。彼自身も語る事でサディスティックな喜びを感じているのか。


 「ああ、それと言い忘れてましたけど男はコンドームを着けていませんでしたね。奥様もすんなり受け入れてましたから、合意の上なんでしょうね」
 と言う事はどういうい事だ。二人の仲に歴史があると確定ではないか。久美子は早くから私を欺いていたのだ。
 そこまで考えた私の中に、ジワジワと哀しみが沸いて来た。その私の表情を読み取ったか、渋谷君が頷く。
 「先生にはショックかも知れませんが、僕も二人の関係が長い事続いてるんだと思いました。奥様も男の責めに“嫌よ嫌よ”の姿を晒しながらも、次の責めを心待ちにしてる感じでした。それに、鏡に映る自分の姿にも興奮を覚えていたと思います。表情がだんだんと牝(メス)の貌になって行きましたから」
 「んぐぐっ!」


 頭の中で妻の恥態が回る。
 あぁ、どうすればいいのだろうか。
 と、気づけば渋谷君が何かを堪えている。唇を噛み結んで何かを我慢している。


 「渋谷君、どうかしたのかい」
 「いや、先生、顔が真剣です」と彼が笑う。
 「だってそれは、あれだから…」
 「いえいえ。実はですね、嘘なんです」
 「………」
 「すいません。神田先生の事務所があって、マジックミラーの部屋があるのも本当の事なんですけど、それ以外のところは僕の造り話なんですよ」
 「ええっ!?」
 「はい、駅で奥様を見付ける事は出来なかったんですよ。それで直ぐに諦めて、この店に来て一人でお茶してまして。その時に今の話を思いついて、これを先生に話したら喜ぶかなって考えてたら丁度メールが来て、駅にいるからなんて書いてたから…へへへ」
 「ああっ!」


 彼の意外な言葉に、私の目はこれでもかと拡がっていた。そして、ジワジワと話の筋が読めてきた。そういう事だったのか…。
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 私は“白昼夢”の残影を浮かべたまま、机の上のスマホを手に取った。
 開けてみれば渋谷君からのメールだ。


 《今、M駅の改札に着きました。
 これから暫く張ってます。》


 彼からのその文面を読むとゾワゾワと武者震いがやって来た。
 まだ動きがあったわけではないのに、熱いものが沸き上がって来たのだ。
 私は一呼吸おいてから返信を送る事にした。


 《渋谷君。
 ご苦労様です。
 よろしくお願いします》


 メールを送った私は、イスに座り直して本を手に取ったがページを開く事はない。直ぐに立ち上がると洋服タンスに向かっていた。
 あっという間に着替えを済ますと、何かに背中を押されるように家を出た。頭の中にはM駅だ。そこへはバスで最寄り駅まで行って、そこから電車に乗り換えれば30分ほど。ざっくり考えれば、渋谷君が言ってた通り、家から1時間位だ。
 目的の駅に着いた私は、渋谷君にメールで伝えておく事にした。


 《ご苦労様です。
 私もM駅に来てしまいました。今、改札を出た辺りです。
 渋谷君はどこにいますか?
 連絡をお願い致します》


 暫くその場で返信を待っていたが、いてもたってもいられなくなった私は、何かを求めるように歩き出した。
 駅の北側に出れば、家電量販店にシネコン、それに名の知れたカフェがいくつか目に付いた。
 駅の反対側に出てみれば、北側とは全く違った雰囲気だ。
 昼間のこの時間でも、暗い欲望が身を隠してる感じがする。
 私の足は不思議な力に吸い込まれるように進んだ。


 真新しいビルの横には、昭和の香りが残る古い雑居ビルがあった。そこの袖看板にはレンタルルームの文字があり、近くには“ソレ用”のホテルなのかビジネスホテルなのか区別のつかない建物があったりもする。
 もう少し歩けば、有名な塾を見つける事が出来たが、その回りには風俗店だ。
 渋谷君が『善と悪が同居する街』と言った意味が分かった気がした。


 スマホを片手に持ったまま歩いていたが、返信が来る事はなかった。
 私は立ち止まって、もう一度メールを確認したところで、休憩を取る事にした。レトロ調の喫茶店を見つけたのだ。


 そこは仄暗い店だった。私はアイスコーヒーをお願いする。
 客は少なく崩れた感じの中年男に、もう一人は普通の主婦…に観(み)えるが、妄想を働かせれば風俗関係か。
 やがて、その女性がスマホを手に取るとちゃちゃっと操作をしてから店を後にした。その後ろ姿に女店主が掛けた言葉ーー『ご苦労さん。頑張ってきてね』、あの意味は何だろう。
 暫くすると、その女店主がコーヒーを持って来てくれた。


 「あのぉ、お客さん。ひょっとして待ち合わせ?それともこれから“決める”のかしら」
 「い、いえ」と呟いてみたが、女の言葉にピンと来るものがあったのは間違いない。この街は怪しい空気に覆われているのだ。


 緊張を覚えた私に「ちょっといいですか」女がそう断ってからテーブルを挟んだイスに腰掛けた。
 「お客さん、この辺りは初めてでしょ」
 「え、ええ、そうですけど…」
 「ふふふ、あっち側は開けて健全になっちゃったけど、こっち側は昔のままなのよね」
 女が聞いてもない事を呟いて、意味深に見詰めてくる。
 「この辺には、昔馴染みの怪しい遊びが残っているんですよ。お兄さんも真面目そうな感じだけど…ふふふ、そんな男(ひと)がよく“お忍び”で来てるのよね」


 私を包む空気がザワザワと音を立て始めた。女が更に身を乗り出し、囁き掛けてくる。
 「お相手が決まってないのなら…ふふふ、いい子紹介するわよ」
 ウアア、心の中で“やはり”と呻き声を上げてしまった。そんなこちらの表情を読み取ってか、女が口元を歪める。
 「この辺りはね、人妻さんが多いのよ。みんな訳ありだけど、家に帰れば普通の主婦だし。それにね、倦怠期の年頃だから“あっち”の方だって凄いのよ。旦那にやった事のないサービスだってしちゃうんだから」
 ゴクリ、思わず唾を飲み込んでしまう。


 「い、いえ、普通に待ち合わせなんですよ…あっ、男の友人と…」
 「あらら、そうなの。それはそれは失礼しました」
 愛想の良い顔を見せて、立ち上がろうとする女。その姿に小声で訊いてみた。
 「あのお、この辺りって…いわゆる人妻売春のメッカだったんですか」
 私の質問に女が嬉しそうな笑みを浮かべて、上がりかけた腰を下ろそうとする。
 「いえいえ、メッカってほどじゃないですよ。でも、隠れ家的にやってる所があるみたいよ」
 言い終えて、女が見詰めて来る。その目の中に、身体が吸い込まれていく錯覚を覚えてしまう。私は着信があったフリをして、会話を切る事をにした。


 結局私は、コーヒーを半分以上残したまま店を出てしまった。
 女店主の怪しげな誘いも興味がないといえば嘘になるが、私の腰は完全に引けていたのだ。


 店を出てからは、もう一度この辺りを探るように歩いてみた。
 先程よりもカップルが多い気がする。中にはアンバランスに観(み)える組み合わせがある気もするが、それは考え過ぎなのか。それでも、そんな二人連れの中に妻がいれば…と妄想を立てれば得体の知れない高鳴りを覚える私がいた。
 それから又、歩き回りながら渋谷君からの返信を待っていると、間もなくしてそれが来た。


 《すいません。今メールに気づきました。
 寺田先生はまだM駅にいますか?
 いるなら今からでも会って話が出来ますか?
 実は大変な事態になってしまいました!》


 メールを読み終えた瞬間、例え様のない恐怖が湧き起こってきた。
 大変な事態とは何なのだ。
 渋谷君は見事に妻を見つけていたのだ。その妻は教え子ではなく男と会っていたのか。彼は、妻が男といかがわしいホテルにでも入る姿を目撃したのか。
 私は強張ったままメールの文字を読み直すと、震える指で返信を打ったのだ。


 《まだM駅の近くにいます。
 今から駅の1番大きな改札の前に行きます。
 そこで落ち合いましょう》


 メールを送って私は歩き始めた。先ほどから心臓がドクドクと鳴っている。
 ああ、渋谷君…君はいったい何を見たのだ。
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 渋谷君に相談を持ち掛けてから、3日が経った。
 その間の私は、以前にまして妻をより注意するようになっていた。勿論、妻の視線を常に意識する私もいる。
 日課になっていたエロサイトの覗き趣味は、あれ以来ご無沙汰で、私の精神状態は現実世界へと向いていた。そう、妻の浮気疑惑だ。
 その後の妻は、月曜の夜に教え子と会うと告(い)っていたが、渋谷君の都合が悪くて尾行には至らなかった。
 次に彼女が“教え子”の話を出したのは金曜日の夜の事だった。


 「あなた、明日の土曜日ですけど又相談会なんです」
 このところの会話が事務的になっていた私達。それは仕方ないのだが、この夜は突っ込んで訊いてみる事にした。
 「ああ教え子だったよね、ご苦労様…。で、明日は何時頃に出掛けるのかな。僕は古本屋にでも行こうと思ってるんだよね…」
 私から質問など来るのは想定外だったのだろう。彼女が一瞬身構えた気がする。
 「…ああ、明日はですね午後1時にM駅ですわ…はい」
 時間の質問に場所まで答えてしまった妻。その様子からも彼女が緊張したのが窺える。
 私は妻の返事に無関心を装ったが、頭の中でM駅を思い浮かべていた。
 それから部屋に戻ると、真っ先にする事は決まっている。そう、渋谷君への連絡だ。
 メールを送ると、返信は直ぐにきた。


 《寺田先生、ご苦労様です(笑)
 午後1時M駅ですね。
 そこは良く知ってます。
 善と悪が同居してる街ですよね。
 了解です。明日は身体が空いてるので奥様を張ってみます!
 ご自宅を出るのは、12時頃ですかね。一応、奥様が出掛けたらメールで教えて下さい。
 では》


 私は彼のメールを読みながら“善と悪”(?)と、意味の分からないところもあったが、ホッとする自分と新たな緊張を覚える自分がいた。




 次の日、妻が家を出たのは、渋谷君の予想通り昼の12時だった。
 私は直ぐに渋谷君にメールをした。しかし、送ってから直近の妻の写真を用意しておけば良かった事に気が付いた。先日、彼に送った写真は何年か前の物なのだ。
 渋谷君はM駅に1時というだけで、妻を見つける事が出来るだろうか。あの“歳の差夫婦”の奥様、たしか名前は奈美子さんーーその人と久美子が似てるとの事だが、それを頼りにしたとしてもどうだろうか。
 私はそこまで考えただけで、自分の計画のずさんさに気が付いてしまった。だからといって、今さら渋谷君に今日の中止を求めるのもどうしたものか。
 結局私は、渋谷君の“地の理”ーーM駅を良く知っている、と告げた彼に期待して待つ事にした。昨日、妻に言った古本屋に行くという話も嘘で、家で過ごす事にしたわけだ。


 昼食を残り物で済ませた私は部屋に籠る事にした。
 カバンから取り出したのは【白昼夢】ーー古本屋で購入した例の本だ。あの日、カフェで読み終えれば、そこのゴミ箱にでも棄ててしまおうと思っていたのを持って帰っていたのだ。それをもう一度読む事にして、椅子に腰かけた。


 読み始めると直ぐに引き込まれた。そして、物語が終わりに近づいたところでムラムラしたものが立ち込めて来た。
 主人公の男の妻が、怪しいパーティーに登場するシーンだ。
 そのパーティーは先妻を亡くした男が自身の欲求を満たす為に、特権階級の仲間達と不定期に開いていたもので、表向きは社交的な晩餐会気取ったものだが、一部の参加者には別室が与えられ、そこで“性的”な催しが行われているのだ。
 男の妻は舞踏会で身に着けるような仮面を着けて、秘密裏に潜入していた。いや、ひょっとすると男の黙認の上に参加していたのか。
 私は、男の妻が秘密の部屋で司会のような男から指名された場面で本を閉じた。そして、目を瞑って頭の中にそのシーンを思い描いた。


 …漆黒のドレスを纏った仮面の女が、人波の間を泳ぐようにすり抜け、中央のテーブルにたどり着く。
 女は周囲の視線が自分に向いてる事を確認したのか、静かに頷くと背中に手をやって。
 身体から抜けるように床に落ちる黒い塊。それは何かの蛻(ヌケガラ)か。
 露(あらわ)になったのは白い肌に黒いランジェを残した女の肢体。
 漆黒のブラからは豊満な膨らみが揺れながら顔を出す。
 女がテーブルから一歩離れてクルリと回る。部屋の誰かに、これからの振舞いに同意でも求めたか。
 片足を椅子に乗せ、ストッキングを脱いでいく。腿の辺りからクルクルとゆっくり焦らすように、右足から左足へと。
 脱ぎ終えたストッキングを床にそっと落とす。そして、改まったように胸を張ったのは、その身体を周囲にアピールでもしようとしたのか。そして、テーブルの上へと上がっていく。


 いつしか部屋の中には、妖しいテイストを携えた“如何にも”の音楽が流れている。
 照明も隠微な光線に変わっている。テーブルの上で、その光を浴びながら女が背中に手を回す。
 ポトリと床に落ちる漆黒のブラジャー。膨らみの先の突起は硬く尖って視える。
 次に女はショーツに手を掛ける。
 内側から欲情を導き出す不思議なメロディー。それに乗って女は、ショーツを下ろしていく。


 テーブルの上。遂に裸になった女が、再び胸を張る。暗い光線が身体の凹凸に扇情的なコントラストを描いている。括(くび)れた腰が艶めかしい。
 女が貌を振って、どこかに目を向ける。そこから確認を得たのか、コクリと静に頷く。
 そして…。
 『あぁ…みなさま、アタクシ◯◯中学で教師をやっております…』
 その病的な声の響きで、周囲の緊張が更に高まっていく。
 けれど女の方は、そんな空気を待ち望んでいたのか、身体を少しブルルと震わせただけで妖しい呻き声を吹き零す。
 掌は身体を摩りながら、上から下へと這いずって回る。
 周りの誰もが動きを止め、その姿にクギ付けになっている。次の振る舞いに期待を寄せるのか、息を飲んで見入っている。
 やがて女は膝をつき、自らを犬の格好へと導いていく。
 開陳された秘密の部分を、周囲の目に遠慮なく曝す。
 そして女は、その部分を高く突き上げて…。


 『如何ですかみなさんアタクシのオマンコぉ』
 女が声を轟かす。周囲に聞かすように…妖しい声で…。
 『あぁ…皆さまは“不道徳なショー“には興味がありますよねぇ…。どなたかアタクシとこのテーブルの上でセックスして下さい。みんなが見てる前で生板本番ショーのお相手をお願いしまぁす』


 周囲の口から呻きの声が漏れる。女は更に煽りを入れるように尻を振る。そして、その秘所に指を当てて拡げる。
 『アタクシのココ、中はいつもトロトロなんです。締まり具合もいいんですよぉ。どうぞ遠慮なさらずに』


 気が付けば“私”の足がフラフラと女の方へと寄っている。
 女の目が私を捉える。そしてニヤっと笑う。
 『あぁ…イイ男…』
 『お、お前は、く、久美子か…』
 『ウフフ…さぁどうぞ上がってぇ。アタクシのココ、公衆便所ですけどよろしいわねぇ』
 『ウウウッ、アアアッ』


 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。
 あぁ…イイ男…。


 頭の中で渦が廻っている。
 その渦の真ん中から男の顔が浮かび上がってくる。
 何者だ…。


 ビィーー。
 ビィーー。
 ノイズの音が聞こえる。


 んんッ、重い瞼が上がっていく。
 その目に震えるスマホが目に付いた。
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 私はカフェの喧騒を遠くに感じていた。 “歳の差夫婦”のその後の話が刺激すぎて、私の意識はその余韻だけで麻痺していたのだ。


 「先生…寺田先生、大丈夫ですか」
 その声に顔を上げれば、渋谷君が私を見詰めている。
 「寺田先生って、よく話の途中で意識が飛ぶ事がありますよね。見てると何となく分かりますよ」
 「あぁ、ごめんなさい」と素直に頭を下げた。そんな私を見ながら彼が続ける。
 「それってやっぱり、奥様…先生の奥様と話の中の奥さんがダブってしまうからですかね」
 「そ、そうなんですよ…話に出て来た“歳の差夫婦”…その奥様と私の妻がどうもダブって視えましてね…それも私の“性癖”なんですかね…」


 私の様子見ながら、一瞬黙りかけた彼だったが、思い出したように訊いてきた。
 「そういえば今日は、その奥様の事で相談があったんじゃなかったでしたっけ」
 「あぁ、はい」頷きながら私は周囲を見回した。周りは相変わらずの混み具合だ。私は今更ながら、これまでの会話が聞かれていたのではと、背中が冷たくなるのを感じた。
 あまりにも彼の話に入りすぎて、周りに注意が行かなかったのだ。彼の方は全く平気な様子だ。私は前に乗り出すようにして、妻の事を話す事にした。もちろん小声でだ。


 「前回、渋谷君と初めて会った時も自分の気持ちがハッキリしていなかったんです。私の妄想が妻に向いてるのは分かってるつもりだったんですけど、その妻をどうしたいのか、或いは自分がどうなりたいのか…」
 「………」
 「で、それが今でもハッキリしないんで迷ってたわけですけど…実はその妻にも怪しいところがあるような気がしてきましてね」
 「怪しいところ…と言いますと」
 「ええ、実は半年ほど前から妻の帰宅が遅かったり。それに休日に出掛ける事が結構ありまして」
 「ああ、そうだったんですか。それでそれが、浮気じゃないかと」
 「はぁ、その可能性もあるのかと。私も自分の妄想でいっぱいで日常の妻には注意が向いてなかったんですね。妻の方も私の様子がおかしい事に気が付いていて、その原因を探るのに家用の私のパソコンを視たんですよ」
 「ん、パスワードは設定してなかったんですか」
 「はい、うっかりしてましてね。それで恥ずかしい事に、私が視てきた変態チックな動画や画像、それに読んだ寝取られ小説の履歴なんかを知られたみたいなんですよ」
 「あぁ…」彼は呻きのような声を出した。しかし、その表情(かお)を観(み)れば、どこか愉(たのし)げな感じもする。


 「それで、妻が言うには『その履歴を視てからは、アタシも好きな事をしている』と」
 私の言葉に彼は、フムフムと腕を組み換えた。


 「そんな事をつい先日、渋谷君と初めて会った後…たしか水曜の夜に告(い)われましてね…」
 「なるほど。それで先生は半年前に遡って考えてみて、奥様の動きに不穏なところがあるかと」
 「ええ、まぁ、そう言う事なんです」


 眉間に皺を寄せた私は、うだつの上がらない中年男だ。渋谷君を見れば、腕を組んだまま考え込んでいる。
 その彼が覗き込むように訊いてきた「あのぉ、今の先生は奥様を“寝取られたい“という気持ちの前に、浮気疑惑をハッキリさせたいわけですよね」
 「あ、ああ…」と、情けない声を出して認めてしまっていた。
 「えっと、その疑惑の続きで奥様をどうにかしたいとか願望はお有りなんでしょうけど、それは取り敢えず置いといて尾行でもしてみましょうか」
 「ええっ!?」思わず感嘆の声を上げてしまった。
 遥か年下の彼は、私の痒い所に手を伸ばすかのように、要望を先取りしてくれたのだ。
 「ええ。でも、本来は神田先生が請ける仕事に尾行はなかった筈なんですよ。なので僕が、個人的にやりますよ」
 「えっいいんですか!」
 「はい。なんだか寺田先生を見てますと、力になってあげたくなりましてね」
 ああ!私はもう一度感嘆の声を上げていた。


 それから私はコーヒーのお代わりをさせて貰って、妻のいわゆる個人情報を伝えたのだった。
 勿論その中には自宅の住所もあったが仕方ない。勤務先の中学の名前を出した時も、自分は聖職者失格と思ったりしたが何を今さらだ。
 最後に妻の写真ーーかなり昔に撮った物を彼のスマホに転送した。


 彼は妻の画像を見ながら頷いて「この写真似てますよ。うん、あの“歳の差夫婦”の奥様にそっくりですよ」
 「あぁそうですか。私も話を聞きながらそんなイメージが浮かんでたんですよ」
 「うん、髪型もそうですね、ショートボブだし体型は脱がないと分かりませんが」
 「いや、体型もたぶんそっくりですよ。渋谷君が言ってたサイズ…妻も同じぐらいだと思うんですよ」
 「そう言えばあの奥様の名前、たしか“奈美子”って呼ばれてましたね」
 「あぁ名前もどことなく似てますね」
 私は変な感覚を覚えながら妻の顔を思い浮かべた。
 そして、最近の妻の気になるポイントを伝える事にしたーー頻繁に口にするようになった女子高生の事だーー。


 「なるほど、先生が今1番気になるのは、以前の教え子の事ですか」
 「はい…」
 「でも、さすがに女子高生と浮気は結びつきませんよね」と、苦笑いを浮かべる彼。
 「ええ、まあ、そうなんです…でも」
 「はい分かりますよ。教え子の相談に行くと言って、違う誰かと会ってる可能性もありますからね」
 「そうなんですよ」
 「それじゃあ今度、奥様が教え子に会うって言って出掛けたら、取り敢えず連絡して下さいよ。僕のタイミングが合えば奥様を尾(つ)けてみますよ」


 彼の申し出を受けて、私は妻の授業が終わる時間帯を教える事にした。その日によって時間はまちまちだが、目安にはなるだろう。
 それから私は「あの、それで渋谷君に払う報酬は…」と言いかけた途中で…。
 「そうですねぇ、もし本当に奥様が浮気でもしてたら、僕も仲間に入れて貰いましょうかね」
 「ええっ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった。


 「ははっ、な~んて…半分本気ですけどね」と彼の表情(かお)には、それでも真剣味が交じってみえる。
 私の背中には冷や汗が落ちていく感じだ。


 「そうなんですよ寺田先生。先程、自分の中に迷いがあるって仰りましたけど、その選択肢の中には“妻を他人に“ってあるんですものね」
 あぁ…改まって指摘された通り、間違いなくその気持ちは…。
 しかし…いざ、そんな場面が来た時には、私はどんな精神状態でどんな対応をするだろうか。


 「先生…寺田先生、そんな真剣にならないで下さいよ。ちょっと弾みで口にしただけですから」
 「あ、あぁ…」私は又も呻くような声で返事をしてしまった。


 「さっきも云いましたけど、取り敢えず教え子の話…奥様の口からそれが出たら僕に連絡を、って事で」
 最後の渋谷君の様子はウインクでもする感じだった。私の方はぎこちなさを残したままだ。
 あぁ…又も自分と向き合う時間の始まりだ。新たな妄想は湧き上がるのだろうか…。
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 土曜日のカフェで渋谷優作君と会える事になった私ーー寺田達夫。
 彼は私の意向に応えるように、あの“歳の差夫婦”のその後を話してくれたのだ。


 「神田先生の下でする“仕事”ってアフターフォローなんかもそれなりにするんですよ。あのご夫婦にも、その後はどうですか~なんてメールで聞いたりしたんですね。そうしますとちょうど先日、神田先生経由で連絡がありまして…」
 彼の口からはさっそく、歯切れの良い言葉が溢れ出した。私の方は期待に心震わすと言ったところだ。


 「ええ、それでね、あのご主人の“アソコ”完全に復活したんですよ。はい、勃(た)ちが全盛期に戻ったんです」と彼が笑う。
 「え、渋谷君は又呼ばれて行ってきたの?」
 「はい、ご自宅のマンションに行って、お二人をいたぶって…」
 いたぶって…あぁ、それは“調教”と聞きそうになったところで「あのご夫婦って二人ともMじゃないですか。ご主人も分かってて僕を呼んだんだと思うんです。だから期待に応えてやりましたよ」
 「ああ、じゃあやっぱり」
 呟きながら彼を見れば、口元には早くもサディスティックな色が浮かんでいる。
 「へへっ、今日はこんな話も聞きたかったんでしょ」そう云って彼の目は、私の奥底を覗き込んで来る。
 私はコクコク頷くだけだ。


 「僕が着いた時には、二人はシャワーを浴び終えていてガウン姿で迎えてくれましたよ」
 「………」
 「それでさっそく旦那をソファーに座らせてまして、俺は服を脱ぎ始めましたよ」
 彼の口調がこの前と同じように、『ご主人』が“旦那”に『僕』が“俺”に変わっていく。


 「前回と同じように奥さんを膝まずかせて、俺のバンツを下ろさせましてね。それで“即尺(そくしゃく)”です。分かりますよね先生」
 は、はい、と小声で頷いた。私もその意味ぐらいは知っている。エロ動画の中で何度も視た事がある。
 「ええ、俺の小便臭いチンポを綺麗にさせたんですよ。遠慮なく突っ込んで出して、奥さんは苦しそうにしながらも悦(よろこ)んでましたよ」
 早くもその奥様の姿が浮かんでくる。イラマチオをされて悦ぶ女はーー妻の久美子だ。


 「へへっ、フェラチオを続けてましたらね、旦那がガウンを脱ぎ出して、股間のアレを握ってオロオロするんですよ。この人、早く遣りたいだなと思ったんで、取り敢えず呼んであげましたよ」
 「………」
 「俺はチンポを抜いて、奥さんのガウンをとって素っ裸にしましてね。それから立ったままの奥さんの唇を旦那と二人で責めましたよ」
 又もその場面が浮かんでくる。左右から交互に唇を奪われる妻だ。


 「その次は胸。ええ、あの程よい大きさの胸を、揉みながら舐めてやりました」
 それも久美子の乳房だ。舐めるのは片方から渋谷君で、もう片方を責める男は私だ。
 「乳首を舐めてますと、旦那がアレを握って、挿れたくて仕方ないって感じなんですよ。でもね」
 そこで彼が、又も口元を歪める。私にまで“お預け”を喰らわしそうな感じだ。
 「旦那にはまだ我慢させる事にして、俺は奥さんを後ろから犯(や)る事にしましたよ」
 「………」
 「でも旦那にはフェラチオだけ許可してやりましたね。射精はするなって云いましたけど」
 「あぁ…」
 「はい、さっきも言いましたけど二人ともマゾ気質なんですよね。だから旦那の射精をコントロールしてやろうと思ったんです。旦那の方も一切文句なんか言いませんでしたよ」
 あぁ、50歳の教員を務める男が遥か年下の若者に射精を支配されるのだ…。


 「初めての時はほら、俺も奥さんの膣(なか)に出さなかったじゃないですか。だからその時は、思い切り出してやろうなんて思いながら突いてやりましたよ」
 そうなのだ。渋谷君は相手の射精をコントロールして、自分の射精もコントロールするのだ。


 「奥さんは後ろから俺に突かれて、前の口は旦那のチンポですよ」
 その場面も頭に浮かんでしまう。四つん這いの妻の、前後の口が支配されるシーンだ。
 「でもね、奥さんが直ぐに逝きそうになったんで待ったを掛けてやりましたよ」
 「あっ、それって」
 「ふふっ、旦那のチンポを一旦吐き出させてね、逝きたけりゃお願いしろって云ってやったんですよ。分かりますよね」
 「あぁ、はい…。で、どんな風に…」


 「旦那の目を見ながら、若い男のチンポがイイーッ、このチンポで逝かせて下さいッ、お願いしますッてね」
 (ウアアッ…)
 「旦那の方はそれを聞いてか、フンフン唸り声を上げてましてねぇ。チンポもカチンカチンになってて、収まりどころが早く欲しかったんでしょうね」
 「で、でも旦那さんは直ぐには…」
 「そうですよ。俺が帰るまでは犯(や)らせるつもりはありませんでしたからね」


 目の前の彼は間違いなくサディスティックだ。私の喉は早くもカラカラで、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「その時、閃きましてね。俺はバックを止めて、背面座位でやる事にしたんです。その格好、分かりますよね、前にやったやつです」
 勿論、それは知っている。背中を男に預けて、大股開きで下から突き上げられる妻の姿が浮かぶ。
 「ふふ、それで俺が突いてるところ…その結合の部分を旦那に舐めさせてやろうと思ったんです」
 「ええっ!」
 「前回の時は、その繋がってる部分をガン見してたじゃないですか。だから今度は、舐めさてやったんですよ」
 「…ほ、本当にご主人は舐めたんですか…」
 「はい、俺が見立てた通りのマゾですから、最初は躊躇した感じはありましたけど、意外と素直に舐めましたよ」


 彼の淡々と話す中からも、私には異様な香りが降りかかっていた。私は又も唾を飲み込み、息を繋いでいる。


 「奥さんもそのシチュエーションに興奮してるようでしたね。俺が突きながら耳元で『ほら、目をよく開けて見てみなよ。旦那が繋がってるところを舌で舐めてるだろ』って云ってやったんですよ」
 「あぁッ!そ、それで聞いた奥さんは…」
 「ん、目を見開いて、ヒィーーッて意味わかんない叫び声を上げてましたね」
 「ウウッ!…」
 「そうそう、二人とも教師で旦那がかなり歳上じゃないですか。だから仕事上の先輩でもある旦那さんのその姿が変に刺激的だったんじゃないですか」
 ああっ…私の中には、得体の知れない感慨が渦巻いてきた。
 聖職と呼ばれる職に就く二人の浅ましい姿。それは二人が、望んでいた姿なのだろうか。二人揃って性の深淵に堕ちて行くのが幸せなのだろうか。私の中で渦を巻いた感慨は、妖しい炎となって胸を熱くしてくる。
 そして、先ほどからその夫婦を自分達夫婦に置き換えている私がいる。


 ふうっと息を吐く。
 「…ええっと、それで他には…」
 私の言葉に彼は、一瞬きょとんとしたが、直ぐに思い出したように笑う。
 「ああ、それでね、俺も1回射精(だし)たんですよ。奥さんの方は当然何回も逝ってたんですけどね。でも、逝く時もすんなり許可はしませんでしたよ。『待て』を何回も掛けてやってね」
 と云って彼が笑う。


 「で、旦那はカチンカチンのままじゃないですか。だからそのまま“お預け”を続けてやろうと思いましてね…」
 ゴクリ、又も喉が鳴ってしまう。


 「フラフラの奥さんを立たせましてね、バルコニーのカーテンを開けてやったんです」
 「えっ!」
 「そう、外から見えるように…素っ裸の奥さんを外に向かって曝してやったんですよ」
 「な、なんて事を…」と、口に付きそうになった私。この期に及んで、世間様に対する不埒な行いを注意でもしようとしたのか…なんて思ったのも一瞬で、変態性癖な私の思考は、その場面を浮かべて怪しい高鳴りを発していた。


 「奥さんも旦那もさすがに焦ってましたかね。カーテン1枚とはいえ、それが密室と世間の境界線になってたわけですからね」
 あぁその通りなのだ。彼が口にした“密室”、それは我々聖職者の隠れ蓑で、変質的な性癖が担保される場所なのだ。そこを越えてしまったという事なのか…。


 「あ、あの…窓の外側って…」
 「ああ、そこの部屋はたしか4階だったと思うんですけど、向こう側の建物と結構密接してましてね。あっちのカーテンが開けばフェイス トゥ フェイスって言うんですか、要は丸見えですよ」
 無邪気に笑う彼を見ながらも、私の中には冷たいものが落ちていくような感じがした。


 「へへっ。それでね、その奥さんを窓いっぱいまで近づけてね、命令をしてやったわけですよ。寺田先生なら分かりますよね、それがどんなシチュエーションか。エロ動画なんかでも視たんじゃないですか」
 「アアッ」
 私は呻き声で、肯定の返事をしてしまっている。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「さあ、ここで問題です。俺は奥さんにどんな格好を命令したと思いますか」
 「………」
 頭の中では色んな場面が渦巻いていく。卑猥な動画で視まくった場面と、妄想が働いて頭の中で再現してきた場面だ。


 「まぁ大体は想像つきますよね。そうなんです、身体を外に向けたままガニ股の格好を命令したんです。そして、マンコの際に手を当てて拡げさせたんです」
 「ンググッ」
 「へへっ、興奮しますか。旦那は震えながら立ったまま奥さんのその格好を見てましたよ。ああ、立ったままってアソコもそうでしょうけど、足で立ったままって意味ですよ」
 彼の細かいというか丁寧というか、その言葉にも緊張が続く私がいる。そんな私を愉(たのし)げに見ながら彼は続ける。


 「次はですね、尻(ケツ)を外に向かせたんですね。はい、そこで今度は立ったまま…こう、頭を下げさせまして、股の下から外を覗かせたんです。分かりますよね」
 ううっ、と呻き声を上げてしまった。さっき見た夢のシーンとそっくりではないか。


 「その奥さん、結構身体が柔らかいんですよ。脚をピンっと伸ばした状態で、手がピタリと床に付くんですよ。それでその格好で向こうを覗いて…尻(ケツ)の破れ目を突き出してるんですよ」
 私は又も呻きと同時に唾を飲み込んだ。頭の中には妻だ。妻の姿が浮かんでいる。そう、体操をやってた妻も身体が柔らかいのだ。しかし…私は妻にそんなポーズをやらせた事がない。頼んだ事もない。昔から勇気のない私なのだ。


 「旦那も次第にオロオロしてきましてね。そりゃそうですよね、いつ向こうに人が現れるか分かんないわけですし。俺なんかは、向こうの部屋の人がこっちと知り合いだったら面白いのに、なんて考えてましたけどね」
 そう云って笑う彼に、私は唸り声を上げるだけだ。しかしそれは、同意でもあるのだ。他人様の恥態ならいくらでも眺められる。あぁどうしようもない卑怯者がここにいる。


 「俺はオロオロする旦那に徐々にイライラしてきましてね。それで旦那にも命令してやりましたよ」
 「ああ、それは何て…」
 「ん、ええ、奥さんの横に行って、アンタも同じ格好しろって」
 「そ、それって」
 「そうですよ。旦那はビビってましたけど、1度やったら病みつきになるからって云ってやったら…。そうしたら恐々奥さんの横に行って、同じように股ぐらから向こうを覗きましたよ」
 「アアッ!」
 「向こう側から見たら凄い光景ですよね。全裸の男と女が並んで尻を向けて、股から顔を覗かせてるんですから」
 「………」
 「へへっ。それでね、俺はその二人の姿をシッカリ動画に撮ってやりましたよ。だってその日は、二人の姿を撮るのも仕事でしたから」


 いつの間にか、私は口からハーハーと息を吐き出していた。私の精神は、そのご夫婦の姿を自分達夫婦とシンクロさせていたのだ。そして、その私の口から久美子…と小さな声が零れ落ちた。
 それを聞いてか、渋谷君がウンウンと頷いたのだった…。
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 土曜日、私が待ち合わせのカフェに着いたのは、約束の時間よりも30分早い1時半だった。
 今日は妻の尾行を思い付いて、渋谷君に相談するわけだが目的はソレだけではない。彼がこれまでして来た“仕事”ーー神田先生の元で行ってきた変態教師のお相手、あの話をもっと聞きたい、それもあるのだ。


 そういえば妻は、今日も午前中から出掛けている。色々と記憶を探ってみて思った事だが、確かにこの半年間の妻は帰宅が遅かったり、休日に出掛ける事が多かった気がする。私は自分のエロい妄想に翻弄されてか、妻の日常をそれほど気にしていなかったのだ。
 彼女から良く聞く教え子の話。それも本当の事かと考えてしまうわけで、そんな話も渋谷君にしてみようかと思っている。
 あぁ、その妻は今頃どこで何をしているのだろうか。


 私は店内の向こう側、路面に面した大きなガラス窓に目を向けた。この店はそこに見える歩道を通って入る造りになっているのだが、まだ彼が来る気配はない。
 視線を戻せば店内の様子が窺える。休日のこの時間はかなりの混み具合だ。多いのはノートパソコンを開げている人達だ。ノマドワーカーといって、最近はカフェなどで仕事をする人が結構いるらしい。もちろん本を読んでる人もいる。
 私の視線は、真ん中辺りの席で本を読む一人の女性の所で止まった。
 目を凝らしてみると、本の表紙の文字が何とか読む事が出来る。
 はくちゅうむーーその文字を読み取ると、瞼の裏に不穏な影が落ちてきた。そしてそれが、サーッと広がって行き…。
 その彼女が本を置き、ふっと顔を上げ…周囲の様子を窺うように軽く頭を振り…。ちらりと視えた片方の耳にはワイヤレスのイヤホン。
 彼女はスッと立ち上がると路面に面したガラス窓に身体を向け…。
 陽が差し込むその大きな窓を眺めながら、彼女は徐に上着に手をやって…。


 周囲の客席では、パソコンに講じる人々。軽やかなBGMが流れる中を、静かに上着を脱ぎとった女。露(あらわ)になるのは豊満な脹らみ。ソレを包むのは漆黒のブラジャー。
 一旦背筋を伸ばして軽く胸を張ったのは、その出で立ちを“誰か”に見せようとしたのか。或いは何かに対して畏まったのか…。
 彼女が傾げるようにして耳元に手をやる。そこのイヤホンから“指令”が届くのか。
 軽く頷いたかと思える仕草も、表情は変わらない。そう、立ち上がった時から彼女はどこか浮遊してるような顔。
 次に彼女はスカートに手をやり…。その素振りに戸惑いは見られない。
 ガラス窓の向こう…通りから店を覗く“男”がいた。耳にスマホを当てて指令を飛ばしている…ように視える。
 店の中では、あちこちから軽蔑な目が彼女に向き始めている。やがて、小さなざわめきが起こる…。


 ーー見て、服を脱いでる人がいるわ。
 いゃんッ、スカートまで脱ぎ出したわ!


 ーーうわっ、あの女、ついに下着だけになっちゃったよ!
 あぁ…エロい身体…。


 ーーねぇ、あそこに変態がいるわよ。
 あぁ…凄い、あれが露出狂っていうの?


 ーーお、おい、こんな所でAVの撮影かよ。
 けど結構美人じゃん。流行りの調教ものだな。


 ーーええっ!?ソレまで脱いじゃうの…。
 そ、それはマズイんじゃ…。


 ーーああッ、全部脱いじゃったよ!
 それにしても…。


 ーーあの貌(かお)、見てみろよ。
 ああ言うの、恍惚の表情って云うんだぜ。


 ーーあぁ…羨ましい…。でも私にはあんな真似は出来ないわ。
 それにしても、なんて卑猥な身体…。


 ーーああ…な、なんなんだよ。今度は中腰になって尻を突き出したぞ!
 お、おい、いい加減に店員気づけよ。


 ーーこっからだとハッキリ見えちゃうよ。
 ああ、うん。見える見える、人妻のオ◯ンコ!。


 ーーもう止めて。流石に止めて。こっちまでおかしくなりそうよ。


 店の中で起こった小さなざわめきは、既に大きくなっている。その喧騒の中で自分一人の世界に入り、産まれたままの姿になった女…。不意に彼女は気づく…周りの目が自分に向いている事に。軽蔑の視線、哀れみの視線、そして好奇の視線、それらを一心に集めながらも変わらない表情。そう、まるで白痴のような貌(かお)。
 その時、彼女の口がグニャリと歪んだ…かと思うと奇妙な声を発した…。
 ーーあぁ…ご主人様、久美子のオマンコを御覧になってぇ…。


 女が両足を四股(しこ)を踏むほどに広げる。
 そして、頭をグイっと下げて股座(またぐら)からガラス窓を覗く。女のショートボブの髪は、床に付く寸前で止まり、揺れる。
 床を踏みしめる脚はピンと伸びて、その張りが巨尻に伝わり、見る者に威圧さえ与える。
 開陳された部分は、黒い翳りの奥から顔を覗かすドドメ色のアソコ。
 股の下からガラス窓の向こうの男を見つめる顔が、その時初めて表情を浮かべた。


 ーーご主人様、これでよろしいでぇすか…。
 どうか御覧になって下さい。これが変態女 久美子のマンコです。


 この世のものとは思えない恍惚の表情。不気味ささえ覚える驚愕の振舞い。
 突き上がった尻は、男に媚びを売るように震え出す。それは振動を起こし、周囲に地響きとなって伝わっていく。
 ふらつく人々。
 ガクガクと身体が揺れて、遂には足元が抜けて行く…。
 と、ガクン!


 …頭を振って身じろぎした。
 あぁ、椅子から滑り落ちそうになっていた…。
 またしても私は、淫夢の中に迷い込んでいたのだ。


 その時。
 「こんにちは寺田先生。あれっ、どうかしたんですか?」
 肩越しから覚えのある声が聞こえて来た。
 「ああ、渋谷君。いや、大丈夫ですよ、ちょっとウトウトしてて…」


 彼に会釈した私の表情(かお)は、虚ろさが残っていたと思う。
 その私を心配そうに見ながら彼は、目の前の椅子に腰を降ろした。私はバツが悪そうに座り直したのだった。


 何日ぶりかに見る彼は、初めて会った時より爽やかに観(み)える気がした。
 あの薄ら暗い淫靡な世界より、昼間の世界の方が…と考えたところで頭を振った。今日の私はクライアントで、彼に会う目的もハッキリしている。私は改めて自分に言い聞かせて彼の顔をジリリと見詰めた。


 「あ、先生、気合いが入って来ましたね。うん、エロはモチベーションを上げますからね」と笑って、そして続けた「僕も今日は会えるのを楽しみにしてたんですよ。神田先生からも寺田先生の事をシッカリと、と言われて来ましたし」
 私は彼の言葉に心で頷いて、遠慮なく話そうと決めた。


 「今日はわざわざ時間を取ってくれて、ありがとうございます」
 改まって頭を下げると、彼は、いえいえ、と謙遜した顔でペコリと頷いた。


 「ええっと、どこから話せば言いかな…」と云いかけたところで思い付いた。
 「ああ、それよりも渋谷君は元気だった?あの…その後も忙しいのかな…ほら“例”の仕事とか…」
 私の言葉に、彼は少し意外な表情(かお)をした。
 しかし「あれっ、ひょっとして“あっち“の話も聞きたかったんですか?」と、ニヤリと笑って「いいですよ。じゃあ、この間の“歳の差夫婦”のその後の話からでも始めましょうか」


 彼の言葉で気持ちが前掛かりになった。今から聞くのは妄想話ではない。そう、リアルな変態夫婦の話だ。
 私は“あの夫婦”の痴態を思い浮かべて、フツフツと高鳴りを感じ始めたのだった…。
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 ーー金曜日。
 今朝の私の挨拶も硬いものだった。
 妻の方も重い雰囲気が続いてる感じで、食事も互いが無口なままで採る事になってしまった。
 食事が終わればそそくさと出勤の準備をして、私は重い荷物を背負った気分で家を出た。


 学校に着けばこの日も、生徒の親からクレームが来ていた。それを処理すると、待っていたのは学年主任の小言だ。
 授業中はスマホを弄る生徒を注意しては、逆に挑発的な目を向けられて気疲れしてしまった。


 昼休みは一息つけるように、リラックスしようと思った。
 昼食を食べ終えた私は、背もたれに身体を預けて伸びをして、肩の力を抜きながら目を瞑った。


 今日は陽射しが暖かい。
 気温も上がってきている。
 お腹は満幅だ。
 今にも睡魔がやって来そうな気配を感じる。
 このまま少し寝てしまおうか…。


 どこからともなく、黒い雲が降りて来る…。
 …若い男の前に、一人の女性が立っている。


 ーーなに突っ立てんだよ。ほら早く脱ぎなよ。
 は?恥ずかしいってか。
 何を改まって。
 まさか旦那に悪いなんて思ってないよね。さんざん裏切ってるんだからさ。


 ーーあぁ…でも、こんなのは初めてだし…。


 ーーでもね、1度やったら直ぐに慣れるんだからさ。
 それに言っておいた通り、お相手は若い男だけなんだから。
 先生も嬉しいでしょ。


 ーーは、はい。


 ーーそう、素直にならないとね。
 じゃあ脱いで。


 ーーああ、はい…。


 ーーうん、いいねえ。
 30代には見えないよ。やっぱり子供を産んでないからかな。
 さぁ最後のパンティーも脱いだら、そこで気を付けの姿勢で立ってみてね。


 ーーああ…こうですか?


 ーー手は腰の横でしょ。
 学校の先生なんだから、分かるよね。
 そう、うん、隠さないでいいんだから。
 あれっ、そこの毛ってそんなに 毛深かかったっけ。


 ーーあっいやん。


 ーーフフ。
 じゃあその格好のまま言ってみようか、さっき教えたよね。


 ーーは、はい…。
 あ、あなた…アタシ、これから若い男の方とオマンコします。
 アタシ…あなたとのセックスじゃずっと満足できなくて、同僚の先生と浮気してたんです。けど…それも満足できなくて…。
 そんな時、偶然に渋谷君と出会って…そして、その彼に抱かれたんです。


 ーーえっ何だって?もう一回言ってみて。


 ーーあぁ…そう、ダメでしたね『抱かれる』なんて上品な言い方は…。あぁ、オマンコです。彼にいっぱいオマンコしてもらったんです。
 彼はアタシが本当は淫乱で下品な女である事を教えてくれたんです。同時に本性を素直に出せるように調教もしてくれたんです。
 今のアタシ、彼が言う事なら何でも出来るんです。それでも彼は時々キツイ事も言うんです。
 それでアタシ…売春するんです。はい、人妻教師の売春婦になるんです。
 命令された時は恐怖に震えましたわ。でも、どこからか喜びも沸いてきたんです。自分の中にこんな願望もあったんだって気づいたんですから。
 でも、それには試験があるんです。
 お相手するのは、彼のお知り合いの若い人達なんです。それで、その方々が満足できるか、身体や舌の使い方、それにアソコの締まり具合なんかをテストしてもらうんです。
 あぁ…これに合格したら、アタシは晴れて肉便器の女教師って事になるんです。


 ーーフフフ、いいねえ。なかなかよく言えたよ。そうそう久美子って語る事でオマンコ濡らすんだよね。
 ほら、確かめてみてよマンコ拡げてさ。指、突っ込んでさ。


 ーーあぁ…こうですか?こう、ガニ股に…。
 ウアァ、あぁ…濡れてますわ、はい…。


 ーーおっ、いい画(え)だねぇ。動画にも撮っとくか。
 うん。さぁそのまま云ってごらん。向こうに旦那がいると思って。
 ほら、寺田先生にさ。


 立ったまま股座(またぐら)を拡げて、ソコを弄っていた女の指がヌボっと抜き出て、私の方に向かってきた。
 その濡れた指が私の肩を掴み、そして揺する。


 んぐっ。
 んかが。
 んはっ。


 「ちょっ、ちょっとどうしたんですか寺田先生。悪い夢でも見てるんですか。しっかりして下さいよ」
 ハッと気が付けば、同僚の手が私の肩を揺らしていた。
 またも白昼夢か。私はバツが悪そうに誰にでもなくペコリと頭を下げてから首筋の汗を拭った。


 立ち去る同僚を横目に、頭を振って今の夢を思い浮かべてみる。あの本【白昼夢】にも刺激されての夢だったか。出てきた女性は久美子で、若者は渋谷君か…なんて思いながら苦笑いをした。
 それにしても先日の夜に妻が口にした言葉『…好きな事を…』ーーあれは実際、どう意味なのだろう。妻は半年前から“何”をして来たのだろうか。
 あの言葉の意味を深読みしてみれば【白昼夢】の女性のように、夫ーー私の目を盗んで“男”と会っていた、とか。妻の“ソレ”の理由が、私と同種の病的な振る舞いであれば、こちらの気持ちも少しは救われる…そんな変態的な考えも一瞬想ったわけだが、もしも本当にそうだとしたら…。あぁ、でもこれも又私の妄想なのか…。


 私は午後からの授業を続けながらも、好奇心が湧く自分を感じていた。妻の動きが気になって仕方なくなってきたのだ。
 と、そこで渋谷君だ。
 渋谷君達の仕事に“尾行”は、あるのだろうか。
 そこに考えついたところで、急に彼ーー渋谷君に会いたくなってきた。
 心の何処かには彼が体験して来た“仕事”、それの続きを聞きたい私もいたのかも知れない。それも良しだ。とにかく渋谷君に会う事でストレスが軽減されて、私の好奇心も満たされるーーそんな自分勝手な欲望を新たに、彼に連絡をする事にしたーー。


 ーー渋谷君からの返事は、その夜に来た。
 夕方にメールを送ってからは、ずっとヤキモキしながら待っていたのだ。
 そういえば彼は、2年前に予備校を辞めたと神田先生から聞かされていた。その経緯を詮索する気はないが、若い彼から感じた繊細さとサディスティックな色。あれを思い出すと、興味が湧いて来る。それもあってか、彼からの返信を楽しみにしていたわけだ。


 《寺田先生、こんにちは。ご指名ありがとうございます(笑)
 その後はお元気でしたか。
 奥様の事や、何か諸々相談があるようですね。
 僕もいつも暇というわけではありませんが、先生の都合が良い日を幾つか出してみて下さい。
 では、よろしくお願いします》


 彼から送られてきたメールを読んだ後は返信をして、土曜日に会う約束をする事が出来た。時間は午後の2時だ。
 予定が決まると、心の中に高揚感が湧いてきた。 
 さあ、私の“癖”は満たされるのだろうか…。
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 私達夫婦が何年ぶりかに行った“デートごっこ”。そして何ヵ月ぶりかのセックス。
 妻は久しぶりのセックスをどんな風に感じたのだろうか…。私の方には満足もあったが不安も生まれている。彼女に満足はあったのか?それとも不満が残ったか…。
 そんな事を聞けないまま日常はやって来て、月曜日が始れば時間が流れて行くーー。


 ーー水曜の夜。
 コンコン、ノックの音にドアを開けると、口元を引き結んで妻が立っていた。


 いつもと違う彼女の様子に嫌な予感がした。
 「ど、どうしたの…」
 私の問いに、妻はどこか不安げに見詰めてくる。
 「あの…あなた、実は前から思ってたんですけど、アタシに何か言いたい事があるんじゃないでしょうか」
 いきなり投げかけられたその言葉に、緊張が走り抜けた。
 私は強張りながらも質問の意図を考えてみる。このタイミングで聞かれるとしたら、やはり先日のホテルの事か。
 と、思いついたところで、妻が続けてきた。
 「先日のホテルの時に改めて思ったんです。あなたの“クセ”…ソレを感じて確信してしまったんです」
 クセ?…そう訊こえた言葉に私は首を傾げている。


 「クセ…って云いましたけど、あなたに馴染みのある言い方だと“性癖”になるでしょうか」
 性癖!!まさかのその言葉に、身体が一瞬で固まってしまった。
 「ど、どういう事…かな」
 震えを帯びた声が零れ落ちていく。


 「…はい、半年ぐらい前からあなたの様子がおかしいんです。雰囲気もどこか病的な感じで…アタシもあなたに何か言葉を掛ければ良かったのかも知れませんが…。そんな時、申し訳ないと思いつつパソコン…あなたのパソコンを視れば何か掴めるかと思って、その…つい覗いてしまったんです」
 「ええっ!!」
 「はい、それでネット…インターネットであなたが視て来た履歴を知ってしまったんです…」
 「ああッ!!」
 私の身体は瞬時に身震いを起こした。そして急激に熱くなっていった。穴があったら入りたいとは、この事だ。


 …妻とは何年か前から寝室を別にしていた。そこに深い意味はないが、互いの部屋への出入りには遠慮があったのだ。だからか家用の私のパソコンにはパスワードを設定していなかったのだ。


 頭の中では、これまで視まくってきたエロのシーンが渦を巻いている。あの映像や、あんな動画を妻が視たのかと思うと、身体の震えが増すばかりだ。そんな私に彼女が続ける。
 「それで、あなたの履歴に色々と思う事がありまして…」
 彼女が口にする『履歴』ーーそれは間違いなく“エロの履歴”だ。そう、私が隠し持っている変態的な妄想を証明するものだ。
 身体は更に硬くなっていき、唇は震えるばかりだ。


 「それでその時、アタシも思ったんです。…好きな事をしようと…」
 ああ…っ。それは“離婚”か、と思ったところで彼女が首を振って「…離婚は考えていません」私の表情を読み取ったのか、彼女は落ち着いた感じでそう告げた。


 「…はい、離婚をいうつもりはありません…けど、その時アタシも好きな事をしようと思って…」
 好きな事ーー彼女はその言葉を2度使い、そこで俯いた。
 そんな彼女に、私は何とか言葉を探して「あ、あの…それは半年くらい前には、そう思ってたって事なの…」
 黙って頷く妻。
 私は仕方なしといった感じで、ウンウンと小さく頷いている。そうなのだ。それまでのストレスに耐え兼ねなくなって、エロサイトに嵌まり出したのが半年ほど前なのだ。やはり、妻の目に私の様子は病的に映っていたのだ。


 妻も同じ教師としてストレスには同情してくれてると思っていた。勿論お互い様のところもある。
 しかし、私のストレス解消の方法が軽蔑の対象になってしまったわけだ。それでもソレが、救い用のない私の性癖なのは間違いない。


 「あなた…それでアタシも、その頃から好きな事をさせて貰ってるわけなんです…」


 言い終えた彼女の目には涙か、後悔の色も浮かんだ気がする。
 パソコンを覗いてしまった事が彼女の後悔に繋がたっとしたら、申し訳ない気持ちと同時にやるせなさも湧いてくる。
 その彼女が俯いたまま背中を向けた。
 立ち竦んだままの私は、部屋を出て行く後ろ姿を見送るだけだった。


 部屋のドアが閉まる音を聞いて、私は倒れ込むようにベッドに横になった。
 時計を見ればもうこんな時間だ。そう、いつもならエロサイトを覗いてる時間だ…。しかし、さすがに今夜はパソコンに電源が入る事はない。


 目を開けて天井を見ていれば、浮かんでくるのは先ほどの妻の事。頭の中で彼女が言った言葉を思い返してみる。
 妻は『…好きな事をさせて貰ってる…』と告げた。
 それがせめて私と同種の変態的な振る舞いなら、この気持ちが少しは救われるのか..。私はそんな病的な事を考えながら、眠れぬ夜を過ごしたのだった。




 次の日の朝は重いものだった。妻に“おはよう”の挨拶を掛けて良いのか。と、そんな心配を胸にリビングに行ってみたが、彼女の様子はいつもと変わらなかった。しいて言えば口数が少ない気がしたが。


 朝の出勤時間は別々だ。先に家を出る私。この日の私は足早に家を後にした。
 最寄り駅に向かうバスの中では、出掛けに言われた妻の言葉が蘇る。
 『今夜はまた教え子と約束があります。相談の続きなんです』
 これまでなら『~ですよ。~なので食事は自分でお願いしますね』そういう云い方をしたのではないだろうか。私はそんな事を考えながら勤務先の中学に向かっていた。


 学校に着いた私は、この日も重い気分で一日を過ごした。とは言っても、授業はそれなりに真面目にやったつもりだ。
 何とかこの日の教務を終わらせ、残業めいた事もこなした私は、急いで学校を後にする。
 こんな時は居酒屋で一杯やりたいところだが、その相手も思い付かない。それに酔えば、とんでもない事を吐き出しそうな自分が怖い。
 そんな私は、一駅足を伸ばして隣町に行く事にした。そこに昔馴染みの古本屋があるのを思い出したのだ。


 そこは掘り出し物がよく見つかる店だった。
 昔から読書好きの私には有難い店なのだ。
 店に着いた私は、さっそく出会いを求めて店内を歩き始めた。


 暫くして見つけてしまったのは、一冊のかなり古い本。たしか私が10代の頃に同じく古本屋で買った事のある本だ。なぜあの時、この本を買ったのかーーおそらく性に興味を持ち始めた私に、ピンと来るものがあったのだ。いわゆる衝動買いと言うやつか。あの時はソレを買って、隠すように持ち帰った記憶がある。
 その後、その本をどうしたかは忘れてしまったが、目の前には同じ物があるのだ。私は迷う事なくそれを手に取るとレジに向かったーー。


 ーー選んだ店は、駅前にあったカフェだった。
 そう、私は買ったばかりのこの本を家で読む勇気がなかったのだ。妻に見つかりでもすれば、どう思われるか考えただけで暗い気持ちになる。この場で読んで、直ぐに棄ててしまう気でいるわけだ。


 その本ーー【白昼夢】を開けてみる。
 私は一応、周りの視線を意識しながら読み始める事にした。妻は今夜も遅い筈だし、時間はたっぷりある。


 白昼夢…。
 主人公はお偉い大学教授だ。


 その教授ーー男には医者や弁護士、お偉い知り合いが大勢いた。
 しかし男は、悲しい事に奥さんを早くに亡くしていた。
 大きな屋敷に使用人と住むこの男は、出世欲に金欲、それに性欲を人並み以上に持っていた。
 奥さんを亡くして以来、男は性欲を妖しいパーティーで誤魔化していた。しかし心の奥底では、もっと嫌らしくて隠れ家的な裏寒いエロスを欲していた。
 そんな男が、知人の弁護士の紹介で見合いをする事になる。
 男は一目で相手の女性を気に入り、後妻として迎え入れる。
 周りの人達が気にしたのは、その女性の歳が一回り近く若かった事。
 陰口は女性を財産目的と叩いたが、男はそんな事を気にしない。
 それよりも気になったのは、新しい妻が性に淡白すぎた事だ。それでも男は、妻を自分好みに育てようと可愛がった。
 しかし…。


 暫く経つと、妻は退屈な時間に嫌気がさしてくる。妻は籠の中の鳥だったのだ。
 習い事をしたいと言い出す妻。しぶしぶ認める男。
 やがて男の仕事が忙しくなって、小遣いだけを与えて構ってやれなくなる。
 夜の方は相変わらずの淡白が続